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うみょんげ! 最終話「半熟剣士と地上の兎」

2011/12/22 21:42:12
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<注意事項>
 妖夢×鈴仙長編です。これで完結。
 うどんげっしょー準拠ぐらいのゆるい気持ちでお楽しみください。

<各話リンク>
 第1話「半人半霊、半熟者」(作品集116)
 第2話「あの月のこちらがわ」(作品集121)
 第3話「今夜月の見える庭で」(作品集124)
 第4話「儚い月の残照」(作品集128)
 第5話「君に降る雨」(作品集130)
 第6話「月からきたもの」(作品集132)
 第7話「月下白刃」(作品集133)
 第8話「永遠エスケープ」(作品集137)
 第9話「黄昏と月の迷路」(作品集143)
 第10話「穢れ」(作品集149)
 第11話「さよなら」(作品集155)
 最終話「半熟剣士と地上の兎」(ここ)









 月の都、綿月邸。
 その奥の部屋に、博麗霊夢と八雲紫は囚われていた。

「……今度ばっかりは、年貢の納め時かしらねえ」

 溜息混じりに、霊夢はそう呟く。フェムトファイバーとかいう糸で縛られた両手両足は動かせず、隣では紫が抜け殻のように同じ姿勢で呆然としている。
 ――あの場所で、半狂乱になってから、紫はずっとこうだ。
 紫が月にこだわり続けていたのは、ただ月にあると信じていた何かを探していたから。
 そして、それが存在しないと解った今、紫はただ自失してしまっている。
 紫の力でこの場から逃れることも、この状況では出来ないだろう。さて、月の都を脅迫したテロリストに与えられる罪はどんなものか。

「地上の民は、地上で暮らすこと自体が罰だって言ってたけど……追い返されるだけじゃ済まないわよねえ、さすがに」

 何しろ紫の月侵攻は三度目だ。仏の顔も何とやら。霊夢も前回は綿月依姫の嫌疑を晴らしたこともあって穏便に帰して貰えたが、今回もそうなるとは限らない。
 露骨に溜息をついてみせても、紫はただ虚空を見つめてうなだれたまま、微動だにしない。
 ――いや、これもあるいは、豊姫を油断させるためのポーズか?
 紫ならやりかねないが、ともかく霊夢にできるのは、ただ溜息をつくことだけだ。

「ちょっと紫、聞いてるの? 殺されたらあんたの式神のところに化けて出るわよ」
「殺しはしませんよ」

 声。霊夢は顔を上げる。扉を開け、豊姫が部屋に入ってこようとしていた。

「ここで貴方たちを殺しては、月の都に穢れがまき散らされるし。もちろん、そうならないように殺す手段もあるけど――誘拐未遂にそこまで厳しく当たることも無いでしょう」
「……誘拐未遂、ね」

 紫は、月の都にいると彼女が信じていた何者かを連れ戻そうとしていた。嫦娥、と呼ばれたあの少女を、紫はその誰かだと思っていたのだろう。だが本人を前にして別人であることに気付き、探し人が月に居ないことを悟った。おそらくは、そういう話だ。
 紫のやろうとしていたは、侵略でもテロでもない。なるほど、確かに誘拐未遂である。

「もちろん、ただで許すわけでもないけれどね」

 にんまりと、毒気のない笑みを浮かべて、豊姫は扇子を広げて笑う。
 その仕草はどこか、紫や幽々子のそれに似ていた。
 ――依姫も強かったが、この姉も得体が知れない、と霊夢はぼんやり思った。

「今度は何をすればいいわけ?」
「そうね――」

 豊姫はぱちんと扇子を閉じて、俯いた紫に歩み寄る。

「とりあえず、八雲紫。貴方には今後、半永久的な監視をつけさせて貰うわ。これは最後通牒だと思って頂戴。次、この月に対しておかしなことを企てたら、去年貴方の差し向けた鴉と同じ目に遭わせるから」

 紫は答えない。豊姫は小さく鼻を鳴らして、それから霊夢の方を振り返る。

「さて――博麗霊夢。貴方は八意様のことをご存じなのよね?」
「八意永琳のことなら、去年話したじゃない」

 前に月に囚われたときも、永琳について綿月姉妹に聞かれたのを思い出す。
 といっても、霊夢は永遠亭とはあまり親交が無いので、大した話は出来なかったが。

「もう話すことなんて無いわよ」
「ええ、無くて結構。――でも、八意様の居場所はご存じなのでしょう?」

 霊夢は目を見開く。豊姫は独り言のように、「うちにも一匹、八意様に会った兎がいるんだけど、どうも住所までは知らないみたいでねえ」と苦笑した。

「まさか」
「そのまさかですわ」

 満面の笑みを浮かべて、豊姫は霊夢の顔を覗き込んだ。

「私を、八意様のところまで案内すること。それが貴方たちを解放する条件よ」













うみょんげ!

最終話「半熟剣士と地上の兎」



















      1


 五つの光が、夜空に白い軌跡を描いて昇っていく。
 空から落ちてくる流れ星とは反対の、地上から空へ消えていく光。遠く遠く、やがて霞んでいく光は、まるで思い出みたいだ、と妖夢は思った。
 いつか、あの遠ざかっていく光のように、彼女のことも遠い思い出になるのだろうか。
 思い出すことも稀になるほどの、忘却の彼方に失われてしまうのだろうか。
 ――嫌だ。忘れたくない。叫び出したくなって、妖夢は首を振る。
 ああ、だけど、鈴仙は忘れるのだ。自分のことも、地上のことも。
 それならば――きっと自分も、忘れてしまうべきなのだろう。
 過ぎ去ってしまえば、何もかも流れ星のように、一瞬の煌めきでしかなかったのだ。
 鈴仙と出会って、隣を歩いて、言葉を交わして、友達になった時間も。
 鈴仙を守りたいと、そう誓った想いも、何もかも――いずれ記憶に埋もれていく。
 そうでなければ、いけないのだ。

「……れい、――」

 名前を呼びそうになって、妖夢はぎゅっと口をつぐんだ。――奥歯を噛みしめていないと、こみ上げてくるものがあふれ出してしまいそうだった。あふれ出してしまったら、もう止められないということを、理解していた。
 瞼を閉じれば、最後に見た彼女の顔が浮かぶ。
 あの半透明の布を被せられて、表情を失った鈴仙の顔。――いや、その直前。
 何事かを言いかけた、こちらを見つめた、鈴仙の――。

「ありがとう。最後に見送りに来てくれて」

 不意に声を掛けられて、妖夢は顔を上げた。八意永琳が、自分を見下ろして微笑んでいた。

「……そして、ありがとう。あの子の友達になってくれて」
「――――」
「できるなら、ずっと貴方に、鈴仙の友達でいてほしかった。……貴方のことで、楽しそうに笑っている鈴仙を、ずっと見ていたかった。――ありがとう。あの子に、心からの笑顔をくれて。あの子に、かけがえのない時間をくれて。……本当に、ありがとう」

 妖夢の肩を叩いて、永琳はそう言った。笑顔で。穏やかに、笑って。
 それを見てしまったら――こみ上げていたものは、急にしぼんでしまって。
 ……そうだ。自分よりもずっと、永琳たちの方が、鈴仙と永い時間を過ごしていた。
 それに比べたら――自分は。

「永琳。戻りましょう」

 蓬莱山輝夜が、永琳にそう声を掛けた。永琳は振り返って、「ええ」と頷いた。
 輝夜は永琳の肩越しに、妖夢を見つめて――どこか申し訳なさそうに笑った。

「私からも、あの子の家族として、感謝するわ。ありがとうね」
「……いえ、そんな」

 首を振って、妖夢はぎゅっと拳を握りしめた。
 ――もう、自分がここにいる意味は無いだろう。そう、思った。
 鈴仙はもう、いないのだ。――きっともう、ここに来ることも、ないだろう。
 そして自分は、いつもの毎日に戻るのだ。白玉楼の従者としての毎日に。鈴仙と友達になる前の、変わり映えのしない日々に。――あの夏の日からの刹那の時間は、うたかたの夢として。

「それじゃあ……私は、これで、失礼します」

 永琳と輝夜にそう頭を下げて、妖夢は踵を返した。
 ふたりがどんな表情で自分を見送っているのかは、もう解らなかった。
 そして、その場から逃げ出すように、全てを振り切ろうとするように、妖夢は走り出す。
 血がにじむほどに唇を噛んで。叫び出したくなるのをぐっと飲みこんで。
 竹林の闇の中、草に足を取られながら、妖夢はただ、がむしゃらに走り続けた。


      ◇


 夜の竹林を、一匹のイナバが駆けていく。
 その口にくわえられたのは、くしゃくしゃになった一通の封筒。

『いいかい? あのヘタレがこのまま帰ろうとしたら――』

 それは、自分たちのリーダーである因幡てゐから与えられた指令だった。
 てゐの指示、そして――仲間のため。気ままなイナバも、たまには真剣になる。
 竹林の出口近くまで辿り着き、イナバは足を止めて、駆けてきた道を振り返った。
 このあたりで待ち構えろ、という指示だったので、そのままぺたんと座り込む。
 ……しかし、じっとしていられないのがイナバである。
 くわえていた封筒をその場に落として、うろうろと周囲を跳び回る。待っているだけというのは思ったより退屈だ。秘密の指令だから仲間も居ないし――。
 ――近くで、草の音。ぴんと耳を逆立てて、イナバはきょろきょろと周囲を見回す。
 ざざ、ざざ、と風に揺れる竹林。――その暗闇から、ぼんやりとしか光が浮かび上がって、イナバは全身の毛を逆立たせて飛び上がった。

「あらあら、あの兎さんじゃない。そんなに驚くことないじゃない~」

 声。ぼんやりとした光とともに現れた姿に、イナバは目をしばたたかせる。
 それは先日、樹の枝の上に置いていかれたとき、自分を助け――もとい、食べようとした、あの亡霊だった。再びイナバは耳を逆立たせて後じさる。

「大丈夫よ~。今は取って食ったりしないから~」

 ほわほわと剣呑なことを口にして、その亡霊は笑った。イナバはたじろぎ震える。

 ――食べないでー。

 つぶらな瞳でそう訴えかけるイナバに、その亡霊は小さく肩を竦めて。
 そして、後ろ手に持っていたものを、こちらに差し出した。

「そうだ、貴方がこれを預かってくれないかしら~?」

 そんなことを言いつつ、亡霊は有無を言わさずに、それをイナバに被せる。
 それの下から顔を出したイナバに、亡霊は少し困ったように笑った。

「私が届けるのもどうかと思うしね~。あの子が自分で、決断しないといけないことだから」

 亡霊の言葉の意味は、イナバにはよく解らない。
 だけどその笑顔は、なんだか――自分に指示を出したときの、てゐの笑顔によく似ていた。


      ◇


「あら、てゐは?」

 永遠亭の玄関で、てゐの姿が見当たらないことに気付き、永琳は視線を彷徨わせた。

「そういえば居ないわね。どこ行ったのかしら?」

 輝夜も首を傾げる。鈴仙を見送りに出ていたときは、確かに居たはずだったが――。

「まあ、まさか鈴仙を追いかけていったわけでもないでしょうし、そのへんにいるでしょ」
「……そうね」

 輝夜の言葉に頷いて、永琳は廊下の窓から夜空を見上げた。もう、依姫たちの描く軌跡は闇の中に溶けて消えてしまって、見えるのはただ静寂の竹林だけだ。
 溜息をかみ殺し、永琳は首を小さく振る。そして振り返ると、輝夜がこちらを見上げていた。

「永琳」
「なに? 輝夜」
「……お疲れ様。もう、我慢しなくていいのよ」

 永琳の頬に手を伸ばして、輝夜は優しく微笑んで、そう言った。
 ――苦笑して、永琳はその手に自分の手を重ねて、輝夜と額を重ねる。

「私が、何を我慢してるっていうの?」
「泣くのを」
「子供じゃないわ。鈴仙がいなくなるぐらいで泣かないわよ」
「本当に?」
「ええ、本当に」
「――じゃあ、もし私がいなくなっても、永琳は泣かない?」

 はっと、永琳は輝夜の顔を見つめた。輝夜はどこか寂しげに笑って、それから頬に触れていた手を、永琳の背中に回して――その背中をそっとさすった。

「輝夜」
「冗談よ。私はずっとここにいる。私は永遠に、貴方のお姫様。……だから永琳、貴方も私のそばにいてね。――永遠に」
「……言われなくても、蓬莱の薬を飲んだときから、もう決めているわ」
「うん、知ってるわ」

 永琳は、その小さな肩を抱きしめようと腕を回した。――けれど輝夜は、自分から腕を離して、永琳の手を逃れるように身を翻す。永琳は目をしばたたかせた。

「ねえ、永琳。――この地上で、あの人間の夫婦に育てられていた頃、私がたくさんの男性に求婚されたの、知っているでしょう? それを私が全部断ってきたのも」
「……ええ」

 それは今、《竹取物語》として知られている物語。
 けれど、輝夜は知らない。その裏にあった、永琳の罪のことは――。

「あの頃は、自分でもそれがどうしてか解らなかったの。ただ、自分は誰のものにもなりたくない、そう思っていたわ。――そうして、月の使者から連絡が来て、私はようやく自分が月の民だったことを思い出した。だけどそのとき――私は確かに、この地上を離れたくないと思ったのよ。不思議よね。誰のものにもなりたくなかったのに――私は地上の者になってしまっていた」
「輝夜?」
「そして、永琳。貴方たち月の使者が私を迎えに来て――だけど貴方はひとりで、私を連れて逃げ出した。……そのとき、もうひとつ忘れていたことを思い出したわ。――私は、月にいた頃からずっと、永琳、貴方を愛していた。――私は貴方のものになりたかった」

 くるりと振り向いて、輝夜は微笑んだ。長い黒髪が、闇の中に揺れた。

「貴方を愛していたから、私は誰のものにもなりたくなかった。――だけど、月に帰りたくもなかった。貴方は月にいたのにね。……ねえ、どうしてそんな風に思ったのかしら」

 ――それは。その答えは、永琳は誰よりもよく知っている。
 輝夜の記憶は、不完全な蓬莱の薬によって部分的に封印されている。封じられているのは、月で、人体実験として殺され続けた記憶。月に帰りたくないという思いは、おそらくその残滓だ。――そしてそれは、永琳の犯した罪でもあって。
 そのことを知らずに、輝夜はずっと、永琳に笑いかけ続けている。
 輝夜を愛しているからこそ、永琳は今のこの道を選んだ。それは確かだ。輝夜を幸福にするために。輝夜のそばに永遠に居続けるために。――だけどそれは、本当に輝夜のためだけか?
 いや、違う。――今の輝夜は、自分の犯した罪そのものでもある。
 実験として殺され続けた輝夜の、心の壊れた虚ろな眼差しは、今も瞼に焼き付いている。
 その記憶を持たずに、自分に笑いかけてくれる輝夜に――自分は。

「永琳」

 それは罰だ。輝夜が笑うたび、永琳は心の奥で、あの壊れた輝夜の瞳を思い出す。
 愛している。輝夜を愛しているからこそ――その痛みは永遠に、永琳の中に残り続ける。
 それと向き合い続けることが、自分の贖罪なのだと。

