――北の壁に飾られた、景色を望む為だけの窓――
――僅かに差し込む、大気のプリズムを通した光――
――それさえも嫌う私の躰は、ゆっくりと羽毛の繭を包み直す――
「お嬢様、起きて下さい。昼食が出来上がりますわ」
揺れる、揺れる、白の揺り篭。
霞む世界に、銀髪の少女。
求められる悠久からの開放。
――知らず、唇を震わせた言葉は。
嗚呼せめて、あの花瓶の水を取り替えるまで、それまで瞳を瞑らせて……
「もう五分だって待てませんよ。お嬢様の後五分がいつも何十分になると思ってるんですか。ほらっ!」
――――。
おやめになって。未だ、孵化するまでには、早過ぎる。
歎く言葉さえなく、眠りの産湯を棄てられた私は、しとりと湿る肌を抱いて、もう一度繭へと戻るかの様に、己の身體を抱き締め――
「……あの、何でシーツが湿っているのでしょうか?」
――嗚呼、もう一度。意識を闇に沈めるの。
「寝た振りをしないで下さい。もしかして昨日寝る前にまた、勝手にジュースを飲みましたね? もうオネショはしないって一週間前に約束したじゃないですか!」
……そこは、砂漠のようで。
枯れるほどに、果てるほどに、指先は渇き切って。
たった一つの水滴に群がる蟻。
あまりに卑しく強い『生』は、いっそ美しく輝きを放つ。
その砂丘を崩し、溶かすのは、赤く蕩ける薔薇の花。
「勝手に冷蔵庫漁ってトマトジュース取り出すの止めて下さい……最低でも、開けた冷蔵庫の扉は締めましたよね?」
ガラガラヘビが牙を剥く。
ぎろり睨まれた幼子は、
絡繰のように首を鳴らす。
「全く……今度からはちゃんと我慢して下さいね。まあ此処まで言えば眠気も覚めたでしょう。先にダイニングへ行きますわ。シーツを濡らした反省として、着替えはお一人で行なって下さいませ。それでは」
道化は消える。
風も残さず。
一人の部屋。
空気が冷める。
私はそっと。
雪の肌を、露わ。
時計の針は今日もテキパキ、律儀なレースを繰り返す。
空で明るく輝く日差しは、丁度真上から照らす頃だろう。
けれど私を包む冷たさ。キャンドルが灯す仄かな光。
薫る香りは碧と赤。碧は苔ばむ壁と本棚。赤は手元で揺らすカップに。
「ふーん。朝食遅かったのはそういう理由があったのね」
そう、紅茶を優雅に頂きましょう?
バウムクーヘンをキャラメリゼ。
紅茶には少しミルクを落とすわ。
けれどシュガーは――今は、控えめ。
「誤魔化さなくていいわよ。半分くらいはもう咲夜から聞いてたし」
――手から滑り落とした戯曲に、ナイフで傷をつけたの、誰?
歪んだ虚構の物語では、カボチャでさえも泣いたりしない。
「いや咲夜が嘘吐いてたにしては辻褄合いすぎてたし、認めなさいよ。別に笑わないわよ、おもっ、ぶふ、おもらしくらいじゃ……」
……Fuck
「口が悪いわよ」
あら嫌だ。
魔女に高笑いはつきものかしら。
傷心に伏した貴族の娘も、瞳は強く輝くわ?
「ごめんごめん睨まないで。怒るなら咲夜を怒って頂戴――って言いたい所だけど、咲夜の言いつけを破って、夜に飲食したのはレミィじゃないの。もうそれ、いっそ清々しい逆ギレじゃないの?」
血の逆流を思わす衝動、大地の鳴動を起こす激情。
そんな万象の革命に、逆らう術などありはしない。
「我慢弱いだけじゃないの……?」
唖々! 恐ろしい! 今宵は――真っ赤な槍が降るのね。
「分かった。夜中に湧いてくる食欲は仕方がないわ。うん。だからそのグングニルをしまってくれないかしら。昼食後のシエスタもまだだから、レミィの本気を風穴開けずに受け止めきれる自信はないわ」
そう、今夜の天気は私次第。
――嗚呼それにしても、このお菓子はちょっと大人なのね。
カラメルのようなキャラメリゼ、甘いバウムを包むはビター。
シュガーの足りない紅茶には、少し合わないのかしらね?
