Coolier - 新生・東方創想話

幽玄の空、朝露の夢

2011/12/11 18:02:47
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 月明かりが照らす京都。
 近代的建物が並ぶ町の裏。
 ひっそり並ぶ前時代のビル街。
 人が消えたビルの世界。
 月明かりを拒むビル街の道。
 雨が止み小さな湖ができた道。
 その道を歩く少女。
 異形な瞳を持つ少女。
 きっと一人ぼっちの少女。
 少女は止まる。
 小さな湖の前で。
 少女は覗く。
 合わせ鏡になった湖を。
 少女は見る。
 湖に映る自分を。
 髪の色は雨を照らす雷色。
 瞳の色は彼岸と海の混色。
 肌の色は風に舞った桜色。
 その名前は。
 「名前はなに。」
 遠い異国の名前。
 「マエリベリー・ハーン。」
 少女は覗く。
 湖に映った彼女を。
 少女は見る。
 名前を聞いた彼女を。
 髪の色は秋に枯れた葉色。
 瞳の色は薔薇と空の混色。
 肌の色は雪に染まる菊色。
 その名前は。
 「名前は何。」
 近い世界の名前。
 「宇佐見蓮子。」
 少女は空を見た。
 彼女も空を見た。
 ビルで閉じた空を。
 きっと二人ぼっちで。




 『幽玄の空、朝露の夢』




 ―一―

 枯れた葉。
 それを拾う少女。
 拾って捨てる少女。
 そして歩く少女。
 季節は秋。
 もうすぐ冬になる。
 枯れ葉を飾る木は消えて。
 白い雪を飾る木が流行る。
 それは繰り返し起こること。
 でも人はそれに飽きる。
 百年という命で飽きる。
 千年生きる妖怪は飽きないのに。
 だから光を飾る木が流行る。
 きっと人はその木の咲く中を歩く。
 きっとこのビル街と違う道を歩く。
 少女と違って。
 少女は歩く。
 ビルの世界を。
 人が消えた道を。
 怪奇が生まれる中を。
 少女は止まる。
 少女はしゃがむ。
 少女は拾う。
 季節外れの桜を。
 少女は立つ。
 少女は見る。
 桜色の髪の少女を。
 きっと独りぼっちの少女を。
 「初めまして。」
 少女は言う。
 「初めましてね。」
 独りの少女は言う。
 「きれいな桜。」
 少女は見る。
 道に咲く桜を。
 独りの少女の後ろの桜を。
 「きれいな桜よ。」
 独りの少女は見る。
 「父が愛した。」
 後ろを向いて。
 「人を殺す桜。」
 墨染の桜を。
 風が吹く。
 桜が舞う。
 少女の桜が舞う。
 拾った桜が舞う。
 「もしあなたの命で。」
 少女は見る。
 「桜を封印できたら。」
 舞う桜を。
 「あなたはそうするかしら。」
 空へ舞う桜を。
 少女は見る。
 彼女と見た空を。
 「友達を守るためなら。」
 友達の彼女と見た空を。
 風が止む。
 桜が落ちる。
 拾った桜は。
 独りの少女に。
 「私には友達なんて。」
 独りの少女は拾う。
 「いなかった。」
 落ちた桜を。
 「でも、今は。」
 舞った桜を。
 「友達ができたわ。」
 微笑んで。
 少女は閉じる。
 彼岸と海の。
 少女は開ける。
 混色の瞳を。
 少女は見る。
 どこかへ続く道を。
 独りの少女がいた道を。
 少女は拾う。
 独りの少女の桜を。
 少女は歩く。
 彼女に会うため。




 ―二―

  海を見に行きましょう、メリー――

 秋が枯れるころ。
 冬が咲くころ。
 そんなことを彼女は言った。
 閉じた空の下。
 誰もいない世界。
 少女に伝えるため。
 「どこの海。」
 少女は聞く。
 「東京の海、ヒロシゲを使わないで。」
 彼女は答える。
 「時間がかかりそうね。」
 彼女は歩く。
 「そうね、でも望んだのはメリーよ。」
 少女も歩く。
 常夜のような現を。
 日が落ちる世界を。
 「お土産は彼岸花かしら。」
 彼女は見る。
 「それなら東京タワーよ。」
 少女も見る。
 夕日が染める道を。
 月が浮かぶ世界を。
 きっと二人ぼっちで笑って。




