いつもの様に大学で講義を受講して、いつもの様にメリーは蓮子を待っていた。
構内に人もまばらになった午後五時三十分。大学の正門にもたれかかるメリーがはぁっと息をすればそれは白く染まっていた。いつもの様に蓮子はまた遅れてくるのだろうと半ば諦めているメリーは吐く息白く視線を落として嘆息していた。そして、メリーが自身の首に巻かれたやたらに長いマフラーをもさもさ弄んでいるときにそれは起こった。
「今日のメリーはマフラーが長い」
いつもの様に黒の帽子を被った蓮子が、いつもの様に待ち合わせに遅れてこなかった。
「え?うん?あれ?え、蓮子?」
手首を返して左手に付けている時計と蓮子を都合二度三度と見返して、それからメリーは鞄をまさぐって携帯電話を取り出した。ディスプレイに表示された時刻表示と蓮子をまた同じように二度三度と見返して、さらにそれでも信じられないのかこれでもかとばかりに傍にあった街灯時計と蓮子の間で視線を何度か往復させていた。
「メリーに何だか失礼なことをされてる気がする」
何よもう、という顔でそう言う蓮子の吐く息もメリーと同じくやっぱり白く。心なしか蓮子のいつものあけすけさは影を潜めている様に見えた。そのいつもの代わりという様に、蓮子は自分の両肘を自分で抱えて何故だかそわそわして見えた。
「蓮子が待ち合わせの時間通りに来るなんて一体どうしたの?」
「メリーに信用ないなぁ私」
「信用はないけれど信頼はしてるわよ?」
しれっとメリーはそんな事を言って歩き出し、つられて蓮子も歩き出す。そうして、いつもは蓮子が歩き出してその半歩後ろをメリーが着いていくという逆になり二人はメリーの家を目指して大学を後にした。
そうしてそろそろメリーの家が近くなるというその道すがら、メリーから見て蓮子は明らかにおかしかった。
まず一つ、駅の改札で蓮子は切符を取り忘れた。
二つ、隣に蓮子が居ないと思ったら少し後ろで街路樹にぶつかっていた。
三つ、蓮子の帽子が風に吹かれて飛んでった。
飛んでいって誰だか分からなくなった女の子に帽子を戻して蓮子にしてあげたメリーはそれでもそわそわしている蓮子に肉まんを一つ買ってあげた。
「食べないの蓮子?」
「メリーが酷く失礼なことを考えていた気がする」
「気のせいよ」
「嘘つき」
照れ隠しなのか少しだけ頬に朱が差している蓮子は小さく口を開きぱくっと肉まんに噛り付く。
「それで、何だかやけにそわそわして待ち合わせにも遅れないおかしな蓮子は一体どうしちゃったのかしら?」
それを聞いて蓮子はもう一度肉まんにぱくつこうとしていた姿勢そのままに一旦動きを止めた。
「私、今日変だった?」
蓮子に言われてメリーはきょとん。
隠し通せていると思っていたのに、という横顔を蓮子はしていた。
「呆れた、あんな様子で隠せているとでも思っていたの?」
私相手に、との言葉はすんでの所で飲み込んでメリーは口には出さなかった。
「メリーもこの肉まんどう?すごく美味しいわ、ほら」
その事に触れられたくでもないのか誰にも分かる不自然さで蓮子は話題を逸らそうとしていた。いつもは有無も言わせず連れまわされて何とはなしに言い包められてしまっていたメリーは常にはない蓮子に何だか楽しくなってしゃなりと迫る。ほらと差し出された腕をかいくぐり至近で蓮子を見つめあげた。
そして、その顔をそれと分かる程たじろがせている蓮子に気を良くしたメリーは止めの一言。
「話しなさい、全て」
「い、いや」
ぷいと顔をそらせた蓮子の片側だけ伸ばした髪房が翻ってメリーの首筋を撫でた。
蓮子の否という意思表示、けれどそれ位では今のメリーは止まらない。首に巻かれたやたらに長いマフラーを少し解いてもう一人分は巻けるようにする。
そうしてメリーは自身の首筋を撫でた蓮子のそれをさわりと掴み、あんまり痛くないようにと気遣って、ちょっと引き寄せ蓮子の顔を自分へと向かせる。
「痛、痛っ、いたたたた、痛いいたい。ちょっとメリー何するのよ!」
