こ~しょん、こ~しょん、こ~しょん
2度目の投稿です。
今回は前回と違った温度になります。
下ネタ、グロネタ、個人設定のオンパレード、シリアル注意です。
同シリーズで話が繋がっていますので、タグの『レンタル芳香シリーズ』からどうぞ
こ~しょん、こ~しょん、こ~しょん
数行で解らない登場人物紹介
宮古 芳香(ミヤコ ヨシカ)
本編の主人公で、思考能力はファミコン並。
『もっとも美しいの生きる屍コンテスト』でミス・アンデット賞を授与された。
太古に死して、未だに朽ちぬ肉体...そしてその柔軟性はまさに理想のゾンビだったのだ。
結果として彼女の使役し続けている青娥の下には、
連日に渡り芳香の美しさの秘訣にあやかり、教えを請おうとアンデットが後を絶たなかった。
今では、芳香や青娥の名を借りた『化粧水』や『香水』など、
さらに青娥発案の柔軟体操は、ゾンビだけでなく人間や妖怪にもメガヒットとなる。
そんな事実を知らない芳香は、今日も元気に死体をしていた。
霍 青娥(カク セイガ)
芳香の主人であり、神子達に道教を教えた。
求めるものは、精神疲労や肉体的苦痛である。
真のドMとは、性的感情を持たず純粋なる苦痛に対し、強い快楽と心の安らぎをえることなのである。
例え全裸で町中にほおりだされようとも、青娥が感じるのは『見られることに対する興奮』ではなく、
『自分が人々の眼にさらされ、変態扱いされ心の底から軽蔑されている事への興奮』である。
真のドMと一般的な変質者の違いはこの部分にあるのだ。
そんなある異質な青娥を理解してくれる存在は、天界の彼女以外には存在しないだろう。
ナズーリン
今回の仕事の依頼主。
力の弱い妖獣だが、その頭脳のキレの良さは彼女がただ者ではない証拠である。
かつて外の世界での大戦にて、氷点下の国での防衛戦の際に、
その国最強の狙撃手と言われたイヌヴァシリ モミツェフの観測手を勤めたという噂がある。
密かに豊胸の為に努力をしているが徒労である。
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私に仲間なんていらない。
いつだってそうだった。
どんなに群れようとも、どんなに仲間が増えようとも結局信じられるのは自分だけ。
こんなクソったれなゴミ同然の生活からただ抜け出したかった。
そして私は抜け出した。
ゴミから抜け出した私は、便利な道具となった。
道具は、有能でなければすぐさま捨てられる。
似たような道具があれば、使用率は減ってしまう。
だから、私は賢くなった。
私は手段も選ばず、利用できるものはなんでも利用した。
同胞や親友だって、平気な顔で利用した。
勝負は過程がおもしろい?
結果が全てではない?
はん、そんなものは弱者の言い訳...
あまりの愉快な泣き言で、笑いすら込み上げてくる。
勝たなければ、意味なんて存在しない。
敗北は、勝利への糧なんてただの言い訳...
どんな手段を使ってでも、勝てばいい。
それが真の勝者なのだ。
裏切り?偽り?卑怯?逃走?だからなんだ?
勝利の価値も理解できぬ弱者共が...
笑いたければ好きなだけ笑え。
貴様らは、今に思い知るのだ。
勝利こそ真実であり、勝利は絶対であると...
どんな手段を使ってでも勝てばそれでいいのだ。
私は勝利を得た。
とても賢く有能な道具は、神の便利な道具となった。
道具は優秀だった。
一番でなくとも良い。
私は絶対の権力に守られ、不動の道具の立場を手に入れた。
そのはずだったのに...
私は、道具の道具になった。
周りから笑い声が聞こえる。
周りから同情の声が聞こえる。
笑うな。
笑うな!!
笑わないで...お願いだから...
私は、敗者なんかじゃない...ダカラ、ワラワナイデ...
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その日、芳香と青娥は命連寺の前に来ていた。
命連寺といえば、先の異変が発生する以前、神子を封印を邪魔した勢力の本拠である。
詳しくは、東方神霊廟のおまけテキストをご覧下さい。
そんな仇敵とも言える命連寺に、二人はやってきていた。
その理由は、先日はじめた『何でも屋』、通称レンタル芳香サービスの依頼が来たからである。
そうでなければ、こんな所にくるはずが無い。
「ごめんくださ~い!青娥娘々です~!
ネコミミは、付いてない無いけどニャンニャンでーす!
レンタル芳香サービスの件できました~!」
仇敵の本拠前だというのに、青娥は特に気にした様子もなく大声で叫んだ。
芳香も負けじと『うおーーー!』だの『あばーーー!!』だの『タピオカパン!!』など叫んでいるが、特に意味はない。
そんな二人の元に、左頬が裂けて歯をむき出しにした上半身裸の身長2メートル強の大男が表れた。
大男は、その姿からは想像もつかぬような可愛らしい犬耳をパタパタさせると、青娥と芳香をにらみながらこう言った。
「あんまり、チョーシに乗るなよ」
青娥は、仙人である。
それゆえに、膨大な知識を持っている。
妖怪に対する知識も、幻想郷では下手な妖怪学者よりも遥かに優れた知識を持っている。
そんな青娥は、その大男を見るなり、まず犬耳に注目した。
その犬耳は、一見見ればただの犬耳だがその独特の形から、山彦のモノだと容易に推測できた。
山彦は大人しい妖怪でもあり、人間を襲うことなんてまずありえない。
だが、目の前に居るモノは一体なんだ?
『なんだこのでっかいモノは!?』と叫びたくなるような、
明らかに交戦的で第一級危険妖怪にも認定されてもおかしくない形容の山彦らしきモノはなんなのだ?
