「一体どういう事なんだよ!?」
同封された写真には確かにウチの早苗が写っていた。隣のタケノコ掘ってそうな奴は知らん。
二人揃って得意気な笑みを浮かべやがって。お前らマブか? マブダチなのか?
だが本当に問題なのは手紙の本文だ。「わたし改宗しましたわ」じゃねえだろ。パッと見で回文かと思ったわ。「わたし負けましたわ」みたいな。
「見ろ神奈子、大変な事になってしまったぞ!」
「早苗め……ピースをする時は親指を隠すなと、あれほど口を酸っぱくして言い聞かせておいたのに……」
「どうだっていいわそんな事! おい郵便屋、この手紙をどこで受け取った!?」
「お二柱とも落ち着くですよー! 私はなんにも知らねえですよー!」
「オニチューってなんだよ!? 最近の妖精は神の数え方も知らんのか! ああ嘆かわしい!」
郵便屋の妖精を締め上げても、要領を得ない返事ばかりでイヤになる。
送り主が分からないとか有り得ないだろ。大体妖精なんかバイトに雇うからこういう事になるんだよ。まったく。
「まあ待て諏訪子よ。送り主が分からなくても早苗の居場所なら分かるだろう? 何も問題はない」
「……まあ、そりゃそうだけどさ」
「ちくしょー、もうこんなバイト辞めてやるですよー! こうなりゃ春まで不貞寝してやるんですよー!」
アホ妖精は逃げ去ってしまったが、そんな事はどうでもいい。
今大事なのは早苗を誑かした奴をとっ捕まえて、神の裁きを受けさせる事なのだ。
「諏訪子よ、ゴッドワープを使うぞ」
「おうよ! 待っていろドヤ顔の人攫いめ! イエー! イエー!」
私と神奈子は神であり、早苗は我々に仕える風祝である。
つまり両者は不可分の関係にあるのであってええい七面倒くさい御託は抜きだ!
ゴッドパワーで万事解決! それが日本の愉快な神様だ! 文句あっか!
「ゴオォォォォォォォッド」
「ワアァァァァァァァァプッ!」
別に叫ぶ必要は無い。
まあ、こういうのって気分が大事でしょ? ノリだよ、ノリ。
「さあ着いたぞ! 早苗はどこだ? どこにいる!?」
辿り着いたのは、ある種の道場のようにも見えるおかしな空間。
木人らしきガラクタが転がっているだけで、人の姿はどこにも見えない。
おかしいねえ。ここで合ってる筈なんだけど。
「この空間……まさか、罠だったというのか?」
何を弱気な事を言ってるんだよ八坂神奈子ともあろう者がよう。
だいたい私らをどうこう出来る奴なんて幻想郷にも一人か二人居るか居ないかであれえええええ力が出ない!?
まずい、これは非常にマズイぞ! これじゃ早苗を助けるどころか、ここから出る事すら儘ならないかもしれんね。
「祝ってよい」
突如響いた厳かな声。誰だ?
早苗の気配が近いのは分かるんだが、もう一つ何だかおかしな気配がする。コイツか?
「旧き神々よ。我の復活を大いに祝福するがよい。永き暗黒の時代は終焉を迎え、今まさに新世界の幕が開かれんとしておるのだ」
勝手な事言いやがって。どこだ、どこにいる?
「すなわち幻想郷の世明けはもう目の前にあり、クリア後は我のステージに分岐が発生す。ファイナルAはこれまで通りであるが、ファイナルBの難易度は比類なき程に強まっており選んだ瞬間死ぬ」
「ふざけんな! とっとと正体を見せろ!」
「慌てずともよい。すなわち急いては事を子孫汁であり、お主の子孫の汁は美味にして卑猥。んゴっ!?」
悲鳴と共に馬鹿が一匹、タケノコの如く床をぶち抜いて生えてきた。
よく見たら早苗の隣に写ってた奴じゃないか。よーし、頭捻じ切ってオモチャにしてやる……。
「いけません諏訪子様! 早苗キーック!」
早苗!? どうして早苗が私の側頭部に飛び蹴りをかました挙句得意気にポーズなんか決めやがってああアッタマいってえ!