「ねえ、永琳」

 輝夜が、もう一度永琳の手を掴んだ。永琳は顔を上げた。目の前に、輝夜の顔があった。

「私たちが不完全な永遠だっていうのは、きっとそういうことなんじゃないかしら」
「――え?」
「私はきっと、私を育ててくれたあの夫婦のことも、大切に思っていたの。――鈴仙だって同じ。てゐも、他のイナバたちだってみんなそう。……みんな大切だわ。ううん、大切なものになったのよ。この地上で暮らすようになってから、そういう風に変わっていった」

 私たちは永遠なのにね、と輝夜は笑った。
 永琳はただ――目を細めて、ずっと変わらないその美しい顔を見つめた。

「それも穢れの影響なら、私はそれでいいと思うわ。――だって、その方が楽しいもの。永琳は、そうは思わない?」
「――――」
「鈴仙のこと、好きだったんでしょう? 大切だったんでしょう? ――私と比べて、じゃなく。ただ、鈴仙は鈴仙として。……それなら、永琳。泣いてもいいって、私は思うわ」

 そうして、輝夜はぎゅっと永琳にしがみつく。
 永琳はただ、輝夜に気付かれないように小さく苦笑して、その背中に腕を回した。

「ごめんなさいね。私、永琳みたいに賢くないから、何言ってるんだか自分でもよく解らない」
「……いいえ、よく解るわ、輝夜」

 その艶やかな黒髪を撫でて、永琳は輝夜の耳元でそう囁いた。

 自分は今でも、贖罪のために輝夜のそばにいるのだろうか?
 いつか――いつか、罪のことを忘れて、ただ彼女を愛するためだけにそばにいることを、許されるのだろうか?
 解らない。今はまだ、永琳の瞼には、かつての罪の光景が焼き付いている。
 だけどそれも――自分たちが不完全な永遠であるならば、いつか消えるだろうか。
 そんな風に、永遠の中ででも、何もかも変わっていくとしたら――。

 いや、もう既に、変わり始めているのだ。
 鈴仙を拾ってから今までの時間の間に、鈴仙という存在の持つ意味が変わったように。
 最初は利用するために拾った鈴仙も、気付けば――家族になっていた。
 もう、自分たちは穢れに囚われた地上の民なのだ。

 ――けれど、それでも自分は泣かないだろう、と永琳は思った。
 鈴仙のために、一番まっすぐに感情をぶつけられるのは、今は自分ではないのだから。
 それもまた、地上の民であるからこそ、許された変化だと、そう思う。

 永琳と輝夜は、窓から月を見上げる。
 その青白い光に向かって、一筋。
 白い輝きが上っていくのを――ふたりは、ただ見つめていた。


      ◇


 ぐるぐると、同じところを回り続けているようだった。
 それは単に、この迷いの竹林の中で、道を見失っているだけなのかもしれない。
 いや、それこそが、未だに断ち切れない迷いそのものなのか。

「あっ――」

 足をとられて、妖夢は前のめりに転んだ。地面に突っ伏して、小さく呻く。痛みは感じなかった。ただ――得体の知れない感情だけが、倒れた拍子に弾けたように、草を握りしめて妖夢は震えた。震えているしか、できなかった。
 鈴仙。鈴仙。鈴仙――。
 もう会えない。もう一緒に歩けない。もう――思い出してさえも、もらえない。
 笑って、見送れなかったのだ。
 せめて、鈴仙が自分のことを忘れてしまうなら、せめて。鈴仙が最後に見た自分の顔は、笑顔であってほしかった。だから、笑って見送ろうと、そう思ったのに。
 たぶん、きっと、あのときの自分は、笑えていなかったから。
 そして――そして、鈴仙も。

 最後に見た鈴仙の顔は、
 何かを言いかけた、泣き出しそうな――。

「鈴……仙」

 泣かないでいてほしかった。笑っていてほしかった。そのために、鈴仙の笑顔を守るために、そのために戦えたらと――そう、ずっと思っていたのに。
 最後の、最後まで、自分は鈴仙の笑顔を守れなかったのだ。
 未熟者だ。どこまでも、どこまでいっても、自分は――。
 たったひとりの笑顔さえ守れない自分が、この先誰を、何を守れるのだろう?
 自分は、いったい誰を、何のために――。

 草を踏む音がした。妖夢は顔を上げた。
 闇の中、何かがこちらに近付いてくる。妖夢は眉を寄せ――そして、目を見開いた。
 こちらに近付いてくる小さな影。それは、

「……え?」

 麦わら帽子だった。帽子がもぞもぞと、こちらに近寄ってくるのだ。
 しかも、その麦わら帽子には――見覚えがあった。見間違えるはずもなかった。

「これ――私、の」

 身体を起こして、妖夢はその麦わら帽子を持ち上げた。
 帽子の下から姿を現したのは、一匹のイナバだった。

「……どう、して?」

 どうして、この麦わら帽子がここにあるのだ。これは――鈴仙とあの人里の帽子屋で買ったもので、白玉楼に置いてきたはずで――。
 混乱する妖夢の元へ、イナバがぴょこぴょこと駆け寄ってくる。
 膝の上に乗ってきたイナバの口に、何かがくわえられていることに、妖夢は気付いた。
 封筒だった。宛名もない、くしゃくしゃの封筒。

 ――おてがみー。

 イナバがそう言って、妖夢に封筒を突き出す。

「……私に?」

 その封筒を受け取って、中に入っていた便箋を取り出す。
 封筒ごと一度丸められたのか、くしゃくしゃになった便箋には――丸っこい字で、短い文面が綴られていた。
 便箋を掴んだ妖夢の手が、震えた。
 その手紙は――宛名のない封筒の中身は、妖夢宛ての、彼女の言葉だった。




妖夢へ

 こういう形で伝えるのって、たぶんすごく卑怯なんだと思う。
 でも、口ではきっと、上手く言えないし。
 文章でも、きっと上手くなんて言えないんだけど。
 ずるい私でごめんね。いつもこうだよね。
 妖夢はいつもまっすぐに、私のこと好きでいてくれるのに。
 私はいつも、そんな妖夢のこと、困らせたり傷つけたりばかりで。

 やっぱり私、妖夢に好きになってもらう資格なんて無いんだと思う。
 私、妖夢みたいにはなれないから。

 好き、って言葉、辛いんだ。重いんだ。
 ごめんね、妖夢。こんなこと言って、本当にごめん。
 でも、私、

 ごめんなさい。本当にごめんなさい。
 妖夢のこと、好きだよ。
 でも、きっと、私は妖夢を傷つけるから。だから、

 お話の中みたいに、ハッピーエンドがあれば良かったのにね。
 ラブストーリーなら、ふたりが結ばれたところでおしまいだもんね。
 その後のことなんて、考えなくてもいいもんね。
 あの日、妖夢が好きって言ってくれたときが、ハッピーエンドで。
 私と妖夢のお話が、そこで終わっていれば良かったのに。

 ごめんね、ごめんね、本当にごめん。
 妖夢のこと、今はまだ、好きだよ。きっと、好きなんだと思うよ。
 ほら、こんな言い方しかできないんだ。だから、

 ごめんなさい。さよなら。

鈴仙





 くしゃりと、手の中で便箋がまた皺を増やした。
 こみ上げてくる感情は、今までかみ殺してきた全ての感情の、どれとも違っていた。
 悔しさ? 悲しみ? もどかしさ? 無力感? 違う。そんなんじゃない。

「……馬鹿……鈴仙の馬鹿!」

 立ち上がって、便箋を握りしめて、妖夢はそう叫んでいた。

「ごめんは、一回までって――そう言ったのは、鈴仙じゃないか……!」

 蘇る、いつかの記憶。まだ、何も知らずにいた頃の、何気ない言葉。

『謝るのは大事だけど、何でもないことまで謝ってたら窮屈だもん。だから、『ごめん』は一度まで。なるべくなら、本当に相手を怒らせちゃったとき以外は禁止』

 そう、鈴仙はそう言ったのだ。なるべく、「ごめん」とは言わないように、と。
 相手が怒っていないことまで謝っていたら窮屈だから、と。
 そう言ったのは、鈴仙なのに。

「鈴仙の、馬鹿ぁぁぁっ!!」

 怒ってなんかいない。自分は、鈴仙に対して怒ってなんかいなかった。
 寂しさも、悔しさも、無力感も味わったけど、鈴仙に怒ったことは一度だってなかった。
 全部自分の未熟さが悪いのだと、そう思っていたから。だから。
 だけど――だけど、今度ばっかりは。

「最後の言葉が、ごめんなさいなんて――そんなの、認めるもんか……!」

 そうだ。妖夢は怒っていた。初めて、本気で怒っていたのだ。鈴仙に対して。
 自分はただ、本当に鈴仙が好きで、ただ鈴仙に笑っていてほしかったのだ。
 そのためだったら、傷ついたって、苦しんだって、構いはしなかったのに。
 それで鈴仙が笑っていてくれるなら、いくらでも君の盾になったのに。
 謝って欲しかったんじゃないんだ。――笑ってほしかったんだ!
 それを、そのことを伝えられないまま、さよならなんて。
 このまま、鈴仙が自分を忘れてしまうなんて――絶対に、嫌だ。

「鈴仙――ッ」

 妖夢は頭上を振り仰いだ。竹林の向こうに見える夜空に、青白い月が浮かんでいる。
 まだ、鈴仙たちは月に向かう途中だろうか。
 今から追えば、追いつけるだろうか?
 ――いや、追いかける。追いつくまで、追いかける。月までだって。
 本当の、鈴仙の気持ちを聞くまで。鈴仙が笑ってくれるまで――追いかけてやる!
 麦わら帽子を、鈴仙が似合ってると言ってくれた麦わら帽子を被って、妖夢はその場から飛び立った。ただまっすぐに――月を目指して。
 月に向かって上っていく、五つの流れ星を追いかけて。





      2


 世界はただ、平板だった。
 視界の全ては色あせ、音は全てノイズのよう。匂いもなく、ただのっぺりとした書き割りのような月を見上げて、鈴仙は飛んでいた。
 思考も、何ら明確な形を為さない。
 自分が今まで何をしていたのかも、これから何をするのかも。今、どうして飛んでいるのかも、よく解らない。思い出そうとしても、上手くいかない。
 月の羽衣は、心を失わせる。
 固定された心は何にも動かされることなく、ただ言われた動作を行うだけ。
 依姫の後に従って飛ぶ鈴仙たちは――サキムニもキュウもシャッカも同様に、月の羽衣で心を失ったまま。ただ、五つの光は、月を目指して上昇を続けているだけ。
 それだけの、はずだった。

「――――」

 何か、平板な思考にノイズが走って、鈴仙はゆっくりと振り返った。
 ただ、そのノイズが何だったのか、考える力が鈴仙には無い。

「どうしたの?」

 依姫の声も、ただ鈴仙の意識を素通りしていく。
 ひとつ鼻を鳴らして、依姫が上昇を止めた。サキムニたちにも停止を指示して、そして依姫は鈴仙の肩を掴んで、振り返らせた。

「月の都に入る前に、穢れを祓っておいた方が良さそうね」

 溜息のようにそう言って、依姫は懐からそれを取り出す。
 透明な、小さな小瓶。そこには透明の液体が詰められている。
 サキムニが月から持ち込んだ、不完全な蓬莱の薬。飲んだ者の記憶を失わせる薬――。

「……鈴仙」

 その小瓶を、依姫が鈴仙の手に握らせる。小瓶の蓋が外される。
 透明な液体の、その表面に、小さなさざ波が立った。

「お飲みなさい」

 失われた心は、その言葉の意味を考えることはない。手にした薬の持つ効果も、それを飲むことの意味も、それによって失われるものも――何も考えることはない。
 ただ、言われた通りに、身体が動くだけ。
 鈴仙は、手にした小瓶を、ゆっくりと持ち上げて――。
 傾けた小瓶から、薬の雫が、鈴仙の口の中に、流れ込もうとした、瞬間。


 ――――鈴、仙!


 遠くから、意味のある声が、聞こえた。
 意味を失った、平板の世界の中で、その声だけで鮮烈な意味を孕んで、耳に届いた。
 鈴仙の耳に。鈴仙の世界に。失われた心に――割り込んでくる、声があった。
 鈴仙の動きが止まった。薬は小瓶の中に留まったまま。鈴仙は、もう一度振り返った。
 依姫が何事かを叫んだ。その言葉の意味は、鈴仙には解らなかった。
 ただ――ただ。

 全ての意味を失った世界で、
 それでも意味を失わない、――失いたくないものが、そこにあったから。
 鈴仙は――その声の方向へ、手を伸ばした。
 その唇が、彼女の名前を――紡いだ。

「――妖、夢」

 と。


      ◇


 彼女はあの夜、ひどく遠い目をして、月を見上げていた。
 遠い遠い、過去。自分の決して触れられない、彼女の痛みと、悲しみと、苦しみと。
 冴え冴えとした青白い光の下で、妖夢はそれを見上げながら飛んでいく。
 あの夏の日に触れあって。お月見の夜に、友達になって。あの永い三日間の果ては、この月の下だった。彼女の過去の下で、自分はもがき続けていた。
 鈴仙の心を、知りたいと思った。その痛みや、悲しみや、苦しみを。
 ――だけど、だけど。
 鈴仙の過去を、決定的に自分が知り得ないように。鈴仙の抱えているものを、自分は結局、完全に知り得ることなど無いのだ。
 他人の心なんて、解らなくて当たり前だ。
 自分が求めていたことさえ、鈴仙には伝わっていなかったのだから。
 いや――自分の心だって、自分自身にも解らなくなるのだ。
 鈴仙のそばにいたいと思う自分と。鈴仙に、ずっと元気でいてほしいと思う自分と。
 その背反で立ち尽くして、どちらが自分の本当の気持ちなんて、もう解らない。
 そもそも――本当の気持ちなんて、あるのかどうかもすら、解らない。
 だから、そんなものに囚われて、後悔だけを残すなんて――嫌だと、思った。
 自分は未熟だから、自分の気持ちも、鈴仙の気持ちも解らない。
 解らないから、自分のしたいことをする。
 自分が、後悔しないことを、する。
 そうしたいと、ただ妖夢は、それだけを考えて、まっすぐに飛んでいった。

「鈴仙! ――鈴仙!」

 遠くに見える、流れ星のような光の軌跡に向かって、妖夢は叫んだ。
 大切な友達の名前を。離れたくないと願った、大切なひとの名前を。
 届くはずだと信じて。後悔しないために。届かせるために。
 自分の――わがままを通すために。

 楼観剣は折れた。楽しみにしてくれた小説の続きも書き上げられなかった。
 そんな未熟な自分でも――それでも、鈴仙は、友達だと言ってくれた。
 だからこそ、彼女に伝えるのだ。
 君を好きになったことを後悔なんてしないから。
 だから、最後の言葉が、ごめんなさい、なんて――許さない、って。

 そして、月の下の流れ星が、不意に止まった。
 光の粒でしかなかった影が、その大きさを増していく。
 視界が焦点を結び――大切なものの姿を、その像を結んでいく。
 半透明の羽衣を被せられ、表情を失った、鈴仙・優曇華院・イナバの姿を。

