◇◆◇◆◇◆
仙界の朝は早い。というのも、ある人物の提言によって、朝型の生活サイクルが推奨されているからだ。
「太子様、起きてください。朝食のご用意が整いましたよ」
亡霊の蘇我屠自古は、仙界に住む豪族一家の料理担当である。そのためこうして、朝食の用意ができると、居間にいない者に声を掛けて回るのが日課であった。
ついでに、この部屋を最後に回るのも日課のうちだ。
「……失礼します」
さっぱり返事がないので、襖(ふすま)を開けて中へ。畳張りの簡素な部屋の中央に、規則的な寝息を立てる寝具、つまりは布団が敷いてあった。
「太子様、朝ご飯ですよー?」
その布団へ、屠自古はさっきより声を大きくして呼びかける。やはりというべきか、返事はなかった。仕方なく、屠自古は掛布団をそっと取り払う。
布団の上では、豊聡耳神子がさも幸せそうな寝顔で熟睡していた。あまりの無邪気さ、無防備さに屠自古はつい放心し、魅了されたかのように固まってしまった。
(…………っていけない、起こしに来たんでしょ、私!)
しばし放心した後、屠自古がはっと我に返った。白い襦袢に包まれた華奢な肩に手を置き、起こすべく、軽く揺する。
「太子様~、起きてください。朝ご飯のお時間ですよ~?」
ゆさゆさ、わさわさ。
しかし、神子は起きる兆候すら見せてくれない。屠自古も負けじと揺するが、生来の飽きっぽさからか、段々と揺さぶる手つきがぞんざいなものになっていく。
「んぅ……とじ、こ……?」
並みの人間ならとっくに起きるほどの揺さぶりになったところで、ようやく神子が反応した。屠自古は手を離し、寝ぼけ眼の神子を何気なしに覗き込む。
「はい、そうですよ太子様。ですからきちんと起きて――」
「とじこ!」
だが、屠自古が最後まで言い終えるより早く、神子が屠自古の首元に腕を回し、ぎゅっと抱きしめてしまっていたのだ。唐突過ぎる出来事に、亡霊の顔が一瞬で真っ赤に茹で上がった。
「たたたたたたたたたたた太子様、ねね寝ぼけてないでください!?」
さっきの舌足らずな声といい、焦点の合っていない瞳といい、神子が寝ぼけているのは火を見るより明らかだ。しかし、いくら彼女が聖人といえど、こんな状況で注意しても無駄なわけで。
「すぅ……すぅ……」
あろうことか、神子は屠自古を抱いたまま、もう一度寝息を立て始めてしまった。もともと神子は朝にはめっぽう弱いのだが、ここまで酷いのも珍いことだ。
「たっ、たた、た…………!」
屠自古は嬉しいやら恥ずかしいやらで、ふるふると体を小刻みに震わせていた。
「たっ……たわむれは終わりじゃ――――!」
そして、雷鳴じみた絶叫が仙界中に轟き渡った。
◇◆◇◆◇◆
「まったくもう、太子様ってば」
「あはは、面目ないです、屠自古」
仙界の道場に併設された屋敷の居間で、ちゃぶ台を囲んでの、のどかな朝食の光景。ちゃぶ台の上にはご飯、味噌汁、卵といった朝食の定番が並んでいる。
箸を動かしているのは三人。一人は亡霊の蘇我屠自古。未だに頬は薄桜色に染まっており、恥ずかしさが抜けきっていないようだ。
「それにしても屠自古、お主もほどほどにするのだぞ? 朝から庭に雷を落とすのもそうだが、太子様に迷惑をかけるでない」
ちゃぶ台の対岸から指摘するのは、白い狩衣を着た小柄な少女、物部布都だ。古風な喋り方をする癖がある彼女だが、注意や指摘の時には、その癖が驚くほどの効力を発揮することが多い。
今回も例外でなく、諫められた屠自古は、ぐっと言葉を詰まらせた。
「わ、悪かったとは思ってるわよ。でも、その、仕方ないでしょ?」
「だから、我でなく太子様に謝れと言うておるのだ」
「す、すみませんでした、太子様」
舌戦に負けた屠自古は箸を置き、上座に向き直って深々と頭を垂れた。
「あ、ああ、いえ、構いませんよ。早起きできない私にも責任はありますし」
和の字が入った耳当てと、狐のような髪型が特徴の豊聡耳神子は、心底申し訳ない様子で屠自古に謝り返した。
「………………やっぱり、私は…………」
しかし彼女は、微かに俯くと、自分でも聞こえるかどうか怪しいほどの小声で、一言だけ付け加えていた。その響きは、薄っすらと黒く染まっていた。
「あの、太子様? どうかなさいましたか?」
動作を止めた神子を不審がったのか、屠自古が心配そうに神子に声を掛ける。
「いえ、なんでもありません」
屠自古の疑問をあっさりと撥ねのけ、神子は優雅に味噌汁をすすり始めた。屠自古は神子の意図を掴めず、頭上に疑問符をいくつも浮かべている始末だ。
その様子を、たった一人、冷静に観察する人物がいた。烏帽子を微かに揺らし、布都は凝視しない程度に神子を見る。
