Coolier - 新生・東方創想話

それはもうとんでもない龍のアギト

2011/12/25 02:27:56
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 その春。
 幻想郷の空に大きな宝船が浮かんだ異変の頃のお話。


 鼠の妖怪ナズーリンは愛用のダウジングロッドを手に、幻想郷を文字通り東奔西走していた。しかしながら、探しものの反応はあちらこちらに点在していたものの、どれも明確に断定できる感じではなくて。
 彼女は自分の仕事ぶりに不満を抱いていた。


「なんというかこう、もう少し能率よく的確に探索したいところだわ。自分が無能だと思われたくはないし」


 とはいえ頭の回転の早い彼女は、自分の能力が万能でも強力でもないことを嫌々ながら自覚している。場合場合の立ち回り、特に対人戦には相応の自信があったが、自身に求められる作業には結局地道に当たるしかないというのも理解していた。立ち止まって文句を言う暇があるならば動きまわったほうが結果が出るし、作業自体は苦痛ではなかった。
 結局、ブツブツ云いながら、ご主人様に先行して幻想郷のあちこちへ。
 それなりの情報も集まりつつあったし、ナズーリンとしても痛し痒しという感じである。


「何事も簡単にはいかないものだね……ええと、次の目的地は……あのお屋敷か。なんだか強い反応だね。しかも、えらく自己主張の強い建物だこと」


 湖岸に傲然と建つ赤い屋敷。なんだか不自然に窓が少なく、倉庫みたいに見えなくもない。
 そこは幻想郷の人妖には既知であり、幼い悪魔が住む厄介な場所として広く認識されている紅魔館であったわけだけれど、ナズーリンが目にするのは初めてだった。


「ああいうところにわざわざ住む奴は露出狂の実力なしと相場が決まっているわ。とはいえ、維持管理するには相応の人数が必要だし、注意してかからないとね」


 ダウジングロッドが示す方向へ進んでいくと、四方を囲んだ朱色の壁の中央に大きな門があり、その前に一人の少女が立っている。


「門番か……実力はどうだろうね……」


 ナズーリンが遠く叢に隠れて様子を伺っていると。


「やや、そこにいるのは侵入者の方ですか。別に隠れていないで出てくればいいですよ」
「!」


 遠くまで通る朗々とした声に呼ばれて、正直びっくりした。
 こうも簡単に見つかるとは思っていなかったから。
 慎重に体を起こし、努めて平静を装って挨拶をする。


「どうも、どうも。本当は隠れるつもりじゃなかったんだけど、あんまりにも腕の立ちそうな人が立っていたので躊躇ってしまったんだよ」
「確かに腕にそれなりの自信はあるけれど、額面通りに受け取るわけにはいかないねえ。でも、まあ、ありがとう」


 大陸風の衣装に身を包んだ気のよさそうな娘は、そういって頭をかいた。腕が立つ妖怪はおろか、その辺にいる普通の人間にしか窺えない。勿論、姿通りの内実でないのが妖怪ではあるのだけど。


「私の名は紅美鈴というの。うちの屋敷に用事? 門番だから不審者なら入れるわけには行かないけれど、言葉も通じるようだし、用件を伺おうか」
「……礼儀の分かる人がいる場所に無理矢理押し入ったりはしないよ。そもそも、正体が分からない相手にその対応はどうかな。頭の方はお馬鹿なのかな」
「いやいや、確かに頭の回転が早いほうだとは思っていないけれどもね。昨今はこの館を目指す侵入者も減ったり、訪れる人は最早全員顔見知りだったりして、門番の尊厳というものが侵されているわけよ。こうして新しく門を使って侵入してくれる貴方はお客様という感じで。いや侵入者か。どっちにしても無聊を託っていたわけで、久方ぶりのお仕事に気分も弾むというもの。時候もまさに陽光降り注ぐ気持ちいい春。拳を交えなくてはならぬとしても、その前にお話でもしていくのはどうだろう?」
「………………」


 ナズーリンは訝った。
 こいつは本当にアホなのか。
 それとも場数をこなして動揺しない大物なのか。
 こっそりとダウジングロッドの反応を確かめてみると、確かに門というか、この赤毛の娘を示している感じである。判断に困る状況だった。
 自分とて永い年月の最中、困難な局面にも遭遇してはやり過ごしてきた一端の妖怪だという自負もあるので、そうそう負けるつもりはないけれど……。
 背後に聳える館の威容が、美鈴の風貌に格付けを与えているだけなのかもしれないけれど、ここは慎重の上に慎重を期しておこう。
 鼠は小さいが、知能が高く狡猾である。
 そんじょそこらの半端な猫には捕まったりしないものだ。