 ―三―

 雨が降る。
 優しい雨が。
 残酷な雨が。
 少女は歩く。
 広い草原の中を。
 傘を差さないで。
 最後の秋雨を感じて。
 少女は見る。
 遠い後ろを。
 地平線のビル街を。
 少女は見る。
 遠い常夜を。
 草原を走る電車を。
 きっと雨は止む。
 積もることなく。
 ただ海に流れるだけ。
 海に流れて天に昇る。
 でも雨として産まれない。
 雪として産まれてしまう。
 冬が解けない限り。
 雨として産まれない。
 それは不幸なのか。
 それは幸福なのか。
 少女はわからない。
 少女は歩く。
 雨の中を。
 広い草原を。
 誰かがいた世界を。
 少女は止まる。
 少女は見る。
 地底に咲く薔薇を。
 少女はしゃがむ。
 少女は触れる。
 棘のある薔薇を。
 「なぜあなたがここに。」
 少女は見る。
 薔薇色の髪の少女を。
 「友達に会うため。」
 きっと独りぼっちの少女を。
 「初めまして。」
 少女は言う。
 「初めましてね。」
 独りの少女は言う。
 「すてきな薔薇。」
 少女は見る。
 足元に咲く薔薇を。
 独りの少女が見る薔薇を。
 「すてきな薔薇ね。」
 独り少女は歩く。
 「あの子と同じ。」
 雨を感じて。
 「人に嫌われた薔薇。」
 あの子が残した薔薇へ。
 雷が鳴る。
 常夜を照らす。
 二人の少女を。
 あの子の薔薇を。
 「もし誰かを殺して。」
 少女は見る。
 「大切なものを取り戻せたら。」
 あの子の薔薇を。
 「あなたはそうしますか。」
 棘のあるあの子の薔薇を。
 少女は見る。
 薔薇に触れた手を。
 「それでも罪から逃げることはできません。」
 痛みに染まらなかった手を。
 雨が止む。
 月が照らす。
 独りの少女を。
 あの子の薔薇を。
 「助けるべきだった。」
 独りの少女は触れる。
 「瞳を閉じたあの子を。」
 あの子の薔薇を。
 「でも、今からでもあの子に。」
 棘のあるあの子の薔薇を。
 「許してもらえるかな。」
 痛みに染まらずに。
 少女は見る。
 雨が止んだ空を。
 月が浮かぶ空を。
 彼女と電車からの空を。
 少女は見る。
 常夜の草原を。
 独りの少女がいた草原を。
 少女は拾う。
 二人ぼっちの薔薇を。
 少女は歩く。
 きっと一人ぼっちで。




 ―四―

 月が浮かぶ。
 草原を走る電車。
 京都では独りだった月。
 でもここなら独りじゃない月。
 少女は見る。
 空を見る彼女を。
 「もうすぐ東京の海ね。」
 彼女は見る。
 空の月を。
 「あとどれくらい。」
 彼女は見る。
 空の星を。
 「一時間位かしら。」
 少女も見る。
 空の月と星を。
 空が染まる。
 黒い雲で染まる。
 「どうして海を見に。」
 少女は聞く。
 「メリーと会って。」
 雨が降る。
 「一年がたった。」
 優しい雨が降る。
 「だから思い出を作ろうと思って。」
 彼女は答える。
 残酷な雨が降る。