神子の子供らしい可愛らしさと、大人びた可憐さとの絶妙な配合は、今日も今日とて健在だ。しかし、今日の神子の表情はいつもと決定的に違う。少なくとも、布都の目にはそう見て取れる。
(だというのに、何故にこやつは気付かぬのだ……愚か者め)
胸中で悪態をつき、布都は勢いのままに白米をかっ込む。が、すぐに喉に詰まらせてしまい、お茶を一気飲みする羽目に陥っていた。
「何してるのよ、アンタ」
屠自古の呆れたような視線が突き刺さるが、布都は呼吸を整えると、ねめつけるように亡霊を見据え返した。
「……な、何?」
「分からぬのなら別に良い」
たじろぐ屠自古に、布都はにべもなく言い放った。少しばかり怒り顔を呈する屠自古をまったく相手にすることなく、黙々と朝食を嚥下していく。
「ご馳走様。今日は洗い物は我がするから、流しに置いておいてくれぬか? あとでまとめてしておこう」
そればかりか、布都は一番乗りで朝食の席を辞する際、なんとも珍しいことを言いだした。
実は布都は、家事全般がかなり苦手だ。もともと飛鳥時代の貴族の出身であるうえ、実際に起きていた時間が、この三人の中では一番短い。それ故に絵に描いたような家事オンチで、皿洗いが皿割りにならないか、屠自古は気がかりだった。
「アンタに任せて大丈夫なの?」
「自信はまったくない」
屠自古の質問に堂々と答え、布都は自分の食器を下げると、足早に屋敷の奥へと戻って行ってしまった。
「……何なのよ、今日の布都ってば」
呆れの色濃い独白を漏らす屠自古。復活以来一度も見せたことのない態度の連発は、かなりの珍事に類される。尸解仙の身に何かあったのだろうかと、亡霊は脳裏で思索を巡らせる。
「あの、屠自古」
そんな思索に浸っていた彼女を、神子の呼びかけが引き戻した。
「今日の夜、私の部屋に来てくれませんか? 話があります」
布団で見せたような幼さは完全に鳴りを潜め、かつて聖徳道士として政をしていた時と同じ真剣さが、神子の顔に浮かんでいた。それに気付いた屠自古は居住まいを整え、「何故」より先に、小さく「はい」と答えた。神子は穏やかに微笑んで返事の代わりにした。
だが、結局屠自古は気付かず終いだった。
今日の神子の表情に、寂しさと悲しさが混じりあった色合いが含有されていたことに。
◇◆◇◆◇◆
かちゃかちゃ、わしゃわしゃ。
屋敷の台所の中に、危なっかしい水音が流れていた。流しの前では物部布都が、どこからか持ってきた木箱を踏み台にして、懸命に皿洗いに従事していた。やり慣れないことだけに、その手つきは慎重そのものだ。
「で、本当に手伝わなくていいの?」
「無論、構わぬ」
色々と危なっかしい絵面だけに、普段皿洗いをしている屠自古は気が気でないのだが、当の布都が助け舟の一切を跳ねのけてしまうため、こうして見守るより他にできることがなかった。
「それよりも、お主。さっき太子様から何か言われておらなんだか?」
振り返ることもなく放たれた布都の問いに、屠自古の眉がぴくりと吊り上がった。この尸解仙は生前から、要らぬところで鋭い考察を見せてくれる。
ほんの十数分前に告げられた言葉が、脳裏にフラッシュバックする。どこか儚げに奏でられたあの一言が、屠自古の心の隅に棘となって留まっていた。
「……夜に部屋に来てほしいって言われたわよ。何の用なのかは分からないけど」
「用事か……」
その答えに、布都はわざとらしく、大仰に嘆息してみせた。皿洗いを中断し、踏み台からぴょんと飛び降りて屠自古に向き直る。
「お主、何故呼ばれたのか、本当に分からぬのか?」
矢のようにえぐりこむ視線と、低く抑えられた威圧感を含む声。常とは違う物々しい様子に、屠自古は少しばかりたじろいでしまった。
「…………ええ」
そして、屠自古は嘘をついた。
突如、布都が左足を踏み鳴らした。踏み抜かんばかりの勢いで床板がたわみ、大太鼓のものにも似た、全方位からの圧力を伴った衝撃音が台所に反響する。
「愚か者が」
侮蔑を隠しもしない布都の言い分にも、屠自古は反論できない。ここまで露骨に怒っている彼女を見るのは、生前を含めてもこれが初めてだったのだ。
「ど、どういうことよ」
主導権を握られっぱなしは癪だと言わんばかり、屠自古は強気に問いただす。
「のう屠自古、我らが名前で呼び合うようになった経緯を覚えておるか?」
だが、返ってきたのは予想外の質問だった。
「何よいきなり。ちゃんと覚えてるわよ。『時代も変わり、家名のしがらみに縛られる意味もなくなった。故に、我らも家名に縛られぬようにせぬか?』だったかしら?」
記憶の海を遡り、屠自古は布都の言葉を、一言一句たがえずに述べてみせた。復活後に布都が申し出た内容だが、この程度のことを忘れるような屠自古ではない。
「では、何故太子様からは距離を置こうとしておる? 我とは名で呼びあうことを呑んだくせに」
