妖怪として生まれ落ちたあたいにとって時間はほとんど無限で、なんとか面白おかしくやり過ごさないと間違いなく鬱になってしまう。
人間の場合は鬱だ鬱だと口で言っていても、どうせ本当に死んでしまうのはごく一部の者だけで、他のほとんどは周りがかまってくれないと分かるや何事もなかったように立ち直り、3年後には部屋のどこかにある黒歴史ノートを人に見られやしないかと汲々としているのがほとんどらしい。
人間の場合はそんな笑い話で済むけれど、あたいのような妖怪の場合は少し違う。
妖怪にとって多少の体の傷は致命傷にはならなくて、むしろ本当に危ないのは精神の傷。
退屈さのあまりに心を病めば、それはすなわち自身の存在の存亡に関わる。
生きることに楽しみが見出せなくなったら、それは一番悲惨なことだ。
人間ってのは10年後、20年後の自分が想像できるだろうか。
いや、できないだろう。
なぜって人間の体はあまりにも早く変化するからだ。
彼らはすぐに年老いて死んでしまう。
少し突いただけで死んでしまう。
いや、巫女や魔法使いは別として。
それでもあいつらだって膨大な時間の流れには勝てないだろう。
強い人間と事を構えるならば、弾幕は優れた武器とは言えない。
妖怪は時間を使って戦うべきだ。
要するに、兵糧攻めだ。
どんなに強い奴でも、人間なら放っておけばすぐに死ぬ。
ただあの魔法使いはそう簡単には行かないかもしれない。
そのうち妖怪になってしまうかも。
うーん、でもよく考えたら巫女だって同じことだ。
代替わりをしたからと言って巫女は巫女で真面目に宣戦布告などしようものなら、何代後の巫女でも、文字通り地の底まで息の根を止めにやってくるだろう。
だからまあ、奴らとは仲良くするのが一番だ。
少し話がそれた。
そう、10年後、20年後のことだ。
人間は未来の自分を明確に想像できない。
だが妖怪はどうだろう。
100年後、200年後でも姿も行動も一緒。
漫然と生きていれば、特に進歩もせず、退化もしない今とおんなじ自分が100年後にいるだけだ。
100年前の自分と100年後の自分に何も違いがない。
それじゃあ、今の自分はなんの為に生きているんだろう。
なんでご飯を食べてお茶を飲んで庭の掃除をするんだろう。
生き続ける意味が見出せなくなる。
これはなかなか、辛い。
考えることは楽しい。
脳を研ぎ澄ませて自分を高める。
終わりがなくて純粋で綺麗。
あたいが無限の退屈を切り崩すために、思考という道具を用いようと考えたのはごくごく自然なことだ。
何を見ても何かを思い出す。
あたいはそれだけじゃなくて、何を見ても何かを考えることにした。
100年前の自分の為に。
100年後の自分の為に。
これがあたいが考えることをやめない、一つめの理由。
地霊殿のお屋敷には今さとり様とお空とあたいが住んでいて、それから他にもさとり様が飼っていらっしゃるペットがたくさんいる。
さとり様とお空とあたいはいつも一緒に同じテーブルでご飯を食べる。
あたいたちはペットだから、と最初は遠慮したけれど、さとり様は譲らなかった。
3人で食べるご飯は美味しい。
3つの皿にカレーをよそってテーブルに持っていく。テーブルにはあたいが仕えているさとり様と、昔馴染みのお空が座っている。こら、お空。スプーン持って踊るんじゃない。
「今日はカレーですよ、さとり様」
「ええ、ありがとう」
「早くちょうだいー」
ばたつくお空にはいはいと頷いて、テーブルに3人分のカレーを置く。
3人で手を合わせてお昼ご飯を食べる。
自分で言うのもなんだけど美味しい。
料理に凝るのも、楽しく生きるコツだ。
美味しいものを食べていれば、横たわる永い時間を生きることに嫌気がさすことはない。
例えばこのカレーには隠し味でヨーグルトとはちみつを入れてある。
まろやかになってコクが増し、辛さを抑えられる。
さとり様は辛いのが苦手なのだ。
―――あ、睨まれた。
「睨んでなんかいません」
「そうですか」
くすくすと笑って目の前のカレーに取り掛かる。
次は卵でも入れてみようかな。お空に頼んで半熟卵を作ってもらおう。
「それは良い考えね」
さとり様は覚妖怪で人の心を読むことができる。
一対の目の他に胸の前にある第三の目は相対する者の心を暴きだす。
その能力のせいでさとり様は妖怪たちに恐れられ、地下に隠れ住むようになった。
でも、あたいたちペット、特に喋れない者たちにとってはさとり様の能力はとてもありがたくて、動物たちはさとり様にすぐに懐いた。
もちろんあたいやお空も例外じゃなかった。
あたいたちは身を寄せ合って長い間もふもふのふかふかで暮らしていた。
お空が異変を起こして巫女や魔法使いが地下にやってきてからというもの、もはや地霊殿は忌み嫌われた妖怪が棲む伏魔殿などではなく、地下の観光スポットの一つのように思われているみたいだ。
まあ、おかげで来客が多くなって退屈しないし、あたいとしては大歓迎だ。
こうして振り返ってみると、お空が異変を起こしたのは、地霊殿にとっては良い事ずくめだったみたいだ。
お空の核エネルギーは、文字通り地下と地上の間に詰まった塞栓を吹き飛ばす起爆剤になったみたいだ。
あの時は本当に心配したし、悔しいからお空には絶対に言わないけど。
漠然と思いを巡らせているあたいを、さとり様はなんだか楽しそうに見つめている。
あたいが今考えていたことも、もちろんさとり様には筒抜けだ。
それはなんだか嬉しいやら恥ずかしいやら、照れ臭くなってそっぽを向いた。
お空は分かってるんだか分かってないんだか、首を傾げてにっこりと笑った。
くそう、可愛い。
あたいはさとり様に仕えていて、さとり様はあたいの心を読むことができる。
楽しいことも、悲しいことも、苦しいことも、嬉しいことも。
さとり様は誰よりもあたいのことを分かってくれて、あたいが毎日毎日何かを見ては何かを考え、100年後のあたいが今よりずっと賢くなれるように慎ましい努力していることももちろん知っている。
さとり様はあたいが考えたことをじっくりと読んで、さとり様の意見も聞かせてくれる。
そこには完全なコミュニケーションが成り立っていて、あたいはさとり様に仕えていて良かったといつも思う。
そう、これがあたいが考えることをやめない、もう一つの理由。
でももしかしたら、さとり様があたいの心を読めて、あたいがさとり様の心を読めないのは完全なコミュニケーションとは言えないって思うかもしれない。
今、さとり様はあたいの考えを読みとりながら、ぼんやりとカレーライスを口に運んでいる。