「鈴仙!」

 妖夢は叫んだ。手を伸ばした。
 近付いていく鈴仙の姿が、はっきりと見える。
 ――鈴仙は、こちらに手を伸ばしていた。
 まるで、妖夢の手を求めようとするかのように――。

 けれど。
 妖夢が、その手を掴もうと、加速した瞬間。
 視界に割り込んでくるのは、月光を煌めかせた白刃。
 妖夢は息を飲んで、その場に静止する。鈴仙との間に、長身の影がすっと立ちはだかる。
 冷徹な眼差しで妖夢を見据える、月の使者。綿月依姫。

「――何の用ですか」

 その手に長刀を煌めかせて、冷たくそう問い詰めてくる。
 ――脳裏によぎるのは、目の前で繰り広げられた八雲藍との死闘。その果てに、自分の楼観剣を叩き折ったその斬撃。格の違いを見せつけられて、刃とともに意志の全てを折られたあの瞬間。自分など鈴仙を守れはしないのだと、そう思い知らされた瞬間。
 その綿月依姫が、今、眼前に立ちはだかっている。
 返答によっては、容赦なく斬り捨てられるかもしれない。
 妖夢は唾を飲む。けれど――視線は逸らさずに、依姫を見つめた。

 自分は絶対に勝てないだろう。
 綿月依姫は強すぎる。戦ったところで、未熟な自分が勝てる道理は絶無。
 自分は弱い。あまりにも弱い。心も、剣の腕も。
 だけど、それがどうした。
 綿月依姫には勝てない。そんなことはわかりきっている。
 自分は勝てなくたっていい。誰にも勝てなくても構わない。弱くてもいい。
 ただ、鈴仙を守れればいい。鈴仙の盾になれればいい。
 鈴仙が笑っていてくれれば、自分は世界最弱だって構わない。


「鈴仙と、話をしに、来ました」

 妖夢はそう口を開いた。依姫が、僅かに眉を寄せた。

「今更、話すことも無いでしょう。レイセンは月へ帰る。それがあの子の決断です」

 ああ、そうだ。月に帰るのは鈴仙の意志。それならそれで構わない。
 自分を忘れることも、鈴仙が選んだことなら、それでいいと、そう思う。

「話すことがあるかどうかは、貴方が決めることじゃない。私は鈴仙に聞いてるんだ!」

 妖夢はそう叫んだ。依姫が小さく息を飲んだ。

「あのとき、鈴仙は何か言いかけてた! 私は、それを聞きたいんだ」
「――それを聞いて、どうするというんですか」

 依姫の問い。その低い声音に、足が竦みそうになる。
 だけど、それが何だ。――斬るなら、斬ってしまえ、綿月依姫。

「どうするかは、鈴仙が決めることだ」
「それならば、もう決まっていることではありませんか」
「決まっているかどうかも、鈴仙が決めることだ! 私は、鈴仙と話がしたい! 鈴仙に、言いたいんだ! ――ちゃんと、笑って、さよならを言ってって!」

 依姫の肩越しに、鈴仙はただ、表情の消えた顔をこちらに向けている。
 今の話が聞こえていないはずはない。――もう、蓬莱の薬を飲んでしまったのか?
 いや、それとも――。

「最後に見た鈴仙の顔が、泣き顔なんて、私は嫌なんだ!」

 あのとき。別れ際。鈴仙は何かを言いかけて、けれど急に表情を失った。
 それは、依姫によって、あの半透明の羽衣を被せられてからだ。
 ――あの羽衣さえ、どうにかすれば、もう一度話ができるのか。

「それは、貴方のわがままでしょう」
「そうだ。私はわがままを言いに来たんだ」
「――――」
「友達だから、私はわがままを言うんだ!」

 妖夢は、腰の白楼剣に手を掛けた。依姫の顔がこわばり、その手の刃が煌めいた。
 楼観剣は折れた。もう、自分の手に残っている刃は、この白楼剣だけだ。
 枝一本も斬れない、練習用のなまくら刀。祖父はそれを、迷いを断つ刃だと言って授けた。
 握ってみれば、ずっと振り続けてきた、手に馴染む感触がある。
 ――ああ、つまり、迷いを断つというのは、そういうことなのだ。
 一番最後に信じられるのは、自分がずっと振り続けてきた刃。
 今までの自分が、未熟なりに費やしてきた時間を全てともにしてきた、この刃。

『いいか、妖夢。真実は、斬って知るものだ』

 祖父の教え。斬るものはなんだ? 今、自分が断ち斬るべきものは――。

「鈴仙!」

 妖夢は、ありったけの声で叫んだ。――そして、宙を蹴った。
 腰の白楼剣に手を掛けたまま、依姫めがけて、まっすぐに。
 依姫が奥歯を噛みしめて、その手の刃を振り上げた。
 このまま正直に突っ込めば、一刀両断に斬り捨てられるだろう。
 白楼剣一振りで、その刃に勝てるはずもない。自分は依姫には絶対に勝てない。
 だけど、勝てなくてもいいのだ。
 勝つ必要など、どこにも無いのだ。

 依姫の姿が目の前に迫る。
 長刀が、妖夢をめがけて振り下ろされる。
 その刃の軌跡を、妖夢はただまっすぐに見上げて。
 ――腰の白楼剣を、鞘から抜き放った。

 交錯。硬い金属音。――砕け散る、音。

 砕けたのは白楼剣だった。
 依姫の刃とぶつかり合って、そのなまくら刀は粉々に砕け散った。
 だが、鞘から抜き放たれる瞬間の――居合いの速度で放たれた刃は。
 依姫の刃と交錯した瞬間、その軌道をずらして。

「れいせえええええええええええええんッ!!」

 依姫の刃が、左肩を掠めて、鮮血が舞う。
 けれど、それにも頓着せずに、妖夢は。
 白楼剣が砕かれ、依姫の剣の軌道を逸らした、その勢いで、僅かに進行方向を変えて。
 依姫の横をすり抜けて――手を伸ばした。
 透明な表情でこちらを見つめる、大切な友達へ。

「よう――む」

 彼女の唇が、そんな形に震えたように見えたのは、錯覚だっただろうか?
 ただ、確かなことは。
 妖夢は鈴仙に手を伸ばして。鈴仙も――妖夢に向かって、手を伸ばしていて。
 白楼剣の柄を投げ捨てて、妖夢はその手を――掴んだ。
 そして、刃の掠めた肩から鮮血の伝ったままの左手で、被せられた羽衣を払う。
 半透明の羽衣は、微かな血の痕を残して、月光の下に舞い落ちていく。

「鈴仙」

 妖夢は、その名前を呼んだ。

「…………妖、夢?」

 失われていた光が、鈴仙の瞳に――灯った。
 月が、見つめ合う妖夢と鈴仙を、ただ青白く照らしていた。






      3


 世界が唐突に色を取り戻した。音が、匂いが、全てが意味のある情報として蘇って、鈴仙は世界の認識を一瞬見失う。
 目をしばたたかせれば、視界が徐々に焦点を結び、目の前にいる少女の姿を捉える。
 泣き出しそうな顔で笑った、魂魄妖夢の顔を。

「妖、夢……なん、で」
「鈴仙……良かった、間に合った……」

 左手は、妖夢の右手に握りしめられていた。
 妖夢の左手が、鈴仙の方に伸ばされる。――その肩口が、暗い赤に染まっていた。

「妖夢、その肩――」
「え? ああ……うん、大丈夫、へいき、大したことないよ」
「大したことあるよ! なんでこんな――」
「大したことない」

 妖夢が強くそう言い切って、鈴仙は息を飲んだ。
 まっすぐ、どこまでもまっすぐにこちらを見つめる妖夢の瞳は、――優しかった。

「鈴仙が、泣いてることに比べたら――このぐらい、全然、大したこと、ないんだ」

 そして、妖夢は血で汚れた左手を服の裾で拭おうとして、顔をしかめて。
 鈴仙の手を掴んでいた右手を離して、その手を鈴仙の頬に伸ばした。
 妖夢の指先が、頬に触れる。
 そこで鈴仙は――自分の頬に、雫が伝っていることに、ようやく気付いた。

「だから、泣かないでよ、鈴仙」

 伝った涙の痕を、妖夢の指先がそっと、拭う。

「ごめんなさい、なんて、言わないでよ」

 そして、もう一度、鈴仙の手を強く、強く握りしめて。

「私は、鈴仙に、笑っていてほしいんだ」

 妖夢は――笑った。どこまでも優しく、笑っていた。

「さよならの瞬間まで――私の大好きな、笑顔でいて、ほしいんだ」


 堪えきれなかった。
 最後の最後まで、心の奥底に封じてきたものが、弾けてしまった。
 帰らないといけないのだ、と。そう自分に言い聞かせ続けて。
 かみ殺し続けてきた、逃げ続けてきたものに、追いつかれてしまった。

 自分は、月に帰りたくなかったんだ。
 ――帰らなきゃいけないのだとしても、帰りたくなかったんだ。
 たとえ永く生きられないのだとしても。
 死んでしまうことが怖くても、それ以上に。
 彼女のことが。――魂魄妖夢のことが、好きになってしまっていたのだ、と。

 怖かった。妖夢を好きになってしまった自分が。
 妖夢を好きになって、月のことを忘れてしまいそうな自分が。
 かつて自分を好きでいてくれた人たちのことを忘れてしまいそうな自分が、怖かった。
 だから、ずっとずっと、逃げ続けてきた。
 妖夢からさえ、逃げ続けてきたのだ。
 月に帰らなければいけないという理由ができて――自分は、安堵していたのだ。
 全てを忘れてしまえると知って、ほっとしていたのだ。
 これで逃げ切れるのだと。
 永遠に、自分の罪から逃げ切れるのだと――。

 だけど決して、逃げ切れはしないのだ。
 初めに逃げ出したあのときから、全ては自分の罪だったから。
 何度も後悔してきた。後悔して、悩んで、思い惑って、ここまで来た。

 そして、全てを忘れるということは。
 後悔すらも、できなくなるということだった。


「妖夢っ――」

 鈴仙は、そのまま――妖夢の身体にしがみついた。
 妖夢が目を見開き、戸惑ったように、鈴仙の身体に腕を回す。
 左肩の傷から溢れる血が、鈴仙の服も汚した。けれど、構わなかった。
 腕の中に、魂魄妖夢の温もりがあった。
 手放そうとして、だけどこの手を離さずにいてくれた、少女の温もりが。

「鈴仙……れい、せん」

 自分の背中をさすってくれる、妖夢の手は、あのお月見の夜と変わらず、優しかった。


「……それが、貴方の本当の意志ですか、レイセン」

 声。鈴仙はびくりと身体を震わせ、その声の方向に振り返る。
 長刀を下げて、どこか呆れたような顔をして、依姫がこちらを見つめていた。
 鈴仙は視線を彷徨わせた。依姫の背後には、月の羽衣を被って表情を失ったサキムニたちの姿があった。――過去と、現在がそこで対峙していた。
 俯いて、鈴仙は唇を噛みしめた。依姫が深く大きく、息を吐き出した。

「一度、地上に下りましょう」

 依姫はそう言って、背後のサキムニたちを振り返った。

「――この子たちとも、もう一度話をする必要があるでしょうから」

 そう言って、依姫は――ふっと、鈴仙に向けて、笑った。
 どこか、こうなることを解っていたかのように。


      ◇


 そうして、六つの影は地上に降り立った。
 月の照らす野原に降り立って、依姫はサキムニたちの月の羽衣を外す。サキムニたちはきょとんと周囲を見回して――そして、妖夢の隣にいる鈴仙を見つめて、息を飲んだ。

「レイセン!? なんで――」

 サキムニが悲鳴のように叫んで、鈴仙の方へ駆け寄ろうとする。
 その足を止めたのは、依姫だった。依姫は促すように、鈴仙を見つめる。
 妖夢は、その場から一歩下がった。ここは、自分が口を出す場面ではなかった。
 鈴仙は――俯いていた顔を上げて、依姫と、サキムニと、キュウと、シャッカに向き直る。

「サキ、キュウ、シャッカ……依姫様。――ごめんなさい」

 そして、深く、鈴仙は頭を下げて。

「私……やっぱり、月に帰れない、です」
「――なんで!?」

 泣き出しそうな声で、サキムニが身を乗り出した。鈴仙がびくりと息を飲む。

「なんで、なんでよ、レイセン! もうみんな怒ってない! みんなレイセンを許すよ! 何かあっても、私がレイセンを守るよ! だから――だから、帰ろうよ、レイセン! 帰って、またみんなで、一緒に――」
「……サキ」
「死んじゃうんだよ!? このまま地上にいたら、レイセン、近いうちに――そんなの嫌だよ!レイセン、私は、レイセンが、レイセンがっ――」

 言葉を詰まらせて、サキムニはその場に膝をつく。
 鈴仙は、ゆっくりとそこへ歩み寄って――膝をついて、サキムニを抱きしめた。

「……レイ、セン?」
「サキ。……ありがとう。ずっと、私のこと忘れないでいてくれて。私、サキに迷惑ばっかりかけ続けたのに……それでも、私のこと、心配してくれて、ありがとう」
「レイセン――」
「でも……逃げ出したのも、地上で永く生きられないのも、それは全部、私の罪だから。全部、悪いのは私だから――せめて、それからは逃げ出しちゃ、いけないんだと、思う」
「そんな……そんなの、違う、絶対違う! 死んじゃっていいことなんて絶対ない!」
「……うん、私も、死ぬのは、怖いよ」
「だったら――」
「でも……忘れちゃうのも、同じぐらい、怖いんだ」

 サキムニの目が、見開かれた。鈴仙は一度依姫を見上げて、またサキムニに向き直る。

「穢れを祓う蓬莱の薬は、地上の記憶を失わせるんだって。……私、月に戻ったら、地上のことを全て忘れちゃう。そしたら――逃げ出したことも、地上で出会ったたくさんのひとたちのことも――サキたちが私を追いかけてくれたことも、全部、忘れちゃう」
「――――」
「私、ずっと後悔してきたんだ。逃げ出してきたこと……サキたちにちゃんと、さよならも言わないままで、いなくなったこと。今も、後悔してる。たぶんずっと、後悔し続ける」
「レイ、セン」
「でも……後悔してる限り、私はサキたちのこと、忘れない。私のこと、大切に思ってくれた仲間がいたこと、私は忘れないでいられるんだ。……月に戻って、全部忘れたら、後悔することも出来なくなっちゃう。それは……死ぬのと同じぐらい、怖いと、思う」

 強く、もう一度鈴仙はサキムニを抱きしめた。サキムニは――何も答えないまま。

「サキ。……本当に、ありがとう。……私、サキのこと、大好きだよ。キュウも、シャッカも、月の仲間たち、みんな大好きだったって、やっと解ったよ。……これからもずっと、忘れないでいるから。みんなが私のこと、大切に思ってくれたこと――忘れないから、絶対」
「……レイ、セ……あ、あ、ぁ――」

