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雨が好きだ。雨は私と良く似ている。なんて。
灰色に濁った雲に覆われて陽の余り差さない、暗く陰る世界に雨が降る。大粒のそれはまるで一本の糸のように天地を繋ぐ。視界が雨の軌道で埋まる。
雨粒は地上に存在する一切を殴る。木を、岩を、水面を、民家を、私を。ざあざあと唸りを上げながら天上から目一杯の力を含んで世界を殴打する。その音で耳が覆われる。
傘はささないで、私は降り注ぐ暴力をただひたすらに受け止める。肌が濡れ、服から髪から雫が滴る。冷ややかな感触が身体に走り、頬を伝った水玉が口腔に滑り込んでは唾液と混じる。
私は深呼吸をする。生臭い香りが鼻腔を伝って肺を満たしていく。私の身体が雨によって支配されてしまう。そうして私と雨は一つになるのだ。
雨は、心の瞳を閉ざした私と良く似ている。
心を閉ざしてからというものの、当の私ですら自分の本当の気持ちというものが分からないでいる。全ては無意識の仰る通りで、そこに自分の意志が介入されているかどうかを断定することは出来ない。
その様が、何と無く雨の姿と重なったのである。心の最奥は雨が轟々と際限無く降っていて、ノイズのように視界を妨げ、本当の声を掻き消す。それは内から外を見回したときも同様で、ノイズに霞んだ世界を私は眺める。本心の読めない、ぺらっとした上面だけの世界。
本当の気持ちなんて、読んだところで感じたところで何の得にもなりやしない。だって、そうだろう。私とお姉ちゃんが、覚りが、周囲から忌み嫌われ疎外されたのは何故?
心を見透かされるのが嫌だったからだ。欲望で淀んだ卑小で猥褻な本心を、私達の元に晒されるのを怖がったからだ――ほら、やっぱり。内奥に触れてみたって、残るのは雑念の、白肌にぬめり付くような、生温くて気味の悪い感触しか無いんだ。
けれどお姉ちゃんは違うと言う。私達はそんな醜悪な心の持ち主ばかりでは無いと言う。私に心の瞼を開かせようとする。どうでもいい。仮にお姉ちゃんの言う通りだったとしてもどうでもいい。それを知る術が私には無い。
ただあの日の生態系どもは、皆が皆醜い心を私達に向けていた。脳に牙を立てては、私の理性を破壊しようとしていた。深々と刻み込まれた遠い日の記憶が、無意識のうちに私に恐怖感を与え続けているのかもしれない。
雨さん雨さん。もっと降り注いではくれないかしら。
分厚い雲が全てを覆う。日の光は遮蔽され、色彩に溢れた世界は灰色にくすんで雨が降る。雨が勢いを増していくのと一緒に、私の五感は雨によって奪われる。自分という確固とした存在が雨に溶けて一つになる。最早そこに私はいない。それのなんと心地のいいことか――私はロマンチストになって、自己完結の愉悦になみなみと浸かっている。
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「なにやってるの、あなた」
水面にぷかぷか浮かんでいい気分だった所にボディプレスを喰らったか、或いは足首を掴まれてぐいと水底に引きずり落ちたような感覚に陥った。鼻に水が入ったような。要するに快い気分でいるところを邪魔されて私は嫌な気分になったのだった。うんともすんとも言わずに声のする方向を振り返ったのは、ささやかな嫌悪感の表れである。
外見年齢十歳にも満たない幼子が傘をさして私のことを仰視していた。骨組みの所々が屈折して錆び付いた、みっともない形のビニル傘。彼女を雨風から守るには十分過ぎる程の大きさだ。
「見ての通り、雨に打たれているの」
私は少女の傘の先端から滴る水滴を眺めている。傘の手から離れ、それは大地に落ち拡散する。ぽたん、と音が鳴る。それが幾重にもなって私の鼓膜を休むことなく静かに揺らしている。
「雨に打たれて、何してるの」
