「あら、雨……」
瀟洒な従者は、ふと仕事中に外へ向けたその目で窓を打つ滴を見た。
どれだけやっても終わらない、館の1から10、端から隅々までを彼女が仕切っている。
妖精メイド達はそれはもう1から10までなんて数ではないが、量より質の問題。
最終的に彼女が目を通さなければ、8にも9にもならないのが日常茶飯である。
それともう1つ、彼女にしかできない仕事があった。
今はまだお嬢様達は寝ているし、図書館の方もあの子が見てくれているだろう。
窓は開いていないか、窓際に本なんて置いていたら紙が痛んでしまう。
目覚めの紅茶は何がいいかな、カーテンを閉めておかないと機嫌を損ねるだろうか。
あちらはちゃんと寝ているかな、また1日中時計も見ずに読みふけっているんじゃないか。
なんなら時間を止めてあげようか。
周囲への『気配り』は妖精達には難しいらしく、
その小さな頭をフル回転させても、ここまで気は回せないらしい。
結局、長である自分が行動派になるのは避けて通れない道なのだ。
しかし、それも彼女にとっては悩むところではない。
むしろ、妖精達に任せて不備があるのが目に見えているので、
自分がその任を請け負って仕えることができるのは両得というものだ。
だから、そんな心配の尽きない彼女にとって、
悩みの種である"彼女"のことは、どうしたって頭に浮かんでくるのだ。
「はい、お疲れ様」
そう言って、スッと細くまとめられた傘を差し出す。
「あれ、心配してくれてたんですか?」
そう答えて傘を受け取り、なんだか晴れ晴れとした表情の門番。
傘も差さずに屋外に立っていたのに服が濡れていないのは、彼女特有のワケがあって。
「すみませんわざわざ、お仕事中に。
でも私、体の表面に気を張ってて、雨には……」
「雨の中、傘も持たせずに門番を外に立たせていたなんて風評被害が出てもいけないし。
文字通り気疲れで、侵入者にいいようにされちゃぁ困るからね」
「そんなねずみぐらい捕って見せますよ」
「ねずみは1匹じゃ済まないのよ」
「全部捕まえるのが私の仕事ですから。あ、追い返した方がいいですか?」
「返り討ちにあってくれたらそれでいいわ」
「えっ……それって、私じゃなくて、ねずみのことですよね?」
「さぁねぇ」
今にも「ひどいですよ咲夜さぁん」なんていつもの台詞が飛んできそうな顔をして、彼女もゆっくりと傘を差した。
長身なせいで、膝から下はすぐに濡れてしまうが、本人は気にした様子もない。
それでも、持ってきた傘のおかげで変に気を使うこともなくなったんだと思えると、ちょっぴり顔がほころんだ。
もちろんその顔もバレないよう、すぐにごまかすのが瀟洒たる所以である。
「もうすぐお嬢様達が起きられるわ。
仕事も終わりだからって、気を抜いてないでしょうね?」
紅魔館の主は俗に言う夜行性である。
その吸血鬼という存在故に、また、妖怪の住む館という評判故に、
彼女が目を覚ましている時にそこへ近づこうとする者は少ない。
そもそも夜は大抵の者は寝ているので、よっぽどの物好きでもなければ侵入しようとしたりはしないだろう。
「毎日定時には終わらないじゃないですか、お嬢様の寝起きの気まぐれで」
「ならいっぺん私と代わってみる?起こす役も大変なのよ」
「え、遠慮しておきまーす……」
断るのが無難だろう。
なにせ、館内のあらゆる諸事を済ませて疲れきった後に、気難しい主を2人も起こさなければいけないのだ。
下手をすると、この雨の中、身ぐるみひとつで彷徨うより酷い体験をするかもしれない。
そっちも相当だけども。あ、フィクションですよ。
「でも ─── 」
そういって不意に空いた右手を握られる。
「代われるものなら、代わってあげたいですよ。
私にメイド長が務まるかはわかりませんが、
咲夜さんのお役に立ちたいという気持ちは……」
「なっ、ちょ、ちょっと、なにしてるの!?」
いつもの他愛ない会話だと思っていた。
だが頬は紅く染まり、唇は震え、手足は金縛りのように固まって、いつもの凛々しい従者の姿はどこかへいってしまった。