 鈴仙が、その身体を離して立ち上がった瞬間、サキムニは泣き崩れた。
 その背中に、キュウが駆け寄って、優しくさする。そしてキュウは、鈴仙を見上げて、苦笑するようにひとつ肩を竦め――ぴっと、人差し指を鈴仙に向けた。

「いっぱしのこと、言えるようになったじゃん、鈴仙」

 にっと笑って、キュウはそう言って、泣きじゃくるサキムニを抱き寄せる。
 ――その背後から、それまで黙していたシャッカが、ゆっくりと歩み出た。

「キュウ……シャッカ」

 鈴仙の元に、シャッカはただ無言で歩み止って――次の瞬間。
 ぱあん、と甲高い音がして、シャッカの右手が、鈴仙の頬を張っていた。

「これは、サキの分」

 返す刀で、もう一発。さらに、重ねて一発。
 シャッカの手のひらが頬を往復するのを、鈴仙は黙って受け入れて。

「今のは、キュウと、依姫様の分」

 そして――とん、と。握りしめた拳で、シャッカは鈴仙の胸を小突いた。

「……レイセン。私、昔からずっと、あんたのこと嫌いだった」
「シャッカ……」
「何考えてるか解らないし、口に出そうともしないで、サキやキュウに迷惑ばっかりかけて、お節介なみんなに甘えてばっかりで……昔の自分みたいだったから、大嫌いだったの」

 眼鏡の奥で、その目をぎゅっと閉じて、シャッカは。

「何回、サキを泣かせれば気が済むのよ」
「……ごめん」
「ごめんで済んだら、戦争は起こらないのよ」

 そして、強く鈴仙の身体を押した。鈴仙が小さくよろけて、妖夢は慌ててその身体を支える。
 シャッカはくるりと背中を向けて、その顔を見せないまま、言葉を続けた。

「もう、私はあんたが死んだと思うから」
「え――」
「レイセンっていう、新しい玉兎がうちの隊に入ったの。昔いなくなった、同じ名前の兎と同じ部屋に入って、サキとキュウと、四人で仲良くやってるの。――地上に逃げ出して死んだ、馬鹿な兎のことなんて忘れるから。――勝手にしなさいよ、鈴仙・優曇華院・イナバ」

 言い捨てるように、そう口にして、シャッカは依姫の後ろに下がっていく。
 そして――依姫は。

「……レイセン。本当にそれでいいのですね?」

 その依姫の問いに、鈴仙は小さく俯いて、首を振った。

「解りません。……これでいいのか、これが正しいのか、私には、解らないです」
「レイセン」
「たぶん……きっと、これからも後悔するんだと思います。今このとき、やっぱり月に帰れば良かったって、そう思うときも、きっとあると思います。……私は、依姫様みたいに強くないですから。きっとこれからも何回も、迷って悩んで、後悔するんだと、思います」

 でも、と鈴仙は顔を上げて――依姫に向かって、笑った。

「私、地上に来て、良かったと思います」

 その言葉が、たぶん全ての答えだった。
 依姫は、ただ目を細めて――ぽん、と、鈴仙の頭に手を乗せた。

「鈴仙。……鈴仙・優曇華院・イナバ、でしたね」

 鈴仙が顔を上げた。それは、地上での名前。地上の兎としての名前。
 月の兎としての名、レイセンではなく。
 地上の兎、鈴仙・優曇華院・イナバの名を、依姫が初めて呼んだ瞬間だった。

「貴方の捜索は、今後完全に打ち切ります。……もう、帰りたいと言っても知りませんよ」
「依姫様――」
「逃げ出したことは貴方の罪。その罰として、貴方はここで生きなさい。笑って、生きなさい」
「――――はい」

 泣き出しそうな顔で、鈴仙は依姫を見上げて、笑った。
 その横顔は――自分がずっと見たかった、鈴仙の心からの笑顔だと、そう妖夢は思った。

「……肩の傷は大丈夫ですか」

 と、依姫が不意に妖夢の方を見やって言う。妖夢はひとつしゃっくりして――それから、意識の外にいっていた左肩の痛みが蘇って、顔をしかめた。

「すみません、寸止めで済ませるはずだったんですが――永遠亭に、戻りましょう」

 八意様に手当をしてもらわないと、と依姫は少し心配そうに言った。
 妖夢は、鈴仙と思わず顔を見合わせた。






      4


 同時刻、博麗神社。

「やれやれ。――無事に帰れてほっとしたわ」

 月の都からの連れを、永遠亭に送り届け。神社の鳥居をくぐって、霊夢はひとつ伸びをした。
 冴え冴えとした月を見上げる。手を伸ばしても、その青白い光には届かない。
 そういうものだろう、と霊夢は思った。ここは地上。月は見上げるだけもの。それでいい。

「で、あんたはいつまでぼーっとしてんのよ、紫」

 傍らで、無言のままに佇む八雲紫を振り返って、霊夢はそう声をあげる。
 紫はただ黙したまま、鳥居の向こうに見える月に目を細めていた。

「――ちょっと紫、」
「ねえ、霊夢」

 紫が、あの瞬間以来、初めて口を開いた。虚を突かれて、霊夢は目をしばたたかせる。

「たとえ話を、しましょうか」
「……たとえ話?」
「昔、あるところに一人の少女がいたわ。彼女には、とても大切な相棒がいたの。他の何にも替えられない、かけがえのないパートナー。ずっとそばにいたい、一緒に手を繋いで、どこまでも歩いて行きたい――そう思える相手」

 木訥とした語りに、霊夢は目を細める。それは――その物語は。

「だけど……ある日、その相棒はいなくなってしまった。突然、世界から消えてしまったの。彼女は嘆き悲しんだわ。そして、決意したの。何としても、必ず相棒を見つけ出す。そのためだったらどんなことでもする、世界だって利用する――そう、決めたの。だから――」
「紫」

 その語りを遮るように、霊夢は声を荒げ、そして溜息を吐き出した。

「生憎、こっちはあんたの昔話に興味は無いの。あんたがなんで月にこだわってたのかも、今となっちゃ、もうどうでもいいわ。次はもう付き合わないから、絶対ね」
「……霊夢」
「いつまで腑抜けてんのよ、八雲紫。あんたの過去がどうあれ、月を目指した理由がどうあれ、あんたは今はこの幻想郷の賢者でしょうが。――自分の作った世界に責任ぐらい持ちなさいよ。あんたは、この幻想郷の全てを愛してるんじゃなかったの?」

 紫がゆっくりと振り返って、不意に泣き出しそうな笑みを浮かべた。
 それは、霊夢が初めて見た、紫の――人間くさい笑顔だったような気もした。

「紫様!」

 と、そこへ舞い降りてくるのは、九尾の狐。八雲藍が、紫の眼前に駆け寄り、跪く。

「――おかえりなさいませ、紫様」
「藍……」

 頭を垂れて、藍は恐縮したように身を縮こまらせる。

「申し訳ありません、不覚をとり、あの月の使者をけちょんけちょんにしてはやれませんでした。最低限、永遠亭に行かせることはできたようですが――」
「……そう」

 紫は、懐から扇子を取り出して、口元に広げた。

「ご苦労様、藍。月面戦争は、これで終結よ。もう、月の都に用は無いわ」
「は――――」
「あの月の使者とやりあって、怪我は無かった?」
「え? あ、いえ、問題ありません――」

 紫の問いに、藍は僅かに腹部を押さえるような仕草を見せる。

「……無理をさせてすまなかったわね、藍。ありがとう」
「ゆ、紫様、そのようなお言葉――勿体なく存じます」

 恐縮しきって、額を地にこすりつけんばかりに藍は平伏する。

「私は紫様の式。この命、身体、魂の全て、紫様のものです。――紫様にご心配いただくようなことはありません。この八雲藍、いついかなるときも、ただ紫様のために」
「藍」
「はっ――」

 顔を上げた藍に、紫は扇子で口元を隠したまま――どこか優しく、目を細めた。

「では、貴方に次の命令を出します」
「承ります」
「――今晩、一緒に寝て頂戴?」

 紫の言葉に、藍はきょとんと、目をしばたたかせて。
 そんな藍の前で、紫は膝をついて――甘えるように、その身体にしがみついた。

「紫様?」
「……藍」

 目を白黒させる藍は、尻尾をぶるんぶるんと揺らして、しなだれかかる紫を抱きしめる。
 ――そんな様子を、神社の玄関先から見つめていた霊夢は。
 明日には、いつもの紫に戻ってるといいんだけど。
 そんなことを思いながら、玄関の戸を閉めた。





      5


「……まあ、そうなる可能性は十分あると思っていたけど」

 永遠亭に戻ってきた妖夢と鈴仙、そして依姫たちを見つめて、永琳は呆れたようにそう言った。そして妖夢をふんづかまえると、問答無用で治療を始める。滲みる消毒薬をぶっかけられた上、麻酔もなしに縫合を始められて、妖夢は情けない悲鳴をあげた。

「あらあら。結局、大山鳴動して兎一匹?」

 屋敷の奥からは輝夜も顔を出して、状況を把握したのか楽しそうに笑った。
 ――そして。

「あら、依姫ったらおかえり。行き違いになったかと思ったわ」

 縁側でのんきにお茶を飲んでいた少女の姿に、依姫が硬直した。

「――お姉様!? どうしてここにいるんですか!」
「あら、私がここにいちゃいけない?」

 悲鳴のように叫んだ依姫に、少女は脳天気に首を傾げる。

「いけませんよ! 月の都はどうなるんです! 私がいないのにお姉様まで不在では――」
「ああ、大丈夫よ。侵入者はちゃんと捕まえて追い返したわ」

 その言葉に、依姫が酢を飲んだような表情でひとつしゃっくりする。

「だ、だからといって、軽々しく月の都を離れられては――」
「だって、ずるいじゃない、依姫ってば!」
「お、お姉様?」
「私だって八意様に会いたかったのに、依姫だけ勝手に抜け駆けして八意様に会ってたなんてずるいずるいずるいわ! だから私も、八意様に会いに来たの」

 頭痛を堪えるように、依姫が深く息をつく。

「はい、終わりよ。安静にね」

 と、そこでようやく永琳の乱暴な処置から解放されて、妖夢は涙目のまま身体を起こす。その肩を支える手があった。振り返れば――鈴仙が微笑んでいて、妖夢も苦笑いを返す。

「大丈夫?」
「うん、平気……ところで、あの人は?」
「ああ――あれ、綿月豊姫様。依姫様のお姉様で、私の月にいたころの飼い主さん」

 鈴仙の言葉に、妖夢は納得する。何をしに来たのかはよく解らないが、あの依姫がたじたじになっているのはそういうことか。
 と、その豊姫が、不意にこちらを見やって立ち上がった。
 豊姫は鈴仙の元に歩み寄ると、その顔を覗き込む。

「レイセン、久しぶりね」
「あ……はい。お久しぶり、です。豊姫様」
「元気そうで何よりね。だいたいの事情は八意様から伺ったわ。それで、ここに戻ってきたということは、月には帰らないのね?」
「……はい。……いろいろ、ご迷惑をおかけしました、豊姫様」
「そう」

 頭を下げた鈴仙に、扇子で隠した口元に底の知れない笑みを浮かべて、豊姫は頷く。
 ――なんだか幽々子様みたいな人だ、と妖夢はふと思った。

「じゃあ――貴方にひとつ、大切なことを伝えましょう」
「えっ……なんで、しょうか」
「とても大切なことよ」

 にっこりと笑って、豊姫は鈴仙を見つめて。
 ――ぐー、と誰かの腹の虫が盛大に鳴った。

「…………豊姫様、おなかすいたんですか?」

 ぐー。もう一度鳴った。

「解りました。何か作りますから、待っていてください」

 吹き出すようにそう笑って、鈴仙は立ち上がる。豊姫はにこにことそれを笑って見送った。
 ――やっぱり幽々子様みたいな人だ、と妖夢は思ったが、口には出さないでおいた。


      ◇


 何か、憑きものが落ちたような気分だった。
 月から逃げ出したあの日から、ずっと自分の足元に絡みついていた鎖。地上と月の狭間で、ずっと迷い続けて、結論を先送りにし続けていた問い。月に帰るか、地上に残るか。
 結局、自分の優柔不断が、たくさんのひとを振り回して、迷惑をかけてしまった。それも含めて、全ては自分の罪なのだろう、と鈴仙は思う。
 それを背負って、自分はこの地上で生きていくしかないのだ。
 ――全てを忘れて月に帰ると決めたときは、まだその鎖が足に絡みついていた。
 今は、その重みを感じない。だから――今の自分は、この決断に納得しているのだと思う。
 でも、立派な決断なんかでは決してない、とも思う。結局、これもまた逃げなのかもしれない。この地上で、いずれ自分は死ぬ。そのとき、後悔しないかと問われれば――あのとき依姫に語ったように、きっと自分は後悔するだろう。また迷って、誰かを傷つけるかもしれない。
 そうならないように、強くなりたい、と思う。これから――強くなれればいい、と思う。
 あのとき、自分に最後まで手をさしのべてくれた彼女のように。
 そんなことを思いながら、鈴仙は豊姫に何か軽く食べられるものでも出そうと土間に下りた。まさか豊姫までこっちに来るとは思わなかったけれど――何も言わずに逃げ出した自分が、みんなにちゃんと謝ることができたのは、ありがたかった。
 さて、何かあっただろうか――と戸棚を覗き込んだところで、背後から足音がした。

「鈴仙」
「妖夢?」

 顔を出したのは妖夢だった。肩口から覗く包帯がまだ痛々しい。

「何か、手伝うこと、ある?」
「え、いや、そんな――妖夢、怪我してるんだから、安静にしてて」

 慌てて妖夢の元に駆け寄り、その手を掴む。――と、妖夢がどこか心配げな顔でこちらを見つめていることに気付き、鈴仙は目をしばたたかせた。

「……あのさ、鈴仙。……本当に、良かったの?」
「え?」
「私は……鈴仙が月に帰るなら、それでいいと思ってた。ただ……最後に、笑ってさよならをしたかっただけで……鈴仙が、こっちで長く生きられないんだったら、私は――」
「妖夢!」

 思わず、妖夢の言葉を遮るように、鈴仙は声をあげていた。
 びっくりしたように目を見開く妖夢の手を、鈴仙はぎゅっと握りしめる。

「私の気持ちは、あのとき、依姫様に言った通りだよ」
「鈴仙」
「私……今は、これで良かったんだと思ってる。あのとき、妖夢が来てくれなかったら、たぶんまた全部忘れて……同じことを繰り返してたんだと、思うから。私はもう、地上の兎だから、ここで変わっていかなきゃ――って。そう、思うよ」

 そして、妖夢の顔を見つめて、鈴仙は笑った。ちゃんと笑えたと思った。

「……そう思わせてくれたのは、妖夢なんだよ」
「――――」
「いっぱい迷惑かけて、ごめんね。……それでも、私のこと、追いかけてくれて、ありがとう。妖夢に会えて、良かった。……妖夢のこと好きになれて、良かった」

 ああ――こんな風に、素直に気持ちを口に出す勇気も。
 きっと、目の前の彼女がくれたのだと、そう思う。
 あのお月見の夜に、彼女が自分を友達だと呼んでくれたあの日から――。

