Coolier - 新生・東方創想話

青春ラブコメ的友人観察

2011/10/24 22:14:29
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「青春ラブコメなんて言葉、如何にもって感じで憧れるわよね?」
「……待ち合わせの時間から四分十一秒も遅れてきて言う言葉がそれなのかしら」
「そうねえ。ここは二十歳の大学生らしく、飛んでいる矢は止まっているけれども何故動くのかしらと言いながら登場するべきだったかしら」
「……蓮子。もしかしてとは思うけれど、いつも待ち合わせの時間に遅れていれば、そのうち遅れても罪にならなくなるとでも思ってるんじゃないでしょうね?」
「まさか。ちゃーんと反省してるわよ? ――ああすみません、アイスコーヒーお願いします」
 どうやらこの世に存在するらしい反省なる概念は、私の特別な目を持ってしても見出すことは不可能のようだ。おそらく蓮子から生じる反省という現象を垣間見るのは、ニュートリノや重力子を観測することよりも難しいだろう。
 店員の運んできたアイスコーヒーを子どものように飲む相棒を見ながら、私は盛大に溜息をつくのだった。
「……それで? わざわざ呼び出しておきながら遅刻した挙句おいしそうにコーヒーを飲んでいる蓮子さんは、私に何の御用なのかしら?」
「あらメリー、コーヒーに嫉妬してるの? ……顔が恐いわよ。冗談よ」
「馬鹿を言いに来たってわけじゃないんでしょ? また新手のオカルトスポットでも発見したのかしら」
「いいえ、今日は倶楽部活動のことを話しに来たわけじゃないの。――最初に言ったでしょう? 青春ラブコメよ、青春ラブコメ」
 目の前に座る友人兼相棒兼部員兼同級生の宇佐見蓮子は、稀にまともなことを言い出す。いつもは突飛なことを言ってくるくせに、ここぞという場面では的を外さない発言をしてくるのだ。
 つまり逆に言えば、日常生活においては妙なことばかりを口走る変人だということだ。加えて言えば、今現在はその日常たる昼下がりである。
 変人としか言い表しようのない蓮子の言葉は、私の頭に理解の二字を与えてくれることはなかった。
「……つまり、どういうこと?」
「だから、青春なの。で、ラブコメなの」
「へえ」
「青春よ? ラブコメよ? 一度は体験してみたいと思わない?」
「ふうん」
「こう、甘酸っぱくて、青ピンク色っぽい感じで、ほわほわっとした感じで、こう、そう……わかるでしょ?」
「いや、本気でわからないし」
 全く要領を得ない。というより、理解させる気が無いとしか思えない。
 天才の言葉は時に凡才に理解されず、歴史に埋もれてしまうという。しかし、天才という名の変人の言葉を即座に理解してしまうくらいならば、私は凡才のままでいたいと思う。
「言おうと思えば言えるのに、わざわざ回りくどい言い方をするのは蓮子の悪癖ね」
「いやまあね、実はちょっと言いにくいことがあってね。……メリーにしか言えないことでさ」
「……もう、何かと思えば……。私と蓮子の仲でしょ? 今更何を言われたところで、蓮子が大学切っての変人だって評価に揺ぎは無いんだからね。安心して何でも言っていいわよ」
 ……そんな憎まれ口が自然に出るのに反して、大事な相談を私だけにしてくれることが嬉しくもあったりするあたり、私も現金だと思う。
(蓮子を一番近くで見られるところにいる私なんだからね。ちょっとやそっとのことじゃ、私は揺らがないわよ)
 そういうことを言うと調子付くだけなので言わないでおくけれど、本心だったりするのもまた事実である。
 そんな私の内心を余所に、果たして蓮子は言ったのだった。
「メリーはさ、好きな人が出来たとき、まずはどうする?」
「……え?」
「だからさ……もし、仮によ? 自分に好きな人が出来たら、まずはどう行動するかって意味よ」
「――――」
 それは、つまり、
「もしかして……好きな人、出来たの?」
「流石の私も、こういうことに関しては専門外なのよねー。ここは一つ、メルヘンが歩いて動いていると言っても過言ではないメリーに聞いてみようと発想したわけよ、うん」
 餅は餅屋よね、などという声が聞こえたけど、その音は、意味のある言葉として私の頭の中に入らなかった。
 蓮子に、好きな人?
 そんなことありえないと反射的に思って、すぐに否と思いなおす。それはありえないことじゃない。単に、私がありえないことだと思いたいだけだ。
 だからと言うように、何故と言うように、私は蓮子に疑問を投げかける。
「ちょっと蓮子、それってどういう――」
「どういうって、言葉通りよ。メリー、いくら貴方が私の助手だからといっても、そこまで察しを悪くする必要はないのよ?」
「私はワトソンになった覚えなんてないわよ……ってそうじゃなくて!」
 自分を名探偵役だと主張したいらしき相棒は、私の内心を逆写しにするかのごとく、飄々とした様子で話し掛け続けてくる。
 ……それは、蓮子だって女の子なんだし、好きな人の一人や二人出来たっておかしくはない。むしろ、蓮子のような人に、今まで恋人がいないということのほうがおかしいとすら思える。
 間違いなく変人で、周りに嫌でも影響を与えて、こっちの都合も考えずに人を連れまわして、どう考えても迷惑としか表現できない存在で。
 だけど、一緒にいると理由もなく楽しく嬉しくて、貴方の言葉が私を変えていくのが心地よくて、いつもは人の都合なんて考えないくせに、大事なときにはいつも私のことを想ってくれて。
 そんな魅力の塊みたいな人に恋人がいないなんて、考えればありえないことだと、そう思う。
 私が蓮子と一緒にいたいと思ったとき、何故かいつも隣にいてくれた。でも、そんなことは、普通じゃ考えられないこと。
 だから、
「……私が動揺するなんて、おかしいことよね」
「ちょっとメリー、人の話聞いてるの?」
「え? ああ、御免。聞いてなかった」
 一人話し続けていた蓮子は、上の空だった私を咎めるような確認をしてくる。
