「旅に出ます。探してください 青娥娘々
PS おやつは戸棚の奥にスライム饅頭とポーションがあるからね」
あーもうこの邪仙マジめんどくせー。
大祀廟にある居間にて、蘇我屠自古はその突拍子も無い内容の書置きを見て頭を抱えた。
ちらりと横を見ると、青娥の愛玩物であるキョンシーの宮古芳香が「青娥~、せーがぁ、どこいったー?」とぴょこぴょこ跳ねながらゴミ箱の中やちゃぶ台の下などを探し回っている。
「何でまぁ……はぁ……」
「あぁ、全くだ」
朝食時ということもあり青娥以外の皆が集まっているこの場。
屠自古の隣で書置きを覗き込んでいるのは神妙な面持ちをした物部布都である。
彼女は復活してからというものそれ以前と比べて頭がゆるくなった気がするが、こうして真面目な表情をしているときは頼もしく思えた。
「こんなに青色の強いおやつを用意するとは……」
ガクッと、屠自古はずっこけた。
前言撤回。やっぱ駄目だこいつ。
「ちげーよ!? 青娥殿が勝手に家出して探してくださいとか抜かしてるんだよ!? 探さないと何するかわかったもんじゃないし超メンドイじゃん!?」
「おいふぃ♪ おいふぃ♪」
「さっそく食べてるんじゃねーよ! 私にもおやつよこせってマズ!? ポーションマズッ!? つーかナニコレダメージ受けてる気がするんだけど!?」
危なかった。エリクサーならアンデッドの屠自古は即死である。
面白そうだからと変わったおやつばかり深く調べずに買ってくるのは、青娥の悪い癖の一つなのだ。
「ひょおふぁんふぁ。とふぃきょのふひょひょいこもはいわんふぇもむぁくぁりゅ(冗談だ。屠自古の言いたいことは言わんでもわかる)」
「口の中一杯に頬張って喋っても何言ってるかわかんねーぞ……。いいから飲み込んでから話せ」
「ごくんっ。本当に青娥殿の青が好きは困ったものだ。髪の色は青で服も青系だしな」
「だからそれはもういいっての!?」
「それゆえに髪が青く肌も青白い芳香の事を可愛がっているのかもしれぬ」
自分の名前を呼ばれた芳香が青娥の姿を探す事を一時やめ、布都の方をきょとんとした顔で見つめてくる。
「よーんーだー?」
「あぁ、青娥殿は青が本当に好きだなという話だ」
「いやだから違うって……」
「んー、私は好きじゃないのかー?」
「いや、芳香は髪は青いし、肌も多少血色はいいもののやはり死体ゆえか青白いから好きだと思うぞ。その赤い服も芳香の青が引き立つから着せてるんじゃじゃないのか?」
「よかったー」
「そうだなー」
屈託の無い笑みで笑いあう布都と芳香。
布都はお姉さんぶって芳香の頭をなでなで。
屠自古は二人の噛みあっているようで噛み合っていない妙なやりとりを見ていて頭が痛くなってきた。
こいつも昔は凄まじかったのになぁ、何でこんなことになったんだろうと悲しくなってきた。
「でも青娥いないぞ、どこいったー?」
「そうだ、その話なんだよ。芳香、ちょっといいか?」
屠自古は脳みそ腐ってる芳香に対し、丁寧に時間をかけて青娥が書置きを残していなくなった事を告げる。
芳香はその事実の意味を理解できないようで、首をかしげて暢気にしていた。
けれども次第に意味を理解してきたのか表情が曇り、戸惑いの色が混じり、しまいにはじんわりと涙が浮かんでくる。
「私……捨てられた…………せーがにすてられたの…………? やだぁ……せーがぁ、かえってきてよぉ…………やだぁぁぁぁ…………」
今にも泣き出しそうな芳香の頭を、心配そうな表情の布都はよしよしと撫でて慰める。
その様子を見て屠自古はちくりと胸が痛んだ。
青娥が大好きで無条件に信頼する芳香には彼女の突然の失踪は残酷すぎる事実だからだ。
「全く……青娥殿ときたら一体なんで芳香を放って家出なんか……」
「確かに……まるで本当の親子のように芳香を可愛がっていたのにな……」
「とにかくめんどくさい事この上ないしぶっちゃけ放っておきたいが、青娥殿を放置しておくと面倒な事態になることは目に見えているんだよなぁ……」
そこで屠自古は大きくため息を吐き、腕を組みながらう~むと頭を悩ませる。
「太子様、青娥殿がどこにいったかわかりませんか? 人の十の欲望を聞くことで過去と未来を見通すことが出来る能力に目覚められたはずですよね」
