神霊の異常発生した異変で知り合った神子と霊夢。
その縁で、霊夢は神子たちの住む仙界へと招待される事となる。
神子に案内され、庭を抜けて建物に入り最初に見たもの。
「おかえりなさいませご主人様。お風呂になさいますか、お食事になさいますか、そ・れ・と・も、我?」
それはスカートを穿かず浄衣だけを着た、裸エプロンならぬ裸浄衣の物部布都だった。
正座から横に崩した座りで、太ももを覗かせウィンクをする布都。
その艶めかしい姿に思わず。
「霊符・夢想封印」
「光符・救世観音の光後光」
「うぼぁー」
霊夢と神子は同時にスペルカードを発動。
放たれたスペルは光の玉となり容赦無く降り注ぎ、布都が吹っ飛んだ。
「屠自古、すまないが『これ』、片付けておいて下さい」
「やれやれ」
神子が呼ぶと蘇我屠自古がどこからともなく現れ、布都を担いでどこかへ連れ去って行った。
「ああ、すみません。少し散らかっていたようで、お見苦しいところを」
清々しいほどに張り付いた笑顔を浮かべる神子。
異変の時と言い、さっきの出迎えと言い、やっぱり死者は頭悪いのね、と霊夢は再認識した。
「一度死ぬと皆アレな感じになるの?」
「人によっては性格が豹変すると言う話も聞きますが、残念ながら……あれは地です」
「地なんだ」
「ええ。ただ、あれでも布都なりに一般常識を身に付けようと頑張っているんです」
「へえ、あれでもね」
常識に囚われてはいけないと暴走するのと、常識を身に付けようとしてあれなのと。
どちらがより幸せなのだろうと、霊夢はどこかの現人神を思わずにはいられなかった。
しかし考える限り、どちらも幸せそうな顔しか浮かばないので、考えるのも馬鹿らしくなってやめた。
「まあ、布都のことは物置にでも置いておくとして。建物の中を案内しましょうか」
「そうね」
「まず、入って正面に有るのが修身の間です。修身とは己を修める事、平たく言えば修行場ですね」
「仙人ってどいつも修行とか好きなのね」
「仙人が修行好きなのではなく、修行をしない者は仙人になれないので自然そうなるのです」
そう言って修身の間への扉を開けると、腰蓑を着けて不思議な踊りを踊る物部布都が居た。
「はー! む、まだ腰の切れが悪いな、これでは格好良く決められん。先ほども腰が入りきっとらんかったから、何だあの貧相な構えは、と思われたに違いない。ええいもう一度だ!」
怪しい手つきに体全体を使った円運動。
見る者が見れば、それは物部の秘術と道教の融合なのかも知れない。
その僅かな可能性に賭け、霊夢は尋ねてみる。
「ねえ、あれって」
「光符・グセフラッシュ」
霊夢の言葉が終わる前に神子はスペルカードを使用していた。
ばら撒かれた色とりどりの光の玉が周囲を眩しく照らし、布都は踊りながら光の渦に飲み込まれて行く。
無言でそっと扉を閉める神子。
「すみません、ここはまだ改修中でした」
その顔は微笑みながらも僅かに疲れを見せている。
物部の秘術は他人には見せてはいけないものなのだろう、と霊夢は思っておく事にした。
「こちらは宝物庫です。一族の宝物が納められていて、近いうちに一般公開も考えています」
「魔理沙が聞いたら、飛んで来て持ち逃げしそうね」
「……防犯対策を考えないといけないですね」
「一族の宝と言えば色々と有るが、一番の宝と言えば我の事だな」
後ろから声が聞こえたので振り返ると、そこに立っていたのは、練習していたと思われる決めポーズをした物部布都だった。
したり顔でこちらを見ていて決めポーズも崩さない。
「あんた、さっきあっちで修行してなかったっけ」
「うむ、それが我の踊りにつられたのか霊が群がって来てな。眩しくて仕方が無いので場所を移したところだ」
あの弾幕の中踊り続けていたのかと、霊夢は驚きを隠せずにいた。
同時に、弾幕だと気付かない辺りやはりアレなのね、と言う目で見ていた。
「で、何であんたが一番の宝なのよ」
「ふふん。若くして物部の秘術を修め、今は仙人、果ては神々の一柱として世に英名を轟かせるであろう。しかも見目若く器量良しとくれば申し分なかろうて」
「あの、これなら差し上げますが」
「絶対遠慮すると思うわ」
「何より魅力的なのはこのふともも、布都だけにな、わはは」
スカートをたくし上げ太ももをパンと叩き、高らかに笑う布都。
布都とは対照的に、神子は苦悩の表情を浮かべて溜息を吐いた。
「……屠自古」
「またですか」
呼ばれて飛び出た屠自古が、手馴れた手付きで布都を引っ張って行く。
「おい、何をする屠自古、我は今客人と話している最中で」
