とある日の午後。
朝からの雨で外に出る事もできず、なんとなく暇つぶしに図書館にでもと行ってみたら皆同じ考えだったらしい。
レミリア、フランに咲夜、さらには美鈴までもが勢ぞろいしていた。
とはいえ、各々やる事はなく(パチュリーと小悪魔だけは普段通りに忙しそうにしていたが)、本の文字を追うも頭に入らず、ページを捲っては前のページに戻る作業を繰り返していた。
暇に耐えかねたレミリアはパチュリーに「何か暇つぶしはない?」と尋ねたところ、返ってきた言葉がこれだった。
「線を一本? どういう事かしら?」
レミリアが問うと、パチュリーは本を読みながら答えた。
「説明が不明瞭だったかしらね。
まずは適当な紙と鉛筆を用意して――」
「用意いたしましたわ」
パチュリーが言い終わるよりも先に咲夜が各々の前に用意する。
時を止めるメイドに死角はなかった。
「それで、その紙に一本の線を描いてちょうだい」
「心理テストのつもり?」
投げやりな調子で言うレミリアだったが、鉛筆を握りしめてやる気十分なのは誰の目から見ても明らかだった。
主がやるのだから従者がそれに従わないわけにはいかない。
美鈴は読んでいた漫画を置くと、どんな線にするのか考え始めた。
「一本の線だけで何が分かるのかは後で言うわ。
後、紙は縦でも横でも好きなように。……はい、始め」
有無を言わさずに開始を告げるパチュリー。
「私はすでに結果を知ってるので遠慮させてもらいますね」
そう言ったのは小悪魔である。
何もしないとなると手持無沙汰になるためか、小悪魔は各々のカップに紅茶を入れに回った。
レミリアがふとフランの方を見ると、すでにこちらはすでにやる気十分といったところでうんうんと唸っている。
(これがどんな結果になるっていうのかしらね)
暇つぶしになるのかどうかは分からなかったが、面白そうなのは確かだった。
レミリアはうん、と独りで肯くと、どんな線にするのか考え始めた。
「はい、そこまで」
全員が書き終わるのを確認してからパチュリーが終わりの合図を告げる。
「直したい箇所はあるかしら? とはいっても、他を見て自分のを変えるのはもちろん無しだけどね」
反論の声は上がらず。
これで各々の線は完成という事になった。
「線なんだから皆同じでしょ?
さ、パチェ。これがどんなテストなのか説明してちょうだい」
「そうね……」
勿体ぶるパチュリー。
次に彼女が口を開けるまでは数秒といったところだったが、レミリアにはその時間が何倍にも感じられていた。
時計の針の音や、雨が屋根を叩く音がやけに大きく聞こえる。
「最初に言っておくと、これは心理テストでもなんでもないわ。
そうね。名前をつけるなら発想力を試すクイズかしらね」
そう言って、パチュリーは順々に描きあげた線を見ていく。
そしてレミリアのところで目が止まる。
「心理テストではないのだから、線を上の方に描いても真ん中に描いても下の方に描いても同じ。縦線でも横線でも同じ。もちろん長さも同じ。
レミィ、あなたは十点中一点というところね」
皆がレミリアの書いた線を見る。
堂々と、「これが私のカリスマよ」と言わんばかりに、紙の中央部分を突っ切るようにして横線が引かれている。右下にはご丁寧にサイン付き。
「ぐぬぬ……」
十点中一点と言われてはレミリアも怒りをあらわにするしかなかった。
「だって線でしょ? 線って言ったら、縦線か横線しかないじゃないの。
問題になるとすれば、どこに線を描くかだけじゃないの?」
「いいえ、違うわ、レミィ。
その証拠に咲夜と美鈴のをご覧なさい」
パチュリーに言われて、レミリアは仕方なく従者二人の描いた線を見る。
「なっ!?」
「発想力を試すクイズと言ったでしょう?