「鈴仙……」

 胸にもたれた鈴仙に、妖夢は空いた片方の手で、ぎこちなく肩を抱いた。
 とくん、とくんと聞こえてくる、妖夢の鼓動の音が、心地よかった。
 鈴仙は顔を上げる。戸惑ったような、照れくさそうな妖夢の表情が目の前にあった。
 ――あの、茶店で出くわした夏の日から、ほんの何ヶ月か。
 どうして、それだけの時間で、魂魄妖夢という少女の存在が、自分の中でこんなに大きくなったのだろう、と思う。――それもまた、穢れの影響なのだろうか?
 不思議だけれど、それも全て、今は愛おしいと、そう思った。

「妖夢」

 彼女の名前を呼んでみた。「な、なに?」と困ったように妖夢は首をすくめた。
 そんな仕草に、思わず鈴仙は小さく笑みを漏らして――。

「……鈴仙、まーたサボってる。豊姫様、お腹空かせてるよ?」

 不意に、そんな懐かしい声がした。
 鈴仙は目を見開いて、振り返る。――そこに、サキムニがいた。
 月にいた頃の、呆れたような苦笑を浮かべて、こちらを見つめていた。

「サキ……」
「あーあ、悔しいなあ。……月で一緒にいた時間は私の方が長かったはずなんだけどなあ」

 そんなことを、わざと聞こえるように口にして、サキムニは鈴仙と妖夢の横を通り過ぎる。
 鈴仙は、思わず妖夢と顔を見合わせて――。

「――ま、仕方ないよね。鈴仙はもう、地上の兎なんだもん」

 と、サキムニはこちらに向き直ると、つかつかと妖夢の元へ歩み寄って。

「魂魄妖夢!」
「はっ、はい!?」
「――鈴仙のこと、よろしくね?」

 ぽん、と妖夢の肩をそう叩いて、また居間の方へ戻っていく。
 その背中を、鈴仙は妖夢と、きょとんと見送って。

「……あ、そうだ、豊姫様のお食事!」

 そこで、ようやく自分が何をしに土間に来たのかを思い出して、鈴仙は慌てて声をあげた。
 ――そして、妖夢と顔を見合わせて、また笑い合った。


 月が、永遠亭を静かに照らしていた。
 その静けさの下で、未熟者の剣士と、地上の兎の笑い声が、屋敷の中に響いていた。






      6


 そうして、夜が明けた。

 障子越しに差し込む朝の光に、瞼を開ければ、見慣れた天井がそこにある。
 目を擦って、妖夢は身体を起こした。――白玉楼の、自分の部屋だった。左肩がまた鈍く痛み、包帯の巻かれたそこに手をあてて、妖夢は部屋の中を見渡した。昨晩、書きかけのまま放り出してきた『辻斬り双剣伝』の原稿が、部屋の隅に散らばっている。
 ああ、そうだ、永遠亭から帰ってきたんだ。昨晩、鈴仙たちからは永遠亭に泊まっていかないかと言われたけれど、それを断って、一足先に戻ってきたのだ。地上に残ることを決めた鈴仙は、自分よりも永琳や輝夜と話をするべきだろうと、そう思ったから。

「あら、起きたのね~。おはよう~」

 と、がらりと障子が開き、聞き慣れた声がかかる。妖夢は振り返って、慌てて姿勢を正した。

「お、おはようございます、幽々子様。……ええと、昨晩はその、申し訳ありませんでした」

 そのまま、土下座の体勢に入る。昨晩は――というか昨日から、いろいろなことを放り出して、主の許可も得ずに勝手に動いてしまった。従者失格である。
 恐縮して頭を下げる妖夢に、幽々子はどこか愉しげに笑った。

「まあ、昨日は休暇ということにしておいてあげるわ~」
「――え?」
「大切なことがあったんでしょう? 従者としての自分をなげうつぐらいに、大切なことが」

 優しく目を細めて、幽々子はそう妖夢を見つめる。妖夢はなんと答えていいのか解らず、俯いた。――自分は白玉楼の従者だ。それが第一のはずだった。だけど――。

「妖夢。それは貴方が、貴方の意志で決めたこと。――大切になさいな」

 幽々子はそう言って、立ち上がる。妖夢が顔を上げると、主の姿はもう障子の向こうに消えていた。妖夢はぼんやりそれを見送って、それからぴしゃりと自分の頬を叩く。
 ――しっかりしろ、魂魄妖夢。
 それから、いつもの服に着替えて部屋を出た。とりあえずは、今は白玉楼の従者として、いつもの仕事をしよう。とりあえずは、朝食の支度の手伝いを――。
 ぱたぱたと廊下を走って、妖夢は台所へ向かう。台所からは食欲をそそる匂いと、包丁のたてる規則正しいリズムが聞こえてきていた。料理番の幽霊はもう仕事を始めているらしい。
 手と顔を洗い、「おはようございます」と声を上げて、妖夢は台所の戸を開けて、


「――あ、おはよう、妖夢」

 そこにあった姿に、その体勢のまま硬直した。
 台所で、包丁を片手に振り返ったその姿は、いつもの料理番の幽霊ではなかった。
 エプロンを身につけて、その耳と尻尾を揺らした――鈴仙・優曇華院・イナバだった。


「れ、れれ、鈴仙? え、あ、あれ、なんで?」

 現状に思考が追いつかない。なんで鈴仙がここにいるのだ? 昨日、妖夢は永遠亭を先に後にしたけれど――鈴仙は地上に残ると決めたのだから、永遠亭にいるはずで、あれ?
 混乱する妖夢に、鈴仙は包丁を置くと、エプロンで手を拭って鍋の方に向かう。

「朝ご飯、もうすぐ出来るから、妖夢は待っててね」
「え、ちょ、ちょっと、鈴仙――」

 鍋の味見を始める鈴仙に、奥から姿を現した料理番の幽霊が何事か指示をしていく。鈴仙はそれに頷いて、またてきぱきと別の支度を始めた。妖夢は呆然と、それを見つめる。

「あらあら妖夢、こんなところでどうしたの~?」
「ゆ、幽々子様、これはいったい……」

 いつの間にか、背後に幽々子が現れていた。妖夢が振り返って尋ねると、幽々子は扇子で口元を隠したまま、愉しそうに笑った。

「まあ、詳しいことは、朝ご飯のときに話しましょうか~」

 いたずらっぽい主の笑みに、妖夢はただ「はあ」と間抜けに答えるしかなかった。


 で。
 普段は幽々子と妖夢のふたりだけの食卓に、三人目――鈴仙の座布団が敷かれ。
 三人分の朝食を挟んで、妖夢は鈴仙と向き合っていた。

「……えーと、朝ご飯の前に、説明しておいた方がいいよね」

 と、鈴仙はひとつ咳払いして、居住まいを正す。
 その隣で、幽々子は相変わらず愉しげな笑みを浮かべた。

「実は、妖夢が帰った後でね――」


      ◇


 時間を、昨晩に遡る。
 妖夢が帰ったあと、「月が出ているうちに」と、依姫たちも永遠亭を後にした。イナバの一匹をいたく気に入った様子の豊姫が、そのイナバを連れていこうとしたりと一悶着はあったが、サキムニと、キュウと、シャッカと、依姫と豊姫。五人は笑って手を振って、月に向かって帰って行った。
 鈴仙も、永琳や輝夜とともに、それを笑って見送った。笑って見送ることが出来た。
 そうして、どこか晴れ晴れとした気分で、鈴仙は永琳と輝夜に向き直った。

「お師匠様、姫様。――そういうわけで、これからもどうか、よろしくお願いします」

 そう言って、鈴仙は永琳たちに頭を下げた。
 地上に残るという決断を、永琳たちも認めてくれたのだから、それは当然の挨拶のはずだった。これからも永遠亭にお世話になります――という。
 しかし。

「……あのさー、鈴仙」

 と、そこに割り込んだのは別の声。振り返れば、今まで姿を見せていなかった因幡てゐが、永遠亭の塀の影から顔を覗かせていた。

「てゐ? そういえばあんた今までどこに――」
「鈴仙、あんだけ大騒ぎして、帰るって決めて別れの挨拶までして――それが一晩もせずに、やっぱり気が変わりました残りますって、いくらなんでも無いんじゃない?」

 ジト目でそうてゐに問い詰められ、鈴仙は「ぐ」と言葉に詰まる。
 いや、確かにてゐの言うことはその通りだ。その通りなんだけど――。

「ねえ、お師匠様。さすがに勝手過ぎますよねえ」
「全く、てゐの言う通りね」
「お、お師匠様ー!?」
「そういえば、もう人里にも帰るって触れて回ったのよねえ、鈴仙ってば」
「ひ、姫様ぁ」

 永琳も、輝夜までも、てゐの言葉に同調するように頷く。
 ――え、この展開って、ひょっとして、え?
 たじろぐ鈴仙に、永琳はにっこりと満面の笑みを浮かべて、言い放った。

「というわけで、鈴仙。貴方はもう、永遠亭からも自由よ。貴方の好きなようにお生きなさい」

 へなへなと、鈴仙はその場に崩れ落ちた。


      ◇


「……そういうわけで、路頭に迷っていた鈴仙ちゃんを、私がスカウトしたのよ~。白玉楼の家事手伝いとして、ね」

 鈴仙の話を引き継いで、幽々子が笑って言った。妖夢はただ呆然と瞬きする。
 永琳が、鈴仙を永遠亭から自由にした? いったい、どうして――。
 わけのわからないことばかりだったが、今こうして目の前に鈴仙がいるということは、その話は全て事実なのだろう。妖夢はひとつ息をついて、
 ――あれ、ということは、え?
 顔を上げ、鈴仙を見つめた。鈴仙はひとつ、照れくさそうにはにかんだ。

「ええと、そういうわけだから――」

 居住まいを正して、鈴仙はその場で深々と頭を下げる。

「これから、白玉楼でお世話になります。――よろしくね、妖夢」

 顔を上げ、えへへ、と笑って、鈴仙は頬を掻いた。
 妖夢は、その言葉の意味を咀嚼するように、ひとつしゃっくりをして。

「――ええええええええええええええええっ!?」

 そんな、庭師の大声が、冥界の桜並木を揺らして――秋の空に、こだましていった。








      7


 ――それから。


      ◇


 月の都、綿月邸の庭には、今日も兎たちの、いまいちやる気のないかけ声が響いている。
 その中で、やけに威勢の良い声をあげている兎が、約一匹。

「とぉりゃあ!」
「わっとっと、わっ」

 サキムニの銃剣が、シャッカの銃剣を弾いた。尻餅をついたシャッカは、ずれた眼鏡を直しながら疲れたようにサキムニを見上げた。

「ねえ、サキ――」
「ほら、なに座ってるのシャッカ。もう一本!」
「ええー」
「はい、構えて構えて!」

 無駄にやる気全開のサキムニに、シャッカは渋々銃剣を構え直す。
 レイセンは、キュウと組み手を続けながら、その様子を横目に眺めていた。

「サキ、あれから随分張り切ってるね」
「ま、いろいろ吹っ切るには身体動かすのが一番ってことじゃん?」

 キュウの言葉に、ふうん、とレイセンは目を細める。
 少し前に脱走騒動を起こしたサキムニだったが、数日後には戻ってきて、何事もなかったかのように隊に復帰した。かつて自分と同じ名前で呼ばれていた、昔の仲間の兎と地上でいろいろあったらしい――というのは聞いているが、基本的にレイセンは蚊帳の外だったので、何があったのか詳しいことは知らない。敢えて訊くことでもないだろう、と思う。今、レイセンの名前は自分のもので、それをサキムニもキュウもシャッカも受け入れてくれている。レイセンには、それだけで十分だった。

「はい、そこまで!」

 と、そこへ依姫の声がかかる。組み手を中断し、整列した玉兎兵たちを見渡して、依姫はひとつ咳払い。

「では、これから休憩とします。四半刻後にまたここに集合。いいですね?」

 はーい、と唱和して、兎たちはおのおの好き勝手に散らばっていく。

「うし、サキ、シャッカ、レイセン、桃食べよ、桃」

 キュウがそう声をかけ、庭の木から桃をもいで放った。桃の甘みが、疲れた身体に染み渡っていく。あんまりたくさん食べると、また依姫様に叱られるけれど。
 桃を食べながら、キュウが馬鹿な話をして、サキムニが笑い、シャッカが突っ込む。そんないつも通りの様子を、レイセンは桃を囓りながら眺めて、

「あ、いたいた。見つけたわ~」

 と、桃の木の方から声。振り返ると、木の上から飛び降りてくる影があった。

「豊姫様?」

 片手に桃を抱えた豊姫だった。豊姫はにこにこと笑いながら、手にした桃をレイセンたちにひとつずつ配って、それからきょろきょろと周囲を見回して、その場に腰を下ろす。

「依姫はいないわね?」
「はあ」

 ひとつ頷くと、豊姫はいたずらっぽい笑みを浮かべて、レイセンたちを見回した。

「ねえ、依姫には内緒で――今晩、地上に行かない?」


      ◇


 同じ頃、白玉楼、魂魄妖夢の私室。


「……で、きた」

 筆を置いて、原稿用紙の束を掴んで、妖夢は深々と息を吐いた。
 紙の上、《了》の字が記されたそれは、『辻斬り双剣伝』第二巻の原稿である。
 文机の上に原稿の束を置いて、そのまま妖夢はばったりと畳の上に倒れ込んだ。心地よい脱力感が全身を支配していた。――この一月ばかり、修行と仕事の傍らで必死に書いてきた原稿。それが、ようやく終わったのだ。
 ひとつの作品を書き終えるのはこれで二度目だけれど、一度目よりもなんだか充足感が強いように思う。それは――この原稿を、楽しみにしてくれる人がいるからかもしれない。

「書き上がったんだ……書けたんだ、私」

 起き上がって、原稿の束を愛おしむように妖夢はめくる。
 いつか、彼女に続きを求められたあの日から、七転八倒しながら書いてきた原稿。何度も躓いて、書けなくて、一度は書く理由さえ失いかけたけれど、こうして今、書き上がった原稿が目の前にある。その達成感に、妖夢は知らず頬を緩ませ、

「妖夢、入ってもいい?」

 ――唐突に、障子の向こうからそんな声が割り込んで、妖夢はびくりと肩を震わせた。

「どっ、どど、どうぞ」

 慌てて振り返りながらそう返すと、障子が開いて、そこから当の――ちょうど今、妖夢がその顔を思い浮かべていた彼女の姿が現れる。

「おつかれさま、妖夢。原稿、どう?」

 湯飲みの載ったお盆を持って、鈴仙・優曇華院・イナバは妖夢の元に歩み寄った。
 ――鈴仙が白玉楼で暮らし始めて一月ばかり。正直、未だにそのことに慣れない。
 妖夢はひとつ咳払いして、鈴仙の差し出した湯飲みを受け取った。

「ええと……うん」

 お茶を啜ると、ほっとする熱が身体に染み渡っていく。
 文机の上の原稿の束をちらりと見やって、妖夢はひとつ息をついた。

「実は……つい今しがた、書き上がったんだ」

 その言葉に、鈴仙がその目をまん丸に見開いた。

「本当? 出来たの?」
「う、うん」
「おめでとう、妖夢!」

 急に両手を掴まれ、鈴仙の顔がずいっと近付く。お茶の熱ではなく顔が熱くなって、妖夢は慌てて視線を逸らした。――何か色々と、心臓に悪い。
 と、鈴仙の視線が原稿の束に向いているのに気付いて、「あー!」と妖夢は叫ぶ。

