紅魔館にあるフランドール・スカーレットの部屋。地下に位置するけど、すごく綺麗に清掃されている部屋であるが、この日はどうしてか、荷物が色々と置かれている。どれもこれも包装紙で包まれていて、サイズもそれぞれ違っている。
「よし、これで準備は出来たかな、リトル?」
「はい。バッチリですよ、フランお嬢様」
フランと小悪魔はそれぞれ赤い帽子を被り、赤色の服を着ている。小悪魔の口許には白い髭を付けている。
「さぁ、今日は待ちに待ったクリスマス。今年はフランとリトルがサンタをやる係りになったのだから、気合を入れていくよ」
「はい! 頑張りましょう、フランお嬢様!」
今日は12月24日。幻想郷ではクリスマスの日でもある。紅魔館ではサンタ役はクジにて決める事なっている。そして、今年のサンタ役はフランと小悪魔と言う事になったのです。(ちなみに去年はここあが一人でやった)
「時にフランお嬢様。紅魔館の周る順路はもう決めているのですか?」
「大丈夫だ、問題ないよ。まずは妖精メイドが下宿している部屋から周り、次に門番の美鈴、メイド室で休んでいる咲夜、図書館にいるパチェとチビリトル、最後にお姉様の部屋に行くんだよ」
フランはこの日のために予め紅魔館を周って下準備をしていた。普段は白黒魔法使いの様に、その場の突撃タイプではなく、今回は念入りな準備する事にしたのだ。
「素晴らしいです、フランお嬢様。あとは皆さんのプレゼントですね」
フランの部屋に置かれていた包装紙で包まれている箱は、用意していたクリスマスプレゼントである。
「いっぱいありますね。どれが誰のかは分かるのですか?」
「今回の私に抜かりはないのさ。このクリスマスツリーを見るが良い」
フランの部屋に一際大きなクリスマスツリーが置いてあるが、少しだけ違いところがあった。
「しかし、相変わらず間抜けなツリーですね。クリスマスなのにどうして短冊を付けるのでしょうか?」
小悪魔は苦笑いをしながら言った。このクリスマスツリーは紅魔館の大広間に置いてあって、クリスマスプレゼントを短冊に書いて吊るしているのだ。七夕と一緒にするなんて和洋折衷している。
「お姉様が考えた事だからね。お姉様がサンタ役をする時、事前に知ってみんなから慕われたいらしいからね。そんな事をしたってカリスマが上がる訳無いのにね」
「フランお嬢様、レミリアお嬢様は本気でそれでカリスマが上がると信じているみたいですから、言ってはダメですよ」
二人とも、少し言いたい放題言っている様な気がしますが……
「それじゃあ、リトル。早速、出発だよ」
「はい!」
小悪魔はプレゼントを白い袋に入れていく。見た目からしてそんなに入らないと思われた袋であるが、どんどんプレゼントが中に入っていく。まるで未来のネコ型ロボットのポケットの様に……
プレゼントを全部入れ終わり、フランと小悪魔は早速クリスマスプレゼントを渡す為、部屋を出た。
妖精メイドが下宿している部屋に入ると、みんなはまだ起きていた。
「ど~も~! フランサンタとリトルサンタがクリスマスプレゼントを用意してきたよ!」
フランがみんなに呼び掛けると、子供の様に喜ぶ妖精メイド達。この部屋は新人研修の妖精メイド達の部屋である為、まだ子供の様な感じである。
フランと小悪魔はそれぞれ妖精メイド達にクリスマスプレゼントを配っていく。お菓子やオモチャなど、色々渡していく。
次にフランとリトルは上級とEX妖精メイドの部屋にやってくる。ここは既に消灯の時間になっているから全員寝ている。二段ベッドで寝ている妖精メイドの傍らには靴下がちゃんと用意されている。
「おぉ、流石年輩の妖精メイド。ちゃんと解っているみたいじゃない」
「そうですね。ここまで静かに寝ているなんて思っていませんでした」
妖精メイドは皆同じかと思っていたが、やはりずっと住んでいる妖精達は違うみたいだ。
