昨日はおうちで二人きりの飲み会だった。
それでなんというか言いにくいことなんだけど。
メリーと私は飲みつぶれたわけで。
朝起きるとメリーが無防備に寝ていたわけで。
くーくーという寝息がかわいかったわけで。
ころんって寝返りうつ姿が誘ってるようにしか見えなかったわけで。
ついキスしちゃったわけで…………。
一生の不覚というやつだろう。
いやそれとも魔が差したというべきだろうか。
いやいやいやいや。
なんとか一歩踏みとどまったと思いたい。
ほっぺよ?
ほっぺ。
グレイズでしょ?
カスリ点いっぱい入ったでしょ?
さすがに唇にいきなりキスするようなアカン警察じゃないのよ。
でも――
「話は聞かせてもらったわ」
バタンとドアが開いて見てみると、そこには目の前のソファーで夢の中なメリーと寸分たがわぬメリーがいた。
はっ?
どういうこと?
意味わかんないんですけど。
驚いているのは、私だけではない。
目をごしごしこすりながら起きだしたメリーも驚いている。
当然だ。自分とまったく同じ格好のかわいらしい女の子が立っているのだ。
思わずぎゅっと抱きしめたくなるほど愛らしい、らぶかわゆいメリーがダブルなのだ。
ふたりいるならひとりは保存用にとっておいてもいいよね?
……何を言ってるんだろう。
疲れている。
私、疲れている。
いや、おかしい。
「なんでメリーがふたり?」
「私の偽者がなんで?」とメリー。
「蓮子は私の能力を知っているでしょう。それに私は偽者なんかじゃないわ」
そんなの言うまでもない。
メリーの能力は境目を見つけ出すというもの。
神隠しに意図的に陥ることができる。
この世界では無数の結界があって、そこに侵入することができるのだ。
「そう、私は異なる世界に飛びこむことができるの。つい最近見つけた結界は過去に戻れるというものだったわ」
「タイムスリップ? なんのため」
「決まってるじゃない。睡眠中にちゅっちゅなんてノーカンよ。せっかく蓮子のほうからイタすという超レアケース。意識内に永久保存しなければ意味がないわ!」
「それだけのために神隠しでエヴァレット解釈で並行宇宙論なわけ!?」
「並行か多元かなんてどうでもいいのだァ! ささ、いまのをもう一回お願いするわ」
「できるか!」
私はこう見えて恥じらいある女の子。
やれといわれればやりたくなくなるのは人情というものだろう。
だいたいこう、なんというか……キスをするときにはロマンスが必要じゃない?
寝ているお姫様にちゅっちゅするのはその意味では及第点だった。
獣性をほとばしらせて、手をわきわきしているメリーとちゅっちゅするのは、ちょっと引く。
「なぁ、ちゅっちゅしようや」
「私のメリーはそんなこと言わない!」
「え、あのどういうことなの?」
疑問顔なのは今まで寝ていたメリーのほうだ。
面倒くさいからメリー(今日)と呼ぶことにする。それで未来からやってきたほうをメリー(明日)としよう。
メリー(明日)曰く。
「私の視点から考えればわかると思うのだけど、昨日ここでなにがあったのかわかってるのよね。つまるところ運命的に蓮子は私とちゅっちゅするし、それで問題ないはずだわ」
「並行宇宙論なら運命決定論は覆せると思います。ていうか馬乗りはやめて馬乗りは!」
「そうよ蓮子に馬乗りになっていいのは私だけよ。偽者は離れて!」
メリー(今日)がメリー(明日)を引き離そうとする。
しかしメリー(明日)は余裕の表情だ。
「明日のあなたは蓮子に馬乗りになれるのよ。それを邪魔しちゃっていいのかしら」
「くっ。卑怯な……」
何が卑怯なのかわかりません。
「くすくすくす。よく考えてごらんなさいな。今日一日我慢すれば蓮子とちゅっちゅできる未来が待ってるの。いろいろと過程はすっとばしてるけれどそれは貴方にとっても望むことのはず」
「いやよ! 私は今日、蓮子とちゅっちゅするの!」
「ふ……愚かな私。昨日の私は今日の私には絶対に勝てない。なぜなら私は昨日の私に勝つことを知っているから」
「確かに論理的にはそうだわ。だけど気持ちで負けたくない。蓮子私を応援して」
「どっちもメリーだからどうしたものか」
今も絶賛馬乗られ中なわけで。
と、そのとき。
ガラリとまたドアが開いて、同じくメリーがやってきた。
はい。
嫌な予感はしてたんです。
