Coolier - 新生・東方創想話

幻想郷リーグ 第九幕

2011/12/21 14:20:46
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ペナントレースもいよいよ終わりに近づいてきた、残りはわずかに6試合。
レッツの現在3位、2位のルナーズと2ゲーム差、首位のドリームスとは5ゲーム差-------世間では今年はドリームスだという意見が7割を占めている、ドリームスは残り6試合でマジック4が点灯しておりさらに2位のルナーズとは3ゲーム差をつけている。おまけに今日からの3連戦はルナーズとレッツの潰し合いかつドリームスは最下位のスカイズとの対戦だ。

「今日からルナーズとの最後の3連戦よ!優勝はかなり厳しい状況になったけどまだ可能性は0じゃないわ、残り6試合全力でいきましょう!」
レッツが優勝する条件は残り試合全て勝ち、ドリームスが残り試合全て負ける事だ。幸運にもルナーズとの三連戦の次はドリームスとの最後の直接対決、このカード三連勝してドリームスがスカイズに三連敗すれば最後のカードまで優勝の可能性は残る。そんな厳しい状況だがレッツは誰もあきらめていない、わずかでも可能性があるならそれを信じて闘う、全員がそんな表情だ。

「今日からの三連戦はこっちは裏ローテで相手は表ローテだけど今更そんなことを気にしてられないわ!誰が相手でも打ち崩すしかないし投げる方も抑えるしかない、それしか私たちに道は残されていないわ、全員腹くくりなさい!」

-------レッツ最後の逆襲が今始まる。

一試合目 VS永遠亭ルナーズ

先攻:紅魔館デビルレッツ スターティングメンバー
1 遊 咲夜     右投左打
2 中 ミスティア  左投左打
3 左 慧音     右投右打
4 三 妹紅     右投右打
5 捕 美鈴     右投右打
6 一 キスメ    右投右打
7 二 小悪魔    右投両打
8 右 妖精メイド  右投右打
9 投 妖精メイド  左投左打

後攻:永遠亭ルナーズスターティングメンバー
1 左 リグル    右投右打
2 右 因幡うさぎ  左投左打
3 中 豊姫     右投右打
4 一 輝夜     左投左打
5 遊 鈴仙     右投右打
6 三 因幡うさぎ  右投右打
7 二 てゐ     右投左打
8 捕 因幡うさぎ  右投右打
9 投 依姫     左投左打

レッツの先発は妖精メイド、今シーズンは6勝を挙げており裏ローテの中ではもっとも期待できる投手だ。対するルナーズの先発はエースの依姫、ここまで13勝をあげており信頼も厚い。ルナーズも優勝するためには最低でもあと4勝が必要なため出し惜しみなどしてこない。

試合は初回から動いた、一回表のレッツの攻撃を依姫が三者凡退に抑えたその裏、リグルがいきなりのツーベースで出塁すると、すかさず送りバントで一死三塁。
ここで打席には豊姫、ルナーズの三番バッターとしてここまで26本塁打を記録している中距離砲だ。
(最低でも一点は挙げておきたいわね、先制して主導権を握っておきたいわ。)
初球を打つと打球はきれいに三遊間をやぶるレフト前タイムリーヒット、リグルが生還してルナーズが一点先制する。
崖っぷちのレッツにとってあまりにも痛い先制点の献上、妖精メイドがマウンド上で狼狽える。

(レッツも僅かだけど優勝の可能性が残ってるものね、でもそれも今日でおしまい。ルナーズ2連覇の礎になってもらうわ。)
輝夜が打席に向かいながら思う、ルナーズも2連覇のためには負けてもいい試合なんて無い。
狼狽えている裏ローテの妖精メイドから打つことは4番の輝夜にとっては容易いことだった、3球目をとらえた打球は右中間をまっぷたつにやぶる2ベースヒット。
続く鈴仙には2点タイムリーヒットを浴びレッツはこの回3失点を喫してしまう。

「まだ初回が終わっただけよ、まだまだ挽回のチャンスは残されてるわ!集中して行きましょう!」
レミリアが早くもベンチで声を張り上げる、エース相手に3点のビハインドがかなり悪い状況であることは明らかだった。
この回も妹紅が四球で出塁するもののその後が続かない、美鈴のゲッツーも絡み結局3人で攻撃を終える。
しかし2回以降は妖精メイドも立ち直りルナーズに得点を許さない、0-3のまま回は6回を迎える。