「解ったよ。有り体にいえばこの館に興味が有るのは確かだ。なにしろ、この世界でもこんなに堂々とした建物は少ないみたいだしね。並外れた妖怪が住んでいると察するに余りある」
「まぁそうだね。お嬢様もメイド長も、並外れた存在ではある」
「ふうん。……でもそれより前に、私は君に興味があるよ。君だって一廉の妖怪に窺えるが、それが何故、館の門番などに甘んじているんだい?」
「まぁ、それはいろいろあるんだけどもね……」


 門番の言葉は慎重だが、傍目にも分かるぐらい頬を紅潮させて喜んでいる。どうやら、周囲には彼女の話を聞いてくれるような存在は居ないらしい。
 ナズーリンはちょっとだけ憐憫を感じた。


「良かったら聞かせてくれないかい? そんな君を従えるお嬢様とやらについて考える材料になるしね。もちろん、君自身にも興味が湧いてきたよ」
「それを話すには、ちょいと過去に遡らないといけなくなる訳だが」
「こちらは時間があるし大丈夫だけど?
「そうか……そうか。ならばそうだな……あ、立っているのも大変だろう。椅子でもどうぞ」


 門番は、門の入口の脇に置いてあった椅子を奨めてきた。


「ああ、これはご親切にどうも」
「見たところ鼠の妖怪らしいが、チーズは好きかい? 紹興酒もあるが」
「頂けるものは貰う主義だけど、なんだか気持ち悪いね」
「ならばほら、食べてみせるが……うん、毒は入っていないよ。そういうまどろっこしいのは嫌いなんだ。うちの台所からくすねてきたものだし。時に食事が届かないこともあるから、ある程度は確保させて貰っているんだ」
「本気でちょっと可哀想だね」
「まあ気にしなくていいよ。うんうん。とりあえず、大雑把にかいつまんで話をしようか」


 ナズーリンとしては仕事の効率も気になったが、情報収集の仕事と割りきって美鈴の話を聞くことに決めた。良い仕事をするためには、素早い決断が必要なのだ。
 決して、目の前で割いて渡された眼前のチーズに釣られたわけではない。
 決して。
 自分も古びた椅子に胡座をかいて座った美鈴は、お酒で一旦自らの舌を湿らせると、人差し指を立てて話し始めた。


「――そもそも私は、かつては遥か遠く大陸を旅していた妖怪でね。記憶がある頃には既に自由気ままな一人旅さ。まあ、自分では修行だと思っていたのだけれど。東に猛虎あれば竹林にで相対しその獰猛な牙に立ち向かい、西に愚帝あればその政を糺して軍を率いる。天の理にも地の欲望にも惑うことなく、ただ己の信じるままに事をなし歩みを続ける、そんな生き方を目指していたんだ。大陸は深く広く、見るもの聞くもの全てがいつも旧く新しく、どこまでいっても果てることのない世界だった。そういう場所を何年も何年も、飽きることなく旅していた。亀六つを隠し、靴底がすり減るたびに古い靴を履き替え、振り返ることもせずに、さ」
「それはまた孤高の生き方だねぇ」


 チーズを齧るナズーリンが相槌をうつ。
 美鈴は頷いて答えた。


「まあ、理想だけは高いほうがいいし、現実の泥に塗れる時も理想がなければそこで充足してしまうものだからねえ。そういう感じで何年も何年も、風まかせな生活をしていた時のことさ。

「ある日、路銀も尽きて腹をすかし通りがかった村が、それはもうこの世の終焉のような雰囲気だったのさ。村に若者の姿はなく、竈から煙は登らず、年老いた夫婦ばかりが袖を濡らして暮らしている。一宿を頼んで村長の家を尋ねると、顔の曇った老人の脇には見目麗しい娘が目を伏せて座っていた。こうみえても私だって妖怪の端くれ、心身ともに汚される前の人間の肝の旨さは知っているさ。一目でこれは特上の人間だというのは分かった。だが、それでも欲望を押しとどめ、僅かに出された夕餉に与りながら、村長たちの話を聞くことにした。

