秋の収穫祭。幻想郷で最も食が彩りを魅せる季節。人間も妖怪も幽霊も聖人も今宵は多くが人里の中心にある広場に集まっていた。
―――― 人里の秋祭り一日目・昼
里の中にある寺子屋。今、寺子屋の中には普段通っている子供は一人も居ない。いるのは里に住む若い男衆達だ。
「では、この図面に描かれた通りに店を出してくれ。くれぐれも妖怪と揉めることの無いように頼むぞ」
中心にいるのは、この寺子屋の主である上白沢慧音である。
男衆はまるで子供のように元気な声で返事をすると立ち上がり、慧音に挨拶をしながら寺子屋をあとにしていく。
慧音はその光景を懐かしむ様に見つめている。
今、寺子屋に居た男達は元は慧音の教え子であり、今では里の稼ぎ頭と言える年齢になっていた。
慧音は人里に住んではいるが半獣半人であり、普通の人間よりも寿命は長い。見た目では男達と同じぐらいだが年齢は上である。
成長はしたが、昔と変わらずにじゃれ合うように寺子屋を去って行く元教え子達を見ると思わず哀愁が胸を締め付ける。
一息、ため息を吐くと片付けを始める。今日から3日間は寺子屋は休みだが、何かしていないと思い出に囚われそうになってしまう。
「慧音先生!」
不意に名前を呼ばれ、ひゃっうと情け無い声を上げてしまう。
振り向くと先程出て行った教え子の一人が戻って来たようだ。情け無い姿を見せてしまったため、自分の顔が熱くなっているのが分かる。
しかし、それよりも男のが顔が赤い。緊張して手を強く握り締め過ぎ、腕に血管が浮いている。
「ど、どうした? 忘れ物か何かか?」
男は慧音の問いに首を横に振って答えた。余りにも勢いよく振るので首を痛めないかと場違いな心配してしまう。
「せ、先生、俺と祭りを回って下さいっ!!」
隣の家にも確実に聞こえる声量で男は叫ぶ。
「・・・ふぇ?」
男を教え子と認識していたために思わず条件反射で承諾しようとしたが、寸前の所で思い止まる。目の前の教え子はそういう意味で言った訳では無いことを流石に鈍い自分でも分かる。
先程よりも顔を赤くしている男が泣きそうな目でこちらを見つめてくる。
返事を待っているのだ。何か答えようとするが言葉が出ない。頭の回転が速いがため、色々なシチュエーションを思い浮べては消えてパニックになる。
何も答えられない慧音を見詰める男の熱い視線に耐えられず目を逸らしてしまう。
逸らした視線の先に壁に掛けられたエプロンが映る。
赤と青の二つのエプロン。この日ために慧音が用意した色違いの手作り品である。
―――あぁ、そうだ。「今年から」は駄目だ・・・。
一度、深呼吸をすると今度は逃げずに男の視線を正面から受け止めた。
***
「あややや、今年の祭りは荒れそうですね」
「うるさい」
天狗の新聞記者である射命丸文が収穫祭の取材のために上白沢慧音を訪ねるとちょうど、半べそを掻きながら若い男が寺子屋を出て行く場面だった。
「で、何で断ったんですか?」
「うるさいっ!」
私は寺子屋に上がり込むと、まだ顔の赤い慧音さんに訪ねるが答えてくれない。
「教え子だったからですか?」
「なっ!? どこから聞いていたんだお前は?」
「いや~、あんなに大きな声で誘ってましたからね。遠くに居ても、天狗の私にはばっちりと聞こえてましたよ」
慧音さんは本当に困ったような顔をする。もう、先程までと違い赤面ではなく、教え子を心配する教師の顔に戻っていた。
あの若者には気の毒だが、たとえ祭りに誘えたとしても若者の望む関係には成れなかっただろう。
「記事とかにはしないでくれ。あの子は昔から気が弱い奴なんだ。私が言うのもなんだが、相当な勇気を出して言ったと思うんだ」
慧音さんの声には若干の寂しさが混じっていた。
私は言われるまでもなく、記事にする気は無かった。
妖怪は基本的に人間を下に見ている。だから、下手に記事をすれば人間の男の方は笑い話で済むが、告白された妖怪の方を嘲る妖怪がいるのだ。自分の記事で誰かが辱められるのは、気分の良い物ではない。
それに幻想郷では、人間と妖怪で種族の垣根を超えて交際をする者もいるが、大抵の場合は上述のようなこともあり、上手くは行かない。
「書きませんよ。どうせ、そんなにウケないネタですしね」
そう、答えると慧音さんは胸を撫で下ろした。
妖怪に詳しい彼女は、天狗は嘘を吐くが約束は破らないのを知っている。これで、教え子の尊厳を守れたと思ったのだろう。
「そんなに貴女が気を使う必要は無いですよ。彼、最後まで泣いていませんでした。あなたが必要以上に彼を庇うのは、逆に酷というものです。あなたは生徒としてしか見れないかもしれませんが、扱いぐらいは大人の男性として扱うのが礼儀だと思いますよ」
・・・言ってみて、些か説教臭かったと後悔してしまう。慧音さん本人も面食らった表情でこちらを見ている。
「まぁ、私には記事にもならない関係のない話ですから、どうでもいいんですがね」
慧音さんの視線を天狗の団扇で遮る。脚色ではなく蛇足をしてまうとは記者としても情け無い。
「そうだな。ちゃんと受け止めないとな」
「・・・」
「――――少々、寂しいな」
「仕方ないですよ。人間と付き合うならね」
「・・・うん」
会話が止まる。少しだけ、追憶する。
――――もう、何百年も昔のこと。
時間だけは、どんなに私が速く動けても先に進まないのを痛感させられた日々。
「文は、恋愛経験が豊富なんだな」
「・・・はいぃ!?」
「いや、なんか慣れている様な気がしたのだが違うのか?」
―――脳裏に甦る、懐かしい顔。豊富というほど多くの経験は無い。
ただ、一途だったとは思う。
記憶の中の人物も、今の慧音さんのように興味深そうに私の顔を覗き込む人だった。
「私は、いい女ですからね。そう、思われても仕方ありません」
可笑しそうに慧音さんは笑う。
私も可笑しいと思う。ころころと興味が移りやすい天狗の私が一途なんて、笑い話だ。
「是非、ご教授頂きたいものだな」
「あやややや、私が取材される側ですか?」
「あぁ、私も記者ではないが歴史を纏める者の一人だからな。聞き込みぐらいはするさ」
「そうでしたね。貴女に纏められれば幻想郷の歴史になるんでしたね」
「自分が纏められるのは嫌か?」
どうだろう? 自分のことを書かれるのは慣れていた。あの人もそういうことをする人だった。
「なんというか、浮気をする気分に似てるんじゃないですかね?」
一途な私は浮気などしたことが無いので臆測で語る。
「どういう意味だそれは?」
慧音さんが怪訝な表情をする。
「まぁ、貴女には話してもいいでしょう。似たような境遇になる筈ですし」
「え?」
「これは、貴女に対するちょっとした嫌がらせです」
―――― 人里の秋祭りニ日目・夕方
里の中心にある広場。
普段は、竜神の銅像しか置いていない場所だが、収穫祭のこの時期は露店が建ち並び活気に満ちている。
今は祭りの昼の部が終わり、夜の部に移り変わろうとしている。
昼とは違い、夜になると妖怪も露店を出し始める。普段は、人里に店を開く妖怪はいないがこの時期だけは特別である。しかも、今回は人里から離れた位置に新しくできた妖怪の寺である命蓮寺が加わることもあり、例年以上に妖怪の数が多かった。
その中に混じり、藤原妹紅も自分の店を出すべく、準備に追われていた。
「こんばんは」
食材の仕込みをしていると声を掛けられた。しかし、声の主は見えない。
「この屋台、ちょっと高くないですか?」
「・・・あんたが小いさ過ぎるんだよ」
苦笑混じりで答えると妹紅の居る場所の反対側から、むーと抗議の声が帰ってくる。
「裏に回って来なよ」
パタパタと足音が近付いてくる。すると屋台の横から、浅葱色の着物を着た少女がにゅっと顔を出した。
「お邪魔ではないですか?」
「いいや、もう粗方の準備は終わってるから気にしないで」
自分が休憩するために持ち込んだ椅子を少女の方に渡しながら答える。
少女の名前は稗田阿求。幻想郷で歴史を綴る家系にいる人物だと、慧音からは聞いている。
見た目は幼い少女だが、知識の量と頭の回転の速さは人間の大人どころか、高位の妖怪と遜色の無い人物らしい。
「まだ、出せる物は無いんだ。悪いね」
「あっ、気にしないで下さい」
「今日は祭りを見て回らなくていいのかい?」
「もちろん、見て回ります。ただ、用心棒がまだ来ていないんですよ。だから、先に妹紅さんに挨拶をしに来ました」
見た目相応の無邪気な笑顔をしながら答える阿求。そんな表情を見ているとつい子供扱いしたくなるのだが、それをすると彼女は臍を曲げるので注意が必要だ。