この回の先頭打者は2番のミスティア、今までの2打席で三振2つとまるで依姫にタイミングがあっていない。
(今日はまた一段とスライダーがよくキレてるね、あっちも必死ってわけね。けどこっちも負けるわけにはいかないんだよっ!)
2-2からの5球目---ミスティアの身体に向かって飛んできたボールは途中で方向転換して外角いっぱいへと向かう、依姫のウイニングショットのスライダー。
それをミスティアはレベルスイングで振り抜く、今まで振り下ろすようなダウンスイングしかしないミスティアに外野前進守備を敷いていたルナーズだったがバットを水平に振るレベルスイングから放たれた打球は、前進守備のライトの頭を超えていく。
(あそこまで真横に滑るスライダーならダウンスイングよりレベルスイングの方がいいかと思ったけどドンピシャだったね!)
打球の行方を見ながらミスティアが全力疾走、ボールが内野に返ってきたときには悠々と三塁へ到達した。

「ミスティアさんってあんなにパンチ力あったんですねぇ、今までダウンスイングばっかりだったからわからなかったですよ。」
ベンチで今の打球を見て美鈴が感嘆の声をあげる。それを聞いてレミリアが口を開く。

「正確には今までダウンスイングをしてたから身に付いた、と言うべきかしらね。」
「どういうことですか?お嬢様。」
間髪入れずに美鈴が聞き返す、レミリアの言葉の意味がわからないといった表情を浮かべている。

「これがいつものミスティアのバットよ、持ってみなさい。」
そう言ってレミリアがミスティアのバットを美鈴に手渡す。

「重っ!なんですかこのバット…、普通のバットの1.5倍は重いですよ…?」
美鈴が思わず口に出す、パワーヒッターなら多少重いバットを使う事があるがミスティアは決してパワーヒッターではない、なのにこの重さのバットを使う事は考えられなかった。

「たぶんダウンスイングをするためだけに特化されたバットなんでしょう、振り下ろすのなら上手く使えば重さはプラスに働きそうだしね、1シーズン通してそのバットを使ったことで上半身にもだいぶ力がついたんでしょう。そして今の打席ではいつものバットではなく普通の重さのバットを持っていった…、後はわかるわね?」
レミリアはミスティアのバットについての考えを淡々と述べていく、そしてそれが正解であることはベンチの誰も疑わなかった。

そしてサードベース上では
(いつのまにかだいぶ力が着いたんだなぁ…、そろそろダウンスイングからも卒業かな?)
ミスティアが自分の手をまじまじと見ながら思う、憧れの選手---射命丸に少しは近づけただろうか--

そして打席には今日ヒットを一本放っている慧音が向かう。
(この回なんとか2点は返したいところだな…となればここは犠牲フライでランナーをいなくするくらいなら四球で出塁したいところだな。)
粘りに粘った10球目、依姫のスライダーが外角からど真ん中に甘く入ってくる、これを慧音は見逃さずにセンター前に運びその間にミスティアがゆっくりとホームイン、これで1-3となった。

続く打者は妹紅、例によって相手の守備体系がサード、レフト寄りになっていく。
(相変わらずのシフトだな…、ならスタンドまで飛ばせばいいんだろう?)
にやりと笑って打席で構える、その姿はまさに四番打者にふさわしく依姫を萎縮させるほどのものだった。

(相変わらず集中してるときのこの方の威圧感は凄まじいわね…、どこに投げても打たれる気がするわ…。)
マウンド上で依姫が弱気な考えを浮かべる、妹紅がルナーズ戦では打率.350 本塁打12 点40 とルナーズキラーぶりを見せつけている事もあるだろう。
弱気で投げたボールというのは良い結果は生まないもの、初球のスライダー-----身体に当たりそうな場所から内角ギリギリを掠める球を投げたつもりだったがボールは一個分真ん中よりへ入っていく、依姫がしまったと思ったのとスタンドが歓声につつまれたのは同時だった。 同点のツーランホームラン、レフトスタンドに弾丸ライナーで突き刺さる、まさに目のさめるような一発。
妹紅が控えめなガッツポーズをとりながらダイヤモンドを一周してホームイン、これでゲームは振り出しに戻った。

しかしその裏ここまで踏ん張っていた妖精メイドがついに捕まってしまった、先頭の鈴仙に四球を与えると送りバントでランナーを得点圏に、ここで打席にはてゐ。
てゐは打撃力こそ高くないがいやらしいプレイを得意にしており打撃妨害での出塁、某キャッチャーも真っ青のデッドボール詐欺、隠し球などが非常に多い選手であり、駆け引きも上手く相手の意表をつくプレーも多い。
この打席でも内野陣が多少前進守備なのを確認すると、一球目にセーフティバントの構えを見せ、これをごく自然にファールにする。
続く二球目も同じようにセーフティバントの構え---からのヒッティング、叩き付けた打球は前進していた妹紅の頭を越えていく、咲夜が急いでカバーするがどこにも投げられないでオールセーフ。一死一三塁となる。