「話は聞かせてもらったわ。私は二日後からやってきたメリーよ。どきなさいよ一日前の私。蓮子とちゅっちゅするのはこの私」
面倒くさいので彼女のことはメリー(明後日)と呼ぶことにする。
「ふ。私もあなたなら理解しているはず。私から見れば、今日この日を体験しているのだからこのあとどうなるのかわかってるはず。ならいちいち蓮子から離れる必要はないはずだわ」
「確かにそのとおりだけど、私以外のだれかが蓮子といちゃいちゃしてるのを見るのは絶対許せない」
「私はあなたじゃないの」
「確かに――でも今この私にその権利がないというのがいやなのよ」
「だいたいあなたは一日前にその権利を行使したはずでしょ。ていうかこのやり取りを昨日もしてたじゃない」
メリー(明日)の言い分はもっともだと思った。
なにしろメリー(明日)は明日から来たわけだから、今日という日を経験済みなわけで――
つまり私の隣にいるメリー(今日)としてメリー(明日)とメリー(明後日)の会話を聞いているはずなのだ。
でもそんなことよりそろそろどいてほしいんですけど。
「話は聞かせてもらったわ」
再びドアが開け放たれた。
メリー(明々後日)の登場だった。
ああ、私、そろそろ林間学校に出発するときが来たのかなーと思った。
どういう意味かは察してください。
「みんな知ってるはずじゃない。今日という日を既に体験しているんだから、みんなで仲良くちゅっちゅしましょ。独占欲を捨てることでみんなが幸せになれるの」
「いや、私の幸せは?」
「蓮子は私のことが嫌いなの?」
メリー(全員)から言われ、私はすぐに否定した。
「そういうわけじゃないんだけど、さ……」
「そういうわけじゃないならなんなの?」
「今日のメリー以外は私がどう答えるか知っているはずでしょ」
「聞きたいのよ」「直接」「口で」「教えて蓮子」
「楽しいからかな?」
いっしょにいて楽しいから。
それで秘封倶楽部の存在理由は必要にして十分だ。
「私もよ」
メリー(全員)は声をそろえていった。
驚くべきなのはメリー(今日)も寸分も狂わず同じ言葉を発したことだ。
なんだかやっぱりメリーなんだなと納得してしまい、しかたないなーという気分になってしまう。
とりあえず馬乗りをやめてもらい、ソファに腰掛け。
ごほんと咳払い。
「じゃあ、とりあえずほっぺにちゅーでいいわね。順番でお願いするわ。今日に近い順からよ」
しかしよく考えるとおかしな話。
明日のメリーまではわかる。
私がちゅーした記憶がないから、その記憶を取り戻すために今日という日にやってきた。
明後日とか明々後日とか、ただ二度三度ちゅっちゅしたいだけなんじゃなかろうか。
まあいっけどさ。
メリーかわゆいし。
いざちゅっちゅするってなったら、なんだかもじもじしてるし。
「で、ね。蓮子……」
「ん。なに?」
メリーのうちの誰か(たぶん明後日かな)が、ちゅっちゅの間際に上目遣いでこちらを見ている。
なんだかいやな予感がするが、気のせいだと思いたい。
「蓮子って私が二度三度ちゅっちゅしたいがために今日という日にやってきたと思ってるでしょ」
「そうだけど違うの?」
「実はそうなのよ。だって今日という日は蓮子からちゅっちゅっていうレアケースなんだもの」
「わかったから、ちゃんと元の世界に戻ったらそっちでちゅっちゅするのよ」
「ええ。あ、それとね」
「まだなにかあるの?」
「このあと蓮子がどういう反応するかわかってるから心苦しいんだけど……」
「なんですか……」
「二度や三度じゃ満足できなかったの」
「は?」
「だから、明日や明後日から来るだけじゃ収まりがつかなかったの」
「そうですか……」
ほとんど夢遊病者のようにフラフラと立ち上がり、ドアをガラリと開けると――
そこには行列のできるちゅっちゅの店状態が遥か彼方まで延々と続いていた。
それでなんというか言いにくいことなんだけど。
メリーと私は飲みつぶれたわけで。
朝起きるとメリーが無防備に寝ていたわけで。
くーくーという寝息がかわいかったわけで。
ころんって寝返りうつ姿が誘ってるようにしか見えなかったわけで。
ついキスしちゃったわけで…………。
一生の不覚というやつだろう。
いやそれとも魔が差したというべきだろうか。
いやいやいやいや。
なんとか一歩踏みとどまったと思いたい。
ほっぺよ?
