Coolier - 新生・東方創想話

除夜の鐘ゴットスピード

2011/12/31 17:12:21
最終更新
サイズ
19.3KB
ページ数
1
閲覧数
1622
評価数
3/12
POINT
610
Rate
9.77

分類タグ

0.寒中の命蓮寺

 しんしんと冷え込む師走の夜。澄み渡った大気を通して見上げる空は満天の星空。先日降った雪
は一度溶け落ちたか、所々にある薄氷が幻想の星空を煌びやかに映し出す。幻想郷の冬、ことさら
夜は厳しい冷え込みに見舞われる。まだ冬の始めとはいえ、気温は氷点下を割り吐き出す息は凍り
つくほど。そんな極寒の中、人妖は出向く。
「もうこんなに並んでるとはね」
私は地上に降り立ち、そしてその列の最後尾についた。いくら天人とは言え、この寒い中何十分も
並んで待ち続けている人妖の列に割り込む訳にはいかないもの。
「それにしても、幻想郷も変ったものね」
 大晦日と言えば、幻想郷は人も妖も我を忘れての大宴会だ。呑めや歌えや、騒ぎに騒ぐ年越しの
晩餐。どこの家からも、遅くまで明りが絶えず楽しげな笑い声が漏れ聞こえてくるもの。しかし、昨年
の晦日からはその趣向が少し変わった。座敷で騒ぐのみならず、座敷を飛びだして。
 ゴーン……。ゴーン……。厳かに、最初の鐘が打ち鳴らされる。
 つまり、そういう事である。この幻想郷には、命蓮寺が建立されるまでの間寺が無かった。このこと
については、幻想郷事情に詳しい皆さんには説明不要だと思う。そんなわけで、除夜の鐘をつくとい
う文化、風習が流入したのも去年の暮れからだった。
「あら? 誰かと思えば地震野郎じゃない」
と、そんなことを考えていれば唐突に声をかけられ。
「あら、人形野郎の貴女もこの寒いのに除夜の鐘?」
そう、丁度私の前に並んでいたのが顔見知りだった。普段は魔法の森にある自宅に引きこもって人
形遊びにうつつを抜かしている魔法使い、アリス・マーガトロイド。寒さか酒か、白い頬に微かな赤み
が差している。
「私は……ほら、魔理沙が命蓮寺に行くって言って聞かないもんだから」
彼女の回答から、その頬の紅潮が決して寒さや酒ではないことが分かった。名前を呼ばれて振り
返ったのは、アリスが思いを寄せている白黒の魔法使い。霧雨魔理沙だ。
「ん……、おう! “てんこ”じゃないか!」
アリス越しにひょこと顔を出し、魔理沙は私の名を呼んだ。
「“てんこ”じゃなくって“てんし”なんだけどね。まぁいいわ。貴女がアリスを連れて来たのね?」
「まぁな!」
にっ、と白い歯を見せて笑う魔理沙。それを横目でちらちらと見据えるアリス。もう貴方達付き合っ
ちゃいなさいよ、と喉元まで出かけた言葉を飲み込む。
「貴女は消さなきゃいけない煩悩が沢山ありそうね……先ずは物欲から」
と、当たり障りのない言葉に変えて会話を続ける。
「残念ながらそれは煩悩じゃないのぜ。私が生まれ持った本能だ」
上手いこと言ったつもりなのだろうか。若干エヘ顔の魔理沙をアリスがつんと突っつき。
「……列、動いてるわよ」
それだけ言った。