「はいはい、ご飯はさっき食べたでしょう」
「何だと、我はまだ呆けてはおらぬわ。おい屠自古、離せぇぇ」
絶叫と共に幽霊に連れ去られる布都。
状況だけ見ればホラーなのかも知れないが、言い知れぬ安心感がそこには有った。
・・・
「えーと、次はですね」
「無理しなくても良いわよ、顔色悪そうだし」
神子の顔は疲労の色が濃くなって来ている。
「大変そうね、身内にあんなのが居ると」
「ああでも、本当に布都は頑張っているんです。ただその頑張りが全て裏目に出ると言うか、違う方向に全力で疑う事無く突き進むと言うか」
「分かるわ。私も知り合いに『思い込んだら試練の道を、逝くが乙女のど根性ガエルです』とか訳の分からない事言ってて人の話聞かないのが居るから」
霊夢は本日二度目、どこぞの現人神・東風谷早苗を思い浮かべた。
「布都もそんな感じかも知れません。何か閃いたような顔をしては、突拍子も無い事を言い出す始末で」
耳のような髪を垂れ、がっくりとうなだれる神子。
霊夢は肩を叩き、言葉を掛ける。
「そんな深刻になる事も無いわよ。世の中、何が起きるか分からないんだしさ」
「はぁ、そうですね。どんな奇跡が起きるかも分かりませんし」
「あ、そうだ。奇跡といえばさ、そいつ奇跡を起こせるらしいんだけど、それに賭けてみない?」
「いえ、ですが、その人もアレなんでしょう?そんな『混ぜるな危険』の二人を会わせてしまっては」
「確かに早苗は、アレよ。だけどこのままじゃどっちも治る見込みなんてゼロに等しい。それよりも僅かな可能性に賭けてみるべきじゃないかしら」
「……なるほど」
マイナスのマイナスはプラス、そんな言葉が二人の頭をよぎる。
何より布都のことで胸のあたりが最近痛い神子にとっては、奇跡でも神でも、何でも良いから縋りたいと言うのが正直なところだった。
「分かりました! やってみましょう霊夢」
「ええ!」
神子の差し出した手を、霊夢は力強く握り返す。
二人ともあわよくば面倒事を相手に押し付けてしまえたらなぁと内心考えつつ、ここに神子霊夢同盟が誕生した。
・・・
――数日後――
布都は、その日のうちに連れて来られた早苗と共に、合同合宿を行なっていた。
神子と霊夢も初めこそ"それ"に参加していたが、ついて行けず早々に脱落する事となる。
「オーバードライブ!」
「もっと声だけを意識せず、心から溢れ出させるように叫ぶんです!」
「うぉぉぉぉ、オーバードォラァイブ!」
「よし、今度こそ成功させましょう。今のに動きを加えて下さい」
「うむ、行くぞ!」
布都はシャカシャカと手を忙しなく動かし、体の線は円運動を描き踊る。
オーバードライブの発声とともに決めポーズを発し、ビシッと格好良くポーズを決める。
「どうだ、早苗」
「ふふ、ばっちりキタキタしてましたよ、布都さん」
「さもあろう。何度も読み返しては体に叩き込んだからな、徹夜で」
ビシッと親指を立てて応える早苗に、布都は体を反らせて得意げに話す。
早苗が持ち込んだ漫画の影響を受けた布都は、その踊りを修行に取り入れる事にした結果こうなった。
一方、神子と霊夢は安全圏まで離脱したところで反省会を開いている。
「やっぱあれね、早苗が真面目に修行をやった時点で私達の負けは見えたわ」
「字面だけ見れば正しいように見えますけど、酷い事言ってませんか」
「全然。だってあいつ、間違ってるって分かってる方に全力で行くから」
早苗は基本的に努力家で、霊夢はよくあんなに頑張れるなと、有る意味感心している。
だが、違う方向への努力を真面目に、その片手間に本来の方向への努力をしているのだ。
周りから見れば『優秀とは言えないが、とっても努力をしている子』に見えるかもしれない。
だが霊夢から見れば『優秀とは言えない、とんでも努力をしている子』だった。
「要するに布都も今、間違った方向に全力で向かっていると」
「濃い奴同士なら、反発なり相互作用なりで良い方向に行かないかな、って期待してたんだけどね」
「冷静に分析してる場合では有りませんよ、このままでは布都が更に変な方向に」
「んなこと言ってもねぇ、あれを止める勇気有る?」
霊夢が指差した方向では、早苗と布都が修行を続けている。
「サンライトイエロー(山吹色の)=オーバードライブ、聖童女・太陽神の贄!」
「その調子ですよ布都さん、腰の動きが更にキレを増して来てます」
早苗も踊りに参加し、二人の動きは残像を生む程に加速する。
しかも顔だけはキリッとしているので、一瞬格好良いかも、と思ってしまう心を抑えるので精一杯だった。