この屋台は慧音が稗田家から借りてくれた物だ。本当なら、こちらから手土産でも持って、挨拶に窺うのが筋なのだろうがそのことを阿求は気にしたり、咎めたりはしない。
「悪いね。借りた上に挨拶にまで来てもらって」
しかし、改めて頭を下げると逆に阿求の方が恐縮したように深々と頭を下げてしまう。
「いえいえ、気にしないで下さい。倉の中で埃を被り続けるより、こうして使って貰った方が有難いですから、それに私では使い道も無いですし」
両手を広げて、自分の身体をアピールする。確かにさっきも客席側に立たれると姿が隠れてしまっていた。あれでは、商売をするには心許ない。
「慧音さんは、まだ、来ていないんですか?」
「あぁ、里の寄り合いに顔をだしてから来るそうだ」
「そうなんですか。やっぱり、問題も多いんですかね?」
「そんなことは無いよ。命蓮寺の連中が妖怪側をきっちりと纏めているから、例年に比べて格段に揉め事が減ったって慧音が感心していたよ」
お陰で慧音は里の人間対しての心配事が減ったので、今年は慧音と私で屋台を出せることになった。
「へぇ、評判いいですよね。命蓮寺の聖白蓮さんが妖怪の代表にしては話の分かる人物だと聞いていますし」
「あれ? 会ったことは無いの?」
「えぇ、このあとにでも挨拶に行くつもりではいるんですけどね。お忙しいようで中々、会えないのです」
阿求は幻想郷の歴史、妖怪や神々についての本を代々に渡って書く一族だ。そのため、妖怪の知り合いも多いので、てっきりもう、会っていると思ったのだが。
「妖怪が跋扈するお寺に行こうとすると流石に家の者に止められてしまうのですよ。だから、今回の様な機会が無いと会えないのです」
「そうか、阿求は身体も弱いしね」
稗田の当主は、特別で100年ごとに転生をくり返す。阿求は九代目であり、先代達の記憶の一部を引き継いでいる特殊な人間である。
そのため、短命であり身体も弱いのだと本人から聞いている。
「えぇ、私も妹紅さんや博麗の巫女のように妖怪と渡り合えるぐらいに強ければ、仕事の進みも捗るのでしょうけれど」
自分の二の腕をいじけた様に突く阿求からは、いまいち戦う姿を想像できない。
「まぁ、無茶はしない方がいいよ」
阿求と話ながら、準備を終える。空には三日月が浮かんでいる。夜の部が始まるまで、もう少しである。
「そういえば待ち人の用心棒って、あの出歯亀天狗?」
「はい。毎年、この収穫祭の時は一緒に回っています。彼女は妖怪の知り合いが多いですからね。色々な方に紹介してもらって助かっています」
前に慧音から聞いた時は半信半疑だったが、本人がそういうのなら間違いないのだろう。
「へぇ、あの天狗がねぇ・・・。人の世話を焼くようには思えないんだけどね?」
「意外と親切にして頂いてますよ」
「付合いも長いの?」
「そうですね。私が転生してから、すぐの付き合いになります。私の代では一番、長い付合いの妖怪になります」
稗田の転生は特別で、転生後の身体は閻魔が用意してくれる。そのため、赤子の頃からの世話という訳ではないらしい。
それから、阿求は去年の祭りの話などを教えてくれた。大抵は天狗と一緒に回った話なので、
「惚気話しみたいね」
とからかうと最初は意味がわからないという顔していたが、次第に顔が赤くなっていった。
「ち、違いますよ! そういう関係じゃあ、ありません!」
「そうなの? 随分と楽しそうに話していたからさ」
もう、少し弄ろうかどうしようか悩んでいると阿求は、寂しそうに付け足す。
「それに彼女が会いに来てくれるのは、祭りの時期ぐらいなんですよ・・・。私に興味があるのではなく、人里の祭りに興味があるだけなんだと思います。―――私と居れば、人里の人間も気が緩むらしくて、助かるって前に言ってました」
否定しながら、落ち込んでいく彼女を見ていると下手にからかってしまったのを後悔してしまう。空気を変えたいのだが、人付き合いに慣れていない私は、視線をぐるぐるさせるだけでどうしようもない。
「慧音さん、遅いですね」
「えっ? あぁそうね。もうすぐ、店を開かないと出遅れてしまう」
結局、阿求が空気を読んで会話を変えてくれた。
どうにも情け無い気持ちで辺りを見渡すと先程は開店していなかった屋台から、客寄せの声がする。一応、店の開店時間は同じにするように決まっているが、咎めるような野暮な奴はいないらしい。
それに併せて、広場には人が集まり始めていた。
「私、そろそろ行きますね」と阿求が席を立つ。
「悪いね。何もお構いできなくて。あとで来てくれれば奢るよ」
仕込んだ物を指差しながら言うと、阿求は苦笑いを浮かべる。
「駄目ですよ。・・・それ、鳥肉でしょ?」
「やっぱり、天狗の前じゃ食べづらいか・・・」
まだ、焼いていない焼き鳥を一本掴むと七輪の上に乗せる。
「・・・味には自信があるんだけどなぁ」
いじけたように呟く私の姿を見て、阿求は笑いを堪えながら、次の機会にお願いしますと答えた。
***
――――人里の秋祭り三日目・夜明け
「もうすぐ、終わりだね」
隣にいる少女に語りかけるが返事は無い。寝てしまっている。
寺子屋の中には今は、妹紅と私しか居ない。窓の外から聞こえていた祭りの喧騒も随分と静かになった。
寝ている彼女の顔を眺めながら、一人で酒を飲む。
穏やかな顔だ。寝息も耳を凝らさなければ聞こえないほど小さい。
――――死んでいるみたい
これで、妹紅の寝顔を見るのは何度目だろう?
「なぁ、妹紅。私達が出会ってから、どれぐらい経つかな?」
もちろん返事は無い。わかっているが少し、ムッとしてしまう。
一差し指で妹紅の頬を突く。今日、二人で売っていたやきとりよりは柔らかい。
妹紅の目蓋が震える。もう少しで、起きそうだ。
「・・・んぅ」
ゆっくりと妹紅の目蓋が上がる。妹紅の濡れた瞳が私の顔を捉える。
「寝るな妹紅」
「ごめん。ちょっと、うとうとしてた」
私が無理矢理起こしたのにも関わらず、怒らない彼女。熟睡していたのに認めない貴女。
「あれ? もう、お酒ないじゃない」
徳利を振りながら、ぶつくさ言う妹紅。
「えぇ、お酒が無くなって暇なのよ」
「う~酷い。だったら、そのまま寝かしてよ」
「ダメだ。妹紅は今晩、私の相手をする約束だろ?」
「そうだけどさ・・・」
欠伸を噛み殺しながら、妹紅は不満げに睨みつけてくる。
「昔の慧音なら、そっと布団を掛けてくれるような甲斐甲斐しさがあったんだけどね・・・?」
あぁ・・・そうだ。まだ、藤原妹紅という少女がどういう存在か分からなかった時の私は、彼女を人里の人間と同じように扱っていた。
でも、妹紅は普通とは違う。妖怪が襲っても自分で対処する力があり、
―――何より、奪われる命が無い。
目の前で、わざとらしく嘆いている少女は、私の知っているどの人間よりも人間離れしていた。
「――――慧音?」
妹紅が私の名前を呼ぶ。
「大丈夫? なんか、ぼうっとしてるけど? 慧音も飲み過ぎた? 水飲む?」
次々に問い掛けられる質問に何一つとして、答えないでいると妹紅は立ち上がると厨に向かった。
さっきまで寝落ちしていたのに足取りはしっかりとしていた。
あぁ、やっぱり、妹紅は強いなぁ。なんだか、顔がにやけてしまう。
「・・・はい、水。一人で飲める?」
妹紅は私の横に座り、コップを握らせて来る。一口、飲むと口の中に残っていた酒が幾分か薄まった気がした。
「――――甘えているんだよ」
「・・・ん?」
頭を妹紅の肩に預ける。妹紅が顔を覗き込もうとしたので、顔を下に向けた。目に畳の上に置かれた妹紅の手が見える。私はまだ、水が残っているコップを妹紅の手に握らせた。
コップを挟んで手を握り合う形になる。
コップの中の水が微かに揺らめく。
お互いに黙ったまま、しばらくの間、そのまま寄り添っていた。
肩に乗せた額から伝わる妹紅の体温が心地いい。
「・・・なぁ、妹紅。祭りは楽しかったかい?」
「・・・ん? あぁ、楽しかったよ。祭りに参加するなんて本当に久しぶりだった」
「・・・そうか」
「うん」
「何年ぶりの祭りだったんだ?」
「えっ? ・・・・・・そうね。多分、幻想郷に住んでからは行っていないから、百年ぐらいじゃないかな? はっきりとは覚えていないわよ」
妹紅の口から覚えていないという言葉に胸がざわめく。
「・・・今度の祭りは、いつまで覚えてるんだ?」
「――――慧音?」
コップの中の水が大きく揺れる。零れそうになるくらい。