ざくりと、布都が放った矢が着弾した。亡霊の心を、赤い血がつぅっと伝い、染め上げていく。
「…………意味が分からないわ」
「誤魔化せてると思うておるのはお主だけだ」
腰に手を当て、即答の布都。対する屠自古は、ばつが悪そうに視線をそっと外した。
「我がお主に名で呼び合おうと申し出たのは、ともに太子様に仕える者として、近しくなりたいと思ったからだ。だが、お主の歩み寄りにはムラがある」
「ムラ、ですって?」
「言ってしまえば、お主は生前よりも太子様から距離を取ろうとしている。無意識なのか故意なのかは知らぬが、太子様の妻とは思えぬ所業ではないか?」
屠自古は答えない。正確には、答えられなかった。布都の推察が図星だから。
「何を思い悩んでいるかまでは聞かないでおく。が、太子様をあまり舐めるでない。あの方は器の大きい方だ。お主の言葉や思いくらい、しっかり受け止めてくれるであろう」
布都は言いたいだけ言い置くと、また木箱の上に乗り、皿洗いを再開した。ぎこちない手つきで箸を洗い、茶碗の水を切って、黙々と食器の群れに挑みかかる。
屠自古は茫然と、その様を眺めていることしかできなかった。
◇◆◇◆◇◆
「太子様、失礼します」
月が支配する時間帯になると、屋敷は昼間の倍は静まり返る。居心地の悪さすら感じる沈黙が満ちた廊下から、屠自古は部屋の中にいる人物に声を掛けた。やはり返事がないので、そっと襖を開け、中へ入る。
「ああ、屠自古。待っていましたよ」
待ち構えていたのは、他でもない、豊聡耳神子だった。余計な家具のない質素な部屋の中にあってなお、彼女の清廉で神秘的な雰囲気は衰えを知らなかった。
だからこそ、屠自古の心に、さらなる重みが圧し掛かった。
「それで太子様、お話しというのは、一体……?」
襖を丁寧に閉めつつ、単刀直入に本題を尋ねる。神子はおもむろに耳当てを外すと、居住まいを正して、口を開いた。
「屠自古は、その、私が嫌いになったんですか?」
亡霊の心がぎゅっと締め付けられた。痛みで呼吸がうまく出来なくなる。体の内側の感覚だけが鋭敏になり、外側の感覚が麻痺し、触覚や嗅覚が一時的に機能を放棄する。
諦念にも似た、あと二歩で泣き出してしまいそうな表情で神子に尋ねられ、屠自古はとっさには答えることができなかった。
「そ、んな、こと……ありません」
数秒のタイムラグの後、やっとの思いでそれだけ口に出して、屠自古はしゅんと俯いてしまった。
「じゃあ、試しに私のことを呼んでくれませんか?」
「た、太子、様……?」
「やっぱりですか……」
ふう、とため息をついて、神子は唇をへの字に曲げた。
「屠自古。どうして私のことを『神子様』と呼ばなくなったのですか?」
うまく出来なかった呼吸が、とうとう、一瞬だけ途絶えた。屠自古は爆発しそうな自分の鼓動に耐えつつ、必死で言葉を探っていく。だが――それとも当然と言うべきか――いくら探っても、適した解は転がっていない。
「私が眠る前――屠自古にとってはもう千四百年も前の話ですが、あの時の貴女は、私のことを『神子様』と呼び慕ってくれていました。ですが、今はそうしてくれない。復活後に、私を嫌うようなことがあったのでしょうか?」
「……気になるのでしたら、能力で読めば良いのではありませんか?」
ついついぶっきらぼうに返してしまう屠自古だったが、その疑問はもっともなものだ。
神子が持つ「十人の話を同時に聞く事ができる程度の能力」は、千四百年の眠りを経て、人間の欲を見透かす力へと進化を遂げている。その力を使えば、自分の心のうちなど一発で覗けるのではないか、と。
「それはできません。屠自古は亡霊ですから、死欲がありません。私の能力は、十欲のどれかが欠けていても力を発揮できない。それに、そんなやり方で解決してはいけないような気がするんです」
毅然と、きっぱりと告げ、神子は軽く頭を振った。
「お願いです。何故名前で呼ばなくなったのか、話してくれませんか?」
不安を隠しもしない神子の語調に、屠自古の胸の奥がさらに痛みを増す。喘ぐような、やや荒い呼吸で数拍の間を置き、屠自古は心の一番奥に沈ませておいた感情を引き上げる。
「太子様が、悪いんですよ」
「え……」
訥々と語られた一言に、神子が言葉を詰まらせた。主君の困惑を意に介する余裕もないのか、屠自古は徐々に声量を上げていく。
「太子様が悪いんですよ! 太子様が復活なさるまで、私が千四百年間毎日、どんな気持ちで過ごしていたかご存知なんですか!? すぐ復活するって仰っておいて、嘘つきじゃないですか!」
屠自古は本来、布都のように尸解仙となるために眠りについた。だが、儀式の手違いなのか運命の悪意なのか、彼女は尸解仙になるより早く、亡霊として蘇ってしまった。
