※注意!!※
この作品は拙作『偽物の私』の続編となっております。
なので先にそちらを読んだ方が話についていけるかと思います。
それでは、よろしくお願いします。
ごーん……ごーん……
地霊殿の中に重く響き渡った鐘の音が、私に夜を告げた。
「……ああ、もうそんな時間ですか」
一日が経つのは早いわね……と、誰もいない部屋の中で呟いてみる。
やはり部屋にこもってばかりいると、時間の流れというモノはあまり感じないみたいだ。
お燐の言うとおり時計でも置いた方が良いのかしら?
私……古明地さとりはそう思った。
「……とりさまー。さーとーりーさーまー」
「……あら、お燐じゃない。どうしたの?」
「どうしたもこうしたも無いですよ。早くしないとお夕飯、冷めちゃいますよ?」
この赤い髪を三つ編みにして縛り黒い猫耳が着いているこの子の名前は、火焔猫 燐。みんなからはお燐と呼ばれている。
私のペットの中でもとりわけ頭が良く、いつも私だけでなく他のペットの事も気に掛けてくれるしっかり者だ。
「ごめんなさいね。すこし仕事が忙しくて」
「むぅ……本当に、身体だけは気をつけて下さいね?さとり様一人の身体ではないんですから」
「分かりました。私も後から向かうから先に行ってて。貴女がいないと皆が困るでしょう?」
「さとり様!私が言いたいのはそういうことじゃ……!」
「いいの。早く行きなさい」
「……絶対に来て下さいね?絶対ですよ!」
そう言うと、お燐は残念な様子で引き返していった。心を覗いてみても、私の事を心から心配してくれているという事が分かった。
「……さて」
私が再び一人になると、部屋には静寂が広がった。
ペット達の喧騒も、大切な肉親の声も、時計の針が進む音も、あの鐘の音さえも。
何も聞こえず、何も聴こえない。
私自身の鼓動の音だけが、ここに存在する唯一の音となった。
「何ですって?地霊殿に鐘を造りたい?」
「うん。ねぇ、いいでしょ?」
「ちょ、ちょっと待って。ちゃんと理由を説明なさい」
これは昔々の話。具体的には、お燐やお空がまだ人化の術を覚えていなくて、ただの猫と鴉だった頃の話。
わたしは、妹の突飛な発言に目を丸くしていた。
「えー?言わなきゃダメー?どうしよっかなー?」
「……こいし。あなたが本当の事を言ってくれないと、私は分からないのよ?」
「ふふー。お姉ちゃんはしょうがないなー」
私の妹……こいしは、私と同じ覚り妖怪でありながら心を読む力を手放し、かわりに無意識を操る程度の能力を身につけていた。
無意識を操る……傷つく事を恐れ、繋がりを断ってしまった妹はもう傷つく事は無くなった。しかし同時に、何も得る事も無くなってしまった。
私の能力をもってしても、こいしの本当の心は分からない。
こいしが何を思い、何を感じ、何を望むのか。
もっとも知るべき唯一の肉親なのに、何も分からない自分がいやに腹立たしく、憎らしかった事は今でもよく覚えている。
「あのね、地底って朝も昼も夜もなんにも無いじゃない?だからさ、せめて地底に住む皆にも、そういうのがあるんだって教えてあげたいの」
「……」
こいしが嘘を言ってはいない事は分かっていた。けれど、長年心を読むということに依存しきっていた私だ。その言葉が本心だと頭では分かっていても、覚り妖怪としての本能がそれを否定してしまう。信じなければいけないのに、信じ切れない自分がいた。
「……お姉ちゃん?」
「え?あ、ああ。私は良いと思うわ。やってみなさい」
「本当!?ありがとうお姉ちゃん!早速旧都の皆にも手伝ってもらおっと!」
「あっ……!」
……もう行ってしまった。無意識を操る事の出来るあの子は、能力さえ発動してしまえば誰からも認識される事は無くなる。恐らく今頃は、誰にも気付かれず旧都に行っている事だろう。
「……こいし……」
―…ねえこいし。あなたは一体何を考えているの?…―
―…閉じた瞳のその奥で一体何を見ているの?…―
―…あなたが望むモノっていうのは、私には教えてくれないの?…―
―…あなたと同じ様にこの瞳を閉じれば、私にもそれは見えてくるの?…―
―…ねぇこいし。わたしにはあなたの願いが叶えられないの?…―
―…ねぇこいし。教えてよ…―
―…ねぇ。ねぇったら……――――
「……んぅ……」
あれ?私は……
「……どうやら寝ちゃってたみたいね」
なんだか、懐かしい夢を見ていた気がする。
暖かくて、心地よくて、そしてとても、寂しかった。
声を嗄らして叫んでみても、手を伸ばしても届かない。
まるで掴んでも指の隙間からすり抜けていく、そんな感触。
「今って何時かしら?……ん、ふあぁ~あ……」
私は身体に残った眠気を覚ます為に背伸びをした。その瞬間……
ごーん……ごーん……
「あ……」
鐘が鳴った。
私の時間を告げるあの重苦しい鐘の音が、地霊殿に、地底中に響き渡った。
「……ふふっ。今がいつなのかお燐に聞く必要がありそうね」
私は寝起きと共に鳴り出した鐘の音がひどく面白い様に思え、自然と発した笑みを隠すことが出来なかった。
「さて、流石にこれ以上皆を心配させてはいられないかしらね……」
私は一通り身の回りの整理をすると、食堂に顔を出す事にした。
夢の中で垣間見た、何か大切な記憶を、無意識の奥に沈ませながら……
偽物の時を告げる、偽物の鐘が
真実を告げる時は、来るのだろうか……?
暖かな話で和みそして何処か共感出来ました
またの話も期待しております
分割するのも味があって良いけど、やっぱり、少し寂しいです。
期待して次を待ちたいと思います。
>ありがとうございます。世界観と登場人物の大半が病まない様に気をつけていきますw
幸密領亜様
>ご期待に添えられたようでなによりです。次回も相変わらずの低クオリティでしょうがよろしくお願いします。
sas様
>やはりなにか寂しいですよね……もう少し長く書ける様に努力していきます。
とーなす様
>文章をまとめる力が無い作者をお許しください。最終的には答えが見つかるように頑張っていきます。