私は空いている手の方で妹紅の腕を強く掴んだまま黙り込む。
妹紅が私の頭を撫でる。静かに、ゆっくりと、なだめる様に。
「・・・ごまかすなよ」
「慧音、酔ってるでしょ?」
「酔ってるから、聞いてるんだ」
――――表情は見えないが、妹紅が笑ったような気がする。思わず、感情的になって爪をたてるように腕を握る。妹紅が一瞬、びっくと震えた。おもいっきり、力を入れたので、もしかしたら痣になってしまったかもしれない。
「慧音、痛いよ」
それでも、妹紅は撫でるのを止めようとはしなかった。そのことに安堵し、思わず泣きそうになる。
「慧音は、お祭り楽しかった?」
楽しかった。初めて、妹紅と過ごした祭りなんだから当然だ。きっと生涯、忘れない思い出になるだろう。だから、嫌なのだ。
私だけが覚えている。
――――それが許せない。
貴女は、いつか思い出せなくなる。
――――それが寂しい。
私は、死んで忘れてしまう。
――――それが恐ろしい。
貴女は、私が死んでも思い続ける。
――――それが嬉しい。
だから、口には出せない。出せば後悔してしまう。
でも、知って欲しい。先に逝く自分の苦悩を。
謝りたい。残ってしまうあなたの孤独を。
いつしか、迷子を脅える子供のように両腕で妹紅の腕を掴んでいた。
だから、妹紅は子供をあやすように頭を撫で続ける。
もしも、本当に私が子供なら此処で泣いていただろう。これから、起こる子供の悲劇を代わりに引き受け、守ることを誓う親のように優しく強い温もり。
私は、彼女に甘えている。そして、彼女はそれに見合うだけの愛情を返してくれる。
私は愛されている。
――――『残された方は、思い出を拠り所に生きるんですよ。最初の数十年は、はっきりと顔も思い出せるし、自分の気持ちも変わらないと自信があるんです』
天狗との会話が頭に過ぎる。
――――『でも、少しずつ忘れているんです。ある日まったく、違う他人に自分の大好きだった人の面影を見出だしてる。ぞっとしますよ。そして、忘れていることに気付くのですが、それを思い出そうとする度に別の新しい記憶とごちゃ混ぜになってしまう。・・・私は、あの人の笑顔が好きだった。どんな? 誰に似た?』
私のことを憶えていてほしい。でも、それは永遠を生きる妹紅に望むには酷く残酷なことだ。
私は、彼女に永遠に悲しんで欲しいとは思わない。ただ、ずっと好きでいて欲しいと願っている。
「楽しかったよ。妹紅と・・・。誰かと自分の為に参加したのは初めてだった」
何時もの祭りは私は妖怪と人間を繋ぐ仲介者として参加している。今回のように祭りを楽しむのと違い、ピリピリとした緊張感の中で参加していた。
「私も楽しかったよ。誰かとこうして屋台を出すなんて、長い間生きていて初めてだ」
――――『生きていれば、新しい物が次々に入ってきます。人も妖怪も新しく生まれてくる。里も森も山も形を変えていく。私達はそれを形が違えど纏めていきます。変わったことを誰かの記憶に残るように自分自身が忘れないように。でも、それは誰が望んだことなんでしょうか? 慧音さんは憶えていますか? 私はもう、思い出す事ができません』
妹紅が撫でるのを止めて、私の肩を掴み身体を起こさせる。
正面から、見詰めてくる妹紅の瞳を私は直視することが辛かった。
「慧音は忘れてもいいよ」
何を言われたのか分からなかった。余程、間抜けな顔をしていたのか妹紅が苦笑する。
「私が今日のことを・・・慧音のことをどれぐらい憶えているかは私にもわからないよ。でも、慧音が死んで転生して、前世の記憶が全て忘れる時間よりも長くは憶えていると思う」
私は妹紅より先に記憶を無くしてしまう。わかっていたことだが、妹紅本人の口から言われると私は逃れられない罪悪感を感じてしまう。
「・・・私は忘れないよ」
無責任な言葉が口から溢れる。誓いではなく、ただの願望。悲痛な叫び。
「だって、妹紅より私の方が記憶力はいいんだ。何が在っても妹紅より先に忘れることなんかない」
「そうだね。私は慧音よりもずぼらで忘れっぽい」
子供のような言い分を妹紅は笑うことなく受け入れてくれる。
私は、妹紅を抱きしめた。死ぬことの無い妹紅の身体は、半獣半人の私が本気で抱きしめれば壊れてしまいそうなほど華奢だ。
そんな彼女が私よりも年上で死ぬことが無いというのは悪い冗談だと思いたい。
妹紅の腕が私の背中に回る。私よりもずっと温かい。この温もりは私が死ぬまで隣に居てくれるんだと思う。でも、私が死んだ後はどうなるんだ? 知らない誰かに渡る? それとも永遠に一人?
そのことを考えると私の思考は嫉妬と哀憐が絡まり合い停止してまう。
だから、私は考えるのを止めた。その代わりに抱きしめる力を強くする。
妹紅の口から吐息が零れた。
――――『今でも、分からないんです。私はどうすれば良かったのか。どうして欲しかったのか。ただ、悩み続ける毎日を過ごしてるんです。それを紛らわす為に飛び回っているんです』
「なぁ、妹紅。私はどうすればいいんだろうな?」
「慧音はやりたいことはないの?」
「そうだな。また、来年も祭りに参加したいな。あと、妹紅も今回で里の人間に顔が知れ渡っただろうから、この機会に里へ移住させたい。きっと毎日、ぷらぷらしているだろうから、寺子屋で私の代わりに受業をするんだ」
「したいことじゃなくて、させたいことになってるよ」
「仕方ないじゃないか。私は妹紅と一緒にいたいんだから」
「恥ずかしいこと言ってるよ慧音。酔ってる?」
「酔ってるよ」
「そう。じゃあ、最後まで面倒を見てあげないとね」
「迷惑じゃないか?」
「酔っ払いの世話なんて迷惑に決まっているじゃない」
「酷いな。そこまで、酔ってなんかないぞ」
「じゃあ、迷惑になるぐらいまで酔っていいよ」
「・・・どういう意味?」
「貴女を酒がないと心細くて悲しくて何も出来なくなってしまうぐらい酔わせたい」
「・・・も、妹紅? 酔ってる?」
「最初から私は酔ってるよ。正気じゃないの。だから、私も迷惑をかける」
私は呆れたようにため息を吐く。抱きしめていた手が緩んだ。
「絡み酒だったんだな。知らなかったよ」
「慧音もでしょ?」
そう訪ねる妹紅の顔は本当に無邪気で思わず、笑いが込み上げて来る。
「うん。本当に困ってしまうよ。楽しくて嬉しくて堪らなくなるんだ。怖いぐらいに」
「怖いと感じてしまう内は酔いが足りないのよ」
「妹紅は怖くないのか?」
「もう、気にならないぐらいに酔ってる」
この夜の出来事をいつ読んでも楽しかったと思える物に纏めよう。
でも、きっと私は読み返すことはないと思う。
だって、私は今もこれからも夢見心地で酔い続けるのだ。
だから、これは素面の誰かが読めばいい。それを読んだ誰かはどう感じるかはわからないが歴史書なんて物は読んだ本人が勝手に解釈すればいい。
今はそう考えている。
***
――――『ねぇ? 慧音さんは、私が幸せそうに見えますか?』
***
祭りニ日目・夜
私は妹紅さんの店を出ると広場の中心にある竜神の銅像の前で天狗の記者である射命丸 文を待っている。
辺りはすっかりと暗くなり、人と妖怪でごった返していた。
同年代から見ても身長の低い私は人込みの中に完全に埋もれてしまっていた。背伸びをして辺りを見回すが待ち人が来る気配は無い。
待ち合わせ場所を違うところにした方が良かったかなと悩んでいると不意に後ろから肩を叩かれる。
「お待たせしました。いやぁ、相変わらず小さいので、危うく見逃すところでしたよ」
そこには私が転生して出会ってから、まったく姿の変わらない文さんが居た。
「ここを指定したのは貴女じゃないですか」
「いやぁ、こんなに混むとは思ってなかったんですよ。今回は例年に比べて参加者が多いですからね」
確かに今回の収穫祭の参加者は普段よりも多い。特に妖怪の数が例年に比べて倍ほどに増えていた。
「とりあえず、ここから移動しましょう」
そういうと一人でそそくさと移動を始める文さんを私は慌てて追い掛けた。
久しぶりに会ったのにも関わらず、挨拶もそこそこに気忙しく動く文さんに苛立ちを感じてしまう。もう少し、何かいうことがあるんじゃないだろうか。一人、そわそわして待っていたのが自分だけみたいで悔しい。
「あっ、ちょっと待って下さい」
足のコンパスが違うから、直ぐに離されてしまう。私は駆け足で追い掛け、先を行く文さんの右手を握り締めた。
すると、こっちが驚くぐらいの勢いで文さんが振り向く。怒らせてしまっただろうか?
