酒作りの才能が自分には無いのではないか、僕がそれに気づくまで幾ばくかの時間が必要だった。
ここは香霖堂。
生き物以外は何でも取り扱う古道具屋である。
霊夢から教わったことや人里の杜氏からの知識を基に、酒作りに挑戦していたがまた失敗してしまった。
昨日、ミスティアの屋台で雀酒を飲んだ際に痛感した。
食べ物に関しては彼女の方が専門的であるとは言え、僕よりも後に酒作りを始めた妖怪が美味しいお酒を作っている。
自分にそちらの才能は無い、と思うのには十分な出来事だった。
考えてみれば、古道具に関しても修復はできるが、一から作成しているわけではない。
魔法の品などであれば、ほぼ一から作ったこともあるが、それ以外の部分で専門的な物を作るのは難しい。
服など簡単な物であればよいが、あれは手先の器用さで何とかなる部分もある。
商人である僕が、職人のようになるのは厳しいのかもしれない。
だが、酒に関してのこだわりを捨てるつもりはない。
一から作れないのであれば、元からある物に手を加えてより良い状態にすればいい。
そんな時、外の世界と幻想郷の酒に関する書物を手に入れ、酒に関する知識を得た。
書物は、霧雨の親父さんとは別の商家の主から譲り受けたものだ。
一部の商家で集まり、特殊な酒を熱心に作ろうとしていたが、結果は芳しいものではなく解散寸前とのことだ。
外の世界の書物は、幻想郷にはない酒の記述があり、興味深かった。
幻想郷の書物では、紅魔館にいる吸血鬼の唾液が、などと場所まで指定してあった。
なぜあのレミリア・スカーレットでなければならないのか、それは結局分からないままだ。
そんな書物の中に、いくつか僕でも作れそうなものがあった。
きゅうり酒―――河童が作っていそうだが、それとなくにとりに聞いたところ作っていないらしい。
カクテル――――シェイカーなどの道具が無いためか、こちらでは存在していないだろう。紅魔館でも見ていない。
それ以外にも比較的すぐに作れそうな酒を何種類か見出し、実際に作ってみることにした。
今日はルナチャイルドが本を借りに来る。
ならば、この『妖精酒』はどうだろう?
「妖精酒?」
ルナチャイルドが目の前でぽかんと口を開けた。
他の少女たちであれば、丸く口を開けるのだろうが、彼女だと栗のような形になる。
僕が妖精酒作りを手伝ってくれないか、と持ちかけたところ、そんな反応が返ってきた。
あの栗の様な口の形も、彼女が月の妖精であることに関係しているのだろうか。
いずれ、じっくりと心行くまで調べつくしたいところではある。
だが、今は妖精酒のことだ。
やはり、妖精たちは妖精酒を知らないのか。
まあ、妖精の名前を冠しているが、外の世界の書物に書いてあったことだ。
知らなくても無理はない。
それに、誰も知らないのであれば、霖之助が幻想郷における妖精酒を作った最初の人物になる。
むしろルナチャイルドが、妖精酒を知っていなくて良かったとすら思う。
「ああ、妖精酒だ」
「でも、私はお酒を作ったことはありませんよ。
他の妖精も作ったことがある、って話は聞きませんけど……」
「そうだろうね」
「?」
小首を傾げ、こちらに疑問を向けてくる彼女に、僕は改めて良い印象を抱いた。
用事があるときに他の妖精にこんな話をすれば、「そんなことはどうだっていいから、こっちの用事を―――」、などと口やかましく言ってくるだろうが、ルナチャイルドにはそれが無い。
「外の世界の文献によれば、妖精が酒をつくることもあるようだが、君たちとは容姿が異なる。
そういった話をいくつか読んでみたが、人形サイズの妖精がそういったことを得意とするんだ」
「人形って……あのお人形?」
ルナチャイルドは棚に飾ってあった人形を指差した。
アンティークドールの中では決して質の悪いものではないが、これと言って特徴があるわけでもないありきたりな人形だ。
確かにあのくらいのサイズであれば、文献の記述とほぼ一致する。
「大きさはあのくらいかな。
君たちとはこの時点で違うね」
「そうですね。
あんなに小さかったら、荷物を運ぶのも大変そう」
「だが、彼らは非常に手先が器用でね。
そもそも、外の世界における妖精は―――」
「え、ええとっ!!
それで、妖精酒がどうかしたんですか!?」
話の腰を折られたのはいただけないが、これから僕が作ろうとしている妖精酒と外の世界の妖精に直接的な繋がりはない。
ましてや、これからルナチャイルドに妖精酒作りを手伝ってもらうのだ。
語り合う機会が失われたのは残念だが、仕方ない。
それにしても、なぜ彼女はここまで焦って人の話を遮ったのだろう?