1.食欲の話


 列が動くのは思いのほか早かった。何せ一人一打ち、たしかにそんな時間がかかるようなことでは
ない。合掌し、鐘を打ち、百八ある煩悩のうちの一つを消すのだ。
「あら? ルーミア……だっけ? 貴女も来ていたの?」
鐘を打ち終えて帰る人の中に、見覚えのある面影を認めて私は声をかけた。
「だれなのかー?」
ふよふよと、地に足のつかないままに漂ってきた彼女。いつも通りの黒い服に赤いリボン。そして闇
の中でもよく目立つ白いブラウスに蜂蜜色の髪。間違いない。宵闇の妖怪、ルーミアその人だ。
「私よ。天人の、比那名居天子」
「そーなのかー」
私の名を聞くなり、彼女は予想通りの反応を示した。もはや記号化されたこの受け答えだけど、これ
が彼女のアイデンティティでもあるのだろう。
「で、貴女は人を食べに来たのかしら?」
人食いの妖怪の名で広く知られる彼女のことだ。もしかすると帰り際に一人や二人攫って食うかもわ
からない。
「まさか。里からここまでの道中は自警団やら命蓮寺の人やらでいっぱいだよ。私は煩悩を散らしに
来ただけ」
彼女は残念そうに笑い、そして「魔理沙とか、強い人もいっぱい来てるもの」と付け加えた。
「へぇ? 貴女の場合は何かしら」
「食欲だね。私は少し食べ過ぎてるって紫さんに言われたんだ」
「食べすぎはともかく……食欲は生きている限り断つことは難しいものよ。断食して即身仏にでもな
る?」
と、私たちがそんなやりとりをしていると、そこにまた一人見覚えのある顔が。
「あら、私と同じね!」
会話に割って入ってきたのは、どこぞの神社の紅白巫女。博霊霊夢だった。お前、自分の所の祭事
はどうした。
「霊夢も食欲を消しに来たのかー?」
ルーミアが親しげに声をかける。さすが、紅魔郷以来の付き合いと言ったところか。毎年呑み交わす
仲なのだとか。あれ、そう考えると霊夢って今何歳……。どうでも良い方、特に考えてはいけない方
に思考が逸れる。
「もちろんそうよ」
そんな私の思考を遮って、霊夢が答えた。
「けど霊夢はそんなに食べすぎているようには見えないよー?」
「ルーミア、何も言わないであげて」
私がルーミアの台詞を遮る形となった。ルーミアが首を傾げ、霊夢がなぜかどや顔で帰路につく。
よく目立つ金髪、赤いリボンがそれを追いかけ、去り際に私に手を振って闇の中に消えた。


