は? そんなものはいない。
連日のように可愛い生き物の資料写真を取り寄せ、比較・検証してみたが、お嬢さまの全勝である。子猫からハムスター、果てはフランドール様まで、どれも及ばない。実は言うと最後のはかなりいい勝負をしたが、「妹様は可愛いというより如何わしい」とパチュリー様の指摘が有ったため、比較対象から外された。
晴れてお嬢さまは可愛い界の横綱である。
これ以上キュートにしたら危ない、そんな段階まで来ている。故に我々は、お嬢様のラブリーさを慎重に管理しなくてはならない。
万が一お嬢様の衣類などが外部に流出した場合、ロリコン趣味の汚染拡大は免れないだろう。
いや、もはや衣類どころか、匂いだけでもその危険性がある。すれ違い様、ふわっと鼻腔をくすぐる香水なのか体臭なのかシャンプーなんだかよく分かんないけど、とにかく女の子特有のいい香り。これが本当にヤバイ、マジでヤバイ。具体的には嗅ぎ過ぎると頭がやられてボキャブラリーが減るくらいヤバイ、結果ヤバイ以外の感情表現がぱっと思いつかなくなるヤバさなので、もうとにかく、何て言うか――ヤバイのだ。
私の語彙が危険領域へ突入しつつあるが、まだ持つだろうと悲壮な決意を固めながらのメイド業務。今日は寝室の清掃作業だ。
お嬢様はお部屋からして可愛いので、慎重にドアを開ける。
並みのメイドならばここで油断して、入ってすぐにある特大のテディベアを直視してしまう。その幼女力にひれ伏し、ロリコンの仲間入りだ。
だが私にかかれば、視線を逸らしながらの進入などお手の物、
『さくや、いつもおそうじありがとう』
……。
……あー。
この角度にメッセージカード置いとくのはないわ、ちょうどテディベアから目線外したトコにあんだもんなー。
もういいわ、ヤバイわ、ロリコンペドフィリアでいいわ私。負けたわ。堕ちたわ。
ハイハイ反則、名指しでお礼とかくんかくんか。
ああ、理性に別れを告げると、世界がこんなにも心地いいなんて。まるでベッドの上に脱ぎたてのドロワーズがあるかのように見える、ここまで楽しい幻覚を見れるならもっと早く壊れてれば良かった。
ていうかこれ本物じゃないか?
あれあれ、いいのかな。
ちょこんと。うー、と。ベッドの上に、無造作に放置された実在のドロワーズを確認。
この手のブツに遭遇できた時、頭に被ったり、持ち帰ったりするのが素人だ。一流のメイドたるもの、あえてドロワーズは見るだけで満足し、紛失してもまず気付かれない使用済みティッシュを、ゴミ箱からそっと拝借するだけで済ませるのだ。実にパーフェクトな流れ作業である、お嬢様にバッチリ見られた事を除けば。
「咲夜は偉いのね! それ再生紙にするんでしょう?」
やべ、むっちゃピュアな解釈されたせいで罪悪感バリバリ湧いてきた。
「そうですね。私の活力が再性されるので、ある意味では再生紙と表現しても差し支えないでしょう」
「へ、へぇ……?」
一瞬考えないと分かんないような、小難しくて回りくどい言い方をすれば大抵ごまかせる。
こうすればお嬢様は理解したフリを決め込みつつ、自分でも付いていける方向へ話題を変えたがるからだ。
「あー、そっち系ね。知ってたわ。二年前から知ってた」
「さすがで御座います」
「ところで今日の晩御飯、何?」
「B型の血液とO型の血液のムニエルです。どっちも液体なのでムニエルにしてもただの赤いお湯になるだけですが、名前が最高にお洒落なので幸せな気分になれます」
「むにえる……?」
この単語うろ覚えなんだ。どこまで可愛いんだろう、お嬢様は。
ムニエルとはガブリエル、ミカエルなどの同類でエンジェルでございます、とでもホラを吹き込んでからかいたい。それか入籍したい。しかし、今はそれどころではない。
まさか最初から寝室にいたとは。
近くで見るとこんなにきゃわいいとは。
さっきの危うい行動を細かく追及されたらどうしようか。
「で、そのティッシュだけど、」
「ムニエルの正しい意味、言えますか?」
「え?」
「ムニエルですよ」
「……知ってるわよそれくらい。えっと、ムニエルとはガブリエルやミカエルの仲間でね、その」
「お嬢様と発想がもろ被り!? 嬉しい、運命を感じる! ……失礼、変なタイミングで喜ばせないで下さい。知ったかぶりで誘惑できるなんて貴方ぐらいですよ」
「今のは私の過失なの?」
絶対にティッシュの話題には戻してやらない、絶対にだ。
