東方X戦記
第20話「魔理沙は大変なスペルを発動しました」
前回のあらすじ:勇者帝国の移動基地に乗り込んだ魔理沙は軍団隊長のオメガとの戦いで苦戦中。以上
「ってなんか適当だな、そのあらすじ!おっとそんなこと言っている・・・・・・ん?」
今にもオメガの特攻に当たりそうな瞬間、とある事に気が付く。一か八かだ!そう決心した魔理沙は何とスペルカードを発動!?
「スペル発動!『恋符:マスタースパーク』!!(横撃ちver!)」
「っ!?」
魔理沙のマスタースパークはオメガに当たらずに真横に放たれたのだ。その反動で何とかオメガの攻撃を避ける。
「どうやら、Uマスタースパークが出来たお陰でマスパとFマスパの消費が0だったぜ・・・・・・ってどこの錬金術師!?」
「・・・・・・(予想外だな・・・・・・スペルを攻撃ではなく、回避用として使うとは・・・・・・流石は霧雨魔理沙、か・・・・・・)」
取り敢えずはオメガの攻撃を避けきれた魔理沙だったが、状況はあまりよくないかもしれない。
「(アリス達は親衛隊と戦っているし・・・・・・あっちは強力な人工のスペルカードを所持・・・・・・状況は芳しくないな・・・・・・。)」
「霧雨魔理沙・・・・・・もはや、反撃としての切り札はない様だな・・・・・・さっさと降伏した方が身の為だぞ。」
「っ!?誰がするか!お前は何とも思ってもいないのか!?キリュウは・・・・・・奴は私達の仲間を殺しただけじゃなく・・・・・・そいつらをサイボーグ部隊に改造したんだぞ!それでも・・・・・・!?」
魔理沙の言葉に対し、オメガは無言で聞いていたが・・・・・・
「・・・・・・それは違うぞ・・・・・・。」
「?何が?」
「親衛隊の者は・・・・・・彼女等は皆、自ら進んで改造手術を受けたのだ・・・・・・強制ではなく、な・・・・・・。」
「なっ・・・・・・!?嘘だっ!何の理由で・・・・・・!?」
自ら進んで改造手術を受けた?オメガの言葉に魔理沙は混乱した。キリュウが無理やりに改造したのではなかったのか?
「・・・・・・彼女等は皆、私も含め、それぞれに悲しい過去を秘めている・・・・・・家族の問題、人権の問題、学校での問題・・・・・・そう、狂った世の中が彼女を生み、皆がそれを憎んでいる・・・・・・キリュウか・・・・・・奴と共に行動する理由は世界を変えると言う同じ目的を持っているからだ・・・・・・それに私は只、命令された事は完璧にこなす・・・・・・兵士だからな・・・・・・。」
「そんな・・・・・・そんな事って・・・・・・!?」
オメガの言葉に魔理沙は絶句した。まさか、彼女達にそんな事があったなんて・・・・・・。
外の世界は自分等、幻想郷の住人達を不幸にさせたと思っていた・・・・・・だが違っていた。
オメガ達は外の世界を憎悪している為にキリュウと行動していたのだ。
「(私は・・・・・・私は一体、どうすればいいんだよ・・・・・・霊夢・・・・・・。)」
「それにしても、よくとまぁ頑張っているもんだねぇ・・・・・・。」
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・あ、妹紅さん。怪我は大丈夫ですか?」
「慧音が数日間の怪我を少しだけ“なかったこと”にしたからな、この位の傷なら何とか再生できる。」
一方、幻想郷では紫による強烈な特訓を何とか終えた鈴仙の所に傷をすっかり完治した妹紅がやって来た。
「そういうあんたは大丈夫か?いかにも死にそうだけど・・・・・・。」
「何とか大丈夫です・・・・・・咲夜や妖夢達も弱音を吐いていませんし、霊夢だってあれから2日目だけど、きっと厳しい修行をやっているに違いありませんから、私も頑張らないと・・・・・・(それに、“もう1人の私”やレグリンの事もあるし・・・・・・。)」
「そうか・・・・・・強くなったな、鈴仙・・・・・・。」
「い、いえ・・・・・・咲夜に比べたら・・・・・・。」
「それにしても紫から聞いたが、あんたら“伝説の夢想技”を使いこなせるって?それさえあればキリュウを倒せるのか?」
「分かりません・・・・・・ただ紫さんが言うには、今の私達では本当の力を発揮しきれてないって・・・・・・。」
そう言い、鈴仙は思案する。うまく制御できるようになったら、もう一人の自分を抑える事が出来るだろうか?
そして、囚われの永琳師匠とR島で氷に閉じ込められている姫様(輝夜)を助けられる事は出来るだろうか??
その時、鈴仙の背後から紫がニョキッとスキマから上半身を出し、一同に号令をかける。
「さて・・・・・・取り敢えずは今日の修行はここまで。皆も無理はしないで今夜はゆっくり休みなさいね。」
「っ!?紫さん、いきなり後ろから出てこないで下さい!心臓に悪いので・・・・・・。」
「あらあら~御免遊ばせ~♪それじゃあ、明日の事はスキマ通信で言うけど・・・・・・彼女等はどうする?」
紫が指さす方向には早苗によって大妖精と共に救出されたエミリーと咲夜に連れて来られたマリアの2人だった。
「メイド長に巫女2P・・・・・・何で外の世界の人間を連れて来た・・・・・・のですか?」
「あら?私が何をしようと貴方には関係無いでしょ?」
「・・・・・・(やはり、あまり活躍していないから、妖精達の間では未だに霊夢さんの2P扱いですか・・・寂しいです・・・・・・)サニーさんの気持ちも分かります・・・・・・ですが、外の世界全てが悪い人とは限りません・・・・・・どうか分かって下さい・・・・・・。」
「・・・・・・(人間ながら霊夢みたいに強いからね・・・・・・これ以上の文句は危険かも・・・・・・)」
そう考え、不服そうにサニーは押し黙ると咲夜と早苗はマリアとエミリーの元へ向かう。
「さて、声の事は後で鈴仙に診てもらうとして、一応は紅魔館へ案内するわよ。」
「・・・・・・。(コクッ)」
「ねぇ、東風谷早苗と言ったっけ?やっぱり私はお邪魔では・・・・・・。」
「遠慮しなくていいですよ。エミリーさんの事は薫さんに任せられましたから。」
かくして、皆がそれぞれの家に帰っていく中、紫はふうと一息ついて呟く。
「問題は未だに外の世界にいる魔理沙ね・・・・・・魔理沙も“伝説の夢想技”の使い手だといいけど・・・・・・無事かしら・・・・・・?」
魔理沙は苦戦していた。オメガの人工スペルに苦戦しているだけではない。
最初、魔理沙はキリュウが外の世界の少女を改造してサイボーグ小隊を作り上げたと思っていた。
だが、本当は違っていた。彼女等は外の世界に絶望し、自ら人である事を捨てて改造されたのだ。
彼女等の心情に対して動揺し、うまくいくように攻撃できなかったのだ。
「(くそっ・・・・・・私はどうすればいいんだ・・・・・・外の世界のあいつらが自らサイボーグ少女になる程、狂っているのか?そんな世界を護る必要あるのか?本当にキリュウと戦うべきなのか?あー、やっぱ悩んでも仕方ない!けど、あいつらの心が分からねぇ!)」
魔理沙の頭の中がグチャグチャになっていく中でも、オメガは無表情そのもので冷静に攻撃していた。
魔理沙の弾幕を難なくかわし、光の槍での接近戦を仕掛けていく。対する魔理沙の方はどちらかと言うと遠距離戦を自分で得意と思っている。萃香や天人が起こした異変ではいつものとは違って格闘ゲーム風に戦ったが、これは例外とでも言っておこう。
何とか・・・・・・何とか、この状況を打開する方法を探さなければ・・・・・・そう考えたその時、足を滑らせてしまう。
「しまっ・・・・・・!」
「!?このチャンスを・・・・・・見逃さない・・・・・・!」
魔理沙の隙を突いて、オメガが光と共に突っ込む。さっきの技、「オメガクラッシャー」だ。
「「「「魔理沙!?」」」」
「「魔理沙さん!?」」
「(くそ・・・・・・万事休すか・・・・・・!皆・・・・・・霊夢・・・・・・済まない・・・・・・)」
魔理沙がそう諦めかけ、目を閉じた瞬間・・・・・・
ドゴォ!