その手先はなんだか危なっかしい。
……あ、ほら。
「さとり様、カレーこぼしましたよ」
「えっ」
急に我に返って、慌てて布巾に手を伸ばすさとり様。
「ああ、いいですよ。あたいがやります」
布巾をさっと取ってテーブルについたカレーを拭う。
さとり様は恥ずかしいのか真っ赤になっている。
可愛い。
「ちょっと、お燐」
「口にもついてますよ」
あたいのナフキンでさとり様の口を拭う。
さとり様は今にも蒸気を噴き出さんばかりに真っ赤だ。
ああ、もう、可愛い。
「……あ、あとで……覚えてなさい」
どうにかそれだけ言ってあたいを睨みつけ、猛然とカレーをかきこむさとり様。
お空は相変わらずニコニコと成り行きを見守っている。
ほら、あたいがさとり様の心を読めなくたって、コミュニケーションはどこまでも完全だ。
ご飯を食べ終わって、蒸気機関車になったさとり様を宥めた後、みんなの食器を洗っているときにそれは起こった。
「お燐~!」
ぽふっと軽い衝撃。
背中への奇襲よりも、あたいはその声に驚いていた。
思わず首だけで振り向く。
「こ……こいし様?」
「お燐ー!久しぶりー!」
銀の髪をした小柄な女の子が、あたいの背に顔を埋めてじたばたしている。
地上を放浪していたこいし様が戻ってきたのだ。
実に半年ぶり。
あたいはどうにか心を落ち着ける。
さとり様に知れる前に、まずは状況を訊かなくちゃならない。
あたいは背中にしがみついてるこいし様をとりあえず体から離して、体ごと振り返って抱きすくめる。
ふんふん……良かった、お風呂にはちゃんと入ってらっしゃるみたい。
「どこに泊まってらっしゃったんですか?」
「えーとねー、フランのお屋敷とかー、神社とか。あ、あと魔理沙の家にも泊まったよー」
「ちゃんと家の人の許可を得てですよね?」
「うん!地上にいっぱい友達ができたんだよー」
半年前、こいし様が帰ってきた時は服もぼろぼろ、髪はぼさぼさで泥だらけになっていた。
碌に食べる物も食べていない様子で、体重は不自然なほど軽くなっていた。
さとり様は卒倒せんばかりで、とにかくあたいがこいし様をお風呂にお入れして服を繕えた。
まあ、それから考えたら随分な進歩だ。
もう不法侵入もなさってないみたいだし。
でもまだ訊かなくちゃいけないことがある。
「こいし様……さとり様にはもう会いましたか?」
「ん、おねーちゃん?まだだよー」
なんか照れ臭いもん、と言ってにへらーと笑うこいし様。
いやいや、そういう問題じゃなくて。
能力を恐れられて地底に籠っても、能力を捨てることなく生きたさとり様と違い、こいし様は第3の目を潰してしまった。
こいし様は人の心に代わって無意識を操るようになり、それ以来ふらふらとあてどなく放浪を繰り返している。
半年前、久しぶりにこいし様は屋敷に泊まって、次の朝にはベッドはもぬけの殻だった。
書き置きの一つも残して行かなかった。
さとり様は何日も塞ぎ込んで、それでもあたいたちペットには弱気な姿を見せまいと気丈に振る舞っていて、それが尚更痛々しかった。
あたいはじっとこいし様の目を覗き込んで、言葉を探す。
「こいし様……お屋敷にまた住んで下さるんですか?それともまた、何日かしたら出て行ってしまわれるんですか?」
あどけない笑顔の中に、陶然とした瞳が2つ。純粋な、純粋すぎる光。
時としてそれは、意図せず人を傷つけてしまう。
底の知れない妖しい光。
それでもあたいの真剣さに気付いてくれたのか、少しだけ真面目な表情になる。
「うーん、分かんない。ずっと住むことは、ないと思う」
「そう、ですか……。……分かりました。あたいが言った通り、ちゃんとお風呂に入ってらっしゃるようですし、ご飯も食べてらっしゃるみたいですし。口うるさいことはいいやしませんよ」
でも、と言葉を切る。
もう一回正面からしっかりと2つの瞳を見つめる。
「出て行かれる時には、かならずさとり様にあいさつすること。それから、また近いうちに必ず帰ってくること。……約束してくださいますか?」
一呼吸の後、こいし様はまた満面の笑みに戻る。
「うん、分かった。約束するよ」
その言葉に頷いて、こいし様から手を離す。
それから片手をつないで軽くて小さな手を引く。
本当に軽い。
「ありがとうございます。じゃあ、一緒にさとり様にご挨拶に行きましょうか」
「え、いいのお燐?洗いものは」
「いいんですよ、そんなの。いつでも出来ます。それに、さとり様に早く会って頂きたいですから」
ね?と言ってこいし様を急かす。
後ろで小さくありがとう、と聞こえた気がした。
さとり様はこいし様を見て、何も言わずにただぎゅっと抱きしめた。
こいし様の背に顔を埋めていて顔はよく見えなかったけれど、しばらく経って発した言葉は鼻声だった。
「おかえり……こいし」
「ただいま、お姉ちゃん」
その日はご馳走だった。
お空に音速ジェットで買いに行かせた大きな魚をあたいが捌いた。
こいし様の好きなハンバーグも作った。久しぶりにワインの瓶を開けた。
さとり様とあたいはすぐダウンして、こいし様とお空が瓶を空にしたみたいだ。
こいし様がそんなに呑めるなんて知らなかった。
それからさとり様の大きなベッドで皆でぐっすり朝まで眠った。
ベッドにみんな入れるように、あたいとお空はそれぞれ動物の姿に戻って、それはなんだか昔みたいだった。
遥かな昔。
まだあたいもお空も人型になれなかった頃。
目が覚めてもちゃんとこいし様はそこにいて、昨日のお酒が響いてるあたいを膝の上に載せていた。
うつらうつらと舟を漕いでいたこいし様は、あたいの目が覚めたのに気付いてぱっと笑顔になった。
「おはよー、お燐」
猫の姿のあたいはニャーと鳴いてこいし様の小さなお腹にすりすりして、ぽんっと音を立てて人間の姿に戻った。
「おはようございます、こいし様」
「えへへ。みんなもう起きてるよ?」
「そうですね。寝坊しちゃいました。さとり様は?」
「んー、お姉ちゃんは朝ご飯作ってる。食べに行こっか」
「はい、そうしましょう」
はやくはやく、とあたいの手を引いて急かすこいし様と連れだって厨房へと急ぐ。
さとり様よりも更に軽くて小さな背中がなんだか少し頼もしく見えるのはなぜなんだろう。
見ていない間に随分逞しくなっている。
厨房ではさとり様があたいの代わりに料理をしていた。
「さとり様、すみません寝坊しちゃって。後はあたいがやりますからお座りになってください」
「ありがとう、お燐。でも今日は私がやるわ。せっかくこいしがいるんだもの」