絶対に、70㎞先の音を聞き分けたり、声でミサイルとか壁とかを作ったりするだろっていうなんか、そんな感じなのだ。
青娥は、そんな山彦らしきモノを見て言わずに居られいられなかった。
「お前のような、山彦がいるか」
無言の威圧感が、青娥を容赦なく襲う。
その視線に、思わず青娥はいろいろと達してしまいそうになる。
芳香は特に気にした様子もなく『ヴァー』と声を上げていた。
しばらくすると、奥の方から山彦の耳を生やして箒を持った少女が現れた。
少女は、大男に申し訳なさそうに声をかけながら駆け寄ってきた。
「あっ、ゼっちゃんお客さん?ごめんごめん、掃除を手伝わせるだけでなく、接客もさせちゃって!」
「おまえ、チョーシに乗ってるな?」
「だからごめんってば。ちょっと裏手の掃除に手間取っちゃって。
今日は、寺の住人でもないのに手伝わせちゃってごめんね。
今度、何か埋め合わせに美味しいもの分けてあげるから」
少女と大男は、そうした会話をして美味しいものという言葉を聞いた大男は、
『キシシ』と嬉しそうに笑いながら寺の裏手へと消えて行った。
とりやえず、いままでの一連のやりとりは、特に必要なかったぽいので青娥は忘れることにした。
そして芳香は、おなかが空いたので雑草を食べていた。
「おはよーございます!!妖怪の為、人の為のお寺命連寺へ、ようこそ!!
ご用件をお伺いしまーす!!」
元気のいい声と共に、山彦の少女は挨拶をした。
彼女は、最近命連寺に入信した山彦妖怪・幽谷 響子である。
ちなみに彼女の能力は、音を反響させる程度の能力である。
ゆえに大きい音を出すのではなく、受けた音を遠くまで響かせる能力なのだ。
けっして、咆哮で相手を吹き飛ばしたり動きを封じたりする能力ではない。
命連寺のク●ペッコとか、ア●ムトルムとか、バ●ンドボイス発生装置とか言わないでいただきたい。
そんな話は置いておくとして、青娥は早速依頼を受けたことを響子に説明した。
しかし、響子はそんな話は受けていないのか、頭にクエッションマークを浮かべるばかりである。
話が一向に進まないことに、青娥は頭を捻っていたが、ようやく命連寺の奥から依頼主がやってきた。
今回の依頼主であるネズミの妖獣・ナズーリンである。
ナズーリンは、余裕の態度で青娥達に挨拶をした。
「いや、すまないね。
今回の話は、いろいろと面倒になりかねないから寺の者には話していないんだ。
私にとってはどうでも良い話だし、聖も君たちの事は、
様子を見ると言っている程度だから問題ないが、ウチには結構な荒くれ者が多くてね。
まったく、参ってしまうよ」
ナズーリンが現れると同時に、響子は『ぎゃーてーぎゃーてー』と唱えながら箒でゴミを掃きながら奥へと消えて行った。
妙に甲高い声で『ハハッ』と笑うナズーリン。
青娥は、そんな笑い声に異常な危機感を覚えたが、すぐさま自分を取り戻すと早速仕事の話を持ちかける。
ちなみに、今更ながらだとは思うが、命連寺と仙界組の勢力関係は劣悪である。
だが、双方の管理者がしっかりとした人格者ゆえにこれまで争いは存在しなかったが、その部下まではそうもいかない。
だが、それはあくまでも勢力関係の問題だけであり、青娥も怒りこそ無いと言えば嘘になるが、
逆に目が合っただけで不快になるほどの相手でも無い。
どうやらナズーリンもそういった人格者のようであり、衝突はさけられそうだった。
「では、早速依頼の内容を確認させてもらってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、そうだね。
今回は荷物持ちをやってもらいたい。
この前、私は人里近くにある林の一帯でお金になりそうなものを発見してね。
だが、意外に多く発見してしまって、運び出すのは難しいと思っていたところなんだ。
寺の者にも頼んでもいいところなんだが、あいにく仕事が立て込んでいてね。
そこで君たちを見つけたわけさ。
ついでに、あえていやらしい話をするならば、
敵の情報を知るにも、多少なりとも付き合いがあっても良いかなと思ったわけさ」
そう言ってナズーリンは、得意気な笑みを浮かべつつ軽い冗談っぽい事を言いながら話を手早く進める。
青娥は、そんな態度をとるナズーリンに、ちょっとした親近感を抱いた。
芳香は、あいかわらず状況についていけていないのか『お仕事ー!がんばるぞぉ~!』と楽しそうにしている。
「ところで、報酬はこれから運び出したお宝を換金したときのお金で決めたいのだが、
とりやえず何割がお望みかな?」
ナズーリンは、あいかわらず得意気な態度で交渉の話を持ちかけてくる。
少なくとも、この時はナズーリンの中ではある程度長引くものだろうと考えていた。
だが、青娥が要求した報酬は意外なものだった。
「お金はいらないですわ」
「おや?それなら現物がお望みかい?」
「いいえ、私が貴方に望むものは、私の自慢の芳香へ一つお話をしてあげてくださいな。
もちろんそれは誰でも聞いたことのあるような、おとぎ話などではなく貴方ぐらいしか知らないようなお話でお願いします。
くだらないちょっとしたお話しでも良いですし、日常で起こった世間話でも構わないですわ。
ただ聞くだけの人形と思って、気軽に話してあげてください。
もっとも、芳香から意見を求めたりすることは無理だと思いますけどね。
あっ、私はちょっとお寺の方に用事がありますので、後はお好きに芳香を使いください」
そう言って、青娥は芳香にナズーリンの言うことを聞くように命令すると、単身命連寺へ乗り込んで行った。
敵地に単身乗り込むと言うこと...それが意味するものは...
「圧倒的無駄死...私は何をされてしまうのやら...
いや、白蓮は武道に精通しているとか...マジックモンクといったところかしら?
となれば、きっと初檄で浮いた身体はそのままデスコンボで激しく...濡れるッ!!」
「何あれ、コワイ...」
ナズーリンは、何かに取りつかれたように命連寺にブツブツと何かをつぶやきながら足を踏み入れる青娥に、いろんな意味で驚怖したが、
『まあ、大丈夫だろう。というか関わったら危険な気がする』という理由で放置を決め込んだ。
それはさておき、その場に残された二人は、とりやえずナズーリンの依頼を達成するために林の中へと歩みを進めることにした。
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人里から少し離れた林の中...