「いえ、青娥にはあまりこの力が効かないのです」
一度死んで仙人となった彼女は欲の種類と数が常人と異なる為、神子の能力が上手く働かないのだ。
「ただまぁ、青娥はご自身の過去について語ることは殆どありませんが、彼女の逸話によるとこのようなことは初めてではないようなのです。過去に家族を捨てて仙人になろうとしたという逸話が伝っています」
青娥はミステリアスな女を気取っているせいか、自分のことに関しては修行して仙人になった自分SGEEEの話以外殆どしない。
故に彼女の境遇について知るためには、様々な文献に伝わっている逸話を元に推測するしかない。
その中には彼女は結婚して子供を産んだことがあるというものがあった。
「けれど彼女は仙人への憧れ故に家族を捨てて家を抜け出したらしいです。もっとも書置きはせずに死んだと偽装してのことらしいですが」
その事実に一行は苦い顔になる。
目的の為にそれぞれの一族を様々な形で犠牲にした自分達が非難できることではないが、何不自由ない境遇にありながらそれを捨てたという彼女の価値観が理解できなかったのだ。
「いえ、待ってください。それにはひょっとしたら理由があるかもしれません」
「太子様?」
「そうですね、例えば――」
家族との間に何かあったとは考えられないだろうか?
例えば子供が病に倒れ、けれどもそれは当時不治の病で医者は匙を投げた。
そんな中青娥は自分の父が仙人の道を志した事を思い出すも、名家の夫人である彼女が家を抜け出し仙人になることなぞ許されるはずが無い。
そこで彼女は一縷の望みを託して自らの死を偽装して家の監視の目を抜け出した。そして仙人となって舞い戻り、その仙術で見事自分の子供を救うことに成功する。
けれどもそれでハッピーエンドというわけにはいかなかった。自分の為に仙人の術を用いた青娥は仙人達から良く思われなくなり、仙人達に軟禁されて修行のやり直しを要求され、子供とも離れ離れにさせられてしまう。
「そして彼女が戻ってきたときには不治の病を克服したはずの子供が風邪をこじらせて死んでしまっていたのです!」
「「な、なんだってー!!」」
驚愕する布都と芳香の前で更に彼女は続ける。
冷たくなってしまったわが子の遺体を抱きながら慟哭する青娥。
あぁ、何という悲劇。
そして青娥は邪法に手を出すようになり、死ぬことの無い芳香を溺愛するようになってしまったのではないか?
今の彼女は失踪して修行しなおす事でその時の悲劇を再現し、その辛い過去と向き合おうとしているのではないか?
この置手紙は彼女なりの心配しないでというメッセージなのではないか?
「そうだきっとそうに違いない!」
自分達は青娥の事を誤解していたのだ。
彼女はちょっぴり自分の欲望に忠実なだけで、根は物凄く母性本能溢れる純情お母さんだったのだ。
神子はその答えに至り、熱い涙を流す。
「すいませんでした青娥! 貴方のことを理解してあげられなかった! あぁ、我は何ていう事を!」
いや、まだだ。
まだ私には彼女に出来ることが残っている。
「青娥! 貴方は一人じゃない! 芳香は当然のことで布都も、屠自古も、私もいます! 貴方が過去を悔やむことがないように、私達が力になりましょう!」
「ねーよ」
――と、勝手に一人で暴走して一人で納得する神子ちゃんである。
彼女はその能力で人の本質を理解することが出来るためかあるいは生来の性格か、基本的に人の話を聞かないで自己完結しちゃうのだ。
そんな彼女をとりあえず放っておこうと屠自古はスルーを決め込んだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ふふふ、芳香ったら今頃大慌てね」
いしのなかにいるのは霍青娥。
ナチュラルボーンで悪堕ちしているような困ったちゃんである。
余談だが本人の前でカクセイガーとスーパーロボットっぽく呼ぶとマジ泣きする。
「ひょっとしたら泣いちゃってるかもしれないわー。せーがぁ、せーがぁって私の名前を呼びながらねぇ。あー、芳香ったら可愛いっ」
彼女は今、大祀廟の近くに予め用意した中が空洞の大岩の中に、その壁抜けの能力で中に入っている。
昨日芳香と共に見た母を訪ねて三千里。
