Coolier - 新生・東方創想話

『博麗霊夢』は八雲紫を愛している。

2011/10/30 11:39:24
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 ――作品閲覧について――
 この作品は切断、カニバリズム等、グロ要素を含みます。
 この作品は過去において、霊夢の母の人格を描いているので、微量のオリキャラ要素を含みます。
 この作品は八雲紫の過去、博麗大結界について、オリジナルの設定を含みます。
 
 苦手な方は、ご注意下さい。







――魔理沙――

 雨が降り出したようだった。私の心は後ろ暗いものを感じていて、目の前のアリスとは会話がないまま時間が過ぎてゆこうとしている。久しぶりの、それもアリスから誘ってくれたお茶会だというのに、アリスの方は特別気を遣っていない風で、手元の本に目を落としていた。
 特別何かがあった訳じゃないのだ。町を歩いているうちに家族に呼び止められて、ちょっと説教をされたくらいのことなんて、私くらいの年頃なら特別なこととは言わないだろう。
 最早家族と関わりがないとは言っても、母親は身体に気をつけているかだの食事は取ってるかだのとうるさい。うるさいのが母親というものだと分かってはいる。けど、私が嫌になるのは、今日はそのことを口にしてしまったことだった。
「……なあ、アリス」
 なあに、と言葉を返してくる。視線は本に向けられたまま。
「お前、家族っているか」
「家族? 魔理沙がそんなこと聞くなんて、珍しいわね。何かあったの?」
 アリスが本をぱたんと閉じて、私を見る。何だっていいだろ、と視線で語りかけると、アリスはくすくす笑って語り出した。
「私の家族は、もういないわ。捨てた、という形になるのかしら。永遠に生きられるようになる魔法を覚えた時……私は若くなかったけれど、それでもまだ家族は存命していたから」
「何で、家族を捨てたんだ」
「私が魔法を覚えたことで、家族に何か迷惑がかかったら嫌だったから。黙って家を出て、そのまま色んな所を渡り歩いてるうちに、幻想郷まで来たの」
 アリスは私の、不躾とも思える質問に言い淀むことはなく、すらすらと語って見せた。長い時間を生きているアリスにとっては、もう自分の中で消化してしまって、何でもないことなのかもしれない。
「……そうか」
「魔理沙は?」
 アリスが聞いてくる。興味を感じさせず、どこまでも優しく気遣うような語り口で。
「……もう、関係はないんだ。ないはずなんだけどさ」
 アリスはくすくすと笑い、紅茶を口に運んだ。
「関係ないってことはないわよ。どんなに関わりがなくったって、周りはそうは見ないでしょう。結局のところ、失礼なことを言えば、どちらかが亡くなれば最後に面倒を見るのはどちらかだし」
「そうなんだけどさ」
「私のことは、あまり語ってあげられないかもね。せめて、同じくらいの年で、同じように家族がいたら分かってあげられたかもしれないけど」
 そう聞いて、初めに考えたのは霊夢のことだった。
 霊夢。普段は嫌な奴じゃない、むしろ好きだ。でも、家族のことと合わせて考えると、嫌な感情が私を支配する。それは私が家族に向かって罵声を吐いたように、家族や霊夢の側ではなく、私側に問題のあることなんだろう。
「紫だとさ」
「何が?」
 アリスが聞き返す。唐突に出て来た名前は、アリスじゃなくても理解できないだろう。
『霊夢、お前、家族っていないのか?』
『紫よ。唯一家族と呼べる人がいるとしたら』
 以前、霊夢と交わした言葉。私との圧倒的な懸絶がそこにはある。霊夢と私の距離、紫と霊夢の距離……。
「霊夢のことだよ……あいつの家族は紫しかいないんだと。……私とは、分かり合えないさ」
 ふうん、とアリスは言った。特別興味はなさそうだった。


 初めて会った時のことだ。まだ幼い……今大人というわけでもないが、今よりももっと幼い私、そして幼いあいつ。大人びて整った横顔、風で舞い上げられた木の葉の向こう。箒を持ったまま立ち尽くす霊夢の見上げる先には、紫がいる。初めて紫を、霊夢を見たのは、そんな風景の中だった。
 その時は大した用事でもなかった気がする。何かの折、神社に挨拶をしに行く親父に、ついて行って顔を合わせた……そのくらいの。
 なのに、何故だろう。初めて会った時だからと言うわけでもないが、その情景だけはひどく心に残っている。あるいは憧れなのか。霊夢と紫、互いに特別であるような。
 二人が一緒にいるのを見るのは、むしろ珍しい。けれど時折会話に上がる度、べたべたと親密なわけではない、確かな繋がりがあるのを感じている。
 年を重ねるにつれて、同じくらいの年の霊夢とは一緒に良く行動した。宴会はいつでも出たし、そうじゃなくても暇があれば神社へと顔を出した。妖怪退治だって一緒だった。霊夢は私と同じくらいだというのに身の回りのことは一人でしていて、すごく立派に見えた。私が家を出たのは、家のことは勿論あるけど、霊夢への憧れもあった。憧れというか、ライバル意識というか……ずっと前から一人で生きている霊夢を見て、家の世話になっている自分を省みる部分があったことは確かだ。一人で生きるようになって、一緒に妖怪退治もするようになって、ようやく同じ所から物が見られるようになった気がする。
 でも、そんな時間を一緒にいても、私が霊夢と紫の間に感じている確かな繋がりの欠片すら、私には見えてこない。
 ……ふん。
 私は、霊夢に家族がいないのに霊夢自身が満足そうなこととか。自分の家族とうまくいかないから、霊夢に嫉妬と申し訳なさの混じった感情を抱いていることとか、霊夢と紫の繋がりに対する訳の分からなさとか……そんな感情をひっくるめて、私は霊夢の家族のことを調べることにした。
 それを知ってどうこうという訳じゃない。ただ、単純な好奇心だ。そのことを霊夢に言うつもりさえなかった。好奇心に裏打ちされた興味なんて、単なる自己満足だ。霊夢がいないと言っている家族のこと、それは単純に知らないだけなのか、それとも誰にも話したくないことなのか。私は単純に、霊夢と家族の間に、どういった因果があるのかを知りたいだけだった。
 それが、霊夢に対して失礼なことで、不快にさせるだろうことも分かっていた。
 私はそれを、自分の家との不仲を、理由にした。要するに……霊夢が、不幸であって欲しかったのだ。私と同じように。


「紫。紫。ゆかーりー」
 境内に立って呼んでみる。おそらく縁側にいるだろう霊夢には聞こえないように。だが、あいつは現れない。大抵境内で呼んだら出てくるのに。
「紫ー。紫-。ゆーかーりー。ロリコン-。紫-。」
「ちょっと。人聞きの悪いこと言わないでくれる」
 もっとひどいこと言わないと出てこないかなと思ったけど、案外あっさりと出てきた。とは言っても元々呼んだらあっさり出てくる奴だし、以外と優しくて構ってちゃんなのかもしれない。私は調子に乗った。
「ロリコンって何よ。大抵の子は何百歳と離れてるじゃない」
「少女偏愛主義者」
「言い方変えても一緒」
 それで、何の用? 紫は呆れたように言うと、私も本来の目的に戻ることにした。ふよふよと浮かび、空中で片肘をついて私を見ている紫。気の抜けたような呆れ顔でも紫の顔が整っていることには変わりなく、そこには一分の隙がない。隙がなさすぎて、逆に気味が悪い。そのくせ違和感が無いのだから、余計に。気味の悪さしか感じない美貌というのは、美貌と呼べるのだろうか? 私はそんなことを考えた。でも、今は関係ない。
「お前さ、霊夢と長く一緒にいるんなら、あいつのこと良く知ってるよな?」
 紫は半身をスキマから出した姿勢から、ふわりと地面に着地した。スカートの裾を払い、白い傘を広げる。気品すら漂う仕草さえ整いすぎていて気味が悪いのに、わざとらしい所がない。まるで紫のしている動作が、そのまま優雅という言葉を伴うような。
「ええ。貴女を知っている程度にはね」
「あいつの前って、あいつの母親が巫女をやっていたんだよな? どこに行ったんだ?」
 私はまず紫に聞いてみることにした。町の誰かに聞いても良かったが、どうせこいつの耳には入るんだろうし、なら直接言葉を交わした方が、ちょっとでも何かを得られるかもしれないと考えたのだ。私の何倍も生きているこの妖怪に、私程度で何かが読み取れるかどうかは、分からなかったが。
「……そうね……うん、霊夢にも言っていないことだけど、貴女になら話してもいいかしら……どのみち、後々霊夢には言わなきゃいけないことだし……」
「何を、意味深な行動をしているんだ?」
「ううん……やっぱり、あなたを巻き込む訳にはいかないわね……この最終戦争に。あなたには、霊夢を守ってもらわなきゃいけないもの……」
 うっすらと目に雫を光らせながら、思わせぶりに背を向けて、横顔だけを私に見せている。私はそんな臭い演技じみたものをされる度に、どうでもよさに心が冷えた。
「……いや、霊夢の母親の話がどうして最終戦争になるんだ? そういうのはいいから」
「そうね、最終戦争のことは置いておいて。霊夢のこと? あまり、知らない方がいいことなのは事実よ。命を失うかも」
「いやほんとにさ、私はそういうの求めてないから。知ってるなら早く教えろよ。知らないならそれでもいいし、知ってるけど教えられないならそれでいいしさ」
「私よ」
 ざあ、と風が吹いた。私は黙っていた。軽口にしてしまうと、まるで本当のことのように思えてしまうからだった。口を開いてしまえば、私は眼前の言葉を真実にしてしまう……けれど、私は沈黙に耐えきれず、口を開いてしまった。紫の表情は、さっきまでの哀しみの演技から、うっすらと微笑みを浮かべたものに変わっている。全く違和感のない気味の悪さが際立つ。微笑みなのに微笑みじゃない。本質を見透かした上で、全て嘘にしてしまう現実感の無さ。
「……ふざけてないで、早く言えよ」
「あら。信じていないのね」
 紫の微笑みは……ゆっくりと歩み寄ってくるかのようで、私の意志を無視した恐怖を感じさせた。当然だろ、と何とか口にして、視線を中空に逸らし、長い息を吐く。
「……もういい、時間を無駄にした」
 紫は何も言わない。ただ湖面のように静かな微笑を私に見せている。その整った笑みが、どこまでも純粋なものでありながら、ひどく醜悪で心地の悪いものに思えて、私はそれに耐えきれなくなったのだ。
 居心地が悪い。私は、箒に跨がって僅かな滞空のあと、ゆっくりと飛び立った。私は振り向かなかった。紫が視線を外さぬまま、私を見つめている気がして。
 気持ちが悪い。喉の奥……乾きで張り付いているような違和感が、私の側に寄り添っている。