「これでよしっと……フランお嬢様、プレゼントを入れ終わりました」
「それじゃあ、次は門番の所ね」
フランと小悪魔は紅魔館の外に出る。真っ暗な夜に雪が少し降り出している。
「う~…外はやっぱり寒いね」
「フランお嬢様、マフラーをどうぞ」
小悪魔はフランの首にマフラーを巻いてあげる。フランに風邪を引かせると、レミリアにどんなお仕置をされてしまうのか分からないからだ。
「美鈴は……よく寝られるね」
紅魔館の門前で美鈴は立ったまま寝ている。雪が頭に積もっている所から、随分前に寝ているみたいだ。寒い中で寝たら死ぬけど、美鈴は死なないから問題ないだろう。
「寝てたら門番の意味ないじゃない。まぁ、風邪を引かれても困るから、防寒着を用意してあげよう」
「そうですね。ついでに美鈴さんの周りだけ結界を張りまして、寒さを少しだけ凌げる様に密閉空間を作ってあげましょう」
「そうだ。練炭を使って、少しでも暖まる様にしよう」
「あっ、良いですね。いつも門番のお勤めご苦労様です」
フランと小悪魔は防寒着を着させて、小悪魔が美鈴の周りに結界を張り、フランが練炭に火を点ける。優しいね………………んっ? ちょっと待って下さい。練炭って……
「さぁ、次行ってみましょう!」
「はい!」
良い事をしたなと二人は嬉しそうに門を後にした。一応、美鈴のクリスマスプレゼントを置いていっているから、問題ないですか。
「ふ~、外は寒かったね……」
「はい。美鈴さん、喜んでくれますかね」
その前に死んでいなければ良いけど……
「さぁ、次は咲夜がいるメイド室だよ」
「と言うわけで、私達は今、咲夜さんが仮眠していますメイド室の前にいます」
小悪魔がどこかのアナウンサーみたいに実況する。咲夜には自分の部屋はあるけど、今夜一度仮眠を取ってから深夜のお仕事をする事になっている為、このメイド室にいるのです。
フランと小悪魔は咲夜が寝ているのかも知れないと思い、起こさない様にこっそりドアを開ける。部屋は咲夜や妖精メイドなどが休憩出来る様に小さな冷蔵庫と横になる為のベッドなどが置かれている。
咲夜はベッドの中ですやすやと寝ている。メイド服で寝ると皺になるから、ちゃんと寝間着で寝ているみたいだ。
「ぐっすり寝てるね。時間を操って仮眠は取らないのかな?」
「深夜勤の時は能力をあまり使わない様にしているみたいですよ。レミリアお嬢様の泣き声が聞こえた時に使うみたいですから」
「流石咲夜。瀟洒ね」
どこが?
「咲夜のクリスマスプレゼントはやっぱりこれだね。この間、チビリトルがどんな手を使ったのかよく分からないお姉様の等身大抱き枕」
袋の中から等身大レミリア抱き枕が出てきた。
「咲夜さん、これで何個目になるのでしょうか。レミリアお嬢様グッズ」
「もうかなり集まっていると思うよ。もう部屋中お姉様一色になっているんじゃない」
「あれ? でもこの間咲夜さんの部屋に行きましたら、それらが無くなっていましたよ。かなり綺麗に掃除されていましたし」
「騙されちゃダメだよ、リトル。咲夜ぐらいのメイド長なら、お姉様の部屋の近くとは別にもう一つ隠し部屋があるかもしれないよ」
正解である。咲夜の自室はレミリアの近くにあるが、実はもう一つ別の部屋が存在しているらしい……それを知る者は誰もいないからだ。
「咲夜、もう鼻血を出しながら寝ちゃダメだよ」
フランが咲夜の枕元に抱き枕を置いてあげると、いつの間にか抱き付きながら寝ている。どうやら、時間を止めたみたいだ。
「さぁ、襲われる前に退散しよう」
「は、はい!」
フランと小悪魔は慌ててメイド室を出る。咲夜は幸せそうな顔をしながら寝ている。
フランと小悪魔は図書館の扉を開ける。
「はぁ…はぁ…はぁ……と、図書館にやってきました……」
「け、結構…つ、疲れるお仕事だったのですね……」
「何をそんなに慌てて入って来ているのよ、貴女達」
すると、図書館の主であるパチュリーがやってきた。