ここでレッツベンチが動く、レミリアが審判に投手交代を告げるとグローブをつけてマウンドへ。
スタンドではレミリアが出てきたことによる安堵感と絶望感の入り交じった声があがる。今季こういう競った場面でレミリアはことごとく相手のチャンスを葬り去ってきた、1点差以内にかぎればレミリアの防御率は0.50を切っている。

一塁ベース上でてゐが少しでもレミリアにプレッシャーをかけようとリードを大きくとっている、レミリアはそれを一瞥してから美鈴とサイン交換、何度か首を振ってからの第一球は外角高めに外れるストレートこれを美鈴は捕球するやいなや一塁に向かって牽制、てゐはタッチをかいくぐろうとするが一塁はキスメ、タッチをよけれるわけもなくあえなく牽制死。
8番バッターの因幡うさぎを簡単に三振にとってレミリアがベンチに向かう、相手の6回のスコアに0が入っている事を確認しながら。

7回8回を依姫、レミリア両投手が0に抑えこのまま延長戦に突入するかと思われたが、9回の表にキスメの第6号ツーランホームランが飛び出した、マウンド上で依姫が力なくうなだれる。
それを見て永琳が投手交代を告げたあと依姫を労いにマウンドへ足を進める。
「お疲れさま、今のは不運な事故みたいなものよ、あまり気にしちゃだめよ。」
永琳がうなだれる依姫に声をかけるが依姫は相変わらずうなだれたまま答えた。
「申し訳ありません八意様…、これが最後の登板になるかもしれなかったのに八意様につなぐような投球ができませんでした…」
まさかここまで5本塁打しか打っていなかった打者に打たれるとは思っていなかったのだろう、声は今にも消え入りそうなほどだった。
「まだ試合は終わっていないわ、あなたが今できるのはベンチから試合を見て応援する事よ、わかったらベンチに戻りなさい。」
永琳はそれだけ言うと一足早くベンチ帰っていく、依姫も少し遅れて足取り重そうにベンチへ帰っていく。

そしてレッツ2点リードで迎えた9回裏のマウンドには守護神ルナサ、いつものように落ち着いた様子で投球練習を行っている、以前と違うのは表情だけでなく本当に落ち着いている事だ。
(よし、今日もいつも通りにすれば大丈夫、それに今日は2点差あるから1点はあげられるしね。)
ルナーズも一番からの好打順だったが簡単にツーアウト、打席には先制タイムリーを放った豊姫。

(依姫がうなだれてるのは見てて気持ちいいものでもないしなんとかしたいわねぇ…、なんとか出塁して後は輝夜様に任せようかしら。)
豊姫は自分がホームランバッターでないことともしホームランを打ててもまだ同点にはならないことを考えると自分が出塁して輝夜の同点ツーランに期待した方が良いという判断をしてとにかく塁に出る事だけを考えて打席に立った。
ルナサは豊姫の構えを見てその考えを読み取る、構えを小さくし、バットも短く持っている構えは明らかに単打狙いか粘って四球待ちだった。

(なんとか出塁して4番に託すっていったところね、でも長打が無いなら逆にやりやすいわ。)
ルナサは内心笑みを浮かべながらバッターに相対する、長打がないというのは守っている側からすればあまり警戒しなくていいので多少楽になる、それが普段は長打のあるバッターならなおさらだ。
いつもより強気で攻めてくるルナサに豊姫は手も足も出なかった、簡単に追い込まれて低めの変化球に手が出て空振り三振でゲームセット。

「よし!まずは一勝!明日からもこの調子で勝ち続けるわよ!」
ベンチでレミリアが勝鬨を挙げる、チームのテンションも最高潮に達している。今なら負ける気がしない、そんな雰囲気が溢れている。

2試合目------昨日の試合で勢いに乗ったレッツは止まらない、試合序盤から大量7点のリードを奪い試合を優位に進める。
3回、6回と輝夜にソロホームランを浴びるも試合は7-2でゲームセット、この時点でルナーズと同率の2位に浮上し明日勝てば単独の2位になる。

試合後、紅魔館へと帰る前妹紅は輝夜に呼び止められ、球場通路で話していた。
「妹紅、開幕前に約束したこと覚えてるかしら?」
輝夜が笑みを浮かべながら妹紅に尋ねる。

「あぁ…もちろんだ、打率、本塁打、打点の勝負だったよな?」
妹紅が当たり前だ、と言わんばかりに答える。この勝負があったからこそ妹紅はルナーズキラーになれたといっても過言ではないのだから。