これはこれで不老不死だし、と最初は意気揚々だった屠自古も、何年も復活の兆しすら見せなかった神子を見て、徐々に不安に襲われるようになった。その、千四百年分の孤独と寂しさが、堰を切って溢れ出ていたのだ。
「目覚めたら目覚めたで、た、太子様ってば、仙人どころ、か、聖人として復活なされて、わたっ、私は亡霊だから、なんだか、凄く置いて行かれてしまったような気が、して」
壊れた堤防は、心のものだけではなかった。瞳からぽろぽろと雫を流し、屠自古は湿った思いを、感情のままに吐露していく。
「なんだか、昔よりも、太子様がとっても遠いところに行ってしまわれたような気がして、それで、私、わたし……」
最後の方は、すでに言葉なのか嗚咽なのか、判別しがたいものだった。子供のように涙をぬぐい、屠自古は肩を小さく震わせていた。
その肩を、突如、柔らかい人肌の暖かさが包み込んだ。
「た、太子さ――」
「寂しい思いをさせてしまったようですね。済みません。ですが――」
朝の一件を再現するかのように、神子が屠自古を抱擁していた。
「この距離でも、まだ遠いと思いますか? 私はもう、これ以上遠くには行きませんよ?」
文字通りの意味で、目と鼻の先から声を掛ける神子。その表情には、あらん限りの優しさが、慈愛が浮かび上がっている。
「亡霊になったとしても、貴女は私が娶った、大事な大事な人です。もう遠くになんて行きません。もう、貴女に寂しい思いなんてさせません」
心の鼓動すら聞こえる距離、言葉と吐息が直に届く距離、抱きしめられる距離。そんな距離にいると約束されて、屠自古の涙腺が完全に決壊した。わんわん泣きながら神子の胸に顔をうずめ、屠自古は涙を流し、流し、流す。
神子はそんな屠自古を、ただ、柔らかな手つきで撫でていた。
やがて落ち着いたのか、屠自古は顔を上げて、まどろむような表情で神子を見つめた。
「もしもまた、私を置いていくようなことになったら、その時は許しませんからね、神子様」
「心配ご無用ですよ、屠自古。……あ、そうだ。せっかくですし」
何かを思いついたのか、神子はくすりと、あどけない笑顔を作ってみせた。
「仲直りのしるし、って言うと変かもしれませんけど。今だけでもいいので、私のことを一番近い距離で――『神子』と、呼んでくれませんか?」
言いながら、神子は屠自古の手に、自らの手を重ねていた。先の約束を、心の距離を、屠自古の方からも形で示してほしいということのようだ。
唐突な、そして予想を超える申し出に、屠自古は少しだけ逡巡した。が、やがて、
「じゃ、じゃあ、二人きりの時は、時々こう呼ぶことにしますからね……神子」
と、蚊の鳴き声にも劣るか細い声で口にした。彼女の頬が赤いのは、泣き腫らしたからという理由だけではないのだろう。
「はい。改めて、よろしくお願いします、屠自古」
仙界の屋敷の一部屋に、満面の笑顔が二つ、咲き誇った。
◇◆◇◆◇◆
「まったく、我も損な役回りを引き受けたものだ」
真っ暗な廊下の隅で、白い狩衣の尸解仙、物部布都は小さく嘆息していた。青娥から教わった術で、神子の部屋の中で起きた出来事をこっそり傍聴していたのだ。
「だが、まあ、これで屠自古も太子様も元気になるであろう」
手のかかる仲間をたしなめるかのごとく、布都はまんざらでもなさそうに溜息をついた。
「後のことは……まあ、ボチボチ考えるとするか」
軽く伸びをして、くるりと踵を返す。
――さて、せっかく頑張って皿を一枚も割らずに洗えたのだから、我も太子様に褒めてもらいたいのだが、どう切り出したものか。
そんな、いかにも布都らしいことを考えながらも、彼女の表情は晴れやかだった。
仙界の朝は早い。というのも、ある人物の提言によって、朝型の生活サイクルが推奨されているからだ。
「太子様、起きてください。朝食のご用意が整いましたよ」
亡霊の蘇我屠自古は、仙界に住む豪族一家の料理担当である。そのためこうして、朝食の用意ができると、居間にいない者に声を掛けて回るのが日課であった。
ついでに、この部屋を最後に回るのも日課のうちだ。
「……失礼します」
さっぱり返事がないので、襖(ふすま)を開けて中へ。畳張りの簡素な部屋の中央に、規則的な寝息を立てる寝具、つまりは布団が敷いてあった。
「太子様、朝ご飯ですよー?」
その布団へ、屠自古はさっきより声を大きくして呼びかける。やはりというべきか、返事はなかった。仕方なく、屠自古は掛布団をそっと取り払う。
布団の上では、豊聡耳神子がさも幸せそうな寝顔で熟睡していた。あまりの無邪気さ、無防備さに屠自古はつい放心し、魅了されたかのように固まってしまった。
(…………っていけない、起こしに来たんでしょ、私!)