普段ならナイフのひとつでも頭に刺してやっただろうに。
門番は、手を離さない。
「ほら、手もこんなに冷たいじゃないですか」
「そ、それは水を使ってたからで……っ!」
握っている手がぼんやり光ったかと思うと、優しい温もりが感じられた。
詳しい原理やなにやらはわからないが、どうやら気を用いているらしいことはわかった。器用なものだ。
しかし、やはり動揺は隠せない。
無理矢理自分の右手を引いて傘の柄にかけた。
先ほどまでの温かさがまだじんわりと残っている。
実際、調理場での仕事や窓拭きなんかをしていたものだから、その温度差が余計に身に染みて。
「ほらっ、どうせあなたのその濡れた服も、あとで洗濯しなきゃいけないんだから。
余計な気を使わなくてもいいの」
「いえいえ、気を"遣う"のも、私の仕事ですから」
「そう。だったら、"気"を遣ってみたら?なにか私の為になるような」
少し皮肉めいて返してやった。
ちょっとツンっとした方が今は威厳が保てる。そう思った。
いや、無理にでもそうしないと、自分の傘で隠した顔を見られなくても……
門番は少し考えた後、幾分静かになってきた空を見上げて小さく笑みをこぼした。
「では、気を遣って、天"気"でも変えてみましょうか」
「……?」
こちらを向いてそう言うと彼女は傘を置いて一呼吸した。また気の膜を張ったらしい。
気を使えることは知っていたが、まさか天"気"まで操作できるなんて。
そんなこと、あの失礼な天人……いや、正しくはあの剣でなければ不可能だと思っていた。
ただの門番にできるのなら、毎日曇りにでもしてもらっている。その方がお嬢様も喜ぶだろうし。
かく言う本人はちょっとふざけた笑みで、それでいて真剣な眼差しを上司に向けている。
紅く染まっていた顔はほとんどいつもの色白な柔肌を取り戻していたが、目を合わせるのは避けるようにした。
「じゃあ咲夜さん、少し目を瞑っていただけますか?」
「……変なことするんじゃないでしょうね?」
思わず流し目で睨んでしまう。"変なこと"に対する期待を頭から消すために。
しかし彼女は笑顔のまま楽しそうに話を続ける。
「えぇ、"変なこと"ですよ。今から魔法をかけてあげます、得意ではないんですけどね」
「まったく……化かされてあげるけど、後であなたが化けて出ることになっても、対処しないわよ」
「えへへ、ありがとうございます」
仕方ないから早く済ませろといった素振りで目を瞑る。
どうせ今日はこのままお嬢様達を起こして、夜のお世話を始めようと思っていたのだ。
魔法の一つや二つ、かけられたところで仕事に支障はないだろう。
もう計り知れないほどの時間を、その任に費やしてきたのだから。
今更こんな魔法とは似ても似つかない輩の珍妙なまやかし程度で、私の日常は崩されまい。
そう頭の中で独り言をめぐらせていると、額にそっと何かが触れた。
ついさっき感じた温もりに似た、それでいて艶やかで細い、柔らかく優しい……
彼女の人差し指が、眉間にお邪魔していた。挨拶くらいして欲しいものだ。
そう、突然来られたら、また……
「もう目を開けてもいいですよ、咲夜さん」
「あ……っ」
どれだけの時間そうしていただろうか。
能力は使っていないのに、時は止まっていたようだった。
そっと離れていった指の感覚が妙に残り、寂しさから思わず声が出る。
言われて目を開いてから正常な視界を取り戻すのに少しかかった。
だがそれは、強く閉じすぎた瞼だけのせいではなかった。
2、3度瞬きをした後、視界に広がったのは一面を覆う紅い空の色だった。
それはもう、頬の火照りなど感じさせないほどに、紅。
次に気付いたのは、先程まで傘を打っていた雨音がすっかり止んでいたこと。
いつからそうだったのかわからないなんて、その辺は立派な魔法だったのかもしれない。
動揺してただけなんて認めたくなかったので、魔法のせいにしてしまうのだ。
やっぱり便利なものなんだなと改めて思う。