離れ離れになった肉親が再会するのはやっぱり感動的だなぁと涙した青娥。
実の子のように可愛がっている芳香にもやらせてみたい。だからさっそく実行してみましょうそうしましょうというわけである。
だが流石にファミコン並みの脳みその芳香にあまり期待するのは少し酷なので、難易度は簡単なレベルに留めた。
いわばこれははじめてのおつかいみたいなものなのだ。
自分のことを必死に探す芳香、いなくなって初めてわかるその大切さ、ボロボロになっても探し続ける芳香、そして感動の再会をする二人はより絆を深めるのであった。
青娥は自らの計画ににやりと邪仙スマイルを浮かべる。
「そうよねそれはそうよねー。大切な人がいきなり居なくなったら誰だって不安になるに違いないしねー。私だってお父ちゃんがいなくなった時は大変だったしー」
他に何もない石の中ゆえか、思考以外にすることがない。
そのためであろう。青娥は久しぶりに自らの半生を回想することにした。
全ての始まりであるあの日を、自らのルーツとなったあの日を。
『青娥、お父ちゃんはBIGな仙人になってくる!』
『へ? いきなりどうしたのお父ちゃん?』
『そーゆーわけだからちょっくら仙人に弟子入りしてくるんで後のことはヨロシク! 青娥は良い子だから俺がいなくても大丈夫だよな?』
『ちょっ!? ちょっと待ってよお父ちゃん!? 仙人!? 弟子入り!? いきなり何!? 何それ仙人ものの絵画や小説の読みすぎなんじゃないの!?』
『HAHAHA、何を言ってるんだ青娥。お父ちゃんは漫画と現実の区別ぐらいはちゃんとしてるぞ』
『でもお父ちゃんってば最近では評事の仕事をやめてから働きもせず変な絵画ばっか描いてるじゃん! お願いだから働いてよ!』
『いやそうはいうがな、青娥。実は今のうちの生活費は俺の描いた薄い書物で賄われているんだ。こないだ描いた女仙の何仙姑ちゃんが房中術やら一時的な半陰陽やらで女体化した藍采和ちゃんをチョメチョメする絵画なんてメッチャ売れてたんだぞ』
『お父ちゃんが働いていた頃よりもうちが裕福なのはそんな理由があったの!?』
『つーわけで俺は仙人になる。そんで仙術使ってハーレム王に俺はなる。アデュー♪』
『お父ちゃんのバカー!』
――こうして父が居なくなってからしばらく後。
青娥が父の書庫を整理している時のこと。大掃除中に本を読んでしまうのはどの時代も同じである。
『この絵画おもれー! 私も仙人になるー! 何仙姑様みたいな女仙になって百合ハーレム作るのー!』
何だかんだでファザコンの気がある青娥。趣味は親譲り。
あの父あってこの子ありだった。
その後立派な仙人絵画(主に成年向け)の作家としてその名を轟かせた彼女も、その整った容姿と外面の良さ故に行き遅れにならずに名家に玉の輿として嫁ぐことになった。
だがそんな彼女は結婚後も仙人への夢を捨てきれず、仙術を独学で学んでいった。
主に成年向け絵画で。
それから数年後のことだった。
彼女が子供を産み、それを育んでいた頃――。
『母様の変態! 引き篭もってこんな絵画描いてるなんて!』
『ちっ、違うのよ! これは世の中で認められている高尚な創作行為なの! 貴方が誤解しているような下種な行為じゃないのよ!』
『どこがだぁっ! 女仙が陰陽術で一時的に生やした半陰陽っぽい何かで彼女を慕ってくる女の子達をズッコンバッコンしまくる絵画なんて変態以外の何物でもないだろーが! しかもこの漫画の主人公の女仙、何処からどう見てもアンタがモデルじゃねーかよオカン!』
『でっ、でもこの薄い書物って結構売れてるのよ……』
『知ってるよ! 友達の家に全巻揃ってたんだよ! そこで知ったんだよ! わかるか? 友達が自分の母親の描いた変態絵画を! ましてや母親が主人公のモデルの変態絵画を持っていた時の気持ちが!』
『え~と、なんだったら貴方を主人公のモデルにした番外編を描いてあげてもいいんだけど……』
『黙れ変態!』
その手の趣味は父から青娥へは受け継がれたものの、残念なことに青娥から子へと受け継がれることは無かったようだ。
余談だが、この時青娥の子が何よりも許せなかったのは青娥の書いた薄い書物に陰陽術で一時的に生やした半陰陽っぽい何かが出ていたことである。
フ○○リは邪道!