「彼らがいうには、付近の大山に棲む天の龍が年に一度訪れては暴虐を働くのだという。雷を落とし、雨を降らせて洪水を起こしたかと思えば、他方雨を奪って旱魃で村から食料を尽きさせた。そして我が怒りを鎮めるためには村の若い娘を捧げなければならないとまで触れ回った。お陰で何人もの娘を差し出さねばならなくなり、村は希望を深淵に投げ込むより他なくなった。龍の暴虐に抗して剣や鉾を手に立ち上がった者たちもいたが、彼らは皆帰って来なかった。我が子を龍に捧げるのをよしとしない者たちは、なけなしの財産と共にあてもなく故郷を離れていった。今ではもはや動けぬ老人と、村長の家だけが最後に残ってしまった、と。娘は村長の家だからといって最後まで残されてきたが、それを理由に命を長らえるのは今まで死んだ者たちに照らしても道理に適わぬとして、両親の制止に耳を貸さず、最後の生贄となると明言していたわけだ。どちらにしろ、村にはもう滅亡の道しか残されていなかったからね」


「……そりゃまた悪い龍もいたもんだねぇ」
「人に賢愚あり、神に終始あるように、龍にもまた聖邪があるんだよ。斉天大聖が倒したという四大竜王は善悪どちらかといえば難題だが、己が力に心酔した邪な者に限ってその力を無駄に振るうなんてのは、残念ながらどこの世界にも実在する」
「まさか君は、安っぽい人助けなんて考えたのかい?」
「そのまさかさね。別に情に厚いわけじゃないが、世界には守るべき境界線という奴がある。妖怪が人を襲い、人が妖怪から身を守るのは摂理ともいえるが、一方的な暴虐は許されるべきではないと思ったんだ」


「それでも、相手は龍なんだろう?」
「身震いがする思いだったよ。だがしかし、これまで自らが学んできたことを文字通り屠龍の技としないためにも、ここは敢えて義によって立つべきだと。後になって思えば、実のところ腕試ししたかっただけかもしれないけれど……でも、その時は結構本気で腹を立てていたんだ。だから村長と娘を説得し、生贄の日を延期し、代わりに私が山を登ることにした。文字通り、剣の先端のように鋭く尖り、望まぬ者を暴風雨でもって遠ざける魔の山のその天辺に、龍はとぐろを巻いて鎮座していた。天帝もかくやという傲慢ぶりだった」


「ほほー。それからどうなったんだい」
「崖を登攀してくる私が並の者ではないと悟ったのだろう、雷を打ち雹を降らせて滅多打ちにしようとした。龍といえば天の代行者だ、光すらも自在に操る技なんて世界に轟いている。ならばこそ、攻撃を放つその瞬間、龍の眼光よりも先に動いて光撃を躱した。周囲の山を島代わりにして、七の大陸を飛び越えるが勢いで空を駈け、風に乗る龍に拳と蹴りの刃を叩き込んだ。龍の鱗はどんな刃をも通さぬ堅牢さを誇っている。傷つけるには己の肉体の裡より練成した内氣孔でその鎧を『通さ』ねばならない。太古から金属の刃に頼らず、己の身にこそ真の武器を得る訓練をしていた私でなければ、竜鱗を越えて傷つけることは出来なかった」


「おお、君は拳法使いだったのか」
「まあね。人間の拳に妖怪の有り様を足した我流だけど、光を分かつ虹のように自然にあることを目指しているんだ。虹はやがて龍に通じる。真如巡って己に通じる力が鋼鉄の肉体に傷をつけたことに、龍は大層腹を立てて、それはもう驚天動地の勢いで暴れまくったさ。雷鳴で夜は昼のようになり、憤怒の炎は天を焦がして昼を夜のようにした。超常能力を使った雷や雨もすごかったが、なにより一番怖かったのは、それはもうとんでもない龍のアギト。鋭く尖った牙を突き立てられれば抗する術はない。自在に大空を舞い、死角から急襲されて肝を冷やしたのは一度や二度ではなかった。一度など、ひとつの山をまるごと噛み砕く様をまのあたりにして愕然としたもの。まさに間一髪、天女の衣の如く距離なく、龍のかみ合わせが響いた時は、死を覚悟するよりほか無かった」