 私が追い立てられるように向かったのは紅魔館だった。門番と軽口代わりの弾幕を交わして、屋敷に侵入する頃には、いつもの自分らしきものを取り戻すことが出来た……ように思う。
 長い廊下で待ち受けていた十六夜咲夜の足元に、わざわざ運んできた、ぐったりしている門番を放ってやる。
「いよう、メイド服。これは土産だ、ありがたくとっときな」
 咲夜は不機嫌に足元のそれを見下ろしてから、ゆっくりと私に向き直った。同時に、私は横っ飛びに、自分のいた場所から逃れた。空中から生じた無数の刃が、私のいた場所を切り裂いて飛び抜けていく。流れ弾に飛んできたナイフを、私は乱暴に箒の柄で払った。
「ご挨拶だな」
 咲夜が一本のナイフを構えて、投擲する。崩れた体勢の私目掛けて飛んでくる刃を、私はぎりぎりの所でかわして、一気に前へと踏み込む。箒に魔力を集めて、前方に指向させる。咲夜がふう、と疲れたように溜息をついて、猛進する私を一歩を踏んで避けると、私に向かって、隠し持っていたナイフを投げた。
 この距離では躱しようがない。瓶を放り投げ、眼前に飛来するナイフごと消し去って、ミルキーウェイの弾幕をそこに生じさせる。咲夜の眼前で発生させた光の乱反射が通り過ぎると、傷一つない咲夜がそこに立っていた。全く、厄介な代物だ。時止めで、弾幕を回避するっていうのは。私達は正面から互いを見たまま、動きを止めていた。
「……そろそろ、いいかしら。何をしに来たの?」
「なんだ? いきなり攻撃を止めるなんて、らしくないじゃないか」
 ぱちん、と指を鳴らすとそれまで辺りにばらまかれていたナイフが一瞬にして消え去った。ぱんぱんとスカートの裾を払って、私に向き直る。
「挨拶よ、ただの」
「お前の国の挨拶では人が殺せるのか?」
「挨拶に巻き込まれて死ぬことは、ままあるわ」
 いつもの態度だ。咲夜は私の先に立って歩き始めた。
「いつもなら私になんて構うこともないのに、今日は魔理沙の方が妙に付き合ったから、相手をしただけ……それで、何の用? あまり、貴女にかかずらっている時間も、そうある訳じゃないのよ」
「ああ。お前が、いつから幻想郷にいるのかは知らないけど……霊夢の母親のこと、知ってるか?」
 咲夜がちらとこっちを見て、それから何事も無かったかのように正面に向き直った。
「少し、座って話しましょうか。短く済ませられる話ではないから」

 談話室の一つに机と椅子、紅茶を二つ揃えて話す準備を整えると、咲夜はぽつぽつと話し始めた。
「それで、巫女の母親? 知ってるわよ……お世話になったもの」
「お世話に? 一体、どういうことだ」
 ふう、と咲夜は溜息をつき、
「今はね、お嬢様も妹様も小食になってしまったから、していないけれどね。お嬢様の食事は、里から得ていたの」
「……お前らがそういう奴だってのは分かってる。自分の身は自分で守るべきだってのもな、続けてくれ」
 だが、化物には化物のルールがある。妖怪の領域に侵入したら、食われる。そうしたルールを無視して、咲夜は安全圏の町中から食料を集められる。
「それで、博麗の巫女と諍いになって……私も、お嬢様も惨敗。力量は、今の巫女とは比べものにならない。私達の戦いはスペルカードもなく、ただの殺し合いだった。……そう、あの頃の妖怪と妖怪を退治する人間の関係は、どちらかが死ぬまでの殺し合いだった。私達はまだ死んではいなかったけれど、私は巫女に呼びかけた。
『ならば、妖怪は……人間の血を糧に生きると定められた妖怪は、死ねというのか』
『違う』、と巫女は言ったわ。『弱いから死ぬ。貴様らは弱い者を糧にし、そして貴様ら自身も弱いから死ぬ。生き残りたいならば、私を殺してしか、道はない』」
「迫力が違うな。信じられないぜ、あの霊夢の母親が?」
「時代が違った……と言えばそれまでのことね。私は手を突いて、懇願した。
『ならば、……私達に、生き延びる道を与えてほしい。里の人間には手を出さない。幻想郷の人間に傷を付けることはしないから』
『……貴様は、まだ人間。常軌を逸してはいても、まだ、私が守るべき、人間。その人間がなぜ、吸血鬼などと妖怪を庇護する?』
『私の、大切な人だ』
『……それで? 以後、血を吸わないと、どう誓う』
『いえ、血を断つことはできない。……里の人間には、手を出すことをやめる』
 そう言って、私は巫女に協力を願った。巫女の持つ、境界を操る力に」
 紅茶をすすりながら、咲夜の言葉を慎重に聞いた。『強大な力』『境界を操る力』……まさか、紫の言っていたことは?
「私は、巫女の空けた穴から幻想郷の外に出、必要な分の人間を狩って、戻ってくることを繰り返した。巫女は、それ以上何も言わなかった」
 外の世界、か。外の世界で人間を狩る。神隠し。外の世界に迷惑をかけるというのは、どんなものなのだろう? 私には想像もつかなかった。私も幻想郷から出たことのない、狭量な人間だということだ。そもそも、外の世界に対する認識すらおぼつかない。
 それを、前の巫女……霊夢の母親が許す。協力すらする節さえある。今の巫女の姿とは、全く重ならない。むしろ、その無慈悲さ、冷酷さは、やはり、霊夢に近い、けれど別の人物を思わせる。
「……それで、今は?」
「さあ? お嬢様が小食になってから、事足りるようになってしまって。今は巫女には協力してもらってないから」
 紅茶を口に運ぶその仕草は、屋敷の主なんかよりもよっぽど優雅だった。
「つまり、どうなったのかとか、今どうしているとかは……」
 片手で、知らないのジェスチュア。ふう、と私は息を吐く。



 咲夜は思う。前の巫女が外に続く境界を開き、咲夜を送り出す時にかけた言葉。
『ありがとう、殺さないでくれて』
『……私は幻想郷の人間を守る。幻想郷のことが守られれば、他の世界など、知ったことか』
 愛情は差別だという。一つのものを愛すると決めることは、他のものはそれよりも一つ下の存在だと、決めてしまうことだ。この巫女は、他のことを見捨てる代わりに、この幻想郷全てを守ると決めたのだ……たった一人で。
 十六夜咲夜が、全霊をかけて主を守ると決めたように。
「魔理沙に、巫女のことを教えたの?」
 咲夜の敬愛すべき主人……レミリア・スカーレットが、窓際に立つ咲夜の元に歩み寄る。魔理沙が飛び去っていくのを、二人は見送った。まるで、葬送のように。
「……ええ。お嬢様」
 レミリアは何も言わず、一つ身震いをする。過去に言われた言葉がレミリアの中に蘇ったからだった。
『貴様に一つだけ、言っておくことがある。もし霊夢に、本当のことを言ってみろ。これまで貴様が生かされてきたことを、後悔させてやる』
「咲夜……私は、あいつらが……恐ろしい」
 自らをかき抱くようにするレミリアを、咲夜は何も言わず、抱き寄せた。レミリアの恐怖は、咲夜も同じように感じている。


 咲夜の話は、霊夢の母親について衝撃的な人格を私の中に描いたが、その頃の妖怪と人間の関係からすれば驚くことではない。むしろ私は、霊夢と母親の関係を知りたいのだ。それよりも、私の中で、霊夢の母=紫という思い込みが大きくなっている。咲夜と話した次の日、私は、白玉楼へと向かった。私が知っている中で紫の友人は、あいつだけだ。
庭師が私を出迎える。
「おや、珍しいですね。あなたのような人が此処に来るのは」
「ああ、まあな。私もたまには気分が変わることもあるのさ。お前の主人は?」
 箒から降り立ってきょろきょろと見渡すと、妖夢は頭に巻いた手拭いを取って、髪をさらりと流し、スカートをはたいて私の先に立った。
「幽々子様は、少し探さなければいけませんから……とりあえず、客間へどうぞ」

 妖夢が茶を入れて出て行ってから、私は退屈な時間を過ごした。待たされる、自分の自由にならない時間ってのは私は一番嫌いだ。
 開け放しの縁側からは、綺麗に整備された庭先が見える。冥界っていうところは、空気が澄んでるのか、色彩が何もかも白く薄い。無菌に近く清潔だってのは聞いたことがあるけど、それってどうなんだろう? 外に出た時、途端に風邪になったりアレルギーで死んだりしないんだろうか? もし映画の結末とかでそんなことがあったら、ひどいオチになってしまうな。
 そんな下らないことを考えるほど、長い時間の後に幽々子がふらふらと入ってきて、私の前にしなりと座った。後からついてきた妖夢が幽々子のお茶と、私のお代わり、それから互いの前にお菓子を置いて失礼しますと頭を下げた。
「お待たせたわね」
「ああ、待ったよ。久しぶりだな。それで、単刀直入なんだけど」
 幽々子は私に返事もせずに、豆餅をあむあむと食べ始める。私は気にせずに切り出した。
「お前さ、紫の友人だよな? それで、聞きたいことがあるんだが」
「そうねぇ、もう何百年も寄り添っているから。友人みたいなものねぇ」
 食べながら喋っていても、声に全く濁ったものがない。奇妙な癖だと私は思った。
「霊夢と、紫の関係は一体何だ?」
「言えない」
 一言だった。知らない、のではなく言えない。
「……追求しても、一緒だろうな?」
「ええ」
 食い下がる隙間もなかった。
「じゃあ、こうしましょうか。あなたが質問する。私がイエスかノーで答える。5回ノーと言ったら、私は帰る」
「いや、お前が帰るかどうかはどっちでもいいけどな」
 オーケイ、じゃあ聞くぞ、と一呼吸を置く。
「……紫は、霊夢の母親である」「ノー」「何らかの関わりがある」「イエス」「恋人関係」「知らないわよ、そんなの」「霊夢の母親と紫は、友人」「ノー」「霊夢の母親は、紫の娘」「ノー」「霊夢の母親は、まだ生きてる」「ノー」
「ちょっと待った!」
 自分の分を食べ終えた幽々子が私の分に手を伸ばして、私がその手を払うと妖夢を呼び始めた。
「霊夢の母親は、もう生きていないのか?」
「イエス」
「もうイエスノーゲームは終わりだ、そのことを詳しく教えてくれ」
 妖夢がもう一皿お菓子を運んできて、厚切りの桜羊羹を竹の楊枝で食べ始める幽々子に問いかける。
「詳しくったってねえ」
 幽々子は困ったように頬に手を当てる。
「死んだ人には色々あるものよ。あっという間に過ぎ去っていく人もいたら、のんびり時間をかけて惜しむ人、恨みに恨んで後ろを向いたまま過ぎてゆく人。あっという間に過ぎていく人ならまだしも、ゆっくり過ぎていく人のことを語るのは失礼だわ」
 もっちもっちと羊羹を噛みながら幽々子は言う。言葉の淀みなさは最早特技と呼べそうだ。
「それで、霊夢の母親は」
「あっという間に逝ってしまったわ。それに、余程現世での形を忘れてしまうほど、形を失ってしまったのか、とても人とは呼べない姿で消えていったわね。猛獣に食べられたかのような」
「そんな死に方をしたってことか?」
 ええ、と幽々子は言う。霊夢の母親の凶悪な強さは、咲夜に聞いた通りだ。紫と同じように境界を操り、あのレミリアと咲夜の二人を圧倒するほどの力を持つ存在……どんな妖怪にも遅れは取りそうにもない。
「一体、何があったって言うんだ?」
「言えない」
 幽々子は律儀に答えた。もう羊羹もなく、幽々子はお茶をすすっていた。
「言ったって、同じことよ」
 幽々子はふと優しい目をして、言った。私は邪魔をしたなと言って立ち上がり、庭先からそのまま飛び立った。