何て言って一歩引こうとする蓮子の首に、メリーは自身の首にも巻かれているマフラーをそれはもう鮮やかに掛けて捕まえた。
「逃がさないわよ蓮子」
「も、もう、何よメリー。そんなことしたって話さないわよ」
端から見れば痴話喧嘩にしか見えない二人の様子に数少ない周りの通行人が、なんだろう?と微かに目を向けだしていた。
そしてそんな様子に気付いた蓮子はこれ幸いとメリーに告げる。
「ほらメリー、人目もあるし迷惑だからこの話はもうやめましょう」
「いつぞやの夜に墓石を廻すだなんて真似をした蓮子の台詞じゃないわね」
その言葉にうっ、あははと蓮子は目を逸らせて詰まった。
「ほら蓮子、話しなさい。どうしてそわそわしているのか。でないとこの場でキスするわよ?」
「い、いや」
「どれが?」
「話すのが」
蓮子のその言葉にキスが嫌だと言われなくてメリーはほっと安堵していた。
とメリーが思ったのは束の間、ここまで意固地な蓮子に、メリーはもうやけくそだーと目を閉じて蓮子に自身の唇を寄せていった。
「ちょ、ちょっとメリー?」
ほんとにするの?という蓮子の言葉にけれどメリーの唇が迫る。
そうして二人が触れるか触れないかの瞬間に、
「わ、分かったわよ!メリー、分かった、分かりました話す、話すわよ」
すんでの所で未遂に終わった。
そして、二人共に恥ずかしかったのかそれぞれ逆に顔を逸らしその視線は交わっていない。
今までの余裕は何処へいったのかメリーはその頬に蓮子と同じ位の朱を差していた。
「本当?」
逸らした顔はそのままに言った。
「本当よ、けど」
けど、というその言葉にメリーは顔を戻し、
「もう、けどって何なのよ蓮っ、」
「メリーにしか聞かれたくないから早く部屋、いこ?」
「…………、はい」
蓮子が恥ずかしげに人差し指を噛んでいる様を見て、いつも通りにメリーは主導権を握られていた。
「それで?結局どうしてなの?」
家の鍵を開けようと鞄に手を入れてまさぐっている時にメリーは蓮子にそう聞いた。
「まだ家入ってない」
「誰もいないじゃない」
「もう、笑わないでよ?今って月蝕でしょ?何だか猫が髭を失くしたみたいで落ち着かないのよ」
「はい?」
鞄から鍵を取り出してさぁ開けるぞというその時にメリーはそう声を出した。
「だ、だから、何だか場所が分かり辛くて落ち着かないの!」
「時間通りに来たのは?」
「蝕の時はいつもそうなの」
「街路樹にぶつかったのは?」
「月が変で身体のバランス取れないから」
成る程それで髭なのかとメリーは納得した。つまる所蓮子にとって月は動物にとっての尻尾みたいなものなのかと。
「帽子が飛んでいったのは?」
「偶然」
「あは、あはは」
くすくすとメリーは人差し指で目尻を押さえて笑い出した。
そのメリーの様子に蓮子は頬を染めて苦言を呈する。
「もう、だから言いたくなかったのに」
「あはっ、は、はぁ笑った。ごめんなさい、けど蓮子って本当に面白いわね。もしかしたら蝕の夜は狼女にでもなっちゃうんじゃないかしら?」
冗談めかして笑うメリーに先程散々してやられた蓮子は面白くなさそうだった。
「メリーの馬鹿」
「きゃー、狼蓮子に食べられちゃうわ」
くすくすくすくすメリーは笑う。蓮子はじとーっとそれを見る。何事か思いつく。
あれからの帰り道、一本のマフラーを二人で巻いている蓮子とメリーの距離は近く、蓮子が横を向けば丁度良い位置にメリーのそれがあった。
「このっ、ばかメリー!」
「んんっ、ふ、んぅう」
寄せる唇は今度こそ重なりあっていた。
そして吐息の掛かる二人の距離で、
「ふ、は。ちょ、ちょっと蓮子今の?」
「今日はメリーを食べて良い日?」
メリーは蓮子に問いかけられ、
「っ、、、……っ、…………はい、どうぞ」
ぱたんと扉の閉まる音がした。
