闇が膝を抱えて座る。
失われた光を求めて。
※
その夜も、食事を終えた少女が帰ってきた。
この場所の唯一の住人であり主人であり訪問者である。
いまのところは。
最近は外食の傾向が強いので、彼女自身も長く滞在する訳ではない。
そもそも彼女に家という概念はない。
社会的にも文化的にも。
ただ、安心して眠るには現在のところ最も気楽でいられる。
そういう空間。
彼女にとって。
此処は。
汲み置きしてある樽の中からコップで水を取り、喉を潤す。
するりすんなりと喉を通過し、体内に落ちてゆく液体。
これはこれでいいもの。
心地良い。
それから部屋の中央に安置してある大きな椅子にぴょんと飛び乗る。
足は届かず宙を揺れ、背凭れは頭より高い。
まるで彼女を抱きかかえるかのような。
彼に身を預ける。
とても落ち着く。
但し、当人の感情が普通の人間に相似していると仮定するならば。
光源はない。
必要なかった。
彼女はその存在の最初からおそらく最後まで、徹頭徹尾、闇の住人だったから。
感覚の大部分を目に頼る人間が太陽の下での生活を自明の理としているのと同様に、彼女は闇に慣れ親しんで暮らしている。
一方で、彼女が光を完全に必要としないということでもない。
日光は致命的な危機をもたらさないし、月光は闇に幻想をもたらす恵みだ。
ただ、毎日毎晩、昼と夜を選択しながら生きていく数多の存在たちの中に於いて、常に夜を選び続ける。
少女はおおよそそういう物の怪である。
ポケットの中には懐中電灯。
人間と遭遇した時に拾ったものだ。
彼女にはその使い道がわからない。
自然物ではないのは理解できた。
人の道具というのもだいたい判る。
所持していた人は使う暇がなかった様子だったが。
どこかで同じようなものを見た記憶もあるが、過去にも未来にも執着しない彼女にとってははっきりいってどうでもよかった。
見た目が似ているといえば節榑で区切った竹筒かもしれない。
そのくらいの貧弱な想像ぐらいしか浮かばない。
持ってきたのも単なる気まぐれだった。
筒の表面にはスライド式のスイッチが備わっている。
親指でぐりぐりと押してみた。
点灯。
指向性の強い光が部屋を切り裂いた。
びっくりして取り落とす。
カシャと乾いた音を立てる。
斑に赤い部屋の床。
あちこちに散乱するカルシウムの欠片。
そういったものが光線上に浮かぶ。
慌てて椅子の陰に隠れた彼女。
椅子と自分の影が部屋の壁にくっきりと浮かびあがる。
おっかなびっくり電灯に手を伸ばし、現象の原因らしいスイッチを触った。
消灯。
甘い闇が戻る。
少女は大きく溜息をし、スイッチを入れないように注意しながら機械を拾い上げた。
……この機械はどうでもいいけど、この光には見覚えがある。
太陽のように容赦ない威容でもなく、雷のように捉えられない龍でもない。
蝋燭のようには揺らめかないし、幽霊のように頼りなくもない。
多分、おそらく。
最近になって、夜のあちこちで点在しはじめた灯り。
大いなる夜に抵抗するため、妖怪や一部の人間によって飼い慣らされた光だ。
家屋に点っているのを見ると少々がっかりする。
星は夜空で瞬くべきで、地上に輝く必要はない。
闇以外が夜を無駄に侵すのは快い光景ではなかった。
ただ、でも、しかし。
それはそれ、それとして。
手の中の物が便利なものであるというのも理解できた。
名も知らぬこの道具で、自分は闇と光の双方を掌の上に載せ、黒白の両界に干渉できるようになった訳で。
これは存在を持ちたる闇としては相当なアドバンテェジではないだろうか。
などと。
一見自分が見つけたように思ってしまう(しかしその多くは再発見に過ぎない)事象や法則が、自意識に大きく干渉してしまうのは、多分、人間も人外も変わらない。
それを自覚する程に、彼女の精神は育たない。
だから、自分に光が当たらないようにしながら、もう一度点灯してみる。