「……それもきっと、苦さへの我慢が足りないだけよ、レミィ」
……。
「……」
………………、
「あら、どうしたのお姉様。何か辛そうにしてるけど」
――、
すっかり空の主役も移ろい、天に浮かぶは暗幕の中、ぽかりと佇む巨大な宝石。
そして私の瞳に映る、虹が固まったかのような小さい宝石。
飾られたそれを可愛く揺らして、この子はいつも微笑ってる。
とっても可愛い、私の自慢の。
「今朝のおもらし引きずってるの?」
「だからおもらしはしてないつってんでしょ何でみんな咲夜のことばかり信じるのねえ本人がやってないつってんだからやってないもんはやってないのよ分かりますかフランドールこの理屈は」
「ちょ、ちょっとキャラ」
私の自慢の可愛い妹。
こんな夜更けにご用事なあに?
「フランねー、きょうとってもこわくてー、ねれないからー、おねえさまにー、えほんをよんでもらいたいのー」
あらあら、子猫と戯れる?
美しく飾られた私の揺り篭。
二つの重さが重なれど、悲鳴の一つも上げないわ。
真っさらな繭、真っさらな雪。
彩る二人。キャンバスに描く、まるで星空。
「いいでしょー」
くりりと真っ黒なお星様も。
私を見つめて輝くわ。
『仕方がない子ね。でもいいわ、私も眠れなかったから。
一緒に泳ぎましょう? 真っ暗闇の、光るところへ――』
さて。
「おはようございますレミリアさん」
「あら、烏天狗。お望み通り、魅力あふれる私の一日を取材させてあげたわ」
館のテラスで咲夜を侍らせ、テーブルを前に椅子に座り、紅茶を飲みながらの談笑。
相手は天狗の射命丸文。その喋り口調は営業用らしい。
「ええ……まあ確かに色々溢れてましたが……」
「何かしら?」
ずいぶん歯切れが悪いわね。言いたいことは言えばどう? と、私はフフンと胸を張ってみせた。
「では言わせて貰いますが……」
ごくりと唾を飲む音が聞こえて。
「レミリアさん、言いたいことはありますか?」
あらあら。私が聞いたのに向こうから質問が返ってきたわね。
私は不敵な笑みを浮かべ、胸を張ったまま立ち上がる。
そして。
「おねしょだけはカットでお願いします」
体が六時半を指すくらい、ぐいんと元気よく頭を下げた。
なんか賛否両論がありそう。私的にはOK。
そして後書き。
なぜメロスだし。ww
誰を救うんだ?
…小悪魔ですかそうですか。
このギャップはヤバいww
淡々と進むのが面白くて良かったです
シュールなギャグはクオリティの高いものが多くて好きです。
分かるらないかも知れないですが、『ガラクタ通りのステイン』を高校時代は毎日見ていました。
あれはシュールでも大分方向性が違いますが、文章で、しかも詩の調子をとるなら、こんな感じのギャグが読んでいて面白いですね。
しかしポエム良いですね。
以前、西条八十の詩集『砂金』を読んで、あんまり分からないから諦めてしまいましたが、もう一度挑戦してみようかなぁっと思いました。
童謡とかは、さすがに分かりやすくて楽しめたのですがね。
これ明日から使っていきますわw
笑わせていただきましたー!
言ってることとやってることのギャップを想像すると笑いが止まりません。
日常的なこともこうやって表現してしまうと優雅に見えるものなんですね!
くそっ...!!フランドールが主になる日も近いぞ!www
これからもたくさん書いてください
美しいけど、お嬢様ったら・・・
ちょ、ちょっとキャラ・・・!
これから文々。新聞でお嬢様の1日をポエムで毎週連載してほしいぞww
走れメロスならぬ 漏らせおぜう