「それで今の成績だけど、今日で私が打率.418 本塁打14本 打点44 あなたが打率365. 本塁打13本 打点42、明日仮に私が4打席無安打、あなたが4打席4安打しても打率は私が上回るわ、本塁打と打点もほんの僅かながら私が勝ってるわ。このまま終われば私の完全勝利ね。」
輝夜が妹紅を挑発するように言う、まるで自分の勝ちを確信しているように。

「はっ!今のうちにいい気になっておくんだな!ほえ面かかせてやるよ!」
妹紅がすかさず言い返す、まだ勝負は終わっていない、明日でひっくり返してやると強い気持ちを込めて。


「妹紅…お前はいったい何のために野球をしているんだ…?」
通路の陰で偶然今のやり取りを聞いていた慧音がつぶやく、そのつぶやきは誰の耳にも届かず消えていった。



そして迎えたルナーズとの最終戦、レッツの先発は裏ローテ三番手の妖精メイド、ここまで先発ローテーションは守ってきたものの4勝11敗と結果がついてきていない。
対するルナーズの先発は今季入団のチルノ、140キロ中盤のストレートとアバウトなコントロールとずば抜けたところこそないが過剰なほどの自信から来るマウンド度胸と一瞬凍ってるのではないかと錯覚するほどのブレーキの効いたチェンジアップが持ち味だ。

「チームの危機をあたいのピッチングで救う!この試合で改めてあたいのサイキョーっぷりを見せつけてあげるわ!」
マウンド上でチルノがスタジアム全体に向かって叫ぶ、試合開始と同時に行われるこのパフォーマンスはもうおなじみだ。

「いつもにまして気合い入ってない?あの氷精。」
レミリアがため息まじりにつぶやく、実際調子に乗られるとやっかいな投手であり、ここまで8勝を上げているその実力は侮れない。

「今日負けたらルナーズは優勝が消滅しますからね、サイキョーを名乗りたいチルノにとって優勝以外はありえないんでしょう。」
咲夜がレミリアのつぶやきに反応する、咲夜の言葉を聞いてレミリアが納得したように脱力。

「やれやれ…あちらさんも必死ってわけね、でも負けてあげるわけにはいかないのよねぇ…!!」
レミリアがニヤリと笑ってグラウンドを見つめる、ここで終わるわけには-----いかないのだ。

レッツは1回にいきなりチャンスを迎える、咲夜がヒットで出塁するとすかさずミスティアが送りバントで一死二塁、続く慧音がライト前に運んで一死一、三塁。
ここでバッターは4番の妹紅、スタジアムからはいきなりのチャンステーマが流れている。

(ここで一発打てば輝夜にホームランで並んで打点はひっくり返せる…!!)
構えに思わず力が入る、威圧感は凄まじいものがある。

(ふふん、もこーもやる気みたいね!でもサイキョーなのは私だから無駄よ!)
相手が4番でやる気満々でも関係ない、球を置きに行く事なく腕を振って投げ込んでくる。
1-0からの二球目、ストライクゾーンに来ると思って妹紅は思いっきりバットを振り出す。

(ボールが…来ない!?くそっ!チェンジアップかっ!)
チルノお得意の途中で凍ってるのではないかと思うくらい球のこないチェンジアップ、体勢を崩された妹紅は当てるだけのバッティングになってしまう。
バットに当たったボールは三塁線へのゴロ、因幡うさぎが二塁へ転送して1アウト、慧音がゲッツーはとらせまいと相手の足を払うようにスライディング。

(これでゲッツーは防げたはず!咲夜はホームに帰れなかったが美鈴ならまだまだチャンスだ!)
そう思って一塁を振り返る、ボールは妹紅が一塁ベースを走り抜けるより早く一塁手のミットへおさまる、ゲッツー完了でスリーアウトチェンジ。
それを見て慧音はすぐさま妹紅に詰め寄る。
「妹紅!!なんで全力で走ってないんだ!?お前が生き残ればまだチャンスだったんだぞ!?」
しかし妹紅はうつむいたまま何も答えない、慧音を振り払うようにベンチに帰りグローブを持って守備につく。

先発の妖精メイドは大きく借金こそ作っているが実力が無い訳ではない、いわゆる「持ってない」投手なのだ。
抑えれば味方の援護無く、援護があったかと思えば不運な当たりや味方のエラーで失点を重ねてしまう。
そんな彼女にとって1回表の無得点は慣れっこだったのだろう、無難に3人で切って捨てる。