この悲壮な決意が言外に通じたのか、お嬢様はそれっきりゴミ箱に突っ込んだままの私の手はスルーして下さった。視線はずっとゴミ箱に固定されっぱなしだったが、話題に上げるのは親切にも避けてくれたのだ。……全ての清掃作業が終わってから気付いたのだが、これは気遣った末のスルーじゃなくて、怖過ぎて深く追求できなかっただけだ。
「私は次の仕事がありますので。これにて」
「あ、ありがとう……」
さて。
芳しい寝室から出られたはいいが、全身からお嬢様の匂いがする。メイド達とすれ違う度、「ヤバイヤバイ」と聞こえてくるので致死量くさい。
一時間に嗅いでいいお嬢様の体臭には、制限を設けるべきだ。ここから先は性癖がロリに書き換えられます、という限度量が有ってだな。
定期的にお嬢様臭を近距離で吸引している私は、おそらく助かるまい。その内、常に幼女へ目を光らせる変態メイドさんになってしまうのだろう。
「変態、か。それはそれで楽しいのかもしれない」
「咲夜さん!?」
「――」
セクシャルな独り言を聞かれた時、どんな顔をすればいいのか分からなくなる。
しかもその相手が結構いいなと思ってた妖精メイドで、明らかに不審の色を浮かべていて、後ずさりなんか始めててもう最高。
二回くらい死ねる。
「あのー……その、咲夜さんにお願いがあるんです、けど」
「おどおど警戒してないで、いっそハッキリ気持ち悪いと言って欲しいかな! で、何の用でしょう!?」
「いえ、さっきのは咲夜さんの口から汚い言葉が出て興奮しただけなので、気にしないで下さい。それより、図書館が大変みたいで」
「詳しく」
「もうすぐ爆発します」
「詳しくってのはそっちじゃないんだけどな……え!?」
爆発オチ? 早くね? と振り返ってみれば、轟音と振動と、体に悪そうなもの全部含んだ黒煙。
どこに見せても恥ずかしい大人災である。
「パチュリー様が小悪魔とテキトーにイチャつきつつ、雑な手つきで淫らな薬の調合してたら盛大に事故った、なんて理由なら笑えるわね」
「完全にその通りです」
私は時々自分の勘がこの世で一番怖い。
その次にパチュリー様の倫理観が怖い。
「このレベルの爆発をもたらす薬品とは一体?」
「銀髪の人間にのみ反応して、いけない気分にさせる薬を開発してたらしいんですが、」
「それターゲットはもろ私よね?」
なんという事だ、私がそんないやらしい目で見られていたなんて。
普通に嬉しい。
されど今は咲パチュでお茶を濁している場合ではない、だってこっちまで熱風届いてるからね。
「逃げましょう」
それと貴方も私に気があるんですか、と妖精メイドに聞こうと思ったがもういない。あの子、飛ぶの速いな。
まあいいや、他人の逃げ足についてどうこう言ってる暇があったら私も避難――
お嬢様。
お嬢様はどうなった。
おそらく今の時間帯はお昼寝の真っ最中。果てしなく鈍い芸人体質のため、この騒ぎの中ですらベッドの中ですやすやというのも十分ありうる。
どうなんだ、吸血鬼ってこういうの大丈夫なのか、熱とか噴煙とか色んなあれとか。
考えるよりも先に体が動いた、走る、走る。
気が付けば寝室の前に立っていた。
いつもの無断進入の要領で、手早くドアノブを回す。
(やっぱりいた)
お嬢様は黒煙の迫る部屋で、座り込んでいた。
きっと恐怖に震えているのだろう。と母性をむき出しにして接近してみれば、例のゴミ箱を抱えながら「何かティッシュの量減り過ぎじゃね? 咲夜は何目的で持ち帰ってんの?」と余計な疑問に立ち向かっておられる。
やめろ。
それ以上、真理に近付くんじゃない。
「お逃げ下さいお嬢様!」
「咲夜?」
「ティッシュのことは忘れるくらいの勢いで逃げてください! この部屋にももうすぐ煙が来ます!」
「安心しろ、吸血鬼は熱や煙では死なない」
「ですが!」
「むしろ皆して大声で悲鳴上げてると、そっちの方がビクッとなって心臓に悪いから静かにしてちょうだい」
デリケートだ。
「爆発自体は気にしてないと。さすがスカーレット。夜のカリスマ。たまらず平伏したくなる肝の座り具合ですわ」
「ま、よくある事だし。慣れっこよ」
「そうなんですか?」
「そもそもこの館の従業員は、全員パチェの薬で性癖を百合にして寄せ集めたようなものだからな。急ピッチで濫造する都合上、薬品事故の頻度高いじゃない?」
例の淫らな薬って量産体勢に入ってんの?