 いけない。私だけに話そうと思ってくれた相談なんだから、ちゃんとそれに応えなきゃ駄目だ。困っている友人の前で、私のほうが困惑してるなんておかしいことで――
「しっかりしてよね、私の大事な後輩の恋愛相談なんだから」
 ……は?
「待って蓮子、今なんて――」
「私の大事な後輩の恋愛相談なんだからって言ったのよ、メリー。……どうしたのかしらそんな顔して。まさか――この宇佐見蓮子さんに思い人が出来たなんて、そんなことを考えてたわけじゃあないわよねえ?」
「――――」
 ――やられた。
 瞬間私は、猫のようなにやけ顔を浮かべて、ふてぶてしくアイスコーヒーを飲む蓮子に抗議の声をあげようとして、
「先に言っておくけど、私は私に好きな人が出来た、なんて一言も言ってないわよ? ぜーんぶメリーが勘違いしただけだからね?」
「――確信犯よっ!」
「あら、その使い方は誤用じゃないかしら」
「誤用だったのは遥か昔の平成の時代よ! ってああもう、違う違うそうじゃなくて!」
 話をずらそうとしているのか、はたまた最初からまともに話す気がないのか。へらへらと聞き流す蓮子に、私は今度こそ抗議の声をあげる。
「確かに私の思い込みには違いないけど、こんなの反則よ! ミスリードよ!」
「あらメリー、意図的に情報を出さない手法は、ミステリの基本中の基本よ? それに、ヒントはしっかりと出ていたじゃない」
「そんなのどこにあったっていうのよ!」
「決まってるじゃない。私という人間に、恋愛なんてイベントが発生する可能性があるわけがないわ。途中で言ったでしょ? 私の専門外なんだって。それに、私は恋愛なんてものに興味はないし、そもそも私なんかを相手にしてくれる人なんて、この世にいるわけないじゃない」
「馬鹿! 蓮子みたいな素敵な人を放っておく男性がいないとでも思うの!?」
 反射的に叫び声をあげて、しかし蓮子はニヤニヤ笑いを消すことなく頬杖をついていた。
 そして気が付く。いつの間にか、私が周りの客の視線を集めていたことに。当然といえば当然で、だけどその視線の意味は、大声をあげる私に対する抗議の眼差しではなく、
「素敵な人、だなんて照れちゃうわねー。皆こっち見てるわよ?」
「ぅ……く……」
 好奇と生暖かさが半分ずつ混ざり合った視線を受けながら、私は頬の辺りが熱を持つのを自覚した。
 ……なんで、なんで貴方という人はいつも――
「なんでいつもそんな冷静でいられるのよ!」
「冷静に沈着に観察する。それが名探偵の鉄則よ? まあ私はそーいうのじゃないけどね」
 蓮子の言葉に、私は溜息をつくしかない。
「……蓮子からすれば、単なる青春ラブコメ的友人観察ってわけね……」
「違うわよ」
「……え?」
 そう聞き返す私の目は、きっと丸くなっていたと思う。
「違うわ。青春ラブコメ的友人観察ではないわ」
 そう言う蓮子の笑みは、どことなく今までと違ったように見えて、
「“友人”じゃないのよ、メリー」
「え。それって……」
「あ、もうこんな時間。そろそろ午後の講義が始まるわね」
「待ってよ、友人じゃなかったら一体なんなのよ!」
「じゃあねメリー。また放課後に会いましょ」
 言うが早いか、最初からそうするつもりだったかのように、蓮子は淀みない動作で硬貨を指で私に弾いた。
 思わず硬貨を受け取ってしまった私が顔をあげると、既にテーブルに蓮子の姿はなく、彼女はいつの間にか店の扉に手をかけていた。
 猫のような笑みを浮かべてると思ったら、行動まで猫のように素早いなんて。
「それ、アイスコーヒー代ね。おつりはいらないわよ」
 私は、今にも出て行ってしまいそうな蓮子を引き止めるための言葉を探して、だけどその言葉を見つけるよりも早く、蓮子のほうから言葉が投げかけられたのだった。
「そうそう、さっき私はヒントは出ていたと言ったけれど、実のところ最初から答えまで出ていたのよね」
「……え?」
 虚を突かれた私は、馬鹿みたいな声をあげることしか出来ない。
「最初に言ったわよね。好きな人が出来たとき、まずはどうする? って。……でも、私に好きな人が出来るわけがないなんてこと、メリーには最初からわかっていたはずよ」
「そんなことあるわけ……だって私、蓮子の心なんてわからないわよ」
 私の言葉を聞いた蓮子は、仰々しく大げさに肩を竦めて、馬鹿ねえと小さく呟いた。
 そんな蓮子の態度に、私は文句を言うべく口を開こうとして、
「――私にはもう大好きな人がいるんだから、他の人を好きになったりするわけないでしょ?」
 ――今度こそ。
「友人以上の関係だって、私は、そう思ってるわよ」
 今度こそ、私の顔は、紅の一字に染まっていたはずだ。
 明確な自覚を得て言葉を失った私を尻目に、蓮子は何気ない動きを持って店の外に出て行った。
 後に残された私に出来ることといえば、俯くように顔を隠して、ぺたりと椅子に座りなおすことだけだった。
 全身に突き刺さる意味を持った視線をなんとか無視しながら、私は恥ずかしさとも嬉しさともつかない感情に震えていた。
 ……本当に、本当に貴方って人は、
「どうしてそういうことはちゃんと言うのよ……馬鹿」
 結局のところ、最初から最後まで翻弄されただけだったと気が付いた私は、捨て台詞にもならない言葉を呟くしか出来ないのだった。
「……あんな台詞を真顔で言えるんじゃ、貴方には一生ラブコメ展開なんて訪れないわよ」
 紅の色を誤魔化すかのような呟きは、けれどもそんな効果を微塵も発揮することなく、宙へと消えていった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。楽しんでいただけたら幸いです。
青春ラブコメってどんなんかなーと考えてたらこういうことになりました。
このテーマで秘封の二人しか思いつかないのもどーなのかという話もあるんですが、ブックレットの二人を見てると本当に青春してるなあと感じるというかなんというか。
如何にもな空気が伝われば嬉しいです。
海景優樹
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コメント