神奈子がその豊満なボディで受け止めてくれなかったら、今頃私は無様に昏倒してああ神奈子あったけえこのまま意識を手放しちゃおうかしらん。
「物部さん! 今の発言は現行法におけるセクシャルハラスメントに相当しますよ!」
「このような発言など全然大した事ないのである。我などはその昔太子様に向かって同時に十の淫語を発したことがあり、そのまま尸解仙の実験台にされてしまった程の猛者にして変態」
「物部に太子様、そして尸解仙か……どうやらお前さんの正体が見えてきたようだね」
ゴッドパワーが満足に使えないのにも関わらず、神奈子は敵の正体を見破りつつあるようだ。
さっすが私の嫁。っていうか私が嫁。抱いて! もう抱かれてるか。
「お前の正体はズバリ、物部一族を裏切って聖徳太子に味方した挙句、尸解仙となってつい最近復活を遂げた物部布都だろう。違うか!?」
「よくぞ見破った! 褒美として貴様にはメタリック旧一万円札を進呈す。使い道の無さに嘆くがよい」
単純にワードを並べただけだろうとか、どうして名前まで分かったんだとか、無粋なツッコミをする奴は神奈子が許しても私が許さん。
あの布都とかいう変態もろとも赤口さまで可愛がってやるから、後で私の部屋へ来るように。
「それにしても、何だって早苗がそんな奴と? 手紙には改宗したとか書いてあったけど……」
「申し訳ありません神奈子様。しかしこれは仕方の無い事なのです」
「左様。すなわち東風谷早苗は我が比類なき物部の秘術と道教の虜であり、ゆくゆくは我の嫁にしてマイハニーとなり物部守屋が復活す。喝ッ!」
「訳の分からんことを言うな! だいたい物部守屋ってのは何者だよ!?」
「諏訪子よ……そいつを知らないってのは歴史に対して無関心過ぎるのではなかろうか?」
ふん、おおかた中央の権力争いにでも敗れておっ死んだ負け犬か何かだろう。
そんなの私の知ったこっちゃないね。こちとらファックオーソリティ、ファックセントラリゼーションを地で行く土着神様だい。ファック!
「物部守屋は関係ないでしょう! いい加減にしてください! 神奈子様、この方に逆らってはいけません!」
「あのさあ早苗、私たちはそいつをSATSUGAIしに来たんだけど、逆らうなってどういう事なの?」
「何と無礼な口を利くのでしょうこのカエ……諏訪子様は! 早く謝ってください! 私はまだ死にたくありません! ヒー!」
早苗のやつ、何をそんなに怯えてるんだか。
うまうまと誘き出されてしまった事は認めるけど、正直言ってこの程度の相手に遅れを取るほど落ちぶれちゃあいないよ? 私も神奈子もね。
「神の失言は風祝の失言であり、東風谷早苗は甘んじて咎めを受けるべきである。アーメン」
「そ、そんな! お許しください物部さん!」
「もう遅い! ……ほうれ、我の白魚の如き指が貴様の淫らな口の中へと挿入されてゆくぞ? ん?」
「ふがふが」
「ここが犬歯、ここが臼歯でこちらが……親知らずであるか!」
こっ、この野郎……!
私でさえ早苗の親知らずに触ったことが無いってのに、よくもまあ目の前で堂々と……!
「お二柱とも動いてはならぬ。我はいつでもコヤツの扁桃腺に触れることが出来るのだ……この意味が分かるな?」
「さっぱりわからん。それとお前もオニチューかよ。この国の教育は一体どうなっておるんだ、怪しからん!」
「まあ待て諏訪子よ。早苗を人質に取られたとあっては迂闊な真似もできまい。まずはあちらの要求を聞こうじゃないか」
*おおっと*
流石は神奈子、冷静だね。
「我の目的はただ一つ。すなわち早苗を通じて守矢神社の力を手中に収め、しかる後に物部神道を復活せしめる事である」
「ああ愚かなる人間よ。不老不死の身となってなお力を欲するか」
「是非もなし。物部、守矢、そして道教の三位一体の力でもって、この世に比類なき物部帝国を築き上げるのだッ! どうだ! すごいだろう!」
あーはいはいうんうんすごいねーえらいねーおねーさん感心しちゃったよーうんうん。
ところでコイツもう殺していいかな? いやさ、餓鬼の誇大妄想に付き合うのって疲れるんだよねーホントに。やだやだ。
「お二柱にはその先駆けとなっていただこう。まずは幻想郷に巣食う仏教勢力の排除から始めようと思うのだが、如何かな?」
「命蓮寺の事かい? あいつらは気のいい連中だ。どうにか穏便に済まないものかねえ」
「否。仏教徒は存在そのものが罪であり悪。一列に並べてナムアミダブツすべき敵でありなさけむよう」
残虐行為手当でも貰おうってのかい、このアンチブディストスーパースターめ。
だが……面白いかもしれんね。こいつらと寺の連中をカチ合わせた上で、双方が疲弊したところをガツン! ってのもさあ。
まあ、この物部のお嬢さんもそれが狙いだったりするんだろうけど。
「私たちを利用しようたぁいい度胸だね。天は自ら助くる者を助くって言葉を知ってるか?」
「貴様は天というよりむしろ地であろう。それに今助けを求めているのは我ではなく早苗であるぞ。うりうり」
「ヴぉえぇっ、ヴぇっ!」
「その位にしておけ物部の。我らの力が欲しいのなら最初から素直にそう言えばよい。何も早苗を人質にとる必要などないわ」
おいおい神奈子、あんなチンケな脅しに屈してしまうつもりかい?