お姉ちゃんとしていい格好がしたいの、と言ってさとり様は微笑んだ。
あたいもこれ以上食い下がるのは野暮だと思って、お言葉に甘えることにした。
最近は料理はずっとあたいがやっていて、さとり様の手料理は久しぶりだ。
テーブルにはお空がもう座っていて、あたいとこいし様も椅子にかける。
「おはよう、お燐」
「おはよう。なんだか久しぶりに寝過ごしちゃったよ」
「よく寝てたよねー」
「寝てましたねー」
こいし様とお空が顔を見合わせてにへらーと笑う。
なんか悔しい。
そのうち厨房の方からいい匂いが漂ってきて、せめてお皿くらいは運ぼうと3人で厨房に向かう。
フライパンの中身をお皿に盛り付けてるさとり様に、こいし様は後ろから突撃して抱き付いて、結局手伝ってるのか邪魔してるのか分からない感じだ。
でもさとり様は「あらあら」なんて言って嬉しそうに頬を染めてて、それを見ちゃうとなんだかあたいは何も言えなくなっちゃって、さとり様に一緒に抱き付きたいのを我慢してたら横からお空が飛び付いてきた。
あたいもさとり様も照れて真っ赤になりながらなんとかお皿を運んで皆で手を合わせる。
トーストもベーコンもスクランブルエッグもおいしく焼きあがっていて、皆あっという間に食べ終わってしまった。
さとり様の料理は上手だ。
それからコーヒーを淹れて、皆で飲んだ。
あたいはブラック、さとり様はミルク、お空とこいし様は砂糖を2つだ。
これが本来の姿なのだ、と思う。
あたいたち4人は家族で、こうやって毎朝過ごすべきなのだ、と。
こいし様だって今日の朝を本当に楽しんで過ごしている様に見えるし、あたい達3人は言うまでも無い。
とても優しいけれど、いつもどこかに僅かな陰りを含んだ微笑みを浮かべるさとり様が、こんなに晴れやかな表情をしているのは久しぶりだ。
あたいだって嬉しい。
さとり様が嬉しそうなのが何よりも嬉しい。
それでも。
それでもまた、こいし様は出て行ってしまうだろう。
そう遠くない未来に。
明日か明後日か明々後日か。
こいし様だってさとり様を大事に想っている。
長くこの屋敷に仕えているあたいにはそれが分かる。
それでも、やっぱり今のこいし様は地上で眠り目を覚ましたいのだ。
ずっと4人で過ごしていた頃のこいし様の心にはなかった何かが、今はこいし様を地上に追い立てるのだ。
何がこいし様をそうさせるのか。
それを訊かなければならない。
さとり様はこいし様に嫌われているのではないか、とそんな事はないと分かっていながらも密かに恐れている。
それでこいし様に理由を訊く事が出来ないでいる。
お空にはその種のシリアスな詰問は向いていないだろう。
それはあたいにしか出来ない事であるように思えた。
3つ目の目をまだ開いていた頃のこいし様とさとり様の間には、誰が介入する余地もない完璧なコミュニケーションが築かれていた。
だけど、こいし様が目を閉じてからはそれが失われてしまった。
さとり様は自分と袂を分かったこいし様に困惑していたし、その真意ももう分からなくなった。
あまりに完璧なコミュニケーションを持っていた2人にとっては、言葉の力はあまりに弱々しかった。
そうこうしているうちにこいし様に彷徨癖が出始め、お互いがお互いを愛しながらも、愛の持って行き場を見失って不器用にすれ違っている現在の状況が出来上がってしまった。
食事の後、部屋に戻ったあたいはベッドに腰掛けてずっとそんなことを考えていた。
「……お燐?」
「うわあ!」
「……そんなびっくりしなくてもいいじゃん」
「なんだ、お空か……」
「"なんだ"って何よ」
頬を膨らませてお空が隣に腰掛けた。
「さとり様とこいし様のことでしょ?悩んでるのは」
「え、分かるの?」
「当たり前じゃない。何年一緒に居ると思ってるのよ」
私も同じこと考えてたしね、とお空は続ける。
「お二人とも素直になれないんだよ、多分ね。そんなつもりもないのに、無意識に意地張っちゃってる」
「うん。……でも、お空がそんなこと考えてるとは思わなかった」
「なんで?」
「うーん……あんたはもう少しお気楽な奴だと思ってた」
「……何よそれ。失礼だなー」
はあ、と溜め息をついてお空が俯く。
「私だっていろいろ考えてるよ」
「ごめん」
「……だからさ、一人で悩むことなんかないんだよ?」
「うん……ありがとう」
沈黙が流れる。
けどそれは気まずいものではなくて、親しい間だからこその暖かな沈黙だった。
「こいし様、今回もまた出て行っちゃうよね?」
「うん、まあそうだろうね」
「こいし様にね、訊こうと思って」
「何を?」
「なんで出て行っちゃうのか」
うーん、とお空が唸り、天井を見て足をふらふらさせせる。
「それは……私達がやってもいいことなのかなあ」
「差し出がましいのは分かってるつもり。ペットが手を出す領域じゃないのかもしれない。それでも」
「気持ちは分かるよ。今回を逃したらまたこいし様はいつ帰ってくるか分からない。そしたら、さとり様はまた長い間辛い思いをすることになるよね。私だってそんなさとり様、見たくないもん」
「うん」
お空はちゃんと分かっている。
一見お間抜けに見えていながらも、ちゃんと現実と現状と問題点を直視してそれでもさとり様を気遣って、尚且つ自分が振る舞うべき姿を見極めている。
知らなかった。
己の不明を恥じると共に、あたいは友達として、家族として、お空を誇らしく思った。
「さとり様も、こいし様と喧嘩になりでもしたらどうしよう、もう二度と帰ってこないんじゃないか、って心配してて、こいし様と腹を割って話をする踏ん切りがついてらっしゃらない。このままその段階になるまで待つとしたら、何年先のことになるか分からない」
だから、あたいが代わりに訊いてみる、と言った。
「……うん、分かった」
「もしものことがあったら後はよろしく頼むよ」
「もしものことって?」
「うーん、さとり様にお暇を出されたりとか」
「あはは、そんなのあるわけないじゃん」
そんなに儚い関係じゃないでしょ、と笑うお空に「そうだね」と頷いてそれから2人で笑った。
人の心は複雑で計り知れない。
さとり様ならともかく、あたいのように観察して想像して考えているだけの者には、それはちょっと手に余る。
見せかけと真実は異なるもので、人にしてもそれはまた然りだ。
長く付き合っているお空の事でさえ、ちゃんと把握できていないことだって今分かった。
あんなに事態を的確に見抜いているとは。