「ご、ごめんなさい」
反射的に謝り、握っていた手を離そうとすると文さんがそれを拒むように握り締めてくる。
「いえ、こちらこそすみませんでした。ちょっと祭りに浮かれていたようです。人集りを出るまで、手を引きますね」
ぐいっと文さんの方に引き寄せられる。私は驚いてバランスを崩し、文さんのお腹に飛びつくような形になってしまう。
「あぅっ!」
「あやややや。すみません。相変わらず軽いですね。力の加減が難しいです」
お腹から、顔を離して見上げると文さんが心配そうに覗き込んでくる。近い。慌てて体を離そうとするが手をがっちりと握られていて、あまり離れられない。
とりあえず、気持ちを落ち着けるため、大きく深呼吸をする。
「大丈夫ですっ!」
私は、未だに落ち着かない鼓動を感じながら答えた。
「顔、赤いですよ? 風邪ですか?」
「なっ!? 違います。これは慌てて走ったからです!」
「そうですか。それは、失礼しました」
ダメだ。完全にペースを乱されてしまっている。
私は隣を歩く、文さんの顔を盗み見る。彼女は私の視線をこれぽっちも感じずに興味深そうにあちこちに視線を彷徨わせている。少しは、こっちを気にして欲しいものだ。一応、用心棒をするという形で一緒にいるのだから。
広場の外れまで来ると人込みが少しだけ緩和された。
「ここまで来れば、大丈夫そうですね」
握っていた手が離される。
「・・・あっ」
「どうしました? まだ、繋いでいた方がいいですか?」
まだ、握られていた温もりのある手を握り締める。
「いいえ、大丈夫ですよ」
そう答えると一瞬、文さんが寂しそうな顔をした気がした。
「文さん?」
「さぁ、回るところは沢山あります。行きましょう」
私達は端から順に祭りを見て回った。
擦れ違う妖怪に文さんが声を掛け紹介をしてもらったり、私に声を掛けてくる人に文さんを紹介した。
文さんは、その度に天狗の持つ写影機で撮ったりメモを走り書きしていた。
私は見た物を忘れないので、メモを取るということはしない。その時間を私は隣で子供のようにはしゃぐ天狗を観察することに使っていた。
一年の間で、文さんが私と過ごす期間はこの収穫祭の三日間だけだ。しかも、今回は一日目に外せない用事があったので二日しか一緒に居ることができない。
「どうかしました?」
「いえ、楽しそうだなぁと思いまして。文さんは何度も里の祭りを経験しているのに飽きたりとかはしないのですか?」
「そんなことはありませんよ。毎年、雰囲気が微妙に違います。特に最近は妖怪が仕切る出店の数も増えたので、おもしろいですよ。新聞のネタにもなりますしね」
確かに最近はフランクな妖怪が増えた。先代の頃に纏められていた幻想郷縁記には、今ほど妖怪に好意的な記述は少ない。
「そういえば、文さんは何時頃から里に出入りしているのですか?」
「・・・えっ?」
不自然に文さんの笑顔が固まった気がした。
「・・・どういう意味ですか?」
「あっ、いえ、そういえば、文さんは随分と昔から里に出入りしているようなのに先代の幻想郷縁記には天狗の来訪者が居た記述はないのが不思議に思ったので聞いたのですけど・・・」
――――『先代』と聞いた瞬間に文さんの顔に酷く悲しい影が落ちた気がした。
「私が幻想郷の里に出入りするようになったのは、貴女の先代が死んだ頃ですよ。だから、記述が無いのだと思います」
それ以上の質問を拒む様に文さんは私に背を向けて歩き出した。
その後ろ姿はどこか迷子の子供ように感じてしまう。だから、私は追い掛け、彼女の手を握った。
「阿求さん?」
「置いて行かないで下さい」
「・・・私は置いて行きませんよ」
文さんが手を握り替えしてくる。そのれだけで私の鼓動が高まるのを感じる。できれば、彼女にもそうあって欲しいと図々しくも思ってしまう。
手を繋いだまま祭りを回っていく。少しだけ、先程よりも周囲の視線が気になった。
「この先は、命蓮寺の方達が出店を出している所ですね」
よく周囲を見ていると殆どの出店の主人が妖怪だ。
今回の祭りの妖怪側は命蓮寺が纏めているということもあり、一番客の入りやすい場所は命蓮寺に関わり合いのある妖怪達で構成されていた。
「宗主の白蓮さんに会ったことはありますか?」
「噂は耳にしますが会ったことは無いですね。できれば紹介していただけると助かるんですが」
「まぁ、紹介しなくても、あの人ならば快く会って下さると思いますよ」
妖怪の屋台が並ぶ一番端にテーブルと椅子だけが置いてある大きめのフリースペースがある。そこは一応、案内所も兼ねているらしい。しかし、既にその席に座っているセーラー服を着ている妖怪は酒が入っているらしく、顔が赤い。
「白蓮さんはいらっしゃいますか?」私の代わりに文さんが聞いてくれる。
「ん? あぁ、奥にいるよ。入信かい?」
「違いますよ。挨拶に来ただけです」
「ふーん。そっちのツレは人間かい?」
セーラー服を着た受付の妖怪が私を据わった目で睨みながら指を差す。
「はい。稗田阿求といいます。命蓮寺の宗主である聖白蓮様にご挨拶をしたいのですが、取り次いでは頂けませんか?」
妖怪は小声で『ひえだの、ひえだの・・・』と呟くとハッとした顔をする。
「あぁ、あんたが稗田家の当主か! へぇ、随分と小さいんだな。・・・なんで、天狗なんかと居るんだ? しかも、手まで繋いでさ」
私と文さんの顔を交互に見比べながら、妖怪が不思議そうにしている。なんとなく気恥ずかしい気持ちになり、繋いだ手を離しそうになるが文さんの手は緩まないので離れない。
「私はただの付き添いですよ。取材のついでに妖怪の紹介もしているだけです」
「へぇ、あんたが誰かの面倒をみるようには見えないんだがな」
にやにやしながら妖怪が答える。文さんは涼しい顔をしている。
「まぁ、いいや。奥に居るから勝手に会えばいいよ」
お礼を言い、奥に進むと一際に賑わっている一団があった。
「あれ、みたいですね」
私はちょっと近づき難いと感じていたが、文さんは気にせずにドンドンと進んでいく。
「こんばんは! 白蓮さんはいらっしゃいますか!?」
そのままの勢いで大声で一団に話しかけると一斉にこちらへ視線が集まる。思わず、文さんの背中に隠れてしまう。
「はい、私に用ですか?」
集団の一番、奥の席から髪の長い綺麗な女性が出てきた。彼女が前に出ると周りの妖怪も畏まっているように感じるが、重苦しい空気ではなく、むしろ花を愛でるような穏やかな雰囲気だ。
「あら、確かあなたは、天狗の記者の・・・」
「お久しぶりです。毎度、御馴染みの文々。新聞の射命丸 文です」
「そうでしたね。文さんは今日は里の取材ですか?」
「それもあります。あとはこの子のお守りをしています」そういうと文さんは背中に隠れている私を指差す。私は失礼だと思い急いで自己紹介を始めた。
「お初にお目にかかります。稗田阿求といいます」
「ご丁寧にありがとうございます。私は命蓮寺の宗主、聖白蓮です」
お互いに深々と御辞儀をする。
見た目は子供の私に対しても丁寧な対応に驚く。流石は聖人と言われるだけある。私は、まじまじと見ていると聖さんは照れるような素振りをみせた。その姿がとても愛敬があり、思わず見惚れてしまう。
ドンと肘で文さんが私の肩を叩く。ハッとして、文さんの顔を見ると少しだけ、不機嫌な顔をしているように見えるのは私の思い過ごしだろうか?
「ひえだ…。あっ、ひょっとして稗田家の御当主様ですか?」
「えっ? ――ああ、そうです。私は稗田家の九代目です」
聖さんは納得といったという顔をして頷いた。
「なるほど。それで、天狗の文さんが案内をしているのですね」
「そういうことです。天狗は道案内をするのも仕事ですから」
文さんが胸を張って答えた。私は仕事と言われたことが妙に胸をざわつかせた。そうか、文さんにとっては取材の為の仕事なのだ。そう、思うと自分だけ祭りの熱気が冷めていくような気がした。
「阿求さん?」顔に出ていたのか、聖さんが私を気遣うように名前を呼ぶ。
「あややや。もしかして、疲れてしまいましたかね?」
文さんが的外れな心配をしてくる。心配してくれるのは嬉しいが、少しだけムッとした。
「あら、気付かなくてごめんなさい。立ち話もなんですし、どうぞこちらへ」
聖さんは飲み会に興じてる妖怪に声をかけると妖怪達は素直に席を譲っていた。自分勝手な妖怪達が素直に従っている様子に私は舌を巻いてしまう。
本当に慕われているのだ。正直、彼女本人に会うまでは妖怪を「徳」で総ているというのは眉唾物だと思っていた。だが、直接会ってみれば私も短時間の内に彼女に魅了されていた。
―――元は人間だったのだろうに・・・。
人間が妖怪化するのは珍しいことではない。聖さんも元は人間から魔法使いになった人物ということは文さんから聞いていた。
しかし、大抵の場合はそういう人物は他の妖怪との交流を持たない。あったとしても聖さんほど、敬慕される間柄にはならない。
「聖さんは凄いですね」隣にいる天狗に語りかけるとそうですねと肯定が帰ってくる。
妖怪と戯れる聖さんを見て、私は羨ましいという分不相応な気持ちを抱いてしまう。
聖さんが用意してくれた席に座ると次々に妖怪達が挨拶をしに来た。聖さんと喋っていたのを皆、気になっていたらしく質問攻めにされてしまう。返答に戸惑っていたりすると文さんが代わりに答えてくれた。おちゃらけているようでちゃんと気遣ってはくれているらしい。
「天狗が人間を連れているから一癖はある奴だと思っていたけど、稗田家の当主でしたか」
