東方X戦記
SP話「正月は皆でノホホンと」
※注意:この話は外伝です。あくまで本編と関係ありませんのでご了承下さい。
「博麗神社side」
いつもの博麗神社の境内で向かい合っている少女が2人いる。霊夢と魔理沙である。
「霊夢・・・・・・本編では夏らしい時期だけど、モニターの向こうでは正月になっているから、取って置きのスペルを用意したぜ!」
「あら、奇遇ね・・・・・・私も取って置きのスペルをやっと完成したのよ・・・・・・。」
不敵な笑みを浮かべ、2人が睨み合う。緊張感が張り詰める中・・・・・・2人が動き出す!
「行くぜ!スペル発動!『マスタァァァァ・・・謹賀新年』!!」
いつもの八卦炉から生じたのは光線ではなく、光の何か・・・・・・わーお、「謹賀新年」と書かれた年賀状が現れた!
「通りであんたから年賀状が来てないと思ったら、これだったのね・・・・・・ならばこっちも!」
魔理沙のスペルに感心しながらも霊夢もスペルを発動させる!
「『初夢・3連夢想』!!一富士・二鷹・三茄子!!」
霊夢がスペルを発動するや否や、富士山と鷹、それに茄子のイラスト入りの陰陽玉が出て来たのだ!
「さぁ、紫、アリス、ハクレイ!」
「判定は!?」
2人がドヤ顔で向き直るとそこには綺麗な晴れ着に身を包んだ3人がこの出来事を見ていて、ジト目でこう言った。
「「「・・・・・・微妙・・・・・・。」」」
「「なっ!?!?!?」」
3人に微妙だと言われ、2人が固まる。
「魔理沙、それって霊夢宛に年賀状出すの忘れたから急いで作ったのでしょ?」
「アリス!そ、それだけは言わないでと、あれ程!」
「霊夢もさ~・・・・・・幻想郷に富士山は無いと思うよ?言うなら、“一妖怪山・二鴉・三賽銭”かな?」
「ちょ、何で賽銭が出て来るのよ!?」
「だって、賽銭の方が身近だし。茄子もここじゃ高級だし。昔は良かったけどな・・・・・・。」
「それに、そのスペルってカードバトルアニメの正月SPのパクリでしょ?公式同様にヤヴァイわね・・・・・・。」
「「・・・・・・(;w;)」」
紫のトドメの言葉に撃沈される2人。せっかく作ったオリジナルスペルがこう評価されると無理もない。
「ま、こう言われるならしょうがねぇ・・・・・・霊夢、取り敢えず餅喰おうぜ!」
「そうね・・・・・・少しは羽目外したし・・・・・・そう言えばアリス、魔界神の一同は?」
「母様は『旧作キャラによる正月パーティー』に強制参加されて・・・・・・。」
後ろ髪惹かれる様な表情で夢美や小兎姫に連れて行かれる母・神綺の事を言い、アリスは苦笑する。全く、困った母親だ。
良く見ると既に魔理沙が餅を焼こうとするのか、七輪を用意し始めている。勝手に人のを使うなし。
「ま、今回だけはノンビリしますか・・・・・・。」
「霊夢、餅喰い終わったらそろそろ“あそこ”へ向かうのか?」
「“あそこ”・・・・・・そうね・・・・・・行かないとね・・・・・・。」
魔理沙に餅を完食させてはならないし、“あそこ”へ行くし、霊夢はフッと微笑みながらも魔理沙の元へ向かう。
「(・・・・・・正直言って、こんな賑やかな正月は無かったな・・・・・・あいつにもその事に気付いていたら・・・・・・)」
しかし、そんな霊夢を見ているハクレイの表情は何だか寂しそうな笑みであった・・・・・・。
「紅魔館side」
「「「咲夜さん、明けましておめでとうございます!」」」
「はい、おめでとう。貴方達も今年も頑張ってね。」
ペコリと新年の挨拶をする妖精メイド達を聞きながら、咲夜は満足そうに廊下を歩いていた。
「(もうこんな時か・・・・・・大晦日までは急いで大掃除をしたかいはあったけど・・・・・・やはり、貴方や妹様、美鈴がいないと寂しいですね、お嬢様・・・・・・。)」
今は亡きお嬢様・レミリア・スカーレットを想い、一瞬寂しそうな顔になるが、向こう側のメイドを見て必死に微笑む。
「あら、マリア?こんな所で何をしているの?」
「・・・・・・!?」
咲夜の言葉に外の世界の生存者でもある少女・マリアは驚いたのか後ろへ下がるが、咲夜だと分かって安堵の表情で戻る。
「もしかして・・・・・・迷子になったの?」
「・・・・・・(コクッ)」
咲夜の問いに対して素直に頷くマリア。その顔は心なしか赤い。
「まぁ、始めての人には広すぎるわね、紅魔館は。少しやりたい事があるから手伝ってもらえる?」
マリアと共にとある部屋に向かう咲夜。辿り着いた先は『大図書室』と書いてある扉が。
それを開けるや否や、咲夜は呆れた様な口調でその図書室の主に言う。
「パチュリー様・・・・・・新年早々、図書室に引き籠ってばかりではお体に悪いですよ・・・・・・。」
「むきゅ!?さ、咲夜!?これには訳が・・・・・・。」
「言い訳無用です。小悪魔もパチュリー様に何か言いなさい。」
「で、ですが、パチュリー様は例の精霊を操る方法を探していまして・・・・・・。」
「精霊・・・・・・確か、エレメンタル・レインボードラゴンですか?」
確か、あれはあの白黒(魔理沙)に託したのではないか?と咲夜は首を傾げるが、パチュリーが即座に答える。
「魔理沙から、『あの竜の呼び方は分かったけど、なかなか言う事聞いてくれないぜ。何とかならないか?』、と相談を持ちかけて来てね。確かにエレメンタル・レインボードラゴンはプライドが高いと聞いているから探しているのよ。」
「何だか、聞く限りは扱いにくそうですね・・・・・・。」
「魔理沙が言うには、『エレメンタル・レインボードラゴンは良いカードだ。私のコントロールがなっちゃいないからだ。』って。」
「そうですか・・・・・・お気持ちは分かりますが、せっかくの正月ですのでお雑煮でもいかがですか?」
「分かった、分かったわよ・・・・・・だから無理に押さなくても・・・・・・。」
「後、“あそこ”へ行く予定ですが・・・・・・。」
「そうね・・・・・・そろそろ、“あそこ”へ行かないと罰当たるから・・・・・・魔法使いが言うけどね?準備は自分でやるから。」
「畏まりました・・・・・・ほら、行くわよ、マリア。」
「・・・・・・(コクリ)」
咲夜に押されながらも観念したのかパチュリーが一室を出るのを確認して、自分もマリア、小悪魔と共に部屋を出る。
その後、お雑煮を食べたパチュリーが喉を詰まらせて「バタンむきゅ~」になったのは言うまでもない・・・・・・
「守谷神社side」
「ここをこうすれば・・・・・・エミリーさ~ん、出来ましたよー!」
「へぇ、こうやって出来上がるのね・・・・・・。」
早苗が出来上がった物を見て、エミリーが感嘆の声を上げる。早苗の手には三角型の凧が。
「小さい頃、神奈子様が余ったミニ御柱を使っていましたので・・・・・・しかし、どうして凧を?」
「・・・・・・昔、薫が外に出られない私の為に凧を上げてやるって言ってたから、少し気になって・・・・・・。」
「・・・・・・そうでしたか・・・・・・。」
エミリーの寂しそうな表情から早苗は納得する。どうやら、“例の件”によってそれが叶わなかったらしい。
「エミリーさん・・・・・・大丈夫です。薫さんは私がきっと助け出して見せます!この凧は約束としての証です。」
そう言って、早苗は空を見上げる。今は亡き神奈子様、諏訪子様達の為、そして薫さんや幻想郷、外の世界の生きとし生きる者達の為に自分は絶対に負ける訳にはいかない。いつかきっと全てを助け出して見せる。
ふと、階段の方を見るとそこには文とにとりがそれぞれ何かを持って昇り切ったのだ。
「どうも、お待たせ致しました~早苗さん、頼んできた物はこれで宜しいでしょうか?」
「どれどれ・・・・・・うん、十分ですね。お忙しい中、どうもありがとうございます。」
「ねぇ、早苗・・・・・・これって茸の類が入っているけど・・・・・・?」
「あぁ、それは“松茸”という茸の一種です。今日はお吸い物にしたり、霊夢さんに差し入れしようと思いまして。」
「ふぅん・・・・・・。」
始めて見る日本(幻想郷)の松茸に興味心身に見るエミリー。文には野菜類の事を頼んでいたのだ。
「流石、文さん・・・・・・早苗、私はこれ!」
「!?そ、それは椛さんの刀!?もしかして直ったのですか!?」
にとりから受け取った中身をみるとそこには折れた筈の椛の愛刀が復元されていたのだ!