2.色欲の話


 さて、列が流れて鐘楼の階段を上る。早くも私の前の二人のターンがやってきた。
「じゃぁ、先ずは私からいくぜ」
天井から縄で吊るされた丸太――龍頭って名前だっけ?――を勢いよく引いて、景気のいい一打
ち。まさに魔理沙らしい一撃であった。ごわあぁぁん……と、人一倍大きな音を轟かせ鐘が鳴る。
「アリスはどんな煩悩を抱えてるんだ? この折に全部消し去っちまうといい」
魔理沙がアリスと場所を変え、そして丸太の先についた縄を握らせる。が、それがいけなかったのだ
ろう。手と手が触れたその瞬間、アリスの顔がぼっと赤くゆで上がった。いや、本当に湯気が出そ
うなほど。
「わ……わた……わたしのぼんのう……えと……」
言語中枢がやられたっ! いや、それだけではない。彼女の頭の中はもはやすでにぐるぐる状態。
「えっと……魔理沙ああああああああああああああぁぁぁぁあぁ!!」
ガン! ガンガン! ガンガンガンガンガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!! 
やはりこうなったか。アリスはものすごい声量で想い人の名を絶叫し、そして目にもとまらぬ速さで鐘を連打する。
「魔理沙ぁ、魔理沙魔理沙魔理沙魔理沙魔理沙っ!!」
やめられない止まらない。ノンストップ、アンリミテッド。キツツキも顔負けのスピードで、残像を引いて
超高速鐘つきは続く。近付こうものならば、おそらくあの丸太に吹き飛ばされる、または骨を砕かれる。
「ちょ……アリス落ち着けって……!」
が、魔理沙は勇敢にもそれを止めようとアリスに駆け寄ろうとする。
「魔理沙! 死ぬつもりなの!?」
私はその魔理沙を止めようと手を伸ばしたのだが……。私の手は虚しく空を掻いた。
 遅かったか! 腕利きの医者を呼ばないと。即座にそこまで考えたものの、事態は私の予想だにし
ない方向に向かった。
「なん……だと……!?」
超高速で前後する丸太は、なんと魔理沙の体を突き抜けたのだった。それだけ聞くと、もはや命は助
からない大惨事に聞こえるかもしれない。だが、実際はもっと大変なことになっていた。
「ま……魔理沙!! あんた消えかかってるわよ!?」
丸太は魔理沙をすり抜け……いや、魔理沙が丸太をすり抜けたのかな。私自身この状況を瞬時に
把握することは不可能だった。なにせ、さっきまでピンピンしていた筈の魔理沙が半透明になってい
るのだから。どの位透明かと言えば……レイヤーの不透明度50%くらい。鐘楼から望める人里の明り
がチラチラと透いて見える。まさに半分透明なのだ。
「私……消えるのか……?」
魔理沙がぼんやりと呟いた。なんだかものすごく満たされた表情……をしている場合じゃないで
しょ!!
「しっかりしなさいこのバカチンがっ! ここで消えたらもう盗みもできなくなるのよ!!」
「おう、そいつは御免だぜ」
魔理沙がはっと我に帰る。いや、ほんとうにこんな茶番を演じている暇はないのだけれど。
「アリスーっ!! 魔理沙が、魔理沙が消えかかってるわよ!! やめなさい! やめやがれこの人
形野郎ーっ!!」
私は彼女に向かって精一杯叫んだ。が、もはや境地に達してしまったアリスがこんなことで止まる訳
もなく。そうこうしているうちに魔理沙はどんどん霞んでいく。
「アリス――やめ――きえ――ぜ」
もはや声もまともに出ない状況。そこらへんの幽霊でも、もう少しまともに喋れるというのに。まずい、
このままでは魂すら消滅してしまう。