もっとも、あたいやお空が的確だ、と思っていることが真実だとはこれまた限らないのだけれど。
とりあえず、今はこいし様の所へと向かうべきだ。
こいし様は久しぶりに主を迎えた自室で過ごしていた。
寛ぐでもなくなんだか落ち着かない感じだ。
去年のセーターを出したものの、なんだか馴染まない、とかそういう感じ。
「こいし様、少し良いですか?」
「ん、お燐?いいよー」
にっこり笑っておいでおいでのポーズをするこいし様。
これからの会話を思うと少し緊張するが、こいし様が座っている傍に腰を下ろす。
「こいし様……明日か明後日か、分かりませんけど……また地上に戻ってしまわれるのでしょう?」
深刻な話と分かり、やや陰った表情をするこいし様。
たまに戻ってきて、姉のペットから詰問ばかりされては、やはりいい気はしないだろう。
でもこれくらいで怯んでいては話にならない。
「うん、そうだと思うよ。私にもよく分かんないんだけどね」
「分からない、とはどういうことですか?」
うーん、とこいし様が唸る。
天井を仰ぎ見ている。
そこに答えが書いてあるのだろうか。
「私が地霊殿に住まないのって、そんなにみんな気にしてるの?」
「え……いや、もちろんです。だからお聞きしてるんですよ?」
そっか、とこいし様は言う。
びっくりしたような表情だ。
「そうなんだ。自分でもよく分からなかったんだ、そういうこと」
「さとり様は……こいし様がいなくなってからずっと辛い思いをなさってるんですよ。ご存じなかったんですか?」
「……ほんとに?」
「"ほんとに?"って当たり前じゃないですか。たった一人の肉親なんですよ!」
「……」
「あたいたちだって……そんなさとり様を見ているのは辛いし、何よりこいし様がいないのは嫌です」
「……」
なんだ。
この2人はそんな事も話し合っていなかったのか。
さとり様はこの数年というもの、主の不在を確かめるように何度もこいし様の部屋に来て呆然と佇み。
心配するあたいたちに向けて繕い切れて居ないボロボロの微笑みで「なんでもないわ」と言い。
こいし様は天真爛漫で陶然として、そのくせ地霊殿に居る時は表情の隅に微かな怯えを浮かべて。
それでもお互いがお互いを愛している。
この世にたった一人だけの肉親に向けての、暖かで穏やかな愛。
それなのに、さとり様は「あなたがいなくて寂しい」とすら言えなかったのだ。
あまりに痛々しい。
あまりにも。
目の隅に困惑を浮かべ、こいし様が訥々と話し出す。
「私、覚妖怪でしょ?でも、瞳を閉じてからは、当然だけど人の心が読めなくなって。そしたら今まで住んでた地霊殿までよく分かんなくなっちゃった」
「……」
「お姉ちゃんのことは大好きだよ?もちろんお燐だってお空だって大好き。でもなんか、心が読めなくなると、一緒に住むのが怖くなっちゃって。隅々まで分かっていたはずのものがある一瞬で得体の知れないものに変わって。それで今までみんなと一緒に住んでた時の自分と、今の自分とも違って、何が何だか分かんないな、ってふらふらしてるうちにいつの間にか地上をうろついてた」
「……」
「いろいろな奴と会ったよ。フランとか魔理沙とか霊夢とか。宴会にも参加した。最初はみんな、覚妖怪だ、って警戒するんだよ。でも、私が人の心を読めないと分かるとすぐ仲間に入れてくれる。それが、嬉しいんだけど寂しくて。私じゃなくてお姉ちゃんだったら追い出されるんだ、って思うと」
「……こいし様」
「なんかお姉ちゃんに顔向けできなくてさ。私が自分勝手で目を閉じて勝手にふらふらして、そしたら地上のみんなが仲良くしてくれて。おかしいよね、そんなの不公平だよ。そしたら尚更、地霊殿から足が遠のいちゃって。なんか私なんかがいちゃいけないような気がして。お姉ちゃんやお燐やお空が頑張って働いているのに、私だけが……え、お燐、ちょっと、泣いてるの?」
いつの間にか視界が歪んで、こいし様の姿がぼけていた。
こいし様が駆け寄って来て、あたいを抱きとめる。
「な、なんで?ごめん、ごめんねお燐。大丈夫?」
こいし様の華奢な腕が肩に回される。
暖かい。
なんだかもう分からなくなっていたけれど、こいし様の胸に顔を埋めてえづく。
本当にもう分からない。
世の中分からないことが多すぎる。
考えても考えてもあたいの頭では追いつかないみたい。
「こいしさま、えぐっ、そ、そんなの良いに決まってるじゃ、うっ、ないですか、家族なのに、ううぅ、あたいたちみんな、えぐっ、家族なのに」
まともに喋れなくて恥ずかしい思いをする。
嗚咽が止まらない。
涙がこいし様の服の胸の辺りを濡らす。
ぐしゃぐしゃになった顔で、それでも言いたいことは伝える。
一番言いたいこと。
言わなくちゃいけないこと。
「ごめんねお燐。大丈夫だから。私が悪かったよ。心配かけてごめん」
こいし様の手が、あやす様にあたいの背中を擦る。
「あのね、お燐。夕焼けって見たことある?地上では、太陽っていうお空の親分みたいなのが空を動いてて、夜になる時に山の向こうに沈むんだよ。そしたら空が真っ赤に染まるんだ」
すごく綺麗なんだ、とこいし様があたいの背中の上で言う。
「お燐にもお空にもお姉ちゃんにも見せてあげたい。今度皆で見に行こう?」
うんうんと頷きながらも、途絶えることなく流れる涙のせいで、もうあたいは言葉を発することが出来なかった。
その日の夜、こいし様は3人の前で「また一緒に暮らしたい」と宣言した。
「お姉ちゃん……いいかな?」と言うか言わないかのうちにさとり様はこいし様に抱きついて泣き出してしまって、つられてこいし様もあたいもお空も泣いちゃってぐちゃぐちゃのぐだぐだだった。
こんなのばっかりだ、最近。
結局その日も大きな魚とハンバーグとワインで、あたいとさとり様はすぐに酔っ払ってお空とこいし様が瓶を空にして、それからやっぱり4人で1つのベッドに入って朝までぐっすり眠った。
目が覚めた時には昨日と違ってさとり様があたいを膝の上に乗せて船を漕いでいた。
ニャーと鳴くとさとり様は慌てて目を覚ました。
可愛い。
さとり様があたいを覗き込む。
「おはよう、お燐」
「にゃあ」
「こいしですか?お空と一緒に朝ごはんを作ってくれています」
……じゃあまた寝坊か。
ダメダメだな、あたい。
「そんなことはありませんよ。……こいしから全部聞きました。あなたのお陰です。本当にありがとう」
優しくあたいを抱きあげて、さとり様が頬にキスをした。
照れた。
「……本当は私が言うべきだったんですよね。あの子が帰ってきてすぐに」
余計なことをしてしまいましたか?
