「雌雄同体の海老?」
「はい」
ことわざに、餅は餅屋というものがある。「専門的なことは専門家に任せとけばいいんだよ言わせんな恥ずかしい」という意味で広まっているが、霖之助はこれを別の意味で捉えている。
今はいざしらず、博麗大結界が作られた明治時代においては、餅というのは普通各自の家で作るものであった。まあ店売りもしていたわけだが、少なくとも餅専門店はまったくメジャーではなかった。餅を買うために餅屋を探すのは無駄なことだったわけである。
すなわち「餅は餅屋」の霖之助解釈での本当の意味は、「餅を買うのに餅屋というありもしない専門店を求めるというような愚かな行いのこと。転じて、安直な手段をとることへの皮肉」である。
「幽々子様に言われたのですが、あいにくと私は海老について詳しくないのです。あなたなら何か知っているのではないかと思いまして」
「ああ。もちろん知っているとも。君は中々良い人物に話を聞きに来た」
目の前の少女、魂魄妖夢への評価を、霖之助は改めた。海老の話を聞くために、鮮魚店ではなく道具店に訪れる――これはつまり「餅は餅屋」の真の意味を理解した上での行いというわけである。
そして、その選択はこれ以上ないほどに正しいと、霖之助は胸を張って答えることができる。生まれてこの方いらない知識ばかりを詰め込んできた彼の脳みそには、雌雄同体の海老に関する情報ももちろん含まれていたからだ。
「そうだな……海老の中に、ホッコクアカエビという種類のものがある。体長は十二センチメートルほどで、その名の通り全身がピンク色から赤橙色をしている。タラバエビ科に属するんだが、その他のエビと比べると体や脚が細長く、甲が柔らかい。額角は細長く、頭胸甲よりかなり長い。それから、六つある腹節のうち、三番目の腹節の後半部に上向きの小さな突起があって、腰が曲がっているように見えるのが特徴だ」
「は、はぁ」
「日本の近海では水深二百から六百メートルほどの深海砂泥底に生息し、生息至適水温は零から八度だ。高緯度海域では百メートル程度の水深にも分布する。食性は肉食性で、小型の貝類や甲殻類、多毛類などを捕食する。天敵は人間の他にも頭足類やタラ、アコウダイ、サメなどの肉食魚がいる」
「はい」
「春から夏にかけてが産卵期で、南の地方ほど早い。ただし日本海側の個体群は隔年でしか産卵しないことが知られている。卵は直径一ミリ前後の球形で、一度に二、三千個を産卵し、抱卵期間は約十ヶ月でメスは受精卵を腹脚に抱えて孵化するまで保護する。水深二、三百メートルまで移動し、卵を放出する。生まれた幼生は遊泳脚をもち、プランクトンとして浮遊生活を送る。他のタラバエビ科のエビと同じく雄性先熟の性転換を行い、若い個体はまずオスとなり、成長すると五、六歳でメスに性転換し、卵の成熟には 七歳で幼生孵化直前の抱卵状態となる。寿命は十一年ほどとみられ、産卵は生涯に三回以上と考えられる。但し、生息海域の水温が高いほど成長が早く、低ければ成長は遅くなるようだ」
「え、ええと」
「ま、要するに甘エビのことなんだけどね」
「それを先に言ってくださいますか!?」
彼自身は自覚していないが、書物から得た薀蓄をつらつらと羅列する瞬間の霖之助ほど輝いているものはいない。
ただし、だからといって彼は説明上手ではない。お世辞にもそうとは言えない。いわゆる頭でっかち、知識があっても知恵が足りない典型が彼なのである。
「ええと、とりあえず甘エビが雌雄同体であるというわけですか」
「そういうことさ。といっても同時に二つの性別を持つわけではなくて、生きてる途中で変わるんだけどね」
「まあ、あまりレアな海老でなくてよかったです。甘エビなら鮮魚店に行けば手に入りますから……では、私はこれで」
慎ましやかな胸を撫で下ろす妖夢。またぞろ、大食家にして奇食家の主人に命じられていたのだろう。
アレがたかが甘エビ程度を所望することに幾分か疑問を覚えないでもなかったが、霖之助は黙ってその背中を見送った。今度は何か商品を買っていってくれることを願いながら。