「爆発ぐらいで騒ぐようじゃこの館でやっていけないわよ。咲夜は新人だから仕方ないけど、よく訓練されたベテランメイドなら慌てず騒がず消火作業に携わっているところね」
「ベテランメイド、一目散に逃げてましたけど」
「んー。ちょっとよく聞こえなかったな」
「妖精メイドって逃げ足凄いんですね。驚きました」
「……おい、そいつの特徴を言え」
「特徴ですか? 緑髪のおさげで、こう、全体的に守ってあげたくなるタイプというか、微妙におどおどしてるけど耳年魔で、休日は創作料理に励んでますねあの顔は。外見年齢と体型はちょうど食べ頃って感じ」
「そいつはメイド長だ!」
「えっ」
そうか。
さっきのあの子がメイド長か。普段何やってるのか不明瞭だし、仕事出来なさそうだし、そもそも胸元ばかり見てたから気付かなかった。
「……主の危機に駆けつけたのが、よりによって平メイドの咲夜一人か!」
お嬢様はぷりぷりと怒りを振りまきつつ、八つ当たり気味にベッドの上で跳ね回る。
さながらバウンドするキューピッド。全く悪魔に見えないビジュアルが、万人に愛されそう感を醸し出している。
いや、見た目だけではない。
この、脳髄に直接愛嬌を叩き込んでくる感じ……。
これは、匂いだ。
そう。お嬢様は汗をかいてらっしゃる。
激しいぴょんぴょん運動でフローラルな幼女臭を更に強めている。おまけにバカ煙の熱気でサウナと化した室内、お嬢様の体温は天井知らず。
このままではお嬢様の体臭が、館の外にだだ漏れだ。周囲数十kmはロリコン化を覚悟せねばなるまい未曾有の喜劇が発生する……!
「その無駄に愛らしい跳躍運動をおやめ下さいお嬢様!」
「いやだ! 私は怒っている!」
「私達の嗅覚神経を何だと思ってるんですか!?」
「なにそれ。知らない」
お嬢様の「しらない」は、舌足らずなため「しなない」と聞こえる。そのあどけなさに私が死にそうになる。
「馬鹿メイドめ! あの馬鹿メイドめ!」
充満する幼女臭。窓の外にはとっくに避難を終えてピクニック気分のメイド長達。
二択だ。
ここに留まり、お嬢様を落ち着かせてペド性癖の汚染拡大を防ぐか、外できゃっきゃうふふの輪に混じるか。
どうする、十六夜咲夜。どうする――。
「――まずは落ち着きましょう、お嬢様」
「なんですって?」
「咲夜はいつまでも御一緒ですよ。さ、ご機嫌を直して。本でもお読みしましょうか」
やっぱり責任感には勝てなかったよ。
「小火騒ぎは収まったようね」
「ええ」
「そうなる運命だったのよ。私には分かってたんだから」
お嬢様はただ一点、窓の外を見つめて語る。「この事故による幼女臭の流出はありませんって紙に書いてあるから安心です。あとチルノちゃん、メイド服の私ってどう? 抱きたい? 抱きたいよね?」と周辺住人へ言い訳しつつ色目を使うメイド長を、冷めた目で観察している。
「適当に雇った妖精をメイド長にしたのは間違いだったな」
「でしょうね。悪い子じゃないんでしょうけど、リーダーの器ではないというか、ぶっちゃけ薬品で百合っ子にして雇ってた時点で破滅は見えていたような」
眩暈、立ち眩み、その他色々の危うい後遺症に耐えながら返事をする。
私は嗅ぎ過ぎた。
もう完全に戻れまい。
でもいいのだ。
お嬢様のヒステリー運動を収めるのには成功した。幻想郷はペド臭の拡大から救われたのだ。
「咲夜。私の体臭を至近距離で長時間嗅いだ者は、最終的に『お嬢様ペロペロうひゃひゃひょほおぉ』しか言わなくなるというのは広く知られているが、」
「初耳です。そこまでやばかったんですか」
「あれ? ……えー、細かく症状を把握してたかはともかく、幼女臭の危険性は承知の上だった筈だ。なのに、何故この部屋に残った」