何やら鈍い音が聞こえる。自分の体は未だに異常が無いので魔理沙は眼を開けて見ると・・・・・・
「・・・・・・!・・・・・・あ、あぁ・・・・・・!」
「・・・・・・マ・・・・・・マリサ・・・・・・。」
「台湾・・・・・・!」
何とR島で作られた元スパイ人形・台湾が自分を庇ったのだ。
光の直撃を受けた彼女の体は粉々に吹っ飛び、ボロボロの上半身のみが魔理沙の前方に転がっている。
「何で・・・・・・私を・・・・・・!?」
「マリサ・・・・・・ワタシハアールジマノスパイダッタ・・・・・・ダケド、アリスヤゲンソウキョウノミンナハトッテモヤサシクテ、テキデアルワタシニモイッショニイルコトガユルサレタ・・・・・・コレハ・・・・・・ソノ・・・・・・オンガエシ・・・・・・。」
傷ついた体を何とか起こしながら、台湾が必死に喋る。台湾はアリスや幻想郷の皆の優しさに触れ、皆と戦う決意をしたのだ。
「だから・・・・・・だから私を助けたのか・・・・・・そんなにボロボロになってまで・・・・・・!」
台湾の行動に魔理沙は絶句した。自分の生まれ故郷である勇者帝国を裏切ってまで魔理沙達と共に闘う決意をしたのだ。
それなのに、自分は迷ったのだ。外の世界に絶望し、自ら改造手術を受けたサイボーグ少女達に同情する余りに・・・・・・
「私が・・・・・・迷っているから・・・・・・!」
魔理沙がそう言うと同時に聞き覚えのある声が頭上に降り注ぐ。
「そうよ、魔理沙・・・・・・相手の心境に同情してはいけないわ!」
「「「っ!?」」」
「!・・・・・・そ、そんな・・・・・・貴方は・・・・・・!?」
その声に全ての者達が振り向き、アリスが絶句する。その人物とは・・・・・・
「チルミル~チルミル~今日もチルミル~♪」
一方、勇者帝国本部ではAチルノが呑気に歌を歌いながら廊下を歩いていた。
今日も今日とで凄く暇だ。他の勇者達は忙しそうなのに自分だけ除者にされた気分だ。
だけど、いつかは勇者になってやる。だから彼女はポジティブ思考で歩いていたのだ。
そして彼女は辺りを見回し、誰もいない事が確認すると直ぐにその部屋(『立ち入り禁止』と書いてある)に入る。
「紅姉ちゃ~ん♪久々に遊びに来たよ~♪」
『・・・お久し振り、チルノ・・・今日は凄くご機嫌そう・・・』
そう、Aチルノがいつも訪れている場所は何と紅が監禁されている場所だった。キリュウやS2には入るなと言われても、Aチルノは紅の事が大好きだった。何だか優しそうで護ってやりたい気持ちが心の中に走らせる存在・・・・・・それが彼女だ。
よくそこに訪れては、他愛のない話をしたり、愚痴を聞かせたりするのがAチルノの日課であるのだ。
『・・・何だか、騒がしくなっている・・・何があったの・・・?』
「やっぱり、紅姉ちゃんも気づいたんだね?実は・・・・・・。」
と、Aチルノはキリュウ達の会話から盗み聞きした事を包み隠さずに紅に話した。
幻想郷の住人達が外の世界で自分達の拠点を攻撃している事、それを守っている勇者達が彼女等にやられた事。
そして、紅の事を知っているっぽい闇の巫女、博麗霊牙が冥界四天王と共に勇者帝国に参加している頃・・・・・・。
「何か、紅姉ちゃんの事を知っている様な感じなんだけど・・・・・・知っている?」
『・・・記憶には・・・ない・・・博麗霊牙の事は博麗霊夢や博麗神社のデータの中を探索しても見当たらない・・・。』
「ふ~ん・・・・・・やっぱあいつ、嘘付いているのか~・・・・・・。(だけど、あいつのあの時の表情・・・・・・まるで、知り合いの事を聞いて驚いた様な感じだけど・・・・・・。)」
『・・・チルノ・・・いつかはその人と話し合いたい・・・。』
「・・・えっ!?あ、あ~そうね!他人の空君だと言う事を証明させなきゃね!」
『・・・それを言うなら・・・“他人の空似”・・・。』
「そーそー!えへへ・・・・・・。」
そう言って、Aチルノが笑うが、対する紅は無表情そのものだった。
相変わらず堅いな、紅姉ちゃんは・・・・・・Aチルノは心の中でそう思うのも無理はない。紅の事は何度も話し合ってはいるが、未だに笑顔等の感情を見せてくれない。と言うより笑うのが苦手かも知れないと確信している。
「大丈夫だよ、紅姉ちゃん・・・・・・この1年間、あたいは必死にキリュウの所で特訓をしていたんだ・・・・・・この鎧と剣に誓って、霊夢と決着をつけて必ず紅姉ちゃんを守って見せる!そして紅姉ちゃんを安心させる為に勇者になって見せる!」
Aチルノが胸を張って言うと紅は何だか・・・・・・寂しそうな感じで彼女に問いかける。
『・・・本当に大丈夫なの・・・?博麗霊夢は妖怪退治の専門であの人の仇・・・それに幻想郷は私の故郷でもあり、貴方の故郷でもある・・・』
「・・・・・・確かにそうね・・・・・・だけど、R島の件であたいは確信した・・・・・・強い者が弱い者を蹴落として、生きる事が大切だと言う事・・・・・・弱い事が悪い事である事・・・・・・あたいがもっと強かったら、ルーミアやリグル達が死なずに済んだ・・・・・・だから、あたいは霊夢と・・・幻想郷と戦える・・・・・・あいつに勝てば、きっとあたいは超・最強としてあの時みたいに大切なものを失わずに済む・・・・・・。」
『チルノ・・・・・・。』
「大丈夫・・・・・・勝てる・・・・・・霊夢に勝たなきゃならない・・・・・・!」
そうAチルノが拳を握り締めて決心している所を覗き見している者がいた。勇者帝国の総帥・キリュウである。
「(チルノ・・・・・・何故じゃあ・・・・・・何故、あれ程、口を酸っぱくして入るなと言ったのに・・・・・・!)」
Aチルノの様子を見ていたキリュウの心境はかなり複雑だった。自分が育てた彼女が帝国の厄介者と一緒に過ごしているのだ。
まるで実の娘を嫁に出される父親の如く・・・・・・とは言え、ここで割って入る事はできそうにない。
「(チルノはわしだけの者じゃ・・・・・・あやつに渡されとうない・・・・・・!)」
壁をギギギと力を込めるキリュウ。その眼差しには怒りと嫉妬の炎が宿っていた・・・・・・
「あいつは・・・・・・!?」
突然の声に振り向いた魔理沙は絶句した。何故なら“彼女”は既に死んでいるのだ。あの1年前の異変により。
そして、彼女が遺したカードは自分の懐にお守り代わりとして温存している。
彼女の名は・・・・・・
「パチュリー!パチュリーなのか!?」
「・・・・・・えぇ、そうよ。」
「ま、まさか大神・天照の力で・・・・・・!?」
「むきゅ?何か知っている様ね、アリス・・・・・・その前に色々と知らない方々がいる様だけど・・・・・・。」