 ―五―

 彼岸花が咲く。
 海風に揺れる彼岸花。
 雪色に染まる彼岸花。
 少女は歩く。
 雪の降る中。
 彼岸花の中。
 桜は咲いても。
 薔薇は咲いても。
 此岸花は咲かない。
 冬になりかけの世界。
 雪は世界を染めたい。
 触れれば解けてしまうのに。
 産まれては死んでしまうのに。
 生きた証を残すように。
 雪は世界を染める。
 その証さえ消えてしまうのに。
 少女は歩く。
 少女は生きる。
 彼女は止まる。
 彼女は生きたい。
 少女は見る。
 生きたい世界を。
 生きたいモノを。
 生きたい少女を。
 きっと独りぼっちの少女を。
 「初めまして。」
 少女は言う。
 「初めましてね。」
 独りの少女は言う。
 「それは彼岸花。」
 少女は見る。
 桜と薔薇の色の花を。
 独りの少女が持つ花を。
 「そう彼岸花。」
 独りの少女は見る。
 「地獄に落としてしまった。」
 手のひらの。
 「少女の生まれ変わりの彼岸花。」
 善の彼岸花。
 雪が降る。
 生きたい雪は。
 世界を染めたい。
 「あなたは自らの罪を。」
 独りの少女は見る。
 「受け入れることを。」
 一人の少女を。
 「残酷だと思いますか。」
 彼女のいない少女を。
 少女は見る。
 手に触れる雪を。
 解けてしまう雪を。
 「残酷だとは思いません。」
 きっと生きた雪を。
 雪が解ける。
 少女は見る。
 歩く独りの少女を。
 彼岸花を持つ独りの少女を。
 「この花をあなたにあげます。」
 独りの少女は広げる。
 彼岸花を持つ手を。
 「どうして。」
 少女は見る。
 手のひらの彼岸花を。
 「彼女にあげてください。」
 少女は持つ。
 生きる彼岸花を。
 少女は見る。
 生きたい海を。
 独りの少女がいた海を。
 少女は歩く。
 枯れた彼岸花の中。
 少女は見る。
 海に浮かぶ小舟を。
 少女は揺れる。
 雪が降る海の上。
 彼女に花をあげるため。




 ―六―

 夕日のような世界。
 瞳を開けて広がった世界。
 少女は歩く。
 きっと二人ぼっちだったから。




 ―七―

 海が揺れる。
 胎児が踊るように。
 少女は見る。
 遠い海の彼方を。
 雪が降る。
 海に触れる。
 海に解ける。
 憶えてくれず。
 忘れたように。
 「彼女のことを忘れたい。」
 少女は見る。
 鏡が浮かぶ少女を。
 菊の花を持つ少女を。
 「忘れたくありません。」
 少女は閉じる。
 彼女と同じ色の瞳を。
 「そう。」
 少女は想う。
 彼女のことを。
 「それなら帰りなさい。」
 少女は開ける。
 朝と夜の境界の色の瞳を。
 「彼女の所へ。」
 少女は見る。
 菊の花を拾って。
 彼女と見る此岸の朝日を。




 ― ―

 桜色の世界。
 薔薇色の世界。
 彼岸花色の世界。
 彼女は見る。
 月が落ちる世界を。
 朝日が染める空を。
 少女は歩く。
 彼女に近づくため。
 海風が吹く世界を。
 少女は止まる。
 少女はしゃがむ。
 少女は見る。
 夕日のよう染まった彼女を。
 少女はかける。
 彼女の顔へ手を。
 瞳を閉じるため。
 少女は渡す。
 彼女の手に。
 桜を。
 薔薇を。
 彼岸花を。
 少女は見る。
 菊の花を持って。
 太陽が浮かぶ空を。
 きっと一人ぼっちで。
三作品目、夜空空夜です。

今回はメリーと蓮子の話です。
途中に出てきた少女は一応幽々子とさとりと映姫とキクリです。
幽々子とさとりはともかく映姫とキクリが伝わったかどうか心配です。

一月三日追記)誤字修正『少女は閉じる。彼岸と藍の混色の。』→『少女は閉じる。彼岸と海の混色の。』
夜空空夜
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コメント



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1.100名前が正体不明である程度の能力削除
さとりかわいいよさとり。
2.90奇声を発する程度の能力削除
独特の雰囲気があり読みやすかったです
4.100名前が無い程度の能力削除
頭じゃなくて心で理解した感じでした
7.80名前が無い程度の能力削除
いい文章と空気でした。でも少々観念に走りすぎて置いてけぼり食らったかな。〆をもう少し欲しかった。