光は溢れる。
消す。
闇が戻る。
付ける。
消す。
付ける。
消す。
最終的に彼女は結論を出す。
これはきっと、とってもいいものをひろった。
誰にも言うまい。秘密にしよう。私だけの。
――彼女が言葉を以てまともに喋れる相手がいるのかどうかは定かでないが。
彼女は秘めるように決心して、跳ねるように笑った。
その決心は果たしてそれなりに強かったようで、彼女は懐中電灯を持って外に出かけることはなかった。
自分が光をも操れる存在になり得た事実は、まだまだ独占したい優越感だった。
幼稚で純粋な。
彼女は人間ではなかったが、幼子であって、少女だった。
悲しいくらいに。
※
いくつもの夜が地を訪れる。
闇は何度も世界を飲み込み、天に定められた通り、朝日によって追い立てられていく。
※
……その夜も彼女は食事を終えて帰ってきた。
少々急ぎ気味で帰ってきてみた。
逸る心もそのままに、さっそく懐中電灯のスイッチを押してみる。
点灯。
部屋の中をくるくると照らす。
小さな満足。
と。手が黒く汚れているのに気づく。
電灯を椅子において両手を照らすと、黒ではなく赤に汚れている。
黒いジャンパースカートで両手をゴシゴシとこする。
とれない。
何を連想したのか、手鏡を取り出した。
ライトを椅子に置いてしゃがみ込む。
鏡の向こうの自分。口の周りが真っ赤に汚れている。べっとりと濡れている。
匂いは心地よくてもはしたない気がする
スカートをめくり上げて顔をゴシゴシとこする。
若干とれたけど全部は落ちない。
乾いた布では取れそうもなかった。
汲み置きしてある樽の中に両手を浸し、手をこすり合わせる。
小さな手で水を掬い上げて顔を撫でる。
二度、三度。
汚れをこすり落とした後、懐中電灯を持って部屋の奥に向かう。
埃をかぶりすぎて用をなさないような大きな姿見の前に立つ。
青白い肌が浮かびあがる。
袖で濡れた顔を拭う
一安心する。人心地つく。
ついでに櫛を取り出して、もこもこと広がりやすい髪を梳かし始める。
髪についたリボンの形を整える。
結構な丁寧さで。
……実のところ、これは模写である。
彼女のような闇の眷属はきっと概念上の存在である。
どうして少女の呈を模し始めたかはもはや定かではないが、感覚に執着すればそれがそのような存在へと彼女を規定していく。
闇の中で自分を思えば、いつも綺麗な少女でいられる。
でも、ここに今ある光が。
感覚が彼女をより人間らしい行動へと縛ってゆく。
何時か何処かで感じ取った、存在のの仕草を模して。
まるで、もういなくなった誰かのように。
彼女がこの世から消してしまった、誰かのように。
そうして、彼女はより少女へと縛られていく。
やがて少女は眠る。
満腹感と多幸感をタオルケットがわりにして。
夢を見る。
燦々と降り注ぐ陽光の下、深々と広がる針葉樹の森にくっきりと影を落としながら、空を舞う夢。
遠く湖には、魚群の鱗のように波頭が煌めいている。
夢は実際に光がなくても視える精神のヴィジョンだが、彼女のそこには抱えきれない眩しさが満ち溢れていて、世界の全てをもまなこで捉えられた。
そうしたいと思ったし、そう出来た。
闇と光の境界が定められていない幸福。
中央と辺境が渾然となった世界。
少女は飛んでいく
そんな夢を見る。
闇であるその少女が。
掴めない幻想を。
※
※
彼女が食事から戻ってきた。
いつものように椅子に腰掛けて懐中電灯のスイッチを入れる。
ところが、いつものようには輝かない。
かつて黄色く力強かった光は紅く褪せて弱々しい。
光が得意ではない瞳でも、くっきりと見える焼けたフィラメントの形。
彼女はそれを不思議な面持ちで眺めている。
自分の闇が光に及んでいるのではないかと訝る。不安になる。
そんなつもりはまったくないのだけれど。