あまりの出来事に混乱している魔理沙とは対照的に彼女・・・パチュリー・ノーレッジはしれっとそう言う。
一方で驚いているのは魔理沙達だけじゃなかった。ハルサメ達もパチュリーの登場に絶句していたのだ。
「馬鹿な・・・・・・確か、パチュリー・ノーレッジはR島での戦いで力尽きた筈では・・・・・・!」
「・・・・・・目の前にいるのは偽者では無い様だな・・・・・・生き返った原因の追及は後回しにする。その前に・・・・・・。」
オメガが何かを行おうとしているのに対し、パチュリーは冷静に魔理沙に言う。
「魔理沙・・・・・・誰ともなく仲良くできる貴方はあの少女達の心境に同情する余りに攻撃できないでしょう・・・・・・だけど、彼女達は敵同士・・・・・・敵に同情する程、現実は甘くは無いわ・・・・・・。もし、彼女達を助けたいのなら、黒幕を倒す事・・・・・・でしょ?」
「パチュリー・・・・・・。・・・・・・そうだな・・・・・・私も馬鹿だったな・・・・・・敵に同情するなら・・・・・・助ける事が先決だったな!」
「・・・・・・パチュリー・ノーレッジ、なかなか良いアドバイスだったな。だが、敵ならば即刻に倒す・・・・・・それが兵としての条件だ。」
オメガがランサーを構えた瞬間、光が生じて魔理沙とパチュリー・・・・・・否、台湾の方に向かった。
「!!」
「・・・・・・アリス・・・・・・マリサ・・・・・・ミンナ・・・・・・アリガトウ・・・・・・。」
避ける事も出来ない状態の台湾はそう言い残して直撃、爆発した・・・・・・。
「「タイワァァァァァァァァンッ!!」」
「そんな・・・・・・何て酷い事を・・・・・・!」
アリスの呟きと上海、蓬莱の絶叫が聞こえる。魔理沙は台湾が爆発した事に気づくまで数分かかった。
爆発の中から台湾の体の一部なのか、散り散りとなって地面にばら撒かれる破片。
その中で小型のAIチップが落下すると瞬間にオメガが再び、光・・・・・・人工の弾幕で破壊、粉々にしてしまう。
「裏切り者の排除、完了・・・・・・これで我々の情報も無に帰したな・・・・・・。」
「何て言う事・・・・・・自分達の情報を守る為に、かつての仲間を壊すなんて・・・・・・!」
パチュリーの呟きにも魔理沙の耳には入っていなかった・・・・・・台湾が・・・・・・R島ではアリスのサブウェポン、正体はZのスパイだったものの、幻想郷で上海と蓬莱にスパルタでしごかれていたあの人形が「死んだ」事が頭の中で一杯だった。
その時、魔理沙の頭の中で一筋の閃光が走り、体から光が生じ始める。警戒をするオメガとサイボーグ少女達。
「な、何だ・・・・・・軍事隊長、霧雨魔理沙は一体・・・・・・!?」
「分からない・・・・・・が、分かっている事はたかが偵察型人形が壊れた位で我を忘れたと言う事だけだ・・・・・・。」
オメガが言い終わらないか否か、魔理沙の体の光が激しくなり、怒りの叫びの声を上げた!
「私は・・・・・・私はキレたぞおおおぉぉぉぉっ!!オメガアアアァァァァァァッ!!!」
真っ直ぐにオメガに突っ込む魔理沙。そのスピードはいつものより倍以上の速度だったのでハルサメが慌てて援護しようとする。
「!いけない!軍事隊長、援護します!各員、先に霧雨魔理沙を仕留めろ!!」
ハルサメの指示に対し、ゾロゾロと魔理沙の前方に立ちはだかるサイボーグ少女達であったが・・・・・・。
「悪いな・・・・・・やるからには手加減なしで行くぜ!!突撃ぃぃぃぃぃっ!!」
箒に跨った魔理沙は更にスピードを上げて星型の弾幕をばら撒きながら敵陣に突っ込む。その瞬間、なんとサイボーグ少女部隊が魔理沙の衝撃に次々と紙切れの如くぶっ飛ばされてしまう。ハルサメも光の楯で防御するが耐えきれずに吹っ飛ばされてしまう。
「ガハッ!(どう言う事だ・・・・・・霧雨魔理沙の何処にそんな力が・・・・・・!?)」
「・・・・・・(カリッ)あら、甘いわね。アリスちゃんもどう?」
「母様、勝手に魔理沙の弾幕を齧らないで下さい!(と言うより食べれるの?)」
「武霊無親衛隊をことごとく薙ぎ払うとは・・・・・・ならば、私が全力でお相手するしかない・・・・・・!」
そう言って、魔理沙に攻撃を仕掛けるオメガ。互いの武器で攻撃し合い、かわし合いながらも一歩も譲らない戦いとなっていた。
勝負は互角・・・・・・の筈だった。魔理沙の攻撃はまさに防御無視の怒涛の勢い。オメガの攻撃をギリギリと避けながらも力強い弾幕を放つ。オメガ自身も過去のデータには無い魔理沙の戦闘力に改めて驚きを感じた。
「・・・・・・霧雨魔理沙・・・・・・お前のその強さは一体何なんだ・・・・・・一体、何処にそんな力は・・・・・・!?」
「分かる訳無いよなっ!“兵士だから”とか、“兵としての条件だ”と言う理由だけで戦争を平気で行うてめぇには、この私の体を通して出る力・・・・・・皆との友情や、根性、熱血、勇気、不屈、必中、そして愛が!」
「愛・・・・・・そんな感情が戦闘に有利になると・・・・・・!?」
オメガがそう言った瞬間、彼女の脳裏に囁くように声が聞こえた。
『そうだよ・・・・・・魔理沙はそれを表現するスペルを持っている!』
『うん!“伝説の夢想技”がね!』
「(この声は・・・・・・フランドール・スカーレット・・・・・・それに地霊殿の主・さとりの妹、こいしか・・・・・・!?)」
「まだ・・・・・・まだ、抵抗するってんなら!!」
そう言って、魔理沙はスペルカードを取りだした。チラッと見ると、見た事の無いスペルだが関係ない。
「一か八かやってやっちゃるぜっ!スペル発動!『夢想魔空馬』!!」
魔理沙がスペルを発動するや否や、突如として大きな閃光や地響きと共に“何か”が現れた。
「っ!?あれは・・・・・・!?」
“何か”の正体に気付き、パチュリーが絶句する。あれは確か1年前、自分が発動した筈だが・・・・・・
「エレメンタル・レインボードラゴン!パチュリーが私に託してくれた魂のカード・・・・・・それが『夢想魔空馬』だぜ!」
「「「・・・・・・竜なのに魔空馬?」」」
アリス達の疑問も余所に高速でオメガに突進する魔理沙。その時、エレメンタル・レインボードラゴンが咆哮と共に一撃必殺の「賢者・大精霊弾」を放ったのだ。その閃光の中で、魔理沙が更にスピードアップする。
「!?(サポートを借りての超音速による突進・・・・・・避けきれな・・・・・・!?)」
「オメガ!ここからいなくなれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
魔理沙が超音速でオメガに突っ込み・・・・・・
ピチュチュチュ―――ン!!