「あれ、パチュリー様? もうお休みになられていたのでは?」
小悪魔がサンタの仕事をする前、パチュリーが自室で休むと言う連絡を受けていた。
「そうだったけど、何か眠れなくてね。本でも読んで眠気を誘いたかったのだけど、余計に眠れなくなってね。そしたら、貴女達がやってきたのよ」
「ダメだよ、パチェ。寝てないとプレゼント渡さないよ」
フランは頬を膨らませながら怒った。
「ごめんなさいね、妹様」
「冗談だよ、パチェ。はい、クリスマスプレゼント」
フランはパチュリーにクリスマスプレゼントを渡す。「ありがとう、妹様」
クリスマスプレゼントを貰ったパチュリーは少しだけ頬を赤く染めて微笑み、フランの頭を撫でてあげる。フランは頭を撫でられて喜んでいる。
「う~、パチュリー様……私も頑張っているのですよ」
それを見ていた小悪魔を少し涙目になって物欲しげに見つめる。
「分かっているわよ、こあ。貴女も頑張っているね」
パチュリーは小悪魔の頭を撫でてあげると、小悪魔は尻尾が振りながら嬉しそうに笑う。
「さぁ、次はチビリトルに渡しに行くよ!」
「はい!」
パチュリーに頭を撫でられて体力と気力が満タンになったフランと小悪魔。気合を入れてここあが寝ているだろう小悪魔の部屋に向かった。
小悪魔とここあは一緒の部屋でいつも一緒に寝ているのだ。だから、小悪魔の部屋に入ると、ベッドでここあが幸せそうに寝ている。
「意外に可愛い寝顔だね。リトルとどうやって寝ているの?」
「それは……ここあを抱き締めながら……」
言いながら顔を赤くして恥ずかしがる小悪魔。姉妹だから良いけど……
「確かチビリトルのプレゼントは……」
フランはここあがクリスマスプレゼントを書いた短冊を見る。
『お姉ちゃんの恥ずかしい写真』
「なっ!? こ、ここあ!? 何ですか、これは!?」
小悪魔は顔を真っ赤にして寝ているここあに詰め寄る。しかし、全く起きる気配は無かった。
「なるほど、流石チビリトルね。なかなかユニークなプレゼントを欲しがるとわね。だが、しかし! このサンタフランドール・スカーレットに渡せないクリスマスプレゼントはない!」
断言するフランは袋から少し平たい箱をここあの傍に置いてある靴下に入れてあげる。
「あ、あの……フランお嬢様? 一体、何の写真を入れたのですか?」
自分が恥ずかしい写真を撮られている事など、ここ数日は無かったはずだと小悪魔はこの企画から数日前の事を思い出すが、全く記憶に無かった。あの鴉天狗の射命丸文に撮られた覚えは無いはずだ。絶対にないと小悪魔は思っている。
「当然じゃない。鴉天狗じゃなくて咲夜に頼んで撮ってもらったのだから。いくらリトルでも時間を止められている時にシャッターを押されたら回避出来ないでしょう」
「なぁぁぁぁぁぁ~~!?」
ボンと顔から煙が噴出して、顔を真っ赤にする小悪魔。そう言えば、咲夜さんにどう言うわけか、たまに一緒にいるといつの間にか消えている事に小悪魔はレミリアお嬢様に呼ばれたのかと気にも留めなかったが、咲夜はシャッターチャンスが訪れた瞬間、文化帖の文の様なシャッターを押していたのだ。もっとも、どんな写真が撮られているのかは咲夜以外知らない。
「さぁ、いよいよ最後の関門だよ。行くよ、リトル!」
「は、はい~……」
元気良く小悪魔の部屋を出るフランと、涙目の小悪魔。
そして、最後であるレミリアの部屋の前にやってきた。
「ついに来たよ。最後の関門」
「はい。いよいよ来ましたね」
何とか元気を取り戻した小悪魔と、いよいよ最後の仕事となり気合を入れるフラン。
「それでは、お姉様の部屋に、突撃の禁忌『レーヴァテイン』!」
フランはレミリアの部屋のドアを思い切りレーヴァテインで吹き飛ばした。こんな事を知らなかった小悪魔はただ驚いて開いた口が塞がらない状態になっている。しかし、何故レーヴァテインを?