「雨と一体化しているの」
「へえ」
「雨は私とよく似ているの。雨粒で視界を覆っちゃうところとか、ざあざあって音で耳を塞いじゃうところとか」
「ふーん」
暫く間を置いて、「よくわからないわ」と彼女は言った。私が紡いだ言葉はただ言葉の枠内に納まるのみで、そこには何の感情も無い。私の行為を理解して欲しいという欲求すらも。だから彼女の否定の言葉もまた、耳を通して私に知覚されるだけ。生物的な課程を淡々と追うだけだった。
少女はじっと私を見つめている。傘を伝う雨粒を追うのも何だか飽きてきたので私は空を仰ぐ。途端に眼に雨水が入ってきてぎゅっと瞼を閉じた。眼球が冷たい。少し上下左右に転がしてみると、仄かに冷たさが広がって気持ちがいい。
「ずっとこんな調子?」
「ずっと、って訊かれると分からないかな。どれたけの時間が経ったか分からないの。それこそ貴女が言うようにずっとかもしれないし、存外まだ三分も経っていないのかもしれない」
「風邪引いたりとかしないのかしら」
「大丈夫よ。家に帰ったらお風呂に入って着替えるから。うがい手洗いもするでしょうね、私がやらなくても、多分お姉ちゃんがそうしろって言うかも」
二、三問答をした後、また雨音が私の耳を覆った。少女は、帰らない。立ち去る足音は聞こえない。雨音のせいで聞こえないだけかもしれない。押し黙ったままでいるなら隣にいても別段問題はないのだけれど、ちょっと気になったので眼を開いてみた。彼女はまだそこにいた。傘はさしたまま、最前の私と同じように鼠色の空を見つめている。
「なにやってるの、貴女」
「一体化しちゃいたいくらいに、雨が好き?」
私は少女の瞳を見るけれど、彼女は私を見ていなかった。彼女は私の後方に広がる天上を見据えていた。眼差しは確かに私に向けられているのだが、焦点が合っていない。
「私はちょっと嫌いかな、雨」私の返答を待たないまま、少女は言葉を続けた。「好きなところはあるわよ。スーさんの毒気を一杯に吸った水滴を集めて啜るのは、好き。スーさんの貴重な水分にもなるしね。けれども外でパーッと遊べなくなるのは嫌。それに何より悲しいじゃない、雨って」
「悲しい?」
「泣いてるみたい」
心と何となく、似てる気がするの。空って。
嬉しいときは晴れで、落ち込んだときは曇りで、雨は泣いちゃってるみたい。
何だかね、空にも心はあるのよって偉い人に嘘吐かれたら信じちゃいそうだよね。空はどこまでも広がっているんでしょう? きっと幻想郷のあちらこちらで起こったことを全部見届けるのよ。きっと悲しいことが沢山あるんだろうなあ。例えば何処かで木が人間の手で切り倒されて、花が踏みにじられて、人形や物が道端に投げ捨てられて……悲しくなって、泣きたくなるのも当然だな、って。
少女は言う。
「私ね、心について、かんがえているんだ。悟ったのよ、心を知ること、それすなわち、人間の心理を鷲掴みにしたも同然、ってね。それにそれは私を知ることでもあると思うの、心っていうものが宿った、妖怪としての私を知る、みたいな?」
得たり顔を向ける少女に、私はそっぽを向いた。
彼女の言葉が胸に突っかかって、面白くなかった。
心について考えている。
心と天気は似ている。
何が、何が心だっていうんだ。
貴女の何がそこまで心を知りたがるんだ。
心の最奥など所詮欲に溺れた本能でしかないのに。
表面に現れる想いなど、どうせ薄汚れた感情を覆い隠すための化粧品でしかないのに――
面白く、なかったんだ。嘘だ。
恥ずかしかったのだ。
心と向き合おうとする少女の姿の前に、心から逃げ続けている私が酷く矮小な存在だと思えてきたのだった。
もう行ってしまえばいいと思った。こんな私なんて放って置いて前に進んでしまえばいいと思った。そして心の存在を悟得して法悦に浸るなり絶望に呑み込まれるなりしていればいいのだ。
雨音が、遠のく。