見事、オメガをふっ飛ばした。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・疲れた・・・・・・。」
オメガを倒した魔理沙が膝をつく。そんな彼女をパチュリーが見ている。
「(信じられない・・・・・・私が長い年月を重ねてやっと召喚に成功したエレメンタル・レインボードラゴンを詠唱も無しに召喚、攻撃の指示をするなんて・・・・・・理由は分からないけど・・・・・・まさに魔理沙って感じね・・・・・・。)」
「はぁ、はぁ・・・・・・見たか、オメガ!これが人の・・・・・・っていない!?」
魔理沙が何とかガッツポーズをしながら振り返るとそこにはオメガもハルサメもサイボーグ少女隊も皆、消えていたのだ。
<空間の湾曲を確認・・・・・・所謂、テレポートを行った様です。>
「あんにゃろ~兵士だから、逃げ足も速いってか?」
「何言ってんのよ?」
「る~こと。私達やVIVITと一緒にこの動く要塞を止めに行くわよ。できるなら、そうね・・・・・・太平洋の真ん中辺りが良いわ。」
<畏まりました。すぐに調整を行います。>
「さてと、何とか倒したようだし・・・・・・帰るか・・・・・・。(今頃、霊夢も頑張っているだろうな・・・・・・)」
ふうと一息ついて、魔理沙は天を仰ぐ。他の皆も勇者を倒しているかもしれない。だとしたら・・・・・・。
「(首を洗って待ってろよ、キリュウ・・・・・・魅魔様達の仇打ちだ・・・・・・そして、チルノ・・・・・・あくまで敵対するならお前を・・・・・・!)」
銃声が響く。目の前には目を瞑っている学生らしき少女が震えているが、キョトンとした表情で目を恐る恐る開ける。
『ガハッ・・・・・・!』
『!?』
突如うめき声が上がり、彼女のななめ右後ろから黒服の男が現れ、倒れた。手には特殊なカメラが。
『やはり、どこかの政府も動き出したな・・・・・・。』
『・・・・・・あ、あの・・・・・・!?』
『行け・・・・・・。』
『え?』
訳が分からない事に戸惑っている少女に自分・・・・・・オメガが口を開く。
『行け、と言っているのだ・・・・・・どうやら、民間人で敵意はないからな・・・・・・。』
『・・・・・・。』
『理由は何であれ、武器を持たない民間人を攻撃する事はできない・・・・・・それが、兵士としての義務だからな。』
『は、はい・・・・・・!?』
オメガの言葉に少女がハッとなり、慌てて逃げるように去る。その後ろ姿を見てオメガが通信を行う。
『誰でもいいから、すぐ来てくれ。侵入者の遺体の処理を頼む。』
オメガが目を覚ますとそこは帝国の病室の一室だった。傍らにはハルサメが待機している。
「!軍事隊長!?」
「霧雨魔理沙・・・・・・否、ハルサメ副隊長か・・・・・・そうか、私は負けたのか・・・・・・。」
「申し訳、ございません・・・・・・我々が何もできずに・・・・・・!」
「・・・・・・お前の言う通りだったな・・・・・・霧雨魔理沙は博麗霊夢同様にとてつもない力を秘めている様だ・・・・・・彼女を甘く見ていた私が主因かもしれない・・・・・・奴は感情のままに行動しているが、それが私の敗因かもな・・・・・・。」
「何を・・・・・・仰るのですか・・・・・・。」
オメガの言葉にハルサメが蒼白の表情で言葉を失う。まさか、軍事隊長は“過去”の事を・・・・・・!?
「ハルサメ副隊長・・・・・・知っての通りだが私は・・・・・・ニュータント(突然変異体)だ・・・・・・あの様な異常な位、発達した身体能力もその力の一つだが・・・・・・その代償として失ったものも大きかった・・・・・・そして敵も作ってしまった・・・・・・。」
「そんな事ありません!軍事隊長の力とスペルラウザーは人を過ちから救う力です!悪いのは軍事隊長を弾劾した者達です!」
オメガの言葉に耐え切れずにハルサメが叫ぶ。あの人は兵士になる前、とてつもない孤独を味わっているかもしれなかった・・・・・・。
「軍事隊長は兵士であると同時に人間なんです!それに軍事隊長は1人ではありません!皆、貴方を信じて・・・・・・。」
ハルサメがそう言おうとした瞬間、オメガに抱きつかれた。戸惑うハルサメに対し、彼女は相変わらずの無表情だった。
「ぐ、軍事隊長・・・・・・何を・・・・・・!?」
「そうだな・・・・・・彼女等も私の部下であると同時に家族だったな・・・・・・そして、ハルサメ副隊長・・・ハルミ・・・・・・お前も身体が未発達のまま生まれ、特殊ピーカーで幼年を過ごした事を除けば・・・・・・誇れる部下であり、愛する義妹だ・・・・・・。」
そしてオメガは片手に顔を当てながら、天井を見上げる。
「只、死ぬ時は兵士としての義務を果たすか・・・・・・人としての感情を得て死にたいものだ・・・・・・。」
「!義姉さん・・・・・・!!」
オメガの寂しそうな言葉と裏腹に表情の変わらない顔を見、ハルサメ・・・ハルミは涙を流し、彼女の胸の中で泣いた。
「・・・・・・遂に来たわね・・・・・・!」
幻想郷の博麗神社で紫が静かに目を開ける。その表情からいつもの呑気そうな雰囲気が見られない。
「勇者8人を倒し、魔理沙もスキマによれば無事に完了したし、残りはキリュウと博麗霊牙、冥界四天王、そして未だ見られぬ『紅』と言う存在・・・・・・霊夢達にも博霊の巫女の忌まわしい過去も話さなければいけないし・・・・・・厄介ね・・・・・・。」
独り言を呟きながら紫は考える。あの闇の巫女はあの時よりも強くなっており、謎の能力も兼ね備えていた。
そんな彼女達が勇者帝国と手を組んだとなれば、本命である勇者帝国の本部の奇襲、総帥・キリュウの撃破が難しくなる。
それに、霊夢に“あの出来事”を話したら、彼女はどうなるのだろう?自分としては秘密にしてほしかったが・・・・・・
「(駄目よ、八雲紫。弱気になっては藍や橙に合わせる顔が無いもの・・・・・・私も頑張らないと・・・・・・!)」
「紫~帰って来たぜ~!後、ビッグニュースだ、ビッグニュース!パチュリーが生き返ったんだよ!」
紫が考えているその刹那、スキマから魔理沙が現れたので慌てて思考を中断して作り笑いで向き直る。
「あら?お帰り、魔理沙。大神・天照の力で蘇った3人目はパチュリーだったのね?」
「え!?3人目って事は慧音の他にもか!?」
「えぇ、その詳細は後回しにして少しは休憩しましょうか?貴方達も疲れている様だし。」
「そうだな・・・・・・後でにとりに見てもらいたい事があるしな。」
そう言って、魔理沙達のメンバーはゾロゾロと解散する。その中で魔理沙とアリスは回収した台湾のAIチップの破片を何とか修理できないかを聞く為、にとりの元へ向かう事にし、パチュリーも咲夜や小悪魔と再会する為に紅魔館に帰った。
「・・・・・・(まぁ、少しはあのメイド長の心も少しは安らぐかもね・・・・・・さて、霊夢の事だから、博霊の巫女としての義務を学んで修行を早く終えそうかもしれないし、私は作戦の立案でもしましょうか・・・・・・。)」
ふぅ、と一息ついて紫はスキマを使って自宅、マヨイガへと移動した。
戦いはいよいよ最終局面へと向かっていた・・・・・・
「あ、その前に大晦日と正月の準備をしないと!え~と、蟹と鏡餅と紅白の番組表と・・・・・・」
・・・・・・ゑ?
続く
次回:「勇者、軍事隊長を倒した魔理沙達は遂に打倒キリュウの想いを元に勇者帝国本部の攻撃計画を思案していた!魔理沙も加えて“伝説の夢想技”の真の力を開放させる為の修行は苛烈を極める。そして霊夢も魔理沙達との出来事を思い出しながらハクレイとの弾幕を続いていた。次回、『決戦!幻想郷組、北へ(準備編)』!今、最後の戦いが始まる・・・・・・!」
キャラ紹介
「オメガ」
サイボーグ少女部隊、『武霊無親衛隊』を纏める謎の女性兵士。その正体はニュータント(突然変異体)であり、本人曰く、その代償として感情を失ったらしい。幻想郷の住人に劣らない高い身体能力と人工スペルカードを読み取る装置、「スペルラウザー」を用い、勇者とほぼ互角の実力を持っている。本人は兵士としての義務を果たしており、裏切り者や敵意のある者には容赦しないが、敵意の無い民間人等は見過ごすと言う面も見られ、魔理沙にソックリな副隊長・ハルサメ(本名ハルミ)の他、サイボーグ少女達の信頼も厚い。
第20話「魔理沙は大変なスペルを発動しました」
前回のあらすじ:勇者帝国の移動基地に乗り込んだ魔理沙は軍団隊長のオメガとの戦いで苦戦中。以上
「ってなんか適当だな、そのあらすじ!おっとそんなこと言っている・・・・・・ん?」
今にもオメガの特攻に当たりそうな瞬間、とある事に気が付く。一か八かだ!そう決心した魔理沙は何とスペルカードを発動!?