「知り合いに刀鍛冶をやっているのがいてね。私も少しは早苗の役に立ちたいと思ったから・・・・・・。」
「いえ、ありがとうございますにとりさん!」
嬉しそうに椛の刀を見る早苗。折れた場所も見当たらず、まさに新品同様に生まれ変わった様だ。
「今度はもう無茶しないで下さいよ。大切に扱った方が椛も喜びますし。」
「はい、今度からは気を着けます!」
「所で、その凧は?」
「あ、今日は祝いと今後の事の想いを込めて凧を揚げようかと思いまして・・・・・・。」
「そうですか・・・・・・。ふっふっふっ・・・・・・そう言う事でしたら私にお任せを・・・・・・。」
「確か、文さんは“風を操る程度の能力”でしたね?では、お願い致します。」
「まだ、“あそこ”へ行く時間はあるし、私も手伝うよ。」
ペコリとお辞儀しながら、早苗が紐に木の棒を括りつけて持つ。凧はにとりが構えている。そして文も準備完了した様だ。
「いいですか~?まずは小さい風を起こしますので合図したら、にとりさんは凧を離して下さいね~。」
「分かりました~!」
にとりの返答を聞いて文は紅葉型の扇子でまずは小さな風を起こす。実は文は凧上げの事を計画していたのだ。まず、小さな風で凧を離し、そこで大きめの風を起こして凧を空に揚げる。我ながらいい計画だと文は威張ってしまう。
そして小さな風を起こしているその時、
「今です!」
「よし来た!」
文の合図と共に凧を離すにとり。徐々に凧が軌道に乗り始めていくのが分かる。
「後はうまく風に乗り続ければ・・・・・・。」
「はいっ、ここで大きめの風を投入!!」
「・・・・・・え!?」
文が扇子を振って起こした風は・・・文にとっては“大きめの風”であるが・・・・・・早苗達にとっては“台風”そのものだった。
バビュビュビュビュビュ――――――ン!!!
「はわわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~!!?」
台風並みの風に幸い、頑丈に作られた凧は空中分解されずに空へ空へと上がりまくりだが、その頑丈さが裏目に出たのか、糸がピンと張りつめ、何と早苗もあっという間に凧に引っ張られて空へ空へと上がり続けていたのだ!
「さ、早苗!」
「・・・・・・あややや・・・・・・策士が策に溺れるとはこの事ですね・・・・・・。」
「そ、そんな事よりも早苗を助けないと駄目ですよ!ってわわわ~!」
早苗を助けようとにとりが特製アームを伸ばして早苗の足に捕まるが自分もあっという間に浮かんでしまう。
「あや!?今度はにとりさんまでもが!?仕方ありませんね、エミリーさんはすみませんがここで待って下さい!」
にとりを連れて空へと吹き飛ばされる早苗を追う為に文が慌てて高速で飛行する。
それをあぜんと見ていたエミリーだった。やがて我に帰るや否や、プッと吹き出す。
「何だか、幻想郷の人達って・・・・・・面白い・・・・・・。」
「地霊殿side」
地霊殿の裏口にこんもりと地面が盛り上がっており、そこには5つの木製の十字架が簡素ながらも刺さっていた。
主であるさとりと妹のこいし、ヤマメ、パルシィ、そして自分の唯一の親友であるお燐の墓であった。
「さとり様、こいし様、お燐、皆・・・・・・今日はお正月だって・・・・・・皆がいないのは寂しいけど、勇儀とキスメの中の妖怪(キヅナ)と仲良くやっているよ・・・・・・だから、さとり様も皆も心配しないでね・・・・・・。」
その墓を作った本人・お空がお供えと華を添えて手を合わせる。かつてさとり達が死んだ時は悲しかった、悔しかった。
ベッドで1人寂しく泣いた時もあった。外の世界への復讐の計画が原因で勇儀と口論して飛び出した時もあった。
だけど今は違う。今はかけがえのない仲間達がいる。外の世界も決して悪い世界ではない事も知った。
自分が持つ核の力はきっと皆の為に役に立って見せる。そう墓前と誓っていると・・・・・・
「おーい、お空!」
「うにゅ?」
後ろを振り向いて見ると、そこには勇儀とキヅナがこっちに向かって来る。手には羽子板とコマが持っていた。
「まさかと思ってきたらやっぱりここにいたのか・・・・・・。」
「うん・・・・・・勇儀達はこれから何しに?ミリア達への年賀状も出したし、“あそこ”へもう行くの?」
「ん?あぁ、まだ余裕あるし、正月で流行りの羽子板とコマ回しをやろうと思ってな、お前を誘おうと・・・・・・。」
「ハゴイタ?コママワシ?・・・・・・食べ物だっけ?」
「違う、違う。まぁ、人間達の遊びみたいなもんさ、お前さんもどうだい?」
「・・・・・・何だかよく分かんないけど、やってみる!・・・・・・あれ?キヅナ、キスメは?」
「すみません、キスメの怪我も治ったのですが、キスメと代わるには盥が必要でして・・・・・・。」
「盥が無いから代われないのか~・・・・・・でも、キスメが出たらキヅナが引っ込んじゃうからややこしい~。」
「“今回は私の分も楽しんで来て”とキスメが言っていますし、ふつか者ですが、宜しくお願い致します。」
そう言ってお辞儀するキヅナに対して、お空は何だか微妙な心境になってしまう。
キヅナがキスメの本当の人格だと勇儀から知ったけど、キスメとは全く反対の性格っぽいので別人そのものに見えてしまうのだ。
「(けど、言動からして良い妖怪みたいだし、気にしないでおこ・・・・・・。)」
かくして、旧地獄も正月の真っ盛り。羽子板では勇儀とお空が対決したが、初めてなのか、お空の性格上なのか、決着がついた頃にはお空の顔が鴉の如く(まんまですが)すっかり真っ黒になってしまった。しかし、コマ回しでは・・・・・・。
「いっくよ~!超電磁・ゴマ~!!」
「だだだだ、待て!それ超電磁ならぬ、核ゴマだろ!?てか、超電磁ゴマってコマ知ってるじゃん!何、羽子板の仕返し!?」
「と言うより、只コマ回しを楽しんでいるのでは・・・・・・?」
「解説してないで何とかしてよ、キヅナ~!」
お空の全力を込めて回したコマは核の力をフル回転させて周りの物を薙ぎ払いながら一直線に進んでいるのだ。これには鬼特有の怪力を持つ勇儀も適わず逃げるが、まるでホーミング機能を搭載しているのか勇儀を追いかけ続けているのだ。
自分が引き起こした事態に気付いていないのか、お空は呑気にコマに振り回される勇儀を傍観していたのさ。
「何であたしだけ、こんな目に~!(・・・・・・でもま、お空もキヅナも笑顔だし、これで良いかな、相棒、パルスィ・・・・・・。)」
「天子side」
今日も天界に住む天人達は歌と踊りに明け暮れていたが、只1人違っていた天人がいる。
「さてと、この辺りも事件は無さそうだし、そろそろ人里でも行くか。」
要石に乗って辺りを見回しながら空を飛行しているのは、比居名天子。総領の娘であり、不良天人とも言われている。
そんな彼女は“R島の件”以来、かつて退屈しのぎに異変を起こした我儘な面が見られなくなった。
そして正月にも関わらず、どこかに異常が無いかパトロールしているのだ。彼女も少しは成長したかもしれない。
「そう言えば果物屋のお爺さんによれば、慧音の寺子屋で書き初め大会があった様な・・・・・・。」
「・・・・・・こんな所にいたの・・・・・・。」
「え?」
突然、声が掛けられたので後ろを振り返ってみるとそこには鵺がジト目で見ていた。
「正月なのに結構、忙しいのね、天子って・・・・・・。」
「他人から見れば暇潰しかもしれないわよ?ま、浮かれているとそこに付け込んで妖怪とかが機会を狙っているし・・・・・・。」
「・・・・・・退屈なら、私の所にいれば良いのに・・・・・・。」
「え!?」
鵺の言葉に天子は驚愕した。何か、鵺が出会った頃より懐いて来たので驚いているのだ。
「ぬ、鵺・・・・・・?」
「私だけじゃない、他の皆も・・・・・・ナズも小傘も一輪も雲山もムラサも星も聖もきっと誘いたいと思う・・・・・・。」
「け、けどね・・・・・・そりゃ、私のやっている事は私の勝手だから、お礼とかそう言うのを欲してないし・・・・・・。」
「なら尚更だな。たまには少し羽伸ばししたらどうだ?」