そしてこれ以来、青娥の親子仲は最悪の一言となる。
彼女は芳香に対する態度に見て取れるように愛情表現が非常に重く、やたらベタつく。
更に自分が愛を与えているからには相手も自分に尽くしてくれて当然、愛してくれて当然という認識。
だが、あの一件以来彼女が愛する子供から愛情を返してもらうことはなくなった。
これがどれほどのストレスになったか想像に難くない。
そんな彼女が選んだ起死回生の策が家出である。
しかもただの家出ではない、一度自分が死んだように見せかけるのだ。
『ふふふ、こうすることでうちの子も、何だかんだで慕っていたお母ちゃんがいなくなって初めてその大切さがわかるようになるわぁ♪ ましてや自分の母が不老長寿の美しい女仙となって帰ってくるなんて、さぞや嬉しいことでしょうねぇ♪』
更にこれならばお父ちゃんを探す口実にもなる。
これぞ一石二鳥な完璧な策だとカクセイガーさんにんまりである。
そういうわけで早速死体を偽装することにした。
だが今は名家に嫁いだため何不自由ない暮らしをしているものの、その出自は村娘Aである。
やはり幼い頃身につけた金銭感覚というものは変わりづらく、貧乏性ゆえか尸解仙になる際はもっとも安価で最も位の低い竹の棒を使った。
まぁいっか、かの二次元において百年先を生きている国こと憧れの倭の国では松竹梅で真ん中らしいし、と自分を無理矢理納得させることにする。
何はともあれ、自分の死体を見つけた際の我が子の悲しみっぷりが楽しみで楽しみで仕方が無かった。
ひょっとしたら自分の死体をキョンシーにしてしまうかもしれないなー。
期待に胸を躍らせながら、様子を伺うことにした。
『そぉい!』
『ちょっ、何のためらいもなく埋葬しやがった!?』
青娥、拗ねる。
それからというもの、我が子を見返すために必死になって努力し見事仙人になったというわけである。
これが青娥が仙人の殆ど居ない、紳士と淑女の国家こと憧れの倭の国でU-1するために来る前の一部始終であった。
余談だが修行中に父と再会することができたが、彼はBIGになるどころかPIGになっていた。『何仙姑様ハァハァ』な萌え豚である。
けれども満更では無さそうだったとさ。
「大丈夫よね? 大丈夫よね? 今度は死んだフリしての蒸発じゃないから普通に心配して探してくれるわよね? 何よりも私ってば芳香に嫌われてないしそれどころか凄く好かれてるし、すぐ近くにいるから大丈夫よね? それにひょっとしたら豊聡耳様達も意外と私に好意を持っていて探すの手伝ってくれてるかも。うふふっ、もしそうならあの子達も可愛がってあげようかしらぁ……」
期待に胸を膨らませ石の中で一時間。
そろそろ早ければ見つかってもいいころだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
≪おー、どうかしたのミンナ≫
≪あれ? ヨッシーってば元気ないね、どしたのー?≫
≪カクセイガーと喧嘩でもした? 何があったんなら相談にのるよー≫
ふよふよと漂ってきた黒い球体のような形の馴れ馴れしい霊達は、青娥の使役するヤンシャオグイABC。
ヤンシャオグイとは流産した胎児、殺害された赤ん坊、埋葬された子供の遺骨などを利用して使役された霊を示す。
そんな曰くつきの悪霊達でさえも、長い間現世にいるとそれなりに暢気になるものである。
≪カクセイガーってば悪霊使い荒いしねー。てきとーでいいんだよてきとーで。ヨッシー、そんなに頑張ると体壊すよー≫
≪そのくせあの人ってば変に抜けてるからうちらがいないとやってけねーしなー≫
ヤンシャオグイ達は振り回される芳香に対して同情の念を抱いているようだ。
何だかんだで芳香よりも使えている期間が長いためか、姉貴分を気取っているのであろう。
こいつらとは今までこうして接することがあまり無かったが、これからはもう少し仲良くしてもいいのかもしれないと屠自古は思った。
「いや、そういうわけではないのだヤンシャオグイ達よ。青娥がこの書置きを残して家出したらしく、その居場所がわからなくて困っているのだ」
≪≪≪ほっときなよ~。どうせお腹が空いたら帰ってくるって≫≫≫
ものの見事に三匹の声がハモる。