そこには、ナズーリンが先日掘り起こしたと言われているガラクタが数多く存在していた。
そのほとんどは、壺やら皿などの焼き物でそれほどの重量は無いが、
割れ物ゆえにあまりぞんざいに扱うことはできず、たくさんの量を一度に運ぶことはできない。
ナズーリンは、手早く持てるだけの焼き物をうまく持つと、ナズーリンが持ちきれなかった分を芳香が拾い集める。
一見危なっかしそうだが、芳香は変なところで器用な所を見せて、辺りの物を拾い集めた。
初めは、難度か往復するつもりでいたナズーリンだったが、
芳香の予想外の奮戦に『往復する必要もなさそうだ』と小さくため息をついた。
に向かって歩き始めた芳香とナズーリンは、しばらく沈黙していた後に、ナズーリンは報酬のことを思い出した。
「君の主人との約束だったな。
まあ、変な報酬を要求されたが、約束は約束だ。
ひとまず君のリクエストを聞こうか?
私はどんなお話をすれば良いかな?」
「どんなお話でもいいぞ~」
「いや、そんな曖昧な回答が、一番困るわけなのだが」
「わがままだなぁ」
「ネズミを甘く見ていると、死ぬよ?」
「私は蘇った戦士だぞぉ~!元から死んでいるぞぉ~!」
ナズーリンは、いろいろと話にならないという結論に至り、しかたなく自分で何か話題を探すことにした。
しかし、こう言う時に限って気の効いた話題は浮かばないものである。
最近これといって面白い事があったわけでもなく、かといって本で読んだ事のある内容などは、報酬に反する。
「いや、一つこういう時ぐらいしか話せない事があったな。
芳香、君は私は今から聞かせる話を他言しないと誓えるかい?」
芳香は、不思議そうに首をかしげたあと、『聞いてもすぐに忘れるから問題ないぞー』と答えた。
例え、この言葉が嘘だったとしても、命連寺に影響する事はない。
別に話しても良い内容なのだが、知り合いにはあまり知られたくないような話題...
だが、誰かに言ってしまいたいそんなお話である。
ナズーリンは、芳香の回答に満足そうに小さく笑うと、ゆっくりと語り始めた。
「これは、私と同じネズミの妖獣の話だ。
少し長くなるがしっかり聞いていてくれたまえ。
まあ、君は忘れてしまうのだろうけどね」
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遥か昔...
今から1000年ぐらい前の出来事だろうか?
とあるネズミの妖怪がいた。
ネズミの妖怪は、仲間達と暮らしていましたが、常に何かに怯えて暮らしていました。
妖怪といえども、所詮は長生きして知能を持った程度のネズミ...
別の妖怪達からは、力試しや食料に快楽などの狩りの対象に...
人間からは、仇敵と見なされ駆逐の対象にされていました。
力の弱い妖怪の中でも最下層に位置する彼らは、ひたすら全てから怯えて下していました。
そんな弱い妖怪の一人に、とても臆病な少女がいました。
でも、そんな彼女でもとても信頼できる親友が居ました。
だから、少女は親友と一緒ならば、怖くても大丈夫だと心から信じていました。
少女と親友は、いつも二人で力を合わせ、やがて月日が経ち人形に成れる様な立派な妖獣に成長しました。
周りの同胞よりも立派に成長した二人は、ネズミ達を指揮して自分達の地位を向上する為に必死にがんばりました。
ネズミ達は、二人の活躍に勇気づけられ弱いながらも力を合わせながら二人に続き、
いつしか、その森で一番の種族となっていました。
小さな森に居る二人の賢将の名は、すぐさま知れ渡り、
力の強い妖怪達もその功績を称え、彼女達を弱い存在だと見下したりする事はなくなりました。
天下なんて必要ない。
最強になれなくたっていい。
ただ、この小さい森で幸せに暮らしていければいい。
二人の賢将はそんな小さな幸せで、とてもとても掛け替えのない大きな幸せを感じていました。
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人間の里に着いた芳香達は、これから命連寺に帰るのではなく、これらのお宝を換金する為に質屋に持っていかなければならなかった。
だが、太陽も真上に見える時間...
里は、食堂を中心に盛り上がりをみせていた。
「さて、そろそろお昼にしようか。
芳香は、何か食べ物を持っているかい?
もし持っていないのならば、報酬の一つとして特別に私が何かおごるよ。
今日の私は、少し羽振りがいいからね」
「うおーーー!!いっぱい美味しいのが食べられるならなんだっていいぞ!!」
ナズーリン以上にお腹を空かせた芳香は、その言葉を聞いてとても嬉しそうにピョンピョンを跳ね回った。
あきれ返りながらも、微笑ましい者をみた様にナズーリンは微笑むと、
芳香のお腹を満たすべく、安くて量が多い事で有名な洋食店に向かう事にした。
「あそこのお店の大盛りカツ定食と特盛りバナナパフェは、なかなか美味しくてね」
「ナズーリンは、小さいのに大盛りを食べるのかー?」
「頭を使うのにも栄養は必要なのさ。
賢くなりたいならば、十分な栄養と過剰にならない程度の糖分は必須なのさ」
「おぉーーー!!食べて賢くなれるなんて、素晴らしいぞ糖分!!」
『糖分を取っても、勉強をしなければ意味はないけどね』とナズーリンは付け加えて、店ののれんを潜った。
芳香もよほどお腹がすいたのか、とても楽しそうにナズーリンの後についていく。
ようやく二人が席に着いて落ち着きを取り戻したとき、ナズーリンは話の続きをすることを思い出した。
「さて、料理がくるまで時間もある。
料理を食べる間も時間はある。
さっきの話の続きをしようか」
「おう、誰にも言っちゃいけない少女の話だな!!」
芳香の言葉に、食堂に居合わせた何人かの紳士が振り向き、
熱烈な視線を送ってきたがペンジュラムを眉間に突き刺す事で対処した。
紳士の一人が、『罪袋死すとも、ロリコンは死なず』とか言いやがったので店の人に頼んで通報してもらった。
事態が落ち着いたところで、ナズーリンは再び語り始めた。
その幸せが続くと心から信じていた二人の賢将の話を...