「慌ただしいこと」
 幽々子は、背中を見せる魔理沙を見て、そう呟いた。
「まるで、燃え尽きる前の蝋燭のよう。生き急ぐと、あんな風になるものかしら。あなたもそうなの? 妖夢」
 突然話しかけられた妖夢は、自分がそこにいることを幽々子に気付かれていると思っておらず、身体をびくりと震わせた。
「は、はい。でも、どういうことでしょう。魔理沙が霊夢のことに固執するというのは」
「妖夢、長生きのこつを教えてあげましょうか?」
「え? ええ、はい」
「それはね、妖夢。一度死んでしまうことよ。でもね、それも難しいの。ちゃんと形を残して死なないと。形を失ってしまえば、二度とあなたには戻れないわ。それは別のものよ。私が形を残していられるのは、一重に私の強靱な精神が……」
「あの、死んでしまうのは長生きとは厳密に違う気が」
「なら、もう少し簡単な方法を教えてあげましょう。人の世の中でも役に立つものよ。『他人の秘密に深入りしない』ね、簡単でしょ。だから、霊夢にも、魔理沙の秘密にも、深入りするのは止めときなさいな」
 それきりお菓子を無心する幽々子から、妖夢は思考を逸らした。
 そうだろうか。むしろ魔理沙が深入りしようとしているのは、紫様の秘密なのではないだろうか。でも、妖夢は今し方幽々子に言われたばかりのことを思い出す。妖夢は深入りしないことにして、魔理沙のことも、紫のことも忘れ去ることにした。
 けれど、命を捨てる場に立つこと。師の教え。それは、幽々子様の言葉とは、重ならない気がした。


 魔理沙は永遠邸に来てから、はて、と思った。ここにいる連中が、霊夢は元より、霊夢の母親になんて興味を持つだろうか? それはそれとして永く息をしている連中なら、駄目で元々、知っているかもしれないと私は何気なしに足を踏み入れた。無駄足なら無駄足でいいのだ、元々全てが無駄足のようなものだと私は自嘲気味に思った。
 予想通り、輝夜も永琳も、知ってなかったし興味もなさそうだった。だらだら話して家を出て、これからどうしようかなあとぼんやり考えた。飛び立つ前に行く先をさて、と考えていると、竹林をがさがさ言わせて誰かが出てくる。
「お」
 そこに立っていたのは藤原妹紅だった。
「一度会ったな。えーと……」
 妹紅は私のことを覚えてないようだった。それもそうだ、満月の夜に、一度会っただけの関係だ。とは言っても、一度だけの関係でも、忘れられる訳もなかったが。
「魔理沙」
「そうそう、魔理沙魔理沙」
妹紅は自分に刷り込むように言った。覚えとくよ、と気怠そうに言って、私の側に佇んだ。
「あー……迷ってる? 出れないなら送ってくけど」
「いや、困ってない。それよりさ、妹紅は霊夢覚えてる? ほら、あの巫女服の」
「んあ? ああ、思い出した。あの紅白の奴だろ、私はあの後ろにいた奴の方が気になったけどな」
「そいつのさ、母親のことを調べてる。お前さ、長く生きてるんなら何か知ってたりしない?」
 妹紅はちらりと私を見て、ポケットから煙草を取り出した。両切りの、身体に悪そうなそれを一本抜いてくわえ、火花を飛ばして火を付けると長い煙を吐いた。
「まあ、寄ってけよ。立ち話で済ませるには長い。夜を明かせるほど長くはないけど」
 妹紅のざっくばらんな所は好きだ。私自身も近いところがあるからかもしれない。こんな風に話せてしまうこと、それも会って二度目の人間、しかも一度目は撃ち合いをした同士の間柄でも。

 妹紅は背の低い机の前に、乱暴に座布団を投げ出し、自分は座布団もなしに壁を背にしてもたれるように座った。
「何から話そっかな。まあ、端的に言ったら簡単な話なんだけど……私、前にあいつを焼いてやったんだ」
「あいつって?」
「あー……あの鬼強い巫女服。その、前に会った霊夢の母親か祖母だかは知らないけど」
「焼いた?鬼みたいに強かったんだろ?」
 妹紅は吸い切った煙草を指先で揉み消して、机の上の灰皿に押しつけた。吸い殻がうずたかく積もっている。
「あー。鬼強かったよ、もうあらゆる手段で殺された。スペルカードだったらとっくにやられてたくらいの時間、私達は殺し合ってた。仕舞には殺さずに生け捕りにしようとしてきたから、その度に自分で焼いて灰から再構成した。厄介な奴だったよ、全く」
 向こうからすれば。同じ台詞を吐きたかっただろうよ。
「体力の面では同じだ。私だって疲れる。だから、やりようはあっただろうけど、傷がついていくのとつかないのでは圧倒的な差がある。まあ、仕舞には私が焼いてやったんだけど、……正確に言うとさ、焼けなかったんだ、あいつ」
「どういうことだ?」
「間に入った奴がいるんだよ。火の海の中、酸素不足で巫女が気を失った瞬間に、巫女を連れ去って、代わりに私の前に立った奴が」
 霊夢の母親と、関わりのある人間。誰だ、と私は思った。霊夢の母親は恐れられていた。とは言っても、幻想郷の平和を守っていた訳だから、その霊夢を守る人間もいただろう。
「誰なんだ?」
「こないだ来た時、霊夢の後ろにいた奴だよ。金髪で気味の悪い笑い方をした……あいつとは、こないだが初めてじゃない。二度目だ。そのときも、私はあいつにやられた」
 紫。八雲紫……霊夢の母とは別だ。同居している。
 まさか、と思う。霊夢の母親が消えたことには、紫が関わっている? 紫が霊夢の母親を守る。あの、自分のことしか考えていないような奴が。全てが紫の為の行動だとすれば。私は考えは口に出さず、代わりに疑問を口にした。
「……やっぱり、霊夢の母親と関わりがあるのか?」
「さあて、ね。私には分からん。ただ、その金髪は焼けなかった。それだけの話さ」
 知ってる奴がいるとすれば、と妹紅が呟いた時、見計らったように妹紅の家の扉が開いた。
「うん? 魔理沙か、妹紅と一緒にいるなんて珍しいな。もう、妹紅を殺そうとなんてしていないだろうな?」
 そこに立っていたのは慧音だった。まさか、と私は答える。
「ありゃ、ただの肝試しだ。妹紅を殺そうとなんてしちゃいない。輝夜に何を聞いてるか知らないがな」
「お、慧音じゃないか。何をしに来たんだ?」私が答えた後、妹紅が口を開く。
 お前、と慧音が憮然とした顔をする。
「覚えてないのか。今日行くって、昨日言ってあっただろ?」
 そうだっけ、と妹紅が呟くように言う。ま、座れよと立ち上がって座布団を探す。無いのに気付いてお前貸してやってと私に言う。
「ああ、構わんぜ」
「そんな、床に座らせるなんて悪い。私はいいから……」
 謙遜し始める慧音に、立ち上がって座布団を譲ってやる。
「私は、約束があった訳じゃなくて立ち寄っただけだから気にするな。それに、もう帰るとこだったんだ。悪かったな、邪魔をして」
「そうなのか? 何だか、悪かったな」
 二人に向けてそう言うと、帽子を被り直して帰るか、と呟いた。
「おい、魔理沙」
 妹紅が私を呼んで、私は振り返った。
「さっきの話だけどな、慧音なら分かるかも」
「そうなのか、慧音?」
 何の話、と慧音が不思議そうな顔をする。私が口を開く前に妹紅が慧音に話し始める。
「こいつがさ、前の巫女のこと聞きたいんだって。慧音は分かる?」
 瞬間、慧音の顔が引きつったように見えた。表情が変わり、真剣な目を一瞬私に向けてすぐに逸らす。
やはり、と思った。慧音は知っている。
「……慧音?」
 態度が一変したことに、違和感を覚えた妹紅が声を掛けた。
「それは、止めた方がいい」
 慧音は俯いたまま、けれど強い意志を見せて言った。
「……どうして?」
「どうしても何もない。止めろ、と言ってるんだ」
 膝の上に置かれた、慧音の腕は引きつるように震えていた。慧音が見せていた感情は怒りではなかった。恐れ……恐怖の色が、指先までは隠しきれずに滲んでいる。
「……それは、紫と関わりのあることか?」
 びくり、と慧音が身体を震わせる、まるで口に出してはいけない言葉のように。
「あいつのことは……関係ない。もう、いいだろう。魔理沙、今日のところは帰ってくれ」
無言の帳が降りる。張り詰めた空気の中、私は言葉を重ねる。
「……どうして、霊夢の母親は死んだんだ?」
 鈍い音が部屋の中に響いた。慧音が壁を殴り、ぶち抜いた音だった。ぶるぶると震えながら、ゆっくりと腕を引き抜き、憤りを持って傷ついた腕を見た。握った拳をほどき、もう一度握ってから深い呼吸を繰り返した。
 不器用な奴だ。慧音の動作の一つ一つが、私の言葉の正しさを物語っているようなものだ。
「八雲紫が」
「止めろ」
 私の言葉を遮ったのは、静観していた妹紅だった。妹紅は立ち上がり、私と慧音の間に立った。
「妹紅……」
「これくらいで許してやりな、魔理沙。慧音が話すと言うならそれもいいけど。話したくないことを無理強いするなら、相手になるよ。魔理沙」
 妹紅は完全に戦闘態勢に入っている。これ以上何かを言えば、火を見ることは明らかだ。私はふう、と長い息を吐いた。
「どうだ、慧音」
「……ああ……悪いけど、本当に……何も言えない」
 妹紅の呼びかけに慧音はそれだけを言うと、壁にもたれかかって息を吐いた。急速に緊張が解けたのだった。
「だと、さ、諦めて帰りな。これ以上の情報は、余所から仕入れるんだな」
 私は再び長い息を吐くと、悪かったな、と言った。振り返り、箒を持って扉を開ける。
「魔理沙、あんたはもうおおまかには分かってるんだろ? さっきの口ぶりからすれば」
 私の背中に、妹紅の声がかかる。
「……ああ」
 短くそれだけを答え、私は部屋の外に出た。

