地霊殿は爆発した。
失礼、訂正しよう。地霊殿で爆発音が轟いた。
季節は秋の真っ盛り。時刻は地上で太陽が仕事を終える頃合い。
地霊殿はいつものように、地下由来の炎々たる光で満たされており、住人たちは時間を気にせず勝手気ままな日常生活に興じていた。
地獄の太陽・霊烏路空は眠っていたし、死体の運び屋・火焔猫燐はせっせと怨霊を運んでいた。
地底の遊び人・古明地こいしは地霊殿の外に居たが、それでもその爆音は聞こえてきた。
三人が慌てて駆けつける。確かにその音源はその部屋から、古明地さとりの寝室から轟いた。
一番に辿り着いたのは燐で、さとりの寝室の扉を開けた瞬間に目にしたのは、綺麗なカーペットが敷かれたピンキーな洋室に似合わないちゃぶ台の前で、湯呑みでも取り落としたかのようなポーズで硬直している、主人さとりの姿であった。
横顔で見えるその瞳には、何も映っていない様子だ。燐はまた慌てて駆け寄った。
「ど、どうしましたさとり様! 何があったんです、そんなに呆然として! あ、アレですか? あたいが無意識の内にさとり様のベッドで爪を研いでいた証拠を見つけてしまいましたか!?」
燐に抱きつかれてがくがくと頭を揺すられても、さとりは一向に反応しない。
完全に上の空のまま、薄ら笑いを浮かべている。
そこに寝起き顔の空がやってきた。爆音を聞き慣れている空は完全に興味本位という感じだったが、燐にガックンガックンと揺すられても、全く意に介していないさとりの姿を見ては、流石に驚きを露わにして燐と同じくさとりに駆け寄った。
「うわぁ! どうしたのさとり様! 返事をしてよ? も、もしかして私が無意識の内にさとり様が大事に取ってた神棚のおまんじゅうを食べちゃった証拠を見つけちゃったの!?」
空にも抱きつかれて更にばっこんばっこんと全身を揺すられても、さとりは一向に反応しない。
完全に茫然自失となったまま、うわ言のように「違う……違う……」とつぶやいている。
そして最後に、こいしが駆け足でやってきた。起き上がり小法師扱いされている姉を見て、やはり驚きを露わにして二人と同じくさとりに駆け寄った。
「ど、どうしちゃったのお姉ちゃん! 死んでるの? 何があったの!? あっ、まさかその顔は……昔お姉ちゃんに貰った、私が夜泣きしないようにってお姉ちゃんが一週間掛けて作ってくれたさとりちゃん人形を、最近私が始めたボクササイズのサンドバッグ替わりに使ってることに気づいちゃったの!?」
「さとり様! どうしたんです!」「さとりさまぁ! どうしたの?」「お姉ちゃん! 何とか言ってよ!」「どーしったの!」「どーしったの!」「どーしったの!」「あっそーれ!」「どーしったの!」
三人がさとりを揺すり合い、ついに胴上げにまで発展した。
さとりはどうしようが自分の現状に気付かないが、胴上げをしている最中、こいしがあることに気づいた。
「あれ……お姉ちゃんなんでスカートの下、お尻丸出しなの?」
その、ほんの些細な一言を聞いた直後。
今まで胴上げされても意識を天国へ飛ばしていたさとりが、ついに我に返ったのである。
「ひょぉぁおあ! ち、違うのよこいし! べ、別に――」
「うわぁ! さとり様急に暴れないで下さい!」
空中でバランスを崩したさとりは、部屋の床に背中から落ちた。
そして。
「ああっ!」
爆音と共に、部屋の埃がぶわぁ、と、部屋中に舞い上がった。
「にゃぁ!? ど、どうしたの! 何があったの!?」
「何か風がぶわぁーって!」
「お、お姉ちゃん……? 今のもしかして……」
したたかに打ち付けた背中を押さえるでもない。
爆音・爆風を生み出した張本人であろうさとりは、ただスカートの裾を押さえていた。
そして可愛らしい自慢の髪色よりも真っ赤に顔を染めて、目に涙を溜めたまま、ぷるぷると肩を震わせながら、ぎゅっと唇を真一文字に結んでいた。
「……さつまいも、ですか」
三人はさとりから一通りの説明を聞いて、バツが悪そうに頬を掻きながら呟いた。
さとりは小さく頷く。四人はさとりの部屋にあるちゃぶ台を囲むようにして、仲良く正座で座っていた。
そして四人の中央、ちゃぶ台の上に置かれているのが、丁度四つ――と、半分が盛られたさつまいも入りのざるであった。