「どうも違うようなのです」
「ふむ。甘エビでは駄目だったか」
後日、再び妖夢は香霖堂にやって来た。
どうやら霖之助が勧めた甘エビは、彼女の主人の望んでいたものと違っていたらしい。まあ確かに、食に対して異様に執着するアレが、甘エビ程度のもので満足してくれるかといえば否であるようにも思える。やはりと言えばやはりな結果ではあった。
「しかしなあ、甘エビだってれっきとした雌雄同体なんだが」
「それなんですが、幽々子様いわく、雄にしてお嬢様じゃないとダメなんだとかで」
「お嬢様……?」
「雌」ではなく「お嬢様」でなくてはならないという。そこに一体何の差異があるというのか。
しかし考えてみるに、それならば甘エビは条件を満たさない気もする。アレが雄から雌に転じるのは五歳、甘エビの寿命が十一歳程度ということを考えると、およそ命の半分ぐらいの時期である。人間に例えるなら四十代というところであり、「お嬢様」というのは厳しい年齢だろう。
「……となると、先に雌で後々雄になるような海老を探しているのか……?」
お嬢様というのは、まず大体の場合において若い女性に対して用いられる言葉である。ならば海老でも、若いものでなくてはなるまい。そういう推理だった。
しかしここには最大のネックがある。幻想郷で手に入る海老といえば甘エビぐらいしかない、という事実だ。海のない幻想郷では、海産物の種類もごくごく限られてくる。
幽々子が甘エビ以外の海老を食べたいと思うのなら、個人的なコネを使って紫あたりに依頼するしかあるまい。それは妖夢にはどうしようもないことであり、霖之助にもどうしようもないことである。
「鮮魚店には甘エビしかありませんでした。といっても、幽々子様は本当に実現できないことは仰らないので、多分何かそういう海老がどこかにいるはずなのですが……」
「……ふむ。ひょっとすると、それは海老ではないのかもしれない」
「え?」
「いや、いつもわけのわからないことを言う君の主人だからね。今回も謎掛けのようなものなのかもしれない。必ずしも海老を望んでいるとは限らないんじゃないかな」
それは長命の人外に共通した特徴であった。いちいち言い方が回りくどいのだ。幽々子は特にそれが顕著で、発言が必ずしも文字通りの意味を表さないこともしょっちゅうある。
霖之助の推測では、今回の海老の件もその一パターンであり、幽々子が本当に望んでいるものは単なる海老では無いのではないか? ということであった。
「となると……幽々子様が真に望んでいるものとは一体?」
「悪いけど、そこまでは分からないね。僕が苦手なのは、クイズとかなぞなぞとか、そういう類のものだから。もっとヒントが欲しいところだ」
「答えを知りたい、とは言わないんですか?」
「聞いても答えてくれないだろう、君の主人は」
これには苦笑いが返ってきた。思い当たる節がいくらでもあったらしい。
それはともかく、現状では霖之助にはこの問題を解くのは不可能だった。彼とっては、情報が足りなさすぎる。
「わかりました。幽々子様にもう少し情報を出してもらいましょう。とりあえず今日はこれでお暇します。すみません何のお礼も出来なくて」
「ああ別にいいさ。答えがわかればそれでいい」
むしろ礼は無いほうが良い。どこぞの誰かに持って行かれるからだ。
喪失感を味わうくらいなら無いほうがいいのだ。と、霖之助は涙を零しつつ自分を納得させた。
「まさか君本人がお出ましとはね」
「だっていつまでたっても望みのモノが手に入らないんだもの。妖夢に任せたのは失敗だったわ」
翌日。妖夢は香霖堂を訪れなかった。代わりに彼女の主人がやって来た。
いつまでたっても望みのものが来ないのに腹を立てているらしいが、霖之助からすれば自業自得である。わかりにくい言い方をするほうが悪いのだ。
「そう思うならもう少し問題の難易度を下げてほしかったね。妖夢も僕も、頭でっかちなのは分かるだろうに。回りくどい言い方をするのは勘弁してくれないか」
「何を言ってるの、あんなに直接的な言い方も無かったでしょうに」