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ある日の出来事でした。
ネズミ達が、大慌てで賢将達の元に訪れました。
なんでも、人間達が妖怪達を倒すために神の下で一斉に立ち上がったとのことでした。
ネズミ達は、たしかに小さな森で一番の権力者でした。
けれど、森の中にやってくる人間から物を奪ったりすること以外に、害を与えることはありませんでした。
人間を殺すこともなければ、村に襲撃したりすることもありませんでした。
けれど、人間達にそんなことは関係ありません。
なぜなら、森の権力者には力が弱くても妖怪達がいたからです。
人間達は、有害無害関係なく、完全に周囲の妖怪を殲滅するつもりだったからです。
武器を持った人間達に、ネズミ達が敵うはずがありません。
神やそれに仕える退魔士や巫女を中心に、つぎつぎと森を焼き払いながら一方的な狩りをはじめました。
二人の賢将は、仲間に気を配ることもできず二人で必死に逃げました。
森を捨てて、遠くまで逃げようと決めました。
しかし、人間達の追撃は凄まじく、どの方向に逃げようとも必ず先回りをされていました。
やがて、一人の賢将が退魔士の攻撃を受けて地面に倒れてしまいました。
そこへ、タイミングを見計らったように一人の人間が槍を片手に迫ってきました。
倒れた賢将は、必死に助けを求め手を伸ばしました。
迫り来る人間との距離は、まだだいぶある。
賢将も衝撃でこけただけで、たいした傷を負っているわけでもありませんでした。
けれど、必死に延ばされたその手が掴まれることはありませんでした。
なぜならばもう一人の賢将は、自分が逃げるためにその賢将を囮に使う事を決めたからでした。
「助けて!!見捨てないで!!」
倒れた賢将は、必死になって手を伸ばしました。
必死になって声をあげました。
けれど、逃げていく賢将は一度も振り返る事もせずに森の奥へと消えていきます。
ただ残された賢将は、全てが真っ暗になる様な錯覚を覚えました。
気がつけば、自分の体が紅で染まっている事に気がつきました。
でも、不思議と痛みは感じませんでした。
何も感じない体を、不思議に思いながらゆっくりと立ち上がります。
そして、ふと視線を落とすと自分の腹部に鋭い槍が背中から貫通している事が解りました。
考えなくても理解しました。
もうすぐ自分は死んでしまうのだと。
すると、とても不思議なくらいに笑いが込み上げてきました。
とてもとても不気味な笑い声が、森に響きわたります。
その姿があまりにも異様だったのか、いつの間にか自分を囲んでいた人間達は誰も近づこうとしませんでした。
だから死にかけた賢将は、高らかにこう言いました。
「ほら、瀕死の妖怪がここに居るぞ!
今なら非力な子供でも、簡単に私を殺せるだろうよ!
さあ殺したらどうだ!
いきなり住処を奪われ、仲間に見捨てられ、無様に朽ち果てゆく妖怪に止めを刺したらどうだ!」
声の続く限り、賢将は叫びました。
怯えながら無様に朽ち果ててたまるか。
きっと、そんな思いがあったのかもしれません。
最後の最後ぐらい、壮絶な死とやらを演じてもいいと思ったのかもしれません。
結果として、その異常な光景が人間達を心の底から震え上がらせたのかもしれません。
そんな賢将の威勢も、長くは続きませんでした。
結局人間が誰も手出しをするまもなく、賢将は力尽きて地面に倒れました。
いよいよこれで最後だと思うと、とてもとても悲しい気分になりました。
賢将は悲しくて悲しくて、ただ純粋に泣きじゃくりました。
まるで子供のように、泣いて泣いて泣きました。
やがて、泣きつかれて全ての世界が黒で染まりそうな時でした。
人々をかき分けて、誰かが近づいてくるではありませんか。
その時、近づいてきた誰かの顔をよく見ることは叶いませんでしたが、
それが賢将と呼ばれたちっぽけなネズミの妖怪と、偉大なる仏教の軍神・毘沙門天との出会いでした。
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「おぉー、きっとそのネズミの賢将は、その後死んで私と同じ崇高なるキョンシーとなるのだな!」
「残念だが、その賢将は生きている。
もちろん今もピンピンしているさ。
君は元人間だから、勘違いしているだろうが、妖怪は丈夫なものなのさ」
「我は、一度死んだからこれ以上死なないぞー!だから丈夫だぞー!」
「あぁー、君はそうだったな;」
ナズーリンは、自分なりに考察してみた芳香につっこみを入れようとしたが、
芳香の頭脳はいろいろ残念だったことを思い出し、訂正を諦めた。
その一方で、芳香は楽しそうに歌なんかを歌っていた。
周りの客の迷惑になりそうだったので、ほどほどの所でなだめるとちょうど食後の特盛りバナナパフェが運ばれてきた。
丸ごとバナナが4本も贅沢に使われた特盛りのパフェである。
もちろん本来は、2、3人用なのだが、席に置かれたパフェは二つだった。
芳香はみな知ってのとおり大食いだが、ナズーリンもなかなかの大食いだったのだ。
ちなみに、食べている途中でバナナに着いているバニラを必死で舐めとる芳香とか、
不慮の事故でドロドロにとけたバニラが大量にナズーリンに降りかかったりしたが、
尺の都合でその部分はカットさせていただく。
「さて、デザートも来たことだし話の続きとまいろうか。
今度は、その賢将が毘沙門天に拾われた所から始まる」
「んぐぅ!!このバナナ、太すぎて一口で食べきれないぞぉ」
「なにそれ、卑猥...今度ご主人様と来ようかな。そしてこのパフェを食べさせよう。絶対に」
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死にかけた賢将に、救いの手がさしのべられました。
何日も何日も長い間ずっと眠っていた賢将は、気がつけば毘沙門天の家で目を覚ましました。
毘沙門天の使いの者が、賢将に説明しました。
死にかけた賢将を、哀れに思いここで使いの者につきっきりで看病させたこと...
そして、もしよければ毘沙門天の使いとして新しい人生を送ってみないかと言うことでした。
賢将は、迷うことなく毘沙門天の使いになることに決めました。
しかし、それは毘沙門天の寛大な心に感謝したわけではなく、もっとひどく歪んだ感情でした。
そして、毘沙門天に生涯の忠誠を誓ったその日...