しばし放心した後、屠自古がはっと我に返った。白い襦袢に包まれた華奢な肩に手を置き、起こすべく、軽く揺する。
「太子様~、起きてください。朝ご飯のお時間ですよ~?」
ゆさゆさ、わさわさ。
しかし、神子は起きる兆候すら見せてくれない。屠自古も負けじと揺するが、生来の飽きっぽさからか、段々と揺さぶる手つきがぞんざいなものになっていく。
「んぅ……とじ、こ……?」
並みの人間ならとっくに起きるほどの揺さぶりになったところで、ようやく神子が反応した。屠自古は手を離し、寝ぼけ眼の神子を何気なしに覗き込む。
「はい、そうですよ太子様。ですからきちんと起きて――」
「とじこ!」
だが、屠自古が最後まで言い終えるより早く、神子が屠自古の首元に腕を回し、ぎゅっと抱きしめてしまっていたのだ。唐突過ぎる出来事に、亡霊の顔が一瞬で真っ赤に茹で上がった。
「たたたたたたたたたたた太子様、ねね寝ぼけてないでください!?」
さっきの舌足らずな声といい、焦点の合っていない瞳といい、神子が寝ぼけているのは火を見るより明らかだ。しかし、いくら彼女が聖人といえど、こんな状況で注意しても無駄なわけで。
「すぅ……すぅ……」
あろうことか、神子は屠自古を抱いたまま、もう一度寝息を立て始めてしまった。もともと神子は朝にはめっぽう弱いのだが、ここまで酷いのも珍いことだ。
「たっ、たた、た…………!」
屠自古は嬉しいやら恥ずかしいやらで、ふるふると体を小刻みに震わせていた。
「たっ……たわむれは終わりじゃ――――!」
そして、雷鳴じみた絶叫が仙界中に轟き渡った。
◇◆◇◆◇◆
「まったくもう、太子様ってば」
「あはは、面目ないです、屠自古」
仙界の道場に併設された屋敷の居間で、ちゃぶ台を囲んでの、のどかな朝食の光景。ちゃぶ台の上にはご飯、味噌汁、卵といった朝食の定番が並んでいる。
箸を動かしているのは三人。一人は亡霊の蘇我屠自古。未だに頬は薄桜色に染まっており、恥ずかしさが抜けきっていないようだ。
「それにしても屠自古、お主もほどほどにするのだぞ? 朝から庭に雷を落とすのもそうだが、太子様に迷惑をかけるでない」
ちゃぶ台の対岸から指摘するのは、白い狩衣を着た小柄な少女、物部布都だ。古風な喋り方をする癖がある彼女だが、注意や指摘の時には、その癖が驚くほどの効力を発揮することが多い。
今回も例外でなく、諫められた屠自古は、ぐっと言葉を詰まらせた。
「わ、悪かったとは思ってるわよ。でも、その、仕方ないでしょ?」
「だから、我でなく太子様に謝れと言うておるのだ」
「す、すみませんでした、太子様」
舌戦に負けた屠自古は箸を置き、上座に向き直って深々と頭を垂れた。
「あ、ああ、いえ、構いませんよ。早起きできない私にも責任はありますし」
和の字が入った耳当てと、狐のような髪型が特徴の豊聡耳神子は、心底申し訳ない様子で屠自古に謝り返した。
「………………やっぱり、私は…………」
しかし彼女は、微かに俯くと、自分でも聞こえるかどうか怪しいほどの小声で、一言だけ付け加えていた。その響きは、薄っすらと黒く染まっていた。
「あの、太子様? どうかなさいましたか?」
動作を止めた神子を不審がったのか、屠自古が心配そうに神子に声を掛ける。
「いえ、なんでもありません」
屠自古の疑問をあっさりと撥ねのけ、神子は優雅に味噌汁をすすり始めた。屠自古は神子の意図を掴めず、頭上に疑問符をいくつも浮かべている始末だ。
その様子を、たった一人、冷静に観察する人物がいた。烏帽子を微かに揺らし、布都は凝視しない程度に神子を見る。
神子の子供らしい可愛らしさと、大人びた可憐さとの絶妙な配合は、今日も今日とて健在だ。しかし、今日の神子の表情はいつもと決定的に違う。少なくとも、布都の目にはそう見て取れる。
(だというのに、何故にこやつは気付かぬのだ……愚か者め)
胸中で悪態をつき、布都は勢いのままに白米をかっ込む。が、すぐに喉に詰まらせてしまい、お茶を一気飲みする羽目に陥っていた。
「何してるのよ、アンタ」
屠自古の呆れたような視線が突き刺さるが、布都は呼吸を整えると、ねめつけるように亡霊を見据え返した。
「……な、何?」
「分からぬのなら別に良い」