3.仏の救い


「超人『聖白蓮』っ!」
と、私が困り果てていた所に救世主が。このお寺のご住職、聖白蓮がスペルカード発動の掛け声とと
もに颯爽と登場し。
「破ぁ!!」
ばしっ! なんと、荒ぶる丸太を片手で受け止めたのであった。ヒールでありながら、受け止めた衝
撃を地面に分散させて受け流すその身のこなしはまさに超人。
「いいですか、アリスさん。物は大事に使いましょう。貴女がいま物凄いスピードでビートしていた鐘は
皆で使うものです」
そっち!? どう考えても隣にヤバそげなやつが浮かんでるでしょう!! 今にも消えそうな魔法使
いが幽霊みたいに漂っているでしょうよ!? まずはそっちを助けるのが先じゃないの!?
 と、突っ込みたくはなる物の、とりあえず消滅の進行は食い止められたので僅かながら心に余裕が
生まれ、無駄な突っ込みは控える事が出来た。
「す……すみません、白蓮さん」
包み込むような……圧倒的な白蓮のオーラに、アリスがやっと我に帰る。先程までちいさな篝火に照
らされていた鐘楼の内部が、黄金色の後光に満ち溢れる。あぁ、これが聖人の力か。
「いいのですよ……。貴女は今宵の反省を胸に、来年も生きて行くことが出来るでしょう」
「はいっ!」
で、魔理沙の救出はまだかな。さっきからものすごーく口をパクパクやって助けを求めているんだけ
ど。もう声が出ないらしい。……そろそろ突っ込んでもいいよね?
「あの……白蓮さん、アリスを止めて下さってありがとうございます。で、隣の魔法使いは救ってやれ
ないのですか?」
少なくとも私にはどうしようもない。けれど、聖人と謳われる白蓮ならばなにか方策を知っているかも
しれない。そんな希望を託し、私はやんわりと突っ込む。
「あら、こんなところに魔理沙さんが。大丈夫、安心して下さい。私は万人を、妖怪をも救いへと導くこ
とが出来ます」
白蓮はにこやかに微笑む。心の中が温かくなるような、そんな優しい笑み。なんだか私まで救われた
ように錯覚する。彼女の笑みはそんな力を秘めていた。
「いざ、南無三ーっ!!」
どこから取り出したのやら、数珠を掲げて彼女は高らかに叫んだ。って……数珠ってことは。
「ちょ……白蓮さーん!! 魔理沙成仏しちゃいましたよー!? 消えそうになってたところが思いっ
きり消えちゃいましたけど!? ってかあれ、霊体だったの!?」
私はやっぱり堪え切れず、口に出して突っ込みをかます。いや、いいよね? 普通突っ込むよね、叫
ぶよね?
「いえ、生きている人間でも仏の教えに従えば極楽の浄土に導かれることはできるのですよ?」
「生きていると知ってなぜ成仏させたし」
「救ってやってと言われたので……」
「私のせい!?」
救いと言えば、仏のですよね? と、不思議そうに首を傾げる白蓮。そういえば、浄土に導かれるの
が仏教の最終目標だっけ。……って、自分は死を恐れて生に執着している癖に!?
「そうよ、貴女のせいよ! この地震野郎!」
なぜか私を責め立てるアリス。弾幕はブレーンと称するだけの事はあって中々に狡猾だ。もしこの場
で私が“元はと言えばあんたのせいでしょ!”などと突っ込めば、それはあまりに野暮すぎる。つまり
突っ込みとして用を成さず……読者はしらけること請け合いである。
「く……せめてあの世では極楽浄土に導かれたことを有難く思いなさい」
と、負け惜しみみたいな台詞しか返すことが出来なかった。
「と、冗談はこのくらいにして」
不意に白蓮が口を挟む。そして握った右手を私たちの方に差し出してゆっくりと開いた。
「実は、魔理沙さんはここにいます」
開かれたその掌の上には、ふよふよと漂う小さな……月見団子程度の霊魂があった。
「なんだ……びっくりさせないで下さいよ。てっきり本当に成仏しちゃったのかと」
私はほっと胸を撫で下ろした。霊体になっているとはいえ、どうやら現世には留まっているようだ。
「いや、成仏させたつもりでしたが私の法力では魔理沙さんの罪は帳消しに出来なかったようで
……」
「やっぱり成仏させるつもりだったの!?」
結果オーライとはいえ、危ないところだった。いや、魔理沙があちらこちらで咎を作っていたことがこ
んなところで役に立つなんて。
「ちなみに、帳消しに出来なかった罪って何なんですか?」
アリスがおずおずと尋ねる。やっぱり、想い人のことは気になるのだろう。
「えっとですね……アリスさんの手を握って理性を崩壊させ、この鐘を超高速で連打させた罪ですね」
ははぁ、なるほど。大本の原因を辿れば魔理沙にある……と、一瞬納得しかけたが。よく考えなくて
も、あれはだいたいアリスのせいかと。まぁ、どこまで本当かは解らないけど。
「つまり、魔理沙は死後その罪で地獄に……?」
アリスが心配そうに聞く。
「はい、このままでは“恋人の名を叫びながら超高速で鐘をつき続ける地獄”に落ちてしまいます」
嫌な地獄だなーそれは。私なら御免被る。特に、恋人の名を叫びながらってところが。
「そんな……」
「大丈夫ですよ、仏教に帰依し仏の教えを守ればその罪も許されるというものです」
また、あの笑み。この人の笑みはどうにも超常的な力をもっているようだ。女である私でさえ……天
人である私でさえ、その頬笑みには魅力を感じずにはいられないほどの。
「……っておいィ!? ただの宗教勧誘になってるわよ!!」
危なく、私まで入信するところだった。皆さんも宗教勧誘には気をつけましょう。
「てへっ、ばれちゃいましたか!」
舌をペロッと出してえへへと笑う白蓮。なにこの可愛い僧侶。けれどこの可愛さに騙されてはいけま
せん。中身は千ウン百歳。まぁ、そんなこと言ったら私もとっくに五百年以上生きているわけだけど。
もう自分の歳なんて覚えてないし。


4.お客様の中に、お医者様はいらっしゃいませんか!?