「スペル発動!『恋符:マスタースパーク』!!(横撃ちver!)」
「っ!?」
魔理沙のマスタースパークはオメガに当たらずに真横に放たれたのだ。その反動で何とかオメガの攻撃を避ける。
「どうやら、Uマスタースパークが出来たお陰でマスパとFマスパの消費が0だったぜ・・・・・・ってどこの錬金術師!?」
「・・・・・・(予想外だな・・・・・・スペルを攻撃ではなく、回避用として使うとは・・・・・・流石は霧雨魔理沙、か・・・・・・)」
取り敢えずはオメガの攻撃を避けきれた魔理沙だったが、状況はあまりよくないかもしれない。
「(アリス達は親衛隊と戦っているし・・・・・・あっちは強力な人工のスペルカードを所持・・・・・・状況は芳しくないな・・・・・・。)」
「霧雨魔理沙・・・・・・もはや、反撃としての切り札はない様だな・・・・・・さっさと降伏した方が身の為だぞ。」
「っ!?誰がするか!お前は何とも思ってもいないのか!?キリュウは・・・・・・奴は私達の仲間を殺しただけじゃなく・・・・・・そいつらをサイボーグ部隊に改造したんだぞ!それでも・・・・・・!?」
魔理沙の言葉に対し、オメガは無言で聞いていたが・・・・・・
「・・・・・・それは違うぞ・・・・・・。」
「?何が?」
「親衛隊の者は・・・・・・彼女等は皆、自ら進んで改造手術を受けたのだ・・・・・・強制ではなく、な・・・・・・。」
「なっ・・・・・・!?嘘だっ!何の理由で・・・・・・!?」
自ら進んで改造手術を受けた?オメガの言葉に魔理沙は混乱した。キリュウが無理やりに改造したのではなかったのか?
「・・・・・・彼女等は皆、私も含め、それぞれに悲しい過去を秘めている・・・・・・家族の問題、人権の問題、学校での問題・・・・・・そう、狂った世の中が彼女を生み、皆がそれを憎んでいる・・・・・・キリュウか・・・・・・奴と共に行動する理由は世界を変えると言う同じ目的を持っているからだ・・・・・・それに私は只、命令された事は完璧にこなす・・・・・・兵士だからな・・・・・・。」
「そんな・・・・・・そんな事って・・・・・・!?」
オメガの言葉に魔理沙は絶句した。まさか、彼女達にそんな事があったなんて・・・・・・。
外の世界は自分等、幻想郷の住人達を不幸にさせたと思っていた・・・・・・だが違っていた。
オメガ達は外の世界を憎悪している為にキリュウと行動していたのだ。
「(私は・・・・・・私は一体、どうすればいいんだよ・・・・・・霊夢・・・・・・。)」
「それにしても、よくとまぁ頑張っているもんだねぇ・・・・・・。」
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・あ、妹紅さん。怪我は大丈夫ですか?」
「慧音が数日間の怪我を少しだけ“なかったこと”にしたからな、この位の傷なら何とか再生できる。」
一方、幻想郷では紫による強烈な特訓を何とか終えた鈴仙の所に傷をすっかり完治した妹紅がやって来た。
「そういうあんたは大丈夫か?いかにも死にそうだけど・・・・・・。」
「何とか大丈夫です・・・・・・咲夜や妖夢達も弱音を吐いていませんし、霊夢だってあれから2日目だけど、きっと厳しい修行をやっているに違いありませんから、私も頑張らないと・・・・・・(それに、“もう1人の私”やレグリンの事もあるし・・・・・・。)」
「そうか・・・・・・強くなったな、鈴仙・・・・・・。」
「い、いえ・・・・・・咲夜に比べたら・・・・・・。」
「それにしても紫から聞いたが、あんたら“伝説の夢想技”を使いこなせるって?それさえあればキリュウを倒せるのか?」
「分かりません・・・・・・ただ紫さんが言うには、今の私達では本当の力を発揮しきれてないって・・・・・・。」
そう言い、鈴仙は思案する。うまく制御できるようになったら、もう一人の自分を抑える事が出来るだろうか?
そして、囚われの永琳師匠とR島で氷に閉じ込められている姫様(輝夜)を助けられる事は出来るだろうか??
その時、鈴仙の背後から紫がニョキッとスキマから上半身を出し、一同に号令をかける。
「さて・・・・・・取り敢えずは今日の修行はここまで。皆も無理はしないで今夜はゆっくり休みなさいね。」
「っ!?紫さん、いきなり後ろから出てこないで下さい!心臓に悪いので・・・・・・。」
「あらあら~御免遊ばせ~♪それじゃあ、明日の事はスキマ通信で言うけど・・・・・・彼女等はどうする?」
紫が指さす方向には早苗によって大妖精と共に救出されたエミリーと咲夜に連れて来られたマリアの2人だった。
「メイド長に巫女2P・・・・・・何で外の世界の人間を連れて来た・・・・・・のですか?」
「あら?私が何をしようと貴方には関係無いでしょ?」
「・・・・・・(やはり、あまり活躍していないから、妖精達の間では未だに霊夢さんの2P扱いですか・・・寂しいです・・・・・・)サニーさんの気持ちも分かります・・・・・・ですが、外の世界全てが悪い人とは限りません・・・・・・どうか分かって下さい・・・・・・。」
「・・・・・・(人間ながら霊夢みたいに強いからね・・・・・・これ以上の文句は危険かも・・・・・・)」
そう考え、不服そうにサニーは押し黙ると咲夜と早苗はマリアとエミリーの元へ向かう。
「さて、声の事は後で鈴仙に診てもらうとして、一応は紅魔館へ案内するわよ。」
「・・・・・・。(コクッ)」
「ねぇ、東風谷早苗と言ったっけ?やっぱり私はお邪魔では・・・・・・。」
「遠慮しなくていいですよ。エミリーさんの事は薫さんに任せられましたから。」
かくして、皆がそれぞれの家に帰っていく中、紫はふうと一息ついて呟く。
「問題は未だに外の世界にいる魔理沙ね・・・・・・魔理沙も“伝説の夢想技”の使い手だといいけど・・・・・・無事かしら・・・・・・?」
魔理沙は苦戦していた。オメガの人工スペルに苦戦しているだけではない。
最初、魔理沙はキリュウが外の世界の少女を改造してサイボーグ小隊を作り上げたと思っていた。
だが、本当は違っていた。彼女等は外の世界に絶望し、自ら人である事を捨てて改造されたのだ。
彼女等の心情に対して動揺し、うまくいくように攻撃できなかったのだ。
「(くそっ・・・・・・私はどうすればいいんだ・・・・・・外の世界のあいつらが自らサイボーグ少女になる程、狂っているのか?そんな世界を護る必要あるのか?本当にキリュウと戦うべきなのか?あー、やっぱ悩んでも仕方ない!けど、あいつらの心が分からねぇ!)」
魔理沙の頭の中がグチャグチャになっていく中でも、オメガは無表情そのもので冷静に攻撃していた。
魔理沙の弾幕を難なくかわし、光の槍での接近戦を仕掛けていく。対する魔理沙の方はどちらかと言うと遠距離戦を自分で得意と思っている。萃香や天人が起こした異変ではいつものとは違って格闘ゲーム風に戦ったが、これは例外とでも言っておこう。
何とか・・・・・・何とか、この状況を打開する方法を探さなければ・・・・・・そう考えたその時、足を滑らせてしまう。
「しまっ・・・・・・!」
「!?このチャンスを・・・・・・見逃さない・・・・・・!」
魔理沙の隙を突いて、オメガが光と共に突っ込む。さっきの技、「オメガクラッシャー」だ。
「「「「魔理沙!?」」」」
「「魔理沙さん!?」」
「(くそ・・・・・・万事休すか・・・・・・!皆・・・・・・霊夢・・・・・・済まない・・・・・・)」
魔理沙がそう諦めかけ、目を閉じた瞬間・・・・・・
ドゴォ!