 私は思う。一通りの情報収集を終えてしまったが、特別、変わった帰結でもなかったな。でも、研究はそんなものだ。そして、一つの帰結からは、また新しい目的が生まれる。霊夢。そして、紫のこと。全てが私の想像通りならば、と思う。少し身震いする。もし紫が、本当に、霊夢の母親を食っているなら。
 殺さなければならない、と思う。その理由まで、私が思っている通りならば。



 妹紅の家を出た帰り、私は紫と出会った。
 私は唐突に、母親にひどいことを言ったまま、謝ってなかったな、と思った。



――霊夢――

「なあ、霊夢。お前、家族っていないのか?」

 少し、前のことだ。
 手を止めて、魔理沙に振り向く。だけどそれは一瞬のことで、また地面を見て掃除を再開する。
「いないわよ。どうして?」
「だよな。なんとなく思うところがあってさ」
 魔理沙に家族がいるのは知っている。里に家があるけれど、それとは離別して、一人で暮らしていることも。でも、魔理沙と家の間に何があるのか、私は知らない。それは魔理沙が家と感じるべき関係性であって、私とは関わりがないからだ。私がそこに関係を見出すほど、彼女とは親しくしていなかった。
 思えば、これまで何人もの少女達との関わりを持った。神社なんて妖怪には居心地が良いものではなかろうに、何が良いのか勝手にやってくるのだから。でも、そこに私が望んだものは一つもない。そも、私が望むものは一つしかない。
「……紫」
「あん?」
 手を止めて、魔理沙を振り向く。
「紫よ。唯一家族と呼べる人がいるとしたら」
「ふーん……」
 魔理沙はどこかつまらなさそうな顔をして、私の方を見ていた。私には関わりないことだった。

 家族のことを、私は気にしたことがない。生まれた時から一人だったことを。生の空気に触れる前、ゆったりと眠っていた子宮のことを、私自身の身体でたっぷりと痛みを与えた産道のことを、そして私を抱き上げたはずの母の腕のことを、私は何一つ知らない。
 何一つ知らなくても生きて来た。必要なことは紫が教えてくれた。
 生き方のこと。神社を清めて客を呼び、賽銭や宴会の、祝儀で生活すること。神道を学び、有事に備え生きる力を蓄えること。そうやって私は生きてきた。
 夜の風を感じること。小さな枝葉の作る影を見、川の流れが作る波紋に、音に心酔すること。酒精に身を任せ、気持ちよく酔うこと。人との関わりに楽しみを見つけるようにすること。日々の生活の楽しみ方。
 全て紫から与えられたもの。

 紫の体温を、背中に感じている。
 何もない深夜には、紫が訪れる。私の背に触れる紫が、いつ触れたのか分からないほど、自然に。
 境界を操る妖怪。誰との距離も、そこには関係ない。紫は私が生まれた時から側にいて、 私と紫の境界は既に、消滅して一つの存在と言っても良いようだった。
 紫が後ろから私を抱き締めている。
 不思議と暑苦しさを感じない紫の温度。際だった心地良さが私の中で嫌になるほど主張して、早く紫に委ねろと喚く。
 でもちっぽけな自尊心にすがってそのままでいるのが心地よい。私として紫に向き合う最後の時間。八雲紫に身を任せ、博麗霊夢が消え去るまでの最後の時間。
 ただ、紫の体温を感じている。

 私は紫のものだ。紫に所有されている。
 紫は私を自由にできる。でも、私にはできない。紫は誰と関わろうとも、自由だ。でも、その自由が私には、ない。
 それは紫が強要している訳じゃない。私自身に課し、決め事として守っている訳でもない。
 それは言うならば自然のことなのだ。博麗霊夢は、普段は神社の管理をしながら、時には人と人の間をつないで、時には妖怪の退治をし、そして夜には紫を待つ。
 博麗霊夢はそれだけをすべきだという理が、どこかに存在している。
 紫を始めて感じた時から。生まれた時から、生を受けたその時から紫の存在を感じていた。ならば、八雲紫とは、博麗霊夢の生の全てを、捧げるべき存在なのだ。


 私は紫を自由になんてしない。私は他の誰かと関わることなんて、しない。
 私は未来から俯瞰しているかのごとく私を見ている。
 既に決定され、過ぎ去ったことのように確かなこととして、紫に所有されている私を。


 紫がふらりと現れるのを、私はぼうっと見ていた。昼間に、境内から現れるなんて珍しいこともあるものだ、と私は思った。
 境内で誰かと話していたのか、と私は思う。
「誰かいたの? 紫……」
 紫は答えない。紫が歩み寄り、私は紫を迎えるように、縁側に横たわらせていた身体を起こした。
 唐突に頭に手が置かれる。私が何かを言う先によしよしと撫で始める。
「紫、ちょっと、何よ」
 いきなり頭を撫でられて、気持ちはいいけれどいきなりされるのは嫌だ。そういうのは、もっと言葉でほぐしてくれてからがいい。そうでもなくてもいいけど、せめて二人きり、それらしい雰囲気の中がいい。昼間、人目があるかもしれないところでなんて、恥ずかしいし、盛り上がったって仕方なくてもどかしい。どうせそれ以上なんて出来もしないんでしょう。
 紫は私の言葉も意に介さず、態度さえ気付かないようで構わずに続けた。私はもう諦めて、したいようにさせた。むしろ、私が気にかかったのは、紫の態度の方だった。
 むしろ外でとか、人目を気にするのは紫の方だ。昼間でも普通に話すくらいはするけれど、外でこんな風にしたことは一度もない。紫が私に触れるのは、深夜の神社の中、私と二人の時でしかなく……こんな風に、暖かく、日の当たる所で触れられることは、珍しいことだった。
「どうしたの? ……何かあった?」
「ねえ。霊夢」
 私の髪を撫で続ける紫が、私の声なんて聞いていないように、呟く。
「私は、今あなたを好きにしたい気分なの」
 髪を撫でながら、空いた片手で、頭を胸元に抱き寄せる。私はされるがままにされていた。
 私はいつだって、紫の好きにされたいと希っている。でも、そんなこと素直には言わない。どうせ全てが紫のものになるのなら、その僅かな自由だけが私の自由になるものだ。
「……好きにしなさいよ」
 ますます、紫の、首元に回す手に力がかかる。紫の暖かさが伝わってくる。ますます変だと思った。何を、今更のように欲しがってるんだろう。いつものように、ただの気まぐれで、したいからそうしているだけかもしれない、でもそんな風には思えなかった。ただの勘でしかないけれど、私が何よりも信じてるもの。
「ねえ、紫。泣いてるの?」
 私は紫に問いかけた。私の勘がそう言っていた。紫は答えなかった。紫は答えないだろう。泣いてる姿なんて、誰にも見られたがらない奴だ。紫は、誰にだって、自分の弱い姿なんて見せたがらない。それがどこまで寂しいことなのだろうと、私は思う。
「紫」
「どうして、そう思うの?」
「勘」端的にそう言うと、紫はくすくす笑った。
「そっくりね。あなたのお母さんも、よくそう言ってたわ」
 紫の顔を見上げる。
「母のこと、知ってるの」
 紫はくすくす笑って、顔を隠した。そっと私の顔を覆うように顔を背けさせて、私の顔から視線を逸らさせた。
「……全部終わったら」
「……終わったら?」
「教えてあげる。あなたのことも、お母さんのことも」
 ふっと紫の手が離れる。私が視線を戻したら、紫はもう、そこにはいなくなっていた。
「……何よ」
 やっぱり、泣いてたんじゃない。