「それで、魔理沙はどうすれば元にもどるの?」
脱線して行く思考を呼び戻し、私は聖に問う。と、白蓮は私にくるりと背を向け。
「参拝者の方で、反魂ができる方はいらっしゃいませんか!?」
参道をかけて行く……っておい!
「自分じゃなんとか出来ないの!?」
と、ツッコミをかます頃には既に白蓮は遠く。
「ってか、あんなに高速でかけて行ったら、たとえ出来る人がいても声かけらんないわよ」
私が呆れてつぶやけば。
「たまにいるわよね、そういう廃品回収業者」
アリスが頷く。確かにいるよね。幹線道路をドップラー効果引き起こしながら走り去っていく竿竹屋さ
んとか焼き芋屋とか。けれどその例えはどうかと思う。と、そんなくだらないやり取りをしているうち
に白蓮が戻ってきた。もちろん行きと変わらぬ超高速で。
「残念ながら、反魂ができる方はいませんでした……」
息を切らしながら、白蓮はものすっごくすまなそうな顔をしてそう告げた。本気で探すつもりだったの
か。むしろ探すつもりあったのか。
「まずあなたは超人モードを解除しなさい。あと、魔理沙の魂を寄越しなさい。あんたに持たせておく
と何するかわかんないわ」
私は白蓮から魔理沙の魂をひったくった。悪気はないにしろ、彼女にこのまま魔理沙を任せるのは危険だ。
「なら、なら私が魔理沙を」
アリスがものすっごく手をワキワキさせて迫り来る。その時、私は直感的に思った。こいつに魔理沙
の魂を渡してはいけないと。
「あんたはもっと何しでかすか分からないわ。別の意味で」
「なによ、魔理沙の魂を人形に定着させようと思っただけなのに」
「人形でいいの!?」
「そうすれば……私だけの魔理沙になるものね……ウフ……ウフフ」
ヤンデレだこの子ーっ!? 顔がさっきまでのアリスじゃない。内側から溢れ出る煩悩、欲望、そしてもっとドス黒い何か。
どうにかして魔理沙を早々に再構築しないと、魔理沙の人権が危うい。
「と、とにかく。だれかこの魔理沙の魂をなんとか出来ませんか~!?」
と、私も結局やることはさして変わらないのだけど。いくら気を操る力があっても、反魂は守備範囲外
だ。


5.イメージしろ!


