「うーん…」
この天界の桃を食べて幸せになったことは一度もないなぁ。
食べて逆に幸せが逃げているような気がする。
どうにかしてこの桃美味しくできないのかなぁ…
私に限らず他の天人も美味しくならないのかなぁと思ってるよね。多分。
こんな味でおいしいと思う天人のほうがどうかと思うけど。
天界になっている桃の実はあまり美味しくないと言うか全然といっていいほど美味しくない。
やはり楽に暮らせる場所にあるからだろうか。
誰かこの桃を改善しようと思っている天人は居ないのかしら…
改善できればどんどん栽培されて行って幸せになると思うんだけどねぇ…
◇
あら、なんでこんな所に桃がいっぱいあるのかしら。
玄雲海のど真ん中に大量の桃が置かれている。
なんとも奇妙な光景だ。
また総領娘様の仕業かしら。
こんなに置かれても食べ切れませんよ…
「総領娘様、そこにいるんでしょ?」
存在がばれたからか岩の上から飛び降りてきて衣玖の目の前に着地する。
「よくわかったわね。私がこの大量の桃を置いたことを」
「そりゃあこの大量の桃見れば誰だかわかりますよ。
で、この大量の桃で何をしたいのです?」
「衣玖、あなたもわかっているでしょう?この桃の不味さは」
「まぁ…」
「決心したの。この桃を美味しくさせると!」
「またまたご冗談を。そんなの無理に決まっています。
さ、また新しい桃を買ってきて差し上げますから天界にお戻りになってください」
「いいえ、絶対に美味しくさせるまで諦めないからね!
だから衣玖も手伝ってちょうだい!
美味しくなったらいつでもあなたも美味しい物が食べれるのよ!」
「まぁそれは魅力的ですが…
でもどうやって改良するんです?
私達にはそんな力ありませんよ?」
「言われてみればそうね…
どうやって改良しようかしら…」
「植物に詳しい人が居ないと話しにならないでしょうね」
「よし、私地上に行って植物に詳しい人探してくるわ!誰か居る筈よ!衣玖も行くわよ!」
「仕方がないですね…今回だけですよー」
「ありがとう衣玖!そう言ってくれると思ってたわ!」
「本当に今回だけですからね」
「わかってるって!」
「行くのはいいんですがこの大量の桃どうするんですか…」
「あ…」
「だから言わんこっちゃない…」
「とりあえずまだとっときましょう。なにか役に立つかもしれないわよ」
「本当に役に立つのでしょうかね…まぁいいでしょう。
次はこんなに大量に持ち込まないでくださいね」
「分かったから早く行きましょう!」
「もう…」
◇
玄雲海から地上まではかなり遠い。
まず妖怪の山を経由しなければいけないからだ。
「やっと妖怪の山にたどり着いたわね…」
天子は息を切らしている
「久しぶりですね、地上に行くのは」
「そうねぇ…私が博麗神社に別荘建てようと地上に降りた時ぐらいだわ」
「これ以上異変起こさないでくださいよ」
「もうやらないわよ。紫にボッコボコにされたし」
「それなら安心です」
◇
気がつけば地上にたどり着いていた。
喋りながら移動するとあって言う間に到着してしまうから恐ろしい。
「で、どうやって探すんです?
心当たりのある人はいるんですか?」
「魔理沙なら知っているんじゃないとかなぁと」
「…魔理沙さんはどうなんでしょうね…」
「まぁともかく行ってみないことにはわからないわよ
魔法の森はこっちよ」
「此処からだと遠そうですね…」
「もう疲れたの?まだまだこれからよ」
「元気でいいですねぇ、総領娘様は」
◇
魔法の森の入り口に着く。
辺りは魔法のキノコの瘴気が漂っている。
さすがに長時間いるのは危険だ。
「早く魔理沙のところへ行かないと倒れてしまうから気をつけて」
「こんなに瘴気が漂っている場所初めて見ましたよ…」
魔法の森の中へ入る。
辺りはジメジメしており地面の状態も悪い。
慎重に天子達は歩いて行く。
「かなり暗いわね…」
「ほんと暗いですね…と言うか怖いです…」
「大丈夫よ、早くここを抜けてしまえば明るいところに出るから」
「早くこんなところ出ましょうよ。怖くて嫌です…」
◇
ようやく家らしきものが見えてきた。
「ここよ、魔理沙の家は」
「ここの辺りは瘴気もそれほど無いですね」
家の中から人が出てくる。
「んーお前らか。珍しいなこんな所に来るなんて」
「ちょっと用があってきたのよ。
あなた植物に詳しい人知っている?」
「ぜ?いきなり何故そんなことを?」
「それは総領娘様が桃を美味しくさせたいと言いまして…」
「天界の桃はうまいんじゃないのか?」
「これが不味いのよ!