「まさか。私は臆病で、あの子とこれ以上距離ができてしまうのが怖くて、10年経っても話を切り出すことが出来なかったでしょう。そうすれば、そこからは時間が経てば経つほど話はし難くなっていたはず」
あなたには本当に感謝しています、とさとり様が言った。
久しぶりに、随分と久しぶりに見るさとり様の心からの笑顔。
それを独り占めできただけで、あたいは何よりも幸せだった。
「ふふ。さあ、こいしとお空が待っています。朝ごはんを食べに行きましょう」
「にゃあ!」
こいし様はまた地霊殿に住むようになった。
地上に出かけることも多いけれど、2、3日すれば必ず帰ってくる。
さとり様はそれが何よりも嬉しいみたいだった。
あたいも嬉しい。
変わるべきものと変わるべきでないものがあって、家はいつまでも家であり続けるべきだし、家族はいつまでも家族であり続けるべきだ。
誰かが以前の自分とは少し違った自分になったとしても、時に心がすれ違うことがあったとしても、あたいたちはそれを乗り越えられるだろう、多分。
あたいは見たもの聞いたもの経験したものすべてについて考えて考えて考え続けて100年後には今よりずっと賢くて立派な妖怪になるつもりだけれど、地霊殿は100年経っても変わらないだろうし、変わらせもしない。
さとり様とこいし様とお空とあたいは世界が終わるまでこの地霊殿で仲良く暮らすのだ。
その為ならあたいはどんな努力だって惜しまない。
なぜって賢い妖怪は一度手にした幸せをやすやすと手放したりはしないものなのだ、ニャー。
人間の場合は鬱だ鬱だと口で言っていても、どうせ本当に死んでしまうのはごく一部の者だけで、他のほとんどは周りがかまってくれないと分かるや何事もなかったように立ち直り、3年後には部屋のどこかにある黒歴史ノートを人に見られやしないかと汲々としているのがほとんどらしい。
人間の場合はそんな笑い話で済むけれど、あたいのような妖怪の場合は少し違う。
妖怪にとって多少の体の傷は致命傷にはならなくて、むしろ本当に危ないのは精神の傷。
退屈さのあまりに心を病めば、それはすなわち自身の存在の存亡に関わる。
生きることに楽しみが見出せなくなったら、それは一番悲惨なことだ。
人間ってのは10年後、20年後の自分が想像できるだろうか。
いや、できないだろう。
なぜって人間の体はあまりにも早く変化するからだ。
彼らはすぐに年老いて死んでしまう。
少し突いただけで死んでしまう。
いや、巫女や魔法使いは別として。
それでもあいつらだって膨大な時間の流れには勝てないだろう。
強い人間と事を構えるならば、弾幕は優れた武器とは言えない。
妖怪は時間を使って戦うべきだ。
要するに、兵糧攻めだ。
どんなに強い奴でも、人間なら放っておけばすぐに死ぬ。
ただあの魔法使いはそう簡単には行かないかもしれない。
そのうち妖怪になってしまうかも。
うーん、でもよく考えたら巫女だって同じことだ。
代替わりをしたからと言って巫女は巫女で真面目に宣戦布告などしようものなら、何代後の巫女でも、文字通り地の底まで息の根を止めにやってくるだろう。
だからまあ、奴らとは仲良くするのが一番だ。
少し話がそれた。
そう、10年後、20年後のことだ。
人間は未来の自分を明確に想像できない。
だが妖怪はどうだろう。
100年後、200年後でも姿も行動も一緒。
漫然と生きていれば、特に進歩もせず、退化もしない今とおんなじ自分が100年後にいるだけだ。
100年前の自分と100年後の自分に何も違いがない。
それじゃあ、今の自分はなんの為に生きているんだろう。
なんでご飯を食べてお茶を飲んで庭の掃除をするんだろう。
生き続ける意味が見出せなくなる。
これはなかなか、辛い。
考えることは楽しい。
脳を研ぎ澄ませて自分を高める。
終わりがなくて純粋で綺麗。
あたいが無限の退屈を切り崩すために、思考という道具を用いようと考えたのはごくごく自然なことだ。
何を見ても何かを思い出す。
あたいはそれだけじゃなくて、何を見ても何かを考えることにした。
100年前の自分の為に。
100年後の自分の為に。
これがあたいが考えることをやめない、一つめの理由。
地霊殿のお屋敷には今さとり様とお空とあたいが住んでいて、それから他にもさとり様が飼っていらっしゃるペットがたくさんいる。
さとり様とお空とあたいはいつも一緒に同じテーブルでご飯を食べる。
あたいたちはペットだから、と最初は遠慮したけれど、さとり様は譲らなかった。
3人で食べるご飯は美味しい。
3つの皿にカレーをよそってテーブルに持っていく。テーブルにはあたいが仕えているさとり様と、昔馴染みのお空が座っている。こら、お空。スプーン持って踊るんじゃない。
「今日はカレーですよ、さとり様」
「ええ、ありがとう」
「早くちょうだいー」
ばたつくお空にはいはいと頷いて、テーブルに3人分のカレーを置く。
3人で手を合わせてお昼ご飯を食べる。
自分で言うのもなんだけど美味しい。
料理に凝るのも、楽しく生きるコツだ。
美味しいものを食べていれば、横たわる永い時間を生きることに嫌気がさすことはない。
例えばこのカレーには隠し味でヨーグルトとはちみつを入れてある。
まろやかになってコクが増し、辛さを抑えられる。
さとり様は辛いのが苦手なのだ。
―――あ、睨まれた。
「睨んでなんかいません」
「そうですか」
くすくすと笑って目の前のカレーに取り掛かる。
次は卵でも入れてみようかな。お空に頼んで半熟卵を作ってもらおう。
「それは良い考えね」
さとり様は覚妖怪で人の心を読むことができる。
一対の目の他に胸の前にある第三の目は相対する者の心を暴きだす。
その能力のせいでさとり様は妖怪たちに恐れられ、地下に隠れ住むようになった。
でも、あたいたちペット、特に喋れない者たちにとってはさとり様の能力はとてもありがたくて、動物たちはさとり様にすぐに懐いた。
もちろんあたいやお空も例外じゃなかった。
あたいたちは身を寄せ合って長い間もふもふのふかふかで暮らしていた。
お空が異変を起こして巫女や魔法使いが地下にやってきてからというもの、もはや地霊殿は忌み嫌われた妖怪が棲む伏魔殿などではなく、地下の観光スポットの一つのように思われているみたいだ。
まあ、おかげで来客が多くなって退屈しないし、あたいとしては大歓迎だ。
こうして振り返ってみると、お空が異変を起こしたのは、地霊殿にとっては良い事ずくめだったみたいだ。
お空の核エネルギーは、文字通り地下と地上の間に詰まった塞栓を吹き飛ばす起爆剤になったみたいだ。
あの時は本当に心配したし、悔しいからお空には絶対に言わないけど。
漠然と思いを巡らせているあたいを、さとり様はなんだか楽しそうに見つめている。
あたいが今考えていたことも、もちろんさとり様には筒抜けだ。
それはなんだか嬉しいやら恥ずかしいやら、照れ臭くなってそっぽを向いた。
お空は分かってるんだか分かってないんだか、首を傾げてにっこりと笑った。
くそう、可愛い。
あたいはさとり様に仕えていて、さとり様はあたいの心を読むことができる。
楽しいことも、悲しいことも、苦しいことも、嬉しいことも。
さとり様は誰よりもあたいのことを分かってくれて、あたいが毎日毎日何かを見ては何かを考え、100年後のあたいが今よりずっと賢くなれるように慎ましい努力していることももちろん知っている。