 赤毛の娘は一旦言葉を切り、酒を煽った。
 客人もいつの間にか結構なのめり込み具合で、沈黙の先に話の続きを待っている。


「……実力伯仲の戦いは三日三晩続いたけれど、ようやく決着の時が来た。あちこちボロボロだった私は、最後に渾身の力を籠めて踏み込み、こちらも決着の一撃と突進してきた龍の顎を蹴り上げて泣き所を突き、怯んだその眉間に拳を叩き込んだ。さしもの邪龍もこれには耐えること敵わず、神々の天蓋を揺るがすほどの咆哮を挙げると、遥か地の底へと落ちていった。しばらくして大地震にも匹敵する地鳴りが響き渡った。しばらくすると私は、情けなくも自由のきかぬ躰に鞭を打って下山した。龍の最後を見届けなければならないからだ。邪な者とはいえ神に連なる存在を打ち倒したのだ。敬意を払わなければ、と。

「谷底に落ちた龍は腹を見せて大きく伸び、泡を吹いて絶命していた。口から吹いた血が川に流れ込み、浄化されていくのが見える。長い年月を掛けて魂は浄化され、一旦天を巡った後でこの川の、ひいては下流の人々を護る守護者となるだろう。どんな魂も生まれるからには存在する理由があるはずだ。一度の生ではそれはなされずとも、二度三度と巡ることによってあるべき位置へと近づいていく。そうなって欲しいと思い、天への祈りを捧げた後、私は好敵手に敬意を払いつつ、龍を屠った証としてその鱗の一枚を戴いた。

「麓の村につくと、村人たちは私たちが成した天地騒乱の様を怯えて見守っていたらしいので、龍の鱗を見せて確かに脅威は去ったこと、ただし龍の山と墓たる谷は聖域であるから決して立ち入らぬようにと告げた。龍の血が去るまで川の水を使ってはいけないとも。さらなる逗留も涙ながらに懇願されたりもしたが……私は妖怪で、一時の義侠心は既に去っていたし、結局は己の力試しの意味合いも強かったので、厚遇を受け取るわけには行かなかった。だから、みすぼらしくない服と旅程のための食料だけを分けてもらって、私は早々に村を立ち去った。別れを惜しむ、あの若い娘の悲しげな瞳がいつまでも記憶に残ったけれど、村の興廃はもはや私の物語に加わることはなかったから……」


「と、まぁ、これが私にまつわる小さな物語の一つだよ。その時に失敬した鱗の一枚がこれ。加工して、記念と自戒のために常時身に着けているんだ」


 と、美鈴は自分がかぶっていた帽子にある、星型の飾りを示した。


「……俄には信じがたい話だけれど。それにしては堂々たる饒舌だね」
「自分のことを語る際にホラ吹きとの疑念を疑われない奴なんて、詐欺師ぐらいなもんだよ。どんなことだって話半分で聞けばいいんだ。そうすれば人生は楽しい」
「まあ、道理にはあっているけれどね」


 仮にそれが龍の鱗などという宝物であれば、ダウジングロッドが誤反応してもおかしくはないだろう。それでも、折角の龍の鱗に「龍」などと彫り込むセンスには断じて賛同できないなと、ナズーリンは思うのだった。


「でも、今の話がどうやって門番に繋がるんだい?」
「そうそう、そうなんだ。これが大きな伏線となってて、ここからが話の本筋なわけだけれど――」


「美鈴、貴女は一体なにをしているのかしら」


 赤ら顔で調子に乗り始めた龍殺しの英雄が、いきなり硬直した。
 ナズーリンが顔を上げると、美鈴の背後にはナイフのように鋭い美貌のメイドが腕を組んで立っている。そこでようやく、美鈴の名調子に聞き入っていた自分がありえない失態を犯していたことに気づいた。
 美鈴が慌てて立ち上がり、情けない半笑いで頭をかく。手に持った紹興酒の瓶を後ろ手に隠して。


「あ、ああ、咲夜さん。これはどうも。お出掛けですか?」
「門番が門番以外の仕事をしていたら、私が外出できないじゃないの。空には怪しい船が飛び交っているなんて時候に、門番が講談師に転職かしら。暢気なことね」
「いえ、別にそういう訳では」
「それよりも、うちの台所から乳製品とお酒の蓄えが減っているのだけれど、まさか……美鈴は知らない、わよね……?」
「いや、いいえ、滅相もない……しるわけないじゃないですか!」