2回以降はゲームに動き無く完全に投手戦の様相を見せている。
両投手ランナーこそ出すものの得点は許さない、回は進んで6回表。

先にしびれを切らしたのはチルノだった。
ここまで自分は0に抑えているのに援護が全くない、それはチルノをやきもきさせるものだったのだろう。
(あたいが抑えてやっているのになんで援護がないのよ!おかしーじゃない!)
チルノは投手戦にめっぽう弱い投手だった、5回まではいいのだがそれをすぎて援護が無いとカッカしてしまう癖がある。
(この回もさっさと抑えてベンチに帰るんだから!)
カッカして投げたストレートは真ん中に吸い込まれるように入っていき-----

一閃、レフトスタンドにライナーで突き刺さる妹紅の先制ソロホームラン。
妹紅がガッツポーズをつくることもなくダイヤモンドを一周する。

「よし!妹紅ナイスバッティングよ!この展開での一点先制は大きいわね!」
レミリアがベンチでガッツポーズ、あとは6、7回をなんとか凌いで8回をレミリア、9回ルナサで逃げ切りたいところだ。

一方のチルノはここでお役御免、マウンド上で輝夜たちに食い下がるも最後はしぶしぶとマウンドを降りて行く。

「チルノが続投してくれればこの回まだ点はいりそうでしたが…さすがにルナーズも見切りをつけてきましたね。」
咲夜が感心したようにつぶやく、実際レッツとしてはここで畳み掛けたかったのだが投手交代でさらに間までとられては畳み掛けるのは難しいだろう。

「妹紅ナイスバッティング、一打席目が嘘みたいだな!」
慧音が明るく話しかける、純粋に妹紅のホームランを喜んでいる、だが---

「まだだ…あと一本は打たないと…」
慧音の言葉がまるで耳に入っていない様子だった、あと一本、というのはもちろんホームランのことだろう。
その様子を見て慧音は昨日の会話を思い出す、だがベンチで話してはいけない気がして口をつぐんだ。

続くバッターが打ち取られてこの回は一点どまりでチェンジ、裏のルナーズの攻撃も妖精メイドがきっちりと抑える。
7回のレッツの攻撃も先ほど代わった因幡うさぎに抑えられてしまう。
そして迎える7回の裏のルナーズの攻撃、打順は1番からの好打順。

この妖精メイドは最後の最後まで-----「持っていない」投手だった。
1番のリグルを打ち取ったあたりだったがピッチャー、ファースト、セカンドの間にころがるボテボテのゴロで内野安打を許すと2番の因幡うさぎが打ち上げたライトフライは突風にあおられてそのままスタンドへ吸い込まれる逆転のツーランホームラン----
どちらも完全に打ち取った当たりだった、マウンド上で妖精メイドが膝から崩れ落ちる。

それを見てレミリアが腰をあげる、ピッチャー交代を告げたあとそのままマウンドへ。
「お疲れさま、6回2失点なら上出来よ。さ、ベンチに帰りなさい。」
レミリアが妖精メイドに声をかける、妖精メイドは生気の失せた顔でマウンドを降りていく。
その背中を見届け-----
(この一年本当にありがとう、お疲れさま。あなたはちょっとツイてなかっただけだからそんなに気にしないでいいのよ。)
心の中で感謝を述べる、それだけ思ったあとはホームベースへ向き直って投球練習を開始する。
3番の豊姫からであったがレミリアの前では簡単にアウトになっていく、クリーンアップを三者三振。逆転したはずのルナーズベンチとスタンドが一気に静まり返る。

8回は両チーム無得点でついに最終回を迎える。
レッツはベンチ前で円陣を組む、もちろん中央にはレミリアの姿。
「ついに最終回よ!点差は一点、相手はルナーズ守護神の八意永琳!逆転勝ちするには最高のシチュエーションじゃない!」
さらに打順は一番の咲夜からの好打順、スタンドもファンが必死に応援している。

(去年の今頃はとっくに終戦してたわね…、応援してくれたファンのためにもここで勝たなきゃ嘘でしょ!)
打席に向かいながら咲夜が考える、スタンドで声を張り上げるファンを見て改めて胸が熱くなる、やるきは満タン紅魔館のメイド長、出陣。