何やら鈍い音が聞こえる。自分の体は未だに異常が無いので魔理沙は眼を開けて見ると・・・・・・
「・・・・・・!・・・・・・あ、あぁ・・・・・・!」
「・・・・・・マ・・・・・・マリサ・・・・・・。」
「台湾・・・・・・!」
何とR島で作られた元スパイ人形・台湾が自分を庇ったのだ。
光の直撃を受けた彼女の体は粉々に吹っ飛び、ボロボロの上半身のみが魔理沙の前方に転がっている。
「何で・・・・・・私を・・・・・・!?」
「マリサ・・・・・・ワタシハアールジマノスパイダッタ・・・・・・ダケド、アリスヤゲンソウキョウノミンナハトッテモヤサシクテ、テキデアルワタシニモイッショニイルコトガユルサレタ・・・・・・コレハ・・・・・・ソノ・・・・・・オンガエシ・・・・・・。」
傷ついた体を何とか起こしながら、台湾が必死に喋る。台湾はアリスや幻想郷の皆の優しさに触れ、皆と戦う決意をしたのだ。
「だから・・・・・・だから私を助けたのか・・・・・・そんなにボロボロになってまで・・・・・・!」
台湾の行動に魔理沙は絶句した。自分の生まれ故郷である勇者帝国を裏切ってまで魔理沙達と共に闘う決意をしたのだ。
それなのに、自分は迷ったのだ。外の世界に絶望し、自ら改造手術を受けたサイボーグ少女達に同情する余りに・・・・・・
「私が・・・・・・迷っているから・・・・・・!」
魔理沙がそう言うと同時に聞き覚えのある声が頭上に降り注ぐ。
「そうよ、魔理沙・・・・・・相手の心境に同情してはいけないわ!」
「「「っ!?」」」
「!・・・・・・そ、そんな・・・・・・貴方は・・・・・・!?」
その声に全ての者達が振り向き、アリスが絶句する。その人物とは・・・・・・
「チルミル~チルミル~今日もチルミル~♪」
一方、勇者帝国本部ではAチルノが呑気に歌を歌いながら廊下を歩いていた。
今日も今日とで凄く暇だ。他の勇者達は忙しそうなのに自分だけ除者にされた気分だ。
だけど、いつかは勇者になってやる。だから彼女はポジティブ思考で歩いていたのだ。
そして彼女は辺りを見回し、誰もいない事が確認すると直ぐにその部屋(『立ち入り禁止』と書いてある)に入る。
「紅姉ちゃ~ん♪久々に遊びに来たよ~♪」
『・・・お久し振り、チルノ・・・今日は凄くご機嫌そう・・・』
そう、Aチルノがいつも訪れている場所は何と紅が監禁されている場所だった。キリュウやS2には入るなと言われても、Aチルノは紅の事が大好きだった。何だか優しそうで護ってやりたい気持ちが心の中に走らせる存在・・・・・・それが彼女だ。
よくそこに訪れては、他愛のない話をしたり、愚痴を聞かせたりするのがAチルノの日課であるのだ。
『・・・何だか、騒がしくなっている・・・何があったの・・・?』
「やっぱり、紅姉ちゃんも気づいたんだね?実は・・・・・・。」
と、Aチルノはキリュウ達の会話から盗み聞きした事を包み隠さずに紅に話した。
幻想郷の住人達が外の世界で自分達の拠点を攻撃している事、それを守っている勇者達が彼女等にやられた事。
そして、紅の事を知っているっぽい闇の巫女、博麗霊牙が冥界四天王と共に勇者帝国に参加している頃・・・・・・。
「何か、紅姉ちゃんの事を知っている様な感じなんだけど・・・・・・知っている?」
『・・・記憶には・・・ない・・・博麗霊牙の事は博麗霊夢や博麗神社のデータの中を探索しても見当たらない・・・。』
「ふ~ん・・・・・・やっぱあいつ、嘘付いているのか~・・・・・・。(だけど、あいつのあの時の表情・・・・・・まるで、知り合いの事を聞いて驚いた様な感じだけど・・・・・・。)」
『・・・チルノ・・・いつかはその人と話し合いたい・・・。』
「・・・えっ!?あ、あ~そうね!他人の空君だと言う事を証明させなきゃね!」
『・・・それを言うなら・・・“他人の空似”・・・。』
「そーそー!えへへ・・・・・・。」
そう言って、Aチルノが笑うが、対する紅は無表情そのものだった。
相変わらず堅いな、紅姉ちゃんは・・・・・・Aチルノは心の中でそう思うのも無理はない。紅の事は何度も話し合ってはいるが、未だに笑顔等の感情を見せてくれない。と言うより笑うのが苦手かも知れないと確信している。
「大丈夫だよ、紅姉ちゃん・・・・・・この1年間、あたいは必死にキリュウの所で特訓をしていたんだ・・・・・・この鎧と剣に誓って、霊夢と決着をつけて必ず紅姉ちゃんを守って見せる!そして紅姉ちゃんを安心させる為に勇者になって見せる!」
Aチルノが胸を張って言うと紅は何だか・・・・・・寂しそうな感じで彼女に問いかける。
『・・・本当に大丈夫なの・・・?博麗霊夢は妖怪退治の専門であの人の仇・・・それに幻想郷は私の故郷でもあり、貴方の故郷でもある・・・』
「・・・・・・確かにそうね・・・・・・だけど、R島の件であたいは確信した・・・・・・強い者が弱い者を蹴落として、生きる事が大切だと言う事・・・・・・弱い事が悪い事である事・・・・・・あたいがもっと強かったら、ルーミアやリグル達が死なずに済んだ・・・・・・だから、あたいは霊夢と・・・幻想郷と戦える・・・・・・あいつに勝てば、きっとあたいは超・最強としてあの時みたいに大切なものを失わずに済む・・・・・・。」
『チルノ・・・・・・。』
「大丈夫・・・・・・勝てる・・・・・・霊夢に勝たなきゃならない・・・・・・!」
そうAチルノが拳を握り締めて決心している所を覗き見している者がいた。勇者帝国の総帥・キリュウである。
「(チルノ・・・・・・何故じゃあ・・・・・・何故、あれ程、口を酸っぱくして入るなと言ったのに・・・・・・!)」
Aチルノの様子を見ていたキリュウの心境はかなり複雑だった。自分が育てた彼女が帝国の厄介者と一緒に過ごしているのだ。
まるで実の娘を嫁に出される父親の如く・・・・・・とは言え、ここで割って入る事はできそうにない。
「(チルノはわしだけの者じゃ・・・・・・あやつに渡されとうない・・・・・・!)」
壁をギギギと力を込めるキリュウ。その眼差しには怒りと嫉妬の炎が宿っていた・・・・・・
「あいつは・・・・・・!?」
突然の声に振り向いた魔理沙は絶句した。何故なら“彼女”は既に死んでいるのだ。あの1年前の異変により。
そして、彼女が遺したカードは自分の懐にお守り代わりとして温存している。
彼女の名は・・・・・・
「パチュリー!パチュリーなのか!?」
「・・・・・・えぇ、そうよ。」
「ま、まさか大神・天照の力で・・・・・・!?」
「むきゅ?何か知っている様ね、アリス・・・・・・その前に色々と知らない方々がいる様だけど・・・・・・。」