一人の賢将は、ある存在を消し去ることを決めたのでした。
それは、自分自身の心でした。
「毘沙門天様...本日より貴方の使いとなる~~と申します。
今後、あなたの如何なる命にも従いましょう」
心を殺した賢将は、ただひたすらに忠実でした。
それはそれは大層優秀であり、あっと言う間に名声を上げ、
軍神として名高い毘沙門天の参謀の一人として、恥の無い知を振る舞ったといわれています。
けれど、同じ毘沙門天の使い達の間では、賢将の評判は最悪でした。
しかし、賢将にとってはそれはむしろ好都合でした。
なぜなら、賢将は誰一人として信用していなかったのですから。
毘沙門天に忠誠を誓う理由も、自分の保身以外の何事でもなかったのです。
神の使いという身分は、それだけで絶大な権力で守られているのですから。
過去、人前に姿を現そうものなら、容赦なく切りかかられていた脆弱な妖怪も、
神の使いと言うだけで人々は切りかかるどころか、地面に頭をこすりつけ敬意を示しました。
目線に怯えずに済む。
それだけでなんと心地いいことか...
賢将は、これまでに無い幸福を感じていました。
このまま名声をあげていけば、いずれ毘沙門天に神と認められ、毘沙門天の威光を借りずとも堂々と世間で立ち回れる。
そんな暗い理想を、ひたすら描きながら賢将は毘沙門天に必死で忠誠を従い続けました。
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「うまいぞぉーーー!!」
「ハハッ、気に入ってもらえたようで光栄だよ。
ちなみに、ここのお店の自慢はカツ丼や、パフェだけではないのだよ」
パフェを食べ終えた芳香は、よほど美味しかったのか嬉しそうに両腕を上下させて叫んだ。
ナズーリンは、小さな子供を見つめるかのような微笑ましい表情でしばらく芳香を眺めていた。
だがしかし、目の前のキョンシーはまだ食べ足りないと言わんばかりに名残惜しそうにパフェのグラスに舌を這わせていた。
ナズーリンは、小さなため息をついて店員にこう言った。
「1リットルデラックスプリンを2つ。
あと、甘いものばかりも飽きたから、
5種類とろけるチーズトーストピザ風仕立てを、3人前2つお願いするよ。
あれは美味しいが、食パン1枚程度の大きさじゃさすがに足りないからね」
店内に居合わせたナズーリンと芳香以外の全員が、その言葉に戦慄した。
気がつけば、全員の視線がその二人に集中していた。
ナズーリンはいわずものながら、芳香もまた平均よりも痩せ気味と言える。(ただし豊満な胸を除く)
そんな二人が、力士でもギブアップしそうな高カロリーの料理を難なく平らげていくのである。
これはもはや、フードファイターとかそういった何かのレベルだった。
みなの視線が、二人に集中する。
しかし、芳香とナズーリンがその視線に気がつくことはなかった。
なぜなら、彼女達は純粋にお食事を楽しんでいるだけだったのだから。
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神の使いという地位を手に入れた賢将は、戦場に赴くこともありました。
もちろん主な任務は偵察や作戦の検討などで、戦いに関わることなんてほとんどありませんでした。
その日も、賢将は毘沙門天の参謀の一人として戦いの地へ赴きます。
しかし今回は、戦争をするのではなく人々を苦しめる妖怪達の退治でした。
人肉を食らう恐ろしい妖怪達ではありませんでしたが、
村の食料や財宝がたびたび奪われ、村人達は困り果てていました。
義心に駆られた毘沙門天は、数名の部下と共に妖怪退治を決行しました。
賢将も、その日は毘沙門天の命令により最前線で妖怪退治のお手伝いをすることになったのです。
薄暗い森の中に姿を隠す妖怪達は、木々に隠れながら奇襲を仕掛けてきたり、逃げようとしたりしました。
しかし、軍神といわれた毘沙門天と、そのお供達の前では如何なる抵抗も無力でした。
戦えども歯が立たず、逃げようとも退路は絶たれ妖怪退治は順調そのものでした。
賢将は言いました。
「妖怪達は、あと数時間もすれば殲滅できるでしょう。
もし望まれるのでしたら、私の策で素早く殲滅してご覧に入れますが、いかがですか?」
賢将の毘沙門天への進言は、明らかに出すぎた真似だと言えるでしょう。
しかし、賢将のこれまでの実績から考えれば、周りの者達は誰も批難や異議を唱えません。
毘沙門天でさえ、賢将の知恵をかりる時があるのですから。
だから、その日も毘沙門天は賢将の策謀に耳を貸すだろうと誰もが思いました。
しかし、毘沙門天はこう言いました。
「うぬは、この討伐に何も思わぬのか?」
賢将は、その問いにとてもとても不思議そうな表情をしながらこう言いました。
「いえ、何も思いませんが?
私は、ただ毘沙門天様の命令に従い、人々を苦しめる悪に正義の鉄槌を喰らわせるだけです」
毘沙門天は、小さく『そうか』とだけつぶやくと、賢将の策に頼るまでもないと言った感じにその後も妖怪退治は続けられた。
賢将も自分の意見が採用されなかったことに、とくに不満もなく駆逐していく。
その足元に、自分と同じような姿をした妖獣の骸を転がしながら。
いよいよ妖怪退治が、終盤に差しかかった時だった。
賢将が放った光弾が、また一匹の犠牲者を生み出した。
妖怪にしてみればたいした傷ではないが、逃れる術を失ったという意味では犠牲者とも言えるだろう。
神の威光を受けた光弾は、命中した妖獣に傷をつけ、神力によりその行動を完全に奪った。
逃げる術を失った妖獣は、地面で起き上がることもできず、
なんとか全身を使って自分を追い詰める存在をその瞳に映すことだけだった。
賢将と妖獣は、互いにその姿を瞳に映し合う。
「おや、見知った顔だったか」
賢将には、その妖獣に見覚えがありました。
なぜならば、その妖獣もまた、賢将と呼ばれていたからでした。
かつて2人で賢将と呼ばれ、自らの命を守るために片方を見捨てた卑怯者の賢将...