雨に遮られた先にずぶ濡れになりながら惨めに立っている私がうっすらと見える。大丈夫。貴女は、そこで雨に濡れていればいい。これからも、ずっと、雨に全てを遮られながら隠れていればいい。私の、脆くて、弱々しい心よ。
やがて雨音が一息に近づいて来て、私はちょっとだけ緩んだ青の眼をきゅっと瞑らせる。力強く、周りに皺が寄るくらいに。
ごめんなさい――ノイズ越しに貴女に呟いて、私は再び、私の全てを雨に奪われていく。
「そう」
私は言う。対岸から少女を臨む。生まれたばかりの心に戸惑いながらも、それに近づき触れようとする彼女の姿を眺める。私は自らとそれとを対比させる必要はないし、ましてやコンプレックスを抱く必要すらない。一つの事象として平らかに見て、知らない顔をする。何をしたって咎められることはないんだ。心を閉ざした私の岸辺には誰も入って来れやしない。私は、一人きりだ。
「残念だけど、私にその答えを求めるのは、そりゃあお門違いだね」
「どうして?」
「私は心を閉ざしちゃってるから。心のことなんか分からないし分かりたくもないわ」
少女は首を傾げた。私はもう何も言わないよ。純粋さが生んだ好奇心と言えども、心と直面する覚悟を固めた彼女に、私がかける言葉なんてこれっぽっちも無いのだから。
それにしてもキラキラした瞳をしている。何物につけてもセンサーを働かせているようだ。その一方で、歳不相応に汚れているように見える。それらが合わさって妖艶な輝きを放っていて、思わず抉って部屋に飾ってあげたい気分になる。気分になるだけだけれど、今の私は凄く真っ白な気持ちでいる。何も無い。クリアだ。
「見つかるといいね、その答え」
じゃあねと小さく手を振って、少女を最後に一瞥するでもなく、私は駆ける。そろそろ家に帰ろう。
どうか彼女が、心の真実を知って、私みたいに心を閉ざす、なんてことがありませんように。
ねえ、どうして。
どうしてそう祈ったのかな。
心を閉ざすことが寂しいことだから。
私みたいな奴が二人もいたら面白くないから。
君は叫んでいるのだろうが――ノイズ越しだから姿が見えない。沈黙しているのかもしれない――雨音が邪魔をして聞こえないの。
例えばあの子のように心と空とを重ねてみたとして、
ざんざと降る雨に濡れている君は果たして泣いているのか。
やっぱり分からない。
でも一つだけ確信を持てることはあるよ。
それは私が、元気だっていうことだね。
だから君は安心して、雨に濡れていればいいんだ。
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「傘なんか投げ捨ててしまえばいいんだよ」
その日も、地上には雨が降っていた。当然だ。雨の降る日を狙って出掛けたのだから。
雨足は、強い。雲伝いの日光が柔く降り注ぎ、地面には所々に水溜まりが出来ている。滴が落ちると同時に波紋が広がり、水面に映った私がゆらゆら揺れる。それを踏みつけると、泥混じりの飛沫が飛び上がっては私の衣服を汚すのだ。水の鏡は茶色く淀んで見えなくなってしまう。そこまでは、この間と同じ。
違うのは、私の衣服は乾いていて、私の隣にはお姉ちゃんがいて、私達は同じ傘の下にいるっていうことだ。ちなみに傘はお姉ちゃんの傘である。私は傘は無くても平気というか寧ろ邪魔なので、持って来ていない。
「駄目よ。今日は私の隣にいなさい。濡れて風邪でも引いたらどうするの」
「今更それ言うかな。大丈夫だよ。帰ったら地熱でぽかぽかに温まったお風呂に入る。お姉ちゃんが畳んでくれた服を着る。お姉ちゃんの言いつけを守って手を洗ってうがいをする……ほら、大丈夫だよ。濡れても濡れなくても問題ないって」
「そう言ってこの前は鼻をすすってた癖に」
「それだけだもん。気づいたら治ってたし。ノーカウントです」
「それでも、私が駄目と言ったら駄目なんです」
