この交換業務日誌はその日の仕事内容を担当の者が記入をすること。
記入を終えたら必ず休憩室の机に戻しておくこと。
忙しくて話をする時間が減ってしまったけれど、この日誌で情報の共有をしましょう。
地霊温泉女将 古明地さとり
核融合炉から放出された熱でお湯を沸かす際に生じた蒸気。
温泉旅館地霊温泉ではその蒸気を様々な用途で使用している。
蒸気で調理をしたり、こびりついた頑固な汚れを落としたり、酔っ払って喧嘩を始めた妖怪達に吹きかけたりと万能である。
また蒸気は地霊温泉の名物である温泉卵や温泉饅頭を作る際にも利用される。
そしてもう一つの名物である旧地獄の蒸し風呂も蒸気の産物である。
もともとは余った蒸気を排出する洞穴だったのだが、地霊温泉のスポンサーである山の神がどうしても作れということで出来たものである。
「すちいむさうなであんちえいじんぐ」と訳の分からない単語を口にしていたそうだ。
ともあれ、旧地獄の蒸し風呂は旧都の妖怪や地上の妖怪、人間までもが訪れる名物の一つなのだ。
「あら、すごい蒸気ね」
「蒸し風呂だからね。暗いからから足元気をつけなさい」
「子供じゃないんだからこんな所ではしゃがないわよ」
蒸気の充満した洞穴に二人の会話が響く。
蒸し風呂の内部は灯りが少なく薄暗い。そして視界を遮るように蒸気が充満しているので目が慣れてくるまで迂闊に動けない。
手探りで座れる場所を見つけると永琳は輝夜の手を引く。
「輝夜、こっち」
「わっ、急に引っ張らないでよ」
まだ目が慣れていない輝夜はへっぴり腰のまま進み、永琳の横に座った。
手で顔を扇ぎながら輝夜は口を開く。
「暗いのは良いけど熱いのは嫌ね」
「何言ってるの。蒸し風呂なんだから熱いのは当たり前よ」
「それに座ったまま汗を流せるなんて、ひきこもりの輝夜には最適じゃないかしら」
意地悪な笑顔を作る永琳。
「何よ、たまには外に出なさいとか言って連れて来たくせに」
ぷくっと頬を膨らませる輝夜。
五分後。
「うわぁ、本当に前が見えないな」
「おいおい、あまりはしゃぐなよ。一緒にいて恥ずかしいぞ」
蒸し風呂の入り口から楽しそうな声が響く。
「足元気をつけろよ」
「なぁ、私は慧音よりずっと年上なんだが…」
「その割には落ち着きがないな」
からかう様な慧音の声と拗ねたような妹紅の声が蒸し風呂の中に反響する。
目が慣れ、蒸し風呂の奥へと進む二人。
「おや?」
慧音の視線の先には会釈をする永琳と知らんぷりをする輝夜の姿があった。
輝夜の存在に気付いた妹紅は頭に血が上り怒鳴り声を響かせる。
「テメェ輝夜っ!こんな所で何してんだ!」
勢いよく輝夜の前に飛び出したせいで妹紅が身に着けていたタオルは地面に落ちた。
突然、宿敵が目の前に現れたせいでそんな事はお構いなしの妹紅。
「何って?温泉に来ただけよ。それよりその貧相な前を隠したらどうかしら?」
小馬鹿にする様に妹紅をからかう輝夜。
「んだと貧乳女!」
今にも飛び掛かりそうな勢いで輝夜を睨み大声を上げる妹紅の頭にドスンと鈍い音と共に衝撃が走る。
「ぐぅぅ」
妹紅は頭を押さえその場に座り込みながら慧音を睨む。
「な、何すんだよっ!」
「止さないか妹紅、ここは温泉だぞ」
慧音は自分の額を軽く擦りながら注意をする。
「八意殿からも注意してくれ」
「あはは、馬鹿よ。馬鹿貧乳がいるわ」
高笑いをする輝夜に永琳が注意をする。
「まったく、輝夜も人を馬鹿に出来るような物を持ってないでしょうに」
輝夜と妹紅はそれぞれ隣にいる味方の体を見る。
豊満なそれを見て二人は同時に敗北感に包まれ静かに席に着いたのだった。
永琳の一言で大人しくなった二人を余所に永琳と慧音は話を弾ませている。
「八意殿はよく来るのか?」
「今日で五回目かしら」
「お肌の調子が良くなるのよねぇ」
「ほう、それは楽しみだ」
「貴方たちも泊りの予定?」
「あぁ、二泊していく予定だ」
「あら、羨ましいわ。私は診療所があるから一泊だけなのよねぇ」
四人が遭遇してから二十分程過ぎた頃。
「あぁ、もう限界!」
一番最初に弱音を上げたのは永琳だった。
「輝夜、私先に出るけど?」
永琳は立ち上がりながら輝夜に声をかける。
「私も…」
輝夜がそう口を開いた時、向かいの席に座る妹紅からの視線を感じた。
…何?もう限界なのか?