構内に人もまばらになった午後五時三十分。大学の正門にもたれかかるメリーがはぁっと息をすればそれは白く染まっていた。いつもの様に蓮子はまた遅れてくるのだろうと半ば諦めているメリーは吐く息白く視線を落として嘆息していた。そして、メリーが自身の首に巻かれたやたらに長いマフラーをもさもさ弄んでいるときにそれは起こった。
「今日のメリーはマフラーが長い」
いつもの様に黒の帽子を被った蓮子が、いつもの様に待ち合わせに遅れてこなかった。
「え?うん?あれ?え、蓮子?」
手首を返して左手に付けている時計と蓮子を都合二度三度と見返して、それからメリーは鞄をまさぐって携帯電話を取り出した。ディスプレイに表示された時刻表示と蓮子をまた同じように二度三度と見返して、さらにそれでも信じられないのかこれでもかとばかりに傍にあった街灯時計と蓮子の間で視線を何度か往復させていた。
「メリーに何だか失礼なことをされてる気がする」
何よもう、という顔でそう言う蓮子の吐く息もメリーと同じくやっぱり白く。心なしか蓮子のいつものあけすけさは影を潜めている様に見えた。そのいつもの代わりという様に、蓮子は自分の両肘を自分で抱えて何故だかそわそわして見えた。
「蓮子が待ち合わせの時間通りに来るなんて一体どうしたの?」
「メリーに信用ないなぁ私」
「信用はないけれど信頼はしてるわよ?」
しれっとメリーはそんな事を言って歩き出し、つられて蓮子も歩き出す。そうして、いつもは蓮子が歩き出してその半歩後ろをメリーが着いていくという逆になり二人はメリーの家を目指して大学を後にした。
そうしてそろそろメリーの家が近くなるというその道すがら、メリーから見て蓮子は明らかにおかしかった。
まず一つ、駅の改札で蓮子は切符を取り忘れた。
二つ、隣に蓮子が居ないと思ったら少し後ろで街路樹にぶつかっていた。
三つ、蓮子の帽子が風に吹かれて飛んでった。
飛んでいって誰だか分からなくなった女の子に帽子を戻して蓮子にしてあげたメリーはそれでもそわそわしている蓮子に肉まんを一つ買ってあげた。
「食べないの蓮子?」
「メリーが酷く失礼なことを考えていた気がする」
「気のせいよ」
「嘘つき」
照れ隠しなのか少しだけ頬に朱が差している蓮子は小さく口を開きぱくっと肉まんに噛り付く。
「それで、何だかやけにそわそわして待ち合わせにも遅れないおかしな蓮子は一体どうしちゃったのかしら?」
それを聞いて蓮子はもう一度肉まんにぱくつこうとしていた姿勢そのままに一旦動きを止めた。
「私、今日変だった?」
蓮子に言われてメリーはきょとん。
隠し通せていると思っていたのに、という横顔を蓮子はしていた。
「呆れた、あんな様子で隠せているとでも思っていたの?」
私相手に、との言葉はすんでの所で飲み込んでメリーは口には出さなかった。
「メリーもこの肉まんどう?すごく美味しいわ、ほら」
その事に触れられたくでもないのか誰にも分かる不自然さで蓮子は話題を逸らそうとしていた。いつもは有無も言わせず連れまわされて何とはなしに言い包められてしまっていたメリーは常にはない蓮子に何だか楽しくなってしゃなりと迫る。ほらと差し出された腕をかいくぐり至近で蓮子を見つめあげた。
そして、その顔をそれと分かる程たじろがせている蓮子に気を良くしたメリーは止めの一言。
「話しなさい、全て」
「い、いや」
ぷいと顔をそらせた蓮子の片側だけ伸ばした髪房が翻ってメリーの首筋を撫でた。
蓮子の否という意思表示、けれどそれ位では今のメリーは止まらない。首に巻かれたやたらに長いマフラーを少し解いてもう一人分は巻けるようにする。
そうしてメリーは自身の首筋を撫でた蓮子のそれをさわりと掴み、あんまり痛くないようにと気遣って、ちょっと引き寄せ蓮子の顔を自分へと向かせる。
「痛、痛っ、いたたたた、痛いいたい。ちょっとメリー何するのよ!」
何て言って一歩引こうとする蓮子の首に、メリーは自身の首にも巻かれているマフラーをそれはもう鮮やかに掛けて捕まえた。
「逃がさないわよ蓮子」