「ああ、それで妖精酒だがね。
僕が調べたところ、2種類あることが分かった」
「2種類、ですか。
1種類は妖精が作るお酒ですよね」
頷く。
ルナチャイルドは、妖精にしては理解が早い。
妖精らしい勘違いをすることもあるが、それは彼女達の特徴でもあるので仕方ないのだろう。
「もう1種類はね。
―――妖精でお酒を作るんだよ」
ぴたり。
ルナチャイルドの動きが止まった。
「『で』?」
「そう、妖精でお酒を作るんだ」
だらだらと冷や汗を流しながら、ルナチャイルドが一歩後ずさる。
大体、彼女が何を想像しているのか予想できる。
「と言っても、何も妖精をすりつぶしたりするような、残酷なことはしないさ」
「そ、そうですよねー。
ああ、良かったぁ」
ほっとしているようだが、それには早い。
だが、妖精にしても人にしても、まず最悪の想定をさせた上で、次に示された意見はマシなものに思える。
騙すようで若干心苦しいが、ここは妖精酒のために犠牲になってもらうことにしよう。
「お酒に妖精を漬けるのさ。
瓶詰にしていたような記述もあるね」
今度はより想像しやすかったのか、ぶるぶると震えだした。
落として上げて、また落とす。
詐欺師じみた手口だが、物事を受け入れやすい妖精には有効だ。
「安心してほしい。
もちろん、君を瓶詰にするようなことはしない」
「……よ、よかったぁ~」
先ほどよりも安堵が大きい。
もうひと押しだ。
僕は普段よりも柔らかい口調になるように、気を付けながら話を続けた。
「僕としても君が時々持ってきてくれる物は興味深いし、本について話ができる相手は貴重だ。
君とは今後も良い付き合いをしていきたいと思っている」
「あ……ありがとうございます」
何やら顔を赤らめて、もじもじとしているルナチャイルド。
想定とは違う反応だが、悪い反応ではないようだ。
このまま押しきってしまおう。
「ありがとう、はこちらの台詞でもあるけどね。
君も僕と同じ気持ちのようで嬉しいよ」
「……い、いえ」
「そういうわけで僕は君に危害を加えるつもりはない。
嫌だったら、言ってくれてもかまわない」
「べ、別に嫌ってわけじゃ……」
ますます手口が詐欺師のようだ。
何をするか具体的に伝える前に、「嫌ではない」という言質をとった。
これで、より断りづらくなったはずだ。
「君に対して、僕が求めているのは簡単にできることだよ。
大きめのたらいにお酒を入れるから、そこに少しの間体を浸していて欲しいんだよ」
「は、はあ」
「もちろん体を浸すといっても、全て脱ぐ必要は無いよ。
こちらで水着を用意するから、これを着てくれればいい。
水着は好きなものを選んで良いし、使った水着は洗った後にあげるよ」
「好きな水着がもらえるんですか?」
「ああ。
それにたらいに入っている状態でも本は読めるし、コーヒーも用意しよう」
「……本があって、コーヒーも」
もう一押しだ。
僕はこの時のために用意した切り札を切ることにした。
「あと、ちょうど今日買ってきたばかりの饅頭もあってね。
良ければお土産に持っていくといい」
「ん……ん~……や、やります」
かかった。
正直、彼女以外の当てはなかったので、もっとこちらに不利な条件でもやむを得ないと考えていたし、妖精酒自体を作ることができない可能性もあったが上手くいった。
あとは気が変わる前に押し通せばいい。
「それじゃあ、水着はこっちにあるものの中から選んでくれるかな」
ルナチャイルドが水着を選び始めたのを見て、僕は妖精酒作りの成功を確信した。
「ふむ、こんなものか」
途中でルナチャイルドが酒の匂いにあてられてしまったり、魔理沙に見つかりそうになったものの、何とか妖精酒が完成した。
すでに日は西に大きく傾いてしまっている。
3人で食べる約束があるということでルナチャイルドは帰ってしまったが、妖精酒が完成した以上問題はない。
そういえば、彼女がこれほどまで長い時間、香霖堂に居たのは初めてかもしれない。
それに本を読んでいるにも関わらず、口数が妙に多かった気がする。
まあ、気にするようなことでもない。
僕自身が飲むものであれば、彼女の動向にももう少し気を配った方が良かったのだろうが、この酒は僕が飲むものではない。
本を譲ってもらった商家の主人によると、酒に関しての集まりが今日の夜あるということだ。
餅は餅屋。