たじろぐ屠自古に、布都はにべもなく言い放った。少しばかり怒り顔を呈する屠自古をまったく相手にすることなく、黙々と朝食を嚥下していく。
「ご馳走様。今日は洗い物は我がするから、流しに置いておいてくれぬか? あとでまとめてしておこう」
そればかりか、布都は一番乗りで朝食の席を辞する際、なんとも珍しいことを言いだした。
実は布都は、家事全般がかなり苦手だ。もともと飛鳥時代の貴族の出身であるうえ、実際に起きていた時間が、この三人の中では一番短い。それ故に絵に描いたような家事オンチで、皿洗いが皿割りにならないか、屠自古は気がかりだった。
「アンタに任せて大丈夫なの?」
「自信はまったくない」
屠自古の質問に堂々と答え、布都は自分の食器を下げると、足早に屋敷の奥へと戻って行ってしまった。
「……何なのよ、今日の布都ってば」
呆れの色濃い独白を漏らす屠自古。復活以来一度も見せたことのない態度の連発は、かなりの珍事に類される。尸解仙の身に何かあったのだろうかと、亡霊は脳裏で思索を巡らせる。
「あの、屠自古」
そんな思索に浸っていた彼女を、神子の呼びかけが引き戻した。
「今日の夜、私の部屋に来てくれませんか? 話があります」
布団で見せたような幼さは完全に鳴りを潜め、かつて聖徳道士として政をしていた時と同じ真剣さが、神子の顔に浮かんでいた。それに気付いた屠自古は居住まいを整え、「何故」より先に、小さく「はい」と答えた。神子は穏やかに微笑んで返事の代わりにした。
だが、結局屠自古は気付かず終いだった。
今日の神子の表情に、寂しさと悲しさが混じりあった色合いが含有されていたことに。
◇◆◇◆◇◆
かちゃかちゃ、わしゃわしゃ。
屋敷の台所の中に、危なっかしい水音が流れていた。流しの前では物部布都が、どこからか持ってきた木箱を踏み台にして、懸命に皿洗いに従事していた。やり慣れないことだけに、その手つきは慎重そのものだ。
「で、本当に手伝わなくていいの?」
「無論、構わぬ」
色々と危なっかしい絵面だけに、普段皿洗いをしている屠自古は気が気でないのだが、当の布都が助け舟の一切を跳ねのけてしまうため、こうして見守るより他にできることがなかった。
「それよりも、お主。さっき太子様から何か言われておらなんだか?」
振り返ることもなく放たれた布都の問いに、屠自古の眉がぴくりと吊り上がった。この尸解仙は生前から、要らぬところで鋭い考察を見せてくれる。
ほんの十数分前に告げられた言葉が、脳裏にフラッシュバックする。どこか儚げに奏でられたあの一言が、屠自古の心の隅に棘となって留まっていた。
「……夜に部屋に来てほしいって言われたわよ。何の用なのかは分からないけど」
「用事か……」
その答えに、布都はわざとらしく、大仰に嘆息してみせた。皿洗いを中断し、踏み台からぴょんと飛び降りて屠自古に向き直る。
「お主、何故呼ばれたのか、本当に分からぬのか?」
矢のようにえぐりこむ視線と、低く抑えられた威圧感を含む声。常とは違う物々しい様子に、屠自古は少しばかりたじろいでしまった。
「…………ええ」
そして、屠自古は嘘をついた。
突如、布都が左足を踏み鳴らした。踏み抜かんばかりの勢いで床板がたわみ、大太鼓のものにも似た、全方位からの圧力を伴った衝撃音が台所に反響する。
「愚か者が」
侮蔑を隠しもしない布都の言い分にも、屠自古は反論できない。ここまで露骨に怒っている彼女を見るのは、生前を含めてもこれが初めてだったのだ。
「ど、どういうことよ」
主導権を握られっぱなしは癪だと言わんばかり、屠自古は強気に問いただす。
「のう屠自古、我らが名前で呼び合うようになった経緯を覚えておるか?」
だが、返ってきたのは予想外の質問だった。
「何よいきなり。ちゃんと覚えてるわよ。『時代も変わり、家名のしがらみに縛られる意味もなくなった。故に、我らも家名に縛られぬようにせぬか?』だったかしら?」
記憶の海を遡り、屠自古は布都の言葉を、一言一句たがえずに述べてみせた。復活後に布都が申し出た内容だが、この程度のことを忘れるような屠自古ではない。
「では、何故太子様からは距離を置こうとしておる? 我とは名で呼びあうことを呑んだくせに」
ざくりと、布都が放った矢が着弾した。亡霊の心を、赤い血がつぅっと伝い、染め上げていく。