彼女らは線と言われて、レミィのように縦線や横線ではなく図形を描いたのよ」
咲夜が描いたのは○。
美鈴が描いたのは☆である。
咲夜の○はおそらくいつも持ち歩いている懐中時計の形だろうか。美鈴のは帽子についている☆マークからだろう。
二人にとって馴染みのある形とはいえ、線から図形を考え付くのは難しいと言える。
だが、これも間違いなく線であり、ただ線を曲げたり湾曲させただけに過ぎない。
「咲夜と美鈴は供に五点といったところかしらね」
「えへへ、咲夜さんと一緒だなんて嬉しいですね」
「何言ってるのよ、バカ」
ここまで説明されて、レミリアはようやくパチュリーの言うクイズの意味が分かってきた。
ただ一本の線を、レミリアのように引くだけなら五秒もあれば終わる。
だが、パチュリーは全員が終わるのを確認してから終わりの合図を告げた。
つまりはこのクイズは考えれば考えるだけ時間がかかるものであり、最初に書き終わったレミリアにはすでにその時点から点数が決まっていたのだ。
だが……。
ここまで考えてレミリアはふと思う。
(私の横線で一点。
咲夜や美鈴の図形で五点。
なら、十点満点はどんな形になるのかしらね)
線を描けと言われて思いつくもの。
横線、縦線、図形……。
複雑な図形になれば、確かに点数は高くなるかもしれないが、どうやら残ったフランが描いたものは図形ではないらしい。
では、フランは何を描いたのか。
「さて、残った妹さまだけど……。
これこそがこのクイズの模範解答というべきものね。十点満点よ」
「やった♪」
パチュリーに断言されて喜びを隠せないフラン。
対して、残りの三人はフランがどんな線を描いたのかに興味が集まる。
だが、フランは見せるのが恥ずかしいのか両腕で囲い込むようにして隠してしまう。
「フラン見せなさい!」
「や~だ。恥ずかしいもん」
「む~……!!」
姉妹の間に火花が散る。
普通の姉妹ならば――地底にいる姉妹ではなく、季節を司る姉妹の方――、姉妹喧嘩は微笑ましいものだが、この二人はとんでもない力を持った吸血鬼。
このまま弾幕勝負に発展されたら、図書館どころか紅魔館自体が崩壊しかねない。
パチュリーは嘆息をつくと、自分の領地を守るために口を開く事にした。
「妹さまが描いたのは絵よ」
「絵? 線とは何も関係ないじゃない。
パチェは最初に一本の線を描けと言ったはずよ。一本の線だけでは絵は描けないわ」
「……お嬢様、違います」
パチュリーの一言でフランの描いた線を察したのか、咲夜が口を挟んだ。
「何が違うのよ、咲夜」
「お嬢様、よく考えてみてください。
一本の線だけで描ける絵って、本当に何もありませんか?」
「ないから言ってるんじゃない。
一本の線で書ける絵って何? 線を曲げても真っ直ぐでも湾曲させても、一本の線だけでは……――あっ……」
「気づいたようね」
一本の線だけでは曲げても真っ直ぐでも湾曲させても、絵は完成しない。
だが一本の線を、あるところでは曲げて、あるところでは真っ直ぐにして、あるところでは湾曲させれば……。
そう、一本の線だけでも絵は描けるのだ。
「一筆描き、という事ね……」
「うん、その通りだよ、お姉さま。
私は一筆描きでお姉さまの絵を描いたのよ」
「フラン……」
咲夜や美鈴の時は悔しいとも思った。
だが、この時ばかりは悔しいとすら思わなかった。
一本の線と言われただけで一筆描きを思いつくとは思わなかった。それこそ発想の勝利というヤツである。
レミリアは、フランに対しては称賛を送ってもいいとまで考えていた。
「たしかにクイズはフランの勝利で間違いないわね。
でも、フランが描いた絵というのが私なのでしょう? 満点を取ったフランが一番に思いついた私こそが満点以上の出来という事になるんじゃないのかしら」
なんという楽観的思考……――とは誰もがつっこみたいところだったに違いない。
だが、それが誰にもできなかった。
なぜなら、フランの手から紙が離れて、偶然図書館に吹いた悪戯風によりテーブルの中央、皆の見える位置にまで飛ばされたからに違いなかった。
「ちょっ!? フランっ!! これのどこが私なのよ!!」
フランが描いたのは確かに一筆描き。
だが、レミリアの顔とはほど遠い『へのへのもへじ』(『じ』の点々部分だけリボンに変わっている)だった。
夕方になって雨が上がり、レミリアは気分転換も兼ねてテラスに出ていた。