そこで、専門家たちに出来のほどを見てもらおう。
僕は人里に行く準備を整えた。
「こんなことが……あるのか……」
僕が作った妖精酒の評価は、非常に高いものだった。
それはルナチャイルドが、月の妖精であることにも密接に関係しているのだろう。
何せ最初は興味深げに酒の色などを見ていただけの参加者達が、実際にお酒に浸かっているルナチャイルドの写真を見せたところ、雰囲気が一変したくらいだ。
若干、写りが悪いインスタントカメラを使ったが、すぐに現像できるのが良い。
写りの悪さから被写体が判別できないのはまずいと思い、さまざまな体勢で撮らせてもらった。
外の世界の書籍の写真を参考に体勢を変えてもらったのが、高評価につながったらしい。
僕にはよくわからなかったが、写真を撮りなれている人物の撮る構図は素晴らしいということだろう。
問題があるとすれば、評価が高すぎたことくらいか。
酒は出来次第で、際限なくその価値を上げていくものだが、妖精酒の値段は僕の想像を超えていた。
「まさか……一年分の店の売り上げを大きく超えるとはね」
酒の世界は奥深い。
僕はそのことを胸に刻み、帰路に着いた。
だが、さすがにこれでは僕の取り分が多すぎる。
安く仕入れて、高く売るのは基本だが、それにしても多い。
今度店に来た時、何か好きな物でもあげることにしよう。
そう思った。
ルナチャイルドの夜は深い。
すでに他の2人は眠り、月が煌々と大地を照らしていた。
「……」
お酒に浸かる前に、きちんとお風呂に入らせてもらった。
だから大丈夫だとは思うが、それでもルナチャイルドは顔を赤らめたまま月を見ていた。
手にした器の酒は減っていなかった。
「私……変な味とかしなかったよね」
霖之助も自分と同じように、お酒を飲んでいるのだろうか。
その器には自分の全てを浸した―――
「っ――――――!!」
その日の夜は一層深く、ルナチャイルドはいつまでも月を見上げたまま、器に口づけることはなかった。
どこに行けば買えるんだ?
さて、大吟醸ルナチャ漬け……買うぞ!(←同罪
おいwwww
. ー- 、 i , -, - 、,
!_,.........⊥ ,、 ,、 ,イ!〃 , ='‐ \__ト,__i、_
/! |l T! Tl'lT_-r-、ィ_‐_7´ l l! l! |
,ノ-┤ |l、` ` lヽ_lー〈!_,. - ´j _ -, !
{ ‐コ. ____| \`丶!、l  ̄ l /,ィ ´ /
| ´_,`T‐┬‐" \ i、!  ̄ l´ ,ィ ヽ/
. ヽ く. / lヽ‐_7´ ll ゝ
,i` . ,ィ' !'"i´ ,ゝ、/'./.,.'.,.'´r',`'"'ー.、
io'iー‐ 'i ,ィ7/.`! ,イ /././ /./, ' .',
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ヽ,__ , ‐'´./ / ,./
!r',. i,__.i //
AA失礼。でももうこいつしか頭に浮かばねえ
大妖精→花酒
が出来上がるんですね!?
さっそく霧の湖まで逝ってきます!!
水着だと効率悪そうなんでもちろん全r
ところで雀酒って、もしかしてみすちー自身が……!? ゴクリ
店主相変わらず朴念仁だなぁとか
色々言いたい事はあったんですけど、
里の連中が全て吹き飛ばしてくれましたwww
私は大妖精で造った妖精酒を飲みたいです
どんな味がするのか試飲したいですね
どう考えても「お巡りさんこいつです!」で、完全アウトな状況なのに当人が気が付いていないのがどーにもw
だが私でも買うがね!ルナ茶は白スク着てくれてると信じてる!!
しかし、里の連中に女性会員がいねくてよかったな
慧音や阿求の耳に入ってたら大事だぞw
雀酒も飲みたいなぁwww
雀酒って、雀が竹の中にお米を入れておいたらお酒になったってのが元だったはず
そして酒には口噛みの酒とかも当然あるが、人間の場合は神に使える巫女が作っていた
みすちーの口噛み酒と霊夢の口噛み酒、早苗の口噛み酒でおっけーね!
ぜひとも写真を見ながら妖精酒を呑んでじっくりたっぷり確かめたいものだ。
人里の皆さんは立派な方々だのう。憧れちゃう。
霖之助が霖之助らしいのもグッド! こーの朴念仁め。
あ、おいくらですか?