小馬鹿にしたような表情の妹紅が輝夜を見ていたのだった。
「私も何?出るの?」
「私、妹紅が出るまでは出ないっ!」
首を傾げる永琳に慌てて返事をする。
「そう、ケンカするんじゃないわよ」
呆れた表情の永琳は慧音に視線を向ける。
「任せてくれ八意殿」
「それじゃ頼むわ」
そういうと永琳は蒸し風呂を後にした。
永琳が蒸し風呂を後にしてから十分ほど過ぎた頃。
「うーむ。これ以上は無理だ」
顔を真っ赤にして汗を滝のように流す慧音が席を立つ。
「妹紅に輝夜殿、まだ出ないのか?」
「この程度の熱さは何ともないさ」
汗だくの妹紅は返事をする。
「私も、もう少し熱いほうが良いくらいよ」
強がる輝夜も汗をダラダラと流している。
「やれやれ、二人とも程々にな」
そう残すと慧音は手で顔を扇ぎながら蒸し風呂から出て行った。
「おい、輝夜」
「何よ?」
「お前も無理しないで出たらどうだ?」
「ふんっ妹紅こそ、顔真っ赤よ?」
お互いに強がりを言った後は無言のまま睨み合う。
睨み合いはやがて沈黙へと変わっていく。
蒸し風呂の天井に溜まった蒸気が水滴となり落ちてくる。
水滴が床に叩き付けられ、小さな水音が響く。
輝夜の火照った肌に水滴が落ちる。
「ひゃっ!」
急に温度の低い水滴が落ちてきたせいで思わず声を上げてしまった輝夜。
自分の情けない声を聞かれていないかが心配で慌てて妹紅に視線を向ける。
妹紅は下を向いたまま小刻みに肩を震わせている。
「くっくくくっ」
「輝夜、何だよ今の声、はっははは」
「う、うるさいわねっ!笑いすぎよ」
張りつめていた空気が一気に解けていく。
一通り笑い終えた妹紅が輝夜に話しかける。
「たまにはこういうのも良いな」
「…そうね」
「ただ、殺し合いと違って決着が着きにくいのが問題だな」
「それじゃ今日は引き分けで、決着はまた今度ということで良いんじゃないかしら?」
「待て待て、私はまだ平気だ。今日のところは引き分けにしといてやるから先に出ろよ」
「はぁ?何にってるのよ。せっかく私が引き分けにしてあげるって言ってるんだからアンタこそ先に出なさいよ」
再び睨み合いが再開される。
両者の言葉とは違い、体は素直だった。
定時の巡回に来た番頭が蒸し風呂で倒れてる二人を発見した。
霜月九日 番頭 霊烏路空
どうしても負けたくない相手ってのが誰にでもいるみたい。
負けたくない相手かぁ…
さとり様の膝の上は誰にも譲りたくないかな。
相手がお燐だとしてもどうにか退かして、私がさとり様のなでなでを独占するんだ。
話が脱線してしまった。
蒸し風呂で地上の人間が二人倒れました。
慌てて医務室に運ぼうとしたけど銀髪の綺麗なお姉さん二人が大丈夫だというので仕事に戻ったんだけど本当に大丈夫だったのかな?