仕方ないと言えば仕方ないのかもしれんけど、流石に癪だねえ。
「この空間に施した封印を解くがいい。さすればすぐにでもゴッドパワーを与えようぞ」
「笑止! 封印を解いた瞬間我を攻撃するは必定であり危険。いわば君子危うきに地下駐車場であり騙して悪いが消えろイレギュラー。むむ、何かが間違っておる」
「私クラスの神が騙まし討ちなどするわけがなかろう。諏訪子じゃないんだから」
けっけっけ、騙まし討ちとか最高じゃん? 私なら喜んでやるよ。
って、いつの間に私はこんなダーティーなキャラにされたんだ。
「さあ、どうするね物部の。機会が二度君の扉を叩くなどと考えない方がよいぞ?」
「むう……そ、そこまで言うのなら、ちょっとだけ……」
「おい諏訪子、余計な手出しは無用で頼むよ」
うおっ、あの馬鹿マジで封印を解き始めやがったよ。
チャンス到来! とでも言いたいところだけれど、ここは神奈子の顔を立てて大人しくしていよう。
神奈子を怒らせると怖いもんね。三日は口を利いてくれなくなるんだ。
「ふう、こんなものでよかろう。さあ来たれ来たれ福音よ来たれ! 人を超え、尸解仙を越え、我は唯一無二の神とならん!」
「よろしい、ならば与えよう。八坂神奈子がゴッドのパワーで、勝利の栄光をキミに!」
「ふおおおおおおお比類なき力の高まりを感じるううううううううううぅ!?」
神奈子のゴッドオーラが、奴と早苗を包んでゆく。
いくら早苗を助けるためとはいえ、これはちょっと面倒な事になったんじゃないのか?
「これだ! このパワーで我は……ちょっと待った。力を得たのは我ではなくて……早苗だと!?」
「力を与えるとは言ったが、お前に与えると言った覚えは無いねえ」
「なんと! 謀ったな八坂神奈子!」
おおっ、流石は神奈子だ。やることがトコトンえげつない。
私の事を言えた義理じゃあないね……惚れ直したけどさ!
「今だ諏訪子、パワーを早苗に!」
「いいですとも!」
「ま、待て! 話せばわかる、話せばわか――!?」
早苗は口から手を吐き出すと、奴の喉を掴んで高々と掲げた。
よく見ておくんだね物部布都。これが私たちの風祝、東風谷早苗の真骨頂さ。
「んんんんんんんんんん、二柱キターーーーーーーーーーーーッ!」
「んゴゴゴゴゴゴっ、ば、馬鹿なッ!」
ざまあみやがれ。これでお前の変態道教プロジェクトも終了だね。
それにしても早苗よ、お前までニチューはねえだろニチューは。
「早苗、そいつを少々懲らしめてやりなさい」
「了解! 現人神早苗、タイマン張らせてもらいましょう!」
「こっ、このままでは我の生命が危険であり悲惨! たすけてアルゴマン!」
「いいぞ早苗! こっろっせ! こっろっせ!」
「……と、言いたいところではあるのだが、幸いにも神は寛容にして慈悲深い。お前が自らの過ちを悔いるというのなら、赦してやらんこともないぞ」
「あ、あれー? 神奈子?」
なんだよもう、ようやく面白くなってきたってのに。
「どうだ? 悔い改めるか?」
「く、悔い改める! 悔い改めるからこの殺人マシーンを止めてくれ!?」
「よろしい。早苗、そいつを下ろしてやりなさい」
「ヤボール、ヘル神奈子様」
なんだか早苗のキャラが訳のわからないことになってるけど、まあ今更か。
しかし神奈子の言う事は素直に聞くんだねえ。私の言う事なんかガン無視なのに。
「死ぬかと思った……もういっぺん死ぬかと思った……」
「ところどころ素に戻るんだね、お前」
「はっ……!? キ、キミの言ってる事がよくわからないなあ。私はいつでも自然体だよ? それに目上の人に対してお前とか言ってはダメ。言葉をキレイに使う習慣を身につけないとね」
「一生のお願いですから、いつものバグった物部さんに戻ってください」
「んゴゴーッ! 良くぞ申した若人よ!」
うおっ、コイツ立ち直り早いな。
まあいつまでも馴れ馴れしい喋り方されるよりはマシか。どっちにしろウザイのには変わりないけどね。
「まあ早苗も元に戻ったようだし、私たちは帰るとするかねえ」
「待つがよい守矢の神々よ。我はこの後どうしたらよいのだ?」
「その事についてなんだが……お前には我々と共に神社まで来てもらう」
「はあ?」
「はい?」
「んゴ?」
おいおい神奈子、こんな変態連れて帰ってどうしようっていうのさ。
神社の評判が落ちるよ? 百害あって一利ないよ?