そんな裏切り者は、毘沙門天の賢将に向かって言いました。
「復讐しにきたんだよね。
ずっと私を憎んでたんだもんね。
殺されて当然だよね。
ごめんね...本当にごめんなさい」
そういって、ボロボロと涙を流す裏切り者...
その表情は、明らかにあの時への謝罪と後悔の意味が込められていました。
ですが、賢将はこう言いました。
「別に憎んでもいないし、復讐なんて考えていない」
先程まで大粒の涙を流した裏切り者は、驚いた様な表情をしました。
だが、その表情はすぐさま恐怖に染まります。
賢将は、とても醜い笑みを浮かべて容赦なく妖獣の四肢を腰に差していた剣で切りつけました。
想像を絶するような悲鳴と泣き叫ぶ声が、辺りに響きわたります。
だが、そんな悲鳴なんか聞こえていないかのように賢将は、再び剣を構えました。
「私は毘沙門天様の命令で、君達を殺すだけだ。
恨みや憎悪で正しい判断を失うようならば、私にはそんな感情は足枷に過ぎない。
そんな醜い弱者の考えは、とっくに捨てた。
今は、毘沙門天様の道具としてが私の全てだ。
全ては毘沙門天様の為に...ただ、ただ死ね」
そう言って、賢将は裏切り者の首を刎ねました。
そこには達成感や充実などといった感情はなく、純粋に毘沙門天の役にたったと思い上がった感情だけがありました。
裏切り者の四肢を切りつけたのも、憎しみや憎悪ではなく、動きを止めた獲物に逃げられたくないからでした。
ただ、確実に殺す方法だけを賢将は考えていました。
その姿は、毘沙門天に見られていました。
賢将は、自分の戦果を直接示すことができて大満足でした。
だが、その満足した心も毘沙門天の表情を見た瞬間消え去りました。
なぜならば、毘沙門天の表情はとても悲しそうな表情をしていたからです。
賢将は、自らの過ちを考えました。
そして、一つの結論を出します。
それは、自らの武力が足りなかったからだろうと考えました。
毘沙門天様ならば、動きを止めなくても、逃げる相手を殺すことができただろう。
念のため四肢を切り裂き、逃走を阻まなくても一瞬で殺すことができただろう。
だから賢将は、認めてもらうために武力を身につけることにしました。
ですが賢将には、武の才能がなかったのです。
賢将に、日に日に焦りがつのります。
毘沙門天の道具で居られなくなる恐怖が、賢将を毎日の悪夢となって襲いました。
それを振り払うために、賢将は武をみがき、知を高めました。
焦れば焦るほど賢将は、後れを取る様になりました。
そしてとうとう、毘沙門天の参謀から外されてしまいました。
賢将は、便利な道具から道具になりました。
いくらでも替えの効くただの道具になったのです。
賢将の椅子を奪った者が、笑みを浮かべます。
賢将の才能に嫉妬していた者達が、小馬鹿にした様に笑います。
中には、同情してくれる者もいましたが、賢将はその者達の心を自ら捏造し拒絶しました。
全てを失ってしまった賢将は、ぼんやりとただ日々を過ごす様になりました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ふぅ、いい値段がついたな」
「ガラガラが、ジャラジャラになったぞぉー」
「換金をそんな風に表現するのは、後にも先にも君一人だろうね」
商人に、価値のあるガラクタを売りつけたナズーリンは、そこそこ満足のいくお金が入ったことに満足した様子だった。
芳香も、なぜか上機嫌に『ジャラジャラー』と訳も解らずに騒いでいた。
ナズーリンは、いくらか分け前を渡そうかと芳香に聞いたが、
芳香は『せ~が様は、お話が報酬だといったぞ~。だからさっさと続きを話せ』と要求した。
ナズーリンは、呆れた様に肩をすくめるとお寺に向けて歩みを進める。
芳香も、楽しそうに跳ねながらナズーリンに着いていった。
そして再びナズーリンの口から物語が始まる。
哀れな賢将のその末路を語る物語が...
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「私に監視役の命令ですか?」
ある日、毘沙門天がとうとう死刑宣告を賢将に言い渡しました。
それは毘沙門天の元を離れて、その代理を名乗るものを監視せよという命令でした。
話を聞けばその代理は、毘沙門天にいつでも信仰を捧げることができるつまり、信仰の中継の役割をになう者でした。
毘沙門天としても、その地に止まらずとも信仰を得られるのは大きな利益でした。
しかし、問題なのはその信仰の代理が、通常ならば銅像といったモノだったりするのですが、
驚くべきことにその代理は、人間の仇敵であるはずの妖怪だというのです。
賢将が、参謀を外されしばらく事務的な作業を繰り返している間に、
その妖怪はある人物の紹介で、毘沙門天の元で修行を積んだとのことです。
成績は優秀そのもので、本物を名乗っても誰も疑わない様な威風をもつようにまでなったと毘沙門天は評価しました。
だが、同時にある懸念もあるということです。
それが、代理をこれから正式に名乗る者が妖怪だという事実でした。
そこでもしもの保険のために、賢将を表向きでは従者として裏で監視する。
これが毘沙門天が、賢将に与えた命令でした。
「毘沙門天様の望むがままに...立派な監視役を果たして見せましょう」
賢将は、これが最後のチャンスだと思いました。
毘沙門天の代理を陥れ、再び毘沙門天の道具として成り上がるチャンスだと思いました。
きっと、毘沙門天様は私を再び選んでくださる。
そんなありえもしない空想を胸に、賢将は代理を名乗る妖怪の元へと足を運んだのでした。
「毘沙門天様の命により、本日より貴方様の使いとなる者です。
以後、どんな命令でもお申しつけください」
賢将が、毘沙門天の代理が住まうお寺に到着したとき、そこには異様な光景が広がっていました。
なぜならばそのお寺は、毘沙門天の代理本人だけでなく、全員が人外だったからです。