聞いた話によると蒸し風呂で我慢比べをしていたそうです。
入り口に我慢比べ禁止って張り紙をはればきっと大丈夫だよね。
温泉旅館と言えば温泉がメインと思われがちだが、訪れた者の心を掴みリピーターとして顧客にする為には心のこもった接客が大切である。
中には無理難題を言う者もいるが、そういう相手こそ心を込めて対応する事が大切。
気配りや笑顔。接客時のちょっとしたことが旅館の評判を左右するものなのだ。
「二人で旅行だなんて久々ね」
温泉宿の一室で茶菓子を食べながら幽々子は楽しそうに話を始めた。
「そうね」
風呂上りの濡れた髪を乾かしながら紫は答える。
「幽々子、これから夕食なのにお菓子なんて食べちゃ駄目じゃない」
「妖夢みたいな事言わないでよ」
「あら、ごめんなさい。妖夢も面倒な主に仕えているのね」
「面倒な主は貴方でしょ」
二人の間にはクスクスと小さな笑い声が響く。
「あれ、浴衣がちょっとキツイわ」
「食べ過ぎでしょ」
「もう、紫までそんなこ言うなんて悲しいわ」
「妖夢、浴衣の寸法が合わないわーって妖夢はお留守番だったわね」
「駄目ね。ついつい妖夢に頼っちゃう」
「それが解るだけ立派な主じゃないかしら?」
髪を乾かし終え幽々子の方を見る紫。
紫の視線の先には丈の合わない浴衣を無理矢理来た幽々子の姿があった。
「ちょ、ちょ幽々子、それ子供用の浴衣じゃない」
「あはははっ」
「ちょっと、そんなに笑わなくてもいいじゃない」
頬を膨らませ怒る幽々子が紫に反論する。
「ごめんなさい。あー笑わせて貰ったわ」
「ちょっと藍、宿の人呼んできなさい」
「…」
無意識に従者の名を呼んでしまう紫だった。
「私も駄目ね。ついつい藍に頼っちゃう」
「ふふ、立派な主様は違いますねぇ」
ニヤニヤと笑顔を浮かべる幽々子。
そんなやり取りをしていると外から声が聞こえてくる。
「お客様、これからお夕食の準備をさせて頂きます」
「あら、楽しみに待っていたわ」
座椅子に腰掛けながら答える紫。
「お夕食の準備の前に大人用の浴衣を持ってきてくださる?サイズが合わないのよ」
サイズの合わない浴衣を畳みながら答える幽々子。
「かしこまりました」
外から元気の良い仲居の返事が聞こえてくる。
五分もしないうちに仲居は戻ってきた。
「失礼します。浴衣をお持ちしました」
「どうぞ、お入りなさい」
「はい」
返事とともに部屋に入ってきたのは温泉宿地霊温泉の仲居頭を務める妖怪の火焔猫燐。
目の前の大物二人に少し緊張気味のお燐。
「浴衣の件は申し訳ありませんでした」
「いいのよ、おかげで笑わせて貰ったから」
机に頬杖を突きながらにこやかな表情の紫が答える。
「お夕飯楽しみだわ」
満面の笑みの表情の幽々子は手渡された浴衣を羽織りながら笑顔を浮かべる。
「せっかくだし、食前酒でも持ってきてもらおうかしら、ねぇ幽々子?」
「良いわねぇ」
「ということで、お願いできるかしら?仲居さん?」
「は、はいすぐに」
慌てて部屋を出るお燐を眺めながら二人は今日見て回った地底の観光名所の話を始めた。
食前酒が用意され、乾杯をし、小さな宴会が始まった。
酒が入り楽しそうな二人を気にかけながらお燐は黙々と食事の支度を始める。
「あら、美味しそうな焼き魚ね」
香ばしい香りに誘われ幽々子がお燐に話しかける。
「はい、地底名物のお魚で、今がちょうど旬なんですよ」
返事をしながら全ての料理を並べ終えたお燐は正座をし二人に挨拶をする。
「それでは、ごゆっくりとお夕食をお楽しみください」
「ねぇ、仲居さん、猫車の貴女が仲居だなんてやってるのは何でなの?」
立ち上がろうとしたお燐に質問をする紫。
「主のさとり様の為です」
「さとり様の夢だった温泉旅館の経営の為に従者が頑張るのは当然じゃないですか」
嘘偽りのない笑顔を見て二人は視線を合わせる。
「ちょっと、あなたも一杯やっていきなさい」
「あたいまだ仕事がありますので…」
「良いじゃない。ねぇ紫?」