「…………意味が分からないわ」
「誤魔化せてると思うておるのはお主だけだ」
腰に手を当て、即答の布都。対する屠自古は、ばつが悪そうに視線をそっと外した。
「我がお主に名で呼び合おうと申し出たのは、ともに太子様に仕える者として、近しくなりたいと思ったからだ。だが、お主の歩み寄りにはムラがある」
「ムラ、ですって?」
「言ってしまえば、お主は生前よりも太子様から距離を取ろうとしている。無意識なのか故意なのかは知らぬが、太子様の妻とは思えぬ所業ではないか?」
屠自古は答えない。正確には、答えられなかった。布都の推察が図星だから。
「何を思い悩んでいるかまでは聞かないでおく。が、太子様をあまり舐めるでない。あの方は器の大きい方だ。お主の言葉や思いくらい、しっかり受け止めてくれるであろう」
布都は言いたいだけ言い置くと、また木箱の上に乗り、皿洗いを再開した。ぎこちない手つきで箸を洗い、茶碗の水を切って、黙々と食器の群れに挑みかかる。
屠自古は茫然と、その様を眺めていることしかできなかった。
◇◆◇◆◇◆
「太子様、失礼します」
月が支配する時間帯になると、屋敷は昼間の倍は静まり返る。居心地の悪さすら感じる沈黙が満ちた廊下から、屠自古は部屋の中にいる人物に声を掛けた。やはり返事がないので、そっと襖を開け、中へ入る。
「ああ、屠自古。待っていましたよ」
待ち構えていたのは、他でもない、豊聡耳神子だった。余計な家具のない質素な部屋の中にあってなお、彼女の清廉で神秘的な雰囲気は衰えを知らなかった。
だからこそ、屠自古の心に、さらなる重みが圧し掛かった。
「それで太子様、お話しというのは、一体……?」
襖を丁寧に閉めつつ、単刀直入に本題を尋ねる。神子はおもむろに耳当てを外すと、居住まいを正して、口を開いた。
「屠自古は、その、私が嫌いになったんですか?」
亡霊の心がぎゅっと締め付けられた。痛みで呼吸がうまく出来なくなる。体の内側の感覚だけが鋭敏になり、外側の感覚が麻痺し、触覚や嗅覚が一時的に機能を放棄する。
諦念にも似た、あと二歩で泣き出してしまいそうな表情で神子に尋ねられ、屠自古はとっさには答えることができなかった。
「そ、んな、こと……ありません」
数秒のタイムラグの後、やっとの思いでそれだけ口に出して、屠自古はしゅんと俯いてしまった。
「じゃあ、試しに私のことを呼んでくれませんか?」
「た、太子、様……?」
「やっぱりですか……」
ふう、とため息をついて、神子は唇をへの字に曲げた。
「屠自古。どうして私のことを『神子様』と呼ばなくなったのですか?」
うまく出来なかった呼吸が、とうとう、一瞬だけ途絶えた。屠自古は爆発しそうな自分の鼓動に耐えつつ、必死で言葉を探っていく。だが――それとも当然と言うべきか――いくら探っても、適した解は転がっていない。
「私が眠る前――屠自古にとってはもう千四百年も前の話ですが、あの時の貴女は、私のことを『神子様』と呼び慕ってくれていました。ですが、今はそうしてくれない。復活後に、私を嫌うようなことがあったのでしょうか?」
「……気になるのでしたら、能力で読めば良いのではありませんか?」
ついついぶっきらぼうに返してしまう屠自古だったが、その疑問はもっともなものだ。
神子が持つ「十人の話を同時に聞く事ができる程度の能力」は、千四百年の眠りを経て、人間の欲を見透かす力へと進化を遂げている。その力を使えば、自分の心のうちなど一発で覗けるのではないか、と。
「それはできません。屠自古は亡霊ですから、死欲がありません。私の能力は、十欲のどれかが欠けていても力を発揮できない。それに、そんなやり方で解決してはいけないような気がするんです」
毅然と、きっぱりと告げ、神子は軽く頭を振った。
「お願いです。何故名前で呼ばなくなったのか、話してくれませんか?」
不安を隠しもしない神子の語調に、屠自古の胸の奥がさらに痛みを増す。喘ぐような、やや荒い呼吸で数拍の間を置き、屠自古は心の一番奥に沈ませておいた感情を引き上げる。
「太子様が、悪いんですよ」
「え……」
訥々と語られた一言に、神子が言葉を詰まらせた。主君の困惑を意に介する余裕もないのか、屠自古は徐々に声量を上げていく。