そういうとセーラー服を着た妖怪が私の前にシーフードカレーを置いてくれた。見返すとにっこりと愛敬のある笑顔を浮かべている。どうやら、奢りらしい。
「あれ? 貴女はさっき受付でお会いしましたよね?」
「? いいえ、お目にかかるのは初めてですよ。私は村紗水蜜と言います」
丁寧に頭を下げながら挨拶する彼女をまじまじと眺めるが、受付にいた少女と瓜二つだ。
本当に覚えがないようで村紗さんも困ったようにこちらを見ている。すると村紗さんの隣に座っている鼠の妖怪であるナズーリンさんが口を挟んできた。
「今、受付にいるのは確かぬえの奴だろう?」
「ああ、なるほど!」
村紗さんとナズーリンさんは二人で納得しているが、私は意味がわからず蚊帳の外だ。
「つまり、阿求さんは騙されていたんですよ」
文さんが笑いながら私の頭を撫でてくる。
「!!?」声にならない叫びが出る。挙動不審気味に文さんの顔を見ると頬がほんのりと赤い。どうやら、少し酔っているらしい。
「そうみたいだな。すまないね。ぬえの奴は人が集まる場所だと姿を偽ってるんだよ。多分、村紗に見えるようにしていたんだと思う。まぁ、そこの天狗はぬえの正体を知っているんだから普通に正体を見えていたんだろうけどな」
ナズーリンさんが説明をしてくれているが、私には文さんの手に気を取られていて頭に入ってこない。
「いや~、私には正体が見えていましたが阿求さんが、どう見えているかまでは分かりませんよ」
胡散臭い顔で弁解する彼女を二人は呆れた様子で見ている。
「え~つまり、私は文さんにも揶揄われていたんですか?」
「そうだね」「そういうことですね」
私はキッと文さんを睨むと「おぉ、怖い怖い」と巫山戯ている。
「酷いです」そう捨て台詞を吐くと村紗さんが持って来てくれたカレーを不貞腐れながら食べる。思ったよりも辛くて水を捜していると文さんがコップを差し出してくる。
コップと文さんを見比べると声を出さずに口を『ご・め・ん』と動かしたので私は渋々と受け取り、一口飲む。
「!?!?」口の中でカレーの辛さと別の辛さが広がる。
「ひょれ、おしゃけじゃないですかぁ!」
上手く舌が回らないが精一杯の怒りを向けるが文さんは笑っているだけだ。見兼ねたのか、村紗さんが本物の水を差しだしてくる。ありがたく受け取るがナズーリンさんも村紗さんも口元は笑っていた。
おのれ妖怪どもめ! 少し離れた場所に座っている聖さんに助けを求めよう。べーっと舌を出して文さんに袂を分かつアピールをすると小走りで向かう。一瞬、ちらりと文さんがムカッとした顔が見えた。
「あ~、あんまり揶揄うと聖に阿求ちゃんを盗られてしまうぞ?」そう呟くナズーリンさんの声は聞こえたが、文さんの返事は聞こえない。別に特別な関係ではないから、文さんは気にしないに違いない。そのことが揶揄われたことよりも腹立たしかった。
「ひ、聖さん・・・」
勢いよく出てきたものの周りには知らない妖怪達に囲まれている聖さんに声を掛けるのは少しばかり勇気がいる。
「ん? 阿求さん、どうかしましたか?」
流石は聖人。私のか細い声でも聞こえたらしく、こちらを振り向いてくれた。それだけで、ほっとしてしまう。
「あれ? もう聖に懐いてるのかい?」
聖の隣に座っている奇怪な羽が生えている妖怪が横から声を挟んでくる。先程のあいさつをした妖怪の中には彼女はいなかった筈だが、会ったことがあるような台詞だ。
「ぬえ、失礼ですよ」 聖さんが咎めるが、ぬえと呼ばれた妖怪は素知らぬ顔で笑っている。その顔にも私は覚えが無かった。
――――ぬえ・・・ぬえ・・・どこかで聴いたような・・・。
一人で考えているとぬえは、不穏な空気を感じたかのように席を立とうとする。
「・・・もしかして、受付にいた村紗さんに化けていた方ですか?」
問い掛けるとぬえは引き攣った笑顔を浮かべながら、「うん?」と恍けている。それを見た聖さんがぬえの腕を掴み、小さな声で「座りなさい」と笑顔で呟いた。
「阿求さん。詳しく聞かせて貰えるかしら?」
「えっ? ・・・はい、わかりました」
声色は優しいのだが、有無を言わせない迫力に後ろめたいことがない私の背筋に冷や汗が流れた。
私が説明している間、聖は笑顔を崩すことは無かったが、腕を掴まれているぬえの顔からは血の気が失せて行くのが分かった。
「――なるほど。そういうことでしたか。ぬえ?」
「は、はいっ!!」
「弁解はありますか?」
「ぁあの・・・これには、事情が――――ありません・・・」最後の方は尻つぼみになっていた。
ここからは見えないが雰囲気だけでも怖い。いつの間にか聖の周りにいた妖怪の数も減っていた。まだ、近くにいる妖怪は怒られるぬえを見て笑っているが、聖が睨むと酒を持って席を移動した。
私も移動しようかと考えていると聖さんがぬえの首根っ子を掴み私の前に差し出してきた。小猫のようになっているぬえは気まずそうに私に笑いかけた。
「えーと、すみませんでした。私のせいで不快な思いまでしてしまったようで・・・」
反省よりも怯えのが優っているのだろう。私よりも掴んでいる聖さんを気にしているようで、ちらちらと彼女の表情を窺うように謝ってくる。
「私からも謝ります。ぬえは正体を知られると弱くなってしまうので化けるのは認めているのですが、他人が混乱するので身内に化けるのは止めるように言っているんですが・・・」
聖さんがぬえをチラリと見るとぬえは視線を逃がした。
「いいえ、大丈夫ですよ。ぬえさんに直接、被害を受けた訳ではないですし、そんなに怒らないで下さい」
思わず、ぬえを擁護してしまうとこれは、チャンスとばかりにぬえは声を上げた。
「そうだよ! 村紗に化けてる時は悪さはしてなかったよ!」
「村紗『に』化けてる時は?」
「・・・あっ」
どうやら、墓穴を掘ってしまったらしい。再び、聖さんの説教が始まる。今度は詰問もあるので先程よりも空気が重い。私は退散したいのだが、時折にぬえが助けてという視線を送ってくるので気が引けて動くことができない。
「あの・・・反省しているようですし、その辺で・・・」
流石に私もこの状況が続くのは苦しいので説教の絶間に助け船を出す。
「ですが・・・」
「ほら、祭りの席でこれ以上、叱っても空気が悪くなるだけですよ」
「うっ・・・そのようですね」
最後にぬえに気をつけるようにと言うと聖さんの説教は終わった。ぬえは助かったという顔をしたあとに元気よく、「はい」と返事をした。
これで一段落。私も無闇に他人を頼ろうとしたから、罰が当たったのかもしれない。無駄に精神が磨り減ってしまった。
「当主さんありがとう! 助かったよ」
いつの間にか横に来ていたぬえが私に話しかけてくる。
「阿求でいいですよ。ぬえさん」
「そうかい? じゃあ、阿求って呼ばしてもらうね。あぁ、私もぬえでいいよ。さんはいらない」
どうやら、懐かれてしまったらしく随分とフランクな声音になっている。
「わかりました。ぬえ」
「うん。いや~、何か悪かったわね。変なとばっちりを受けたみたいで。私としても狙った事以外で迷惑が掛かるのは不本意なんだよね」
「まぁ、そんなに大した害があった訳ではないので平気ですよ。ところで人を化かすというのは、どうやっているのですか?」
「う~ん。あんまり、教えたくはないんだけど阿求にはさっき助けて貰ったからね。特別に教えてあげよう」
そういうとぬえは私の額に一差し指を向ける。私は、思わず寄目でぬえの指を凝視してしまう。すると視界が霞んでいくような変な感覚に襲われる。
「あれ? ぬえ?」
いつのまにかぬえの姿が見えない。その代わりに首には一匹の蛇が纏わり付いていた。
「ひゃあ!?」
思わず、大声をあげてしまう。遠くで、ガチャンと何かが割れる音がした。
「ぬえ!」
聖さんがぬえを叱責するように名前を呼ぶと私の首に纏わり付いていた蛇はぬえの腕に変わっていた。どうやら、いつの間にかぬえが私の肩に腕を回していたらしい。それを私は、蛇と錯覚していたようだ。
「わっ!? 聖、これは阿求が見たいっていったからで!」
ぬえは私の背に隠れるようにして弁解する。
「ごめんなさい。大声を出してしまって。大丈夫ですから」
私も慌てて、ぬえを庇うと聖さんも幾分か怒気を抑えた。
「阿求さん。迂闊に妖怪の力を見ようとしてはいけません。特にぬえの能力は人の見えない恐怖を形にします。貴女のように知識が豊富な人間が相手だとぬえは軽く能力を使ったつもりでも、貴女の知識でしか知らない物を形にしてしまう。それが貴女にどんな影響を及ぼすかは私にもぬえにも分からないのです。・・・貴女に妖怪が危害を加えたとなれば、人里と妖怪は今のような交流は出来なくなります。それは私達、命蓮寺一同がもっとも避けたいことでもあります。わかりますね?」
聖さんは、私に怒っているようだった。それは、妖怪を人から守ることを使命としている「聖 白蓮」という聖人の本質に私が本当に接した瞬間であった。
「ごめんなさい。不用心でした」
私が素直に謝ると聖さんは私の後ろに隠れていたぬえの頭を撫でた。ぬえは一瞬だけ、怯えた表情をしたが聖さんの笑顔を見ると照れたように俯き、黙って撫でられていた。
「貴女が考えているよりも妖怪は弱いのです」
聖さんの呟きは自分に言い聞かせるようにも聞こえた。
「妖怪は弱い」
――――どこかで
――――誰かに
――――教えてもらった気がする・・・。
私は不意に視線を横に向ける。