そりゃあ、この臭いを館の外へ漏らすくらいならばという、まあ照れ臭いがあれだ、責任感である。
「いいのか? 本当にこれでいいのか? 多分お前は一生ロリコンだぞ?」
「そうですね、私の嗜好は加速度的に壊れていくのでしょう」
「……」
「覚悟の上です」
この身は人間。半ば永遠に近い時間を生きる妖精メイド達に比べれば、一瞬に近い生涯。
どうせ残りの人生を変態さんとして生きるハメになるならば、余命の短い者が犠牲となるべきだろう。
「まあこの犠牲はかなり気持ちいいので、悲壮感ゼロですがお嬢様ペロペロうひゃひゃひょほおぉ」
「ふむ……そうか、よし」
「?」
「決めたわ。咲夜、今日から貴方がメイド長やりなさい」
「私が?」
「そうよ。で、あの妖精メイド長は解雇だ! 相応しい場で遊んでいればいい!」
何をしたいんだろうお嬢様は。私の働きぶりに関心したか、それとも出世というエサで釣っていやらしい事したいのか。たぶん後者だな。
「お嬢様……そんなに私が欲しいんですか」
「ん? よく分からんから話を先に進めるぞ」
「はい。ごめんなさい」
「お前は最も危険な現場に残り働いたが、前のメイド長は一目散に安全地帯へ逃げたあげく、遠くで弁明をしていただけ。そら、どちらの待遇を改善すべきかは、一目瞭然だろう?」
「なんと」
お嬢様の深い配慮に、身も震える思いである。
やはり紅い吸血鬼は、生まれながらのカリスマであったのだ――。
ナイスペド。グッドロリ。幼女臭はばっちりこちらまで届お嬢さまペロペ(ry
お嬢様が可愛すぎて何がヤバイんだかわかんないけどヤバイ。
私がロリコンなのはお嬢様のせいだったのか。私のせいじゃないんだ。なら仕方ない。
ていうか咲夜さん掃除に行ったんだったら拾い出さずにちゃんとゴミ箱カラにしろww
紅魔館から桃魔館に改名すべきだw
あとメイド大ちゃん可愛いよメイド大ちゃん
一行目から色々卑怯だww
しかし、美鈴どうしてんだろう?
いつの間にか風刺になっているこの感覚、うひゃひゃひょほおぉ!
後日、超高濃度のレミリア臭が含まれる瓶があちこちで発見されるんですね
お嬢様くんかくんか!
最初から最後まで飛ばし過ぎのテンションが気持ちいい
全てが面白くて
何か感動しました。
あと、やばい いろいろやばい 何か解らないけどやばい
あれ私も感染したのかな?
だってお嬢様の部屋にテディーベアがあったり、ひらがなで名指しの感謝状があったり 終いには体臭の描写やお嬢様の仕草で完璧に落ちました。
テンポもよく、ついコメントしてしまいました。
疲れた精神が回復しました。
もうロリコンでいいか!
パッチェさんェ……。
そして、俺も感染した。
なんかこう、ロリというよりは、もっとトンがった感じなんだよな・・・まさしく如何わしいという他無い妹様ペロペロふひゃひゃひょほおぉ
久しぶりにここまでテンポのいい変態咲夜さんを見た気がする。というかまあ咲夜さん以外にも変態ばっかりだったけど。
冥界の亡霊嬢&邪仙「1ダースくださいな」
お嬢様ペロペロうひゃひゃひょほおぉ? お嬢様ペロペロうひゃひゃひょほおぉ!?
お嬢様ペロペロうひゃひゃひょほおぉ!!
ロリコンの基準とはいったい
原発事故から遠くに逃げて弁明しているだけの東電幹部とのメタファーか?見事。
チェルノブイリの事故と同じだけ放射能シャワーなのに大丈夫という嘘まで東電と一緒、もっとも危険な原発に残って働いてくれた作業員の皆様≒咲夜さんでしょうか。
現実でも現場の人が即東電トップに行けばいいのに。
緑髪の食べ頃メイド長ってもしかして大ちゃお嬢様ペロペロうひゃひゃひょほおぉ!!
ここで腹筋がぶっ壊れたwwwww
面白かった