ロッキングチェアーに身を任せながら、レミリアは先ほど行なったクイズについて考えていた。
「むぅ~……やっぱり納得いかないわ。
私が一点のはずがないじゃない!」
「私もそう思いますわ」
「咲夜?」
声がしたので振り返ってみると、そこには誰もおらず、視点を戻すといつの間にか咲夜が左斜め後ろに立っていた。
普通ならこの咲夜の行動に驚くところだが、レミリアは咲夜との付き合いも長いためにさほど驚いた顔を見せる事もなかった。
「咲夜も同じ考えかしら? そうよね、だって私が最下位だなんて何かの間違いでしかありえないものね」
「だって、お嬢様はわざと一点を取ったんですから」
「……何を言ってるのかしら?」
咲夜の一言に引っかかりを覚えて聞き返す。
相変わらず咲夜は無表情のままで、顔色からは心を読む事はできない。
「お嬢様が一点に対して、妹さまは十点満点。この結果はこの際置いておくとして……。
問題は私と美鈴の二人。
主より高い点数を取った従者はこの結果をどのように思うでしょうか?」
「自分の事なのにまるで他人のようなセリフね」
それは咲夜がレミリアに確認するための手段だった。
分かっていながらも、レミリアはそれに気付かないフリをしていた。
「常々感じていましたが、お嬢様の実力は私や美鈴よりもはるか上。天上の極み。
お嬢様と同じ地面に立つ事自体がおこがましいとまで思ってしまう程の雲の上の人物。
そんな方に対して、一点でも勝る事があったなら。
……それは間違いなく自信に繋がるでしょうね」
「咲夜が自信を持ったように?」
「いいえ、私はいつも通りですわ。
変わったのは美鈴。ほら、門番の仕事をちゃんとしてるじゃないですか」
「あら、本当。珍しい事もあるものね」
レミリアは美鈴に今日は雨だから門番は休みでいいと命令を出しておいた。
だからこそ、美鈴は図書館にいて一緒にクイズに参加したのである。
雨が止んだとしても、美鈴の事だから一日中休むと思っていたのに、レミリアの目からは鋭い瞳で周りを見張る美鈴の姿を捕える事ができた。
「ふぅ~ん、偶然にも私の結果が美鈴の自信に繋がったというわけね。
偶然とは恐ろしいものだわ。運命を操る私でさえも偶然には勝てないでしょうね」
「まだ謙遜なさいますか?」
「何の事?」
「お嬢様は偶然に一点を取られたのではなく、故意に一点を取られたのでしょう?」
レミリアはにやりと笑う。
まさかこの従者にそこまで気づかれていたとは……。
この驚きは、フランが一筆描きを描いた時より以上に値する。
「だって、お嬢様は紙に堂々と横線を引いた後にもう一つ描いてたじゃないですか。
一筆描きでご自身のサインを」
ザビエル見てぇ……w
ちなみに一筆書きでう○こを書いた私は何点でしょうか?…うん。人間として0点なんですね。分かります。
そして友人wwwwwwwザビエルはすげぇwwwwwww
んでもって一点もらった。とんちテストだったのね……。
加えて言えば、「一本の線」と文字を書くパターンもあるだろう。
うんっ、1点はないんだな!じゃあ似たような点数の100点をくれてやる!
たぶん二人とも一点かな。
あ、線だった……
1点でしたよこんちくしょう
オチも見事でした、面白かったです
最後の一行が最高だから100点を贈るよ!!
面白かったです。
これは良いカリスマ
正直、何を図るのかよくわからないクイズを出されて横一本&縦一本以外を書けというのは正直無理くさいと思うけど……w
私はレミリアと同じでした。でも曲線も最初に思いついたもん! ほんとだもん!
線を描くってだけだったらグニャグニャ曲げたりもありかなーと思ったらそれだった。
ええ!言い訳ですよ!1点だよチクショウ!
オチが凄い気に入りました
点数?点数……ですか?
1点ですが何か?orz
答えを聞く前だからセーフでお願いしたいです……。
隠れたカリスマおぜうは粋ですね
ともあれ意表を突かれた良いオチで、最後まで楽しめました。
オチが綺麗すぎですよコノヤロー!!www
みんな喜ぶんだ、1点はお嬢様とおそろいの1点だという事に
(名目上は)
最高でした!
最高のオチだったのでこの点数を
すごく楽しめました。
いいオチだ
でも自信を付けさせるためにわざと1点レベルのことをしたように見せかけた。という演出上仕方ないとはいえ、2本かいてるやん