まあ神奈子にも何か考えがあっての事だろうし、いざとなったら簀巻きにして捨ててしまえばいいか。
力が欲しけりゃくれてやる。
見返りはただ一つ、それすなわち神への奉仕。
ギブアンドテイクでリーズナブル。それが神様ってもんだよ、ベイビー。
「物部さん、四角いところは丸く掃くのですよ」
「むむっ、そうであったか」
「そうです。確実にそうです。さあ続けて!」
そんなわけで物部布都は現在、ウチの神社にて家事手伝いをやっている。
古代日本を牛耳ってた連中の一人とは思えん姿だが、奴さんどうあっても守矢のゴッドパワーを身につけたいらしい。
道教に転んだ身とはいえ、やはり物部神道とやらへの執着は捨てきれていないようだ。
それともあれかい? かつて裏切った一族に対して後ろめたい気持ちでもあるのかな? いやいや、そんな殊勝なヤツには見えないけどね。
「『三位一体の力』に『唯一無二の神』か。物部神道とはまさか……いやいや、流石に考えすぎかしら」
神奈子は神奈子で、なにやら難しい顔をして考え込んでやんの。
思案に耽る横顔はグッとくるものがあるけど、早苗がこっちに来るとき持ってきたトンデモ歴史本なんか読んでたら全部台無しだよ。
早苗のおかしな趣味が感染らなけりゃいいけど……もう遅いか?
「お次は料理ですが……物部さんは『調味料のさしすせそ』をご存知ですか?」
「うむ、調理に用いる五種の神器であるな。すなわち『酢酸・硝酸・水酸化物・青酸・その他の酸』の頭文字を取ったもの……だな?」
「甘く切なく酸っぱーい!? どうして酸まみれなんですか! それに『その他の酸』って、少々苦しすぎやしませんか!?」
「そのような質問に対して弊社では回答しかねるゆえ、代わりに貴様の服を酸でもって溶解せしめることとする」
「サ、サンダー!?」
まあ早苗も楽しそうだし、これにて一件落着かな。
「ウルァ! 郵便ですよー!」
突然、私の額に何かが突き刺さった。
窓を開けっぱなしにしておいた所為か? それとも室内だからといって帽子を脱ぐべきではなかったのか?
いや、悪いのはこのマザーファッキン郵便妖精だ。辞めてやるとか言ってたくせに、わざわざお礼参りに来たってわけかい。
「あて先は……物部さんですね。どうぞ」
早苗は何事も無かったかのように私の額から手紙を抜き取ると、そのまま布都に手渡した。
いや、少しは気を遣えよ。大丈夫ですか? の一言くらいあってもバチは当たらんよ? むしろ無きゃ当てるよ?
「おお、比類なき太子様からの御手紙である! どれどれ……『しばらくの間布都をよろしくお願いしますしますします(残響音含む)』」
「『せいぜいこき使ってやってくださいくださいください(残響音含む)』ですか。よかったですね物部さん」
ちょっと待て、なんだよ残響音って。
手紙にそんなもんついてたまるか。馬鹿馬鹿しい。
「主の許しが得られたようだね。まあこれからもよろしく頼むよ」
「承知した。本日の我は喜びの気分でありハピネス。したがって神奈子様の肩や腰やアレやソレなどをお揉みいたす」
「物部さん、セクハラは厳禁ですよ!」
楽しそうでいいねえ、あんたら。
まあ本日の私は少々お怒りの気分なので、このまま輪に加わるつもりは無いんだけどさ。
「おやおやー? 神様が一匹除け者にされてるですよー? プークスクス」
おバカな春告精め。とっとと逃げりゃあいいものを。
私は帽子を深く被り直して、窓の外でニヤニヤしている郵便妖精を睨みつけてやった。
「なーに怒ってるんですよー? わーいそーうしーりあーすですよー?」
「ファッキンやかましいわファッキン妖精が! 貴様のファッキンな尻とアスを嫌と言うほどミシャグジファックしてくれるわ!」
「おっとっと! ノロマなカエルにゃ春は追えねえんですよー!」
脱兎の如く逃げ去るヤツを追って、私は窓から飛び出した。
同封された写真には確かにウチの早苗が写っていた。隣のタケノコ掘ってそうな奴は知らん。
二人揃って得意気な笑みを浮かべやがって。お前らマブか? マブダチなのか?