「だ、だめ、まだ見ちゃだめ!」
「え、どうして? 書き上がったんでしょ?」
「いや、まだ推敲とかしないといけないし、私の手書きの字だから読みにくいし――ちゃんと本になったら、最初に鈴仙に渡すから、その、……それまで、もうちょっと、待って」

 書き上がったとはいっても、推敲前の原稿は未完成と同義だ。鈴仙に見せるのは、ちゃんと活字になって、これで完成、と言える状態にしてからにしたかった。――いちばん、この原稿を楽しみにしてくれていたからこそ、未完成では見せられない。
 鈴仙は不満げにひとつ唸ったが、「そっか、残念」と苦笑して、妖夢の手を離す。
 妖夢は思わず詰めていた息を吐き出して、文机の原稿を一旦片付けようと手を伸ばし、
 ――けれどもう、そこに原稿の束はなかった。

「あ、あれ?」
「そうね~。これからきちんと推敲して、本にして恥ずかしくないものにしないとね~」

 いつの間にか、幽々子がそこに立っていた。原稿の束をぱらぱらと捲って、愉しげな笑みを浮かべる。――う、と妖夢は小さく呻いた。前回、『辻斬り双剣伝』の第一巻を書いたときに嫌というほど思い知ったのだが、幽々子の推敲は全く容赦が無いのである。おそらく今回も、未熟な部分をずばずばと指摘されることになるのだろう。
 どれだけ直すことになるのだろう、と内心溜息をつく妖夢に、「それはそれとして~」と、不意に幽々子は両手を打ち鳴らした。

「ところで妖夢~。今晩は満月よ」
「はあ」
「というわけで、お月見をするわ~。お客さんももう沢山呼んでいるから、これから鈴仙ちゃんと、その準備、よろしくね~」
「え、幽々子様、そんな、聞いてませんよ!」
「ええ、言ってなかったもの~」

 邪気の無い笑みを浮かべて、幽々子はさらりとそう答えた。がっくり、と妖夢はうなだれる。
 原稿が終わった安堵に浸るだけの余裕は、やっぱり与えてもらえないらしい。

「妖夢」

 少し心配そうに、鈴仙が声をかけてくる。妖夢は振り返って、小さく苦笑した。

「……だそうだから、とりあえず準備しよう、鈴仙」
「あ――うんっ」

 そうとなれば、のんびりしている暇は無い。「じゃあ行こう、妖夢」と鈴仙が妖夢の手を掴む。妖夢はその手を握り返して、ふたりはぱたぱたと白玉楼の廊下を駆けていく。
 そんな従者と家事手伝いの姿を、幽々子が愉しそうに見つめていた。


      ◇


 同時刻。――幻想郷の各地。



 永遠亭では、届けられたその手紙を、八意永琳が受け取っていった。

「どうしたの? 永琳」

 輝夜に問われ、手紙を封筒にしまい直した永琳は、小さく苦笑して肩を竦める。

「宴会のお誘いよ。――輝夜、てゐ。今晩は白玉楼にお邪魔しましょう」
「あらあら、それは楽しみね」
「あいよーっと」

 えんかいー、おだんごー、とはしゃぐイナバたちを引き連れて、てゐはぱたぱたと駆けていく。永琳と輝夜はその姿に、顔を見合わせて笑みを漏らした。



 迷いの竹林のあばらやでは、藤原妹紅がその手紙を手に唸っていた。

「なんで白玉楼から私宛に宴会の誘いが来るんだ?」
「私に訊かれてもな」

 隣に腰を下ろした慧音は、ずず、とお茶を啜って肩を竦める。

「そういえば、永遠亭に居た鈴仙が、今は白玉楼に住んでいるそうだ」
「あの兎が? なんでまた」
「さあな。月に帰ると言っていたはずだが、何か事情があるんだろう」

 慧音の言葉に、ふうん、と妹紅は鼻を鳴らして、それから少し前の騒動のことを思い出した。あのとき、鈴仙がこの家に仲間を連れ込んだおかげで、妹紅も色々と動かざるを得なくなったわけだが――鈴仙が白玉楼にいるということは、呼ばれたのはその関係か?
 そこまで考えて、妹紅は顔をしかめる。――ということは。

「なあ、慧音」
「うん?」
「この宴会、どう考えてもあいつらも呼ばれてるよな?」
「永遠亭のか? 鈴仙が白玉楼にいるなら、当然そうだろうな」
「よし、行かない」
「こら、妹紅」
「なんで宴会に行ってまで輝夜と顔を合わせなきゃいけないんだ」
「いいじゃないか。酒の席ぐらい無礼講で」
「そうは言ってもな――」
「私は行くからな。せっかく呼ばれたんだ」

 慧音も封筒をひらひらとさせて、しれっと答える。そう、封筒は二通届いたのだ。妹紅の分と、慧音の分。――ぐぬぬ、と妹紅はひとつ唸る。
 永遠亭の連中のいるところに、慧音をひとりで行かせるわけにもいかないのである。妹紅は輝夜の仇敵で、慧音は妹紅の協力者。向こうからすれば敵なのだ。

「……解ったよ、行けばいいんだろ、行けば!」

 投げやりにそう叫んだ妹紅に、慧音はどこか満足げに頷いていた。



 人里の稗田邸では、稗田阿求がその手紙を風見幽香に見せているところだった。

「というわけで、白玉楼からのお誘いなんですが」

 阿求の言葉に、幽香はひとつ息を吐いて、眉を寄せる。

「人間の貴方を冥界の宴会に呼ぶなんて、これは婉曲的な宣戦布告なのかしら?」
「……いえ、それは違うと思いますけれど」

 さすがに亡き者にしようという意図は無いだろう。阿求は苦笑する。
 しかし何にしても、白玉楼の宴会なら様々な妖怪たちが集まるだろう。阿求としては、せっかく呼ばれたのだから参加しないという理由はない。

「それにしたって、冥界は遠いわ」
「そうですね。……ですから、エスコートをよろしくお願いします、幽香さん」
「仕方ないわね」

 幽香は笑って、阿求の手を取る。阿求も笑い返した。



 ――そして、マヨヒガの八雲邸では。

「紫様。幽々子様からお月見のお誘いですが――」
「ええ、承知しているわ」
「これは、失礼しました」

 畏まる藍に、紫は小さく苦笑して、マヨヒガに届いた手紙を見つめる。
 全く、あの騒動の後に自分を月見に誘うとは性格の悪い親友だ、と思う。
 それでも、幽々子からの誘いならば、断る理由は紫には無かった。

「藍。橙を呼んでおいでなさい」
「はっ――」

 嬉しそうに尻尾を揺らして屋敷を出て行く藍を見送って、紫は小さく笑みを漏らした。
 屋敷の窓から見上げた空に、まだ月は見えなかった。


      ◇


 同じ頃、月の都、綿月邸。


 サキちゃんたちを連れて、ちょっと八意様のところに遊びにいってきます。
 留守番よろしくね♪ あと、奥のお酒を手土産で持って行くからね。

ばーい豊姫




 置き手紙には、姉の私的な丸っこい文字で、そう記されていた。
 依姫はその手紙を手にしたまま、わなわなと震えて――。

 広い綿月邸の隅々まで轟き渡る怒声が、次の瞬間響いたのは、言うまでも無い。
 なお、その怒声の内容が、豊姫たちの身勝手に対する怒りだったのか、勝手に永琳の元へ会いに行ったことへの嫉妬だったのかは――依姫の名誉のため、伏せることにする。


      ◇


 そして夜、白玉楼。


「妖夢、お団子追加で~」
「はーい、只今ー」
「うおーい鈴仙、こっちもお団子切れたー」
「ちょっとてゐ、あんたたち食べすぎでしょ」
「あ、家事手伝いが客人にそんな口聞いていいの?」
「ぐぬ――」
「ついでに今度は酒もこわい」
「はいはい」

 宴もたけなわ、騒霊楽団の演奏が場を盛り上げる中、白玉楼の中庭では妖夢と鈴仙が忙しそうに走り回っていた。妹紅と輝夜が飲み比べで競い合い、慧音が藍となにやら話し込み、橙がイナバたちとたわむれ、誰彼構わず話を聞きたがる阿求を幽香が諫めている。
 そんな様子を、幽々子は永琳とともに杯を傾けながら眺めていた。

「鈴仙は、ご迷惑をかけてはいませんか?」
「よく働いてくれてるわよ~。炊事洗濯、何でもできるから重宝してるわ~」
「それは何より」

 また誰かが酒とお団子の追加を求めて、そこへ鈴仙が走っていく。
 その姿を愛おしむように見つめる永琳の横顔に、幽々子は目を細めた。

 ――鈴仙を、白玉楼で引き取ってくれないか。そう、最初に幽々子に頼んだのはてゐだった。
 あの日、木の枝の上に忘れられていたイナバを引き取りに来たてゐ。そのついでに、てゐは幽々子に頼んでいったのだ。『兎を一匹、死なせてほしいんだ』と。
 生きながら冥界で暮らすということは、半分死ぬようなものだ。
 冥界は死者の世界。故に、現世よりもここは遙かに穢れが薄い。月の都ほどではないにせよ――少なくとも永遠亭にいるよりは、冥界にいた方が鈴仙も、少しは長生きできるだろう。
 そういうわけで、永琳たちは話し合いの末、鈴仙を白玉楼に行かせることにしたのだ。
 もちろん、幽々子に否のあるはずもない。美味しそうな兎さんだから――ではなく、妖夢にとっても、鈴仙と一緒にいられるのは単純に嬉しいだろう、と思ってのことだ。
 要するに、幽々子も永琳も、自分の従者にはどこまでも甘いのであった。

「重ねて、ありがとうございます。鈴仙のことを、よろしくお願いします」
「ええ~。そちらも、いつでも会いに来てあげてね~」

 杯を打ち鳴らし合って、幽々子と永琳は笑い合う。
 不思議なものだ。天敵のはずだった不死の蓬莱人と、こうして杯を交わしているのだから。
 永遠に変わらぬものなどない。死して現世を離れても、その理からは逃れられないのかもしれない。だとしたら――。
 と、輝夜に呼ばれて、永琳は席を立った。手を振って幽々子はそれを見送り――それから、ひとつ息を吐いて、背後を振り返る。
 そこに、スキマから顔を出して杯を傾ける、八雲紫の姿があった。

「紫。今日は楽しんで貰えてるかしら~?」
「さて、ね」

 はぐらかすようにそう答えて、紫はどこか遠くを見つめる。
 幽々子もその視線の先を見つめた。――西行妖が、そこにあった。

「……ねえ、紫」
「何?」
「私ね、何かとても、大切なことを忘れている気がするの」

 枯れた桜の枝。その向こうに見える満月。幽々子は吐き出すそうに、言葉を続ける。

「だけど、思い出せないということは――思い出すことを、望まれていないのでしょうね~」

 紫は答えない。答えがあるとは思っていない。これはただの独白だ。

「きっと、忘れてしまった者は、忘れないということを羨むし――忘れられない者はきっと、忘れてしまえる者を羨むんでしょうね。――紫」

 紫の目は、何を見つめているのだろう。それは幽々子には決して解らないことだ。
 それでも、と幽々子は思う。――この旧友に、どうしても、思うのだ。

「ねえ、紫。私はいつか、思い出すことを許されるのかしら?」

 全てが変わりゆくならば、いつかその答えも得られるのだろうか?

「紫、貴方は――いつか、忘れることを、自分に許せるのかしら?」

 その問いに、紫はただ、杯に映る月を見下ろして。

「……許しはしないわ。私が私である限り、決して、ね」

 それは果たして、どちらの問いへの答えだったのだろう。
 ただ――幽々子はその旧友の肩に、自らの身体をそっと預けた。
 願うのは、どうか、この旧友の――絶対の孤独を、いつか誰かが埋めてくれることだ。

「紫」

 それは自分ではない。決して、ない。……だからこそ、幽々子は願うしかないのだ。
 紫は黙して、幽々子の重みを受け止めてくれていた。
 杯の水面に映る月が、微かに揺らめいて――溶けるように、滲んだ。


      ◇


 妖夢が台所でお団子を皿に積み上げていると、空き皿を抱えて鈴仙が戻ってきた。
 空き皿を洗い物担当の幽霊に預けた鈴仙は、妖夢の抱えたお団子の皿に目を留める。

「妖夢、持って行くの手伝うよ」
「あ、うん、ありがとう、鈴仙」

 抱え切れない分の皿を鈴仙に預けて、それからなんとなく、ふたりで苦笑し合う。
 自然と一緒に、ここで働いている――そのことが、なんだかくすぐったかった。
 まだ、鈴仙が白玉楼に居ることに慣れたわけではないけれど。
 そのうち、それが当たり前になっていくのだろう。こんな日々が続くうちに。
 ――そのとき、自分は、鈴仙と、

「あれ? 誰かお客様?」

 と、玄関の方から戸の開く音がした。幽々子が呼んだという客はもうみんな揃っているはずだ。妖夢が首を傾げると、「私、出るね」と鈴仙がお団子の皿を置いて駆けていく。
 来客も気になったが、とりあえずはお団子を運ぼう。そう思って、妖夢がお皿を抱え直したそのとき――。
 玄関から、鈴仙の素っ頓狂な声が響いた。
 慌てて妖夢は、お団子の皿を置いて玄関に走る。玄関で、鈴仙は硬直したように立ちすくんでいた。「どうしたの?」とその背中に声をかけて――そして、妖夢も目を見開く。

「こんばんは~。お邪魔しに来ちゃったわ」

 扇子を広げてそう笑っているのは、綿月豊姫で。
 その背後には、サキムニとキュウとシャッカと、もう一匹、見覚えのない兎がいた。

「やっほー、鈴仙。別れの余韻も何も無いけど遊びに来ちゃったよ」
「キュウ、そんな身も蓋も無い」
「豊姫様が行くっていうから、ね。……迷惑じゃなかった?」

 サキムニが少し不安げに首を傾げ、鈴仙が慌てて首を横に振って。
 その目尻に、ひとしずくの透明なものを浮かべて、笑った。

「ようこそ、豊姫様、サキ、キュウ、シャッカ。……ええと、それから」

 と、鈴仙がもう一匹の、妖夢も見覚えのない兎を見やる。
 その兎は慌てたようにぺこりと頭を下げて、バランスを崩しかけてわたわたとよろけた。

「あ、は、初めまして。――レイセン、といいます」

 その名前に、鈴仙はその目を見開いて。――そして、笑った。

「そっか。貴方がレイセンなんだ」
「あ、ええと――」
「サキたちと、仲良くしてね」
「……は、はいっ」

 鈴仙の言葉に、レイセンはもう一度深々と頭を下げる。

「ところで、宴会会場はどちらかしら~?」
「あ、案内します。みんな、こっち」

 と、豊姫たちを引き連れて、鈴仙は宴会の続く中庭へ向かう。
 妖夢はそれをぼんやり見送って――それから慌てて、台所にとって返した。お団子を早く持っていかないと、主がお腹を空かせてしまう。
 ただ、鈴仙と、月での仲間たちが、今もああして笑い合っている。
 その事実に、頬が緩むことだけは、抑えられなかった。