お姉ちゃんは傘を持つ左の手を右側に寄せている。私がすっぽり傘の下に入って濡れないようにするためだろう。その代わりにお姉ちゃんの左肩のところがじんわり濡れている。私は濡れても大丈夫だって何度も言っているのに。その上空いた右腕を私の腕に絡ませて、離さまいとするものだから、ひょいと雨の下に身を晒すことも出来ない。
振り解こうと思えば振り解ける。そういうところで私はお姉ちゃんより強い。でも、それはちょっと粗雑なやり方で面白くない。何より得するのが私だけだ。
「お姉ちゃんも一回ずぶ濡れになってみようよ。その為に今日は地上に出てきたんだからさ」
「駄目です。いいですかこいし、私はあなたの身体が心配なんですよ。これから日も短くなって寒くなるでしょう、雨に濡れたらどうなります。凍える風があなたの体温を瞬く間に奪い去ってしまうでしょう。鼻水すすってるだけじゃあ済まされなくなるかもしれないんですよ」
「そのときはお姉ちゃんが看病してくれるんでしょう。だったらいいよ私。鼻が詰まっても喉が涸れても咳が出ても熱が出ても、お姉ちゃんが毎日お粥作って、冷えたタオル私の額に乗せて、たまに手握って傍にいてくれるんだったら大歓迎ですよ」
「そんなに自分の身を粗末にあつかわないで、こいし。私はあなたが苦しそうでいるところを見たくないの」
お姉ちゃんは私の顔をじっと見つめる。私は目を逸らす。
ちょっとドキッとしてしまうのだ。普段はふんわりした、何か暖かいものに包み込まれているような、そんな眼差しを私に向けるのに、たまにその気概が一本の矢のように凝縮して、私の心臓を射抜こうとする。それはお姉ちゃんが、本気で私のことを心配しているらしく、そしてそれは私がどんな言葉で飾りたてても揺るがないらしく、こういうところで私はお姉ちゃんより弱いのだ。
「むむ、引いてはくれないんだね。だったら」
私は右腕を伸ばしてお姉ちゃんの傘を奪う。
不意を突いたからするりと傘はお姉ちゃんの手から離れた。あ、と、間の抜けた声がお姉ちゃんの口から漏れる。
それから私は傘を路肩へと放り投げた。もぞもぞと左腕が動くけれど、私は離すものかとぎゅっと腕を胴へと押し当てる。幾百幾千の雨粒が私とお姉ちゃんを濡らす。私達は自然に溶けていく。コーヒーにミルクを垂らすように、黒の中に浮かび上がった白はやがて紛れて消えていくのだ。
すぐに私達は塗れ鼠になった。最初は戸惑い気味だったお姉ちゃんも観念したのか、私から離れようとはしないで、あの、柔らかな眼差しを湛えて私を見ていた。濡れたお姉ちゃんは何だかいつもより色っぽい。髪先から滴る水滴、潤んだ双貌、水気を帯びた唇、ほんのり浮かぶ肢体の線。
「こいし」
「なあに、お姉ちゃん」
「あなたは雨に打たれて、何を感じていたの」
「お姉ちゃんは今何を感じているの」
お姉ちゃんの言葉に、私は何物も求めてはいなかった。服の張り付いた感じが気持ち悪いとか、冷たいとか、そんな物理的な答えすらも望んではいなかった。私は雨に打たれるというこの行為を快いと思っているし、古明地さとりは私と血が繋がった、私の大好きなお姉ちゃんだということを知っている。心地よいことを大好きな人に教える、という事柄だけがそこには横たわっている。一つの点のように、そこにあるだけで、どこにも広がらない。何の見返りも持たない。さすがにあなたなに考えてるの馬鹿じゃないって言われたら傷つくかもしれないけれども。
お姉ちゃんは空を見上げる。
「全てを捨て去っているような感じですね」
ずぶ濡れになったお姉ちゃんが、私には輝いて見えた。
「まるで雨が私の全てを洗い流してくれているかのようです。体裁も何もかも私の体から引き剥がして、身を委ねるよう手招きしているみたい。雨粒の衝突音を聴き、雨が私の身体の上へ静かに降りていくのを感じ……」
それは心の煌めきであるのかもしれなかった。心にこびりついた泥を雨が洗い落としたことで、純然とした心が姿を現したのだ。