(レッツもあとが無いから必死ね、あの咲夜がここまで感情を表して打席にたったことがあったかしら?)
マウンド上で永琳が咲夜を見て思う、咲夜はどんなときでも表情を崩さず、淡々と自分の仕事をこなすイメージだったがこの打席では明らかに違っている。
永琳は右のサイドスローのピッチャーだ、球速は150kmを超え、右打者の内角をえぐるシュートと左打者の内角に切り込むカットボールを持ち玉としている横変化をあやつるピッチャーだ。ルナーズのセットアッパーからストッパーまでこなしておりここまで30Sと24Hを記録している。

永琳の第一球は左打者の外角をかすめ取るようなシュートボール、ギリギリに決まってストライク。
(一球目から厳しい球投げるわね…まともにいったら厳しそうだわ。)
二球目は先ほどとは正反対の体に向かって鋭く曲がるカットボール、これを咲夜は一塁線にセーフティバント。

「打ち気まんまんだったじゃない!騙された~!」
輝夜があわてて一塁からダッシュ、しかし輝夜は足が速くない、むしろ鈍足にはいるだろう。そんな輝夜が意表をつかれたセーフティを刺せるわけなく咲夜は一塁を悠々とかけぬける。
これで無死一塁、バッターボックスにはミスティアが向かう。

一試合目の打撃を見てからルナーズの外野は前進守備をひくのをやめたようで定位置に守っている。
ミスティアも一試合目で打撃に自信をもったようで、あれ以来普通のバットでレベルスイングのフォームに切り替えている。
そしてミスティアにはまだ「全力で投げ込んでくるストッパー」の球をはじき返す力は無かった、3球目のストレートをふらふらっと打ち上げる、今までならただの浅いセンターフライ。
しかし、相手が前進守備をひいていなければそれはポテンヒットになる-----セカンド、ショート、センターの間に落ちる当たり、これで無死一、二塁。

三番の慧音は打席に向かいながら考えていた。
(さっきの妹紅の様子と昨日の輝夜との会話を考えると…成績か何かで争っているようだった…そんな妹紅にこのチャンス任せられるだろうか?)
今の妹紅ならこのチャンスで確実に「自分のためのスイング」をするだろう、なら自分で勝負に出た方が正しいのではないだろうか-----
そう考えながらバッターボックスに入るが考えはまとまらない。しかし永琳にはそんなこと知る由もなく初球を投げ込んでくる、初球ストライクでカウント1ストライク。
(よし、決めた!)
一球見逃して慧音はどうするべきかを決心する。 そして永琳から投じられたボールは内角へ-----投じられたはずだった。

ドンッ!!

鈍い音がして慧音が崩れ落ちる、頭部へのデッドボール。ヘルメットこそしているがそれでも硬式球が頭に当たる衝撃はハンパではない。
思わずレッツベンチからレミリア達が飛び出す、乱闘さわぎかと思われたその時だった。

「慧音っ!!!!!!」

妹紅がバッターボックスの慧音に向かって走り出す、倒れている慧音に向かってひたすら声を掛ける。
「慧音!大丈夫か!? おい!慧音ったら!」
ひたすらに慧音に呼びかける、気が気でないようだ。

「大丈夫妹紅…といっても今日は勘弁してもらいたいが。」
慧音が消え入りそうな声で答える、両チーム、スタンドから慧音に意識があることがわかり安堵のため息が漏れる。
「妹紅…、私たちはこのチームを優勝させるために来たんだろう…?ならここで私的な理由を持ち込むのは間違ってるぞ、お前はこのチームの4番なんだから…」
それだけ言うと慧音は担架でベンチ裏の医療室に下がっていく。一塁代走には今日控えとしてベンチ入りしている中で一番足の速いフランドール。ピッチャーで代走に出されることは珍しいが無い事ではない、彼の先発すると足がつっちゃうピッチャーも代走で出場したことがある。

迎える場面は無死満塁でバッターは4番、最低同点、一気に勝ち越しまで狙うには最高のシチュエーション。
(ありがとう慧音、大事な事は私と輝夜の勝負じゃない、応援してくれているファンのための優勝だ!)
バッターボックスで妹紅は気持ちを切り替える、今までとは別の執念を燃やす。輝夜への勝利から---チームの勝利への執念へと。

ルナーズはマウンド上で内野陣が集まっている。
「さて、無死満塁のピンチね、一応一点勝っているし裏に攻撃が残ってるから点取られたらおしまいってわけじゃないから開きなおっていきましょう。この際一点までは仕方ないわ。」
輝夜が内野陣に声を掛ける、さすがに永琳がこんなピンチを迎えると思っていなかったのだろう。
「それに次は4番とは言え妹紅よ、シフトにひっかかってくれればホームゲッツーをとることも難しくないわ、永琳もひっぱりたくなるようなインコースで芯で捉えられないような球投げるのよ。」