そもそも、この道具を手に入れるまでは、自分が闇の力を行使しているかしていないかなんて自覚的に考えてみたことすらなかったのだから。
敢えて力を弱くしてみればいいのかと思い努力してみたが変化することもなく。
眺めているうちに光は小さくなり。
小さくなって、やがて消えた。
もちろんではあるが。
懐中電灯の中に直列に格納された二本の単一乾電池に、人間のように寿命があるなどと、彼女が知るよしもない。
だから、スイッチを消す。
もう一度入れてみる。
小さくて赤い光が戻る。
少女の幼い表情に安堵が戻る。
でも、それも僅かな時間のことで。
ゆっくり、ゆっくりと明かりは消えていく。
もはや彼女だけの小さな空間を力強く照らすこともない。
いくら待っても明かりは戻らなかった。
仕方なくスイッチを切った。
闇のなかで椅子から降りると座面に懐中電灯を乗せ、地べたに座って膝を抱えた。
彼女は闇の眷属ではあったが、闇のなかでものを見ることができない。
眼の前には光を発せなくなった光が存在するはずだったがそれを見ることもできない。
闇のなかに一人いるのは彼女にとっての当然だった。
不自由はなかった。
闇は彼女自身で、闇は世界だった。
だけど今は、自分だけの光が戻って欲しいとも思う。
失ってしまうのは惜しいとも思う。
心のなかの小さな電球は今も点ったままだ。
悲しいことに。
それから。
彼女は待つことにした。
今は光が戻るのを待とう。
もしかしたら、充分休んだら前みたいに光るようになるかもしれない。
だから、待とう。
今はお腹も減ってないし。
待ってみよう。
もう一度光が戻るのを心待ちにしながら。
闇が微笑む、
安楽な闇のなかで。
少女を模したまま。
※
失われた光を求めて目を閉じる。
膝を抱えて。
ただひとり、その闇の中。
失われた光を求めて。
※
その夜も、食事を終えた少女が帰ってきた。
この場所の唯一の住人であり主人であり訪問者である。
いまのところは。
最近は外食の傾向が強いので、彼女自身も長く滞在する訳ではない。
そもそも彼女に家という概念はない。
社会的にも文化的にも。
ただ、安心して眠るには現在のところ最も気楽でいられる。
そういう空間。
彼女にとって。
此処は。
汲み置きしてある樽の中からコップで水を取り、喉を潤す。
するりすんなりと喉を通過し、体内に落ちてゆく液体。
これはこれでいいもの。
心地良い。
それから部屋の中央に安置してある大きな椅子にぴょんと飛び乗る。
足は届かず宙を揺れ、背凭れは頭より高い。
まるで彼女を抱きかかえるかのような。
彼に身を預ける。
とても落ち着く。
但し、当人の感情が普通の人間に相似していると仮定するならば。
光源はない。
必要なかった。
彼女はその存在の最初からおそらく最後まで、徹頭徹尾、闇の住人だったから。
感覚の大部分を目に頼る人間が太陽の下での生活を自明の理としているのと同様に、彼女は闇に慣れ親しんで暮らしている。
一方で、彼女が光を完全に必要としないということでもない。
日光は致命的な危機をもたらさないし、月光は闇に幻想をもたらす恵みだ。
ただ、毎日毎晩、昼と夜を選択しながら生きていく数多の存在たちの中に於いて、常に夜を選び続ける。
少女はおおよそそういう物の怪である。
ポケットの中には懐中電灯。
人間と遭遇した時に拾ったものだ。
彼女にはその使い道がわからない。
自然物ではないのは理解できた。
人の道具というのもだいたい判る。
所持していた人は使う暇がなかった様子だったが。
どこかで同じようなものを見た記憶もあるが、過去にも未来にも執着しない彼女にとってははっきりいってどうでもよかった。
見た目が似ているといえば節榑で区切った竹筒かもしれない。
そのくらいの貧弱な想像ぐらいしか浮かばない。
持ってきたのも単なる気まぐれだった。
筒の表面にはスライド式のスイッチが備わっている。