今度は何だ?と訝しげに振り向くとそこにはいつの間にか蓬莱人の妹紅がいたのだ。
「いつの間に!?ってか、あんたは人里へ行ってないの?」
「いや、慧音の所は書初め大会があってな。何もする事が無いし、あんたを誘いに来た。」
「いや、だから、何の為に・・・・・・?」
「まぁ、何て言うか・・・・・・お礼みたいなもんさ・・・・・・。」
「お礼って・・・・・・?」
「・・・・・・あの件があって、私の心は壊れ始めてしまった・・・・・・慧音とあいつがいなくなって、もう生きていく気力もなくなってしまったからな・・・・・・そんな中、あんたはそんな私を励ましてくれた・・・・・・同情させに来た私が原因だが、感謝している・・・・・・。」
「それは・・・・・・!?」
「親愛する者を奪われた境遇上、だろ?それでも私は感謝している・・・・・・ありがとう・・・・・・。」
妹紅にそう言われて、天子は赤面してしまう。自分が勝手に他人の助けを行っているのに感謝されるとやはり、照れるのだ。
「だから、あんたも少しは羽伸ばして楽しまないか?」
「う・・・・・・そ、そうね・・・・・・せっかくの正月だし、今回はあんた達に付き合ってあげるわ・・・・・・あれ?」
しどろもどろに妹紅達の誘いに応じると何かが空を飛んでいる。あれは、凧と・・・・・・現人神と河童?それに天狗も追いかけている。
「文さん、何とかして下さい~!」
「・・・・・・何、あれ・・・・・・?」
「・・・・・・正月祝いの為に凧揚げをして、天狗が凧の為に風を起こしたのがいいが、余りに突風の為に巫女と河童を飛ばした、か?」
「な、何だか、分からないけど、黙って見過ごす訳にはいかないわね・・・・・・。」
<天人救出中>
「ふ~何とか助かりました・・・・・・天子さん、ありがとうございます。」
「早苗さん、すみませんでした・・・・・・まさか、私の風でこんな目になるとは思いもしませんでした・・・・・・。」
「い、いえいえ!いくら文さんの風が大きかったとは言え、ちゃんと踏ん張らなかった私もいけませんでしたから!」
何とか救出したのはいいが、土下座する文に対し、慌てふためく早苗を見て面倒臭く思う天子。取り敢えず・・・・・・
「ま、今回は事故と言う訳だから、そんなに謝り合い(?)しなくてもいいから・・・・・・。」
「そうでしたね・・・・・・どうも、ご迷惑をおかけしました。」
「これからは、調子に乗らないで凧上げ用の風を起こします。」
そう言って、ペコリと頭を下げる早苗と文を見て、天子はヤレヤレと溜息をつく。正月でさえこの始末、と言う訳だ。
「お、そうだ。これから皆でカルタ大会をやりたいんだけど、早苗達もどうだい?」
「カルタですか、久しぶりですね~。文さんやにとりさんもどうです?」
「カルタは数十年ぶりですね。やりましょう!」
「私も賛成だよ、早苗。」
「では、私達はエミリーさんを連れて行きますので・・・・・・所で、集合場所は“あそこ”ですか?」
「奇遇だね・・・・・・“あそこ”だよ。じゃ、私も慧音達を連れて行くけど、天人は?」
私は・・・・・・。と考えながら、振り向いて見ると、そこには鵺がジッと自分を見ていた。ウル目がちと怖い。
断っても無駄だな、羽伸ばすと言ったし。フッと微笑んで鵺に向き直る。
「分かったわよ・・・・・・じゃ、一緒に聖達を誘いましょうか。」
「!・・・・・・うん!」
「ちょっと、何も抱き付かなくても・・・・・・。」
鵺に抱きつかれて困り顔しながらも振り払いせずにそのまま飛んでいく天子を見て、早苗と妹紅は何故か笑顔でいる。
「何だか、変わりましたね。あの鵺と言う妖怪・・・・・・。」
「だな・・・・・・あの天人も今は孤独じゃないと言う訳だな・・・・・・。」
「永遠亭side」
迷いの竹を抜けた所に建っている永遠亭も正月を満喫しており、兎達も宴会で大いに楽しんでいた。
「全く、こんな日にも関わらず鈴仙ちゃんは“あそこ”への準備をしている様で・・・・・・鈴仙~お餅、食べちゃうよ~!」
そんな中、兎のリーダー格であるてゐが『立ち入り禁止』と書かれた扉の前で文句を言っていた。
どうやら、鈴仙はとある準備の為に忙しい様だ。何も今じゃなくてもいいのに・・・・・・。
「ごめ~ん、皆で宴会やっといて~!と言うより、餅は自分で作るのは見えているけど~!」
「やれやれ、何もお節は正月用に買ったのがあるでしょう?」
「永遠亭のお節と“あそこ”のお節は違うと思って・・・・・・。」
「そりゃまた、風流な事で・・・・・・お餅は少し残しておくから、早めに切り上げてね~!」
「分かった~!」
そう返事をすると扉の向こうの音からして、てゐが去った様だ。取り敢えず、早く完成しなくては。
しかし、作っているお節の量は半端ない。まるで数百人分を作っているのだ。これではキリが無い。
「だけど、何とか間に合いそうね・・・・・・。」
(・・・・・・あまり、浮かれてはいけない・・・・・・まだ、問題が残っている・・・・・・)
ふと、頭の中に感情の無い声が響く。“伝説の夢想技”で生まれたもう一つの人格、レイセンだ。
「それはそれ、これはこれ、でしょう?新年だからこそ、たまには休まないとね。」
(しかし、今も北方勇者帝国が何かの準備をしている可能性・大・・・・・・早めに対処すべきと推奨)
「確かにそうだけどね・・・・・・師匠が言っていたわ。『どんなに緊迫した状況でも、祝日等を祝うのは忘れない事。少しは頭を冷やせるかもしれないから。』だから、どんなに辛くても新年をきっかけに乗り越えたいと思う・・・・・・。」
(・・・・・・レグリン・フジワラの事が気になると判定・・・・・・)
「敵に好意を持ってはいけない、ね?彼女も悩んだのかもしれない・・・・・・かつての私みたいに・・・・・・。」
(・・・・・・一つ、言いたい事がある・・・・・・)
「何?」
(・・・・・・そこのカマボコが他のお節と場所が1ミリずれている事が発覚・・・・・・)
「!?な、何もそこまで細かく言わないでよー!」
(その事を気にしなかったら、依姫殿に小言を言われる恐れあり・・・・・・。)
「何だかんだと言って、あんたも正月に賛成なんでしょ・・・・・・。」
そう言い合っている鈴仙であったが、扉の向こうではてゐがしっかり立ち聞きしていた。
「(話からして、月にいる永琳ではなさそうだね・・・・・・元・同僚かな?)」
最近、独り言が多くなった鈴仙の事を気になっているてゐであるが、プライバシーなのでその事は伏せていたのだ。
「あーもー、からかわないでよ~!って、おっとっとー!」
「(月からの受信って想像より楽しそうだね・・・・・・)」
「小町、ミスティア他side」
「はい、死神さん。焼き八目鰻をどうぞ。」
「あぁ、あんがと。」
とある場所にあるミスティアの屋台では小町と何故かやって来た大妖精とリリーブラックによって賑やかになっていた。
「どう?ちょっとタレを変えてみたけど・・・・・・。」
「ん・・・・・・結構、いけるんじゃないかい?味も良いし。」
「本当!?良かった~!」
小町の返答を聞いて純粋に喜ぶミスティアを見て、小町はフッと笑う。たまにはこんな所も悪くないな。
船頭をしていた頃は、よく、映姫様と一緒に弁当食べていたっけな・・・・・・。
「さぁて、もう少ししたら、“あそこ”へと行きますか・・・・・・。」
「それまで、少しは呑んでいったら?」
「だな・・・・・・ん?どした、妖精?」
ふと、見るとそこにはミスティアの屋台のバイトとして働いているサニーミルクが深刻な顔付きをしていた。
「ねぇ・・・・・・もしかしたら、あの2人も来るのかな・・・・・・。」
「2人・・・・・・エミリーさんの事?」
「後、メイド長が連れて来た無口な少女か?マリアっつったっけ?」
「・・・・・・そんな者達を連れていくなんて、私は賛成できない・・・・・・だってあいつらはルナ達の仇なのよ・・・・・・!」