「仲居さん、諦めなさい。この子にこう言われたら一杯飲むまで帰れないわよ」
「…わかりました。一杯だけですよ」
そういうと手渡されたお猪口を口元に運び勢いよく飲み干す。
「あらあら、嫌がっていた割に良い飲みっぷりね」
そう言いながら空いたお猪口にお酒を注ぐ幽々子。
「にゃっ!も、もうだめですよ」
「幽々子、もう止めなさい。仲居さんが困ってるわ」
「んーじゃあそれが最後の一杯ということで許してあげるわ」
「じゃ、じゃあこれが最後の一杯ですからね」
そう言うとお猪口を唇に当て、上を向いてお猪口の中身を一気に流し込む。
お猪口の中からはお酒がどんどんあふれ出てくる。
お燐は混乱しながらもがお酒を溢さないように飲み続ける。
涙目になりながらも必死に喉を動かす。
「んん、ぐっ」
「ふふふ」
妖しい笑顔をする紫は指先をこっそりと動かしている。
お猪口の中のお酒は無くなることなく流れ続ける。
紫が徳利の底とお猪口の底の境界をいじっているせいでお燐は徳利が空になるまでお酒を飲み続ける羽目になったのだった。
「ふにゃぁ」
情けない声と共にその場に倒れこむお燐。
「あらあら、ちょっとやり過ぎたかしらね…」
苦笑いをする紫と幽々子はお燐を布団に運び、小宴会を続けた。
翌朝。
温泉宿の玄関口には女将のさとりが二人の大物を見送りに来ていた。
「妖怪賢者様と冥界のお嬢様のご宿泊だなんて光栄でした」
「ぜひまた、いらして下さい」
「えぇ、また来るわ」
「それと、女将さん」
「はい?」
「あの仲居さんを叱らないでやって下さる?」
日傘を広げながら紫はさとりに話しかける。
さとりは意識を集中し、紫の心を読む。
「…そういうことでしたか」
「良い従者がいるのね」
笑顔の幽々子がさとりに話しかける。
「あなた達程ではありませんが…」
少し照れくさそうなさとりはそう言うと二人を見送る。
霜月十日 仲居頭 火焔猫燐
まずは謝ります。
仕事中にお酒飲んで、寝てしまいました。
飲んでと言うより、事故です。
あたいはあんまり悪くない。
お客様の申し出を受けたまでで…
うー、まだ気持ちが悪い。
あたいが担当したお客様が地上でも有数の実力者だったそうで、緊張しながらの仕事でした。
妖気が桁外れで尻尾がビリビリしっぱなしでした。
でも悪い人たちじゃないと思います。
目覚ました時、布団に運ばれてたし。
また来てほしいけど、今度は絶対担当したくないです。
大人数での旅行の宿泊地といえば温泉旅館が定番である。
温泉での裸の付き合いや大宴会場で飲めや歌えやの大騒ぎ。
そういう楽しい時間を共有することにより今までより絆が深まるものなのだ。
そして裸の付き合いと言えばやっぱり気になるものもあったりする。
気になってもやって良い事と悪い事があるのは忘れないで欲しい。
あの柵の向こうにはパラダイスが待っている。
鼻の下を伸ばしながら射命丸文は音を殺して茂みを進む。
「神奈子様に早苗さんに椛…」
柵の手前にある巨大な岩を足場にすれば柵の向こうをこのカメラに収めることができるだろうと思い、文は高鳴る鼓動を押さえ岩を目指す。
徐々に近づく賑やかな騒ぎ声。
「うっへへ」
茂みに体を隠したまま岩に手を伸ばし、体を引き上げる。
同じタイミングで岩の上に姿を現した人物がいた。
頭に頭巾を巻き変装しているが、紫と黒のチェックのスカートが正体をばらしていた。
両者共に驚き声を失う。
「…」
「…」
「な、何やってるのよ」
先に口を開いたのは、はたてだった。
「わ、私は盗撮犯を取材しようと思って張っていただけですよ?」
「はたてこそそんな怪しい頭巾巻いて何してるんですか?」
「わ、私も盗撮犯の取材よ」
「そうしたらたまたま文が現れて…」
お互い低体温症になるくらいの量の冷や汗をかいている。
「ちょっとはたて?」
「何よ?」
「あなた、いつから念写を使わないで取材するようになったのですか?」
「本当は盗撮犯じゃないんですか?」
文の言葉に動揺するはたてが慌てて反論をする。