さとり様はあたいが考えたことをじっくりと読んで、さとり様の意見も聞かせてくれる。
そこには完全なコミュニケーションが成り立っていて、あたいはさとり様に仕えていて良かったといつも思う。
そう、これがあたいが考えることをやめない、もう一つの理由。
でももしかしたら、さとり様があたいの心を読めて、あたいがさとり様の心を読めないのは完全なコミュニケーションとは言えないって思うかもしれない。
今、さとり様はあたいの考えを読みとりながら、ぼんやりとカレーライスを口に運んでいる。
その手先はなんだか危なっかしい。
……あ、ほら。
「さとり様、カレーこぼしましたよ」
「えっ」
急に我に返って、慌てて布巾に手を伸ばすさとり様。
「ああ、いいですよ。あたいがやります」
布巾をさっと取ってテーブルについたカレーを拭う。
さとり様は恥ずかしいのか真っ赤になっている。
可愛い。
「ちょっと、お燐」
「口にもついてますよ」
あたいのナフキンでさとり様の口を拭う。
さとり様は今にも蒸気を噴き出さんばかりに真っ赤だ。
ああ、もう、可愛い。
「……あ、あとで……覚えてなさい」
どうにかそれだけ言ってあたいを睨みつけ、猛然とカレーをかきこむさとり様。
お空は相変わらずニコニコと成り行きを見守っている。
ほら、あたいがさとり様の心を読めなくたって、コミュニケーションはどこまでも完全だ。
ご飯を食べ終わって、蒸気機関車になったさとり様を宥めた後、みんなの食器を洗っているときにそれは起こった。
「お燐~!」
ぽふっと軽い衝撃。
背中への奇襲よりも、あたいはその声に驚いていた。
思わず首だけで振り向く。
「こ……こいし様?」
「お燐ー!久しぶりー!」
銀の髪をした小柄な女の子が、あたいの背に顔を埋めてじたばたしている。
地上を放浪していたこいし様が戻ってきたのだ。
実に半年ぶり。
あたいはどうにか心を落ち着ける。
さとり様に知れる前に、まずは状況を訊かなくちゃならない。
あたいは背中にしがみついてるこいし様をとりあえず体から離して、体ごと振り返って抱きすくめる。
ふんふん……良かった、お風呂にはちゃんと入ってらっしゃるみたい。
「どこに泊まってらっしゃったんですか?」
「えーとねー、フランのお屋敷とかー、神社とか。あ、あと魔理沙の家にも泊まったよー」
「ちゃんと家の人の許可を得てですよね?」
「うん!地上にいっぱい友達ができたんだよー」
半年前、こいし様が帰ってきた時は服もぼろぼろ、髪はぼさぼさで泥だらけになっていた。
碌に食べる物も食べていない様子で、体重は不自然なほど軽くなっていた。
さとり様は卒倒せんばかりで、とにかくあたいがこいし様をお風呂にお入れして服を繕えた。
まあ、それから考えたら随分な進歩だ。
もう不法侵入もなさってないみたいだし。
でもまだ訊かなくちゃいけないことがある。
「こいし様……さとり様にはもう会いましたか?」
「ん、おねーちゃん?まだだよー」
なんか照れ臭いもん、と言ってにへらーと笑うこいし様。
いやいや、そういう問題じゃなくて。
能力を恐れられて地底に籠っても、能力を捨てることなく生きたさとり様と違い、こいし様は第3の目を潰してしまった。
こいし様は人の心に代わって無意識を操るようになり、それ以来ふらふらとあてどなく放浪を繰り返している。
半年前、久しぶりにこいし様は屋敷に泊まって、次の朝にはベッドはもぬけの殻だった。
書き置きの一つも残して行かなかった。
さとり様は何日も塞ぎ込んで、それでもあたいたちペットには弱気な姿を見せまいと気丈に振る舞っていて、それが尚更痛々しかった。
あたいはじっとこいし様の目を覗き込んで、言葉を探す。
「こいし様……お屋敷にまた住んで下さるんですか?それともまた、何日かしたら出て行ってしまわれるんですか?」
あどけない笑顔の中に、陶然とした瞳が2つ。純粋な、純粋すぎる光。
時としてそれは、意図せず人を傷つけてしまう。
底の知れない妖しい光。
それでもあたいの真剣さに気付いてくれたのか、少しだけ真面目な表情になる。
「うーん、分かんない。ずっと住むことは、ないと思う」
「そう、ですか……。……分かりました。あたいが言った通り、ちゃんとお風呂に入ってらっしゃるようですし、ご飯も食べてらっしゃるみたいですし。口うるさいことはいいやしませんよ」
でも、と言葉を切る。
もう一回正面からしっかりと2つの瞳を見つめる。
「出て行かれる時には、かならずさとり様にあいさつすること。それから、また近いうちに必ず帰ってくること。……約束してくださいますか?」
一呼吸の後、こいし様はまた満面の笑みに戻る。
「うん、分かった。約束するよ」
その言葉に頷いて、こいし様から手を離す。
それから片手をつないで軽くて小さな手を引く。
本当に軽い。
「ありがとうございます。じゃあ、一緒にさとり様にご挨拶に行きましょうか」
「え、いいのお燐?洗いものは」
「いいんですよ、そんなの。いつでも出来ます。それに、さとり様に早く会って頂きたいですから」
ね?と言ってこいし様を急かす。
後ろで小さくありがとう、と聞こえた気がした。
さとり様はこいし様を見て、何も言わずにただぎゅっと抱きしめた。
こいし様の背に顔を埋めていて顔はよく見えなかったけれど、しばらく経って発した言葉は鼻声だった。
「おかえり……こいし」
「ただいま、お姉ちゃん」
その日はご馳走だった。
お空に音速ジェットで買いに行かせた大きな魚をあたいが捌いた。
こいし様の好きなハンバーグも作った。久しぶりにワインの瓶を開けた。
さとり様とあたいはすぐダウンして、こいし様とお空が瓶を空にしたみたいだ。
こいし様がそんなに呑めるなんて知らなかった。
それからさとり様の大きなベッドで皆でぐっすり朝まで眠った。
ベッドにみんな入れるように、あたいとお空はそれぞれ動物の姿に戻って、それはなんだか昔みたいだった。
遥かな昔。
まだあたいもお空も人型になれなかった頃。
目が覚めてもちゃんとこいし様はそこにいて、昨日のお酒が響いてるあたいを膝の上に載せていた。
うつらうつらと舟を漕いでいたこいし様は、あたいの目が覚めたのに気付いてぱっと笑顔になった。
「おはよー、お燐」
猫の姿のあたいはニャーと鳴いてこいし様の小さなお腹にすりすりして、ぽんっと音を立てて人間の姿に戻った。
「おはようございます、こいし様」
「えへへ。みんなもう起きてるよ?」
「そうですね。寝坊しちゃいました。さとり様は?」
「んー、お姉ちゃんは朝ご飯作ってる。食べに行こっか」
「はい、そうしましょう」
はやくはやく、とあたいの手を引いて急かすこいし様と連れだって厨房へと急ぐ。
さとり様よりも更に軽くて小さな背中がなんだか少し頼もしく見えるのはなぜなんだろう。
見ていない間に随分逞しくなっている。
厨房ではさとり様があたいの代わりに料理をしていた。
「さとり様、すみません寝坊しちゃって。後はあたいがやりますからお座りになってください」
「ありがとう、お燐。でも今日は私がやるわ。せっかくこいしがいるんだもの」
お姉ちゃんとしていい格好がしたいの、と言ってさとり様は微笑んだ。
あたいもこれ以上食い下がるのは野暮だと思って、お言葉に甘えることにした。
最近は料理はずっとあたいがやっていて、さとり様の手料理は久しぶりだ。
テーブルにはお空がもう座っていて、あたいとこいし様も椅子にかける。