だが本当に問題なのは手紙の本文だ。「わたし改宗しましたわ」じゃねえだろ。パッと見で回文かと思ったわ。「わたし負けましたわ」みたいな。
「見ろ神奈子、大変な事になってしまったぞ!」
「早苗め……ピースをする時は親指を隠すなと、あれほど口を酸っぱくして言い聞かせておいたのに……」
「どうだっていいわそんな事! おい郵便屋、この手紙をどこで受け取った!?」
「お二柱とも落ち着くですよー! 私はなんにも知らねえですよー!」
「オニチューってなんだよ!? 最近の妖精は神の数え方も知らんのか! ああ嘆かわしい!」
郵便屋の妖精を締め上げても、要領を得ない返事ばかりでイヤになる。
送り主が分からないとか有り得ないだろ。大体妖精なんかバイトに雇うからこういう事になるんだよ。まったく。
「まあ待て諏訪子よ。送り主が分からなくても早苗の居場所なら分かるだろう? 何も問題はない」
「……まあ、そりゃそうだけどさ」
「ちくしょー、もうこんなバイト辞めてやるですよー! こうなりゃ春まで不貞寝してやるんですよー!」
アホ妖精は逃げ去ってしまったが、そんな事はどうでもいい。
今大事なのは早苗を誑かした奴をとっ捕まえて、神の裁きを受けさせる事なのだ。
「諏訪子よ、ゴッドワープを使うぞ」
「おうよ! 待っていろドヤ顔の人攫いめ! イエー! イエー!」
私と神奈子は神であり、早苗は我々に仕える風祝である。
つまり両者は不可分の関係にあるのであってええい七面倒くさい御託は抜きだ!
ゴッドパワーで万事解決! それが日本の愉快な神様だ! 文句あっか!
「ゴオォォォォォォォッド」
「ワアァァァァァァァァプッ!」
別に叫ぶ必要は無い。
まあ、こういうのって気分が大事でしょ? ノリだよ、ノリ。
「さあ着いたぞ! 早苗はどこだ? どこにいる!?」
辿り着いたのは、ある種の道場のようにも見えるおかしな空間。
木人らしきガラクタが転がっているだけで、人の姿はどこにも見えない。
おかしいねえ。ここで合ってる筈なんだけど。
「この空間……まさか、罠だったというのか?」
何を弱気な事を言ってるんだよ八坂神奈子ともあろう者がよう。
だいたい私らをどうこう出来る奴なんて幻想郷にも一人か二人居るか居ないかであれえええええ力が出ない!?
まずい、これは非常にマズイぞ! これじゃ早苗を助けるどころか、ここから出る事すら儘ならないかもしれんね。
「祝ってよい」
突如響いた厳かな声。誰だ?
早苗の気配が近いのは分かるんだが、もう一つ何だかおかしな気配がする。コイツか?
「旧き神々よ。我の復活を大いに祝福するがよい。永き暗黒の時代は終焉を迎え、今まさに新世界の幕が開かれんとしておるのだ」
勝手な事言いやがって。どこだ、どこにいる?
「すなわち幻想郷の世明けはもう目の前にあり、クリア後は我のステージに分岐が発生す。ファイナルAはこれまで通りであるが、ファイナルBの難易度は比類なき程に強まっており選んだ瞬間死ぬ」
「ふざけんな! とっとと正体を見せろ!」
「慌てずともよい。すなわち急いては事を子孫汁であり、お主の子孫の汁は美味にして卑猥。んゴっ!?」
悲鳴と共に馬鹿が一匹、タケノコの如く床をぶち抜いて生えてきた。
よく見たら早苗の隣に写ってた奴じゃないか。よーし、頭捻じ切ってオモチャにしてやる……。
「いけません諏訪子様! 早苗キーック!」
早苗!? どうして早苗が私の側頭部に飛び蹴りをかました挙句得意気にポーズなんか決めやがってああアッタマいってえ!
神奈子がその豊満なボディで受け止めてくれなかったら、今頃私は無様に昏倒してああ神奈子あったけえこのまま意識を手放しちゃおうかしらん。
「物部さん! 今の発言は現行法におけるセクシャルハラスメントに相当しますよ!」
「このような発言など全然大した事ないのである。我などはその昔太子様に向かって同時に十の淫語を発したことがあり、そのまま尸解仙の実験台にされてしまった程の猛者にして変態」
「物部に太子様、そして尸解仙か……どうやらお前さんの正体が見えてきたようだね」
ゴッドパワーが満足に使えないのにも関わらず、神奈子は敵の正体を見破りつつあるようだ。
さっすが私の嫁。っていうか私が嫁。抱いて! もう抱かれてるか。
「お前の正体はズバリ、物部一族を裏切って聖徳太子に味方した挙句、尸解仙となってつい最近復活を遂げた物部布都だろう。違うか!?」
「よくぞ見破った! 褒美として貴様にはメタリック旧一万円札を進呈す。使い道の無さに嘆くがよい」
単純にワードを並べただけだろうとか、どうして名前まで分かったんだとか、無粋なツッコミをする奴は神奈子が許しても私が許さん。
あの布都とかいう変態もろとも赤口さまで可愛がってやるから、後で私の部屋へ来るように。
「それにしても、何だって早苗がそんな奴と? 手紙には改宗したとか書いてあったけど……」
「申し訳ありません神奈子様。しかしこれは仕方の無い事なのです」
「左様。すなわち東風谷早苗は我が比類なき物部の秘術と道教の虜であり、ゆくゆくは我の嫁にしてマイハニーとなり物部守屋が復活す。喝ッ!」
「訳の分からんことを言うな! だいたい物部守屋ってのは何者だよ!?」
「諏訪子よ……そいつを知らないってのは歴史に対して無関心過ぎるのではなかろうか?」
ふん、おおかた中央の権力争いにでも敗れておっ死んだ負け犬か何かだろう。
そんなの私の知ったこっちゃないね。こちとらファックオーソリティ、ファックセントラリゼーションを地で行く土着神様だい。ファック!