「いや~、最後だからやっぱりカッコよく決めて入ろうかなと思いまして」
やりたい放題ですね、フランさん……
「修理代、どうしましょう……」
小悪魔は別の意味で心配している。いや、違いますよね。レミリアの心配をしなさいよ。
レミリアの部屋はさっきのレーヴァテインで少し荒れてしまっている。そんな中でも何事も無かったかの様にベッドで寝ている紅魔館の主レミリア・スカーレット。
「もうお約束だね、お姉様」
「あははは……吸血鬼なのに寝るのが早いですね」
この惨状にも気付かずに寝ているレミリアにフランと小悪魔は苦笑いするしかなかった。これだけでカリスマゲージが下がっていく。
「そんなお姉様のクリスマスプレゼントは……えっ!?」
短冊を見たフランは驚いた。小悪魔もそれを見ると目が点になってしまった。
『身長や胸を大きくする薬』
「お、お姉様……」
「レミリアお嬢様……」
フランと小悪魔は寝ているレミリアに向かって涙を流す。自分の身体が成長しない事にやはり気にしていたみたいだ。
「なるほど、この小さい箱はお姉様のだったのか。てっきりお姉様は一番大きい箱だと思っていたのに」
フランは袋から小さい箱を靴下の中に入れる。一応、用意はしていたのか……
「さぁ、これで終了だね、リトル」
「はい、そうですね。お疲れ様です、フランお嬢様」
フランと小悪魔はそのままレミリアの部屋を立ち去っていった。どうでも良いけど、この部屋の惨状をそのままにしておくのですか?
フランの部屋に戻ったフランと小悪魔はサンタ服からいつもの服に着替えた。
「そう言えば、あの一番大きな箱はリトルだったの?」
「はい、そうです」
小悪魔は袋の中に入っていた大きな箱を取り出した。その箱を開けると、中には別の箱が入っていた。
「箱じゃない?」
「えへへ……これはですね」
小悪魔は中に入っていた箱を開けると、またしても別の箱が入っていた。それを開けると、また別の箱が出てくる。
「マトリョーシカか!?」
「一番大きな箱にしておけば、私のだと分かる様にしてみました」
「やるわね、リトル……それで本当のプレゼントは?」
「それは、ひ・み・つ・です」
そう言って小悪魔は最後に入っていたクリスマスプレゼントをフランに渡す。
「メリークリスマスです」
「……ありがとう、リトル」
フランはプレゼントを貰うと、箱の中を開ける。そこには白い砂が入っている砂時計である。サラサラと砂が下の器に落ちていく。
「これ……ずっと欲しかったんだ」
「そうだったのですか? それでは私はこれで失礼します」
「あぁ、リトル! せめて何か教えなさいよ!」
部屋を出ようとする小悪魔を呼び止めるフラン。すると、小悪魔は振り返って笑顔で言った。
「フランお嬢様のその砂時計も、とても綺麗ですね」
そう言って部屋を出ていった小悪魔。フランはただ呆然としているだけだった。
小悪魔は自分の部屋に戻って寝間着に着替えると、箱の中を開けて、それを机の上に置いた。サラサラと落ちる赤い砂は見る見る下に落ちていく。
「お揃いですね、フランお嬢様」
フランと同じ砂時計を欲しかった小悪魔は、フランのとは色違いの砂時計を買ったのだ。
「お休みなさい……」
ベッドの中で寝ているここあの隣で横になって、ここあを抱き締める小悪魔はそのまま眠る。
そして、いつの間にか元に戻っていたレミリアの部屋に砂時計を持ったフランがやってきて、レミリアの隣で横になった。
「メリークリスマス、お姉様」
フランはそう呟いて、ゆっくり眠っていった。
(了)
美鈴しんじゃうよぉぉ
まだあったんだね。美鈴虐めで笑いを取るの