ほっぺ。
グレイズでしょ?
カスリ点いっぱい入ったでしょ?
さすがに唇にいきなりキスするようなアカン警察じゃないのよ。
でも――
「話は聞かせてもらったわ」
バタンとドアが開いて見てみると、そこには目の前のソファーで夢の中なメリーと寸分たがわぬメリーがいた。
はっ?
どういうこと?
意味わかんないんですけど。
驚いているのは、私だけではない。
目をごしごしこすりながら起きだしたメリーも驚いている。
当然だ。自分とまったく同じ格好のかわいらしい女の子が立っているのだ。
思わずぎゅっと抱きしめたくなるほど愛らしい、らぶかわゆいメリーがダブルなのだ。
ふたりいるならひとりは保存用にとっておいてもいいよね?
……何を言ってるんだろう。
疲れている。
私、疲れている。
いや、おかしい。
「なんでメリーがふたり?」
「私の偽者がなんで?」とメリー。
「蓮子は私の能力を知っているでしょう。それに私は偽者なんかじゃないわ」
そんなの言うまでもない。
メリーの能力は境目を見つけ出すというもの。
神隠しに意図的に陥ることができる。
この世界では無数の結界があって、そこに侵入することができるのだ。
「そう、私は異なる世界に飛びこむことができるの。つい最近見つけた結界は過去に戻れるというものだったわ」
「タイムスリップ? なんのため」
「決まってるじゃない。睡眠中にちゅっちゅなんてノーカンよ。せっかく蓮子のほうからイタすという超レアケース。意識内に永久保存しなければ意味がないわ!」
「それだけのために神隠しでエヴァレット解釈で並行宇宙論なわけ!?」
「並行か多元かなんてどうでもいいのだァ! ささ、いまのをもう一回お願いするわ」
「できるか!」
私はこう見えて恥じらいある女の子。
やれといわれればやりたくなくなるのは人情というものだろう。
だいたいこう、なんというか……キスをするときにはロマンスが必要じゃない?
寝ているお姫様にちゅっちゅするのはその意味では及第点だった。
獣性をほとばしらせて、手をわきわきしているメリーとちゅっちゅするのは、ちょっと引く。
「なぁ、ちゅっちゅしようや」
「私のメリーはそんなこと言わない!」
「え、あのどういうことなの?」
疑問顔なのは今まで寝ていたメリーのほうだ。
面倒くさいからメリー(今日)と呼ぶことにする。それで未来からやってきたほうをメリー(明日)としよう。
メリー(明日)曰く。
「私の視点から考えればわかると思うのだけど、昨日ここでなにがあったのかわかってるのよね。つまるところ運命的に蓮子は私とちゅっちゅするし、それで問題ないはずだわ」
「並行宇宙論なら運命決定論は覆せると思います。ていうか馬乗りはやめて馬乗りは!」
「そうよ蓮子に馬乗りになっていいのは私だけよ。偽者は離れて!」
メリー(今日)がメリー(明日)を引き離そうとする。
しかしメリー(明日)は余裕の表情だ。
「明日のあなたは蓮子に馬乗りになれるのよ。それを邪魔しちゃっていいのかしら」
「くっ。卑怯な……」
何が卑怯なのかわかりません。
「くすくすくす。よく考えてごらんなさいな。今日一日我慢すれば蓮子とちゅっちゅできる未来が待ってるの。いろいろと過程はすっとばしてるけれどそれは貴方にとっても望むことのはず」
「いやよ! 私は今日、蓮子とちゅっちゅするの!」
「ふ……愚かな私。昨日の私は今日の私には絶対に勝てない。なぜなら私は昨日の私に勝つことを知っているから」
「確かに論理的にはそうだわ。だけど気持ちで負けたくない。蓮子私を応援して」
「どっちもメリーだからどうしたものか」
今も絶賛馬乗られ中なわけで。
と、そのとき。
ガラリとまたドアが開いて、同じくメリーがやってきた。
はい。
嫌な予感はしてたんです。
「話は聞かせてもらったわ。私は二日後からやってきたメリーよ。どきなさいよ一日前の私。蓮子とちゅっちゅするのはこの私」
面倒くさいので彼女のことはメリー(明後日)と呼ぶことにする。