「自分達の主人相手に酷くないかお前等? 腐っても主人だぞ」
「あれ? せーがってくさってるのか?」
「いや芳香、そういう意味じゃないから」
≪ん~、探せとは言われてもね~。ウチ等今日はシフトでお休みだしね≫
≪休日出勤手当出る?≫
どうやらバイトで雇われていたようである。
折角その出自によるおどろおどろしい逸話があるにもかかわらず、勤務形態が今風だと台無しにも程がある。
≪ウチらただでさえもお給料少ないしね~≫
≪でも可愛い女の子相手にスペカにかこつけて赤ちゃんプレイ出来るのはヤンシャオグイの役得よね。あー、チルノちゃん妊娠させたいわー≫
≪このロリコンめー。でもチルノちゃんいいよね~。幻想郷ってその辺に幼女転がってるからサイコーよね~≫
≪お前はどうなん? ヤンシャオグイB≫
≪アタシは響子ちゃん孕ませたいなー。ほら、響子ちゃんって幽々白書の垂金さんみたいな人に攫われて見世物か○○(※全年齢の場において不適切な発言のため検閲されました)にされそうな薄幸っぽさない?≫
≪あーわかるわかる。あの子ってば今の時代に外の世界とか行ったらまずヤバイよねー。変態成金の玩具になりそうだし放り込みたくなるよねー。同じ理由で小傘ちゃんなんかもいいね~≫
そんなことをやったら聖辺りにミンチにされて「ここには人間はいなかった、一人もな」とか言われるであろう。
屠自古は今日何度目かのため息を吐いた。
うん、こいつらやっぱり根は悪霊である。
エロゲーの選択枝ではまず中に出すような孕ませ趣味の腹ボテ属性だ。
どうやらいくら同情せざるを得ない可哀想な水子霊達とはいえ、長い間現世に留まると余計な知恵と欲望をつける。
このようにヤンシャオグイは三年以上使役すると悪霊化するので早めに成仏させるように注意すべきである。
≪ところでヤンシャオグイCはどうなのさ?≫
≪ウチはフトちゃんかなー。ねーフトちゃん≫
「ん? 我に何か用か?」
意味がよくわかっていないようできょとんとしている。
それを見てヤンシャオグイCは馴れ馴れしく彼女の周囲をふよふよと浮く。
≪そーそー、こんな子相手にお菓子で釣って無知シチュでにんっしんとかたまんねー。ねーフトちゃ――≫
「オーケー殺ってやんよ」
ヤンシャオグイCの背後には拳を鳴らす屠自古の姿。
どうやら調子に乗りすぎたようだ、雷が落ちてブチ切れ金剛の屠自古さんは物凄くいい笑顔である。
≪ちょっ、やめっ水子虐待反対! すいませんまじで謝りますごめんなさいやめ――≫
ガスガスガスガスドガドガゲシゲシゲシ――。
アーメン。
ヤンシャオグイABはマウントポジションでの肘の連打を食らい続けている友の冥福を祈った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そわそわしながら二時間経過。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あの後布都が「我に良い策がある」とどや顔でのたまってきたので、彼女達はのんびりとスライム達を虐殺しながらそれを静観するようにした。
「ところでお前等一体いくつスライム肉まんを食べてるんだよ……。どれだけ経験値とれば気が済むんだ?」
「別によいではないか屠自古よ。だが確かに食べ過ぎたせいか少し飽きが来たな。ところで太子様は何故さっきから遠慮なさっているのです?」
「いえ、私……中○産の食品はちょっと……」
二行でわかる神子が体を壊した経緯。
布都「太子様、ついに不老不死の薬(※○国産)が大陸の方から届きました!(どやぁ)」
神子「のむー♪」
「いやだがしかし……毒をも食らう覚悟こそが人の上に経つものには必要なのだという言葉もありますし……。一つぐらいは食べても……」
「何もバブルスライムを食べるわけじゃないんだしそこまで覚悟しなくても……てかアンタ等普通に中○の人達に失礼だろ、そんなの気にしてたら何も食べらんねーよ」
「ん? 裏に何か書いておるな。何々『スライム肉まんは8個以上食べるとお腹の中でキングスライムに合体します。お腹が破裂して死ぬ』」