 紫がどこかへと消えた次の日、十六夜咲夜が神社に来た。レミリアがいる時より気さく、悪く言えば尊大に、私の方へと歩み寄った。
「……あなたは、どこまで噛んでるの?」
「どこまでも何も、食べられるものしか噛んだことはないわよ。あんたんとこの主人じゃあるまいし」
 咲夜は腕を組んで、私を真っ直ぐに見つめた。そこに敵意はないし、睨むという感じでもない。レミリアも連れず、傘も持っていない咲夜は随分と身軽に見えて、何だか咲夜自身にこんな風に言うのも変だけど、より咲夜『らしく』見えた。元々、仕えるような人間じゃないのかもしれない、力からすれば充分にそうした素質はあるのだろう。
「今、ちょっと厄介な案件を抱えててね」
「珍しい。あんたなら、何でもすぐに解決しそうな感じなのに」
 あなたほどじゃないわよ、と咲夜は軽く言う。
「それで……今、紫はいる?」
「いないと思うわ」
「そう、なら安心ね」
「そう言われたら、いないとは確実には言えないわ。だって、いつでもいると言えばいるし、いないと言えばいないようなものだもの。呼んで出てこなければ、いないと思うけど」
 そう言うと、咲夜はすぅ、と一息吸い、
「幼子にしか興味を示さないロリコン変態妖怪の紫さんはいますかー」
 …………。
 咲夜の言葉が気に入らないのか、紫からも、神社からも返事が帰ってくることはない。境内は静寂に包まれたままだった。
「いないわね」
「私は幼子じゃないわよ」
「……?どうして霊夢がそんなことを気にするの?」
 ま、いいわ、と咲夜が呟く。
「それより、本題よ。魔理沙は、昨日か今日、ここに来たかしら?」
「近頃はめっきり来ないわね、そう言えば。珍しい」
 私が答える様子を、咲夜はじっと見つめている。聴取をされてるようで煩わしい。
「で、なんなのよ」
 私が答えても、咲夜はじっと何かを考えている。何がしたいんだろう、と思う。魔理沙を探してるなら、魔理沙の家にでも行けばいいのに。
「ねえ、霊夢。あなたは、八雲紫のこと、どこまで知ってる?」
「どこまで、って……」
 私は、八雲紫のことを、何一つ知らない。そう言っても、咲夜は信じないだろう。でも、本当のことだ。知っているのは、私を育ててくれたこと、私に寄り添ってくれること、私に温もりを与えてくれること。紫は、私のことを全て理解している。でも、私は知らない。そこに不自由を感じたことはないし、必要も感じたことはない。
 私が答えないでいると、咲夜は諦めたように溜息を吐いた。
「あなたが隠してるのか、それとも単純に知らないだけなのかは分からないけど……でも、八雲紫には注意した方がいいわ。あなたの為よ」
 私の為、か。
 私は思う。何が、私の為になるというのだろう。咲夜の言っていることは分からないが、それが紫による、私に害を為すものだとして。
「私のことなら、心配いらないわ」
「何?」
「紫が私を害するなら、それは紫にとって、私が不要ということでしょ」
「……何を、言っているの?」
 私は紫に殺されても構わない。そう言っているつもりだけど、咲夜には伝わらなかったようだった。
「もし、あなたが紫に襲われるようなことがあったら、言ってね。妖怪を退治するのが私の役目だから。とは言っても、紫がやたらに人を襲ったら、収集がつかないから、滅多にしないとは思うんだけど……」
 私が善意からそう言うと、咲夜が息をついた。踵を返し、歩み去ってゆく。
「何だったのかしら?」
「厄介なことね」
 紫が境界から身体を乗り出して、私の隣に浮かんでいる。やっぱり聞いていたのだ。
「誰も彼も、私をロリコン扱いして。誰がそんな設定つけたのかしら。それに変態でもないし」
「獣娘ばっかり式にして行使してるからじゃない? せっかくなんだから男の式を使ってハーレムみたいにすればいいのに」
「あら、ハーレムも幻想入りしたの? まだまだアラブでは現役だと思ってたけど」
 アラブってどこだろう。
 などと軽口を交わしていても、紫からはぴりぴりとした感じがある。
「ねえ、紫。今の話、聞いてた?」
「ええ、聞いてたわよ。厄介なことね、本当に」
 溜息をつく。紫にとって厄介なこと、か。
「心配しないで。あなたとは、関わりのないことだから。それより、今夜は空いてる?」
「もう、紫ったら」
 そんな気遣いをしなくても、いつだって夜は空いている。紫の為の時間だ。


 明け方になって紫はまた出て行った。何だか近頃は忙しそうだ。手伝ってあげようか、と聞くと、いいわ、と紫は言った。笑みは浮かべていたけど何だか悲しそうな顔をしているのが分かった。
 紫は何をしているのだろう。私と関わりのないことなら、無理に共有させるのは悪いと思う。ならば、せめて、その哀しみさえ、私の前で晒して欲しい。何もかも晒してくれて、その上で私を求めてくれればいいのに。私が紫を拒むことなど、想像もつかない。紫と会い、一緒にいたこれまでだってそうだし、きっと死ぬまで同じだ。
 と、いうよりも。
 私はもしかすると、紫に殺されたいと思っているのだろうか。
 殺されたいとは、少し違う。
 紫と、同じものになってしまいたい。

 ……その日は、誰も来なかった。まだ見ぬ母のこと、紫のこと、それから咲夜の言っていたこと、魔理沙のことを考えた。答えは出なかった。そもそも、何を問われているのかすら判然としなかった。
 夕方に紫が来て、額にキスをして、帰っていった。近頃の紫は変だ。


 私は魔理沙が紫に付き添われて、神社を訪れるのを、境内から見ていた。
 紫が何かを抱いている。
 トレードマークの帽子もそこにはない。金色に包まれた、肌色。紫は私に歩み寄り、それを私の前に転がした。私は箒を放り出してそこに跪き、魔理沙を拾い上げた。
「……可哀相。こんなになって」
 首だけになった魔理沙が、私を見上げている。首から下を境界に蝕まれ、意識があるのかないのか、目を半開きにして口をぱくぱくさせている。何かを言いたくて、でも言葉にならない、そんな風に。
「お別れを、させてあげようと思って。曲がりなりにも、お友達だったものね」
「……残りは?」
「食べちゃった。お別れには、必要ないでしょう?」
 紫がそう言って、私は紫を見上げた。うっすらと微笑む紫がそこにいる。慈愛に満ちた貌。
 私に、紫がすることを咎める権利はどこにもない。友人との別れさえ、紫の優しさだと思うと嬉しかった。友人を亡くしてしまうことより、紫が私のことを思ってくれることが嬉しい。

 ありがとう。魔理沙との別れを与えてくれて。

 私は魔理沙を見下ろした。幼い頃から一緒にいた、私の友達。仲良く付き合っているという訳ではなかったけど、こんな風になってしまった友人に対して哀れむ気持ちくらいはあった。
「魔理沙。あなた……あなたのこと、何て言えばいいのか分からないわ。……あなたのこと、特別好きだと思ったことはないけど。……一緒にいたら、楽しかったわ」
 魔理沙の口元が、自嘲するようにふ、っと笑ったように見えた。嘘だ、と言っているように。嘘じゃない。ただ、紫と一緒にいる時間とは比べられないだけ。
「……さよなら、魔理沙。また会いましょう」
 今度こそ嘘をついて、私は紫にそれを返そうと、意外と重たいそれを持ち上げた。紫を見ようと顔を上げた私が見たものは、ごとんと紫の首が落ちる姿だった。

 首と胴が分かたれ、長い髪がばらりと落ちて、短髪になった頭がごとりと地面に転がった。その頭に、飛来するナイフが、連続して突き刺さる。
「霊夢、どきなさい」
 十六夜咲夜が私に命じる。私は魔理沙の首を抱えたまま、動くことができない。
「どうして……?」私の腕の中、魔理沙が譫言のように呟く。
「私は博麗の巫女には抗えない。でも、その黒幕となれば、話は別ね」
「まあ、私はそうですね」
 咲夜の隣に並び立った妖夢が、刃を振るって血払いをする。
「咲夜さんに頼まれたというだけではなく、霊夢さん、それから魔理沙さんが窮地であれば、助けてあげたいと思ったんです。仲間だと、私は勝手に思ってますから」
 ぱち、ぱち、ぱち。場違いでゆっくりな拍手がその場に響く。ばっと翻って態勢を作る二人。振り返った先には、失われた筈の長い髪をばさりと流して、余裕たっぷりに笑いかける紫がいる。
「麗しいこと。自分の命の価値。その子の価値。それから幻想郷の価値……全て同等だと思っていなければ、できないことだわ。実に蒙昧」
「理由なく人を殺す、あなたの暴威には敵いません」
 最初に歩を進めたのは妖夢だった……紫の左側、円を描くように距離を取ったまま、紫の後ろへと向かうように。咲夜は微動だにもせず、ただ機を待って紫、そして妖夢に視線を合わせている。時が進むほど、妖夢が紫の後ろへと回り込む形になる。咲夜を正面にしたまま動かない紫の視界から、妖夢が離れた瞬間――妖夢が紫の斜め後ろから飛びかかった。同時に、咲夜が紫の右側に飛んだのは見えた……次の瞬間には、紫を貫く軌跡を描き、無数のナイフがばらまかれている。ナイフと同時攻撃をしかける咲夜と、直線上にいる妖夢を避けて。
 紫がこともなげに笑ったのが見えた。地面を蹴って、宙返りをするように爪先に生じさせた境界でナイフを弾いて躱し、中空で右手に扇子を、左手に傘を持って着地と同時に二人の攻撃を同時に受けた。紫の動作に、二人は驚き動きが鈍ることもなく、連続して攻勢に立つ。妖夢の初撃、逆胴から振り抜き、傘に動作を遮られればより踏み込み袈裟、小手へと切り結ぶが全て紫の傘でその軌跡が消失する。咲夜の初撃、両手に構えたナイフで同時に頸椎、動脈、心臓、そして眼球の四点を突き刺す動作は一つ一つが命を奪うだけの精度を持っていて、けれど紫の扇子、それも片手で弄ぶように振るうだけで全ては精密さを失う。
 刺突と斬撃、振り翳される刃の中、紫は優雅にステップでも踏むように、ゆっくりと後ろに下がりながら二人の刃を受け続けた。傘をぐるりと捻り上げるように踏み込めば、妖夢が搦め手に一歩を下がるのに合わせて一歩を踏み込み、咲夜がその空いた一歩を追うように踏み込み、時に振り払う扇子を避けて、指先の力だけでナイフを投擲して、眼窩から脳まで抉り出さんと空いた指先を突き上げる。紫はナイフを弾いた扇子でその手首を打つ。再び現れる双刃を、扇子を翻して打ち払う。技量の違いを見せつけるように、紫は歩みを続けた。
 極度に連続した攻防、動作の中、全てが打ち払われ……二人は紫を追っているのではなく、紫に追われ追いすがっているにすぎなかった。
 見ているだけの私よりも、二人はより、その技量の差を感じているだろう。
 二人が同時に距離を取った時、紫は傘を広げ、扇子を口元を隠すように広げた。
「やっぱり、無理なようですね、咲夜さん」
 ええ、と咲夜が頷く。これまでの動きがデモンストレーションであったとでも言いたげに、妖夢は刃を握り直した。
「ええ。私達に、協力プレイは向いてない」
「お先に」
 咲夜が下がり、私の隣に立つ。紫と相対する妖夢の背中は、力に満ち溢れて見えた。
「師匠は言いました。全てを投げ打って争える場に、立てと。命を捨てる場にて生き延びることこそが命で、それ以外の場に立ってしまうことは、無駄に生き存えてしまうことでしかなく、命を時間という絶対的なものに委ねてしまうのと同じだと」
 脇構えに刀を持ち、紫に立ち向かう妖夢。紫はその姿をじっと見て、傘を境界にしまった。
「魔理沙には悪いけれど、このような場に立ち向かえることに、感謝します」
「では、命のやりとりを支える、あなたと同じ力で、相手をさせて頂きましょう」
 紫が扇子をひらりと煌めかせると、すらりと伸びて、硬質の抜き身の刃へと、その身を変える。
「いざ」
 妖夢が呼びかけるように言う。二人の間を一迅の風が吹き抜けて、スカートの裾を揺らした。