      ◇


 突然の月からの来客も交えて、宴は深夜まで続いた。
 月の面々と入れ替わりで八雲家が雲隠れしたり、妹紅が飲み過ぎでダウンしたり、また豊姫がイナバの一匹を強硬に連れて帰ろうとしたりと大騒ぎしつつ――夜は更けていく。
 そんな中を、妖夢と鈴仙はひたすら忙しなく動き回って。
 けれど、それだけで楽しかった。


 ――そうして、さすがに場も落ち着く頃。
 幽香と阿求は一足先に辞去し、酔いつぶれた面々がそこら中で雑魚寝する中、ようやく一息ついた妖夢と鈴仙は、縁側に腰を下ろして、肩を並べて月を見上げていた。
 それは一月前のお月見で、一緒に月を見上げたあのときのように。

「……ねえ、鈴仙」
「うん?」
「あれから、まだ一月なんだね」
「……そうだね。なんだか一年ぐらい経った気がするね」

 顔を見合わせ、苦笑し合う。満月の下、友達になったあの夜。あれからたった一月で、たくさんのことが変わった。そしてきっと、これからも変わっていく。
 その中で、鈴仙が今、こうしてそばにいてくれる、ということ。
 それが、魂魄妖夢の幸福だった。

「…………」

 ためらいがちに、妖夢は隣の鈴仙の手に、そっと自分の手を重ねてみる。
 鈴仙は驚いたようにこちらを振り向いたけれど、ふっと笑って、その手を握り返した。
 鈴仙の手の温もり。少し触れあう、肩の感触。風になびく、鈴仙の髪。
 全てが、妖夢にとってかけがえのないものだった。
 ――そしてたぶん、この感情がどういうものなのかも、もう解っていた。

「鈴仙」
「なに?」

 名前を呼んでみたけれど、その後に何と言葉を続けていいのか解らない。
 妖夢は顔を伏せて――それから、ポケットにしまっていたものを取り出した。
 それは、前々から鈴仙に尋ねたいと思っていたこと。今なら、聞けるかもしれないと思った。

「あのさ、これ――」

 妖夢が取り出したのは、くしゃくしゃの封筒。
 鈴仙は一度目をしばたたかせて――そして、沸騰したように真っ赤になる。

「えっ、ちょっ、え、まさかそれ、ちょっ――」

 ばっ、と鈴仙は妖夢の手からその封筒を奪い取り、中身を確かめて、何事か呻くように叫んだ。真っ赤になって妖夢から視線を逸らしたまま、鈴仙は頭を抱えて唸る。
 封筒の中身は、あの夜、イナバから手渡された、鈴仙の手紙だ。

「な、なんで妖夢がこれ持ってるの……? 捨てたはずなのに」
「……あの、鈴仙が帰ろうとしたときに、兎が私に」
「てゐかー!」

 鈴仙は叫んで中庭を見回したが、てゐの姿はどこにも見当たらなかった。
 ううう、と鈴仙は呻きながら妖夢を振り返って、気まずそうに首をすくめる。

「……妖夢、ひょっとしてあのとき、私を追いかけてきてくれたのって、これ読んだから?」

 妖夢が頷くと、鈴仙は「うああああ」と頭を抱えてうずくまってしまった。
 悪いことをしてしまったのかもしれない、と妖夢は罪悪感に身を竦める。読まれたくない手紙だったのだろう。結果的にそれが、今のこの状況に繋がっているとしても。
 まあしかし、それはさておくとして、だ。

「あ、あのさ、鈴仙。……あの手紙の、さ」
「な、何も聞かないで、あれに関しては何も聞かないで……」

 そう言われても、気になるものは気になるのである。
 この一月、原稿に集中することで気にしないようにはしてきたけれど。
 今なら、確かめてもいいと、そんな気がするのだ。

「……わ、私が、好きって言った日って、いつのこと……?」

 鈴仙が、きょとんとした顔で振り返った。
 妖夢は顔が熱くなるのを感じて、口を引き結んで顔を伏せた。


 あの日、妖夢が好きって言ってくれたときが、ハッピーエンドで。
 私と妖夢のお話が、そこで終わっていれば良かったのに。



 そう、あの手紙にはそう書かれていた。何度も読み返したから覚えている。
 思い返してみれば、確かに妖夢は一度、鈴仙に好きだと言った気がする。ただそれは、あの事件の最中――関係者が永遠亭に勢揃いしたあのときのはずだ。あのとき、妖夢は完全に心が折れていて、自分は鈴仙を守れないのだといじけていたし、鈴仙だってその後も散々、月に帰るか帰らないかで迷っていたはずだ。
 とてもじゃないけれど、ラブストーリーのような甘い告白ではなかったし。
 そこがハッピーエンドになるような告白でも無かったと、そう思うのだけれど。

「え? え、妖夢、あれ?」

 鈴仙は困惑したように、妖夢の顔と、自分の手にした手紙を見比べて。

「……あれ、妖夢……言って、なかった、っけ?」
「だ、だからいつのこと!?」
「ひ、一月前の、お月見のとき……」
「い、言ってないよ! あのときは、友達でいいよねっては言ったけど――」

 鈴仙が、目をしばたたかせて、それから困ったように首を傾げた。
 妖夢も困惑して、鈴仙の言葉を反芻する。あの日って、お月見の日? だけどあのとき、自分はただ鈴仙の友達になりたかっただけで、まだあのときは、好きだとまでは――。

「で、でも、私、言われた気がするよ?」
「い、言ったよ、確かに言ったけど、それはもっと後で――」

 顔を見合わせた。お互いなんだか話が噛み合っていない。
 ――ええと、つまり、どういうこと?
 妖夢は考えて――ひとつの可能性に思い至り、愕然と目を見開いた。

「え、ええと、鈴仙」
「う、うん」
「あの手紙の中の、好きって……友達として、ってこと、かな」
「え――う、うん、そのつもりだったよ?」

 がっくりと、妖夢はその場に崩れ落ちた。――そんなオチか。あんまりだ。
 この一月、あの手紙を読み返すにつけて、その意味に悶々としていたのに――。

「よ、妖夢、どうしたの?」
「う、ううん、何でもない……」

 ハートブレイクである。うなだれた妖夢を、鈴仙は心配そうに覗き込んだ。
 ラブストーリーを引き合いに出さなくてもいいじゃないか、と見当外れな文句もつけたくなる。全て、言っても詮無いことではあるのだけれど。

「妖夢……?」

 鈴仙は不思議そうに首を傾げて、それからまた手紙と妖夢の顔を見比べて、
 ――突然、鈴仙の顔が真っ赤になった。

「え、妖夢、ひょっとして、え? ……そっちの意味だと、思った?」

 妖夢は答えられない。ただ呻くしかない。笑うならもう笑ってくれ――そんなやけっぱちな気分で、ううう、と妖夢は呻いて。

「ちょ、ちょっと待って、え、え、えええ?」

 だけど、目の前で鈴仙はやけに慌てていた。妖夢は顔を上げた。
 鈴仙は真っ赤になった頬を押さえて、どうしよう、という顔で妖夢を見つめていた。

「鈴、仙?」
「ま、待って、ごめん、え、つまりそれってその――妖夢、その、私のこと」
「え? あ、――ああああああああああ!?」

 鈴仙の反応の意味を理解して、妖夢は思わず叫んだ。
 そうだ。鈴仙はまるっきり友達としての意味のつもりで『好き』という言葉を使っていた。それを自分が、あんな風に聞くもんだから――鈴仙も気付いてしまったのだ。妖夢と鈴仙の間で、『好き』の意味が根本的に食い違っていたことに。
 それは即ち、先ほどまでの会話が、丸ごと妖夢の告白になってしまったわけで。
 思わず妖夢は頭を抱えて――けれど、鈴仙の顔を見上げて、目をしばたたかせる。
 どうしようどうしよう、と呟きながら、鈴仙は真っ赤になっていた。
 ――あれ、認識はすれ違っていたけど、感情的には……ひょっとして。
 いや、それはこっちの勝手な都合のいい妄想なのかもしれないけれど、でも。

「鈴仙」
「よ、妖夢……」

 妖夢は、鈴仙の手を掴んだ。鈴仙が真っ赤な顔で振り返った。
 たぶん、自分の顔も同じぐらい真っ赤だったけれど――。

「れ、鈴仙、私、鈴仙のこと、」
「ま、待って妖夢!」

 妖夢の言葉を押しとどめるように、鈴仙がそう叫んだ。

「きゅ、急に言われても、私、どうしたらいいのか――だって、これじゃ」

 ぎゅっと目をつむって、鈴仙はぶるぶると首を横に振る。

「これじゃ――私、ずっと、妖夢のこと、好きだったの、友達だと思ってたってことに――」
「……え?」
「だ、だって、これが、友達として好きなんだって、この気持ちがそうなんだって、妖夢が私のこと友達だって言うから、だから私も、これが友達としての好きなんだって――」

 わたわたと混乱しきった様子でそう口にする鈴仙。
 その言葉を、妖夢は頭の中で反芻して――顔が、爆発するかと思った。

「鈴仙、えと、それって、その、ええと」
「あ、あう、妖夢……」

 視線がかち合った。ふたり、数秒間、真っ赤な顔で間抜けに見つめ合った。
 ――そして、次の瞬間、ふたりで大笑いしていた。
 そのまましばらく、笑い転げて。そして、お互い目尻を拭って、手を重ね合う。

「……恋愛小説みたいに、綺麗にはいかないものなんだね」
「そうだね……鈴仙」
「うん」
「……私、鈴仙が、好きだよ」
「……うん」
「初めは、友達として、だったけど……今はたぶん、もっと強い気持ちで、好きだと、思う」
「私は……どうなのかな。……最初から、妖夢のこと、好きだった気がする」
「友達と、して?」
「……あはは、もう、なんだかわかんないや」

 そして、額を合わせて、ふたり笑い合って。
 どちらからともなく――目を閉じて。
 青白い月の見守る下で、その朧な光に照らされて。
 ――触れた柔らかな感触は、いつまでもそうしていたくなるような、不思議な温もりだった。


 唇が離れると、触れあう吐息のくすぐったさに、またふたり、小さく笑い合って。
 そして、互いに手を重ねて、――指を絡めて、強く握りしめて。
 妖夢と鈴仙は、月を見上げた。遠い過去と、今と、それを繋ぐ白い光を。


 過去も、罪も、全てが今へ地続きだから。
 その全てが、鈴仙・優曇華院・イナバという少女そのものだから。
 自分は、それをずっと守っていこう、と思った。
 折れた剣でも、弱いこの腕でも、きっと守れると、そう思った。
 ただ――心から守りたいという、この想いが、胸にある限りは。


 月は、地上の全てを見下ろしていた。
 未熟者の剣士と地上の兎は、その光を見上げて、重ねた手をいつまでも、離さないでいた。




<うみょんげ! おしまい>
(月一連載全12話のはずが完結に1年半かかるとは)思わなかった。


 いろいろありましたが、無事最終話まで辿り着けてほっとしております。
 というわけで、ここまでのお付き合い、本当にありがとうございました。
浅木原忍
[email protected]
http://r-f21.jugem.jp/
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コメント



0.4200簡易評価
1.100THOR削除
お疲れ様でした。無事大団円を迎えて、何というかホッとしております。
甘酸っぱい青春を思い出して、ニヤニヤしております。
3.100名前が無い程度の能力削除
胸が熱くなるラストでした。
ありがとう。
4.100名前が無い程度の能力削除
熱い。どこか寂しい。だが胸やけしそうな程甘い。
長編お疲れさまでした。どのキャラクターもしっかり魅力を発揮していてとても面白かったです!妖夢も鈴仙も他のキャラも更に好きになれました。
ありがとう!
5.100名無し削除
さあ、うみょんげのイチャイチャを書く作業に戻るんだ
終わり良ければ全てよし
10.100名前が無い程度の能力削除
いい!すばらしい!終わりもキレイ!w
11.100名前が無い程度の能力削除
ついに完結!
最後までやっぱりどこか抜けている二人、可愛くてしかたないです。
読み応えのある長編をありがとうございました!
15.100名前が無い程度の能力削除
一年半お疲れさまでした。
最初から最後まで目が離せなくて、作品が投稿されるたびに読むたびにワクワクドキドキしっぱなしでした。
素晴らしい作品をありがとうございました!
17.100名前が無い程度の能力削除
おめでとうございます!
いやはや感無量、言葉になりません。二人のこれからの道に祝福を。
この大作の完結に、なんだか少し寂しさを感じてしまいますネー。きっと二人は二人だけの物語をこれからも紡いで行くことでしょう。
全てが収まるべき所へおさまった大団円。……きっといつか秘封な大妖怪の相方の姿も
18.100名前が無い程度の能力削除
この連載が始まったときは、嬉しさのあまり小躍りしてしまった事を今でも覚えています。
毎回毎回二人の甘酸っぱい関係に頬を緩ませつつ、設定に対する解釈や消化の仕方に膝を打ちながら楽しませていただきました。
20.100名前が無い程度の能力削除
連載完遂、おめでとうございます。
鈴仙と妖夢に幸あれ。
21.100名前を忘れた程度の能力削除
うん、綺麗に終わってめでたしめでたし。
この1/2人と1羽の今後に幸あれ。

