「秋ね」
短い呟きが、静かな図書館の空気をちょっとだけ震わせる。
「パチュリー様、おもちでも作るんですか?」
「『あ、杵』じゃないわよ」
司書見習い・小悪魔が発したボケを、図書館司書のパチュリー・ノーレッジ――― 発言主 ――― がばっさり切り捨てた。
「あははは、こあちゃんナイスボケだね」
隣に座る、遊びに来ていた湖の大妖精はけらけらと笑いながらフォローのような言葉。
時は十月。パチュリーの言葉通り秋の色も深まりつつある時期。
季節が巡ろうとも、仲良し名無し組がこうして図書館で一緒に過ごすのはまるで変わらない。
さて、彼女には純粋に受けたようだが小悪魔は顔を赤らめつつ、空気を変えるかのようにパチュリーへ問うた。
「こ、こほん……で、パチュリー様。どうされたのですか?」
「ん~?秋っぽくなってきたからそう呟いただけよ」
言いながら彼女は本を閉じ、べちょ~と机に突っ伏す。時折『あきー、あきー』と繰り返す。
首を傾げながらそれを見ていた小悪魔は、不意に思い出したかのようにポンと手を打った。
「あっ!そっか……パチュリー様、今年も」
「察しのいい子は好きよ。流石私の助手」
パチュリーは身体を起こすと、服のポケットをごそごそとやって財布を取り出す。
紙幣を数枚取り出し、小悪魔へ差し出した。
「これで買えるだけ。ラインナップは任せるから。
ああ、あなた達の分もあるから、適当に買ってらっしゃい」
「わぁい!ありがとうございます!」
嬉々として紙幣を受け取り、自分の財布にしまう小悪魔。
「え、え?」
一方、話の飲み込めない大妖精は困惑した表情で二人の顔を交互に見比べた。
するとパチュリーは少しばかりばつの悪そうな顔で小悪魔に声を掛ける。
「この子も連れてってあげなさいな。普段より多めにあるから、お金」
「もちろんです!大ちゃん、行こ!」
「ど、どこへ?」
嬉しそうな小悪魔に腕を引かれ、よろけながら大妖精は再度質問。
『途中で話すよ!』との言葉にほだされるまま、彼女はあっと言う間に紅魔館の外まで引っ張られていった。
「大ちゃんも知ってると思うんだけど。ほら、秋の神様がやってる」
「ああ、あのお菓子屋さん?お菓子以外にも色々売ってるけど……わたしも毎年、よく行くよ」
紅魔館を出た道中、妖怪の山方面に向かいながらの会話。
合点の言った顔の大妖精に、小悪魔は笑顔で頷き返す。
「そうそう。パチュリー様が大ファンでさ、毎年開店する時期に、私におつかいを頼むの」
「そういうコトだったんだ……あれ、でもなんで分かるの?今日からやってるって」
「パチュリー様、こういう時はすっごく察しがよくって。肌で分かるんだろうね、本格的な秋の到来がさ」
『食いしん坊バンザイだね』と、小悪魔は嬉しそうに笑った。
彼女達の言っているのは、秋静葉・穣子姉妹が毎年秋に自宅前で開く小さなお菓子屋さんの事である。
ラインナップはスイートポテトからフルーツタルト、栗羊羹に最中、果ては栗きんとんにブドウのゼリーまで、和洋問わず秋の味覚をふんだんに用いた菓子類を販売している。
良心的な値段と素材の良さを生かした美味しさが口コミで広まり、人も妖怪も妖精も神様も、秋になると毎年大挙して押し寄せる。
ちなみに菓子類に限らず、果物や野菜も直販している。秋の良さを知って貰おう、と姉妹で始めたこの店、開店時期は穣子曰く『本格的な秋になったら』。
人間の為に、時には里まで出張で出向く事もあるとか。
「いつも、気付いたらやってるって感じだったけど」
「そうそう。だけどパチュリー様のおかげで、紅魔館はいつも開店一番乗りだよ」