遠くから射命丸 文がこちらを見ていた。
――――でも、視線は交わらない。まるで彼女は幽鬼でも見るかのように私を観ている。
その姿が虚ろで・・・儚い。
「・・・文さん?」
私は、立ち上がり、彼女に近付く。
文さんもこちらに近付こうと足を動かしている。
文さんの周りにいる村紗さんが彼女の名前を呼ぶが文さんは聞こえていないかのようにふらふらと危なげに進んでくる。
十歩・・・五歩・・・三歩。お互いが手を伸ばせば、触れ合える距離。
私は、彼女に手を伸ばす。・・・でも、それが彼女に触れることは無い。
文さんは未だに虚ろな目で私を見ている。
――――胸がざわつく。会ってから初めて、彼女の瞳を不気味に感じる。
心に遅れて身体が反応する。伸ばしていた腕を戻しか――――「やっぱり、違いますね」
手首を掴まれた。いつの間にか彼女の瞳は光を取り戻していた。
でも、どこか怖い。
「あ・・・あの文さん?」
「ちょっと、目を離し過ぎましたね」
「えっ、あの」
「白蓮さん。私達もう、行きますね」
文さんは如何にも仕事用という顔で聖さんに別れを告げる。一瞬、ぬえに射貫くような視線を向けたのを私は見逃さなかった。
私は、あいさつもそこそこに文さんに腕を引かれてその場をあとにした。
それから私達はまた、祭りを見て回る。でも、私が文さんに話しかけても気の抜けた相槌しか帰ってこず、終始に渡って気まずい雰囲気が漂っていた。
「阿求さん」
夜明け近くになり、私達は稗田家の屋敷前に着くと命蓮寺の集まりを出てから初めて名前を呼ばれる。
「なんでしょう?」
「明日の祭りは、申し訳ないんですが私は休ませてもらいます」
辺りは暗く、人間の私の目では文さんの表情は見えない。
「・・・どうしてですか?」
声が震えていた。着物の袖をきつく握り締める。祭りの最中に文さんと手を握っていたのが懐かしいと感じてしまうぐらいに最初のころと彼女の纏っている空気が違った。
「ちょっと、体調が悪いんですよ。だから、休ませてもらいます。今回の祭りの取材も十分できましたし、明日でしっかりと体調を整えて明後日には新聞を出せるようにしたいんですよ。あーでも、阿求さんの都合もあるでしょうから、代りの天狗に明日の随行を頼んでおきますよ。なので、阿求さんは心配しないで下さい」
相槌を打つ間もなく喋りきると背を向けて帰ろうとする。私は慌てて、文さんの服の端を掴んだ。
「なんですか?」
「・・・あ、文さんが来ないなら、私も行きません」
沈黙が流れる。私はそれ以上の言葉を紡ぐ事が出来なかった。情け無い話、私は今、彼女をどう、扱えばいいのかが分からない。今の彼女には何を言っても、壊れてしまうような脆さがあった。
今、彼女は私から離れようとしている。拒絶しようとしている。逃げようとしている。
「わかりました」
文さんは、それだけをいうと私の掴んでいる手を払い除けた。―――拒絶された。会話すら続けてはもらえない。
突風が吹く。思わず目を瞑ってしまう。次に目を開けた時には彼女はいなかった。うっすらと明るみ始めた空にも人陰は無く、まるで今日のことが夢だったような錯覚を覚える。
「私は、何にもわかりませんよ・・・」
どこにも居ない誰かに呟いた言葉が空しく響いた。
私は稗田家の使用人が起きて、私を家に入れるまで、声を出さずに泣いていた。
***
朝方に妖怪の山に戻ると嫌悪感で吐いてしまう。流れる汚物が今日の思い出を拒絶している自分を自覚させる。
あの命蓮寺の酒宴の場。離れて行く阿求に不安と安堵を同時に覚えていた。いつものことだ。
―――『あの娘』と同じ魂を持つ『稗田阿求』
でも、阿求は私と過ごした昔のことを覚えていない。精神も容れ物も『あの娘』と違うのは、阿求が転生してから私自身の手で何度も実感していた。現に阿求は、私から一人で離れて別の妖怪に助けを求めに行っている。妖怪に馴れている阿求。『あの娘』は妖怪に近付くのは私が居なければ出来なかった。こんな妖怪だらけな場所では、きっと私から離れたりしないだろう。
そんな彼女を見ていると私は、まだ、『あの娘』をちゃんと憶えていることに安堵する。
大丈夫――大丈夫―――大丈夫
本当に? 今、私に背を向けて走る彼女に面影を重ねようとはしていない?
重ねたいと思っていない?
自問自答をくり返す。何度も何度も。
大丈夫。
阿求は今も別の妖怪と楽しんでいる。本当は私が居なくても、もう、大丈夫なんだ。
毎年、この時期に人里の祭りを回る時は付きそうという約束をしたのは私からだった。
あの時の阿求の喜んだ顔は今も憶えている。あの笑顔を見た時に私は『あの娘』との笑顔の違いを明確に意識したからだ。
『あの娘』が『稗田阿求』として転生するまでの間に幻想郷も随分と変わった。
今では、里の人間に不必要に悪さをする妖怪はいない。ましてや祭りに出るような妖怪が人を襲うことは無いだろう。
そろそろ、潮時なのかも知れない。阿求が他人に向ける笑顔を遠くで眺めながら考えている自分がいた。
ここまでは、私も哀愁を感じながらも阿求との交流を楽しんでいた。
しかし、あの時、ぬえが阿求に能力を見せた時。
私には見えてしまった。重ねてしまった。
私の心に眠る愛情の残火が現実に飛び火する。
一瞬で燃え上がり、幻のように消えた。でも、確かに阿求に焼け跡は残ってしまった。
阿求よりも長い髪に僅かに高い背。死ぬ間際の一番美しいと思った『あの娘』の姿を阿求に視てしまった。
そこからの記憶ははっきりとしていない。気付いた時は、阿求が私を心配そうに見上げている姿と服に染み付いた酒の臭いを感じた。
命蓮寺の酒宴を抜けてからは辛かった。阿求と観る景色が何もかもが新鮮に感じてしまった。思い出が塗り替えられていく感覚。思い出の中の『あの娘』が阿求に変わっていく。
耐えられなかった。
―――『あの娘』との思い出が絶えてしまう。
だから、口にした。『明日』は行けないと。
その自分から発せられた言葉に愕然とする。
私は、絶てなかった。――――稗田阿求との繋がりを。
本当に大切なら、あの時に「もう、会わない」と言わなければならなかったのだ。
『あの娘』との思い出を大切に抱えて生きると言うなら、これ以上は塗り替えられてはいけない。
それなのに私は、繋げてしまった。幽かで脆弱な細い繋がりを残した。
百年間、思い焦がれていた私が、今の私をどうしようもなく嫌悪する。
涙は出ない。出るのは汚物だけ。新しく腐らせた感情の異物が心を蝕む。不衛生な心境が思い出を汚していく。
――――何故、私は、今、『稗田阿求』に罪悪感を感じているのだ。
また、吐き気がする。慌てて、右手で口で抑える。あぁ、此の手は最後に阿求の手を振り払った手だ。きっと、阿求に私が今、抱こうとしている感情を吐き出させるのを止めに来たような錯覚を覚える。
――――ダメだ考えるな。もう、稗田阿求のことを考えるな。
稗田阿求が転生してから、この数十年間に押しとどめていた感情に思い出が流されていくのを感じながら、私は意識を失った。
***
――――『あの娘』が居た。
名前は、もう、言えない。これから、憶えることもできない。
彼女の為に私はそれを選んだ。だから、後悔はしていない。
そのお陰で、『あの娘』は最後には笑って逝くことができたと信じている。
「もし、別の人を好きになっても忘れないで下さいね?」
「忘れませんよ。安心してください」
「私の名前は忘れてしまったのに?」
「貴女が意地を張るからですよ」
「・・・そうね。ごめんなさい。素直になれって教えてくれたのに」
「いいですよ。そういう所が貴女の美点だと思います」
「うん。ありがとう」
「ずっと、好きでいますよ」
「うん。わかってる」
「貴女は・・・」
「私は、また、好きになると思う」
「無理ですよ。わかっているでしょう?」
「うん。わかってる。でも、貴女が傍に飛んで来たら、また、好きになる」
「・・・私は、貴女が転生した者を貴女だとは思えない。私は、貴女の名前を忘れた。だから、貴女と転生した者を区別をするのは思い出だけ。だから、好きにはなれない。好きになったら貴女との思い出が消えてしまう気がするのよ」
「じゃあ、会いに来てくれないの? 約束したのに?」
「行きますよ。ちゃんと行きます。貴女との約束を破った事がありますか?」
「どうだったかな? 忘れてしまったわ」
「酷いですね」
「うん。・・・だから、文も忘れていいよ。私だって忘れてしまうんですもの。忘れっぽい文に期待はできないわ」
「本当に酷いですね。言っていることがめちゃくちゃです」
「ふふ・・・。でも、その代わりに笑っていてね」
――――「誰が見ても、幸せな人だって思えるくらい」
あの時の会話は鮮明に憶えているのに『あの娘』の表情は思い出せない。笑っていた気がする。『あの娘』は意地っ張りだから。
***
人里の秋祭り三日目・夜
ゆっくりと意識が覚醒する。シャツが肌に張り付いている。酷い寝汗だった。
それでも、寝る前の不快感よりはマシだった。
起き上がり、洗面台に向かう。鏡に映る自分の目が腫れていた。
「これでは、とても幸せそうには見えないですね」
懐かしい夢だった。忘れていた思い出の夢だった。それが嬉しかった。
「誰のお陰で思い出したんでしょうね」
返事は無い。当たり前だ。妖怪の山にある家に人間が居るはずはない。
窓から、外を見ると空には星が浮かんでいたが月は見えない。時間感覚が狂っていて何時だか分からない。
服を着替えて外に出ると夜空に身を躍らせる。