親指でぐりぐりと押してみた。
点灯。
指向性の強い光が部屋を切り裂いた。
びっくりして取り落とす。
カシャと乾いた音を立てる。
斑に赤い部屋の床。
あちこちに散乱するカルシウムの欠片。
そういったものが光線上に浮かぶ。
慌てて椅子の陰に隠れた彼女。
椅子と自分の影が部屋の壁にくっきりと浮かびあがる。
おっかなびっくり電灯に手を伸ばし、現象の原因らしいスイッチを触った。
消灯。
甘い闇が戻る。
少女は大きく溜息をし、スイッチを入れないように注意しながら機械を拾い上げた。
……この機械はどうでもいいけど、この光には見覚えがある。
太陽のように容赦ない威容でもなく、雷のように捉えられない龍でもない。
蝋燭のようには揺らめかないし、幽霊のように頼りなくもない。
多分、おそらく。
最近になって、夜のあちこちで点在しはじめた灯り。
大いなる夜に抵抗するため、妖怪や一部の人間によって飼い慣らされた光だ。
家屋に点っているのを見ると少々がっかりする。
星は夜空で瞬くべきで、地上に輝く必要はない。
闇以外が夜を無駄に侵すのは快い光景ではなかった。
ただ、でも、しかし。
それはそれ、それとして。
手の中の物が便利なものであるというのも理解できた。
名も知らぬこの道具で、自分は闇と光の双方を掌の上に載せ、黒白の両界に干渉できるようになった訳で。
これは存在を持ちたる闇としては相当なアドバンテェジではないだろうか。
などと。
一見自分が見つけたように思ってしまう(しかしその多くは再発見に過ぎない)事象や法則が、自意識に大きく干渉してしまうのは、多分、人間も人外も変わらない。
それを自覚する程に、彼女の精神は育たない。
だから、自分に光が当たらないようにしながら、もう一度点灯してみる。
光は溢れる。
消す。
闇が戻る。
付ける。
消す。
付ける。
消す。
最終的に彼女は結論を出す。
これはきっと、とってもいいものをひろった。
誰にも言うまい。秘密にしよう。私だけの。
――彼女が言葉を以てまともに喋れる相手がいるのかどうかは定かでないが。
彼女は秘めるように決心して、跳ねるように笑った。
その決心は果たしてそれなりに強かったようで、彼女は懐中電灯を持って外に出かけることはなかった。
自分が光をも操れる存在になり得た事実は、まだまだ独占したい優越感だった。
幼稚で純粋な。
彼女は人間ではなかったが、幼子であって、少女だった。
悲しいくらいに。
※
いくつもの夜が地を訪れる。
闇は何度も世界を飲み込み、天に定められた通り、朝日によって追い立てられていく。
※
……その夜も彼女は食事を終えて帰ってきた。
少々急ぎ気味で帰ってきてみた。
逸る心もそのままに、さっそく懐中電灯のスイッチを押してみる。
点灯。
部屋の中をくるくると照らす。
小さな満足。
と。手が黒く汚れているのに気づく。
電灯を椅子において両手を照らすと、黒ではなく赤に汚れている。
黒いジャンパースカートで両手をゴシゴシとこする。
とれない。
何を連想したのか、手鏡を取り出した。
ライトを椅子に置いてしゃがみ込む。
鏡の向こうの自分。口の周りが真っ赤に汚れている。べっとりと濡れている。
匂いは心地よくてもはしたない気がする
スカートをめくり上げて顔をゴシゴシとこする。
若干とれたけど全部は落ちない。
乾いた布では取れそうもなかった。
汲み置きしてある樽の中に両手を浸し、手をこすり合わせる。
小さな手で水を掬い上げて顔を撫でる。
二度、三度。
汚れをこすり落とした後、懐中電灯を持って部屋の奥に向かう。
埃をかぶりすぎて用をなさないような大きな姿見の前に立つ。
青白い肌が浮かびあがる。
袖で濡れた顔を拭う
一安心する。人心地つく。
ついでに櫛を取り出して、もこもこと広がりやすい髪を梳かし始める。
髪についたリボンの形を整える。