「も、もし私が盗撮犯ならそれこそ念写するわよ…」
「へぇ、そうですかー念写で盗撮するんだー引くわ―」
冷たい視線をはたてに送る文は自分が優位に立ったと感じ、はたてを盗撮犯に仕立て上げようと思考を巡らす。
「あれ?文、あんた今取材中なのよね?」
「そうですよ。目の前にいる極悪非道の盗撮犯に取材中です」
「腕章も付けずにこっそりと?」
「そ、それは…」
「取材中は腕章を付けるのがあんたの流儀なのよねぇ?」
「それとも盗撮は取材とは違うから付けてないのかしら?」
今度ははたてが文に冷たい視線を送る。
二人の間に流れる張りつめた空気とは違い、柵の向こうからは楽しそうな声が響く。
「おや、早苗また大きくなったんじゃない?」
「ひゃっ、神奈子様触らないでくださいよー」
そう、本日は妖怪の山に住まう者たちが温泉に来ているのだ。
甘い声の誘惑に負け柵の方を向けば相手にさらに疑われてしまう。
互いに動けず、睨み合う。
「うっひゃぁぁ、私も早苗さんの成長ぶり確認したい…ですか?」
二人の背後から聞こえた声に二人の烏天狗は戦慄した。
恐る恐る振り向くとそこには地霊温泉の女将、古明地さとりが立っていた。
「あややや、これは女将!」
「ふむふむ、不味いのに見つかってしまった…」
不気味な笑顔を浮かべるさとりは二人の心を読み上げる。
心の内を読まれ、顔が青ざめていく二人。
「しかし、あなた達、思考が全く同じね」
「犯行現場を見られた盗撮犯の心情っていうやつかしら?」
「盗撮犯だなんてそんな!」
同時に声を上げる文とはたて。
「諦めなさい。私に隠し事は通用しません」
「このことは山の神様と天魔様には報告しないといけませんね…」
「いやぁ、それはちょっと困っちゃいます」
「文さん、この期に及んでまだ反論するつもりですか?」
文を睨むさとり。
「いえ、すいませんでした…」
「文さん、はたてさん、地霊温泉の記事を一面記事にして下さい」
「え?」
「はい?」
「ですから、地霊温泉の取材をして記事を書いて、一面に載せてください」
「そうすれば今回の件は不問にします」
「ぜひ取材させてください」
予想外の言葉に二人は拍子抜けしたが、快く返事をした。
霜月十一日 女将 古明地さとり
本日は団体のお客様がご来店されました。
地上の巨大勢力、妖怪の山の面々との事で、従業員皆、頑張っていたと思います。
スポンサーの神奈子様も満足されたご様子でした。
また、温泉を気に入ってくれた烏天狗さん達が好意で記事にしたいと申し出てくれました。
地道な営業活動が実を結び、嬉しく思います。
これから忙しくなると思いますが、今後も皆で力を合わせて頑張りましょう。
どんなに上質な温泉があろうと、心のこもった接客がされようと温泉旅館は訪れる者がいなければ成り立たない。
告知や宣伝を行い、自分の旅館を旅行を計画している者の選択肢の一つにしてもらうことが不可欠である。
時には外に出向き宣伝活動を行うこともある。
旅館の仕事とは旅館の中だけではないのだ。
多くの者が初めて訪れる旅館に対して不安を感じるものだ。
そこで有効なのが○○も来た!といった実績がそのまま宣伝になるような著名人に宿泊してもらうことだ。
しかしその著名人を選ぶのも苦労する。
悪い印象が強い著名人を選んでしまえば逆効果だったりもする。
「お姉ちゃんも簡単に言ってくれるよねぇ」
「有名人を連れて来て欲しいだなんて」
「最近大物だらけだったじゃない」
「うーん、神主さまとか…?」
「はは、さすがに実在しない人は無理かぁ」
古明地こいしは悩んでいた。
旅館に有名人を泊めて知名度の向上を狙いたいと相談され、地上に来てみたものの適当な人物が思い浮かばない。
「霊夢とか?」
「妖怪たちが怯えて来なそうね…」
「魔理沙は…」
「どう頑張っても良い印象は与えられそうにないか」
「妖怪賢者に冥界のお嬢様、山の神様達以上に有名な人なんて他に思い浮かばないなぁ」