そして見つけたのは ───
「……へぇ、さすが虹色の門番さんね」
「それほどでもありますよ」
誇らしげな笑みをこちらに向け、やってやったと言わんばかりの顔が夕日に照らされていなくてもまぶしい。
一体何をしたのか。ホントに天気を操ってしまったのか。
そんなことを聞いては無粋な気もするし、実際問題はそこではないのだ。
きっと、門番には門番にしかわからない腹時計みたいなものがあって……なんて、考えるのもやめにした。
これが彼女なりの気遣いで、現に魔法にかけられてしまったのだからそれでいいのだ。
だから……
「美鈴」
「はい、咲夜さん」
役を終えた傘をたたみながら、やはり顔を見合すことはできずに。
そう、夕日が眩しいだけ。
「……ありがとう」
「いえ、こちらこそ」
見なくても分かる。その顔には満足げな表情。
声だけで分かる。うれしさのあまり、心の中でガッツポーズでも作っているであろうこと。
私には気は使えないけど、普段気を配っているだけあって、相手の心情は大体わかる。
彼女が本心から、素直な気持ちだけでこんな魔法をかけたこと。
時間を止めてでもここに留まりたかったが、今日はこれだけで十分あとの仕事も頑張れる。
他の皆には内緒にしておこう。向こうもそう思っているはずだ。
そんな、秘密の共有がうれしいから……
「また魔法、かけてちょうだいね」
「ええ、いつでも」
そう背中で語って、ぬかるんだ地面をいつものように優雅に歩く。
門番はそれを見送り、ひとつ背伸びしてもう一度遠くの空を見上げてみる。
「あ、咲夜さん、貸してくれた傘置き忘れてっちゃったなぁ」
さっきよりも陽は角度を落とし、
虹は、うっすらと消えていった。
END
瀟洒な従者は、ふと仕事中に外へ向けたその目で窓を打つ滴を見た。
どれだけやっても終わらない、館の1から10、端から隅々までを彼女が仕切っている。
妖精メイド達はそれはもう1から10までなんて数ではないが、量より質の問題。
最終的に彼女が目を通さなければ、8にも9にもならないのが日常茶飯である。
それともう1つ、彼女にしかできない仕事があった。
今はまだお嬢様達は寝ているし、図書館の方もあの子が見てくれているだろう。
窓は開いていないか、窓際に本なんて置いていたら紙が痛んでしまう。
目覚めの紅茶は何がいいかな、カーテンを閉めておかないと機嫌を損ねるだろうか。
あちらはちゃんと寝ているかな、また1日中時計も見ずに読みふけっているんじゃないか。
なんなら時間を止めてあげようか。
周囲への『気配り』は妖精達には難しいらしく、
その小さな頭をフル回転させても、ここまで気は回せないらしい。
結局、長である自分が行動派になるのは避けて通れない道なのだ。
しかし、それも彼女にとっては悩むところではない。
むしろ、妖精達に任せて不備があるのが目に見えているので、
自分がその任を請け負って仕えることができるのは両得というものだ。
だから、そんな心配の尽きない彼女にとって、
悩みの種である"彼女"のことは、どうしたって頭に浮かんでくるのだ。
「はい、お疲れ様」
そう言って、スッと細くまとめられた傘を差し出す。
「あれ、心配してくれてたんですか?」
そう答えて傘を受け取り、なんだか晴れ晴れとした表情の門番。
傘も差さずに屋外に立っていたのに服が濡れていないのは、彼女特有のワケがあって。
「すみませんわざわざ、お仕事中に。
でも私、体の表面に気を張ってて、雨には……」
「雨の中、傘も持たせずに門番を外に立たせていたなんて風評被害が出てもいけないし。
文字通り気疲れで、侵入者にいいようにされちゃぁ困るからね」
「そんなねずみぐらい捕って見せますよ」
「ねずみは1匹じゃ済まないのよ」
「全部捕まえるのが私の仕事ですから。あ、追い返した方がいいですか?」
「返り討ちにあってくれたらそれでいいわ」
「えっ……それって、私じゃなくて、ねずみのことですよね?」
「さぁねぇ」
今にも「ひどいですよ咲夜さぁん」なんていつもの台詞が飛んできそうな顔をして、彼女もゆっくりと傘を差した。