結構な丁寧さで。
……実のところ、これは模写である。
彼女のような闇の眷属はきっと概念上の存在である。
どうして少女の呈を模し始めたかはもはや定かではないが、感覚に執着すればそれがそのような存在へと彼女を規定していく。
闇の中で自分を思えば、いつも綺麗な少女でいられる。
でも、ここに今ある光が。
感覚が彼女をより人間らしい行動へと縛ってゆく。
何時か何処かで感じ取った、存在のの仕草を模して。
まるで、もういなくなった誰かのように。
彼女がこの世から消してしまった、誰かのように。
そうして、彼女はより少女へと縛られていく。
やがて少女は眠る。
満腹感と多幸感をタオルケットがわりにして。
夢を見る。
燦々と降り注ぐ陽光の下、深々と広がる針葉樹の森にくっきりと影を落としながら、空を舞う夢。
遠く湖には、魚群の鱗のように波頭が煌めいている。
夢は実際に光がなくても視える精神のヴィジョンだが、彼女のそこには抱えきれない眩しさが満ち溢れていて、世界の全てをもまなこで捉えられた。
そうしたいと思ったし、そう出来た。
闇と光の境界が定められていない幸福。
中央と辺境が渾然となった世界。
少女は飛んでいく
そんな夢を見る。
闇であるその少女が。
掴めない幻想を。
※
※
彼女が食事から戻ってきた。
いつものように椅子に腰掛けて懐中電灯のスイッチを入れる。
ところが、いつものようには輝かない。
かつて黄色く力強かった光は紅く褪せて弱々しい。
光が得意ではない瞳でも、くっきりと見える焼けたフィラメントの形。
彼女はそれを不思議な面持ちで眺めている。
自分の闇が光に及んでいるのではないかと訝る。不安になる。
そんなつもりはまったくないのだけれど。
そもそも、この道具を手に入れるまでは、自分が闇の力を行使しているかしていないかなんて自覚的に考えてみたことすらなかったのだから。
敢えて力を弱くしてみればいいのかと思い努力してみたが変化することもなく。
眺めているうちに光は小さくなり。
小さくなって、やがて消えた。
もちろんではあるが。
懐中電灯の中に直列に格納された二本の単一乾電池に、人間のように寿命があるなどと、彼女が知るよしもない。
だから、スイッチを消す。
もう一度入れてみる。
小さくて赤い光が戻る。
少女の幼い表情に安堵が戻る。
でも、それも僅かな時間のことで。
ゆっくり、ゆっくりと明かりは消えていく。
もはや彼女だけの小さな空間を力強く照らすこともない。
いくら待っても明かりは戻らなかった。
仕方なくスイッチを切った。
闇のなかで椅子から降りると座面に懐中電灯を乗せ、地べたに座って膝を抱えた。
彼女は闇の眷属ではあったが、闇のなかでものを見ることができない。
眼の前には光を発せなくなった光が存在するはずだったがそれを見ることもできない。
闇のなかに一人いるのは彼女にとっての当然だった。
不自由はなかった。
闇は彼女自身で、闇は世界だった。
だけど今は、自分だけの光が戻って欲しいとも思う。
失ってしまうのは惜しいとも思う。
心のなかの小さな電球は今も点ったままだ。
悲しいことに。
それから。
彼女は待つことにした。
今は光が戻るのを待とう。
もしかしたら、充分休んだら前みたいに光るようになるかもしれない。
だから、待とう。
今はお腹も減ってないし。
待ってみよう。
もう一度光が戻るのを心待ちにしながら。
闇が微笑む、
安楽な闇のなかで。
少女を模したまま。
※
失われた光を求めて目を閉じる。
膝を抱えて。
ただひとり、その闇の中。
雰囲気に酔う
無くて当然だった物が手に入って、失って。元に戻っただけが、何故こんなにも切ないのでしょうか。
あえて手中に収めるというのも面白いですね。
紡がれる文章がすごく綺麗
応援してます。
私も暗闇の中で懐中電灯をいじるルーミアを見ることができました