「なんとか……してみましょうか?」
と、奇跡的に声がかかった。はっと振り向けば、鐘楼の階段下に見覚えのある人影。鐘楼の階段を
静々と登って来るその人影の頭部には、獣耳にも見える寝癖がひょこひょこと揺れていた。
「あ……あの特徴的な寝癖は……! 豊郷耳神子っ」
さっきまでふわふわとしていた白蓮が、突如険しい顔になる。それもそのはず、神子は白蓮が復活を
阻止しようとして敵わなかった存在。自身も仙術を用いて不死の身となりながら、妖怪を滅ぼさんと
する聖人。またの名を、聖徳太子。つまるところが、白蓮の天敵なのである。
「やれやれ、何やら沢山の煩悩が撒き散らされているので来てみれば……。散らされたのは魔理沙
さんでしたか」
さすがは聖徳太子、事態の飲み込みは早い。
「魔理沙さんを救えるのは反魂ではありません。周囲に神霊となって漂う魔理沙さんの欠片を集めな
くてはなりません」
神子がそう言って手を差し伸べると、周囲の大気が輝き出し光の粒を形成しはじめた。幾多もの光の
粒が生まれ、天空の星々が地上に再現される。
「これが、魔理沙さんの欠片です」
やがて光は私の手の上にある魔理沙の魂の周りに集まって、渦を巻く。それはまるで、新しい銀河が
生まれ出る瞬間のようで、とても幻想的だった。
「天子さん、下がって」
神子に言われるがまま、私は後ろに下がった。いや、今まさに生まれようとする新たな銀河と神子の
もつ不思議な神性にたじろいだのかもしれない。
やがて銀河はさらに巨大な渦となり、鐘楼の内部を眩く照らし出す。
そして、光の奔流は一人の人間の形を成した。
「魔理沙!」
おぼろげに浮かび上がる魔法使いの影に今にも飛びつきそうなアリスを片腕で制し。魔理沙自体が
実体を持つまで、目を見開くまで私は待った。そして。
「んぁ……? アリス……」
魔理沙が薄目を開けて、おぼつかない口調で呟く。
「魔理沙!!」
アリスが、いよいよ堪えきれなくなって魔理沙に飛びつく。すると魔理沙は。
「アリス……お前」
一見、感動的な再開シーン……などと油断した私がいけなかった。
「今日のパンツ何色だっけ?」
場が一斉に凍りつく。いや、神子だけはなぜかどや顔なのだけど。
「ちょ……こんなの魔理沙じゃないーっ!!」
ぶわっ、とアリスが盛大に涙を流して飛び退く。そりゃそうだ、感動の再開のはずが一言めにこれで
は。少なくともアリスや私の知る魔理沙とは大分かけ離れている。
「おかしいですね……そこらへんを漂っている魔理沙さんのものと思しき神霊を集めたのですが。私
のイメージに従って」
「あなたの魔理沙に対するイメージはどんだけ酷いのよ!? 少なくとも魔理沙はいきなりパンツの色
を聞いたりしないわ!」
すると神子は。
「お前の勝手なイメージを押し付けるな!」
「それはこっちのセリフよ! アホの太子!」
どこでその台詞覚えたし。まだ幻想入りするには早すぎる台詞だと思うのだけど。
いや、そんなことより今は。
「ともかく、こんな魔理沙認められないわ! 作り直して頂戴」
「そう言われても……なら、どんな魔理沙を?」
神子が真面目に困り果てた顔で私たちに訊ねた。そりゃそうか、神子のイメージに従って集めたらこ
うなったのだものね。
「えーっと……手癖がわるくて」
「私のことが大好きで大好きで仕方が無い、私なしではもはや生きていけない魔理沙です」
「今までの悪行を悔い改め、仏の道に生きようとする魔理沙です」
私が概要を伝えようとしたその刹那、アリスと白蓮が割って入ってきた。あぁ、そう言えば魔理沙って
そんな奴だったっけ……って、あれ?
「それはあんたらが欲しい魔理沙でしょ!」
スパパーン! 二人の頭に非想のハリセンで一撃ずつかまし、私は神子に向き直る。
「……ったく、本当は全部聞こえてるくせに意地が悪いわね。太子様!」
神子は私に指摘されるや、人好きのする笑みを浮かべ。
「すまないわね、ちょっと遊んでみたくなっただけ」
これで勘弁してとばかりに片目をつむりウインクをして見せた。白蓮もそうだが、聖人というのはみん
なこうなのだろうか。
「とんだエンターテイナーだわね」
「太子の奇跡はエンターテイメントでなければならない!」
どこのキングよ。と、突っ込みそこなった。神子がその隙を与えなかったのである。
「……けど一つだけ聞かなくっちゃいけないことがあるわ」
突然真剣な語り口調になった神子に、私達三人がつばを飲む。
「レザマリですか、ミサマリですか?」
どーでもいいわーっ!! とか突っ込みたかったが、アリスは至って真面目だった。危ない危ない、こ
こで突っ込みを入れたら私は空気の読めない痛い子。
「レザマリでお願いします。地霊殿ではミサマリは河童装備なので」
あぁ、そういうことか。けど河童装備はエクストラだとかなり有用なのは見逃せないよね。


6.後だしはずるいけど先に出す方が悪いのか?