長身なせいで、膝から下はすぐに濡れてしまうが、本人は気にした様子もない。
それでも、持ってきた傘のおかげで変に気を使うこともなくなったんだと思えると、ちょっぴり顔がほころんだ。
もちろんその顔もバレないよう、すぐにごまかすのが瀟洒たる所以である。
「もうすぐお嬢様達が起きられるわ。
仕事も終わりだからって、気を抜いてないでしょうね?」
紅魔館の主は俗に言う夜行性である。
その吸血鬼という存在故に、また、妖怪の住む館という評判故に、
彼女が目を覚ましている時にそこへ近づこうとする者は少ない。
そもそも夜は大抵の者は寝ているので、よっぽどの物好きでもなければ侵入しようとしたりはしないだろう。
「毎日定時には終わらないじゃないですか、お嬢様の寝起きの気まぐれで」
「ならいっぺん私と代わってみる?起こす役も大変なのよ」
「え、遠慮しておきまーす……」
断るのが無難だろう。
なにせ、館内のあらゆる諸事を済ませて疲れきった後に、気難しい主を2人も起こさなければいけないのだ。
下手をすると、この雨の中、身ぐるみひとつで彷徨うより酷い体験をするかもしれない。
そっちも相当だけども。あ、フィクションですよ。
「でも ─── 」
そういって不意に空いた右手を握られる。
「代われるものなら、代わってあげたいですよ。
私にメイド長が務まるかはわかりませんが、
咲夜さんのお役に立ちたいという気持ちは……」
「なっ、ちょ、ちょっと、なにしてるの!?」
いつもの他愛ない会話だと思っていた。
だが頬は紅く染まり、唇は震え、手足は金縛りのように固まって、いつもの凛々しい従者の姿はどこかへいってしまった。
普段ならナイフのひとつでも頭に刺してやっただろうに。
門番は、手を離さない。
「ほら、手もこんなに冷たいじゃないですか」
「そ、それは水を使ってたからで……っ!」
握っている手がぼんやり光ったかと思うと、優しい温もりが感じられた。
詳しい原理やなにやらはわからないが、どうやら気を用いているらしいことはわかった。器用なものだ。
しかし、やはり動揺は隠せない。
無理矢理自分の右手を引いて傘の柄にかけた。
先ほどまでの温かさがまだじんわりと残っている。
実際、調理場での仕事や窓拭きなんかをしていたものだから、その温度差が余計に身に染みて。
「ほらっ、どうせあなたのその濡れた服も、あとで洗濯しなきゃいけないんだから。
余計な気を使わなくてもいいの」
「いえいえ、気を"遣う"のも、私の仕事ですから」
「そう。だったら、"気"を遣ってみたら?なにか私の為になるような」
少し皮肉めいて返してやった。
ちょっとツンっとした方が今は威厳が保てる。そう思った。
いや、無理にでもそうしないと、自分の傘で隠した顔を見られなくても……
門番は少し考えた後、幾分静かになってきた空を見上げて小さく笑みをこぼした。
「では、気を遣って、天"気"でも変えてみましょうか」
「……?」
こちらを向いてそう言うと彼女は傘を置いて一呼吸した。また気の膜を張ったらしい。
気を使えることは知っていたが、まさか天"気"まで操作できるなんて。
そんなこと、あの失礼な天人……いや、正しくはあの剣でなければ不可能だと思っていた。
ただの門番にできるのなら、毎日曇りにでもしてもらっている。その方がお嬢様も喜ぶだろうし。
かく言う本人はちょっとふざけた笑みで、それでいて真剣な眼差しを上司に向けている。
紅く染まっていた顔はほとんどいつもの色白な柔肌を取り戻していたが、目を合わせるのは避けるようにした。
「じゃあ咲夜さん、少し目を瞑っていただけますか?」
「……変なことするんじゃないでしょうね?」
思わず流し目で睨んでしまう。"変なこと"に対する期待を頭から消すために。
しかし彼女は笑顔のまま楽しそうに話を続ける。
「えぇ、"変なこと"ですよ。今から魔法をかけてあげます、得意ではないんですけどね」