低空飛行しながらそんな会話を交わす二人の頭の中では早くも栗にサツマイモにカボチャがパレードを始めており、ヨダレを垂らさんばかりの表情。
秋の高い空を見上げながらスピードを上げ、二人は妖怪の山麓にある秋姉妹の家へ。
だが―――
「あれ?」
ログハウス調の家、その一角に出来た店舗スペース。
そこに立っている筈の穣子がおらず、後ろに山と積まれている筈の果物・野菜類入りダンボールも見えない。
「まだ開店時間前だったのかな」
「でももう二時だよ?」
敷地内に降り立ち、店舗スペースのカウンターへ。
そこには『休業中』との小さな看板がぽつんと置かれていた。
「やってないみたい……」
「どうしたのかなぁ。こんなコト、今までなかったよ」
パチュリーの勘が外れたのだろうか。
う~ん、と首を傾げながらも、休みならしょうがないと二人が再び飛び立とうとしたその時。
「あっ、ちょっとそこのお二人さん!」
背を向けたばかりのカウンター内からいきなり声が飛んできた。
驚いて振り向くと、そこには若干焦った顔をした穣子の姿が。
「わたしたち、ですか?」
「そうだよ、二人とも常連だしよく知ってるよ。いつもありがとうね」
宴会なんかでもよく会うし、話だってした事も一度や二度じゃない。となれば人違いでは無かろう。
彼女は一度笑顔になるが、すぐにその表情に陰りを落とす。
「ごめんね、わざわざ来てくれたのに……」
「何かトラブルでもあったんですか?」
「今年は不作だったとか?」
「ん~ん、むしろ豊作で材料はたっぷりあるのよ。でもねぇ……お姉がさ」
お姉、とは当然彼女の姉である静葉の事だろう。
「静葉さんに何か?」
「うん……あのさ、もし迷惑じゃなかったら、ちょっと話だけでも聞いてくれると嬉しいな。
もちろんお菓子とかサービスするよ。ずっと家にこもりっぱなしでさ、その……」
何があったのかはまだ分からないが、外に出れない事情もあって寂しかったのだろうか。
懇願するような視線を受け、二人は即座に頷いていた。
「いいですよ、わたしたちで良かったら……」
「ありがとう!それじゃ、こっち」
穣子は顔をぱっと華やげると、カウンターの端にある簡易ドアを開け、二人を招き入れた。
「へぇ、こんな風になってるんですね」
「お菓子屋さんってやっぱり憧れちゃいますから、中を見れるのって嬉しいな」
「そう?なんか照れるなぁ」
店舗の内部を見渡しながらの会話。そのまま三人は奥の扉から家の中へ。
「散らかってるけど勘弁してね」
「全然そんなコトないですよ、お邪魔します」
「お邪魔しまーす……あっ、焼き芋のいいにおい」
流石は秋の神様が住む家か、一歩踏み入れただけでほのかに甘い香り。
穣子についていくまま、二人はある扉の前で立ち止まった。
「実はね……」
『お姉、入るよ』と声を掛けつつ扉を開ける。
きぃ、と少しだけ軋んだ音を立てて開いた扉。彼女に続いて中へ入った二人が目にしたのは、部屋の隅、ベッドの上で苦しそうに息をする静葉の姿だった。
その目は潤み、頬を紅葉のように染めているがどう見ても健康的には見えない。
「風邪……ですか?」
小悪魔が尋ねるが、穣子がそれに答えようとしたその時、静葉が不意にベッドからだるそうに身体を起こす。
「い……行かなきゃ……」
「あっ、お姉!ダメだって、寝てなきゃ!」
「行かせてよぉ……やっと、秋になったんだから……わ、私が……けほ、けほっ」
「も~、ダメだってば!ほらちゃんと寝てて」
無理矢理彼女の身体を横たえ、布団を被せる。
静葉は苦しそうにもぞもぞと布団の中で動いていたが、やがて静かになった。寝てしまったようだ。
「ごめんね。あっちの部屋で話すよ」
穣子に促されるまま、一同は揃って静葉を残し部屋を出た。