霧雨書店設定は次の何かにも引き継がれることを祈りつつ、おつでした!
27.100名前が無い程度の能力削除
完結お疲れ様でした!
作者さんの描く妖夢と鈴仙はとても好きでした。ハッピーエンドで良かった!
28.100名前が無い程度の能力削除
まさか、引越しを妨害した上に両親公認で同棲するとは!
1年半お疲れ様でした。
あなたの描く世界がずっと続いていきますように。
29.100名前が無い程度の能力削除
1年半の連載完結、おめでとうございます! そして、お疲れ様でした!
色々難産だったようですが、終わってみればしっかり浅木原さんらしい、素晴らしい作品に仕上がったと思います。主役の2人も最終回でキッチリ決め、でも最後までやっぱりどこか抜けていて……らしいなぁと思ってしまいました。
……それにしても、『忘れ物』は消去法でそれしかないと思ってましたが、『死なせて欲しい』ってそういう意味ですかw 『月の兎としてのレイセンを死なせる』ような形で介入するのかなーとか安易に考えていたので、いい意味で裏切られましたw
改めて、連載終了お疲れ様でした! 今後も更なるご活躍を期待しています!
30.100名前が無い程度の能力削除
お疲れ様でした!最後どう終わらせるのかと思っていましたが同棲ENDとは…その後なんて書いてはくれませんよねえ…私はこの二人みたいに初々しいのが好きなんでこの作品の設定を引き継いだ作品も見たいです。ところで折れた楼観剣と白楼剣はどうなったのですか?というか修理できる人はいるのか?妖忌あたりなら出来そうな気もするけど。
毎回コメント欄にわけの分からない批評家気取りが沸いてたことが唯一残念でした。またあのフリーレスが現れませんように。
34.90名前が無い程度の能力削除
寿命問題での解決が、冥界での同棲とはw
一年半、おつかれさまでした。
41.100Rスキー削除
お疲れ様でしたー!
長く、長く楽しまさせて頂きました。
2人のいじましい、けれど温かい関係に乾杯です!
42.100名前が無い程度の能力削除
お疲れ様でした!毎回毎回、楽しく読ませて頂きました。
ああ、次は成就した恋の話を語る作業に戻るんだ……
44.100名前が正体不明である程度の能力削除
楽しかったよん。
48.無評価名前が無い程度の能力削除
この期に及んでも月の魅力がまるで描かれないという徹底振り。戻ったら記憶失うとか本当マイナスだらけで、こんな魅力の差がありすぎる二択なら
うどみょん要素がまるでなくても地上を選ぶだろ、むしろ選ばなきゃ不自然ってレベルになってますねー。うどみょんの重要性まるで感じられませんでした。
相手を矮小化しすぎたせいで持ち上げたい側までしょぼく見えるって構図は儚月抄のそれを彷彿とさせます。
月の魅力とかは誰も書きたくないでしょうから仕方ないとしても、せめてうどんげと月の連中との思い出(4話の描写は正直、こんな居づら過ぎる状況なら普通に逃げ出すわなとしか思えないものでした)とかうどんげの死への恐怖とかの描写を増やしたほうが結果的にはうどみょんや地上を持ち上げるためにもよかったんではないでしょうか?
他にも普通に考えて外道、ひいき目に見ても狂人なのになぜかみんなに慕われて幻想郷を愛してる(笑)とかいわれちゃう紫とか、月をディスるためだけに登場したとしか思えない幽香とか、見てていい気のしないキャラが多かったです。
ってかこの辺のキャラは必要あったんでしょうか? こいつらのせいで終盤のうどみょんが影薄すぎなんですけど。この話うどみょんの絆がテーマですよね? 紫の因縁どうこうの話とか、依姫倒す展開考えたよーな話とか、そういうのは違う作品でしっかり描けばよかったんでは? 
面白い話ではなかったんですけど、突っ込みたくなる点がやたら目に付いて楽しいお話ではありました。本当、儚月抄みたいで・・・・・・こういう気持ちになれる作品はそうそう多いものではなく、そういう意味である種の名作ではあったかと思います。増えてほしいとは思いませんけど。
49.100名前が無い程度の能力削除
とりあえずフリーレスには不満があるなら帰れと言いたい。お前の言い分にも同意できる部分は多少ある。だがはっきり言って荒らしとしか思えんコメントがほとんどで作品を汚している。ここで面白かったとかお疲れ様と言ってる人はこの人の作品が好きだからこうして見に来ているんであってお前の気に食わないところを並べる場ではない。第一そんなに不満ばかりなのに何故最後の最後までコメントしてるんだ?アドバイスしたいのならコメントの仕方を考えてもらいたいわ。せっかく極僅かながら+になるような意見を言っていてもこれではただ他の読者を不快にさせてるだけだ。
52.100名前が無い程度の能力削除
完結おめでとうございます!
こちらの作品を本で知ってから続きを楽しみにしておりました!二人の楽しい時や苦しい時などの表現すごく楽しめました!他の作品も楽しみにしております!
妖夢と鈴仙の二人に幸あれ!
55.無評価名前が無い程度の能力削除
儚月抄はどうしようもない駄作で、それに立脚した話も微妙
心情描写は好き
紫周りの話は蛇足 気になって注目の軸がブレる
舞台装置にしてもなんとかならなかったものか

月の姉妹は本当見てて腹が立つばかりのキャラになっちゃったなあ
作者が作者なので追っかけたけど、題材としてはもう一生見たくない
57.100名前が無い程度の能力削除
↑だったら何で見たの?気に入らないなら途中で帰れよ。楽しんでるやつの邪魔すんなクズ
58.無評価名前が無い程度の能力削除
>>57
レスにレス返しするアホがここにもいたか
何で見たの、って、人に見せるために掲載する場じゃないのここ
感想を書く以上は最後まで読むものじゃあないの
管理者や作者ご当人ならさておき、お前に文句を言われる筋合いはないな
59.100名前が無い程度の能力削除
いや、お前は見た上でグダグダと不満垂れ流してるんだろうが。8話あたりからずっと自分の不満ばっか並べてるみたいだが49も言ってるようにそんな前から不満があったなら見るのをやめればいいだろうに。

>感想を書く以上は最後まで読むものじゃあないの
だったら何故最終話まで張り付いてるんだよ。お前のコメントからは自分の希望する展開が無いからこの作品はクソという感じしかしないぞ。そんなに綿月姉妹の強さが際立つ話が見たいならここに張り付いて批判ばっかするよりは自分の望む作品を書く作家を探し回ったほうが得だと思うぞ。
60.無評価浅木原削除
そこまでよ!(パッチェさん略

>禁止・注意事項は下記の通りです。
> ・第三者がコメントにコメントを返す事
> (コメントはあくまでも、投稿された作品に対してのもののみです)

このコメント欄での言い合いは創想話の規約に抵触しますので、双方矛を収めていただけますようお願いいたします。

作品が公開された時点で、読者の方がどのような感想をもたれましてもそれは自由ですし、また創想話の規約に抵触しない限り、このコメント欄でそれを表明するのもまた自由です。
厳しい意見を寄せられるとすれば、それは作者の実力不足にも起因するものであり、それを止める権利はこちらにはありません。作者としては謙虚に受け止め次に活かしていきたいと思います。
いずれにせよ、この場での言い合いは何も生み出しません。双方これ以上はご遠慮ください。


以下、少しだけ、これは蛇足。
読んで感想をくださる方がいなければ、創想話は成り立ちません。
そして、コメント欄に書かれた皆様の感想は、全て書かれた方の作品であると自分は思います。
同じ言葉で、誰かに何かを伝えるために書かれるという意味で、コメントも立派な作品なのです。

賞賛の言葉は、作者への大きなモチベーションになります。
厳しくとも的確な批評も、また作者にとっては糧となります。
ただそれは、全て「作者へ向けた言葉」であってこそです。
創想話のコメント欄は、コメ返しが規約で禁止されている以上、「作者へ向けた言葉」を書き込む場であろうと思います。

あなたの書き込もうとしているコメントという作品は、「作者へ向けた言葉」になっていますか?
その問いを皆様、他の作品にコメントする際も、心に留めておいていただければ幸いです。
66.無評価名前が無い程度の能力削除
>>59
俺感想書いたの初めてなんだけど
67.50名前が無い程度の能力削除
作者自らレス返しを諌められてる中、行う不躾をどうかご容赦を

>>55
>月の姉妹は本当見てて腹が立つばかりのキャラになっちゃったなあ
>作者が作者なので追っかけたけど、題材としてはもう一生見たくない

今回の話では舞台装置の踏み台役なせいでこんなことになってますが
原作じゃ全然違うもっと暢気な性格なので勘弁してあげて・・・あまり嫌わないであげて・・・マジで泣きたくなる
原作じゃ誰よりも月と地上の両者の不幸を防ぐために戦っている優しい娘たちなんです・・・
69.70名前が無い程度の能力削除
いいんじゃない?レス返しするアホがいるっていってるやつですらやってるんだから。しかもおもいっきり嘘言ってるし。
記事のコメントも見たが確かにフリーレスのせいで若干荒れてるな、いい作品なのにホント残念だ。

シリアス物である以上誰かが嫌われ役になるのは仕方ないはず…批判するならそこを理解した上で言ってもらいたいな。
俺は原作で紫に土下座させたり主人公たちをフルボッコにしたりと綿月姉妹は敵役にされやすいキャラだと思う。シリアスならなおさらだ。この話はうどみょんメインだが月から依姫が連れ帰りに来る以上手薄になった月に紫が侵攻するのはありじゃないかな。予定があるならの話だが次回作の複線を張りつつ作品自体の雰囲気の転換も図れるしいいと思うよ。ただ誰かさんが言ったように原作での強さを考えると能力封じられたくらいで幽香にボコられるのはやりすぎかな。疑似弾幕勝負で咲夜、魔理沙、レミリアと戦った後霊夢を圧倒できるくらいだから格闘込みでも幽香には序盤少し苦戦したけど問題なく勝つくらいでよかったと思う。
70.無評価名前が無い程度の能力削除
お前もきっちり荒らしてるじゃん
あとだれそれが強いとかいうのももううんざりなんだけど
それが荒れるもとの一つだし

あとコメント欄で個人特定できる機能ないんだから、
レッテル貼りはやめとけ
キリがない
71.無評価名前が無い程度の能力削除
今まで自分勝手なコメントで作者および読者の皆様に不快な思いをさせて大変申し訳ありませんでした。
今後は一切のコメントを控え作品を読むことのみに留めます。今後も浅木原さんの作品を楽しみに待っています。
76.80名前が無い程度の能力削除
長い話お疲れ様でした
77.70名前が無い程度の能力削除
夜読み始めたのに気づいたら朝じゃないですかー!やだー!
ガッツリのめり込んで楽しませていただきました。いやーキスまで長かったですね!こういう不器用さがうどみょんの美味しいところだとも思いますが。
ただ、代々伝わる刀が折れちゃってたり、終盤紫の話のほうが盛り上がってたりが気になったりはしました。というか紫=蓮子説は初めて見た気がしてそっちのストーリーが気になったり
これからも作品追いかけさせていただきます!釘付けになる作品に感謝!
78.100名前が無い程度の能力削除
超長編お疲れ様でした。やっぱり最後がハッピーエンドで終わると気持ちがいいですね。
鈴仙と月組も交流を続けられてるし、寿命の問題も解決…とは言わないまでも対処は出来てるし。
妖夢と鈴仙の仕事風景をもっと詳しく見てみたいかも!

ちょっと気になったのは紫関係と幽香・阿求の話のあたりでしょうか。
ストーリー的に必要なのは分かるんですが、あまり心情的に入り込めませんでした。
メインのはずの妖夢と鈴仙がほとんど絡んでこなかったからかな?

多少あれ?って点もありましたが、全体を通してみると非常に面白かったです。
もう一度、お疲れ様でした。次回作にも期待しています。
81.100名前が無い程度の能力削除
最高のハッピーエンドでした、ありがとう!
83.100名前が無い程度の能力削除
連載お疲れ様です!私はこの物語を去年の5月ごろから読んでいたのですが
いつの間にか話にズルズルと引きずり込まれてしまいましたww
最初はただ妖夢と鈴仙が仲良くするほのぼの話から鈴仙達の葛藤になり
妖夢の鈴仙にずっとそばに居てほしいけど、鈴仙には長く生きて、
自分を忘れられるのは辛いけどずっと幸せでいてほしい気持ちに
かつての仲間と一緒に妖夢達と自分の犯した罪を忘れて暮らすのか、自分を大切に想ってくれた
永琳や妖夢達と共に月に居るよりも短い時間を罪を償いながら過ごすかで迷っているところ
さらに、紫の秘封倶楽部での楽しかった日々を取り戻そうと必死になるシーンを見てたら
気付いたら泣いてました。
最後も違和感のないハッピーエンドになっててとても面白かったです
作者様、こんな感動を私に与えてくださってありがとうございます!!
87.90r削除
素敵でした。
前話では、ああハッピーエンドがいいなあと不安になり、最終話で安心しました。
やはり大円談は宴会ですよね。東方界隈では定石ですが、それがいいんだと思います。

さて大分忘れていた部分があるので一からまた読み直してきます。
97.100名前が無い程度の能力削除
大変面白かったです!
本当に!
とっても面白かった
その一言では語り尽くせないものもありますが、貧弱な語彙に任せていてもふさわしい言葉は思い浮かびません!
それほどに素晴らしい作品でした!
ありがとうございました!
99.100ヤタガラス魅波削除
素晴らしい話でした!最後は綺麗におさまって良かったです。
最後の依姫と豊姫は可愛くて好きです。
後誰か楼観剣と白楼剣を心配しろよww
109.100名前が無い程度の能力削除
創生話の中でもここまで荒れてるコメ欄は初めて見たわ、新鮮でした(笑)

内容に関しては賛否別れる内容ですね
自分の中で強さランキングが出来上がってる人がみたら二次創作というだけでは納得できなかったのかもしれない

内容は途中から予想できてしまったのですが、心理描写等が細かく十分最後まで読み切ることができて素晴らしかったです

個人的な話だと鈴仙があと数十年で死んじゃうってのが悲しいです
とりあえずこのうどみょんには幸せになって欲しいと願うばかり
113.100名前が無い程度の能力削除
つい一気読みしてしまいました。これだけ素晴らしい長編作品を読ませていただけたことに感謝致します。うどみょんもっと流行れ!
120.70名前が無い程度の能力削除
やだ、なにこれ……(コメント欄を見ながら)
中盤冗長になりつつも最終的なうどみょん万歳! で終わっていい気分だったのわぶち壊すようなコメント論争に草生えるwww
それはそれとしてゆかりんのエピソードは完全に不必要な要素だった気がして別にこの話にいれる意味ないよね、とか思ったりなんだり
作中で最終的に解決しないなら組み込まずに別のエピソードとして扱うべきだったんじゃないかな、とか
ほら、うどみょんPHANTASMモードとかそんな感じの裏話的な扱いで
あくまでうどみょんメインの話なんだからうどみょんに直接関わる面々だけで話を回しておけばもっと軽快な青春ラブストーリーで落ち着いてたと思うのだけど、ゆかりんだけが異質過ぎてストーリー全体にブレーキをかけてる感じで残念でした

ってか今更こんな書き込みするのも変な話だよなぁw
121.100名前がわからない程度の能力削除
ふえぇ・・・本読んでマジ泣きしたの久しぶりだよ・・・神、いやそれ以上です!
書いてくれてありがとう!
122.無評価名前が無い程度の能力削除
・・・自分の少ない語彙では表現できないくらい素晴らしいです!これからも書いてください!!
123.無評価名前が無い程度の能力削除
・・・自分の少ない語彙では表現できないくらい素晴らしいです!これからも書いてください!!
124.20名前が無い程度の能力削除
うーんやっぱり儚月抄は触れたら大火傷するってのが改めて分かりました初期の稗田文芸賞に沿った話は好きでしたよ
125.100名前が無い程度の能力削除
4年も前にこんな作品があったなんて…不覚。半分ぐらいまで読み進めたとこで、書籍のほうを探しまわり運良くまとめ買いできたので(中古で買ってごめんなさい)、そちらで一気に読みました。よかった!うどんげ、妖夢だけでなく、依姫や紫、永琳や玉兎たち一人一人の「弱さ」が胸にくる作品でした。どう向き合い、どう行動し、どのような結果になるのか…特に主人公2人には最後までやきもきさせられましたが、予想外なハッピーエンドで最高の読了感でした。書籍版では新妻エプロン鈴仙の挿絵があり、そこからもうニヤニヤしっぱなし。ちゅっちゅ成分も一気に充足されました。またいずれ鈴仙と妖夢を主人公にした話ができるのを楽しみにしています。
137.100名前がない程度の能力削除
後日談......ほしいなあ