雲を抜けると月と星空だけが浮かぶ夜空になった。見馴れた景色。初めて飛べるようになったあの日から変わることのない風景が心に滲みる。
月が寝る前よりも僅かに欠けている。どうやら、長いこと寝ていたらしい。もう、祭りは最終日のようだ。
「祭りはまだ、やっているかしら」
人里の方には雲は懸かっていないので目を凝らせば里に灯りが点いているのが確認できる。
どうすればいいのか分からない。阿求には会せる顔がない。
でも、会いたいと思った。我が儘なのは分かっている。それでも、あのまま終わりというのは嫌だった。
人里から、光が煌めく。地上から空に逆に流れる流れ星のようだった。
それが、真っ直ぐにこちらに突っ込んで来る。
目の前を通り過ぎていく。しかし、天狗の私の目にはそれが何だったかがはっきりと映ていた。
「こんな所で、何をしているのですか?」
目の前には、聖白蓮が飛んでいる。
「それはこっちの台詞ですよ。祭りをほっぽり出していいんですか?」
「貴女が呑気に飛んでいるのが見えたから、飛んで来たのです」
白蓮さんの言葉には苛立ちの色をみせていた。
「目がいいんですね」
私の返答に白蓮さんは答えない。ただ、意に満たないというように頭を振った。
「・・・阿求さんが倒れましたよ」
「・・・えっ?」
意識よりも先に身体が反応した。身体の震えが止まらない。
嫌な記憶が甦る。布団に寝たまま動かない『あの娘』の姿がトラウマとなり、忘れることも塗り替えられることもなく、べっとりと鮮明に脳に残されている。
身体の震えを抑えようと自分の腕で身体を抱きしめる。
「ごめんなさい。言葉が足りませんでした」白蓮さんが耳元で優しく囁くと私の震える身体を抱きしめる。
「命に別状はありません。ただ、風邪を引いているのに無理をして祭りに出たらしく、広場の銅像前で倒れてしまったらしいです」
銅像の前? 私達の待ち合わせの場所だ。この祭りを回る約束をしてから変わらない場所。
なんで、そんな所に行ったんだ。今日は行かないって言ったじゃないか。それに風邪って・・・。
両手で白蓮さんを押して離すと心配そうな表情を見せてる。今の私はそんなに酷い顔をしているのだろうか。
「大丈夫です。そんな顔をしないで下さい」
自分では頬が引き攣るのを感じるが無理矢理に微笑を浮かべる。
「本当に大丈夫なら、お見舞いに行って下さい」
私が驚いた顔をすると白蓮さんは絶妙のタイミングでにっこりと微笑んでくる。思わず、肩の力が抜けて、
「仕方無いですね」と口にしていた。流石は宗教家、乗せるのが上手い。
どちらにしろ、これで阿求の元に行く理由ができた。
「流石に手ぶらで行くわけには行きませんよね」
「貴女が行くだけで十分だと思いますよ」
何をグズグズしているという顔をされたが、白蓮さんは勘違いしている。
「私達はそういう関係とは違いますよ。それに一旦、私が家に戻ってから里に行っても、貴女が里に戻る速さと変わりません」
***
朦朧とした意識の中で窓の外を眺める。視界に映る三日月が滲んでいる。遠くの方で祭り囃子と喧騒が聞こえるが熱の為に気分は盛り上がらず、むしろ頭痛が酷くなる気がする。
思わず溜め息が溢れる。何をやっているのだろう。
来ないと分かっていたのに無理をした挙げ句の果てに倒れてしまう。
ごほごほと咳が止まらないでいると稗田家の女中が水と薬を持って来てくれた。
「私が寝ている間に誰か来ましたか?」
「えーと、寺子屋の上白沢先生と奇妙な羽の生えた妖怪がお見えになりましたが、容体を伝えると帰られました」
「・・・そうですか」
やっぱり、来てくれないか。そもそも、私が風邪で倒れたことなど知らないのかも知れない。
私の様子を見て女中は何か言おうとしたが、私は布団に倒れ込みそれを拒否した。
「用があれば御呼び下さい」足音が遠ざかっていく。
また、一人だけになる。
先程と同じように布団の中から、外を眺める。いつもの光景だ。風邪を引いていようといまいとたいして変わらない。
私は、この稗田家の屋敷であの窓を眺めながら、歴史を記録している。どこか、私は退屈していた。普通の人間が行っても安全な場所ならば、外に出ることは止められてはいない。
しかし、私は何時しか出ることを止めていた。
幻想郷の歴史は、本当にゆっくりと進んでいる。先代の纏めた物に書かれた幻想郷と今の幻想郷の違いを書く作業は、転生してニ年目には終わってしまった。
それからは、退屈な日々だった。私は、日記としか言えない物を書いて日々を過ごしていた。何か、足りないと感じる毎日だ。
そんな、ある日に天狗の彼女は来た。無遠慮に窓から入って来ると私に写真機のフラッシュを浴びせた。あの時に撮られた写真は、そういえば見せてもらってない。多分、凄く恥ずかしい物に仕上がっているだろう。
――――「どうも、毎度、御馴染みの文々。新聞です」
一度も、購読はしていないのに随分と馴れ馴れしい挨拶だと思った。
それから、文さんは私に色々な質問を始めた。初めての経験だった。まさか、
私が纏められる側になるとは考えてもいなかった。
――――「なるほど。では、貴女は天狗を生で見るのは初めてなのですね」
私は正直に「そうです」と答えると文さんは笑った。何故か、その光景だけは、見たものを総て記憶する私の頭の中でも特に印象的に残っていた。
――――「阿求さんは、外にあまり出ないのですか?」
数百年前とあまり変わりのない幻想郷。転生をくり返す私にしか分からないであろう既視感を文さんに教えると
――――「そんなことは、無いですよ。人も妖怪も変わっています。貴女は、知ろうとしないだけです。私が教えますよ」
文さんの新聞を見せてもらう。人里に暮らす半獣の女性が寺子屋を開こうとしているという、嘘だか本当だかよく分からない記事だった。
――――「嘘か本当か見抜けないということは、貴女が知らないということです」
だから、私は自分の足で確かめた。記事のことは本当だった。それから、私は文さんの新聞が置いてある人里に新しくできた『かふぇ』に通うようになった。一度、文さんに屋敷に定期購読を頼んだことがあるが、
――――「私の新聞は人気ですからね、人里の一件一件に配ると手が回らないのですよ。だから、あの店だけに置くようにしたのです」
これは、嘘だった。かふぇの店員に文さんの新聞が欲しいというと読む人は少ないから、古い物は持って行って構わないと言われた。可哀想なので、私は文さんにこのことは伝えていない。
――――「阿求さん、祭りを案内して下さい!」
文さんと一年の内でこの期間だけは必ず会うようになった。このころには、私も里の微妙な変化や妖怪の暮らしに興味を持つようになっていた。
――――「代わりに知り合いの妖怪も紹介しますよ。私と居れば、美味しそうな阿求さんに手を出す奴もいませんよ」
様々な妖怪に会った。妖怪以外にも、幽霊や妖怪と渡り合える人間。世界が広がるのを感じた。
いつからか、窓を眺めては天狗の黒い翼を捜していた。文さんが会いに来てくれるのはあの祭りの間だけだが、里にはよく来ていた。だから、文さんに会うために家中の者が心配するほど外にも出るようになっていた。
視界の滲みが酷くなり、嗚咽が溢れる。手で口を押さえるが止めることはできない。一度、堰を切るとどうにもできなかった。
転生してから、今までのことを全て思い出せる。笑ったこと怒ったこと辛かったこと嬉しかったこと。ただ、泣いた記憶は無かった。泣くほど深くまで、他人に触れ合いたいと思ったことは初めてだった。
もう、触れ合えないであろう感触を憶えていることが傷の深さを教える。
痛みから逃れるために意味のない八つ当たりをしてしまう。
【先代】
九代目である阿求の前。同じ魂を持つが違う身体の自分。しかし、一部の記憶は引き継いでいる。思い出そうとすれば当時の顔ですら思い出せるだろう。
出会った当初から文さんが私に違う誰かを重ねているのは気付いていた。しかし、先代達の纏めた幻想郷縁起には文さんと思われる記述は無く、引き継いだ記憶にも無かった。
でも、昨日の命蓮寺の酒宴で見せた文さんの態度と言動で理解した。
――――辛かった。
昔の記憶がないことが。
――――憎かった。
記憶のない私が。
【稗田阿求】という存在が急に薄っぺらい物に感じた。私は、自分の阿求としての価値を見失っていた。
「私は、――――だ」
その呟きは風に掻き消された。
***
目前で寝ている少女を初めて愚かしいと思ってしまった。
「私は、――――だ」
もう、二度と記憶に残せない名前を彼女は呟いた。
過去に縛られているのは自分だけだと思っていた。稗田阿求は、私とは違うのだと心の中で決め付けていた。
「貴女は、『あの娘』とは違いますよ」
呆然とした顔で阿求がこちらを見ている。白蓮が言っていたように熱があるのだろう顔が赤い。しかも、泣き腫らしたらしい目は、冗談のように脹らんでた。
「私の風邪が阿求さんに移ったと聞いて、お見舞いに来ました」
手に持っている酒瓶を振るいながら、入り慣れた窓から中に入る。靴をそこら辺に脱ぎ捨てると阿求の寝ている布団の隣に座る。
「あー、そのまま、寝ていて結構ですよ。直ぐに帰り」
言い終わらない内に阿求が胸に飛び込んでくる。背中に回された腕は、熱があって弱っている筈なのに振り解き難いほど力強い。酒瓶を床に置くと私は、恐る恐る阿求の頭を撫でた。触れた頭が怯えたように震えるが拒否をしないことに私は安堵した。