茶の間のようになった和室。座布団に正座する二人の前に置かれたテーブル。
そこへお茶と、大量の菓子類――― 本来は売り物だろう―――を出し、穣子は二人と対面するように座った。
『好きなだけ食べていいから』と言いつつまず自分が栗羊羹を一切れ取り、それをかじってから口を開く。
「んむ……っと。で、さっきの話なんだけどね。
お姉は確かに風邪なんだ。でもただの風邪じゃないの」
「ただの風邪じゃない?」
大妖精が饅頭を手で二つに割りながらオウム返しに尋ねると、穣子は頷く。
「うん。んとね、正式な病名はよく分かんないから、神様仲間のみんなは『神様カゼ』って呼んでるんだけど」
「神様しかかからない、ってコトですか?」
「そうなの。正確には、『だらしない神様にしかかからない風邪』ね。
ほら、今年は残暑が長くていつまでも暑かったじゃない?最近ようやく涼しさが見えてきて。
お姉ったらさ、やっと秋で自分の出番だってんで、嬉しさの余り……」
言葉を切った彼女を、固唾と口の中のスイートポテトを呑んで見守る小悪魔。
大妖精が続きを促す。
「嬉しさの、あまり?」
「……お風呂上りに、バスタオル一枚の状態でサタデーナイトフィーバー。
しまいにはタオルをブンブン回して『ホーッホーゥ!』ってEちゃん気取り。
『秋の風を感じるのよ!』なんて言って窓は全開。それで湯冷めして……」
「風邪、ですか」
「はぁ、情けないお姉でごめんね。嬉しいのは分かるけどさ、自分の力を発揮する舞台を前に素っ裸で騒いだんじゃ、そりゃ神様カゼにもなるわよ」
ため息混じりで残りの羊羹を口に押し込む穣子。もむもむとそれを咀嚼し、彼女がそれを飲み込むのを待ってから、大妖精が再び尋ねた。
「ってコトは、お店をやってないのは静葉さんの看病のため、ですか?」
「まあ、そうなんだけど……ちょっと問題があってさ」
どうやら一筋縄ではいかない問題のようだ。それを察知した二人は、手元にあった食べかけのお菓子を口の中へ片付け、お茶を一口。
もう一度テーブルへ手を伸ばす。大妖精はモンブラン、小悪魔は栗最中を手に取ったのを見届けて、穣子は続けた。
「さっき言ったけど、普通の風邪とは違うんだ。神様がかかるモンだけあって、症状はかなり重いし治りも遅いの。
普通の人がかかる病気で例えるなら、インフルエンザクラスかもうちょい重いくらい。頭ガンガンで熱もすごい」
「うわ、それは辛い」
思わず身震いする小悪魔に頷く穣子。
「永遠亭にも行ってお薬はもらってるんだけど、やっぱり治るまでに結構かかるって。
で、問題はこっからなんだけど……治るのに時間かけてたら、お姉が本来やるはずだった仕事が遅れちゃうの」
「仕事……って、えっとぉ」
「アレじゃない?ほら、紅葉」
考え込む小悪魔に横から大妖精がフォローを入れる。
「そう、その通り。幻想郷を彩る素敵な秋の景色は、お姉が作ってると言っても過言じゃないの」
そう言って胸を張り、どこか得意気な穣子。やはり、何だかんだ言って姉の事は尊敬しているのだろう。
だがすぐにしょんぼり顔に戻って続けた。
「だけど、今年はお姉がああだから。本人は無理してでも行くって言ってるけど、そんなの絶対だめ。
かと言って、もういい時期なのにいつまで経っても紅葉が見られなかったら……」
「不自然ですよね」
「それもあるんだけど、信仰にも関わるのよ。主に毎年、見事な紅葉で人々の目を楽しませる事でお姉は信仰を得てるわ。
けど、今年は全然紅葉にならなくて、青々としたままだったら人々はガッカリするでしょうね。
紅葉狩りも出来ないし、焼き芋も作れないし……そういう、人々の残念な気持ちが生まれてくる。