0.1510点簡易評価
1.90点奇声を発する程度の能力 削除
素晴らしき青春
こんな青春送りたかったなぁ…
3.90点名前が無い程度の能力 削除
『私なんかを相手にしてくれる人なんて、この世にいるわけないじゃない』

\そこにいるぞ!/ \ここにもいるぞ!/
4.100点名前が無い程度の能力 削除
蓮メリ!蓮メリ!イェア!
青春まっしぐらって感じですごくいいです
5.100点SS修行中―俺の携帯投稿不可 削除
やったー!
久々に蓮メリ来たー!

ありがとうございます。
補給出来ました!
9.100点名前が無い程度の能力 削除
イイヨイイヨー
14.100点名前が無い程度の能力 削除
至極の蓮メリである!
この二人は本当に青春を満喫してますよねぇ…羨ましい
16.80点過剰 削除
ちゅっちゅ
22.100点名前が無い程度の能力 削除
攻め蓮子も良いよね!
24.100点名無しな程度の能力 削除
あぁいいなぁ
25.100点名前が無い程度の能力 削除
青春かぁ……
27.100点名前が無い程度の能力 削除
ちゅっちゅ
33.100点名前が無い程度の能力 削除
ちゅっちゅ

やべぇ!ニヤニヤが止まらねぇ!
36.90点名前が無い程度の能力 削除
「わかっててやる。」っていう意味で「確信犯」を使うのは本来の意味じゃなかったのか...初めて知りました。
37.80点名前が無い程度の能力 削除
そんな台詞を真顔で言えるのが蓮子さんだ!そこに痺れる憧れる!
振り回されまくるメリーさんの描写が可愛らしく出来てて素晴らしいねw
45.100点非現実世界に棲む者 削除
蓮メリ良いね!
48.90点しらゆい 削除
ことわざや格言が出てはすぐ振り払うメリーの表現から、とても混乱してるのが伝わってきて、二人の絡みがとても楽しかったです!まんまとからかわれるメリーも最高でした!
49.100点異文きたん 削除
私もこんな素晴らしい青春を送りたかったです。とても良い連メリをありがとうございました。