あまりの出来事に混乱している魔理沙とは対照的に彼女・・・パチュリー・ノーレッジはしれっとそう言う。
一方で驚いているのは魔理沙達だけじゃなかった。ハルサメ達もパチュリーの登場に絶句していたのだ。
「馬鹿な・・・・・・確か、パチュリー・ノーレッジはR島での戦いで力尽きた筈では・・・・・・!」
「・・・・・・目の前にいるのは偽者では無い様だな・・・・・・生き返った原因の追及は後回しにする。その前に・・・・・・。」
オメガが何かを行おうとしているのに対し、パチュリーは冷静に魔理沙に言う。
「魔理沙・・・・・・誰ともなく仲良くできる貴方はあの少女達の心境に同情する余りに攻撃できないでしょう・・・・・・だけど、彼女達は敵同士・・・・・・敵に同情する程、現実は甘くは無いわ・・・・・・。もし、彼女達を助けたいのなら、黒幕を倒す事・・・・・・でしょ?」
「パチュリー・・・・・・。・・・・・・そうだな・・・・・・私も馬鹿だったな・・・・・・敵に同情するなら・・・・・・助ける事が先決だったな!」
「・・・・・・パチュリー・ノーレッジ、なかなか良いアドバイスだったな。だが、敵ならば即刻に倒す・・・・・・それが兵としての条件だ。」
オメガがランサーを構えた瞬間、光が生じて魔理沙とパチュリー・・・・・・否、台湾の方に向かった。
「!!」
「・・・・・・アリス・・・・・・マリサ・・・・・・ミンナ・・・・・・アリガトウ・・・・・・。」
避ける事も出来ない状態の台湾はそう言い残して直撃、爆発した・・・・・・。
「「タイワァァァァァァァァンッ!!」」
「そんな・・・・・・何て酷い事を・・・・・・!」
アリスの呟きと上海、蓬莱の絶叫が聞こえる。魔理沙は台湾が爆発した事に気づくまで数分かかった。
爆発の中から台湾の体の一部なのか、散り散りとなって地面にばら撒かれる破片。
その中で小型のAIチップが落下すると瞬間にオメガが再び、光・・・・・・人工の弾幕で破壊、粉々にしてしまう。
「裏切り者の排除、完了・・・・・・これで我々の情報も無に帰したな・・・・・・。」
「何て言う事・・・・・・自分達の情報を守る為に、かつての仲間を壊すなんて・・・・・・!」
パチュリーの呟きにも魔理沙の耳には入っていなかった・・・・・・台湾が・・・・・・R島ではアリスのサブウェポン、正体はZのスパイだったものの、幻想郷で上海と蓬莱にスパルタでしごかれていたあの人形が「死んだ」事が頭の中で一杯だった。
その時、魔理沙の頭の中で一筋の閃光が走り、体から光が生じ始める。警戒をするオメガとサイボーグ少女達。
「な、何だ・・・・・・軍事隊長、霧雨魔理沙は一体・・・・・・!?」
「分からない・・・・・・が、分かっている事はたかが偵察型人形が壊れた位で我を忘れたと言う事だけだ・・・・・・。」
オメガが言い終わらないか否か、魔理沙の体の光が激しくなり、怒りの叫びの声を上げた!
「私は・・・・・・私はキレたぞおおおぉぉぉぉっ!!オメガアアアァァァァァァッ!!!」
真っ直ぐにオメガに突っ込む魔理沙。そのスピードはいつものより倍以上の速度だったのでハルサメが慌てて援護しようとする。
「!いけない!軍事隊長、援護します!各員、先に霧雨魔理沙を仕留めろ!!」
ハルサメの指示に対し、ゾロゾロと魔理沙の前方に立ちはだかるサイボーグ少女達であったが・・・・・・。
「悪いな・・・・・・やるからには手加減なしで行くぜ!!突撃ぃぃぃぃぃっ!!」
箒に跨った魔理沙は更にスピードを上げて星型の弾幕をばら撒きながら敵陣に突っ込む。その瞬間、なんとサイボーグ少女部隊が魔理沙の衝撃に次々と紙切れの如くぶっ飛ばされてしまう。ハルサメも光の楯で防御するが耐えきれずに吹っ飛ばされてしまう。
「ガハッ!(どう言う事だ・・・・・・霧雨魔理沙の何処にそんな力が・・・・・・!?)」
「・・・・・・(カリッ)あら、甘いわね。アリスちゃんもどう?」
「母様、勝手に魔理沙の弾幕を齧らないで下さい!(と言うより食べれるの?)」
「武霊無親衛隊をことごとく薙ぎ払うとは・・・・・・ならば、私が全力でお相手するしかない・・・・・・!」
そう言って、魔理沙に攻撃を仕掛けるオメガ。互いの武器で攻撃し合い、かわし合いながらも一歩も譲らない戦いとなっていた。
勝負は互角・・・・・・の筈だった。魔理沙の攻撃はまさに防御無視の怒涛の勢い。オメガの攻撃をギリギリと避けながらも力強い弾幕を放つ。オメガ自身も過去のデータには無い魔理沙の戦闘力に改めて驚きを感じた。
「・・・・・・霧雨魔理沙・・・・・・お前のその強さは一体何なんだ・・・・・・一体、何処にそんな力は・・・・・・!?」
「分かる訳無いよなっ!“兵士だから”とか、“兵としての条件だ”と言う理由だけで戦争を平気で行うてめぇには、この私の体を通して出る力・・・・・・皆との友情や、根性、熱血、勇気、不屈、必中、そして愛が!」
「愛・・・・・・そんな感情が戦闘に有利になると・・・・・・!?」
オメガがそう言った瞬間、彼女の脳裏に囁くように声が聞こえた。
『そうだよ・・・・・・魔理沙はそれを表現するスペルを持っている!』
『うん!“伝説の夢想技”がね!』
「(この声は・・・・・・フランドール・スカーレット・・・・・・それに地霊殿の主・さとりの妹、こいしか・・・・・・!?)」
「まだ・・・・・・まだ、抵抗するってんなら!!」
そう言って、魔理沙はスペルカードを取りだした。チラッと見ると、見た事の無いスペルだが関係ない。
「一か八かやってやっちゃるぜっ!スペル発動!『夢想魔空馬』!!」
魔理沙がスペルを発動するや否や、突如として大きな閃光や地響きと共に“何か”が現れた。
「っ!?あれは・・・・・・!?」
“何か”の正体に気付き、パチュリーが絶句する。あれは確か1年前、自分が発動した筈だが・・・・・・
「エレメンタル・レインボードラゴン!パチュリーが私に託してくれた魂のカード・・・・・・それが『夢想魔空馬』だぜ!」
「「「・・・・・・竜なのに魔空馬?」」」
アリス達の疑問も余所に高速でオメガに突進する魔理沙。その時、エレメンタル・レインボードラゴンが咆哮と共に一撃必殺の「賢者・大精霊弾」を放ったのだ。その閃光の中で、魔理沙が更にスピードアップする。
「!?(サポートを借りての超音速による突進・・・・・・避けきれな・・・・・・!?)」
「オメガ!ここからいなくなれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
魔理沙が超音速でオメガに突っ込み・・・・・・
ピチュチュチュ―――ン!!