そしてそれは、『神様としての責務を果たせなかった』ってコトで、信仰が落ちる原因になるの」
ため息の尽きない穣子。会話が一旦途切れ、互いにお茶を一口ずつ啜る程度の間があった。
「神様って、やっぱり大変なんですね……」
「ありがとう、でも私達だって辛いばかりじゃないわ。
山の上にいる神様みたいに直接信仰してもらうケースじゃなくても、人々の役に立って、喜んでもらう事がそのまま信仰としてカウントされるのよ。
やっぱり、喜んでもらうって気分がいいもの。もっと頑張ろうって気にもなるし、神様としての力も湧いてくる。
でも、今年のお姉はあんなんだから、どうなっちゃうか……って、それが心配なの」
「信仰が落ちると、やっぱり色々いけないんですよね?」
「神様の存在意義みたいなモンだから、そりゃあ重要よ。最悪、信仰ゼロになったら消滅しちゃうかも。
まさかいきなりそんな事はないと思うけれど、ただでさえ弱ってるお姉に何かあったらって思うと……」
湯呑みで手を温めながら、穣子は澄んだ緑色の水面を眺める。茶柱は立っていない。
暫しの沈黙が流れた。開け放った窓からは、秋を感じさせる涼しい風が吹き込み、それぞれ違う色をした三人の髪を揺らしていく。
予想以上に深刻な事態に、大妖精も小悪魔も言葉を失ってしまったそんな中、不意に穣子がゆっくりと顔を上げる。
「ねぇ、二人とも……無関係のあなたたちにこんなコト言うのは、自分でも悪いっていうのは分かってるんだけど」
「なんですか?」
大妖精が尋ね返すと、神妙な顔をしたまま穣子はやや俯き加減になりつつ続けた。
「その……幻想郷に、秋を撒くお手伝いをしてもらったりとか……できるかしら」
・
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・
・
「……秋を、まく?」
穣子の言った意味がすぐには分からず、小悪魔はオウム返し。
すぐに彼女は、フォローのように言葉を繋げる。
「本当は、お姉がやらなきゃいけない『幻想郷の景色を秋の色に染める』仕事を、あなたたちに手伝って欲しいの。
厚かましいのは分かってるわ。本来は私が代わりにやるべきだし、そもそもあなたたちは無関係ですもの。
だけど……あんなに苦しそうなお姉を放ってはおけないし、今の時期は神様連中も忙しくて、他に誰を当たればいいのかも分かんない。
無理強いなんてできないけど……お願い!後で、何でもお礼はするから……」
がたん、と音がしたかと思えば、テーブルにぶつけるような勢いで頭を下げる穣子。というより、額を強か打ち付けた音だった。
急な事に驚きつつ、大妖精も小悪魔も慌てて膝立ちに。
「そ、そんな!顔上げてくださいよぉ」
「なんで自分たちが、って怒られてもしょうがないよね。でも、誰に頼んだって無関係の者を巻き込むのは確実。
だったら、真剣に私の話を聞いてくれた、優しいあなたたちに頼みたいの。ダメな神様で、ごめんね……」
頭を上げない彼女の様子に、二人は顔を見合せる。
「こあちゃん、図書館の方は……」
「うん、一応有給休暇みたいなのはあるから多分大丈夫」
頷き合うと、小悪魔がテーブルを回り込んで未だ顔を伏せたままの穣子の肩をそっと叩く。
「分かりました、私たちに任せて下さい!」
「ほ、本当に!?」
「はい!初めての経験なので、上手くできるか分かりませんけど……頑張ります!」
大妖精も笑顔を向けると、彼女は心底安堵した表情で再び頭を下げた。
「よ、よかったぁ……ありがとう、二人とも!絶対に、見合ったお礼はするからね!」
穣子に笑顔が戻った事で、部屋の空気は大分軽いものとなった。承諾した二人の顔にも、自然と笑顔がこぼれる。