「ふ。私もあなたなら理解しているはず。私から見れば、今日この日を体験しているのだからこのあとどうなるのかわかってるはず。ならいちいち蓮子から離れる必要はないはずだわ」
「確かにそのとおりだけど、私以外のだれかが蓮子といちゃいちゃしてるのを見るのは絶対許せない」
「私はあなたじゃないの」
「確かに――でも今この私にその権利がないというのがいやなのよ」
「だいたいあなたは一日前にその権利を行使したはずでしょ。ていうかこのやり取りを昨日もしてたじゃない」
メリー(明日)の言い分はもっともだと思った。
なにしろメリー(明日)は明日から来たわけだから、今日という日を経験済みなわけで――
つまり私の隣にいるメリー(今日)としてメリー(明日)とメリー(明後日)の会話を聞いているはずなのだ。
でもそんなことよりそろそろどいてほしいんですけど。
「話は聞かせてもらったわ」
再びドアが開け放たれた。
メリー(明々後日)の登場だった。
ああ、私、そろそろ林間学校に出発するときが来たのかなーと思った。
どういう意味かは察してください。
「みんな知ってるはずじゃない。今日という日を既に体験しているんだから、みんなで仲良くちゅっちゅしましょ。独占欲を捨てることでみんなが幸せになれるの」
「いや、私の幸せは?」
「蓮子は私のことが嫌いなの?」
メリー(全員)から言われ、私はすぐに否定した。
「そういうわけじゃないんだけど、さ……」
「そういうわけじゃないならなんなの?」
「今日のメリー以外は私がどう答えるか知っているはずでしょ」
「聞きたいのよ」「直接」「口で」「教えて蓮子」
「楽しいからかな?」
いっしょにいて楽しいから。
それで秘封倶楽部の存在理由は必要にして十分だ。
「私もよ」
メリー(全員)は声をそろえていった。
驚くべきなのはメリー(今日)も寸分も狂わず同じ言葉を発したことだ。
なんだかやっぱりメリーなんだなと納得してしまい、しかたないなーという気分になってしまう。
とりあえず馬乗りをやめてもらい、ソファに腰掛け。
ごほんと咳払い。
「じゃあ、とりあえずほっぺにちゅーでいいわね。順番でお願いするわ。今日に近い順からよ」
しかしよく考えるとおかしな話。
明日のメリーまではわかる。
私がちゅーした記憶がないから、その記憶を取り戻すために今日という日にやってきた。
明後日とか明々後日とか、ただ二度三度ちゅっちゅしたいだけなんじゃなかろうか。
まあいっけどさ。
メリーかわゆいし。
いざちゅっちゅするってなったら、なんだかもじもじしてるし。
「で、ね。蓮子……」
「ん。なに?」
メリーのうちの誰か(たぶん明後日かな)が、ちゅっちゅの間際に上目遣いでこちらを見ている。
なんだかいやな予感がするが、気のせいだと思いたい。
「蓮子って私が二度三度ちゅっちゅしたいがために今日という日にやってきたと思ってるでしょ」
「そうだけど違うの?」
「実はそうなのよ。だって今日という日は蓮子からちゅっちゅっていうレアケースなんだもの」
「わかったから、ちゃんと元の世界に戻ったらそっちでちゅっちゅするのよ」
「ええ。あ、それとね」
「まだなにかあるの?」
「このあと蓮子がどういう反応するかわかってるから心苦しいんだけど……」
「なんですか……」
「二度や三度じゃ満足できなかったの」
「は?」
「だから、明日や明後日から来るだけじゃ収まりがつかなかったの」
「そうですか……」
ほとんど夢遊病者のようにフラフラと立ち上がり、ドアをガラリと開けると――
そこには行列のできるちゅっちゅの店状態が遥か彼方まで延々と続いていた。
ちゅっちゅ!
もっとやれ
しかしこれはひどい
蓮メリちゅっちゅ
ちゅっちゅ
なんだ夢か
マジレスすると展開が読み通りで一ひねり欲しかった
いかん、平行世界の蓮子の貞操が危ない
なんてことも実現しそうで恐ぇ(ガクブル
そんなことよりちゅっちゅ!
良いちゅっちゅでした。
いい、SF?でしたw