「帰ったら面倒事が増えるだろうなあと分かっている筈なのに、それが胸につっかえないで滑り落ちていくんですよ。どうでもいいや、今はただ、雨に身を委ねていたい、って――悪く言えば、投げやりになっているんでしょうね」
過去に縛られるでもなく、未来を憂うでもなく。この一瞬だけを見つめている。生まれたばかりの、小狡い知性もない、稚い感情のみが細々と巡る赤子のように、その心は洗練され、雨に、自然に、世界に混じり溶けていく。
それが、多分、脆弱で小さな心の中核であるのだろう。それを私達は覆って見えなくするのだ。ありとあらゆる欲望や妬み憎しみによって、心を汚いものばかりで肥大化させていくのだ。
「ねえ、こいし」
お姉ちゃんは、強いなあと思う。
お姉ちゃんは、汚く大きくなった心の数億分の一ほどにも無い、あの核を信じているのだから。どれだけ他人が私達を罵っても、蔑んでも、その僅か一点の心の煌めきにすがろうとする。心を閉じようとしない。覚りであり続けようとする。
どれだけ小さな可能性なんだろう。
その可能性に何度見放されたのだろう。
けれどもお姉ちゃんの眼は閉じていないんだ。私はもう懲り懲りになって閉じてしまったというのに。お姉ちゃんはやっぱり強い。けれども、その一縷の可能性にすがり続ける様は、かわいそうにも見える。
「あなたは雨に打たれて、何を考えていたの?」
「"私"は」
「隠れているの、雨の中に」
「隠れている?」
「そう。雨がノイズになっているせいで姿は見えないし、雨音のせいで"私"の声を私が聞くことは出来ない」
「それじゃあいつ、"あなた"を囲う雨は止むのかしら」
「止まないよ。ずっと降り続ける」
「止まない雨は無いわ」
「そうかな」
「そうよ」
雨足が、弱まっている。唸るようだった雨音が風のそよぐように静かに、私の耳を撫でる。雲の切れ間からは陽が差し込んできていて、木々や花の色彩が鮮やかに映え、花弁や木葉に付着していた水滴が日の光に反射し煌めきを放つ。白黒だった世界に色が降りていく。
「ときに、こいし」
「なに」
「雨上がりには虹という綺麗なものが出来るそうですね」
「そうだね。私見たことあるよ。うん、綺麗だ」
「もしもあなたが雨に隠れているのなら、雨が止んだそのときには、あなたは綺麗な虹になって浮かび上がるのでしょうね」
「何、それ」
私は笑う。お姉ちゃんは恥ずかしがる素振りもなく、ただ静かに柔い笑みを湛えた。お姉ちゃんは全く重度のロマンチストだ。私より酷い。そうでなかったら第三の眼も開いていない。数億分の一の希望を夢見たりなんかしない。まあ、そんなお姉ちゃんのことを、何だかんだで私は好いているのである。
虹、か――
――あ。
今、ちょっと考えちゃったでしょう。
雨上がりの私の心と、眼の前の風景、重ねちゃったでしょう。
最近は何やら心の瞼が緩んできてしょうがない。ついぞ堅く結んだばかりだっていうのに。
――ねえ。綺麗かな。私の心。
雨が上がったその先でずっと一人きりだった"私"は。
もしかすると肌がふやけているかもしれない。
酷い顔をしているのかもしれない。
分からない。でも、綺麗だといいなあ。
だから閉じたままにしておこうと思う。
汚れた言葉に傷つかないように。
醜い思いに覆われないように。
雨はいつまでも降り注いで私を濡らす。
姿は誰にも見えないし、誰の声もそこには届かない。
いつまでも、延々と、耳障りなノイズが走り続けている。
でもその雨はきっと温かな雨なんでしょうね。
素敵なお話をありがとうございました。
作品は綺麗でまとまっていますが、綺麗過ぎて面白さとの両立ができてないように感じました
雰囲気に引き込まれるものはありますが、どんどん読もうとさせる吸引力が感じらなかったのが残念です
どちらも重度のロマンチストに見える。