「難しいことを言うわね…、まぁシュートでなんとかひっかけさせられるようにするわ。打たせていくからサードとショートはしっかり守ってね。」
永琳が輝夜に答えた後内野陣に指示を出す、といってもいつも通りのサード方向に極端によるシフトを引くだけなのだが。
打席に妹紅が向かうとそれに応じて内外野の守備も左方向に寄っていく。

(毎度毎度のことながら極端な守備体系だよな…一二塁間にはほとんど輝夜しかいないじゃないか。)
さながらそれは左右の違いこそあるがまるで王シフトのようで-----
(今まではあのシフトをぶち破るのが楽しかった、何人左方向に寄せても反応できないような打球を打つのが楽しくて、ただそれだけだった。でも今は------それじゃだめなんだ。)
そう考えてマウンド上の永琳に向き直る。

第一球、外角のストライクからボールになるカットボール。これを簡単に見逃し1ボール。
(やっぱり初球からあれはひっかけてくれないわね、とりあえずカウントをもらいにいきましょう。)
第二球は先ほどとは逆のボールからストライクになるシュート、これにも手を出さず1ストライク1ボール。

(さすがに外角にあの球は手が出せないね、真ん中より内に入ってくれればいいんだけど…)
バッターボックスから外し妹紅が考える、外角は単純に打つのが難しい、流し打ちが得意なバッターでもあれには手が出ないだろう。

続く3球目は真ん中内側へのストレート、絶好級に慌てて手を出すが三塁線右に切れていく痛烈なファールボール。
スタンドからは安堵と落胆のため息がもれる。
(これで追い込んだわね、あとは内角シュートでつまらせれば注文通りかしら?)

追い込んだ妹紅を仕留めるように永琳が第四球、内角をえぐるようなシュートを投げ込む。
(追い込んだらここに来ると思ってたよ!でもまだだ、まだ我慢!)
いつもならバットを振り出すタイミングだがまだバットを出さずに溜めを作る。
(溜めて溜めて…ここだ!)
インコースをえぐりこむシュートをコマのように体を回して窮屈そうに詰まりながらもはじき返す。
打球の行方は------ 一塁線への高さ充分の緩やかなライナー。

一二塁間を守っていた輝夜が必死にジャンプするがボールはミットのはるか先を通りすぎていきフェアグラウンドへ、誰もいないライト線へ転がっていく。
三塁ランナーと二塁ランナーが悠々とホームイン、打った妹紅も一塁を蹴り二塁へ向かう。その背中を輝夜がただ見つめる。
(まさかあなたがチームのために流し打ちするとはね、あ~あ、完敗ね。)

ライトがやっとボールに追いついたときすでに一塁ランナーフランドールも三塁ベースを回っていた。ライトが懸命のバックホームをするがフランドールの足の方が速かった。
走者一掃の逆転タイムリーツーベース。レッツは土壇場で試合をひっくり返した。
守護神が打ち砕かれ、相手の4番に逆転打を許し意気消沈したルナーズに2点差を盛り返す力は残っていなかった。
9回裏はルナサがきっちりと三人で抑えゲームセット。この時点でルナーズが優勝争いから脱落する。

「ふぅ~、なんとか首の皮一枚つながったわね、って言ってもドリームスが3連敗してないとシーズン終了なんだけど。」
レミリアが安堵のため息、さすがに今日の展開は心臓に悪かったらしい。顔には疲れが見える。
ベンチ前で選手たちを迎え入れなければ---そう思ってベンチから腰をあげると同時にパチュリーがベンチに駆け込んでくる。

「どうしたのよパチェ?そんなに慌てて。」
レミリアが不思議そうに尋ねる、今日パチュリーはベンチ入りメンバーではないので紅魔館で軽い練習を行っているはずなのだ。

「はぁ…はぁ…そりゃ慌てたくもなるわよ、ドリームスがスカイズに三連敗したわ…!!」
パチュリーが息を切らせながら早口に言う。言い終わるとベンチに全体重を任せる。

「まさか…あのスカイズがドリームスに三連勝!?」
レミリア自身も驚いたようだ。すでに最下位に王手をかけているチームが優勝のかかっているチーム相手に戦力、士気ともに勝っているとは思えない、ドリームスが三連勝することはあっても逆はまずないだろう。というのが本音だったのだ。