やはり、頼み込まれたら断れないのは二人の性か。それに、真剣な事情がある事も知ってしまった。
流石にここまで知った上で、冷たく突き放す真似なんて出来ない。知らなくても出来ないだろうが。
「それじゃとりあえず……いつから頼める?」
「こあちゃん、どう?」
「多分明日からでもいけるよ。パチュリー様に聞いてみないとだけど、どうせオッケーしてくれるよ」
それだけの会話をしてから、『明日からいけますよ』と小悪魔は穣子へ告げた。
「了解、じゃあ明日……時間はいつでもいいから、またここに。
説明は明日するから、今日はもう大丈夫。話まで聞いてもらっちゃって、本当にありがとう。
お土産いっぱいあげるから、ちょっと待っててね」
一旦、部屋から出ていく穣子。
「何だか悪いなぁ」
「そうだけど、せっかくだから頂こうよ。それにしても、秋をまくってどんな……」
会話が途切れた。というより絶句した。帰ってきた穣子の手にする『お土産』の袋が、凄まじいサイズだったからだ。
サンタクロースの時期には早すぎる。
・
・
・
・
「……むきゅー」
「パチュリーさまぁ……だから、申し訳ありませんでしたってばぁ……」
「むっきゅーぅ」
「その、わたしからも謝りますから……本当に、申し訳ありません」
「おやつの時間、もう過ぎちゃった……おなかすいた、オナカスイタ。待ってたのに。むきゅー」
埃っぽい図書館。テーブルに突っ伏し、明後日の方向を向いたパチュリーに向かって必死に頭を下げる名無し二人。
穣子の話を聞いていた為、帰還が大幅に遅れた二人。その結果、口の中をあま~くして待っていたパチュリーは途轍も無い待ちぼうけ。
準備しておいた紅茶もすっかり冷め、空腹でわんわん鳴く胃袋にむきゅむきゅとハーモニーを添えていた所だ。
やっと帰って来た二人にこのような態度をとるのも、致し方無し――― なのだろうか?
とにかく、このまま彼女が不機嫌だと小悪魔の休暇申請に影響が出そうだ。
「大ちゃん、お菓子お願い。私は紅茶いれてくるよ」
「うん、よろしく」
頷き合い、小悪魔は冷めた紅茶のポットを手に図書館をぱたぱたと出ていく。
大妖精は何も乗っていない皿に、穣子から貰った大量のお菓子からいくつかを取り出し乗せていく。
焼き色と黄金色の対比が美しいスイートポテトに、まるで宝石箱のように色とりどりのフルーツタルト。
それに、焼きたての香ばしい香りを振り撒くパンプキンパイ。
余程楽しみだったのだろう、大皿と言って差し支えないサイズの皿にそれらを二個ずつ乗っけて、そっと置く。
その時、ナイスタイミングで小悪魔も帰って来た。流石は息ピッタリの名無しコンビ。
「ほ~ら、パチュリーさん。とってもおいしそうですよ?」
包み紙の上からスイートポテトを一つ手に取り、突っ伏すパチュリーの頭の辺りで旋回させる。
漂う甘い香り。ひくひく、と鼻を動かしたかと思うと、彼女はそっと顔を上げる。
「……むきゅ」
「ほら、いい紅茶が入ったって咲夜さんも言ってましたよ?」
小悪魔は援護するように、カップに注いだ紅茶をそっとテーブルへ。
大妖精はスイートポテトを皿に戻す。
「……食べていいの?」
「そりゃもちろん」
「パチュリー様のために買ってきたんですよ?まだまだいっぱいありますから」
「わぁ……っと、こ、こほん。そ、そうね。いつまでも咎めて拗ねてたんじゃ、器が小さいわよね」
目を輝かせ、口の端にヨダレを滴らせながら、パチュリーはもっともらしい事を言ってフォークを手に取る。
(確かに、お皿はおっきいね)
(パチュリーさんって、けっこう食べるんだっけ?)