固まった布都の手からぽてりとスライム肉まんが落ちた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
まだかな、まだかなと三時間経過。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「太子様、我は死ぬのか……死んでしまうのか……?」
不安のあまりその大きな瞳から雫のような涙を零してめそめそと泣く布都。
そんな彼女を芳香が慰める中、ヤンシャオグイ達がその周囲で彼女をからかっている。
≪お腹が膨らむのか~。孕むみたいな感じなのかな?≫
≪いいね~フトちゃんの腹ボテ楽しみ~♪ そういえば孕むっていえばミコチンなんかに孕んでもらってもいいかな~って思ってんだよね~。聖人の子宮とかすっげぇ居心地良さそうだし~。ねーミコチン孕んでくんね?≫
「ニフラム」
≪ぎゃーす≫
≪ヤンシャオグイCィィィ!?≫
浄化呪文を受けてシュワシュワと粒子状にその姿が霞んでゆくヤンシャオグイC。
あー一日一善。
現世に彷徨う水子の霊を成仏させるなんて良いことしましたー、まさに聖人日和デスネー。
神子はものっそい晴れ晴れとした顔だ。
≪やべぇ、三途の川が見えてきやがった……へへっ、ウチも年貢の納め時かぁ……。でもまぁこれでウチの本当のお母さんにも会えるんだな……ん? 三途の川の向こうで手を振ってる人がそうなんだ……って母!? 何かすっげぇマッチョなんだけどウチの母ちゃん!? ニューハーフなのウチの母ちゃん!? 何!? コイツ一体どういう経緯で妊娠したの? 卵子どこいった!?≫
なにやら壮絶な出生の秘密があるようだ。随分とショックを受けているようである。
≪……ねぇミコチン、ウチが成仏して消えちゃう前に、最期のお願い聞いてもらってもいい?≫
「駄目です」
≪ウチね、ミコチンのねっ≫
「いや聞けよ」
≪ウチ……今度生まれてきたら……ミコチンの子供になりたい…………≫
「お願いだからマジでヤメテ!?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
もうそろそろいい頃合よね、さぁかもーんと五時間経過。
おなかすいたなぁ、と六時間経過。
トイレ行きたいなぁ、と七時間経過。
――八時間経過。
――九時間経過。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「たびにでます みやこよしか
PZ、おやつはおいしかった ごちそうさま」
「できたー!」
「芳香凄いな! これでいつでも家出出来るぞ!」
「うん!」
「でもしちゃあ駄目だからな! 我との約束だぞ!」
「うんっ!」
おー、よしかよしよし。
あの裏面に書かれたことは青娥の悪戯だと屠自古が宥めたためか不安から解消された布都。
今の彼女はかいぐりかいぐりと、いっぱいに芳香を撫でる。
どうやら字を教えていたようだ。もっとも芳香のゾンビ脳では多分5歩程度で忘れるであろうが。
「……数時間かけて何してたんだお前」
「芳香が青娥殿が家出して寂しいと言ってきたのでな、だったらいっそ芳香も家出するというのはどうかなと思ったのだ(どやぁ)。こうすれば青娥殿も心配のあまりすぐに駆け寄ってくるであろう。どうだ、完璧な策であろう(どやぁ)」
「それ本末転倒だろーが」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
――――――――。
――――――――。
――――――――。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「何で来てくれないのよぉ!」
「お、結局帰ってきたか」
十時間が経過したころの事だった。
とうとう耐えられなくなった青娥は石の中から抜けて、ズカズカと文句を言いに飛び出してきた。
すぐに見つけてくれると思っていたカクセイガーさん涙目である。
「もうこうなったら本気で家出してやるんだから……」
「芳香が可哀想だからやめろ」
「私のことは誰も心配してくれないんだ~。お母さんの味方なんて誰もいないんだ~」
いい年こいて拗ねるカクセイガーさん。