ふいにお盆を持つ手に力を込めるサニーを見て、小町達は納得した。“R島の件”でサニーは親友のルナチャイルド、スターサファイヤ、先輩格であり、リリーBの友でもあったリリーホワイトを奪われてしまった。その為にサニーは外の世界を憎悪していた。
「・・・・・・納得いかないなら、メイド長と早苗に文句言いなよ・・・・・・ま、あたいは賛成だけどね・・・・・・。」
「けど!」
「あいつらも立派な被害者なんだよ。エミリーはキリュウに自分を利用してクローン勇者の親友を束縛した事で悩んでいる。マリアは勇者帝国の争いに両親を奪われた揚句に実の祖父に命を狙われている・・・・・・外の世界の住人が全て悪い奴とは限らないんだよ。」
「だけど・・・・・・だけど・・・・・・!」
「映姫様なら、ここで白黒つけるだがな・・・・・・済まない、気を悪くしちまって・・・・・・。」
今は亡き上司の事を言って小町は寂しく酒を飲んだ。何だか自分のせいで雰囲気を悪くしたかもしれない。
そんな時、ミスティアがおずおずと小町の肩を持つかの様にサニーに言う。
「私も死神さんの言う通りだと思う・・・・・・本当に悪いのは勇者帝国のクローン達だって・・・・・・リグルもきっと・・・・・・。」
そう言って、首にかけている虫型のペンダントを撫でるミスティアを見てサニーがグッと唸る。
「で、でも・・・・・・。」
「サニー、外の世界の人間達を八つ当たりするな、とは言わないけど、全て憎むのはどうかしていると思うわ・・・・・・。貴方だけが大きな悲しみを噛み締めているとは思わないでね・・・・・・ま、ホワイトの場合、全てを許すかもしれないけどね・・・・・・。」
「・・・・・・大妖精はどうなの?」
「!?・・・・・・わ、私にはよく分からない・・・・・・只、チルノちゃんがああなったのは外の世界が原因とは思わない・・・かも・・・。」
「そう言うこった・・・・・・ま、この事は新年だから忘れろとは言わないが、少しは許可したらどうだい?」
小町の言葉にサニーは何も言わなかった。そんな彼女に小町は続ける。
「言っとくが、“あそこ”ではグジグジ言うなよ?取り敢えず女将、酒のおかわり頼む。」
「妖夢他side」
「でぁぁぁぁぁぁっ!」
「・・・・・・・踏み込みが少し足りない。」
「みょんぶ!」
白玉楼。かつて、主・西行寺幽々子と庭師の半霊半人・魂魄妖夢の2人だけが住んでいたが、今は妖夢が月の姫、綿月依姫との特訓に明け暮れていた。しかし、流石は月の姫の1人で月兎のリーダー。妖夢の剣を難なくかわしまくる。
月の兎達も最初は幽霊に怯えていたが、今ではノンビリと談笑したり、昼寝したり、読書したりしている。
「全く・・・・・・何で私が地上の者に剣を教えなきゃならないのよ・・・・・・今はそんな時のではないのに・・・・・・。」
「そう言っても、依姫殿も外の世界へ向かわないのですね?今はその時ではないと分かっていると見えますが・・・・・・。」
「図星を指されたら反論できないわね・・・・・・流石は家から秘蔵の酒を盗んだ幽霊の従者ですこと。」
「うっ・・・・・・それは紫様が・・・・・・。」
「ま、霊夢に気を取られた私と八雲紫に気を取られたお姉様がいけなかったでしょうけど、あれはギャフンだったわ・・・。」
「ギャフン・・・・・・?所で、依姫殿、今の私には何が足りないのでしょうか?厳しく申して下さい。」
「そうね・・・・・・。」
「『速さが足りない』は・・・・・・すみません、何でもありません・・・・・・。」
「??まぁ、今言える事は一つだけ・・・・・・貴方、少し1人で何でも背負い過ぎない?」
「!?」
「自分がしなきゃ、とか、自分しかできないんだ、と何だかんだで周りの協力を拒んでいるのでしょう?」
「・・・・・・確かに、かつての私はそうでした・・・・・・しかし、今は霊夢さん達が・・・・・・。」
「その霊夢さん達を危険な目に合わせたくない為、でしょう?」
「・・・・・・成程、確かにそうですね・・・・・・自分が霊夢さん達を守るんだ、幽々子様の居場所は自分しか守れないと思っていた・・・・・・ですが、それは思い違いでしたね・・・・・・霊夢さん達も私よりも強い力を持っていますし・・・・・・。」
「・・・・・・どうやら、納得出来た様ね。」
「はい、ありがとうございました。」
丁寧にお辞儀する妖夢を見て、依姫は満更ではない感じをした。地上の者にしては礼儀正しいだけじゃない。
常に自分の未熟さを考え、それを超える為に努力している。お姉様(豊姫)にそんな志があれば・・・・・・
いや、それよりも・・・・・・。依姫はジト目でダランとしている月兎達を睨みつける。
「何でそんなにだらけているのかしら・・・・・・!」
「!?し、しかし依姫様は半人半霊の剣士と特訓をしていたのでは・・・・・・!?」
「・・・・・・妖夢さん、少し休憩なさってはいいかしら?私にはやるべき事がありますので・・・・・・。」
「え?良いですよ?」
妖夢の許可をもらって、依姫は月兎の特訓指導を行った。その厳しいお方の前に流石の月兎も慌てて始める。
「へぇ、月の兎ってああいう修行をしていたのか・・・・・・まさか、鈴仙さんがここに来たのはこれが嫌で?」
その様子を妖夢は観察していたが、ふと、空を見上げる。
「む、あと少しで“あそこ”へ行く時間だな・・・・・・。」
「???side」
とある場所で、霊夢達が集まっている。最初に来たのは霊夢達・博麗神社の一行、次に咲夜ら紅魔館etc・・・・・・続々と集結する。
そして、霊夢がとある方向に振り向いて言った。
「さてと・・・・・・来たわよ、大神・天照―!新年明けましておめでとう!」
そう言うと同時に、木々が生え、そこから出て来たのは、大神・天照であった。
『霊夢・・・・・・皆さんもおめでとうございます・・・・・・。』
そう笑顔で挨拶する大神・天照。そう、“あそこ”と言うのは大神・天照の森。霊夢達はそこで宴会をする事になっていたのだ。
「さぁて、挨拶もそこそこにして・・・・・・乾杯といくわよ~!」
「「「「「カンパ―――――――――イ!!!」」」」」
2012年、正月。霊夢達は大神・天照の森での宴会で盛り上がっていた。
レミリア達がいないのは寂しいし、まだ北方勇者帝国の事も気にかかる・・・・・・けど、今は正月。少しはこう言う事で羽を休んでもいいではないか?誰もが笑って浮かれ、大いにはしゃいでいた。幻想郷はまだ、正月を祝う時があった様である・・・・・・。
え?宿敵の北方勇者帝国はこんな時に何をしているって?
幸いな事に勇者帝国も正月なのか、悪行は暫くお休みとしており、勇者8人やオメガ達・武霊無親衛隊も居酒屋風の宴会場で酒を交し合い、Aチルノも亜魅と一緒に紅の所で新年の挨拶をしていた。闇の巫女・博麗霊牙は冥界四天王と共に正月早々、同人誌か何かを買いにコミケに突撃を行っていたとさ。しかし不運な方もいるようで、1人残された総帥のキリュウは娘同然の勇者はともかく、唯一の弟子であるAチルノすら構ってくれない事に必死で悲しみの余りに大量殺戮したい狂気を抑えながらも数多くの機械人形や囚われのレティとレイセン(2代目)と一緒にお節を食べながら、新年SPを見ていた・・・・・・・・・・・・3人に合掌・・・・・・。
霊夢:「皆、明けましておめでとう!皆は新年を契機に何を目標としているかしら?私は・・・・・・幻想郷だけじゃなく、世界の人々が平和に暮らす事・・・・・・それだけよ♪これからも頑張るから、応援よろしくね!」
一同:『今年も東方X戦記を宜しくお願い致します!!』
SP話「正月は皆でノホホンと」
※注意:この話は外伝です。あくまで本編と関係ありませんのでご了承下さい。
「博麗神社side」
いつもの博麗神社の境内で向かい合っている少女が2人いる。霊夢と魔理沙である。
「霊夢・・・・・・本編では夏らしい時期だけど、モニターの向こうでは正月になっているから、取って置きのスペルを用意したぜ!」
「あら、奇遇ね・・・・・・私も取って置きのスペルをやっと完成したのよ・・・・・・。」
不敵な笑みを浮かべ、2人が睨み合う。緊張感が張り詰める中・・・・・・2人が動き出す!