「おはよう、お燐」
「おはよう。なんだか久しぶりに寝過ごしちゃったよ」
「よく寝てたよねー」
「寝てましたねー」
こいし様とお空が顔を見合わせてにへらーと笑う。
なんか悔しい。
そのうち厨房の方からいい匂いが漂ってきて、せめてお皿くらいは運ぼうと3人で厨房に向かう。
フライパンの中身をお皿に盛り付けてるさとり様に、こいし様は後ろから突撃して抱き付いて、結局手伝ってるのか邪魔してるのか分からない感じだ。
でもさとり様は「あらあら」なんて言って嬉しそうに頬を染めてて、それを見ちゃうとなんだかあたいは何も言えなくなっちゃって、さとり様に一緒に抱き付きたいのを我慢してたら横からお空が飛び付いてきた。
あたいもさとり様も照れて真っ赤になりながらなんとかお皿を運んで皆で手を合わせる。
トーストもベーコンもスクランブルエッグもおいしく焼きあがっていて、皆あっという間に食べ終わってしまった。
さとり様の料理は上手だ。
それからコーヒーを淹れて、皆で飲んだ。
あたいはブラック、さとり様はミルク、お空とこいし様は砂糖を2つだ。
これが本来の姿なのだ、と思う。
あたいたち4人は家族で、こうやって毎朝過ごすべきなのだ、と。
こいし様だって今日の朝を本当に楽しんで過ごしている様に見えるし、あたい達3人は言うまでも無い。
とても優しいけれど、いつもどこかに僅かな陰りを含んだ微笑みを浮かべるさとり様が、こんなに晴れやかな表情をしているのは久しぶりだ。
あたいだって嬉しい。
さとり様が嬉しそうなのが何よりも嬉しい。
それでも。
それでもまた、こいし様は出て行ってしまうだろう。
そう遠くない未来に。
明日か明後日か明々後日か。
こいし様だってさとり様を大事に想っている。
長くこの屋敷に仕えているあたいにはそれが分かる。
それでも、やっぱり今のこいし様は地上で眠り目を覚ましたいのだ。
ずっと4人で過ごしていた頃のこいし様の心にはなかった何かが、今はこいし様を地上に追い立てるのだ。
何がこいし様をそうさせるのか。
それを訊かなければならない。
さとり様はこいし様に嫌われているのではないか、とそんな事はないと分かっていながらも密かに恐れている。
それでこいし様に理由を訊く事が出来ないでいる。
お空にはその種のシリアスな詰問は向いていないだろう。
それはあたいにしか出来ない事であるように思えた。
3つ目の目をまだ開いていた頃のこいし様とさとり様の間には、誰が介入する余地もない完璧なコミュニケーションが築かれていた。
だけど、こいし様が目を閉じてからはそれが失われてしまった。
さとり様は自分と袂を分かったこいし様に困惑していたし、その真意ももう分からなくなった。
あまりに完璧なコミュニケーションを持っていた2人にとっては、言葉の力はあまりに弱々しかった。
そうこうしているうちにこいし様に彷徨癖が出始め、お互いがお互いを愛しながらも、愛の持って行き場を見失って不器用にすれ違っている現在の状況が出来上がってしまった。
食事の後、部屋に戻ったあたいはベッドに腰掛けてずっとそんなことを考えていた。
「……お燐?」
「うわあ!」
「……そんなびっくりしなくてもいいじゃん」
「なんだ、お空か……」
「"なんだ"って何よ」
頬を膨らませてお空が隣に腰掛けた。
「さとり様とこいし様のことでしょ?悩んでるのは」
「え、分かるの?」
「当たり前じゃない。何年一緒に居ると思ってるのよ」
私も同じこと考えてたしね、とお空は続ける。
「お二人とも素直になれないんだよ、多分ね。そんなつもりもないのに、無意識に意地張っちゃってる」
「うん。……でも、お空がそんなこと考えてるとは思わなかった」
「なんで?」
「うーん……あんたはもう少しお気楽な奴だと思ってた」
「……何よそれ。失礼だなー」
はあ、と溜め息をついてお空が俯く。
「私だっていろいろ考えてるよ」
「ごめん」
「……だからさ、一人で悩むことなんかないんだよ?」
「うん……ありがとう」
沈黙が流れる。
けどそれは気まずいものではなくて、親しい間だからこその暖かな沈黙だった。
「こいし様、今回もまた出て行っちゃうよね?」
「うん、まあそうだろうね」
「こいし様にね、訊こうと思って」
「何を?」
「なんで出て行っちゃうのか」
うーん、とお空が唸り、天井を見て足をふらふらさせせる。
「それは……私達がやってもいいことなのかなあ」
「差し出がましいのは分かってるつもり。ペットが手を出す領域じゃないのかもしれない。それでも」
「気持ちは分かるよ。今回を逃したらまたこいし様はいつ帰ってくるか分からない。そしたら、さとり様はまた長い間辛い思いをすることになるよね。私だってそんなさとり様、見たくないもん」
「うん」
お空はちゃんと分かっている。
一見お間抜けに見えていながらも、ちゃんと現実と現状と問題点を直視してそれでもさとり様を気遣って、尚且つ自分が振る舞うべき姿を見極めている。
知らなかった。
己の不明を恥じると共に、あたいは友達として、家族として、お空を誇らしく思った。
「さとり様も、こいし様と喧嘩になりでもしたらどうしよう、もう二度と帰ってこないんじゃないか、って心配してて、こいし様と腹を割って話をする踏ん切りがついてらっしゃらない。このままその段階になるまで待つとしたら、何年先のことになるか分からない」
だから、あたいが代わりに訊いてみる、と言った。
「……うん、分かった」
「もしものことがあったら後はよろしく頼むよ」
「もしものことって?」
「うーん、さとり様にお暇を出されたりとか」
「あはは、そんなのあるわけないじゃん」
そんなに儚い関係じゃないでしょ、と笑うお空に「そうだね」と頷いてそれから2人で笑った。
人の心は複雑で計り知れない。
さとり様ならともかく、あたいのように観察して想像して考えているだけの者には、それはちょっと手に余る。
見せかけと真実は異なるもので、人にしてもそれはまた然りだ。
長く付き合っているお空の事でさえ、ちゃんと把握できていないことだって今分かった。
あんなに事態を的確に見抜いているとは。
もっとも、あたいやお空が的確だ、と思っていることが真実だとはこれまた限らないのだけれど。
とりあえず、今はこいし様の所へと向かうべきだ。
こいし様は久しぶりに主を迎えた自室で過ごしていた。
寛ぐでもなくなんだか落ち着かない感じだ。
去年のセーターを出したものの、なんだか馴染まない、とかそういう感じ。
「こいし様、少し良いですか?」
「ん、お燐?いいよー」
にっこり笑っておいでおいでのポーズをするこいし様。
これからの会話を思うと少し緊張するが、こいし様が座っている傍に腰を下ろす。
「こいし様……明日か明後日か、分かりませんけど……また地上に戻ってしまわれるのでしょう?」
深刻な話と分かり、やや陰った表情をするこいし様。
たまに戻ってきて、姉のペットから詰問ばかりされては、やはりいい気はしないだろう。
でもこれくらいで怯んでいては話にならない。
「うん、そうだと思うよ。私にもよく分かんないんだけどね」
「分からない、とはどういうことですか?」
うーん、とこいし様が唸る。
天井を仰ぎ見ている。
そこに答えが書いてあるのだろうか。
「私が地霊殿に住まないのって、そんなにみんな気にしてるの?」
「え……いや、もちろんです。だからお聞きしてるんですよ?」
そっか、とこいし様は言う。