霖之助は頭を抱える。アレで直接的ときたか。普段妖夢がどういう苦労をしているかが計り知れ、彼は僅かな同情を覚えた。
「悪いが、一体どういう類のものを望んでいるのかさえ分からなかったんだが」
「えぇ? 薬に決まってるじゃないの」
霖之助の言葉に、幽々子は意外な顔をした。分からないはずはないだろう、と言わんばかりの表情だ。
しかし分からないものは分からないのである。半ば思考放棄でもあったが、悪いのは幽々子だと決めつけている。
「薬……? ああ、外の世界のものということか」
薬といえば永遠亭というのは今や幻想郷の常識になりつつあるが、場合によっては霖之助に頼った方がいいこともある。外の世界の銘柄が欲しい、という場合だ。
ただし、彼には薬品の名前と用途――飲む、塗る、貼る云々――はわかるが、効能が分からない。つまり薬屋のようなことは出来ないのであり、客が特定の銘柄を欲しがっているときにしか売れないのであった。
「そうね。というか、あなただって使ったことあるでしょうに」
「僕が? ……いやまて、何だその表情は」
霖之助には薬を使った経験があまり無い。というのも身体に半分流れる妖怪の血のおかげで、薬を使わざるを得ないような体調にならないからだ。外の世界のものに至っては、使ったことが無い。効能が分からないのだ。自分の身体をベットするようなギャンブルをするほど、彼は阿呆ではなかった。
さらに言えば、幽々子に悪戯な表情をされる理由も思い当たらない。何か勘違いしているとしか思えなかった。
「あいにくだが、僕は外の世界の薬を使ったことがないんだ。買う人はたまに居るから取り扱ってはいるけどね」
「ふうん……巫女に魔法使いがちょくちょく来るから、きっとアレを使ってるんだろうと思ってたのに。まあ、使ってないならそういうことにしておいたげる。それでまあ、アレ、ある?」
「アレある? と言われても、アレが何か知らないからなあ。あんな周りくどい言い方じゃ、どの銘柄か分かりっこないんだが」
霖之助の知る限り、海老が関わってくるような薬は店に無い。今チラリと幽々子が言った、巫女やら魔法使いが関係してくる理由も分からない。少なくともあの二人が外の世界の薬を持っていく(買うにあらず)ことは一度も無かった。
「分かりっこないって……ねえ、妖夢からどういう言い方をされたの?」
霖之助は持っている情報を幽々子に話す。雄にして雌、というよりお嬢様である海老。彼女は呆れたと言わんばかりの顔でため息をついた。
「あぁ、妖夢……そういえば伝言ゲームとか昔から苦手だったわね、あの子。それにしても壊滅的な勘違いだわ」
「なんだ、彼女が伝達ミスをしてたのか……で? 一体何が欲しいんだい? 外で市販されてるものなら大体揃ってると思うが」
霖之助としては、薬が売れるのはかなり喜ばしいことだった。というのも、わりと高頻度で拾えるわりに、全くといっていいほど売れないからである。
品揃えに自信があるのも当然であった。在庫はたまる一方なのだから。そして、幽々子が欲しがるものも、当然その多すぎる在庫の中に含まれていた――。
海老雄嬢
「エビオス錠をちょうだい」
「はい」
ことわざに、餅は餅屋というものがある。「専門的なことは専門家に任せとけばいいんだよ言わせんな恥ずかしい」という意味で広まっているが、霖之助はこれを別の意味で捉えている。
今はいざしらず、博麗大結界が作られた明治時代においては、餅というのは普通各自の家で作るものであった。まあ店売りもしていたわけだが、少なくとも餅専門店はまったくメジャーではなかった。餅を買うために餅屋を探すのは無駄なことだったわけである。
すなわち「餅は餅屋」の霖之助解釈での本当の意味は、「餅を買うのに餅屋というありもしない専門店を求めるというような愚かな行いのこと。転じて、安直な手段をとることへの皮肉」である。
「幽々子様に言われたのですが、あいにくと私は海老について詳しくないのです。あなたなら何か知っているのではないかと思いまして」