世間から見れば、みな熱心な仏教徒に思えるでしょう。
しかしその実態は、妖怪達が住まう恐ろしい場所だったのです。
この事実を報告すれば、きっと毘沙門天も認めてくれると賢将は思いました。
ですが、毘沙門天に報告して帰って来た答えは意外なものでした。
「彼らは、仏の名を汚す行為をしたか?」
その問いに賢将は、いいえとしか答えることができませんでした。
結局、賢将はこの妖怪だらけのお寺で、秘密裏に毘沙門天の代理の監視役として日々を過ごすことになりました。
賢将は、毎日ただ黙々と毘沙門天の代理の従者として自分を偽り監視を続けていました。
何年も、何年も永い月日を偽って監視の業務を続けてきました。
ですが、彼女達はあまりにも優秀あったのです。
とくに、毘沙門天の代理を名乗る者は、まるで何かに取りつかれたかのように必死でした。
長い間ずっと監視を続けてきたのだから、その様子がよく分かりました。
賢将は、そんな毘沙門天の代理が大嫌いでした。
理由はよく分かりません。
ですが毘沙門天の名を借り、ただ黙々と必死に代理として過ごす彼女が嫌いでした。
だから、すぐにこのお寺のボロを探し出してさっさと出て行くつもりでした。
ですが、そんな賢将の目論見も結局叶わないままでした。
そんな風に、ただ月日が過ぎたある日のことでした。
お寺の住人達が、妖怪であることが世間の露顕したのです。
今まで親しかった人間達は、人が変わったように聖達を大儀の元で攻撃し、封印してしまいました。
ただ二人、賢将と毘沙門天の代理だけがその場に残されました。
人間達も妖怪とは言え、神を名乗っても不思議ではない神聖な光を持つ毘沙門天の代理とその従者には手が出せなかったのです。
そして、毘沙門天の代理も人間に神罰を与えたり、復讐を企んだりすることはありませんでした。
誰よりも家族以上の絆でつながれた仲間達が、目の前で迫害されている光景をただ静かに見つめていたのです。
毘沙門天の代理には、それでこそ神の等しい力が備わっていました。
その気になれば、人間の軍隊が攻めてこようとも、倒すことぐらいたやすい事だったはずでした。
ですが毘沙門天の代理は、仲間達を見捨てました。
だから賢将は聞きました。
「なぜ助けなかったのです?」
毘沙門天の代理は、もう誰も訪れることが無いであろうお寺で、ただ静かにこう言いました。
「私は、毘沙門天様の代理です。
その名を汚すことはできない」
「大切な仲間を、見捨ててまでもか!?」
賢将が、声をあげて怒鳴りつけます。
しかし毘沙門天の代理は、涼しい顔をしたままこう言いました。
「ならば教えてください。
獣から成り上がった程度の脆弱な妖怪が、妖怪という理由だけでその命を狙われ、
死にかけた所を聖に救われ、何の取り柄もない私をただずっと側に置いてくれました。
毘沙門天の代理を演じることで、あの人の役に立てるならば、
私はこのような結果になろうとも、毘沙門天の代理であり続ける覚悟でした」
賢将は理解しました。
この毘沙門天の代理は、優秀なんかじゃないと...
ただ、聖という存在に依存していただけなのだと...
朽ちていく仲間達をただ傍観していたときも、想像を絶する悲鳴を心の中であげていたことでしょう。
どんな闇よりも深く醜い闇が、心を支配していたことでしょう。
ですが、そんな内に眠る恐ろしい怪物を押しとどめたのが、聖だったというのです。
そして皮肉なことに、その結果が全てを失う結果となったのです。
誰も信じられないが為に堕ちた賢将...
信じすぎるあまりに、全てを失った毘沙門天の代理...
両者は、たった一つの所で一緒でした。
それは、自分を殺してまで下らぬ幻想を夢見ていたのです。
賢将は毘沙門天の代理であり続けようとする成り上がりに、醜い自分の姿を映してしまいました。
賢将の心に、かつて無いほどの怒りと憎しみを感じました。
だから賢将は、成り上がりの右頬をおもいきり殴り倒し、胸ぐらを掴んで鼓膜が裂けんばかりの大声で叫びました。
賢将はその日、生きてきて初めて何も考えずに行動していました。
「君ならできたはずだろう!?仲間達を助ける事ぐらい!!
君ほどの才能があれば、いくら武を振るおうとも誰も殺める事もなくみなと共に逃げ果せる事だって可能だったはずだ!!
そんなに苦しいならば、そんなに泣きたいならば、どうして声を上げなかったんだ!!」
賢将には解っていました。
聖が、口癖のように言っていた言葉を...
何時の日か、人妖が互いに手を取り合って共に歩み合える楽園を作りたいと...
その妄想物語の果てが、この悲惨たる結果を作ったのです。
もし、毘沙門天の代理があのとき神罰と称して、
人間達に危害を加えたらさらに恐ろしい惨劇が待っていたかもしれません。
賢将は理解していたとしても、叫ばずにはいられなかったのです。
なぜならば、その毘沙門天の代理の姿があまりにも悲惨だったからでした。
いつか、自分がその役割を失った時のように、ただ無気力に静かにふさぎ込んでいる姿が。
賢将が、もっとも見たくない惨めな自信の姿でした。
その後も、賢将と毘沙門天の代理は、誰も訪れることの無くなったお寺でその役割を果たしていました。
ただ二人で...
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「さて、私が話すのはここまでだ」
「あるぇ?それって、途中で終わっていないか?」
話を終えたナズーリンは、そんなことを聞いてくる芳香に小さく笑いました。
そう、この話は途中で終わっているのです。
ですが、ナズーリンは確認したかったのです。
この頭の良くないキョンシーが導き出す答えを...
ナズーリンが、この話をしたのはそのためでした。
だから、ナズーリンは聞きました。
「もし、この話の続きがあるとしたら君はどう思う?