 上段に構えたまま動きを見せない紫。妖夢が摺り足でじりじりと近付くのを、じっと静観のままに眺めている。互いに、余計な力が入っていない自然体のまま。
 妖夢からすれば、このまま歩みを止めず、刃を届かせてしまえば良い。紫からすれば、妖夢の刃を振り払う、あるいは躱して踏み込めば良い。選択肢が多い分、紫からすれば有利と言える。
 妖夢がもう一歩で届くという位置で、歩みを止める。紫がほんの少し表情を変えて、妖夢と合わせたままの視線を鋭くする。妖夢が、紫に選択肢を与えた形になる。踏み込むか、待つか。
 この時点で、構えを変える、或いは引くというのは選択肢にない。姿勢を崩してしまうのは即ち、相手の刃を受けることが出来ないことだ。一度目が受けられても、追撃を躱すことができず、斬り殺されるだろう。
 時間が流れ、風が二度吹き、二人は微動だにしない。張り詰める緊張の中、妖夢が動きを見せた。踏み込むのに合わせ、両手で切り上げる。殺傷圏内に入ったのを捉えた……というよりも、妖夢が動いた瞬間に、紫も動作を始めている。互いに避けようとしないなら、先に相手に届いた方が斬り殺せば、それで終わりだ。
 一瞬の後、逆袈裟に切り落とされて……半身が落ちたのは、紫だった。頽れる紫の死体を前に、妖夢が刀をだらりと落として立っている。緊張が解けたのか……私はそう思ったけど違った。妖夢はわなわなと震えて自分の左肩に触れた。そこには、紫の扇子が、妖夢の肉を貫いて、突き刺さっている。
「私の……負けか」
 妖夢が膝を突く。紫の死体が消え去り、私達が振り返るとそこに紫が立っている。
「次はあなたの番かしら? 奇術師さん」
 咲夜がにっと笑う。

 投擲するナイフが、紫の指先で挟まって動きを止めている。投げた瞬間も、飛んでゆくのも、見えないのはいつものことだ。
「所詮、一つ覚えなのよ。いくら時を止めても、届く瞬間は同じだもの」
 紫がナイフを捨てて、咲夜が再び投擲の姿勢を作る。刺した方が早いような距離で……
「また? 同じことを続けても……」
 紫がナイフを受け止める。
「…………」
 そして、ナイフよりも先に、咲夜は紫に届いていた。まるで抱き合うかのような距離、頬を擦り寄せるような姿勢のまま、紫の腹に深く、刃が突き立てられている。
「時間を止めて、直接突き刺す。スペルカードルールとしては、最低以下の技ね。でも……私以上の反則技を持っているあなたには、遠慮をする必要はないわ」
 紫の腕の中、囁くように言う咲夜。紫の背に、無数の、中空から生じた刃が突き刺されてゆく。紫の身体から力が抜け落ち、咲夜の前にずり落ちて倒れる。その頭に音を立てて、咲夜は踵を叩き付けた。
「死ぬまで殺してあげる」
 動脈を断ち切って生まれたナイフから、奔流のように血液が流れ出す。血霞の中、嗜虐的に咲夜は笑う。

 同じ風景を、じっと眺めた。死を迎えた紫は地面に降り立ち、刺し殺されては再び現れることを繰り返す。
「ここは最早、既に私の世界よ。あなたが逃れる術はない。あなたの意志か、力か、どちらかが枯渇するまで同じ事を繰り返すだけ」
 咲夜が殺し、紫が蘇る、永遠の連環。
「どうして?」
 紫の代わりに、私が問いかけた。
「どうして、そこまでして――紫を憎むの?」
 私の腕の中には、食い殺された……いや、まだ食い殺される途上だ。今、眼前で殺されてゆく友人がいる。紫でなければ、憎んでも足りないのだろう。でも相手が紫だというだけで、全てが許されてしまうような感じがある。咲夜は私をちらりと見、幾百目かの死を紫に与えた。
「……私は、以前、あなたの母親に救われた」
「……私の?」
 魔理沙が言っていたこと。姿も、気配も感じたことのない母。
「あなたの母親には誠意があり、私達が信頼を預けるに足りた。でも……こいつは違う」
 死体に刃を突き立てる。憎しみを描くためだけの、無意味な殺意。
「こいつは、あなたの母親を殺した。殺して、喰った。自らの為に」
「……紫が?」
 でも、不思議だ。紫がしたことに、何の疑問も感じない。紫の行為は全て自分の為だと、信じることができる。
「魔理沙が死ぬ前、私に手記を遺した。慧音に会って確信したと魔理沙は言っていた……そして、私が死んだら霊夢に教えてくれと。そして、紫から逃げろと」
 私は魔理沙を見下ろす。馬鹿なこと、と思った。そんなことをする必要はないのだ。紫を疑う理由などどこにもない。
 私の母は、紫によって食われた。魔理沙も同じ運命を辿っている。
 それでどうして、私が怒り憎まねばならないのだろう。私にはそれを咎める権利がない。必要もなければ、理由もない……。
「八雲紫は博麗の巫女を食う。魔理沙はそう結論づけた。あなたの母親が紫の腹に収まったように、いずれはあなたも。……でも、それは私には関係ない。私の理由は別だ。こいつが私達を見ている。こいつがいなくならない限り……私と、お嬢様に安寧はない」
 どこまでも冷徹に、どこからともなく生じる紫を殺してゆく。不必要な動作も意志も必要ないと言わんばかりに。
「こいつを殺しきれなくても構わない。この世界の中、私は永遠に紫を殺し続けるだけの存在になっても構わない。私は紫との心中を以て、お嬢様に報いよう」
 そう呟くと、咲夜は胸元から懐中時計を取り出した。咲夜が私に手を伸ばし、手を取って指先を絡めてくる。停止した時間の中、咲夜と繋がる私にも、止まる世界の中を見ることができる。
「でも、その必要はない。私の権能の全てを以て、あなたの時間を奪う。八雲紫、あなたの力は奪わない。幻想郷は動き続ける」
 壊れた懐中時計を、時間停止の象徴と成す。紫も、妖夢も……幻想郷中の全ての時間が止まった灰色の世界の中、私と咲夜だけが、世界を見ている。
「さようなら」
 紫に向かって、懐中時計を投擲する……だが、それは紫には届かなかった。紫の色が、精彩を得るように戻ってきて、紫が動作を始める。指先を振り翳すと、懐中時計は咲夜へと戻り、咲夜の身体に染み込むように潜り込んだ。
 世界に色彩が戻ってくる。
「さて……気が、済んだかしら」
 優雅に笑いかける紫がそこにいる。

「何、を」
 咲夜が信じられないといった表情で紫を睨み付けている。「時の権能は、私だけのものの筈だ! いくら境界の操作をしても、時間停止までは……!」
「馬鹿ね。私が操ったのは時間そのものじゃない。私が操ったのは、あなたの能力の境界。能力を使える十六夜咲夜と、普通の人間としての十六夜咲夜の境界。いま、ここでの時間の操作は、あなたがしていたのじゃなくて、私がしていたことよ」
 胸元を掻きむしるように腕を抱き、「なら……、最初から……?」
「そう。あなたに殺されてみるのも悪くはなかったけど、あなたの手足を使って、私がしていたようなもの」
 立ち尽くして、咲夜の戦いを見ていた妖夢が、肩口から扇子を引き抜いて立ち上がり、紫に刃を差し向ける。振り下ろす。紫は扇子で受け、妖夢の視線を受け流すように秘やかな笑みを浮かべている。
「咲夜さん……まだ終わった訳じゃない。私もあなたも生きている限り、挑むことは出来ます。諦めないで下さい……少なくとも、私は、まだ!」
 紫が払い、妖夢が刀を引いて再び振るう。左肩の傷も意に介せず刃を煌めかせ続けるが、紫には一刀たりとも届くことはない。
 咲夜が佇んだまま、ナイフを取り出して強く、握る。思えばナイフを取り出す動作さえ、見せたことはなかった。咲夜が、妖夢と切り結ぶ紫へと飛びかかる。紫がふっと笑うのが見え、紫は咲夜に背を向けた。


「……馬鹿な子」
「……咲夜ぁ」


 何を、と思った瞬間、咲夜も同じことを考えただろう。紫の背中から、切り開かれたように境界が生まれ、眼球の蠢く黒い腕が咲夜を捕らえる。境界の中に、鋭い牙が立ち並ぶ。上半身が飲み込まれ、骨が砕け、肉が千切れる音がした。
「咲……夜……さん?」
 妖夢が信じられないと言うように呟く。背後で咀嚼する音を響かせながら、紫が妖夢に向き合う。
「さて」
 妖夢ががたがたと震えている。師の教えさえ、眼前の死には抗えない。何とか保っている構えさえ、その切っ先が震えているのは明らかで、無様にさえ見えた。
 紫が一歩、歩みを進める。


 咲夜と妖夢を片付けてしまうと、最後に紫は、私の手渡した魔理沙を、私の目の前で食べた。境内に流された血、咲夜の飛ばしたナイフ、肉片の欠片、それらは紫がぱちんと指を鳴らすと全て消え去った。
 太陽の光の中風が吹き、私と紫がいる、いつもの神社が帰ってくる。静寂が落ちるこの空間は、さっきまであったことが嘘のように静謐だ。友人を三人も失ってしまったというのに、私はいつもと変わらない空間が戻ったことに安心を感じている。
 紫が私を見ている。……どうして、私を見てるの? どうして、何も言わないの? 私はそう聞こうと思ったけれど、何故だかそれを聞くのは残酷なことのように思えた。だから、私は紫に呼びかけた。できるだけ、いつものことのように。
「ねえ、紫、疲れたでしょう」
 紫が私を見る、静かな驚きに満ちた眼。
「お茶を入れるから、休んで。それで――夜になったら、教えて。私と、お母さんのこと、それから紫のこと……でも、紫が嫌なら、何も話してくれなくてもいい。明日まで一緒にいて、それで元に戻りましょう。……一日、一緒にいることなんて、珍しいわね、紫」
 私が微笑むと、紫は戦慄したように表情を震わせた。紫がそんな仕草を見せることは、かつてないことだった。
「どうして」紫はそう呟くように問うた。何が、と答えようとする。
「どうしてあなた達は――!」
 紫の激昂の意味が理解できるほど、私は紫を知らない。
 紫とはそのまま夜まで、一言も話さないまま過ごした。