「行くぜ!スペル発動!『マスタァァァァ・・・謹賀新年』!!」
いつもの八卦炉から生じたのは光線ではなく、光の何か・・・・・・わーお、「謹賀新年」と書かれた年賀状が現れた!
「通りであんたから年賀状が来てないと思ったら、これだったのね・・・・・・ならばこっちも!」
魔理沙のスペルに感心しながらも霊夢もスペルを発動させる!
「『初夢・3連夢想』!!一富士・二鷹・三茄子!!」
霊夢がスペルを発動するや否や、富士山と鷹、それに茄子のイラスト入りの陰陽玉が出て来たのだ!
「さぁ、紫、アリス、ハクレイ!」
「判定は!?」
2人がドヤ顔で向き直るとそこには綺麗な晴れ着に身を包んだ3人がこの出来事を見ていて、ジト目でこう言った。
「「「・・・・・・微妙・・・・・・。」」」
「「なっ!?!?!?」」
3人に微妙だと言われ、2人が固まる。
「魔理沙、それって霊夢宛に年賀状出すの忘れたから急いで作ったのでしょ?」
「アリス!そ、それだけは言わないでと、あれ程!」
「霊夢もさ~・・・・・・幻想郷に富士山は無いと思うよ?言うなら、“一妖怪山・二鴉・三賽銭”かな?」
「ちょ、何で賽銭が出て来るのよ!?」
「だって、賽銭の方が身近だし。茄子もここじゃ高級だし。昔は良かったけどな・・・・・・。」
「それに、そのスペルってカードバトルアニメの正月SPのパクリでしょ?公式同様にヤヴァイわね・・・・・・。」
「「・・・・・・(;w;)」」
紫のトドメの言葉に撃沈される2人。せっかく作ったオリジナルスペルがこう評価されると無理もない。
「ま、こう言われるならしょうがねぇ・・・・・・霊夢、取り敢えず餅喰おうぜ!」
「そうね・・・・・・少しは羽目外したし・・・・・・そう言えばアリス、魔界神の一同は?」
「母様は『旧作キャラによる正月パーティー』に強制参加されて・・・・・・。」
後ろ髪惹かれる様な表情で夢美や小兎姫に連れて行かれる母・神綺の事を言い、アリスは苦笑する。全く、困った母親だ。
良く見ると既に魔理沙が餅を焼こうとするのか、七輪を用意し始めている。勝手に人のを使うなし。
「ま、今回だけはノンビリしますか・・・・・・。」
「霊夢、餅喰い終わったらそろそろ“あそこ”へ向かうのか?」
「“あそこ”・・・・・・そうね・・・・・・行かないとね・・・・・・。」
魔理沙に餅を完食させてはならないし、“あそこ”へ行くし、霊夢はフッと微笑みながらも魔理沙の元へ向かう。
「(・・・・・・正直言って、こんな賑やかな正月は無かったな・・・・・・あいつにもその事に気付いていたら・・・・・・)」
しかし、そんな霊夢を見ているハクレイの表情は何だか寂しそうな笑みであった・・・・・・。
「紅魔館side」
「「「咲夜さん、明けましておめでとうございます!」」」
「はい、おめでとう。貴方達も今年も頑張ってね。」
ペコリと新年の挨拶をする妖精メイド達を聞きながら、咲夜は満足そうに廊下を歩いていた。
「(もうこんな時か・・・・・・大晦日までは急いで大掃除をしたかいはあったけど・・・・・・やはり、貴方や妹様、美鈴がいないと寂しいですね、お嬢様・・・・・・。)」
今は亡きお嬢様・レミリア・スカーレットを想い、一瞬寂しそうな顔になるが、向こう側のメイドを見て必死に微笑む。
「あら、マリア?こんな所で何をしているの?」
「・・・・・・!?」
咲夜の言葉に外の世界の生存者でもある少女・マリアは驚いたのか後ろへ下がるが、咲夜だと分かって安堵の表情で戻る。
「もしかして・・・・・・迷子になったの?」
「・・・・・・(コクッ)」
咲夜の問いに対して素直に頷くマリア。その顔は心なしか赤い。
「まぁ、始めての人には広すぎるわね、紅魔館は。少しやりたい事があるから手伝ってもらえる?」
マリアと共にとある部屋に向かう咲夜。辿り着いた先は『大図書室』と書いてある扉が。
それを開けるや否や、咲夜は呆れた様な口調でその図書室の主に言う。
「パチュリー様・・・・・・新年早々、図書室に引き籠ってばかりではお体に悪いですよ・・・・・・。」
「むきゅ!?さ、咲夜!?これには訳が・・・・・・。」
「言い訳無用です。小悪魔もパチュリー様に何か言いなさい。」
「で、ですが、パチュリー様は例の精霊を操る方法を探していまして・・・・・・。」
「精霊・・・・・・確か、エレメンタル・レインボードラゴンですか?」
確か、あれはあの白黒(魔理沙)に託したのではないか?と咲夜は首を傾げるが、パチュリーが即座に答える。
「魔理沙から、『あの竜の呼び方は分かったけど、なかなか言う事聞いてくれないぜ。何とかならないか?』、と相談を持ちかけて来てね。確かにエレメンタル・レインボードラゴンはプライドが高いと聞いているから探しているのよ。」
「何だか、聞く限りは扱いにくそうですね・・・・・・。」
「魔理沙が言うには、『エレメンタル・レインボードラゴンは良いカードだ。私のコントロールがなっちゃいないからだ。』って。」
「そうですか・・・・・・お気持ちは分かりますが、せっかくの正月ですのでお雑煮でもいかがですか?」
「分かった、分かったわよ・・・・・・だから無理に押さなくても・・・・・・。」
「後、“あそこ”へ行く予定ですが・・・・・・。」
「そうね・・・・・・そろそろ、“あそこ”へ行かないと罰当たるから・・・・・・魔法使いが言うけどね?準備は自分でやるから。」
「畏まりました・・・・・・ほら、行くわよ、マリア。」
「・・・・・・(コクリ)」
咲夜に押されながらも観念したのかパチュリーが一室を出るのを確認して、自分もマリア、小悪魔と共に部屋を出る。
その後、お雑煮を食べたパチュリーが喉を詰まらせて「バタンむきゅ~」になったのは言うまでもない・・・・・・
「守谷神社side」
「ここをこうすれば・・・・・・エミリーさ~ん、出来ましたよー!」
「へぇ、こうやって出来上がるのね・・・・・・。」
早苗が出来上がった物を見て、エミリーが感嘆の声を上げる。早苗の手には三角型の凧が。
「小さい頃、神奈子様が余ったミニ御柱を使っていましたので・・・・・・しかし、どうして凧を?」
「・・・・・・昔、薫が外に出られない私の為に凧を上げてやるって言ってたから、少し気になって・・・・・・。」
「・・・・・・そうでしたか・・・・・・。」
エミリーの寂しそうな表情から早苗は納得する。どうやら、“例の件”によってそれが叶わなかったらしい。
「エミリーさん・・・・・・大丈夫です。薫さんは私がきっと助け出して見せます!この凧は約束としての証です。」
そう言って、早苗は空を見上げる。今は亡き神奈子様、諏訪子様達の為、そして薫さんや幻想郷、外の世界の生きとし生きる者達の為に自分は絶対に負ける訳にはいかない。いつかきっと全てを助け出して見せる。
ふと、階段の方を見るとそこには文とにとりがそれぞれ何かを持って昇り切ったのだ。
「どうも、お待たせ致しました~早苗さん、頼んできた物はこれで宜しいでしょうか?」
「どれどれ・・・・・・うん、十分ですね。お忙しい中、どうもありがとうございます。」
「ねぇ、早苗・・・・・・これって茸の類が入っているけど・・・・・・?」
「あぁ、それは“松茸”という茸の一種です。今日はお吸い物にしたり、霊夢さんに差し入れしようと思いまして。」
「ふぅん・・・・・・。」
始めて見る日本(幻想郷)の松茸に興味心身に見るエミリー。文には野菜類の事を頼んでいたのだ。
「流石、文さん・・・・・・早苗、私はこれ!」
「!?そ、それは椛さんの刀!?もしかして直ったのですか!?」
にとりから受け取った中身をみるとそこには折れた筈の椛の愛刀が復元されていたのだ!