「ああ。もちろん知っているとも。君は中々良い人物に話を聞きに来た」
目の前の少女、魂魄妖夢への評価を、霖之助は改めた。海老の話を聞くために、鮮魚店ではなく道具店に訪れる――これはつまり「餅は餅屋」の真の意味を理解した上での行いというわけである。
そして、その選択はこれ以上ないほどに正しいと、霖之助は胸を張って答えることができる。生まれてこの方いらない知識ばかりを詰め込んできた彼の脳みそには、雌雄同体の海老に関する情報ももちろん含まれていたからだ。
「そうだな……海老の中に、ホッコクアカエビという種類のものがある。体長は十二センチメートルほどで、その名の通り全身がピンク色から赤橙色をしている。タラバエビ科に属するんだが、その他のエビと比べると体や脚が細長く、甲が柔らかい。額角は細長く、頭胸甲よりかなり長い。それから、六つある腹節のうち、三番目の腹節の後半部に上向きの小さな突起があって、腰が曲がっているように見えるのが特徴だ」
「は、はぁ」
「日本の近海では水深二百から六百メートルほどの深海砂泥底に生息し、生息至適水温は零から八度だ。高緯度海域では百メートル程度の水深にも分布する。食性は肉食性で、小型の貝類や甲殻類、多毛類などを捕食する。天敵は人間の他にも頭足類やタラ、アコウダイ、サメなどの肉食魚がいる」
「はい」
「春から夏にかけてが産卵期で、南の地方ほど早い。ただし日本海側の個体群は隔年でしか産卵しないことが知られている。卵は直径一ミリ前後の球形で、一度に二、三千個を産卵し、抱卵期間は約十ヶ月でメスは受精卵を腹脚に抱えて孵化するまで保護する。水深二、三百メートルまで移動し、卵を放出する。生まれた幼生は遊泳脚をもち、プランクトンとして浮遊生活を送る。他のタラバエビ科のエビと同じく雄性先熟の性転換を行い、若い個体はまずオスとなり、成長すると五、六歳でメスに性転換し、卵の成熟には 七歳で幼生孵化直前の抱卵状態となる。寿命は十一年ほどとみられ、産卵は生涯に三回以上と考えられる。但し、生息海域の水温が高いほど成長が早く、低ければ成長は遅くなるようだ」
「え、ええと」
「ま、要するに甘エビのことなんだけどね」
「それを先に言ってくださいますか!?」
彼自身は自覚していないが、書物から得た薀蓄をつらつらと羅列する瞬間の霖之助ほど輝いているものはいない。
ただし、だからといって彼は説明上手ではない。お世辞にもそうとは言えない。いわゆる頭でっかち、知識があっても知恵が足りない典型が彼なのである。
「ええと、とりあえず甘エビが雌雄同体であるというわけですか」
「そういうことさ。といっても同時に二つの性別を持つわけではなくて、生きてる途中で変わるんだけどね」
「まあ、あまりレアな海老でなくてよかったです。甘エビなら鮮魚店に行けば手に入りますから……では、私はこれで」
慎ましやかな胸を撫で下ろす妖夢。またぞろ、大食家にして奇食家の主人に命じられていたのだろう。
アレがたかが甘エビ程度を所望することに幾分か疑問を覚えないでもなかったが、霖之助は黙ってその背中を見送った。今度は何か商品を買っていってくれることを願いながら。
「どうも違うようなのです」
「ふむ。甘エビでは駄目だったか」
後日、再び妖夢は香霖堂にやって来た。
どうやら霖之助が勧めた甘エビは、彼女の主人の望んでいたものと違っていたらしい。まあ確かに、食に対して異様に執着するアレが、甘エビ程度のもので満足してくれるかといえば否であるようにも思える。やはりと言えばやはりな結果ではあった。
「しかしなあ、甘エビだってれっきとした雌雄同体なんだが」
「それなんですが、幽々子様いわく、雄にしてお嬢様じゃないとダメなんだとかで」
「お嬢様……?」
「雌」ではなく「お嬢様」でなくてはならないという。そこに一体何の差異があるというのか。
しかし考えてみるに、それならば甘エビは条件を満たさない気もする。アレが雄から雌に転じるのは五歳、甘エビの寿命が十一歳程度ということを考えると、およそ命の半分ぐらいの時期である。人間に例えるなら四十代というところであり、「お嬢様」というのは厳しい年齢だろう。