見事、オメガをふっ飛ばした。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・疲れた・・・・・・。」
オメガを倒した魔理沙が膝をつく。そんな彼女をパチュリーが見ている。
「(信じられない・・・・・・私が長い年月を重ねてやっと召喚に成功したエレメンタル・レインボードラゴンを詠唱も無しに召喚、攻撃の指示をするなんて・・・・・・理由は分からないけど・・・・・・まさに魔理沙って感じね・・・・・・。)」
「はぁ、はぁ・・・・・・見たか、オメガ!これが人の・・・・・・っていない!?」
魔理沙が何とかガッツポーズをしながら振り返るとそこにはオメガもハルサメもサイボーグ少女隊も皆、消えていたのだ。
<空間の湾曲を確認・・・・・・所謂、テレポートを行った様です。>
「あんにゃろ~兵士だから、逃げ足も速いってか?」
「何言ってんのよ?」
「る~こと。私達やVIVITと一緒にこの動く要塞を止めに行くわよ。できるなら、そうね・・・・・・太平洋の真ん中辺りが良いわ。」
<畏まりました。すぐに調整を行います。>
「さてと、何とか倒したようだし・・・・・・帰るか・・・・・・。(今頃、霊夢も頑張っているだろうな・・・・・・)」
ふうと一息ついて、魔理沙は天を仰ぐ。他の皆も勇者を倒しているかもしれない。だとしたら・・・・・・。
「(首を洗って待ってろよ、キリュウ・・・・・・魅魔様達の仇打ちだ・・・・・・そして、チルノ・・・・・・あくまで敵対するならお前を・・・・・・!)」
銃声が響く。目の前には目を瞑っている学生らしき少女が震えているが、キョトンとした表情で目を恐る恐る開ける。
『ガハッ・・・・・・!』
『!?』
突如うめき声が上がり、彼女のななめ右後ろから黒服の男が現れ、倒れた。手には特殊なカメラが。
『やはり、どこかの政府も動き出したな・・・・・・。』
『・・・・・・あ、あの・・・・・・!?』
『行け・・・・・・。』
『え?』
訳が分からない事に戸惑っている少女に自分・・・・・・オメガが口を開く。
『行け、と言っているのだ・・・・・・どうやら、民間人で敵意はないからな・・・・・・。』
『・・・・・・。』
『理由は何であれ、武器を持たない民間人を攻撃する事はできない・・・・・・それが、兵士としての義務だからな。』
『は、はい・・・・・・!?』
オメガの言葉に少女がハッとなり、慌てて逃げるように去る。その後ろ姿を見てオメガが通信を行う。
『誰でもいいから、すぐ来てくれ。侵入者の遺体の処理を頼む。』
オメガが目を覚ますとそこは帝国の病室の一室だった。傍らにはハルサメが待機している。
「!軍事隊長!?」
「霧雨魔理沙・・・・・・否、ハルサメ副隊長か・・・・・・そうか、私は負けたのか・・・・・・。」
「申し訳、ございません・・・・・・我々が何もできずに・・・・・・!」
「・・・・・・お前の言う通りだったな・・・・・・霧雨魔理沙は博麗霊夢同様にとてつもない力を秘めている様だ・・・・・・彼女を甘く見ていた私が主因かもしれない・・・・・・奴は感情のままに行動しているが、それが私の敗因かもな・・・・・・。」
「何を・・・・・・仰るのですか・・・・・・。」
オメガの言葉にハルサメが蒼白の表情で言葉を失う。まさか、軍事隊長は“過去”の事を・・・・・・!?
「ハルサメ副隊長・・・・・・知っての通りだが私は・・・・・・ニュータント(突然変異体)だ・・・・・・あの様な異常な位、発達した身体能力もその力の一つだが・・・・・・その代償として失ったものも大きかった・・・・・・そして敵も作ってしまった・・・・・・。」
「そんな事ありません!軍事隊長の力とスペルラウザーは人を過ちから救う力です!悪いのは軍事隊長を弾劾した者達です!」
オメガの言葉に耐え切れずにハルサメが叫ぶ。あの人は兵士になる前、とてつもない孤独を味わっているかもしれなかった・・・・・・。
「軍事隊長は兵士であると同時に人間なんです!それに軍事隊長は1人ではありません!皆、貴方を信じて・・・・・・。」
ハルサメがそう言おうとした瞬間、オメガに抱きつかれた。戸惑うハルサメに対し、彼女は相変わらずの無表情だった。
「ぐ、軍事隊長・・・・・・何を・・・・・・!?」
「そうだな・・・・・・彼女等も私の部下であると同時に家族だったな・・・・・・そして、ハルサメ副隊長・・・ハルミ・・・・・・お前も身体が未発達のまま生まれ、特殊ピーカーで幼年を過ごした事を除けば・・・・・・誇れる部下であり、愛する義妹だ・・・・・・。」
そしてオメガは片手に顔を当てながら、天井を見上げる。
「只、死ぬ時は兵士としての義務を果たすか・・・・・・人としての感情を得て死にたいものだ・・・・・・。」
「!義姉さん・・・・・・!!」
オメガの寂しそうな言葉と裏腹に表情の変わらない顔を見、ハルサメ・・・ハルミは涙を流し、彼女の胸の中で泣いた。
「・・・・・・遂に来たわね・・・・・・!」
幻想郷の博麗神社で紫が静かに目を開ける。その表情からいつもの呑気そうな雰囲気が見られない。
「勇者8人を倒し、魔理沙もスキマによれば無事に完了したし、残りはキリュウと博麗霊牙、冥界四天王、そして未だ見られぬ『紅』と言う存在・・・・・・霊夢達にも博霊の巫女の忌まわしい過去も話さなければいけないし・・・・・・厄介ね・・・・・・。」
独り言を呟きながら紫は考える。あの闇の巫女はあの時よりも強くなっており、謎の能力も兼ね備えていた。
そんな彼女達が勇者帝国と手を組んだとなれば、本命である勇者帝国の本部の奇襲、総帥・キリュウの撃破が難しくなる。
それに、霊夢に“あの出来事”を話したら、彼女はどうなるのだろう?自分としては秘密にしてほしかったが・・・・・・
「(駄目よ、八雲紫。弱気になっては藍や橙に合わせる顔が無いもの・・・・・・私も頑張らないと・・・・・・!)」
「紫~帰って来たぜ~!後、ビッグニュースだ、ビッグニュース!パチュリーが生き返ったんだよ!」
紫が考えているその刹那、スキマから魔理沙が現れたので慌てて思考を中断して作り笑いで向き直る。
「あら?お帰り、魔理沙。大神・天照の力で蘇った3人目はパチュリーだったのね?」
「え!?3人目って事は慧音の他にもか!?」
「えぇ、その詳細は後回しにして少しは休憩しましょうか?貴方達も疲れている様だし。」
「そうだな・・・・・・後でにとりに見てもらいたい事があるしな。」
そう言って、魔理沙達のメンバーはゾロゾロと解散する。その中で魔理沙とアリスは回収した台湾のAIチップの破片を何とか修理できないかを聞く為、にとりの元へ向かう事にし、パチュリーも咲夜や小悪魔と再会する為に紅魔館に帰った。
「・・・・・・(まぁ、少しはあのメイド長の心も少しは安らぐかもね・・・・・・さて、霊夢の事だから、博霊の巫女としての義務を学んで修行を早く終えそうかもしれないし、私は作戦の立案でもしましょうか・・・・・・。)」
ふぅ、と一息ついて紫はスキマを使って自宅、マヨイガへと移動した。
戦いはいよいよ最終局面へと向かっていた・・・・・・
「あ、その前に大晦日と正月の準備をしないと!え~と、蟹と鏡餅と紅白の番組表と・・・・・・」
・・・・・・ゑ?
続く
次回:「勇者、軍事隊長を倒した魔理沙達は遂に打倒キリュウの想いを元に勇者帝国本部の攻撃計画を思案していた!魔理沙も加えて“伝説の夢想技”の真の力を開放させる為の修行は苛烈を極める。そして霊夢も魔理沙達との出来事を思い出しながらハクレイとの弾幕を続いていた。次回、『決戦!幻想郷組、北へ(準備編)』!今、最後の戦いが始まる・・・・・・!」
キャラ紹介
「オメガ」
サイボーグ少女部隊、『武霊無親衛隊』を纏める謎の女性兵士。その正体はニュータント(突然変異体)であり、本人曰く、その代償として感情を失ったらしい。幻想郷の住人に劣らない高い身体能力と人工スペルカードを読み取る装置、「スペルラウザー」を用い、勇者とほぼ互角の実力を持っている。本人は兵士としての義務を果たしており、裏切り者や敵意のある者には容赦しないが、敵意の無い民間人等は見過ごすと言う面も見られ、魔理沙にソックリな副隊長・ハルサメ(本名ハルミ)の他、サイボーグ少女達の信頼も厚い。
この10点ラッシュってネタなの?
ま、いーや。次も待ってまーす。
そこまで付き合う気力も体力も私にはありませんが。
ともあれ頑張ってください。
もう書かんでええよ。
最近思ったんです。先生の本コンセプトは「東方でやるからこそ面白い」のだと。オリジナルなら単なるB級架空戦記で終わってしまいますからね。
東方オールアクションというジャンルを築いた先生の次回作、私は心より期待しております。
ということで、次回もコメント見たさで期待しています。