「物部守屋は関係ないでしょう! いい加減にしてください! 神奈子様、この方に逆らってはいけません!」
「あのさあ早苗、私たちはそいつをSATSUGAIしに来たんだけど、逆らうなってどういう事なの?」
「何と無礼な口を利くのでしょうこのカエ……諏訪子様は! 早く謝ってください! 私はまだ死にたくありません! ヒー!」
早苗のやつ、何をそんなに怯えてるんだか。
うまうまと誘き出されてしまった事は認めるけど、正直言ってこの程度の相手に遅れを取るほど落ちぶれちゃあいないよ? 私も神奈子もね。
「神の失言は風祝の失言であり、東風谷早苗は甘んじて咎めを受けるべきである。アーメン」
「そ、そんな! お許しください物部さん!」
「もう遅い! ……ほうれ、我の白魚の如き指が貴様の淫らな口の中へと挿入されてゆくぞ? ん?」
「ふがふが」
「ここが犬歯、ここが臼歯でこちらが……親知らずであるか!」
こっ、この野郎……!
私でさえ早苗の親知らずに触ったことが無いってのに、よくもまあ目の前で堂々と……!
「お二柱とも動いてはならぬ。我はいつでもコヤツの扁桃腺に触れることが出来るのだ……この意味が分かるな?」
「さっぱりわからん。それとお前もオニチューかよ。この国の教育は一体どうなっておるんだ、怪しからん!」
「まあ待て諏訪子よ。早苗を人質に取られたとあっては迂闊な真似もできまい。まずはあちらの要求を聞こうじゃないか」
*おおっと*
流石は神奈子、冷静だね。
「我の目的はただ一つ。すなわち早苗を通じて守矢神社の力を手中に収め、しかる後に物部神道を復活せしめる事である」
「ああ愚かなる人間よ。不老不死の身となってなお力を欲するか」
「是非もなし。物部、守矢、そして道教の三位一体の力でもって、この世に比類なき物部帝国を築き上げるのだッ! どうだ! すごいだろう!」
あーはいはいうんうんすごいねーえらいねーおねーさん感心しちゃったよーうんうん。
ところでコイツもう殺していいかな? いやさ、餓鬼の誇大妄想に付き合うのって疲れるんだよねーホントに。やだやだ。
「お二柱にはその先駆けとなっていただこう。まずは幻想郷に巣食う仏教勢力の排除から始めようと思うのだが、如何かな?」
「命蓮寺の事かい? あいつらは気のいい連中だ。どうにか穏便に済まないものかねえ」
「否。仏教徒は存在そのものが罪であり悪。一列に並べてナムアミダブツすべき敵でありなさけむよう」
残虐行為手当でも貰おうってのかい、このアンチブディストスーパースターめ。
だが……面白いかもしれんね。こいつらと寺の連中をカチ合わせた上で、双方が疲弊したところをガツン! ってのもさあ。
まあ、この物部のお嬢さんもそれが狙いだったりするんだろうけど。
「私たちを利用しようたぁいい度胸だね。天は自ら助くる者を助くって言葉を知ってるか?」
「貴様は天というよりむしろ地であろう。それに今助けを求めているのは我ではなく早苗であるぞ。うりうり」
「ヴぉえぇっ、ヴぇっ!」
「その位にしておけ物部の。我らの力が欲しいのなら最初から素直にそう言えばよい。何も早苗を人質にとる必要などないわ」
おいおい神奈子、あんなチンケな脅しに屈してしまうつもりかい?