「では、アリスさんの持っているイメージを基に魔理沙を集めなおします」
今の魔理沙が光の渦に戻りその渦から光の粒子が出たり入ったりを繰り返す。
「手癖が悪くて、鈍感で、すけこましで、不器用で、少し意地悪で、けれども優しくて努力家で……大
好きな魔理沙を!」
神子がアリスの心の本質を読み、そして読み上げる。
「あ……あだ……あ……その」
アリスは先程のあれよりもさらに真っ赤に茹で上がり、もはや声すら出ない。まぁ、誰だって心ん中で
そんなこと思ってて、それを声に出されて言われてはそうもなるでしょうけど。
やがて光の渦が収まった時。そこには、いつも通りの魔理沙がいた。
「おう、アリス! さっきの、全部聞かせてもらったぜ!」
うわ、これはずるい。魂になっている間も意識はあったのか。汚い、さすが魔理沙汚い。
「え……あ……うぇ……? きゅうぅ……!」
アリスの血圧はもはや限界を逸し、よく分からない鳴き声を残して彼女は昏倒した。倒れかかる彼女
の背をそっと抱きとめたのは、やはりあの白黒。
「いやぁ~すまないな、てんこ!こいつが迷惑かけちまって」
魔理沙は憎めない笑みでへらへらと詫びる。
「いいわよ、別に。こんどアリス連れて二人で天界に遊びに来なさい。こっちも暇してることだし」
「そうだな。土産物の一つでも持って行くとするか」
魔理沙はアリスを抱きかかえ、いつものホウキにひょいと跨がる。無くても飛べるのに邪魔じゃないのかな。
「それじゃ、またな!」
鐘楼を飛び出し、夜空へと舞い上がる彼女の後ろ姿は、とても楽しげであった。
「さて、私もひとつ鐘を打たせて貰おうかしら」
私はすっかりと鎮まり返った鐘楼の中、丸太に結びつけられた縄を手に取り。
ごーん……。ごーん……。遠くの山からこだまが返る。
さっきまで大騒ぎしていたのは嘘のよう、心に染みいる鐘の音。
「いや……」
まだまだ大騒ぎはこれからだ。寺から散らされた煩悩に塗れて、朝まで飲み明かそう。何やら話し込
んでいる白蓮と神子に軽く会釈をし、私は鐘楼の階段を下る。幽々子のところに行けば紫もいるだろ
う。新年の挨拶でもかましてやろうか。


鐘なりて

今宵は宴

大晦日
前回下位行が少なくて読みづらいとの指摘を頂きましたので、適当なところで折り返してみました。
けれどこれをやるとスマフォから見た時大惨事になるんですよね……。
やっぱり句読点で改行した方がよいのでしょうか。

それはさておき、皆様今年と来年の境界はどのようにお過ごしになられますか?
最近は歌合戦の視聴率も芳しくないようで、幻想入りも遠くないようですね。
ちなみに私はバイト先で年を越します。今年と来年の境界の間は働いているので除夜の鐘はつきに行けないのです。残念。
それでは皆様、よいお年を。はっぴーにゅーいやー! でございます。
虚構の人
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.320簡易評価
3.100名前が正体不明である程度の能力削除
響子「働いたなぁ…」
4.無評価名前が無い程度の能力削除
>博霊霊夢
博麗
12.100名前が無い程度の能力削除
割と好き
13.90名前が無い程度の能力削除
Ok 落ち着けアリス