――――やっぱり、『あの娘』とは違う。『あの娘』なら、意地を張って子供扱いをするなと怒っていた。
阿求は素直に甘えている様だった。
頭を撫でながら、考えてしまう。今、私の胸に抱きついている彼女は何なのだろうか。
阿求と『あの娘』は違っている。今の行動でもわかる。
しかし、今の阿求は昔、『あの娘』に「素直になったらどうか」と指摘した時に私が望んでいた行動のような気がするのだ。
――――憶えているの? 無駄だと分かっているのに考えてしまう。
「今の私に―――の頃の記憶はありません」
「え? 阿求さん?」心を読まれたのかとありえない想像が浮かんでしまう。
「文さんが私に―――を重ねて接してることはわかります。でも、私には貴女の記憶はありません。多分、転生する時に忘れたのだと思います」
「そうですか」阿求の指が私の肌に食い込むように握り込まれる。
「文さんは・・・、文さんは、私に――を求めているんですか?」
「どうでしょう。『あの娘』が死ぬ前に転生した貴女に会いに行くと約束をしたので、私は貴女に会いに行きました。義務感で会いに行った積もりです。でも、貴女を会った時にそれを期待していなかったら、嘘になると思います」
喋っていて阿求を傷付けているのではないかという不安と自分の感情を吐露することで気持ちが軽くなる快感が鬩ぎ合っている。いつのまにか頭を撫でていた手は阿求の頭を押さえ付けるように抱きしめていた。
「私は、貴女と接している内に『稗田阿求』と『あの娘』とは違う者だと考えました。だって、貴女は素直で活発だし、いじられ役なんですよ。『あの娘』とは真逆です。けど、時折、貴女は『あの娘』がこうなりたいと思っていた姿なんじゃないかと思う時があるんです。今だって、こんなに素直に抱きしめられているのは『あの娘』が望んだことなんじゃないかって、そう考えると頭がごちゃごちゃになるんです」
稗田阿求は黙って聞いていた。彼女が止めないなら、私には止まる気は無かった。
「私は、その感覚が恐ろしかった。塗り替えられていく感情は絶えられなくほどの不安とあふれ出てくる陶酔感で、私自身が決めたルールを壊そうとしてた。それは、私の中では裏切りになる。貴女に惹かれるほど、私の中で『あの娘』を傷付ける想像が浮かぶのです」
阿求の握り締めている手が不意に緩む。それが私を堪らなく憂鬱にさせた。
「・・・阿求さん」
今、抱きしめている少女の存在を確認するように名前を呼ぶ。少女は、既に私を抱きしめてはいない。
呆れられてしまっただろうか。仕方無い、私自身が今の気持ちは優柔不断だと思っている。
でも、自分の気持ちを言えて良かったと感じている。阿求さんを傷付けたかもしれないが、あのまま逃げてしまうよりは良かった筈だ。
最後にもう、一度、阿求さんの頭を力強く抱きしめる。
抱きしめられている少女は覚束無い手付きで私の腕に手を置いた。
――――そして、ゆっくりとタップした。
「うんぁ?」
思わず変な声が口から漏れる。その間も阿求さんは力無くタップを続けている。
抱きしめていた腕を弛めると少女は力尽きたようにそのまま私の身体をなぞりながら倒れた。
図らずも、阿求さんが私の股間に顔を埋める体勢になっている。
「あの、阿求さん?」
「ぐぅぅぅぅ」
阿求さんは妙な呻き声を発しながら、仰向けの姿勢に身体を動かした。阿求さんと視線が逆さまで交わる。
「ひょっとして? 苦しかったですか?」
「はい、最後は息ができませんでした・・・」
「ご、ごめんなさい」
「いえ、でも、ちょっと、このまま休んでいいですか? 身体が持ちそうにありません」
「えっ? あっ、はい!」
「――良かった。勝手に居なくなったりしては、ダメですよ・・・」
阿求さんは私の手を握りながら、膝の上で眠ってしまう。握られた手は温かく傍にいることを実感する。力強くは無いが今の私には、決して振り解けない気がした。
自由な手の方を少女の額に乗せると熱い。私は、こんなにも弱っている相手に何をやっていたんだろうと反省した。
起こさないように腕を伸ばして、布団を掴むと少女に掛ける。
「おやすみなさい。阿求」
そのまま朝方に稗田家の女中が阿求の様子を見に部屋に来るまで、私はこの靜かな時間を楽しんだ。
***
祭りが終わり、数日が過ぎた。
私は稗田として、今回の祭りも纏めている。窓から見える景色は、いつもの人里の景色に戻っていた。
「今回は書くことが少ないですね」
「すみませんでしたって、何度も謝っているじゃないですか」
私の呟きに最近、雇った助手の射命丸 文がげんなりと返した。
あの祭りの最終日にひいた風邪が完治するまでに三日も掛かった。一応、文は自分の風邪が移ったと言い張るので、寝込んでいる間は、付きっきりで看病をしてくれた。
「あぁ、ごめんなさい! そんな積もりで言ったんじゃないんですよ」
「あー、分かってますから本気にしないで下さい」
苦笑する彼女を見ていると、まだ、あの陽気な祭りは続いてるんじゃないかという気になる。
「それで、今日はどうするんですか?」
文は今日の予定を聞いてきたが、私は特に決めていなかった。
「とりあえず、お昼ごはんにしませんか?」
「私、まだ、今日はお茶汲みを一回しただけなんですが?」
「うぅ・・・」
「はぁ~、まぁ、いいでしょう。里に最近、外から迷い込んだ人間が店を出したんですよ。なんか『ほっと毒』とかいうのが人気らしいので、行ってみたいんですよ」
「それは、人間が食べても大丈夫なんですか? ・・・文、自慢じゃないですが、私は身体が弱いんですよ?」
「大丈夫ですよ。一応、人里で売られているものですし。それにわからないなら行けばいいんですよ。それが取材の基本です」
胸を張り答える彼女に若干の不安を憶える。文は私が思っていた以上に行き当たりばったりな性格をしている。
「なんだったら毒味もしますし、いざとなれば医者の所まで一瞬で運んであげますよ」
「それは頼もしいですね。できれば、記者として裏が取れてから誘って欲しいものです」
「でも、それじゃあ、つまらないでしょう?」
急に文の雰囲気が艶めかしくなったので、ドギマギしてしまう。
「さぁ、ぐずぐずしてないで行きましょう。ね、阿求?」
溜め息を吐くがきっと顔は笑っているだろう。だって、目の前にいる文も笑っているのだから。
~Fin~
~おまけ~
「最近、稗田家に出入りしているようだな」
「あぁ、慧音さんお久しぶりです」
この間の祭りの新聞が出来たので寺子屋に行くと話しかけられた。部屋の奥で妹紅さんが大の字で寝ているのが見える。
「一年間だけ、阿求の手伝いにをすることになったんですよ」
「ふーん。阿求のことを呼び捨てにするようになったみたいだし、本当にそれだけか?」
「・・・それだけですよ。なので、慧音さんとも顔を会わせる機会が多くなると思います」
「そうか。・・・楽しそうだな」
「――――そうですね。長く生きていると楽しいことから、逃げ難くなるようです」
「どういう意味だ?」
私は笑って曖昧に誤魔化すことしか出来なかった。
阿求の風邪が治ったあとに私は『稗田阿求』が好きなのか『あの娘』が好きなのかわからないと告げた。阿求は簡単に
――――両方共好きでいいんじゃないですか? 今の『私』も『先代』も両方ともに文さんはちゃんと見てくれているようですし、それなら私は構いませんよ。なんというか、私は文さんの言葉が『今も昔も好きなんですがどうしましょう?』と言われているように聞こえます。その返事となると『私も今も昔も貴女が好きみたいです』としか言えないのですが・・・。
照れながら答える阿求の姿を見ていると私は、急に悩んでいたことが恥ずかしい気持ちになり黙ってしまう。そんな私を見て阿求は、何を思ったのか突然、
――――では、次の祭りまで、私の幻想郷縁起を纏める手伝いをして下さい。その間にどうするかを決めてくれればいいです。・・・ダメですか?
あの上目遣いでのダメ押しを断るのは無理だった。
――――じゃあ、よろしくお願いしますね。逃げてはダメですよ。天狗を捕まえるなんて
私にはできませんから。
こうして、私は見事に一途キャラから、へたれキャラになった。こんな事は誰にも言えない。知られていいのは一人だけだ。その一人を思い浮かべると思わず笑みが溢れた。
つづくかも・・・
面白かったです
続いてくれるものなら続いて欲しい。
複雑な関係が最後スッキリしてしまった。
もっと文×阿求流行れ。
続きがあるなら楽しみにしています。
……切ねぇなぁ、ただでさえ人妖で寿命が違うから切ないのに、、永遠の命だったり、寿命が短く転生したり。。
それでもついつかの間の日だまりに手を伸ばしてしまうんですよね。
文と阿求も慧音と妹紅もどちらもすごく良かったです
もっと流行ってしまえ!
まじ文×あきゅん流行れ
続き期待。
さりげない仕草や内面の描写がうまく、引き込まれました。とてもよかった。
続きが楽しみだ!
けねもこもあやあやきゅも素晴らしいですが、
一本筋の通った白蓮がまたよかったです。
そして妖怪連中の酒宴におそるおそる踏み込むあっきゅんに
おっさんたちの酒盛りに呼び出された幼い頃の自分が重なり身悶えました。
妹紅×慧音は確かにエロかったのですが、コレはコレでとても良かったです。
又、誤字がありましたのでご報告させて頂きます。
>寺子屋で私の代わりに受業をするんだ」
受業は授業では無いかと思います。
次回作も期待しています。頑張って下さい!