「そのまさかよ、どうやらあの亡霊姫が三試合大暴れしたみたいよ。こっちとしてはありがたいけど相変わらずよくわかんない姫様よね。」

「なんだっていいわ、まだ私たちのシーズンは終わっていない!最後の3連戦が決着の舞台ってわけね!このあとミーティングするわよ!」
ベンチに帰って来た選手たちにそれを伝える、その目は力強く輝いていた。



試合が終わったあと輝夜と妹紅は球場通路で話していた。
「まさかあそこであなたがホームランを捨ててくるとは思ってなかったわ、でも勝負は個人成績なんだからね!今季は打率は私の勝ち、打点はあなたの勝ち、本塁打は一緒だから…引き分けね。」
輝夜が妹紅に言い放つ、意地でも「私は」負けてないと言いたいんだろう。その姿を見て妹紅は少し前までの自分を見ているようで思わず苦笑い。
「あぁ、わかってるよ。勝負は来季に持ち越しだな。でも個人成績での勝負はやめにしようぜ、次はチームの順位で勝負だ。」

そう答えると輝夜は呆気にとられた顔を見せ一言つぶやくように言う。
「あなた…変わったわね。」

「そうかも知れないな、さっきまではお前に勝つ事が目的だったが今はチームの勝ちが一番大事なんだ、それを教えてくれたのはこのチームで、慧音だったよ。」
妹紅が笑いながら答える。そして慧音という単語を聞いて輝夜が尋ねる。

「そういえば慧音は大丈夫なの?うちの永琳が申し訳ない事したわね。」

「あぁ、軽い脳震盪だけだったらしい。医務室で休んでたらもう治ったみたいだぞ、大事をとって先に帰ってはいるが。じゃあそろそろ私も帰るよ、チームミーティングがあるんだ。またな。」
そう言って妹紅は振り返って歩きだす。その姿を見送る輝夜が叫んだ。
「絶対優勝しなさいよ!前年チャンピオンのチームを踏み台にして行くんだから!」
妹紅は手だけで合図した-----。


いよいよペナントレースも最後の3試合、優勝をかけた直接対決3連戦へ------
お久しぶりです。
就活怖いよ就活ってことで約半年ぶりの投稿となり遅くなった事をお詫び申し上げます。
こっちのペナントレースも終わってしまいました、皆様のひいき球団はいかがだったでしょうか?

実在選手紹介

達川光男 デッドボール詐欺の人、あたったふりして自分で自分を引っ掻いて赤く見せてデッドボールもらったりしてたちょっとずるい人、野球解説等でもたびたび出ている広島弁の野球好きなおっちゃん。

小林宏之 ピッチャーながら代走に出た事のある人 その理由は「控えで一番足が速いから」 鴎軍団にいたときに先発をしていたけどどうにも足がつっちゃうのでリリーフに転向。それでも結果を出しちゃう凄い人。 虎軍団に入ってなんだかイマイチ。来季はまた先発するかもだって。

他球団紹介
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綿月豊姫 昨シーズン成績 無し
     今シーズンからルナーズの3番に入った中距離砲、見た目によらず案外俊足。走攻守とバランスの取れたプレーが持ち味。

八意永琳 昨シーズン成績 防御率2.54 勝3 敗5 S35
     ルナーズの守護神兼セットアッパー、相手の一番怖い打順のときに出てくるリリーバー、そのため他のリリーフエースと比べると防御率に劣るが実力は全く遜色無い。
何かの尻尾
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コメント



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1.100名前が無い程度の能力削除
最新話きたー! ずっと心待ちにしておりました……でも就活ならしょうがないね。

冒頭いきなりレッツの優勝が絶望的過ぎて笑ったものの、ここから奇跡のレッツ3連勝&ドリームズ3タテ。熱くなってきましたね……
今年「持ってない」選手だったのは澤村かなあ。澤村の時に限らないけど、巨人打線の援護がな過ぎて萎えてた記憶が。
あと永琳、よく危険球退場にならなかったなw
3.80名前が無い程度の能力削除
これは10.19な予感

↑今年だけで言えば「持ってない」は杉内がぶっちかと・・・w
6.100名前が無い程度の能力削除
待ってたぜ!


最後の熱い試合をみせてくれ。

>某キャッチャーも真っ青の

やっぱり達川さんですよね~www
7.100名前が正体不明である程度の能力削除
次が楽しみだな~。
11.100名前が無い程度の能力削除
続き楽しみにしてました。

名無し妖精にも、きちんと成績と個性があって面白かったです。
チルノみたいな選手はいたら面白そう。
13.100名前が無い程度の能力削除
中日は最後の最後で勝てなかったっすなあ……

他チーム視点でのお話も読んでみたいです。スカイズ頑張れ超頑張れ。