仕方ないと言えば仕方ないのかもしれんけど、流石に癪だねえ。
「この空間に施した封印を解くがいい。さすればすぐにでもゴッドパワーを与えようぞ」
「笑止! 封印を解いた瞬間我を攻撃するは必定であり危険。いわば君子危うきに地下駐車場であり騙して悪いが消えろイレギュラー。むむ、何かが間違っておる」
「私クラスの神が騙まし討ちなどするわけがなかろう。諏訪子じゃないんだから」
けっけっけ、騙まし討ちとか最高じゃん? 私なら喜んでやるよ。
って、いつの間に私はこんなダーティーなキャラにされたんだ。
「さあ、どうするね物部の。機会が二度君の扉を叩くなどと考えない方がよいぞ?」
「むう……そ、そこまで言うのなら、ちょっとだけ……」
「おい諏訪子、余計な手出しは無用で頼むよ」
うおっ、あの馬鹿マジで封印を解き始めやがったよ。
チャンス到来! とでも言いたいところだけれど、ここは神奈子の顔を立てて大人しくしていよう。
神奈子を怒らせると怖いもんね。三日は口を利いてくれなくなるんだ。
「ふう、こんなものでよかろう。さあ来たれ来たれ福音よ来たれ! 人を超え、尸解仙を越え、我は唯一無二の神とならん!」
「よろしい、ならば与えよう。八坂神奈子がゴッドのパワーで、勝利の栄光をキミに!」
「ふおおおおおおお比類なき力の高まりを感じるううううううううううぅ!?」
神奈子のゴッドオーラが、奴と早苗を包んでゆく。
いくら早苗を助けるためとはいえ、これはちょっと面倒な事になったんじゃないのか?
「これだ! このパワーで我は……ちょっと待った。力を得たのは我ではなくて……早苗だと!?」
「力を与えるとは言ったが、お前に与えると言った覚えは無いねえ」
「なんと! 謀ったな八坂神奈子!」
おおっ、流石は神奈子だ。やることがトコトンえげつない。
私の事を言えた義理じゃあないね……惚れ直したけどさ!
「今だ諏訪子、パワーを早苗に!」
「いいですとも!」
「ま、待て! 話せばわかる、話せばわか――!?」
早苗は口から手を吐き出すと、奴の喉を掴んで高々と掲げた。
よく見ておくんだね物部布都。これが私たちの風祝、東風谷早苗の真骨頂さ。
「んんんんんんんんんん、二柱キターーーーーーーーーーーーッ!」
「んゴゴゴゴゴゴっ、ば、馬鹿なッ!」
ざまあみやがれ。これでお前の変態道教プロジェクトも終了だね。
それにしても早苗よ、お前までニチューはねえだろニチューは。
「早苗、そいつを少々懲らしめてやりなさい」
「了解! 現人神早苗、タイマン張らせてもらいましょう!」
「こっ、このままでは我の生命が危険であり悲惨! たすけてアルゴマン!」
「いいぞ早苗! こっろっせ! こっろっせ!」
「……と、言いたいところではあるのだが、幸いにも神は寛容にして慈悲深い。お前が自らの過ちを悔いるというのなら、赦してやらんこともないぞ」
「あ、あれー? 神奈子?」
なんだよもう、ようやく面白くなってきたってのに。
「どうだ? 悔い改めるか?」
「く、悔い改める! 悔い改めるからこの殺人マシーンを止めてくれ!?」
「よろしい。早苗、そいつを下ろしてやりなさい」
「ヤボール、ヘル神奈子様」
なんだか早苗のキャラが訳のわからないことになってるけど、まあ今更か。
しかし神奈子の言う事は素直に聞くんだねえ。私の言う事なんかガン無視なのに。
「死ぬかと思った……もういっぺん死ぬかと思った……」
「ところどころ素に戻るんだね、お前」
「はっ……!? キ、キミの言ってる事がよくわからないなあ。私はいつでも自然体だよ? それに目上の人に対してお前とか言ってはダメ。言葉をキレイに使う習慣を身につけないとね」
「一生のお願いですから、いつものバグった物部さんに戻ってください」
「んゴゴーッ! 良くぞ申した若人よ!」
うおっ、コイツ立ち直り早いな。
まあいつまでも馴れ馴れしい喋り方されるよりはマシか。どっちにしろウザイのには変わりないけどね。
「まあ早苗も元に戻ったようだし、私たちは帰るとするかねえ」
「待つがよい守矢の神々よ。我はこの後どうしたらよいのだ?」
「その事についてなんだが……お前には我々と共に神社まで来てもらう」
「はあ?」
「はい?」
「んゴ?」
おいおい神奈子、こんな変態連れて帰ってどうしようっていうのさ。
神社の評判が落ちるよ? 百害あって一利ないよ?