だから来てるんじゃない!」
「て言われてもなぁ…
植物に詳しいと言うか植物に関係する能力を持った人なら知っているぜ」
「その人はどこにいるの?」
「あっちの方向にある太陽の畑にいるぜ」
「ありがとう、魔理沙!」
「迷惑かけてすみません…」
「これぐらいのことはなんともないぜ。気をつけてな」
◇
「さ、次の場所へ向かうわよ!」
天子は空を飛びあっという間に魔法の森から去っていく。
「…なんで最初から飛ばないんですか」
◇
「総領娘ー待ってくださいよー」
「遅いわよ、早くこないと置いて行くからね!」
「そんな事言われましても…」
向日葵の群れが見えてくる。
「此処みたいね、太陽の畑は」
「だからスピード早いですって…」
一面向日葵の群れでいっぱいだ。
「で、此処に植物に関係する能力を持った妖怪が居るのよね」
「魔理沙さんが言うにはそうらしいですね。
でもこんな所に居るのでしょうか」
「居るわよ」
背後から声が響く。
「わ!ちょっとびっくりしたじゃないの!」
「あら、ごめんなさい驚かせてしまって」
「あなたでしょうか?植物に関係する能力を持った方は」
「あら、私を探していたの?珍しいわね。私のもとに来るなんて」
「ちょっと用がありまして…
あ、私の名は永江衣玖と申します。
あちらの方は比那名居天子と申します」
「私は風見幽香と言うわ。
幽香と呼んでいいわよ。
で、用とは何かしら?」
「総領娘様が桃を美味しくさせたいと言い張り此処まできました」
「桃を美味しくしたいってことはあなた達が食べている桃は不味いのね?」
「不味いといえば不味いですね」
「桃を美味しくさせるのなら品種改良が一番ね。
その桃は今持っている?」
「こういう時のために備えて持ってきたわ!」
懐から天界産の桃を2、3個ほど取り出す。
「ちょっとその桃を貸してくれるかしら?」
「ええ、いいわよ」
「ちょっと時間をくれるかしら?15分ほどでいいわ」
「そうですね、こちらも休憩したいのでどうぞ」
「ありがとう」
◇
「向日葵の花綺麗ですねー」
「ほんと綺麗だわー
天界にもこんな綺麗な花があったらいいのにー」
「その願いは聞きませんからね」
「わかってるって」
突然と向日葵の花の向きが変わる。
「え、なんで私たちの方を向くの?!
なになになに!?」
また後ろから声が響く。
「おまたせ、この苗を植えて育てなさい。
美味しい桃がなるように品種改良しといたわ。
実がなるまで最低5日はかかるから頑張って育てるのことね」
「ご迷惑をおかけします…」
「これぐらいなんともないわ。
美味しい桃が食べられるといいわね」
「幽香ありがとう!感謝するわ!
ていうかびっくりするような登場の仕方するのやめなさいよ!
心臓に悪い!」
「ふふふ、私はそういうのも大好きなので」
「じゃあ私達は帰るわ。本当にありがとうね!」
「また用があったら来なさい。いつでも力になるわよ」
太陽の畑から天子達は天界へ戻る。
「…だから最初からなんで飛ばないんですか」
◇
天界へ戻り早速天子は桃の苗を植える。
「早く美味しい桃食べたいなぁー」
「気長に待ちましょう、でも本当に品種改良が出来る人がいるとは…」
「さぁ、今日も気楽に過ごすわよー!」
「本当に元気な人ですね…」
5日後…
5日前に植えた桃の苗は立派に育ち実をつけていた。
「すごいですね…それも大量になっていますね」
「早速食べるわよ!ということでとってちょうだい!」
「たまには自分で取ったらどうです。私が台になりますから」
「ちぇ、わかったわよ」
衣玖の上に乗り桃の実を採取する。
「よいしょっと」
「また体重増えたんじゃないですか?
いい加減痩せましょうよ」
「大丈夫、太ってなんかいないわ!」
「どう考えても太っていますよね」
「気にしない気にしない!」
「…はぁ」
「ほら食べるわよ!もう見た目から美味しそうだし期待できるわよ!」
「そうですね、お昼も兼ねて食べましょうか」
パクッ
「!美味しい!このかつてない美味しさ!やったわ!美味しい桃ができたわ!」
「これは美味しいですね。いくらでもいけそうです」
「中に種も入っているわ!また植えれば美味しい桃の実ばかりなるわよ!」
「種植えるのは手伝いませんからね」
「これぐらい自分でできるわよ。
じゃあ種植えてくるわ!」
「いってらっしゃいませ」
◇
その後天界には美味しい桃が広まっていったという。
他の天人たちにも好評で幸せが戻ってきたとか。
これでもう幸せが逃げることはないだろう。
今日も幸せが天界全体に響く…
呼んで?
ちょっと淡々拍子すぎるかな、捻りも何にもない
といったSSを期待した私の心は汚れきっているらしい。