Coolier - 新生・東方創想話

こころをさとる

2011/12/19 22:30:08
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「やや、これはさとり様。」
(厄介なのが気やがった。)
店の店主が揉み手でやってくる。
「注文していたものは?」
「はい、ちゃんとここにあります。」
(さっさと渡して帰らせよう。)
そう言って店の前を指さした、頼んだものが積まれている。
「お代はこちらに。」
「はい、確かに、またのご来店をお待ちしております。」
(金払いだけはいいんだよな、さっさと帰りやがれ。)
そう言って笑顔でおじぎをし、私を見送る。
心が分かるという事は自分の心に苦痛をもたらす。
いっそのこと、言葉で飾らず、心のままに言葉をぶつけてくれればいいのに。
こいしはそんな生産性のない思考に見切りをつけたのか自ら目を閉じ、無意識に身を置くようなった。
自らの種族の意味を消して、それで私より強いのだから始末に負えない。
私はこいしのようにはなれない、私はすでに言葉と心の裏を数え切れないほど見てきた、それがない日常は恐怖でしかなかった。
私の心が休めるようなったのは、動物と暮らすようになってからだった、言葉がなく、心で行動する動物の飼育は、私がこの能力を唯一持っていてよかったと思うときだった。最初は一匹だったが、次第に数が増え、いつしか地霊殿は動物たちのものになっていった。
動物たちは心のままに行動している、嫌いな事には嫌いと思うし、嘘もおべっかも使わない。
動物たちと過ごす日々は私の心に安寧をもたらしてくれた。
それに変化が訪れたのは、お燐や空達が人の姿をとれるようになった頃からだった。
最初は私も喜んだ、素直な心で私と接してくれる友人が出来たと思ったからだ。
「さとりさま、お腹がすきました。」
「さとりさま、お空がこいし様とつまみ食いをしてしまいました…」
空は調子に乗りすぎたり物覚えが悪いけど元気でとってもいい子、燐は頭も良くて友達思いないい子。
二人は私を敬愛し、その言葉と心に齟齬はなかった。他人と言葉を交わして「楽しい」と思うのは初めてだった。私は二人に姓を与え、他にペットにもペットとしてだけではなく個人として接しようとした。
しかし、ある日から喜びは不安へと代わった。
その日、私はお燐や空に地獄の管理の仕事を教えていた。二人はおっかなびっくりといった様子で地獄の釜の管理をしていた。
お燐が死体を投げ入れ、空が火力を調整する。最初はうまくいっていたが、まだなれてないからか、事故が起こってしまった。調子に乗った空が煙にまかれ、熱気でやけどをしてしまったのだ。
「空!」
私が駆け寄ると、空は立ち上がろうとするが足が痛むからか立ち上がれない。空の白いマントに黒くすすが付き、肌に軽いやけどを負っていた。
燐はショックからか立ちつくしている。
ひどい怪我ではないと安心し、声をかける。
「大丈夫?空?」
「大丈夫です、さとりさま…」
(痛いよぉ、痛い…)
「!…そんなわけないじゃない!」
「そんなに心配しないでください…」
(いたがると、さとりさまが心配しちゃう…)
にかっと空が笑う、大丈夫だとアピールしていた。
「……」

空は私のために嘘をついた

自我を持つという事は同時に様々な感情を持つという事だ、喜怒哀楽、好き、嫌い、良く思われたい、悪く思われたくない。
私を悲しませたくないから、空はとっさに嘘をついた、それは悪いことではない、それは優しさなのだ。
しかし、私は考えてしまう、お燐や空達が変わらない笑顔で、変わらない言葉を紡ぐ中で、心で私を拒絶してしまう事を、私を恐れる連中のようになってしまう事を。
それから私は、知らずに彼女らと距離をとってしまった。彼女らは私の言う事をよく聞き働いてくれた。しかし、言葉を交わす事は少なくなり、空やお燐など、遠くで働く者には顔を合わす事も少なくなってしまった。

それから年月が経ち、事件が起こった。
空が神の力を手に入れ、地上から人間と妖怪が手を組んで攻めてきたのだ。
後に私が事件の全容を知り、お燐や空と話さなければならなくなった。
事情を聴くため、二人を呼びつけるが私は二人とどう接していいのかわからなかった。
もしも二人が心にもない事を言ったら、詫びの言葉の裏で私を罵倒していたら…
私は知らずに震えていた。
ほどなく二人が入ってくる。
(こわいよーどうしよー)
(お空に重い罰がかかったら…)
心は読める、悪いとは思ってるようだった。
「空、お燐、今回の事、どういう事ですか?」
内心は不安でいっぱいで、それを悟られないように厳格に言う。
先に口を開いたのは空だった。
「ざどりざまぁ…ごべんなざいぃ!!」
(ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい………)
私に抱きついて許しを乞う、涙でいっぱいの言葉は聞き取り難かったが心はしっかりと聞こえていた。
「あの、さとり様…今回の事…」
(少しでもお空の罰を軽くしてもらわないと…もしも…もしも…お空の命が危なかったら…)
お燐は声がふるえながら言葉を探していたが、友達思いは、あの頃から何も変わっていなかった。
「ふふふ、あはは。」
「さとり様?」
私は吹き出してしまった、長く生きてたのに、あんなに一緒に暮らしてたのに、なんでこんな事に気づかなかったのだろう。
「いいのよ、別に罰を与えようというんじゃないの。」
「空。」
「はいっ」
「太陽の力を貰ったんですって?ちょっと私とこいしに見せてくれない?」
「わかりました!」
そう言って空はふすまを突き破って上空に舞い上がる。
次の瞬間には地底にあるわけない、小さな太陽が出現していた。
太陽の下でこいしが珍しそうに空を見上げている。あの顔は自分も欲しいと思っている顔だ、心は読めなくてもそれぐらい分かる。
誰もが心に裏を持つ、でもそれは言葉を持つなら誰でもそうなのだ、自分でさえそうなのに、他人にそれを持つ事を許さないのは傲慢だ。
「ねぇ燐。」
「なんでしょうか。」
「よかったわね、命がどうとかじゃなくて。」
「それは…」
「今度は自分で抱え込まず、相談してね、私はあなたの考えるほど冷徹でもないわ。」
そう言って燐の頭を撫でる。
「そういえば、久しぶりね、なでてあげるのも。」
「さとり様ぁ…ぐすっ…ありがとう…ございます…」
燐は流れ出る涙を袖で拭いていた。
短いですけど書いてみました。

心を読めると考えると気が狂いそうになりそうです。
さとりさんはすごいなぁ。
水貝
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コメント



0.560簡易評価
2.100名前が正体不明である程度の能力削除
さとりは苦労人だよね。
3.90奇声を発する程度の能力削除
心が温まりました
4.60名前が無い程度の能力削除
嘘の件と異変処理の件、その際のさとりの心理にちょっと乖離があるかなぁ。
そうきてそうなるか、と。もう少しさとりの怯えに突っ込んでもよかったんじゃないかな。
いや明快なテーマと結末は読んでていいものだけどね。
14.90とーなす削除
質のいい長編SSを、断片的に見せられた感じ。
全体的にダイジェストのような淡々とした描写が多かったので、もう少し突っ込んで書いてもよかったかも。
ともあれ、温かいSSでした。
15.90名前が無い程度の能力削除
欲を言うと、事件前に一つ二つばかりお話を挟んでほしかったかな。
それでも、良い作品という事には変わりありませんが。