「太子様が悪いんですよ! 太子様が復活なさるまで、私が千四百年間毎日、どんな気持ちで過ごしていたかご存知なんですか!? すぐ復活するって仰っておいて、嘘つきじゃないですか!」
屠自古は本来、布都のように尸解仙となるために眠りについた。だが、儀式の手違いなのか運命の悪意なのか、彼女は尸解仙になるより早く、亡霊として蘇ってしまった。
これはこれで不老不死だし、と最初は意気揚々だった屠自古も、何年も復活の兆しすら見せなかった神子を見て、徐々に不安に襲われるようになった。その、千四百年分の孤独と寂しさが、堰を切って溢れ出ていたのだ。
「目覚めたら目覚めたで、た、太子様ってば、仙人どころ、か、聖人として復活なされて、わたっ、私は亡霊だから、なんだか、凄く置いて行かれてしまったような気が、して」
壊れた堤防は、心のものだけではなかった。瞳からぽろぽろと雫を流し、屠自古は湿った思いを、感情のままに吐露していく。
「なんだか、昔よりも、太子様がとっても遠いところに行ってしまわれたような気がして、それで、私、わたし……」
最後の方は、すでに言葉なのか嗚咽なのか、判別しがたいものだった。子供のように涙をぬぐい、屠自古は肩を小さく震わせていた。
その肩を、突如、柔らかい人肌の暖かさが包み込んだ。
「た、太子さ――」
「寂しい思いをさせてしまったようですね。済みません。ですが――」
朝の一件を再現するかのように、神子が屠自古を抱擁していた。
「この距離でも、まだ遠いと思いますか? 私はもう、これ以上遠くには行きませんよ?」
文字通りの意味で、目と鼻の先から声を掛ける神子。その表情には、あらん限りの優しさが、慈愛が浮かび上がっている。
「亡霊になったとしても、貴女は私が娶った、大事な大事な人です。もう遠くになんて行きません。もう、貴女に寂しい思いなんてさせません」
心の鼓動すら聞こえる距離、言葉と吐息が直に届く距離、抱きしめられる距離。そんな距離にいると約束されて、屠自古の涙腺が完全に決壊した。わんわん泣きながら神子の胸に顔をうずめ、屠自古は涙を流し、流し、流す。
神子はそんな屠自古を、ただ、柔らかな手つきで撫でていた。
やがて落ち着いたのか、屠自古は顔を上げて、まどろむような表情で神子を見つめた。
「もしもまた、私を置いていくようなことになったら、その時は許しませんからね、神子様」
「心配ご無用ですよ、屠自古。……あ、そうだ。せっかくですし」
何かを思いついたのか、神子はくすりと、あどけない笑顔を作ってみせた。
「仲直りのしるし、って言うと変かもしれませんけど。今だけでもいいので、私のことを一番近い距離で――『神子』と、呼んでくれませんか?」
言いながら、神子は屠自古の手に、自らの手を重ねていた。先の約束を、心の距離を、屠自古の方からも形で示してほしいということのようだ。
唐突な、そして予想を超える申し出に、屠自古は少しだけ逡巡した。が、やがて、
「じゃ、じゃあ、二人きりの時は、時々こう呼ぶことにしますからね……神子」
と、蚊の鳴き声にも劣るか細い声で口にした。彼女の頬が赤いのは、泣き腫らしたからという理由だけではないのだろう。
「はい。改めて、よろしくお願いします、屠自古」
仙界の屋敷の一部屋に、満面の笑顔が二つ、咲き誇った。
◇◆◇◆◇◆
「まったく、我も損な役回りを引き受けたものだ」
真っ暗な廊下の隅で、白い狩衣の尸解仙、物部布都は小さく嘆息していた。青娥から教わった術で、神子の部屋の中で起きた出来事をこっそり傍聴していたのだ。
「だが、まあ、これで屠自古も太子様も元気になるであろう」
手のかかる仲間をたしなめるかのごとく、布都はまんざらでもなさそうに溜息をついた。
「後のことは……まあ、ボチボチ考えるとするか」
軽く伸びをして、くるりと踵を返す。
――さて、せっかく頑張って皿を一枚も割らずに洗えたのだから、我も太子様に褒めてもらいたいのだが、どう切り出したものか。
そんな、いかにも布都らしいことを考えながらも、彼女の表情は晴れやかだった。
見事なみことじ、御馳走様でした。
木箱に乗って一生懸命皿洗いしてる布都ちゃんを想像したら悶絶してたwwww
すごくほのぼのさせられました。