なにやら過去の傷を抉ったらしい。この邪仙、無下に扱われると意外と打たれ弱い。
愚痴愚痴と負のオーラを醸していじけている。
呆れ顔をしながら屠自古は「めんどくさい事この上ね~……こいつひょっとして自分で家族を捨てたんじゃなくて向こうから愛想を尽かされただけなんじゃねーか」と知らず知らずのうちに事実へと辿り着く。
「あ、青娥だー! せーがー! 聞―いーてー!」
青娥に救いがあるとすれば、彼女の姿を見かけた芳香がすぐさまその下にやってきて、主の愛をねだっていたということだった。
「せーがー! 家出するなら今度は私も一緒につれてってー! 私も一緒に家出するー! ほら私も手紙書いたー! だから今度は私も一緒だぞー!」
「芳香……よしかぁぁぁぁぁっ!」
「せ~がぁぁぁ~」
芳香に抱きついておいおいと泣き崩れる青娥。
久しぶりの主人の感触に芳香はえへ~とご満悦の様子だ。
「ちょっと待つのだ芳香よ!? お主は我に家出しないと約束したではないか?」
けれど流石は芳香のゾンビ脳。
先ほど芳香と家出をしないという約束をすっかり忘れられた布都は眉尻を下げる。
「そうだったー! 私家出しないって約束したー! どうしよ?」
「ん~……そだ! だったら布都ちゃんも一緒に家出すればいいんじゃない?」
「「なるほどー!」」
「お前等深く考えずにノリで行動するのやめろ」
何だかんだで結果オーライで頬の緩みが抑えきれない青娥。
更に彼女の元に神妙な顔をした神子が歩み寄り、その手を取る。
「青娥、貴方も辛かったのですね」
「へ?」
「貴方の受けた苦しみ、その辛さはよくわかりました。ですが、ですが貴方はもう一人じゃない。私達は貴方の味方ですからね」
「え? え?」
「味方ですからね」
「え……え~と……え、えぇ! わかったわ!」
わかってないが、取り敢えずわかった気をする青娥であった。
「まぁこれで一件落着か。ほら、お前達茶番はそれぐらいにして夕餉が出来たから座れ」
そこで皆腹の虫がきゅるると鳴る。
空腹には勝てないようで、素直に食卓を囲むことになった。
「しかし他に適任がいないとはいえ、何故私が下女のような真似をしなきゃならないんだよ……我々も早く他の勢力みたいに下働きが欲しい……」
「でも私は屠自古のごはん好きだぞー!」
「我もだー! 屠自古の料理は美味いぞ!」
「あれだけ食べたのにまだ食べる気ですか……」
「私としては塩味が少しキツイと思うわ。私達って広義ではアンデッドだから少しは気を使いなさいよ」
「この姑が……お前が深く考えずにポーションなんておやつにするせいでこっちは死に掛けたんだぞ……?」
ぴょこぴょこ跳ねてはしゃぐ芳香、気の早いことに箸を持って待つ布都、食欲コンビに呆れつつも驚嘆する神子、眉を顰めながら愚痴愚痴と小言を言う青娥。
そんな彼女達に屠自古はご飯をよそう。
様々な理由により家族を捨てた者達による家族ごっこ。
いつまで続くか定かでは無いそれだが、今のところ当人達は満更でもないようであった。
「ところでヤンシャオグイの数が足りないんだけどどうしたの?」
≪ヤンシャオグイCは……ヤンシャオグイCはぁ……。うぅっ、ヤンシャオグイC。いい子だったのに……。≫
≪泣くなヤンシャオグイB。ヤンシャオグイCは死んだんじゃない、成仏したヤンシャオグイCはどこか別の場所で産まれ変われるんだ。だからアタシ達は笑顔で祝福してあげなきゃだめなんだよ≫
≪……そうだね、そうだよねっ。新しい命として産まれかわることを喜ばないと駄目だよねっ。ヤンシャオグイCは導かれたんだ、輪姦の理に≫
「ニフラム」
≪≪うぼぁー≫≫
ドタバタ感があって面白かったです
イカれたノリとテンションは嫌いじゃないのでこの点数で。
とても下ネタのノリが良くておもしろかったです
ぶっ飛んだネタのオンパレードに笑わせていただきました。
よく分かりませんが、とりあえず誤字発見したので報告を。
>> そんなことをやったら聖辺りにミンチにされて「ここには人間はいなかった、一人もな」とか言わるであろう。
言われる、のれが抜けてます
こんな神霊廟チームは今日も平和ですね
あーでもCの気持ちわかるわーすげーわかる ニャンニャンと息子の確執も最高でしたw