「知り合いに刀鍛冶をやっているのがいてね。私も少しは早苗の役に立ちたいと思ったから・・・・・・。」
「いえ、ありがとうございますにとりさん!」
嬉しそうに椛の刀を見る早苗。折れた場所も見当たらず、まさに新品同様に生まれ変わった様だ。
「今度はもう無茶しないで下さいよ。大切に扱った方が椛も喜びますし。」
「はい、今度からは気を着けます!」
「所で、その凧は?」
「あ、今日は祝いと今後の事の想いを込めて凧を揚げようかと思いまして・・・・・・。」
「そうですか・・・・・・。ふっふっふっ・・・・・・そう言う事でしたら私にお任せを・・・・・・。」
「確か、文さんは“風を操る程度の能力”でしたね?では、お願い致します。」
「まだ、“あそこ”へ行く時間はあるし、私も手伝うよ。」
ペコリとお辞儀しながら、早苗が紐に木の棒を括りつけて持つ。凧はにとりが構えている。そして文も準備完了した様だ。
「いいですか~?まずは小さい風を起こしますので合図したら、にとりさんは凧を離して下さいね~。」
「分かりました~!」
にとりの返答を聞いて文は紅葉型の扇子でまずは小さな風を起こす。実は文は凧上げの事を計画していたのだ。まず、小さな風で凧を離し、そこで大きめの風を起こして凧を空に揚げる。我ながらいい計画だと文は威張ってしまう。
そして小さな風を起こしているその時、
「今です!」
「よし来た!」
文の合図と共に凧を離すにとり。徐々に凧が軌道に乗り始めていくのが分かる。
「後はうまく風に乗り続ければ・・・・・・。」
「はいっ、ここで大きめの風を投入!!」
「・・・・・・え!?」
文が扇子を振って起こした風は・・・文にとっては“大きめの風”であるが・・・・・・早苗達にとっては“台風”そのものだった。
バビュビュビュビュビュ――――――ン!!!
「はわわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~!!?」
台風並みの風に幸い、頑丈に作られた凧は空中分解されずに空へ空へと上がりまくりだが、その頑丈さが裏目に出たのか、糸がピンと張りつめ、何と早苗もあっという間に凧に引っ張られて空へ空へと上がり続けていたのだ!
「さ、早苗!」
「・・・・・・あややや・・・・・・策士が策に溺れるとはこの事ですね・・・・・・。」
「そ、そんな事よりも早苗を助けないと駄目ですよ!ってわわわ~!」
早苗を助けようとにとりが特製アームを伸ばして早苗の足に捕まるが自分もあっという間に浮かんでしまう。
「あや!?今度はにとりさんまでもが!?仕方ありませんね、エミリーさんはすみませんがここで待って下さい!」
にとりを連れて空へと吹き飛ばされる早苗を追う為に文が慌てて高速で飛行する。
それをあぜんと見ていたエミリーだった。やがて我に帰るや否や、プッと吹き出す。
「何だか、幻想郷の人達って・・・・・・面白い・・・・・・。」
「地霊殿side」
地霊殿の裏口にこんもりと地面が盛り上がっており、そこには5つの木製の十字架が簡素ながらも刺さっていた。
主であるさとりと妹のこいし、ヤマメ、パルシィ、そして自分の唯一の親友であるお燐の墓であった。
「さとり様、こいし様、お燐、皆・・・・・・今日はお正月だって・・・・・・皆がいないのは寂しいけど、勇儀とキスメの中の妖怪(キヅナ)と仲良くやっているよ・・・・・・だから、さとり様も皆も心配しないでね・・・・・・。」
その墓を作った本人・お空がお供えと華を添えて手を合わせる。かつてさとり達が死んだ時は悲しかった、悔しかった。
ベッドで1人寂しく泣いた時もあった。外の世界への復讐の計画が原因で勇儀と口論して飛び出した時もあった。
だけど今は違う。今はかけがえのない仲間達がいる。外の世界も決して悪い世界ではない事も知った。
自分が持つ核の力はきっと皆の為に役に立って見せる。そう墓前と誓っていると・・・・・・
「おーい、お空!」
「うにゅ?」
後ろを振り向いて見ると、そこには勇儀とキヅナがこっちに向かって来る。手には羽子板とコマが持っていた。
「まさかと思ってきたらやっぱりここにいたのか・・・・・・。」
「うん・・・・・・勇儀達はこれから何しに?ミリア達への年賀状も出したし、“あそこ”へもう行くの?」
「ん?あぁ、まだ余裕あるし、正月で流行りの羽子板とコマ回しをやろうと思ってな、お前を誘おうと・・・・・・。」
「ハゴイタ?コママワシ?・・・・・・食べ物だっけ?」
「違う、違う。まぁ、人間達の遊びみたいなもんさ、お前さんもどうだい?」
「・・・・・・何だかよく分かんないけど、やってみる!・・・・・・あれ?キヅナ、キスメは?」
「すみません、キスメの怪我も治ったのですが、キスメと代わるには盥が必要でして・・・・・・。」
「盥が無いから代われないのか~・・・・・・でも、キスメが出たらキヅナが引っ込んじゃうからややこしい~。」
「“今回は私の分も楽しんで来て”とキスメが言っていますし、ふつか者ですが、宜しくお願い致します。」
そう言ってお辞儀するキヅナに対して、お空は何だか微妙な心境になってしまう。
キヅナがキスメの本当の人格だと勇儀から知ったけど、キスメとは全く反対の性格っぽいので別人そのものに見えてしまうのだ。
「(けど、言動からして良い妖怪みたいだし、気にしないでおこ・・・・・・。)」
かくして、旧地獄も正月の真っ盛り。羽子板では勇儀とお空が対決したが、初めてなのか、お空の性格上なのか、決着がついた頃にはお空の顔が鴉の如く(まんまですが)すっかり真っ黒になってしまった。しかし、コマ回しでは・・・・・・。
「いっくよ~!超電磁・ゴマ~!!」
「だだだだ、待て!それ超電磁ならぬ、核ゴマだろ!?てか、超電磁ゴマってコマ知ってるじゃん!何、羽子板の仕返し!?」
「と言うより、只コマ回しを楽しんでいるのでは・・・・・・?」
「解説してないで何とかしてよ、キヅナ~!」
お空の全力を込めて回したコマは核の力をフル回転させて周りの物を薙ぎ払いながら一直線に進んでいるのだ。これには鬼特有の怪力を持つ勇儀も適わず逃げるが、まるでホーミング機能を搭載しているのか勇儀を追いかけ続けているのだ。
自分が引き起こした事態に気付いていないのか、お空は呑気にコマに振り回される勇儀を傍観していたのさ。
「何であたしだけ、こんな目に~!(・・・・・・でもま、お空もキヅナも笑顔だし、これで良いかな、相棒、パルスィ・・・・・・。)」
「天子side」
今日も天界に住む天人達は歌と踊りに明け暮れていたが、只1人違っていた天人がいる。
「さてと、この辺りも事件は無さそうだし、そろそろ人里でも行くか。」
要石に乗って辺りを見回しながら空を飛行しているのは、比居名天子。総領の娘であり、不良天人とも言われている。
そんな彼女は“R島の件”以来、かつて退屈しのぎに異変を起こした我儘な面が見られなくなった。
そして正月にも関わらず、どこかに異常が無いかパトロールしているのだ。彼女も少しは成長したかもしれない。
「そう言えば果物屋のお爺さんによれば、慧音の寺子屋で書き初め大会があった様な・・・・・・。」
「・・・・・・こんな所にいたの・・・・・・。」
「え?」
突然、声が掛けられたので後ろを振り返ってみるとそこには鵺がジト目で見ていた。
「正月なのに結構、忙しいのね、天子って・・・・・・。」
「他人から見れば暇潰しかもしれないわよ?ま、浮かれているとそこに付け込んで妖怪とかが機会を狙っているし・・・・・・。」
「・・・・・・退屈なら、私の所にいれば良いのに・・・・・・。」
「え!?」
鵺の言葉に天子は驚愕した。何か、鵺が出会った頃より懐いて来たので驚いているのだ。
「ぬ、鵺・・・・・・?」
「私だけじゃない、他の皆も・・・・・・ナズも小傘も一輪も雲山もムラサも星も聖もきっと誘いたいと思う・・・・・・。」