「そう。丁度地霊殿の外を歩いてたら、さつまいもが五個と丁寧にざるまで転がってて……運のいいこともあるものと思ってね。自分の部屋に運んでおいたの。後でみんなして食べようと思って。だけど五個あったものだから……一個はどうしても残るじゃない……だったら誰も気付かない内に食べていいかなって……」
「だからって生のままかじらなくても」
「美味しそうだったから仕方ないじゃないの!」
こいしの当然の指摘にも、開き直ったようにしてさとりは叫ぶ。勿論まだノーパンである。
「そーしたら出たんだね?」
「うぐっ」
「あんなにおっきな」
「ちょっと黙りなさい。分かってても恥ずかしいから」
聞いた話を無邪気に繰り返そうとする空を、さとりが制する。
燐もこいしも、笑いを堪えるのに必死といった表情だ。
「ああ……一生の不覚だわ。もう生きていけないレベルの……」
真っ赤な顔を両手で抑える。さっきからさとりは、平静を装っては発作的に顔を赤らめるという行為を難度も繰り返している。
そりゃあ、まさかパンツのお尻部分がちぎれ飛ぶ勢いで、そんな殺人的な……それをしてしまったら、当然恥ずかしいし、生きていけないだろう。
涙を流して顔を赤らめているさとりは、妹こいしから見て――あまりにも不憫すぎて可愛かった。
「よーし。じゃあリベンジしようよお姉ちゃん! 丁度、最後にご飯食べてからいい感じの時間が空いてるわけだからさ。みんなで食べようよ、このさつまいも」
「ふぇ……?」
「お空も賛成だよ! だってすっごーく美味しそうだもん!」
「あたいも賛成! それにほら、折角のさつまいもなんだし、ここは地霊殿、火の扱いには困ってない! 焼き芋にして食べましょう!」
「ナイスアイディアだ!」
わっと盛り上がる三人を見て、半泣きのさとりはおろおろと問いかけた。
「で、でもほら……そのさつまいも何かおかしいわよ? 妖怪である私が、否応なくやっちゃったんだから、その……多分……出る、わよ?」
「そんなの気にしないよ! さつまいも食べたんだから、そりゃ大なり小なり出るよ!」
「お、お空はもうちょっと慎んでもいいんだよ?」
あまりに開けっ広げに言うお空に、流石にお燐は少々恥ずかしいらしい。
そんなペットたちの言葉を背に、こいしは立ち上がる。お燐とお空も立ち上がる。そしてこいしが、さとりに手を伸ばした。
「大丈夫。みんなでやっちゃえば笑い話よ。あんまり上品じゃないけど、あんまりイジイジしてるよりはいいんじゃない? ほらお姉ちゃん、食べようよ、焼き芋!」
それは、女の子としてはどうかと思うが――。
それでももし、気にする人なんて居なければ。
みんながみんなしているのであれば。
気にせずに、やりたい放題、やっちゃっていいんだと。
さとりは涙を拭って、こいしの手を取った。
「うん。そうね。そうかも。ちょっとくらい騒がしくても、そのほうがきっと、ご飯は美味しく食べられるわね」
「その通りだよ! 所でなんだけどお姉ちゃん……」
「うん?」
すっかり表情を綻ばせたさとりに対し、こいしたち三人は、一度神妙な顔をして問いかける。
「その……あのぼーっとしてた時に私たちから言われたこと、覚えてる?」
「えっ? ……あ、ああ。ごめんなさい、きっと心配してくれてたんでしょうけど……あんまりにも自分が信じられなくて、あの時のことは全然覚えてないのよ」
その返事を聞いて、三人はふっと安堵のため息を吐いた。
「どうしたの? どんな顔して」
「い、いやいやなんでもないんですよ! さあ、行きましょう! 火炉はこっちで! 行くよお空!」
「ああ、待ってよー。そんなに急がないで!」
一人一個のさつまいもを持って、火の下へと駆け出すお空とお燐。
「あらあら。食べ物のことになると騒がしいわねぇ」
「あーはは……ま、私たちも早く行こうよ、お姉ちゃん」
「ええ、そうね」
右手に左手に、さつまいも。
そして空いている手は姉妹でぎゅっと、掌同士をくっつけて。
美味しい秋の味覚のために。四人は地下へと向かうのであった。
そして――――
地霊殿は爆発した。
真っ赤になってスカート押さえるさとりんかわいいよさとりん
ちょっと地面掘ってくる
さて、誰に食べさせようかな?
気兼ねなく屁ができる仲って貴重ですよね。
作者さんはギャグにこだわりがあっていいですね。応援してます。
あっそーれが素敵すぎだww
タグでオチが最初から見えてたのだけが残念だったかも。
病院が来いww
面白かったです。
タグで-10点。
全員で爆発してるの想像したらすげえシュールw