賢将か、毘沙門天の代理か、はたまた現場に居合わせた第3者の視点からでもいい。
ぜひとも君の考えを知りたいんだ」
そんなことを聞かれて、芳香はしばし呆然としていた。
自分ならばどうするかなんて決まっている。
だから、芳香は自信満々に答えた。
「考えるまでもないぞ~。
ただ、待っていてあげればいい」
辺りに肌寒い緩やかな風が吹いた。
いや、風なんて先程から優しく吹いていた。
だが、そんな些細な風でさえ意識してしまうほど、ナズーリンは芳香に思わず見とれていた。
なぜなら、芳香のその表情は明らかにいつもと違っていたのだから。
「だって、待っていればあの御方はきっと、私を見つけてくれるから」
時間にして、ほんの数秒だった。
芳香の表情が、何を意味しているかは理解できなかった。
けれどナズーリンの眼には、はっきりとその光景が焼きついていた。
ナズーリンは、芳香のことをほとんど知らない。
今日いろいろ語った仲であり、お互いに大食いであると理解した程度だ。
だから、芳香がなぜそんな表情をしたか理解できなかった。
「あれ~?あの御方って誰の事だろう。
うおーーー!!訳が解らなくなってきたぞぉー!!」
そう言って、癇癪を起こしてじたばたと手を振り回す芳香...
結局、ナズーリンの中で大きな疑問が残ってしまったが、芳香の回答は予想以上に良い回答をしてくれた。
芳香のその答えは、ナズーリンにとって今日手に入れたガラクタよりも、遥かに価値のある回答だったのだから。
その後、命連寺へと戻ってきた二人は、青娥と合流した。
青娥は、何か深刻な表情をしていたが、二人を視界に捕らえるといつもの捉えどころのない素敵な笑顔で二人を出迎えた。
「約束どおり、くだらないお話をしてみたよ。
あいにく私は演技派ではないので、彼女に伝わったかは不明だかね」
「いっぱいお話してくれたぞー!
でもナズーリンが、しゃべっちゃだめだから、青娥様にもしゃべっちゃだめー!」
そう言って少しテンション高めに、ブンブンと腕を上下に振り回す芳香を、青娥は微笑ましい笑みで見ていた。
そして、ナズーリンの方を向いてこう言った。
「私の可愛いキョンシーに、満足していただけましたか?」
「あぁ、大変助かったよ。
まあ、また何かの縁があれば利用させてもらうよ。
それに、私は捜し物が得意でね。
君たちとは勢力的に敵対通しだが、個人的にならいつでも相談に乗らさせてもらうよ」
『幻想郷で唯一のネズミのダウザーをごひいきに』と、そんな言葉を続けてナズーリンは深く頭を下げた。
青娥もまた、それに答えるように挨拶を返した。
互いに笑顔を向けあうと、解れの挨拶をして青娥は芳香に帰ることを命令する。
芳香は青娥の命令に、嬉しそうにうなずき、ぴょこぴょこと飛び跳ねながらついて言った
青娥は、結局話のことは聞かなかった。
なぜなら、芳香とナズーリンの満足そうな表情が見れただけで十分だったからだ。
「さて、次はどんな仕事をさせてみようかしら?」
「うおー!がんばるぞー!」
空を照らす赤い太陽が、その日は少しだけ美しく見えたかもしれない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
毘沙門天の代理が、聖を助ける術はなかった。
なぜならば、その方法も今では地底の果てに封印されてしまったのだから。
それでも信じていた。
いつか、必ずみんなで迎えに行こうと...
幾多の時間が過ぎようとも、一人ではなくみんなで救い出してみせると...
途方もない時間がかかるだろう。
それでも、毘沙門天の代理はその夢を諦めることなく待ち続けるだろう。
賢将も、ただ待ち続けた。
本来ならばつながりの薄い賢将が、毘沙門天の代理の空想話に付き合うのは誤った考えだろう。
だが、賢将はいつのまにか魅了されていたのだ。
その何処までも清く美しい心に...
あの時本気で怒鳴ったことも、その心が黒く淀んでしまいそうだったからだ。
当時は、気がつきもしなかったが今なら自信を持って言える。
このデタラメなお寺で、デタラメな連中と共に暮らすのも悪くないと...
賢将が、毘沙門天に認められ神獣を名乗れるようになる日はほど遠いだろう。
けれど『神獣を名乗れる事が幸せか?』と聞かれれば私は『幸せだ』と答えることができないかもしれない。
だが、今の生活は『幸せだよ』と自信を持って答えることができる。
我が主毘沙門天様...あなたは、本当はこうなることを知っていたのではないですか?
そんなつもりはなかったのかもしれませんが、私はそんな風に信じています。
おまけ
一人命連寺に潜入しようとした青娥...
だが、彼女は戦慄した。
なぜならそこには大霊廟の主、豊聡耳 神子と命連寺の僧侶、聖 白蓮の姿があったからだ。
仇敵とも言える二人が、そろっていること事態が異常だった。
だが、その二人の表情はなぜかにこやかであり、互いに楽しんでいると言った感じだった。
以前、2勢力の立場と主張をはっきりさせようと、ここ命連寺に神子とお供の二人が乗り込んだことは知っていた。
青娥と芳香は、お仕事で忙しかったので直接関わっていなかった。
2つの勢力の重要人物が集った話し合いは、
険悪な雰囲気で行われこのままでは話し合いにならないと判断した神子と白蓮は、一対一の話し合いを提案...
毎日2、3時間ほどの一対一の話し合いは、4日続けられ最終的に武力衝突は極力避ける事で意見は一致したという。
そんな東西に別れた冷戦な状況で、そのトップが仲良くしているのだ。
これを異常...いや、異変といって何処が悪いのだろうか。
青娥が呆然と立っていると、二人は青娥に気がつき神子が、青娥の元に歩いてきた。
そして、なぞの上機嫌で青娥に語りかけた。
「おや、貴方がなぜこんな所に...いや、聞くまでもないですね。
芳香達と待っていると...ですが、命連寺内をうろつくのはあまりよろしくないです。 今の状況を貴方は理解しているでしょう。
極力ここの妖怪達を、刺激しないようにお願いしますね」
そう言って、上機嫌のままその場を去っていく神子に青娥は何も言うことができなかった。
そして、遠くでこちらを見つめていた白蓮も、一礼して建物の中に入っていく。
だが、青娥は見逃さなかった。
元ネタ的に元人妻である娘々は、去り際の白蓮のその表情に見覚えがあった。
「女の顔をしていた...間違いない」
一体何が起こっていたのか...青娥は底知れぬ興味が胸の内に渦巻いていた。
ってラーメン屋さんがいってたよん。
しかし……いろいろ手遅れすぎるwww
今後のシリーズも期待してます!
さてさて、次はだれが借りるのかな?