「け、けどね・・・・・・そりゃ、私のやっている事は私の勝手だから、お礼とかそう言うのを欲してないし・・・・・・。」
「なら尚更だな。たまには少し羽伸ばししたらどうだ?」
今度は何だ?と訝しげに振り向くとそこにはいつの間にか蓬莱人の妹紅がいたのだ。
「いつの間に!?ってか、あんたは人里へ行ってないの?」
「いや、慧音の所は書初め大会があってな。何もする事が無いし、あんたを誘いに来た。」
「いや、だから、何の為に・・・・・・?」
「まぁ、何て言うか・・・・・・お礼みたいなもんさ・・・・・・。」
「お礼って・・・・・・?」
「・・・・・・あの件があって、私の心は壊れ始めてしまった・・・・・・慧音とあいつがいなくなって、もう生きていく気力もなくなってしまったからな・・・・・・そんな中、あんたはそんな私を励ましてくれた・・・・・・同情させに来た私が原因だが、感謝している・・・・・・。」
「それは・・・・・・!?」
「親愛する者を奪われた境遇上、だろ?それでも私は感謝している・・・・・・ありがとう・・・・・・。」
妹紅にそう言われて、天子は赤面してしまう。自分が勝手に他人の助けを行っているのに感謝されるとやはり、照れるのだ。
「だから、あんたも少しは羽伸ばして楽しまないか?」
「う・・・・・・そ、そうね・・・・・・せっかくの正月だし、今回はあんた達に付き合ってあげるわ・・・・・・あれ?」
しどろもどろに妹紅達の誘いに応じると何かが空を飛んでいる。あれは、凧と・・・・・・現人神と河童?それに天狗も追いかけている。
「文さん、何とかして下さい~!」
「・・・・・・何、あれ・・・・・・?」
「・・・・・・正月祝いの為に凧揚げをして、天狗が凧の為に風を起こしたのがいいが、余りに突風の為に巫女と河童を飛ばした、か?」
「な、何だか、分からないけど、黙って見過ごす訳にはいかないわね・・・・・・。」
<天人救出中>
「ふ~何とか助かりました・・・・・・天子さん、ありがとうございます。」
「早苗さん、すみませんでした・・・・・・まさか、私の風でこんな目になるとは思いもしませんでした・・・・・・。」
「い、いえいえ!いくら文さんの風が大きかったとは言え、ちゃんと踏ん張らなかった私もいけませんでしたから!」
何とか救出したのはいいが、土下座する文に対し、慌てふためく早苗を見て面倒臭く思う天子。取り敢えず・・・・・・
「ま、今回は事故と言う訳だから、そんなに謝り合い(?)しなくてもいいから・・・・・・。」
「そうでしたね・・・・・・どうも、ご迷惑をおかけしました。」
「これからは、調子に乗らないで凧上げ用の風を起こします。」
そう言って、ペコリと頭を下げる早苗と文を見て、天子はヤレヤレと溜息をつく。正月でさえこの始末、と言う訳だ。
「お、そうだ。これから皆でカルタ大会をやりたいんだけど、早苗達もどうだい?」
「カルタですか、久しぶりですね~。文さんやにとりさんもどうです?」
「カルタは数十年ぶりですね。やりましょう!」
「私も賛成だよ、早苗。」
「では、私達はエミリーさんを連れて行きますので・・・・・・所で、集合場所は“あそこ”ですか?」
「奇遇だね・・・・・・“あそこ”だよ。じゃ、私も慧音達を連れて行くけど、天人は?」
私は・・・・・・。と考えながら、振り向いて見ると、そこには鵺がジッと自分を見ていた。ウル目がちと怖い。
断っても無駄だな、羽伸ばすと言ったし。フッと微笑んで鵺に向き直る。
「分かったわよ・・・・・・じゃ、一緒に聖達を誘いましょうか。」
「!・・・・・・うん!」
「ちょっと、何も抱き付かなくても・・・・・・。」
鵺に抱きつかれて困り顔しながらも振り払いせずにそのまま飛んでいく天子を見て、早苗と妹紅は何故か笑顔でいる。
「何だか、変わりましたね。あの鵺と言う妖怪・・・・・・。」
「だな・・・・・・あの天人も今は孤独じゃないと言う訳だな・・・・・・。」
「永遠亭side」
迷いの竹を抜けた所に建っている永遠亭も正月を満喫しており、兎達も宴会で大いに楽しんでいた。
「全く、こんな日にも関わらず鈴仙ちゃんは“あそこ”への準備をしている様で・・・・・・鈴仙~お餅、食べちゃうよ~!」
そんな中、兎のリーダー格であるてゐが『立ち入り禁止』と書かれた扉の前で文句を言っていた。
どうやら、鈴仙はとある準備の為に忙しい様だ。何も今じゃなくてもいいのに・・・・・・。
「ごめ~ん、皆で宴会やっといて~!と言うより、餅は自分で作るのは見えているけど~!」
「やれやれ、何もお節は正月用に買ったのがあるでしょう?」
「永遠亭のお節と“あそこ”のお節は違うと思って・・・・・・。」
「そりゃまた、風流な事で・・・・・・お餅は少し残しておくから、早めに切り上げてね~!」
「分かった~!」
そう返事をすると扉の向こうの音からして、てゐが去った様だ。取り敢えず、早く完成しなくては。
しかし、作っているお節の量は半端ない。まるで数百人分を作っているのだ。これではキリが無い。
「だけど、何とか間に合いそうね・・・・・・。」
(・・・・・・あまり、浮かれてはいけない・・・・・・まだ、問題が残っている・・・・・・)
ふと、頭の中に感情の無い声が響く。“伝説の夢想技”で生まれたもう一つの人格、レイセンだ。
「それはそれ、これはこれ、でしょう?新年だからこそ、たまには休まないとね。」
(しかし、今も北方勇者帝国が何かの準備をしている可能性・大・・・・・・早めに対処すべきと推奨)
「確かにそうだけどね・・・・・・師匠が言っていたわ。『どんなに緊迫した状況でも、祝日等を祝うのは忘れない事。少しは頭を冷やせるかもしれないから。』だから、どんなに辛くても新年をきっかけに乗り越えたいと思う・・・・・・。」
(・・・・・・レグリン・フジワラの事が気になると判定・・・・・・)
「敵に好意を持ってはいけない、ね?彼女も悩んだのかもしれない・・・・・・かつての私みたいに・・・・・・。」
(・・・・・・一つ、言いたい事がある・・・・・・)
「何?」
(・・・・・・そこのカマボコが他のお節と場所が1ミリずれている事が発覚・・・・・・)
「!?な、何もそこまで細かく言わないでよー!」
(その事を気にしなかったら、依姫殿に小言を言われる恐れあり・・・・・・。)
「何だかんだと言って、あんたも正月に賛成なんでしょ・・・・・・。」
そう言い合っている鈴仙であったが、扉の向こうではてゐがしっかり立ち聞きしていた。
「(話からして、月にいる永琳ではなさそうだね・・・・・・元・同僚かな?)」
最近、独り言が多くなった鈴仙の事を気になっているてゐであるが、プライバシーなのでその事は伏せていたのだ。
「あーもー、からかわないでよ~!って、おっとっとー!」
「(月からの受信って想像より楽しそうだね・・・・・・)」
「小町、ミスティア他side」
「はい、死神さん。焼き八目鰻をどうぞ。」
「あぁ、あんがと。」
とある場所にあるミスティアの屋台では小町と何故かやって来た大妖精とリリーブラックによって賑やかになっていた。
「どう?ちょっとタレを変えてみたけど・・・・・・。」
「ん・・・・・・結構、いけるんじゃないかい?味も良いし。」
「本当!?良かった~!」
小町の返答を聞いて純粋に喜ぶミスティアを見て、小町はフッと笑う。たまにはこんな所も悪くないな。
船頭をしていた頃は、よく、映姫様と一緒に弁当食べていたっけな・・・・・・。
「さぁて、もう少ししたら、“あそこ”へと行きますか・・・・・・。」
「それまで、少しは呑んでいったら?」
「だな・・・・・・ん?どした、妖精?」
ふと、見るとそこにはミスティアの屋台のバイトとして働いているサニーミルクが深刻な顔付きをしていた。
「ねぇ・・・・・・もしかしたら、あの2人も来るのかな・・・・・・。」
「2人・・・・・・エミリーさんの事?」