 銀髪の瀟洒な美女の目がいっそう細くなる。


「あらそう。だったら、侵入者、泥棒の仕業かしら。それはそれで、門番の責任追求が必要になるわね」


 自分が責められているわけでもないのに、ナズーリンはさっき齧ったチーズが喉の奥に残っている気がして、何度も唾を飲み込んだ。


「あ、いや、咲夜さん、あのですね……あいたたたたたた、痛いです、耳を引っ張らないで……!」
「門はもう閉めっぱなしでいいから、ちょっとこっちに来なさいな。たまにはお茶を飲みながらゆっくり話をするのもいいかもね」
「うわわわわ、待って、待ってくださいって、ナイフを向けるのはやめて……!」


 無常にも引っ立てられていく門番。
 と、立ち止まったメイドが振り向きざま、完璧な笑顔でナズーリンに微笑みかけた。


「……ということで、申し訳ないのだけれど、招待状のないお客様をお通しするわけにはいきませんわ。招待状は出しませんが」
「先ほど、なんだかスルー状態のお客も多いって聞いたけれど」
「そう思うならお試しでどうぞ。但し、クーリングオフは出来ませんけどね」
 そういうと彼女は、端正な顔に似合わぬ鋭い視線でナズーリンを睨みつけた。


 全身が総毛立つほどに。
 ――結果。
 鼻先で門を閉じられるまで、鼠の妖怪は硬直していた。
 蛇に睨まれた蛙そのままに。








 その後。
 なんだかとんでもなく時間を無駄にした気がしたナズーリンだったが、学んだことがないわけではないと前向きに思うことにした。
 美鈴の話の真偽はさておき……この世には数多のドラゴンスレイヤーが存在するだろうが、それをまた倒すドラゴンも当然存在するであろう。
 そしてあの館はきっと、とんでもない龍のアギトだったのだ。あのメイド長は銀で出来た龍の牙で、お嬢様とやらは神仙の山にとぐろを巻く龍に違いない。眼前のチーズにつられて気軽に立ち入ったら、きっと噛み砕かれてしまうだろう。
 だから、ナズーリンは決心した。
 立ち入るのはやめておこうと。虎穴に入らずんば虎子を得ずなんてのは、実際に虎穴に入ったことのない奴の言葉だから。猫に腹を向ける鼠は居ない。
 でも、もし、やむを得ず入り込まなくてはならなくなったら……できるだけ最後にしよう。逃れられぬ仕事に対してはそれなりに勤勉であるべきだろうけど、命を掛けてまで成すなど生涯で二度三度と繰り返すべきではない。
 そして――。
 あの気のいい門番が思いつく限りの凄惨な制裁を受ける場面を想像し、せめて心のなかで神仏の加護を願っておいてやろうと……そう思ったのである。
こんばんわ。
いつも門の前で素敵な笑顔を見せてくれる彼女のお話です。
いつしか門柱だけになっていませんように。

それでは、また。
少しでも楽しんでいただけると幸いです。
風城一希
http://teamlink.sakura.ne.jp
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コメント



0.1230簡易評価
2.80奇声を発する程度の能力削除
ナズと美鈴の会話が面白く良かったです
3.80名前が無い程度の能力削除
美鈴の話の続きが妙に気になるなぁ…
4.100名前が無い程度の能力削除
無頼漢美鈴、格好良いです。
竜殺しなんて戦士にとっては最高の栄誉なのに、謙虚だなぁ。
8.80とーなす削除
美鈴の過去話……というよりも、何か伝承の読み聞かせを聞いている感じでした。
ちょっと誇張っぽい言い回しがそう感じさせるのかな。
で、美鈴はどうして門番をやってるの?
9.100名前が正体不明である程度の能力削除
かっこいい!
11.100名前が無い程度の能力削除
連続して「 を使い長い話をしながらも途中で区切り読みやすくする。
そういう使い方もあるのか、と言った感じでした。
話の美鈴は格好いいのにやっぱりこうなるのね・・・w
14.90名前が無い程度の能力削除
いいじゃないか
吸血鬼は寝床を守る為に強力な腹心を置くと言う
それがさくやとめーりんだとすれば彼女らの実力も…
22.70名前が無い程度の能力削除
伏線回収の話はよう!
33.90名前が無い程度の能力削除
美鈴とナズ、こんな組み合わせもいいなぁ。これを機に縁が生まれて、仲良くなるといい。