びっくりしたような表情だ。
「そうなんだ。自分でもよく分からなかったんだ、そういうこと」
「さとり様は……こいし様がいなくなってからずっと辛い思いをなさってるんですよ。ご存じなかったんですか?」
「……ほんとに?」
「"ほんとに?"って当たり前じゃないですか。たった一人の肉親なんですよ!」
「……」
「あたいたちだって……そんなさとり様を見ているのは辛いし、何よりこいし様がいないのは嫌です」
「……」
なんだ。
この2人はそんな事も話し合っていなかったのか。
さとり様はこの数年というもの、主の不在を確かめるように何度もこいし様の部屋に来て呆然と佇み。
心配するあたいたちに向けて繕い切れて居ないボロボロの微笑みで「なんでもないわ」と言い。
こいし様は天真爛漫で陶然として、そのくせ地霊殿に居る時は表情の隅に微かな怯えを浮かべて。
それでもお互いがお互いを愛している。
この世にたった一人だけの肉親に向けての、暖かで穏やかな愛。
それなのに、さとり様は「あなたがいなくて寂しい」とすら言えなかったのだ。
あまりに痛々しい。
あまりにも。
目の隅に困惑を浮かべ、こいし様が訥々と話し出す。
「私、覚妖怪でしょ?でも、瞳を閉じてからは、当然だけど人の心が読めなくなって。そしたら今まで住んでた地霊殿までよく分かんなくなっちゃった」
「……」
「お姉ちゃんのことは大好きだよ?もちろんお燐だってお空だって大好き。でもなんか、心が読めなくなると、一緒に住むのが怖くなっちゃって。隅々まで分かっていたはずのものがある一瞬で得体の知れないものに変わって。それで今までみんなと一緒に住んでた時の自分と、今の自分とも違って、何が何だか分かんないな、ってふらふらしてるうちにいつの間にか地上をうろついてた」
「……」
「いろいろな奴と会ったよ。フランとか魔理沙とか霊夢とか。宴会にも参加した。最初はみんな、覚妖怪だ、って警戒するんだよ。でも、私が人の心を読めないと分かるとすぐ仲間に入れてくれる。それが、嬉しいんだけど寂しくて。私じゃなくてお姉ちゃんだったら追い出されるんだ、って思うと」
「……こいし様」
「なんかお姉ちゃんに顔向けできなくてさ。私が自分勝手で目を閉じて勝手にふらふらして、そしたら地上のみんなが仲良くしてくれて。おかしいよね、そんなの不公平だよ。そしたら尚更、地霊殿から足が遠のいちゃって。なんか私なんかがいちゃいけないような気がして。お姉ちゃんやお燐やお空が頑張って働いているのに、私だけが……え、お燐、ちょっと、泣いてるの?」
いつの間にか視界が歪んで、こいし様の姿がぼけていた。
こいし様が駆け寄って来て、あたいを抱きとめる。
「な、なんで?ごめん、ごめんねお燐。大丈夫?」
こいし様の華奢な腕が肩に回される。
暖かい。
なんだかもう分からなくなっていたけれど、こいし様の胸に顔を埋めてえづく。
本当にもう分からない。
世の中分からないことが多すぎる。
考えても考えてもあたいの頭では追いつかないみたい。
「こいしさま、えぐっ、そ、そんなの良いに決まってるじゃ、うっ、ないですか、家族なのに、ううぅ、あたいたちみんな、えぐっ、家族なのに」
まともに喋れなくて恥ずかしい思いをする。
嗚咽が止まらない。
涙がこいし様の服の胸の辺りを濡らす。
ぐしゃぐしゃになった顔で、それでも言いたいことは伝える。
一番言いたいこと。
言わなくちゃいけないこと。
「ごめんねお燐。大丈夫だから。私が悪かったよ。心配かけてごめん」
こいし様の手が、あやす様にあたいの背中を擦る。
「あのね、お燐。夕焼けって見たことある?地上では、太陽っていうお空の親分みたいなのが空を動いてて、夜になる時に山の向こうに沈むんだよ。そしたら空が真っ赤に染まるんだ」
すごく綺麗なんだ、とこいし様があたいの背中の上で言う。
「お燐にもお空にもお姉ちゃんにも見せてあげたい。今度皆で見に行こう?」
うんうんと頷きながらも、途絶えることなく流れる涙のせいで、もうあたいは言葉を発することが出来なかった。
その日の夜、こいし様は3人の前で「また一緒に暮らしたい」と宣言した。
「お姉ちゃん……いいかな?」と言うか言わないかのうちにさとり様はこいし様に抱きついて泣き出してしまって、つられてこいし様もあたいもお空も泣いちゃってぐちゃぐちゃのぐだぐだだった。
こんなのばっかりだ、最近。
結局その日も大きな魚とハンバーグとワインで、あたいとさとり様はすぐに酔っ払ってお空とこいし様が瓶を空にして、それからやっぱり4人で1つのベッドに入って朝までぐっすり眠った。
目が覚めた時には昨日と違ってさとり様があたいを膝の上に乗せて船を漕いでいた。
ニャーと鳴くとさとり様は慌てて目を覚ました。
可愛い。
さとり様があたいを覗き込む。
「おはよう、お燐」
「にゃあ」
「こいしですか?お空と一緒に朝ごはんを作ってくれています」
……じゃあまた寝坊か。
ダメダメだな、あたい。
「そんなことはありませんよ。……こいしから全部聞きました。あなたのお陰です。本当にありがとう」
優しくあたいを抱きあげて、さとり様が頬にキスをした。
照れた。
「……本当は私が言うべきだったんですよね。あの子が帰ってきてすぐに」
余計なことをしてしまいましたか?
「まさか。私は臆病で、あの子とこれ以上距離ができてしまうのが怖くて、10年経っても話を切り出すことが出来なかったでしょう。そうすれば、そこからは時間が経てば経つほど話はし難くなっていたはず」
あなたには本当に感謝しています、とさとり様が言った。
久しぶりに、随分と久しぶりに見るさとり様の心からの笑顔。
それを独り占めできただけで、あたいは何よりも幸せだった。
「ふふ。さあ、こいしとお空が待っています。朝ごはんを食べに行きましょう」
「にゃあ!」
こいし様はまた地霊殿に住むようになった。
地上に出かけることも多いけれど、2、3日すれば必ず帰ってくる。
さとり様はそれが何よりも嬉しいみたいだった。
あたいも嬉しい。
変わるべきものと変わるべきでないものがあって、家はいつまでも家であり続けるべきだし、家族はいつまでも家族であり続けるべきだ。
誰かが以前の自分とは少し違った自分になったとしても、時に心がすれ違うことがあったとしても、あたいたちはそれを乗り越えられるだろう、多分。
あたいは見たもの聞いたもの経験したものすべてについて考えて考えて考え続けて100年後には今よりずっと賢くて立派な妖怪になるつもりだけれど、地霊殿は100年経っても変わらないだろうし、変わらせもしない。
さとり様とこいし様とお空とあたいは世界が終わるまでこの地霊殿で仲良く暮らすのだ。
その為ならあたいはどんな努力だって惜しまない。
なぜって賢い妖怪は一度手にした幸せをやすやすと手放したりはしないものなのだ、ニャー。
元気を貰いました
久しぶりに、いいお燐を見させていただきました…
(リトレッドのCMみたいに)
家族っていいですね、感動しました
この雰囲気好きです
最後の「ニャー」が何だか照れ隠しのような感じで、尚のことグッドでした
どこから見ても綻びや陰りがない本当に綺麗なお話です。
ここまでだとちょっと遊びが欲しいと思うもんですが、このお話に限ってはこれでこそ良いと思えました。
仲のいい古名地姉妹とかドストライク
すごくよかったです。みんな健気で。
ファミリーを味わえる良いものでしたニャー