「……となると、先に雌で後々雄になるような海老を探しているのか……?」
お嬢様というのは、まず大体の場合において若い女性に対して用いられる言葉である。ならば海老でも、若いものでなくてはなるまい。そういう推理だった。
しかしここには最大のネックがある。幻想郷で手に入る海老といえば甘エビぐらいしかない、という事実だ。海のない幻想郷では、海産物の種類もごくごく限られてくる。
幽々子が甘エビ以外の海老を食べたいと思うのなら、個人的なコネを使って紫あたりに依頼するしかあるまい。それは妖夢にはどうしようもないことであり、霖之助にもどうしようもないことである。
「鮮魚店には甘エビしかありませんでした。といっても、幽々子様は本当に実現できないことは仰らないので、多分何かそういう海老がどこかにいるはずなのですが……」
「……ふむ。ひょっとすると、それは海老ではないのかもしれない」
「え?」
「いや、いつもわけのわからないことを言う君の主人だからね。今回も謎掛けのようなものなのかもしれない。必ずしも海老を望んでいるとは限らないんじゃないかな」
それは長命の人外に共通した特徴であった。いちいち言い方が回りくどいのだ。幽々子は特にそれが顕著で、発言が必ずしも文字通りの意味を表さないこともしょっちゅうある。
霖之助の推測では、今回の海老の件もその一パターンであり、幽々子が本当に望んでいるものは単なる海老では無いのではないか? ということであった。
「となると……幽々子様が真に望んでいるものとは一体?」
「悪いけど、そこまでは分からないね。僕が苦手なのは、クイズとかなぞなぞとか、そういう類のものだから。もっとヒントが欲しいところだ」
「答えを知りたい、とは言わないんですか?」
「聞いても答えてくれないだろう、君の主人は」
これには苦笑いが返ってきた。思い当たる節がいくらでもあったらしい。
それはともかく、現状では霖之助にはこの問題を解くのは不可能だった。彼とっては、情報が足りなさすぎる。
「わかりました。幽々子様にもう少し情報を出してもらいましょう。とりあえず今日はこれでお暇します。すみません何のお礼も出来なくて」
「ああ別にいいさ。答えがわかればそれでいい」
むしろ礼は無いほうが良い。どこぞの誰かに持って行かれるからだ。
喪失感を味わうくらいなら無いほうがいいのだ。と、霖之助は涙を零しつつ自分を納得させた。
「まさか君本人がお出ましとはね」
「だっていつまでたっても望みのモノが手に入らないんだもの。妖夢に任せたのは失敗だったわ」
翌日。妖夢は香霖堂を訪れなかった。代わりに彼女の主人がやって来た。
いつまでたっても望みのものが来ないのに腹を立てているらしいが、霖之助からすれば自業自得である。わかりにくい言い方をするほうが悪いのだ。
「そう思うならもう少し問題の難易度を下げてほしかったね。妖夢も僕も、頭でっかちなのは分かるだろうに。回りくどい言い方をするのは勘弁してくれないか」
「何を言ってるの、あんなに直接的な言い方も無かったでしょうに」
霖之助は頭を抱える。アレで直接的ときたか。普段妖夢がどういう苦労をしているかが計り知れ、彼は僅かな同情を覚えた。
「悪いが、一体どういう類のものを望んでいるのかさえ分からなかったんだが」
「えぇ? 薬に決まってるじゃないの」
霖之助の言葉に、幽々子は意外な顔をした。分からないはずはないだろう、と言わんばかりの表情だ。
しかし分からないものは分からないのである。半ば思考放棄でもあったが、悪いのは幽々子だと決めつけている。
「薬……? ああ、外の世界のものということか」
薬といえば永遠亭というのは今や幻想郷の常識になりつつあるが、場合によっては霖之助に頼った方がいいこともある。外の世界の銘柄が欲しい、という場合だ。
ただし、彼には薬品の名前と用途――飲む、塗る、貼る云々――はわかるが、効能が分からない。つまり薬屋のようなことは出来ないのであり、客が特定の銘柄を欲しがっているときにしか売れないのであった。
