逢魔ヶ時も終わりを告げ、夜の帳が下りる頃。
私はいつもの様に何も考えないで地上の世界をふらふらとしていた。
―…なんだ、もう夜が来ちゃったんだ…―
地底の世界とは違い、地上にはしっかりとした朝と夜との境界がある。
本物の太陽が昇り、本物の青空が広がり、本物の月が顔を出し、本物の星空が瞬く。
地底の様な偽りの世界では無い、本当の本物がある。
地底にも朝と夜はあるが、それは所詮偽物なのだ。
お空が地底を照らしてくれているお陰で、地底にも朝は来るし夜もある。
……旧都なんかは朝も夜も関係ないみたいだけど。あそこに住む鬼たちの辞書には休息とか安息とかいう文字は無いんじゃないかと思う。
天気も変わる。とはいえ、どうせ雪くらいしか降らない。秋の空は乙女の心並みに変わりやすいという話も聞いた事はあるが、地底には関係ないだろう。
―…嫌われ者たちの楽園、か…―
地底にある物は、全部とは言わないけど偽物が多い。はっきり言ってしまうと、地上の真似事だ。
地上に憧れて、けれど地上に行くことは許されなくて、それでも地上に憧れた嫌われ者たちの苦肉の策。行けないのだったら地上と同じの、それ以上の楽園をこの地底に作ってしまおうという子供の様な理屈。
その子供の理屈が今の地底を作りあげているって考えると、なんだか複雑な気持ちになる。
そりゃ、地底は地底で良い所はたくさんある。でも、こうして地上に出てみるとそれら全てが色褪せて見えてしまう。
嫌われ者たちの楽園。天国の模倣品。
もし妖怪の賢者様が、地上で私達を受け入れてくれるとしたら。
弱くて臆病な人間達が、私達の存在を受け入れてくれるとしたら。
私達は、一体どうするべきなんだろう?
今までされてきた事を全て赦して、また人間達と笑いあう?
それとも、復讐として人間達の全てを壊す?
それとも、何か新しい違う道を探す?
「……あははっ、やっぱり分からないや」
恐らく私のお姉ちゃんだったら、地底の皆の事を考えて地上で生きていく事を選ぶだろう。
自分の心に刻まれた深い深い傷を隠しながら、それでも一生懸命に生きていくんだろう。
「……あーあ。なんなんだろうなぁ。本当」
私は覚り妖怪。正確には、覚り妖怪である事をやめた覚り妖怪。
心を読むという重圧に負けて、逆に心を閉ざしてしまった臆病者。
おかげで心を読む事は出来なくなったけど、かわりに誰からも気付かれなくなってしまった偽者の覚り妖怪。
「偽物の楽園に生きる偽物の私、か……我ながらポエマーね」
詩集とか出したら売れないかしら……とかなんとかつまらない事を考えながら、偽物の私は今日も夜を往く。
傷を負う事を恐れて繋がりを断ってしまった私の心が、再び開く事はあるのだろうか。
私のこの閉じた瞳が、世界を映す時は来るのだろうか。
「ねぇどう思う?……答えてくれるわけないか」
瞳が喋るはずも無いのに返答を待つ私がひどく滑稽に見えた。
閉じた瞳は何も映さない。心も、世界も、自分自身も。
偽物の世界。偽物の私。閉じた世界。閉じた心。
偽物の私は今日もまた誰にも気付かれる事もなく、本物の世界に溶けていく。
それがまたひどく滑稽で、同時になんだか寂しい気がした。
しかし、興味を引かれる切り出し方だけに、盛り上がりもオチもなく終わってしまうのが残念。面白くなりそうな題材で一石を投じておきながらそこから話を膨らませたりこいしなりの答えなり結論なりが示したりしないのは、正直もったいない気もする。
ただ、掌編としてみればこういう作品でもいいかな、と思うし、うーん複雑。
だらだらと冗長になるよりは格段いいのですけれど。独自の文化というか誇りを持てない人達はさぞかし苦しいでしょうね。
恥ずかしながら一応(誰得かは分かりませんが)次回作も予定しています。構想をひたすら練り中なので待って下さるという心優しい方はよろしくお願いします。
それでは、下よりコメ返信です。
名前が正体不明である程度の能力様
>ありがとうございます。こいしらしいと言ってくださるだけで救われます。こいしかわいいよこいし。
奇声を発する程度の能力様
>ありがとうございます。シリアスな雰囲気を出そうとすると変に詩的になってしまうのが自分の癖なんですよね……
名前が無い程度の能力様
>ありがとうございます。自分の作品を見てくれた方全員が「なんかいい」と言ってくれるような作品をつくっていきたいです。
とーなす様
>ありがとうございます。とりあえずここからもう少し膨らましていきたいと思います。作者失踪とかいわれないよう頑張りたいです。
S_Kawamura様
>ありがとうございます。やはりもう少し長くしたほうが良いですかね……
長くなりすぎないような長さをめざして頑張っていきます。
ではなく
とてもいい
短いと自分の表現したい所を集中して書くことになるから、言いたいことが尖って見えます。
言いたいことがハッキリしていると短い小説を書くときは更によくなるんじゃないでしょうか。
次回作では誰かの考えに答えが出ることを期待してます
もっと読みたい、という意味で。
だから 続き はやく ください