「この際数撃つ作戦で行こう」
そう言うとこいしは集中し能力を発動させる。
他人の無意識の中に「温泉に行きたい」と刷り込む事にした。
この方法は最近幻想郷に入ってきた広告術。
なんでも外の世界では無意識の中に「○○を飲みたい」と刷り込み売り上げを上げた飲み物があるそうだ。
そもそも幻想郷に入ってきた時点で本当かどうかは怪しいものではある。
能力を発動させたまま幻想郷をぶらぶらと散歩するこいし。
すれ違った人間や妖怪達は突然温泉の話を始めるのを確認するとこの広告術の効果を確信した。
日も暮れ始め、歩き疲れたこいしは地霊温泉に戻る事にした。
疲れを取る為、帰るとすぐに大浴場に向かった。
大きな湯船に肩まで浸かる。
「ふう、いい湯ね」
疲労した体に心地よく熱が広がっていくのが分かる。
ガラッと勢いよく大浴場の扉を開け、入ってくる人影。
「あれ、こいし様だー」
人懐っこい笑顔を浮かべ現れたのは番頭のお空だった。
「ちょっと、お空。番頭のあなたが温泉入ってどうするのよ?」
呆れた表情を浮かべるこいし。
「いやぁ、なんだか無性に温泉にはいりたくなっちゃって」
「そう、お姉ちゃんにばれないようにね」
「はい」
「うおー広いぞお」
ぎこちない動きで現れたのは最近幻想郷に住み着いたキョンシーの宮古芳香。
「チルノちゃん本当に大丈夫?溶けたりしない?」
「あたい最強だからよゆーよ!」
「そーなのかー」
続いて現れたのはミスティ、チルノ、ルーミア。
「…何?この頭の弱い奴らのオンパレード?」
思考が簡単な妖怪や妖精は刷り込まれた「温泉に行きたい」という無意識に素直に従う。
その事に気付いたこいしは能力を解除する。
「はぁ、失敗ね」
そうつぶやくと騒がしい湯船を後にした。
霜月十三日 広報 古明地こいし
宣伝活動って思っていたより大変です。
無意識の中に温泉に行きたくなるように刷り込んでみたけど完全に失敗。
私がいなかったら氷の妖精溶けて消えてたと思うよ。
ってまあ私が悪いんだけど。
でも温泉に浸かってるあの子達はみんな幸せそうな顔だったよ。ちょっぴり嬉しかったなぁ。
地獄は良いとこ一度はおいで
地獄の宿は地霊温泉に決めた
動揺?
こんな旅館に行ってみたいなぁ
慌ただしくも楽しい様子が伝わる話でした。
ちょっと誰が言っている台詞か分からないところがあったのが残念でした。
特に紫と幽々子の
>「もう、紫までそんなこ言うなんて悲しいわ」
>「妖夢、浴衣の寸法が合わないわーって妖夢はお留守番だったわね」
のように、口調が似ているキャラ同士で喋っていて、同じキャラが続けて台詞を言うシーンは分かりにくかったです。
出来れば一キャラ一台詞、例えば上記のシーンでは「もう、紫までそんなこ言うなんて悲しいわ。妖夢、浴衣の寸法が合わないわーって妖夢はお留守番だったわね」のように繋げてほしいなー、と読んでいて思いました。
特に今回はキャラがたくさん出てくる作品なので、そういう部分の読みにくさが際立ってしまったと思います。
長々と失礼しました。
修正させてもらいました。
キャラの会話のアドバイスありがとうございます。
要勉強という事で参考になりました。
コメント、点数くれた皆様、ありがとうございました。
ストーリー自体はすごく好きだ。ほのぼのしてる地霊組の感じとても良い。
なんか凄い上から目線でごめんなさい。面白かったよ。
だがブン屋ども最低だw
それはさておき、こいしの能力の使い方に感動すら覚えた
サブリミナルって無意識下に訴える現象なら無意識を操る能力で…ってのは考えた事もなかったなー
それを差し引いても、良いお話でした
神奈子、早苗、椛もおっきいイメージ。
おぬしもおっぱい好き…だな?
早苗さんの成長ぶりを確かめる役は譲らないぜ。
で、その中でも灼熱地獄は特に・・・
なのにこれほどのほのぼのマターリとは。
いいぞ! もっとやってくれ!
難しいと思うけど続編希望
やっぱり源泉掛け流しなんですよね