「そうね。というか、あなただって使ったことあるでしょうに」
「僕が? ……いやまて、何だその表情は」
霖之助には薬を使った経験があまり無い。というのも身体に半分流れる妖怪の血のおかげで、薬を使わざるを得ないような体調にならないからだ。外の世界のものに至っては、使ったことが無い。効能が分からないのだ。自分の身体をベットするようなギャンブルをするほど、彼は阿呆ではなかった。
さらに言えば、幽々子に悪戯な表情をされる理由も思い当たらない。何か勘違いしているとしか思えなかった。
「あいにくだが、僕は外の世界の薬を使ったことがないんだ。買う人はたまに居るから取り扱ってはいるけどね」
「ふうん……巫女に魔法使いがちょくちょく来るから、きっとアレを使ってるんだろうと思ってたのに。まあ、使ってないならそういうことにしておいたげる。それでまあ、アレ、ある?」
「アレある? と言われても、アレが何か知らないからなあ。あんな周りくどい言い方じゃ、どの銘柄か分かりっこないんだが」
霖之助の知る限り、海老が関わってくるような薬は店に無い。今チラリと幽々子が言った、巫女やら魔法使いが関係してくる理由も分からない。少なくともあの二人が外の世界の薬を持っていく(買うにあらず)ことは一度も無かった。
「分かりっこないって……ねえ、妖夢からどういう言い方をされたの?」
霖之助は持っている情報を幽々子に話す。雄にして雌、というよりお嬢様である海老。彼女は呆れたと言わんばかりの顔でため息をついた。
「あぁ、妖夢……そういえば伝言ゲームとか昔から苦手だったわね、あの子。それにしても壊滅的な勘違いだわ」
「なんだ、彼女が伝達ミスをしてたのか……で? 一体何が欲しいんだい? 外で市販されてるものなら大体揃ってると思うが」
霖之助としては、薬が売れるのはかなり喜ばしいことだった。というのも、わりと高頻度で拾えるわりに、全くといっていいほど売れないからである。
品揃えに自信があるのも当然であった。在庫はたまる一方なのだから。そして、幽々子が欲しがるものも、当然その多すぎる在庫の中に含まれていた――。
海老雄嬢
「エビオス錠をちょうだい」
だがそれがいいw
すごいオチwww
村雨丸さんに描いて欲しくなったじゃねぇかよ!!
思わせぶりな改行がまた秀逸じゃねぇか。
百点だよこれ。馬鹿野郎。
ゆゆみょんとな
オチのエビオス錠と言われてもピンとこずにググったら効用に吹きました。
本当に段落使いが上手くネタとしては好きです。
しかし ゆゆさまがそれを使うのか?
てかそんなもん妖夢に買わせるなよ!
いつも「錠」まで呼ばないから一瞬何のことかわからなかった
おwwwいwww
少なくとも妖夢はエビオス錠を知らないのか
負けましたよちくしょうw
上のコメントでイヤラシイ薬~みたいな事言ってる人いるけど、
結局何が正しいの?
子供の頃ばりぼり貪った後飲み方見て
絶望した覚えがある。今も食ってるけど。
少し気になったのですが、用途なら「貼る・飲む」じゃなくて「~を治す」みたいに出るんじゃないでしょうか?
亜鉛を多く含む栄養剤。
服用すると精液の量・濃さが二倍以上になります。
ゆゆ様は何を求めてるんだw
それも、ピュアでキュートなハートを持つ妖夢にそんなものを求めさせるなんて……
作者さん、あんた黒だよww
……とりあえず後日談を書いて戴きたいのだが。
いつかこういう話を書いてみたいですね。すごいなあ
自分にはなにが面白いのかサッパリだった。
そもそも改行→オチというのがどうもあからさま過ぎて
一歩引いてみてしまうというか。
でもこういう漫才も必要なんだろうなと思います。
きっと私はもう見ないですが。
今回はツボでした。大笑いです。
なんというか、落語見たいな感じでしょうか?
あまりにもツボすぎてエビオス錠を買ってしまったのは私くらい?
そっち系の効能が目的ならむしろ亜鉛を同時に摂った方が良いらしいよ