まあ神奈子にも何か考えがあっての事だろうし、いざとなったら簀巻きにして捨ててしまえばいいか。
力が欲しけりゃくれてやる。
見返りはただ一つ、それすなわち神への奉仕。
ギブアンドテイクでリーズナブル。それが神様ってもんだよ、ベイビー。
「物部さん、四角いところは丸く掃くのですよ」
「むむっ、そうであったか」
「そうです。確実にそうです。さあ続けて!」
そんなわけで物部布都は現在、ウチの神社にて家事手伝いをやっている。
古代日本を牛耳ってた連中の一人とは思えん姿だが、奴さんどうあっても守矢のゴッドパワーを身につけたいらしい。
道教に転んだ身とはいえ、やはり物部神道とやらへの執着は捨てきれていないようだ。
それともあれかい? かつて裏切った一族に対して後ろめたい気持ちでもあるのかな? いやいや、そんな殊勝なヤツには見えないけどね。
「『三位一体の力』に『唯一無二の神』か。物部神道とはまさか……いやいや、流石に考えすぎかしら」
神奈子は神奈子で、なにやら難しい顔をして考え込んでやんの。
思案に耽る横顔はグッとくるものがあるけど、早苗がこっちに来るとき持ってきたトンデモ歴史本なんか読んでたら全部台無しだよ。
早苗のおかしな趣味が感染らなけりゃいいけど……もう遅いか?
「お次は料理ですが……物部さんは『調味料のさしすせそ』をご存知ですか?」
「うむ、調理に用いる五種の神器であるな。すなわち『酢酸・硝酸・水酸化物・青酸・その他の酸』の頭文字を取ったもの……だな?」
「甘く切なく酸っぱーい!? どうして酸まみれなんですか! それに『その他の酸』って、少々苦しすぎやしませんか!?」
「そのような質問に対して弊社では回答しかねるゆえ、代わりに貴様の服を酸でもって溶解せしめることとする」
「サ、サンダー!?」
まあ早苗も楽しそうだし、これにて一件落着かな。
「ウルァ! 郵便ですよー!」
突然、私の額に何かが突き刺さった。
窓を開けっぱなしにしておいた所為か? それとも室内だからといって帽子を脱ぐべきではなかったのか?
いや、悪いのはこのマザーファッキン郵便妖精だ。辞めてやるとか言ってたくせに、わざわざお礼参りに来たってわけかい。
「あて先は……物部さんですね。どうぞ」
早苗は何事も無かったかのように私の額から手紙を抜き取ると、そのまま布都に手渡した。
いや、少しは気を遣えよ。大丈夫ですか? の一言くらいあってもバチは当たらんよ? むしろ無きゃ当てるよ?
「おお、比類なき太子様からの御手紙である! どれどれ……『しばらくの間布都をよろしくお願いしますしますします(残響音含む)』」
「『せいぜいこき使ってやってくださいくださいください(残響音含む)』ですか。よかったですね物部さん」
ちょっと待て、なんだよ残響音って。
手紙にそんなもんついてたまるか。馬鹿馬鹿しい。
「主の許しが得られたようだね。まあこれからもよろしく頼むよ」
「承知した。本日の我は喜びの気分でありハピネス。したがって神奈子様の肩や腰やアレやソレなどをお揉みいたす」
「物部さん、セクハラは厳禁ですよ!」
楽しそうでいいねえ、あんたら。
まあ本日の私は少々お怒りの気分なので、このまま輪に加わるつもりは無いんだけどさ。
「おやおやー? 神様が一匹除け者にされてるですよー? プークスクス」
おバカな春告精め。とっとと逃げりゃあいいものを。
私は帽子を深く被り直して、窓の外でニヤニヤしている郵便妖精を睨みつけてやった。
「なーに怒ってるんですよー? わーいそーうしーりあーすですよー?」
「ファッキンやかましいわファッキン妖精が! 貴様のファッキンな尻とアスを嫌と言うほどミシャグジファックしてくれるわ!」
「おっとっと! ノロマなカエルにゃ春は追えねえんですよー!」
脱兎の如く逃げ去るヤツを追って、私は窓から飛び出した。
で、ケツバットは勘弁して下さい。
謀ったな!神奈子!
「ワアァァァァァァァァプッ!」(CV:神谷明)
相変わらずのタイトルセンスとテンションで安心した。
この布都ちゃん、予測変換機能がバグってね?
なんかでろでろみたいなテンションだなw
なんだこの中身は…たまげたなぁ…
何故か面白い……不思議。
この創想話の読者の★年齢層★が
気になって仕方ありません
もうこのタイトルは一生忘れることはないだろう
無駄に語呂とテンポのいい会話が腹立たしい…ケツバットキメて来ます。
(埼玉県 夕日丘の汁)
橋姫様にケツバットされたいんですが。
割と投げっ放しな感もありますが、7割ぐらい笑えたのでよしっw
うん、平安座さんのネタの源泉がどこからなのか聞きたいですね。なんか、ギャグなのに泣きそうです。
でも普通に全部読んでしまったのでケツバットよろです
>封印を解いた瞬間我を攻撃するは必定であり危険。いわば君子危うきに地下駐車場であり騙して悪いが消えろイレギュラー。
リズム良すぎワロタw
守矢神聖第三帝国の夜明けは近い。
うん