「後、メイド長が連れて来た無口な少女か?マリアっつったっけ?」
「・・・・・・そんな者達を連れていくなんて、私は賛成できない・・・・・・だってあいつらはルナ達の仇なのよ・・・・・・!」
ふいにお盆を持つ手に力を込めるサニーを見て、小町達は納得した。“R島の件”でサニーは親友のルナチャイルド、スターサファイヤ、先輩格であり、リリーBの友でもあったリリーホワイトを奪われてしまった。その為にサニーは外の世界を憎悪していた。
「・・・・・・納得いかないなら、メイド長と早苗に文句言いなよ・・・・・・ま、あたいは賛成だけどね・・・・・・。」
「けど!」
「あいつらも立派な被害者なんだよ。エミリーはキリュウに自分を利用してクローン勇者の親友を束縛した事で悩んでいる。マリアは勇者帝国の争いに両親を奪われた揚句に実の祖父に命を狙われている・・・・・・外の世界の住人が全て悪い奴とは限らないんだよ。」
「だけど・・・・・・だけど・・・・・・!」
「映姫様なら、ここで白黒つけるだがな・・・・・・済まない、気を悪くしちまって・・・・・・。」
今は亡き上司の事を言って小町は寂しく酒を飲んだ。何だか自分のせいで雰囲気を悪くしたかもしれない。
そんな時、ミスティアがおずおずと小町の肩を持つかの様にサニーに言う。
「私も死神さんの言う通りだと思う・・・・・・本当に悪いのは勇者帝国のクローン達だって・・・・・・リグルもきっと・・・・・・。」
そう言って、首にかけている虫型のペンダントを撫でるミスティアを見てサニーがグッと唸る。
「で、でも・・・・・・。」
「サニー、外の世界の人間達を八つ当たりするな、とは言わないけど、全て憎むのはどうかしていると思うわ・・・・・・。貴方だけが大きな悲しみを噛み締めているとは思わないでね・・・・・・ま、ホワイトの場合、全てを許すかもしれないけどね・・・・・・。」
「・・・・・・大妖精はどうなの?」
「!?・・・・・・わ、私にはよく分からない・・・・・・只、チルノちゃんがああなったのは外の世界が原因とは思わない・・・かも・・・。」
「そう言うこった・・・・・・ま、この事は新年だから忘れろとは言わないが、少しは許可したらどうだい?」
小町の言葉にサニーは何も言わなかった。そんな彼女に小町は続ける。
「言っとくが、“あそこ”ではグジグジ言うなよ?取り敢えず女将、酒のおかわり頼む。」
「妖夢他side」
「でぁぁぁぁぁぁっ!」
「・・・・・・・踏み込みが少し足りない。」
「みょんぶ!」
白玉楼。かつて、主・西行寺幽々子と庭師の半霊半人・魂魄妖夢の2人だけが住んでいたが、今は妖夢が月の姫、綿月依姫との特訓に明け暮れていた。しかし、流石は月の姫の1人で月兎のリーダー。妖夢の剣を難なくかわしまくる。
月の兎達も最初は幽霊に怯えていたが、今ではノンビリと談笑したり、昼寝したり、読書したりしている。
「全く・・・・・・何で私が地上の者に剣を教えなきゃならないのよ・・・・・・今はそんな時のではないのに・・・・・・。」
「そう言っても、依姫殿も外の世界へ向かわないのですね?今はその時ではないと分かっていると見えますが・・・・・・。」
「図星を指されたら反論できないわね・・・・・・流石は家から秘蔵の酒を盗んだ幽霊の従者ですこと。」
「うっ・・・・・・それは紫様が・・・・・・。」
「ま、霊夢に気を取られた私と八雲紫に気を取られたお姉様がいけなかったでしょうけど、あれはギャフンだったわ・・・。」
「ギャフン・・・・・・?所で、依姫殿、今の私には何が足りないのでしょうか?厳しく申して下さい。」
「そうね・・・・・・。」
「『速さが足りない』は・・・・・・すみません、何でもありません・・・・・・。」
「??まぁ、今言える事は一つだけ・・・・・・貴方、少し1人で何でも背負い過ぎない?」
「!?」
「自分がしなきゃ、とか、自分しかできないんだ、と何だかんだで周りの協力を拒んでいるのでしょう?」
「・・・・・・確かに、かつての私はそうでした・・・・・・しかし、今は霊夢さん達が・・・・・・。」
「その霊夢さん達を危険な目に合わせたくない為、でしょう?」
「・・・・・・成程、確かにそうですね・・・・・・自分が霊夢さん達を守るんだ、幽々子様の居場所は自分しか守れないと思っていた・・・・・・ですが、それは思い違いでしたね・・・・・・霊夢さん達も私よりも強い力を持っていますし・・・・・・。」
「・・・・・・どうやら、納得出来た様ね。」
「はい、ありがとうございました。」
丁寧にお辞儀する妖夢を見て、依姫は満更ではない感じをした。地上の者にしては礼儀正しいだけじゃない。
常に自分の未熟さを考え、それを超える為に努力している。お姉様(豊姫)にそんな志があれば・・・・・・
いや、それよりも・・・・・・。依姫はジト目でダランとしている月兎達を睨みつける。
「何でそんなにだらけているのかしら・・・・・・!」
「!?し、しかし依姫様は半人半霊の剣士と特訓をしていたのでは・・・・・・!?」
「・・・・・・妖夢さん、少し休憩なさってはいいかしら?私にはやるべき事がありますので・・・・・・。」
「え?良いですよ?」
妖夢の許可をもらって、依姫は月兎の特訓指導を行った。その厳しいお方の前に流石の月兎も慌てて始める。
「へぇ、月の兎ってああいう修行をしていたのか・・・・・・まさか、鈴仙さんがここに来たのはこれが嫌で?」
その様子を妖夢は観察していたが、ふと、空を見上げる。
「む、あと少しで“あそこ”へ行く時間だな・・・・・・。」
「???side」
とある場所で、霊夢達が集まっている。最初に来たのは霊夢達・博麗神社の一行、次に咲夜ら紅魔館etc・・・・・・続々と集結する。
そして、霊夢がとある方向に振り向いて言った。
「さてと・・・・・・来たわよ、大神・天照―!新年明けましておめでとう!」
そう言うと同時に、木々が生え、そこから出て来たのは、大神・天照であった。
『霊夢・・・・・・皆さんもおめでとうございます・・・・・・。』
そう笑顔で挨拶する大神・天照。そう、“あそこ”と言うのは大神・天照の森。霊夢達はそこで宴会をする事になっていたのだ。
「さぁて、挨拶もそこそこにして・・・・・・乾杯といくわよ~!」
「「「「「カンパ―――――――――イ!!!」」」」」
2012年、正月。霊夢達は大神・天照の森での宴会で盛り上がっていた。
レミリア達がいないのは寂しいし、まだ北方勇者帝国の事も気にかかる・・・・・・けど、今は正月。少しはこう言う事で羽を休んでもいいではないか?誰もが笑って浮かれ、大いにはしゃいでいた。幻想郷はまだ、正月を祝う時があった様である・・・・・・。
え?宿敵の北方勇者帝国はこんな時に何をしているって?
幸いな事に勇者帝国も正月なのか、悪行は暫くお休みとしており、勇者8人やオメガ達・武霊無親衛隊も居酒屋風の宴会場で酒を交し合い、Aチルノも亜魅と一緒に紅の所で新年の挨拶をしていた。闇の巫女・博麗霊牙は冥界四天王と共に正月早々、同人誌か何かを買いにコミケに突撃を行っていたとさ。しかし不運な方もいるようで、1人残された総帥のキリュウは娘同然の勇者はともかく、唯一の弟子であるAチルノすら構ってくれない事に必死で悲しみの余りに大量殺戮したい狂気を抑えながらも数多くの機械人形や囚われのレティとレイセン(2代目)と一緒にお節を食べながら、新年SPを見ていた・・・・・・・・・・・・3人に合掌・・・・・・。
霊夢:「皆、明けましておめでとう!皆は新年を契機に何を目標としているかしら?私は・・・・・・幻想郷だけじゃなく、世界の人々が平和に暮らす事・・・・・・それだけよ♪これからも頑張るから、応援よろしくね!」
一同:『今年も東方X戦記を宜しくお願い致します!!』
という意味での10点。
外伝書くんだったらさっさか本編進めましょう。