 紫は私を背中から抱き締めて、ぽつぽつと語り始めた。
「私が、魔理沙や咲夜、妖夢を殺したのはね。……たった一つ、たった一つだけの明確な理由よ。私を害しようとしたから。それだけの理由」
 私は黙ったまま紫の声を聞いている。首元に回された紫の腕を抱いて、背中に紫の温度を感じながら。
「たったそれだけの理由、って思うでしょう? でも、私と霊夢の関係は、特別なものなの。あなたが知っている、私の感情とは違う。それだけに限らない、幻想郷全体にとって大切なもの」
 教えてあげる。
「私が……『八雲紫』になった日のこと」

「そもそも、幻想郷の構造は、幻想郷と外を別つ結界にある。所謂博麗大結界。かつての博麗神社の巫女、それから幾人かの賢者達による力の結集。その過程では、命を失った者もいた。……私を含めてね。
 私は……その場では、さほど重要な立場ではなかった。境界を操る神の生まれ変わりだと呼ばれた、ただの少女。力の片鱗はあったけれど、結界のことで役に立てるという訳でもなかった。
 私が、八雲紫となったのは、自動化された境界という理想を実現するためだった。私そのものを境界という概念に仕立て上げ、その管理を私の意志……いえ、無意識に委ねる。そういう計画だった。
 私は……拒んだ。死ぬ訳じゃない。永遠に生き続ける。でも、自分が失われることには、変わりない。幻想郷を構築する境界の意志を、一人の人間に委ねることは、不和を生むし、何より意志と肉体を維持するには圧倒的なエネルギーが必要だと言われたわ。そんなものを、定期的に得られる訳がないと。
 それを止めたのは博麗神社の巫女だった。……私と同じ年の、一緒に遊んでた、友達だった少女。
『私の、肉体では足りませんか』彼女はそう言ったわ。『私の身体に流れる血、心身ともに神の元で鍛えた身体、霊力に満ち、神の加護を受けた存在である私は、最も境界を操る者の血肉として、相応しいのではありませんか』
 誰もが止めたわ。私も嫌だと言った。自分を失うのも嫌、だけど彼女を失うのも嫌。それに、賢者達はたとえ今が良くても、後が続かないと言った。
『新しい世界の為には、必要なこと。自動化された理想は確かに平等で、神たり得るかもしれませんが、それでは有事の際に、柔軟さに欠けます。××なら、』彼女は私の名を呼んだわ。『新しい世界を、見守ってくれますよ。後々の栄養のことについては……簡単なことです。私と同じ定めを、私の娘にも。そして更に、その娘に。私の後に続く全ての巫女達に、私と同じ運命を与えましょう』
 彼女はこともなげに言った。誰も、何も言うことができなかった。誰よりも幼い、私と同じ年の少女がそこまでの覚悟でいることに。皆私を見つめていた。私がどうするかで、全ては決まると言いたげだった。
『××』彼女が私を見た。『私は、あなたに新しい世界を委ねたい。私と、新しい世界に住む、新しい世界を望む存在全てを見守り、そして、私の子孫が安寧に暮らせるように。あなたになら、任せられる。私はそのために生きるから。だから、××。あなたも生きて』」
 ふふっ、ふふはッ。紫は笑った。
「馬鹿な話だと思わない? 自分を喰い殺してくれというのに、世界の為に生きるだなんて。私に、生きて、なんて……。
 当然のことだけど、彼女に子供はいなかった。だから、彼女には十五になったら子を産むと決められ、結界を作るのはその日だと決められた。
 彼女が子を成したその日。私は彼女を食べ、境界を操る力を得た。そして、私は八雲紫となった。
 以来、私は巫女を育て、時期が来たら子を作らせ、そして食べる。それを繰り返してる。霊夢。あなたの、母親も」
 そこまで言って、紫は私を抱き締める腕に、力を込めた。
「赦されることではないでしょう。彼女との約束だとは言っても、元々は私の我儘。幻想郷を望む者達の意志を受け継ぐ役目は終わらない。これからも、ずっと。
 それにね、霊夢。……あなたの顔、彼女に……最初の巫女に、それからあなたのお母さんに、そっくり。……私はね、あなたとずっと一緒にいたい。その為に、あなたを食べ続けているの。

 霊夢と生きる為に、
 霊夢を殺す。

 何をやっているのだろう、と思うわ。全くの本末転倒、笑い話にもならない」
「大丈夫よ、紫」
 私は紫の中で上半身を捻って、紫に向き合った。
「私は、紫と一緒にいる。お母さんもそうだったと思うし、それにきっと、私の娘もそう思うわ。……理由はないけれど、私の娘だもの」
「どうして? ……どうしてよ。どうしてあなたたちは――いつだって私のことを赦すの?私がしてきたこと、私があなたにすること、全部赦されることなんてないはずのことなのに」
 紫が私を抱き締める。最初よりずっと強い力で。
「私、あなたを殺した、何度も殺してきた! 私の為、彼女の為、全て皆の為だと言い訳しても、私はあなたを、あなた達を殺す。そうしろと言うの、私の中の境界が……!私の中にある、この幻想郷を保つ為の構造そのものが、私の意志を使って命じる。霊夢――もしあなたが、ここを出て、生きたいというなら、ここから連れ出して永遠に生かせてあげる。外の人間にだって手出しはさせない。力は外の人間から得る。幻想郷のことなんてどうでもいい、あなたの為、あなたと一緒にいられるなら……」
「紫の言うあなた、っていうのは、最初の巫女の人のこと? それとも、わたし?」
 私がそう呟くと、霊夢、と紫が私の名を呼ぶ。
「そういうこと、言っちゃ駄目よ。最初の人との約束でしょう? 紫には、私の娘のこと、面倒を見て貰わないと。……幻想郷を出るのも、いいかもしれない。長く生きることについては、よく分からないけど。……出たいとも思わないわね。紫がいてくれるなら、どこでもいい。でも私にも幻想郷を守るっていう役目はあるから、出る訳にはいかない。それに、紫、私はあなたと一緒にいられて幸せだったわ。だから、私が子供を産んだら、紫、私をあなたにあげる。ずっとそうしたいと思っていたの」
「……どうして? あなた達はいつだって私を受け入れる。まるでそれが自然のことだと言わんばかりに。……霊夢、私にはあなた達が分からない」
「自然のことだと、思っていたの。私は、あなたと一緒になるって。だから、紫。これを」
 私は、紫に向かって、左手を差し伸べた。開いた掌、薬指を示すように。
「……外の世界では、結婚をするとき、指輪を薬指に填めるそうね。だから、紫にあげる。エンゲージリングの代わりに、先に薬指だけ。それで、私が大人になったら。ねえ」
 紫。

「私を、食べて」

 紫が私の掌に手を添えるようにして、持ち上げる。ゆっくりと口を開く。その仕草は倒錯的な美しさに満ちている。
 がり、と音がして、愛しい痛みが私の中に生まれる。失われる痛み。
 好きな人と、一つになる痛み。


 ねえ、お母さん? 紫に聞いたわ、お母さんはすごく強くて、どんな妖怪にも遅れを取らなかったんだってね。修行も毎日していたし、巫女として町の人々にも慕われてたって。私、思うの。お母さんはきっと、大好きな人がいて、その人がいる幻想郷を守りたくて、毎日修行を怠らなかったんだって。その人と、幻想郷で、ずっと一緒にいたかったから。
 ねえ、お母さん。私、大好きな人のことを知ったの。その人のこと、もっと好きになったわ。だから、私、修行サボってたことあったけど、頑張ろうって思う。それで、もっと強くなろうって思う。
 そうしたら、紫は私のこと食べるとき、喜んでくれるって思うわ。

 私は自らの手を見下ろした。左手の薬指。根本から断ち切れて、醜い傷跡を包帯で覆い隠している。私にとっては何よりも愛しい傷だ。紫と繋がっている、有と無の境界線。途切れない永遠の徴。



――新しい霊夢――

『ねえ、霊夢? あなたの母親の名前、なんて言うか知ってる?』
 八雲紫の声が響く。私の中に満ちてゆく。
『……霊夢、って言うの』
 だから、と思う。私は、私から生まれ、私を生む。私は生き続ける、紫の中、そして紫の外で。

 私は、生まれ来る娘に呼びかけた。

 ねえ、私。
 あの人には、あの人のことを分かってあげられる人は、誰もいないの、だから……
 八雲紫のこと、分かってあげて。

 ああ、と思う。私もこの声を聞いた。生まれ出でる時。母親に聞いた唯一の言葉。だから、こんなにも紫のことを愛せた。これから生まれてくる娘……いや、生まれてくる私も、八雲紫のことを愛せるだろう。

 私はいなくなる。そして、生まれ出たばかりの私を、紫の腕が抱き上げる。
 私は連なってゆく。
 あ…あれは『ゆかれいむ』!! 何、知っているのか雷電! うむ…あれは『ゆかれいむ』。『東方SS五つの難題』の一つ。
『東方五つの難題』とは…ゆかれいむ、もこけーね、マリレイ、マリアリ、幽々子×妖夢(僕の独断)の五つを指す。あまりにメジャーであるために、高いハードルが要求されるカップリングのことである。(独断)

 と言うわけで、ゆかれいむ派なのでゆかれいむを書いてみました。霊夢の出番が少ないのはご愛敬。

 恒例の謝りタイム。
 まず、グロいことについて。人によるとは思いますが、カニバリズム、切断等のグロ表現が入ってます。苦手な人には謝らせていただきます。申し訳ありませんでした。
 それと、キャラ崩壊らしきものについて。妹紅の口調については最後まで自信が持てませんでした。それ以外の部分にもキャラ崩壊を感じた方には謝らせていただきます。申し訳ありませんでした。
 霊夢の母については、微妙ですがオリキャラと言えるかもしれません。また、オリジナル設定を含みました。オリキャラ、オリ設定苦手な人はすいませんでした。
 それと、べたべたに恋愛しているので、嫌いな人は嫌いかもしれません。申し訳ありませんでした。