「も、もう、何よメリー。そんなことしたって話さないわよ」
端から見れば痴話喧嘩にしか見えない二人の様子に数少ない周りの通行人が、なんだろう?と微かに目を向けだしていた。
そしてそんな様子に気付いた蓮子はこれ幸いとメリーに告げる。
「ほらメリー、人目もあるし迷惑だからこの話はもうやめましょう」
「いつぞやの夜に墓石を廻すだなんて真似をした蓮子の台詞じゃないわね」
その言葉にうっ、あははと蓮子は目を逸らせて詰まった。
「ほら蓮子、話しなさい。どうしてそわそわしているのか。でないとこの場でキスするわよ?」
「い、いや」
「どれが?」
「話すのが」
蓮子のその言葉にキスが嫌だと言われなくてメリーはほっと安堵していた。
とメリーが思ったのは束の間、ここまで意固地な蓮子に、メリーはもうやけくそだーと目を閉じて蓮子に自身の唇を寄せていった。
「ちょ、ちょっとメリー?」
ほんとにするの?という蓮子の言葉にけれどメリーの唇が迫る。
そうして二人が触れるか触れないかの瞬間に、
「わ、分かったわよ!メリー、分かった、分かりました話す、話すわよ」
すんでの所で未遂に終わった。
そして、二人共に恥ずかしかったのかそれぞれ逆に顔を逸らしその視線は交わっていない。
今までの余裕は何処へいったのかメリーはその頬に蓮子と同じ位の朱を差していた。
「本当?」
逸らした顔はそのままに言った。
「本当よ、けど」
けど、というその言葉にメリーは顔を戻し、
「もう、けどって何なのよ蓮っ、」
「メリーにしか聞かれたくないから早く部屋、いこ?」
「…………、はい」
蓮子が恥ずかしげに人差し指を噛んでいる様を見て、いつも通りにメリーは主導権を握られていた。
「それで?結局どうしてなの?」
家の鍵を開けようと鞄に手を入れてまさぐっている時にメリーは蓮子にそう聞いた。
「まだ家入ってない」
「誰もいないじゃない」
「もう、笑わないでよ?今って月蝕でしょ?何だか猫が髭を失くしたみたいで落ち着かないのよ」
「はい?」
鞄から鍵を取り出してさぁ開けるぞというその時にメリーはそう声を出した。
「だ、だから、何だか場所が分かり辛くて落ち着かないの!」
「時間通りに来たのは?」
「蝕の時はいつもそうなの」
「街路樹にぶつかったのは?」
「月が変で身体のバランス取れないから」
成る程それで髭なのかとメリーは納得した。つまる所蓮子にとって月は動物にとっての尻尾みたいなものなのかと。
「帽子が飛んでいったのは?」
「偶然」
「あは、あはは」
くすくすとメリーは人差し指で目尻を押さえて笑い出した。
そのメリーの様子に蓮子は頬を染めて苦言を呈する。
「もう、だから言いたくなかったのに」
「あはっ、は、はぁ笑った。ごめんなさい、けど蓮子って本当に面白いわね。もしかしたら蝕の夜は狼女にでもなっちゃうんじゃないかしら?」
冗談めかして笑うメリーに先程散々してやられた蓮子は面白くなさそうだった。
「メリーの馬鹿」
「きゃー、狼蓮子に食べられちゃうわ」
くすくすくすくすメリーは笑う。蓮子はじとーっとそれを見る。何事か思いつく。
あれからの帰り道、一本のマフラーを二人で巻いている蓮子とメリーの距離は近く、蓮子が横を向けば丁度良い位置にメリーのそれがあった。
「このっ、ばかメリー!」
「んんっ、ふ、んぅう」
寄せる唇は今度こそ重なりあっていた。
そして吐息の掛かる二人の距離で、
「ふ、は。ちょ、ちょっと蓮子今の?」
「今日はメリーを食べて良い日?」
メリーは蓮子に問いかけられ、
「っ、、、……っ、…………はい、どうぞ」
ぱたんと扉の閉まる音がした。
で、続きは?
続きは!?
ちゅっちゅ…ちゅっちゅ?ちゅっちゅ!
蓮メリちゅっちゅ!
あと月食蓮メリ良いね
よし、俺が引き取るよ
いい濃さのちゅっちゅでした。弱気蓮子可愛い。
怪異の類にとっての月というのは影響が大きいですが、能力持ちのメリーにも何か変化を及ぼしたりして……?