これに割って入る非常識さなど、霊夢や神子には無い。
「無理、です」
「でしょ。嵐が過ぎるのを待つしかないのよ、私達は」
しかし、嵐は止むどころか、一層その激しさを増して行った。
「ふぅー、この調子であれば、あの技も出せるような気がして来たな」
「遂に出しますか、あれを」
「任せよ、今の我であればきっと出来るはずだ」
「良いでしょう、私が許可します。やっちゃって下さい」
「うむ。まずは、召喚・タケミカヅチ!」
早苗のゴーサインに後押しされ、布都は先ほどの踊りを踊り始める。
いつの間にか着用した腰蓑を注連縄に見立て、腰の軌跡が光の輪を描き依り代となる。
そうして踊り終わりの決めポーズとともに呼び出されたタケミカヅチの顔は暗かった。
「次だ。来たれ、布都御魂よ!」
掛け声とともに、布都の右手に霊剣・布都御魂が現れる。
「なるほど、オーバーソウルね――」
霊夢は次に来るであろう事を予想できた。
何故なら、早苗の漫画は一通り目を通していたから。
「オーバーソウル・タケミカヅチ!」
布都は布都御魂を掲げ、新しいスペルカードを唱える。
呼び出されたタケミカヅチは一度形を崩し、光となり布都御魂の周りに集い始め、また別の形を取り始める。
最終的に凝集されたそれは、小手の形をして布都が纏う形となった。
――オーバーソウル・タケミカヅチ完成の瞬間である――
「は、ははは」
布都は高揚する気持ちを抑え切れず、笑いがこぼれる。
「やりましたね布都さん、徹夜でマンキン全巻読破した甲斐が有りましたね!」
「うむ、おかげで修行は短めだったがな」
「何を言っているんですか、合宿と言えば徹夜をするのが当然。むしろ途中で寝た者は顔に落書きされると言う罰を受けるんですよ」
「そ、そうなのか。合宿とは厳しいものなのだな」
聞きなれない言葉に神子が尋ねる。
「霊夢、マンキンとは何ですか」
「早苗が持ってる漫画よ。こんなのね」
と、読んでいた早苗の漫画を見せると、神子は物珍しそうに中を見ている。
「なるほど、つまり布都は彼女とその本を読んでスペルカードに応用したと」
「どっちかと言えば作りたくなっちゃった感優先でしょうね、あの性格からして。つーか何回徹夜してんのよ、あいつら」
少なくとも二回はやっているが、徹夜明けのハイテンションなのか布都の意気軒昂ぶりは更に酷くなって行く。
「うおお、身体中に漲ってきおった。これならダブルオーバーソウルも可能ではなかろうか」
「ふ、私は既に神奈子様と諏訪子様で完成させていますよ」
「な、何だと! あれほどの技をその年で完成させるとは……さすが神と言うだけは有るな。だが、我が誇りに賭けてダブルオーバーソウルを完成してみせようぞ。来い、屠自古!」
屠自古は布都の呼び出しに苦々しい顔で現れ、そのまま布都ではなく神子の前に行き、一言だけ尋ねる。
「オーケー?」
長年の付き合いから理解している神子は笑顔で、そっと縦に頷く。
我が意を得た屠自古はそのまま布都の前に行き。
「ガゴウジトルネード!」
「ばかなぁぁぁ!!」
布都はいきなり来られた弾幕の直撃を受けて吹っ飛び、倒れた場所にあった豆腐の角に足の小指をぶつけ、再起不能となった。
・・・
その後、目的を果たせなかった神子霊夢同盟は解散するかに見えたが、修業後も布都と早苗が意気投合しソウルシスターと呼び合う程親しくなるに至り、なし崩し的にこちらも存続している。
「前回の件で学んだ事が有ります」
「何よ」
「奇跡など、頼らず地道に生きて行く」
「そうね地道が、一番かもね」
「お粗末」
――これが後の世に言う、『布っ都びオーバーソウル事件』である――
マンキンで一番好きなのはホロホロかも知れない
あとガンダーラの携帯使う人。あのインドムービーっぷりが毎回気になるwww
開幕腹がよじれましたw
布都最高。
神子の心労が半減します……あれ?霊夢に対する効果は?
そりゃそうだw
1. > ホロホロとは渋い。自分は何だかんだ言って主人公ですかね。
3. > 描いてる途中で自分もそんな感じでした。
5. > 布都もも最高。
6. > ありがとうございます。
9. > 布「なるほど、良い事を教えて貰った。早速帰ったら試すとしよう」
11. > こんな布都だから可愛い。霊夢は何だかんだ言って負担を感じていないので効果は有りません。さすが幻想郷の巫女です。
12. > 早苗さんと布都は良い魂の友になれると思うのです。
14. > あれ、何だろうこの安心感。
21. > 大丈夫、本人たちにとってはプラス(になった気)ですから。
萌え申した!求婚させていただきたい!