 前の作品と同時進行で書き進めてたものです。前の同様、文章が詰まっているので読みづらいかもしれません。読んでくれた皆様ありがとうございました。また、以前の作品について、多くの評価&感想ありがとうございました。非常に励みになりました。

 特に作品について言うことはありませんが、紫と霊夢の関係性について、新しい一つを示せたのではないでしょうか。過去の作品はタグ検索で探してチェックしましたが、よく似た作品がないことを祈ります。
 僕が物語を書くのが好きなので、そんな風にすることもありますが、皆さんの作品を見ていて、キャラクターの魅力的な描き方が上手なことに驚かされます。僕はそう言ったものが苦手なので、ストーリーで誤魔化してる部分があります。そう言った部分については、努力を続けたいと思っています。皆さん生温く見守り下さい。

僕が東方二次を書き始めたきっかけについて、最初は友人からの無茶振りでした。「けーねえーりん一つしか見たことないから書いて」と言われて書いたのが一作目、「紫の受け書いて」と言われたのが二作目。二作目書いてるうちに思いついたのがこれです。
 という訳で、ひとまずネタが尽きたのと、元々気晴らしということ、何かリクあれば適当に上げて下さい。そう言ったものがあった方が、僕は書きやすいので、こっちも書けそうなのピックアップして適当に受け付けます。

 
 何だかあとがきが長くなってしまった。こんな長いあとがきも読んで下さってありがとうございました。
RingGing
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コメント



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3.90点コチドリ 削除
そんじゃ作者様の後書きに沿ってコメントしてみようか。

ゆかれいむが一つの到達点なのは間違いのないところ。それが意志なのだよ、幻想郷のね。と、俺も思う。

グロ表現について。
ストーリーに必要と作者様が判断したのならいいんじゃないですかね。
ぶっちゃけ、「描きたいから書くんだよ」みたいな理由でも俺は構わない。
この作品に関しては、幻想郷を維持する装置としての紫様、その装置の燃料となることを肯んずる霊夢、
その設定こそが一番のグロなんじゃないかと感じました。それはとても面白いと思う。

キャラ崩壊とオリキャラ、オリ設定について。
あんまり気になりません。むしろ書き手さんそれぞれの自由な発想にこそ価値を見出します。
勿論ムッカリくる表現や設定ってのはありますよ? でもそれは俺がスルーすればいいだけのこと。
個人的願望として、幻想郷は果てしなくのんびり、いい加減に存在していて欲しい。
ただ作者様が提示した、巨大なジレンマを抱える、或いは一本の針で巨岩を支えているような脆さを
併せ持つ幻想郷もそれはそれでアリだ。ってかやっぱり面白いと思う。

べたべたの恋愛(百合)について。
正直これが一番俺にとってハードルが高い。嫌いじゃないんですよ? 嫌いじゃないんだけど、なんと言うかなぁ、
四季様の説教にさらされている小町さん的な感情は否定し切れないですな。
心のどこかで期待感はあるんだけどやっぱりちょっと苦手、みたいな。家族、友情的なものは大好きなんですけど。
当然俺の嗜好がそうなだけであって、作者様が申し訳なく思う必要は露ほどもないと言い切れますけどね。

文章についてはさほど詰まっているとは感じません。読みやすくわかりのいい文章だと思いますよ。

キャラの魅力について。
言葉を飾ってもしょうがないのではっきり言いますけど、「確かに。ちょっと苦手にしてるのかも」とは感じる。
魅力がないとは断じて思わない。けれど、抱きしめたくなるほど可愛いか? 愛しく思えるか? と問われると、

「いや、まぁその、なんだ、エヘヘ」

みたいにはなるかな。
でもいいんじゃないでしょうかね? キャラの魅力でストーリーを引っぱる、ストーリーの魅力でキャラが引立つ。
俺はどちらの系統でも美味しく頂いちまう読者なんだぜ。

ネタ? ネタかぁ……。
八意と八雲を貴方は登場させた。ここは一つ八坂様にも御登板願うというのはどうでしょう。
トリプルエイトでBBAネタ。末広がりで縁起もいいや。
あ、誤解なきように。俺は割りとマジで幻想郷に住まう人妖の女性は皆少女だと認識しているのですよ。
つまり幻想郷の三人の大番長(Big Bang Age)が集うお話を所望している訳です。
場がひん曲がるほどのプレッシャーが発生すること請け合いだ。
もう一つマジなこと言うと、作者様なら大いなる者の心情をきっちり描いた物語を創作できるんじゃないかと
自分が勝手に期待しているのがリクエストの理由かな。

最後に。これを言うのは三度目か。
面白かったですよ、貴方の作品。
長文失礼致しました。
11.100点名前が無い程度の能力 削除
傍から見ると歪みでしかない霊夢と紫の関係も,
二人の間ではただ一途な感情によるものなのかな.
読後感悪いですけど,心に残る作品でした.
12.100点名前が無い程度の能力 削除
グロだけど…グロじゃなかったー(某ジ○リ風に)
何て言うか、アニメでごまかせる程度の低年齢対応グロくらいですね

永夜組で一人置いてかれたアリスェ…
主人公組で一人置いてかれた早苗さんェ…
14.50点名前が無い程度の能力 削除
‐悪いとこ

この物語を誰の視点から描きたいのかはっきりしてない。

会話が稚拙=心情面の書き方も下手

オリ設定だけど構成が甘いからわかりにくい文章になってる

‐良いとこ

設定がすごく面白い

ゆかれいむハァハァ
15.80点名前が無い程度の能力 削除
やっぱり霊夢って人間としてみるとかなり歪んでるよなぁ…
でもまぁ、霊夢としてみれば普通なのかも。
16.80点とーなす 削除
これをベタベタな恋愛と言ってしまうのは違和感ががが
設定としては斬新で面白かったです。
17.90点名前が無い程度の能力 削除
斬新な設定ですね。
理解できないのに、不思議な説得力があるというか。
面白かったです。
18.100点名前が無い程度の能力 削除
どうしてでしょうか、無残に死んだ主人公組よりも紫が不憫でならなく思えました
リスクを承知で自分のしたいことをした三人、そして常に満たされていて、これからもそうあり続ける霊夢に対して、紫は永遠にそうならないからですかね?
出来ることなら、こんな辛い立場にいる紫を理解してあげられる、あるいは理解しようと努める誰か主体のssを読んでみたいです(??×紫で相手が意外ならなお嬉しいです)。
歪でしかし面白い作品をありがとうございました。
21.90点名前が無い程度の能力 削除
お話の設定とあっさり目だが真剣なバトル描写は秀逸だと思ったしホレた
でもべたべたな恋愛ってこれむしろ殺伐してるじゃないですかーやだー
まあゆかりんまっしぐら状態の霊夢さんからすればそうなるんだろうなと
自己完結した!これが……ゆかれいむ派の本気か……!

しかし魔理沙ェ……主な視点の1人だったのにどうしてこうなった
全体的に霊夢以外のキャラクターの感情が見えにくい(脇役は仕方ないと
しても、主観視点のあった魔理沙が死亡フラグ建つの分かっててどうして
そこまで無茶したのか等)のが残念だったけど、後書きに苦手と書かれて
いるからわざわざ言うことでもなかったか
でも幽々子様や妹紅のように『我関せず』的な位置で淡々としてる脇役の
表現は素敵だと思うんだけどね!逆に恐怖する慧音なんかは違和感がw

あとグロ・オリキャラあり・視点不一致の3大要素が揃っていたが、前者は
注意書きあり・霊夢母は気になる程出張ってもいない・視点の転換点がハッ
キリ示されてるってことで違和感なく読めたし読後は不思議な感動もあった

でも全体的に評価してなんだかんだでこのss好きなんで作者様の次回作にも
期待する!このssがあったからこそ他の過去作にも出会えたわけだし

そしてネタ提供にはなってないかもだけど、設定作るの得意な作者様に是非
とも新説・月面戦争書いてもらいたいかな
2次創作だし新説だから儚月抄は見なかったことにしてもいいしね!
リクエストの理由としては、
・これまでの過去作で登場した月と妖怪のダブル賢者がツボだったこと
・作者様のバトル描写も好きなのでそういうのがもう一度(頭脳・肉弾戦
問わず)が見たいと思ったこと
・力のあるキャラを書くのが好きそうに見えたので、そういう輩が月面戦争
だと一杯登場しそうだから
友人さんのように無茶振りは出来ないので思いついたらよろしくどうぞ
22.10点名前が無い程度の能力 削除
別にグロいのとかどういうのはどうでもいいんだけどゆかれいむが好きだからってそれ以外をおざなりにしてるのがどうも納得がいかない。咲夜を失ってレミリアは何も思わないのか?とか幽々子は紫を許すの?とか。あと注意書きに魔理沙、咲夜、妖夢が好きな人は見ないでくださいって書いたほうがよくないですか?作品的に冷静に見ても別に主人公勢を殺さなくても物語は成立してるしインパクトという意味では博麗を喰う紫という分でも十分だった気がするのでやり過ぎ感が酷い。表現したいことはわかるし面白いと思うけど筆が乗りすぎて(グロくしたいって気持ちが高まりすぎて)やりすぎてるようにしか感じない。表現したいものを表現することは悪いとは言わないけど余分な肉をつけるのはマイナスにしかならないと思うのでこの点数で。
23.100点名前が無い程度の能力 削除
こういう、どうしようもない問題を抱えていて、しかもその問題を解決する術がないという設定の話、私は好きですね。むしろ霊夢は解決する気が無いようですし。
もちろん、諦めなければ道は開ける!みたいな、熱血というか、そんな話も好きなんですけどね。
24.80点可南 削除
愛の意味を考えさせる物語だったと思います。
ありがとうございました。
26.100点名前が無い程度の能力 削除
まさか3人が死ぬとは思わなんだ
でも個人的に有りだなと感じました、ハッピーの方が好きですが救いようのない話があっても良いんじゃないかと
35.90点名前が無い程度の能力 削除
こう歪な愛も、また、ゆかれいむ。

これしか言えない。読み終えての心情がすごい作品でした。
ただ、いかんせん殺された側の扱いが乱雑かねぇ…。誰かが言っていたけど、それで殺された側に関わりのあるものは何を思うのか。あ、でもそれを考えさせられる作品としてはかなり好きだから…うむ…。

ゆかれいむはいいね。
37.90点名前が無い程度の能力 削除
今更読む
こういう狂気のまじるゆかれいむもいいですね