「まったく……化かされてあげるけど、後であなたが化けて出ることになっても、対処しないわよ」
「えへへ、ありがとうございます」
仕方ないから早く済ませろといった素振りで目を瞑る。
どうせ今日はこのままお嬢様達を起こして、夜のお世話を始めようと思っていたのだ。
魔法の一つや二つ、かけられたところで仕事に支障はないだろう。
もう計り知れないほどの時間を、その任に費やしてきたのだから。
今更こんな魔法とは似ても似つかない輩の珍妙なまやかし程度で、私の日常は崩されまい。
そう頭の中で独り言をめぐらせていると、額にそっと何かが触れた。
ついさっき感じた温もりに似た、それでいて艶やかで細い、柔らかく優しい……
彼女の人差し指が、眉間にお邪魔していた。挨拶くらいして欲しいものだ。
そう、突然来られたら、また……
「もう目を開けてもいいですよ、咲夜さん」
「あ……っ」
どれだけの時間そうしていただろうか。
能力は使っていないのに、時は止まっていたようだった。
そっと離れていった指の感覚が妙に残り、寂しさから思わず声が出る。
言われて目を開いてから正常な視界を取り戻すのに少しかかった。
だがそれは、強く閉じすぎた瞼だけのせいではなかった。
2、3度瞬きをした後、視界に広がったのは一面を覆う紅い空の色だった。
それはもう、頬の火照りなど感じさせないほどに、紅。
次に気付いたのは、先程まで傘を打っていた雨音がすっかり止んでいたこと。
いつからそうだったのかわからないなんて、その辺は立派な魔法だったのかもしれない。
動揺してただけなんて認めたくなかったので、魔法のせいにしてしまうのだ。
やっぱり便利なものなんだなと改めて思う。
そして見つけたのは ───
「……へぇ、さすが虹色の門番さんね」
「それほどでもありますよ」
誇らしげな笑みをこちらに向け、やってやったと言わんばかりの顔が夕日に照らされていなくてもまぶしい。
一体何をしたのか。ホントに天気を操ってしまったのか。
そんなことを聞いては無粋な気もするし、実際問題はそこではないのだ。
きっと、門番には門番にしかわからない腹時計みたいなものがあって……なんて、考えるのもやめにした。
これが彼女なりの気遣いで、現に魔法にかけられてしまったのだからそれでいいのだ。
だから……
「美鈴」
「はい、咲夜さん」
役を終えた傘をたたみながら、やはり顔を見合すことはできずに。
そう、夕日が眩しいだけ。
「……ありがとう」
「いえ、こちらこそ」
見なくても分かる。その顔には満足げな表情。
声だけで分かる。うれしさのあまり、心の中でガッツポーズでも作っているであろうこと。
私には気は使えないけど、普段気を配っているだけあって、相手の心情は大体わかる。
彼女が本心から、素直な気持ちだけでこんな魔法をかけたこと。
時間を止めてでもここに留まりたかったが、今日はこれだけで十分あとの仕事も頑張れる。
他の皆には内緒にしておこう。向こうもそう思っているはずだ。
そんな、秘密の共有がうれしいから……
「また魔法、かけてちょうだいね」
「ええ、いつでも」
そう背中で語って、ぬかるんだ地面をいつものように優雅に歩く。
門番はそれを見送り、ひとつ背伸びしてもう一度遠くの空を見上げてみる。
「あ、咲夜さん、貸してくれた傘置き忘れてっちゃったなぁ」
さっきよりも陽は角度を落とし、
虹は、うっすらと消えていった。
END
明日は晴れって思えるとなんか気分が良いですよね。
この作品の咲夜さんと美鈴の遣り取りを見て、似たような気分になりました。
期待感というのかな? 明日も明後日も良い日が続くんだ、みたいな。
初投稿お疲れ様。素敵な二次でした。
>窓は開いていないか、窓際に本なんて置いていたら紙が痛んでしまう →紙が傷んでしまう
>下手をすると、この雨の中、身ぐるみひとつで彷徨うより酷い体験をするかもしれない
→〝身ひとつ〟でいいんじゃないかな? 或いは〝着の身着のまま〟とか
ほんわりふんわり甘いですな
夕方の虹はきれいで晴れ晴れしますね