(そうそう、動かないのにね)
彼女達のひそひそ話にも気付かず、パチュリーは嵐のようにフォークを動かし、次々とお菓子を口へ放り込んでいく。
時折砂糖の入っていない紅茶で口の中をリセットしながら、舌の上でそれぞれ違う甘味を存分に楽しんでいるようだ。
皿に乗せた三種類かける二個、計六つのお菓子はあっと言う間に彼女の胃の中へと納まった。
「……けぷ。はぁ、やっぱりここのお菓子食べなきゃ、秋って気がしないわ。二人ともありがとう。
それにしても、まさかこんなにいっぱい買ってきてくれるなんて。私はいい部下とその友達を持ったわね」
まんまるになったお腹を撫で、パチュリーは実に満足そうな笑顔で二人に礼を述べた。
もうすっかり機嫌が良くなったようなので、小悪魔は秋の味覚に感謝を捧げつつパチュリーへ問う。
「あの、パチュリー様。お願いがあるんですけれど」
「何かしら?何でも言って頂戴」
「その……私、まだフリーの休暇がいっぱい残ってますよね?ちょっと事情があって、明日からまとめてお休みを頂きたいのですが」
「ええ、いいわよ。確か……っと、これこれ」
二つ返事で承諾すると、パチュリーは近くにあったノートのような物を手に取り、ぱらりとめくる。
「あなた、今年はまだ三日しかとってないのね。あと十一日分あるけど、二日くらいおまけしてあげる。何日とるの?」
「ありがとうございます!えっと、まだ何日になるか分からないので、戻る時は私から申告しますね」
「分かったわ」
お菓子効果もあるだろうが、やたらと寛容なパチュリー。小悪魔の勤務態度は、平素よりかなり良いようだ。
何となく気になり、大妖精は二人に尋ねてみる。
「あの~、お休みってどういう仕組みなんですか?」
「まあ端的に言えば有給休暇ね。有給ったって給料というかお小遣いみたいなものだけど。
年に大体二週間分くらい、小悪魔には好きな時に使える休みをあげてるのよ。
もっとも、普段は仕事がそんなに長引かないからのんびり休むだけなら平日でも大丈夫だし、この子が使う事は結構稀だけどね」
「へぇ、さすがこあちゃん。マジメだね」
「やだぁ、大ちゃん」
パチュリーの話に感心し、小悪魔へ賞賛の言葉を投げかける大妖精。彼女は頬を染めてそれに応えた。
「あれ、じゃあこあちゃんはお休みをいつも何に使うんですか?」
「……知りたい?」
「あ、無理にとは言いませんが……」
妙な含み笑いのパチュリー。人様の家の事情に立ち入るのは良くないかと、断ろうとする大妖精。
だが彼女は首を振ると、大妖精に教えてくれた。小悪魔の顔が、先程から妙に赤い。
「えっと、今年使った休暇は三日。春に一回、夏に二回。
春はあなたと友達がお花見やるっていうからついてった時。
夏はあなたと妖怪の山に流れてる川に遊びに行った時と、あなたと花火大会に行った時ね」
「え、それって」
「全部、あなたと一緒に丸一日、外へ遊びに出掛けた時」
小悪魔の顔が赤い理由が、よくよく分かった大妖精であった。勿論、自分の顔が熱くなるのも分かっていた。
ニヤニヤと笑うパチュリーは、ノートを閉じながらわざと聞こえるように呟く。
「どうせ、明日からの休みもあなたと一緒なんでしょう?『大妖精休暇』とでも改めようかしら」
小悪魔も大妖精も、恥ずかしさと嬉しさでそれに答える事なんて出来やしなかった。
・
・
・
・
翌朝十時過ぎ。大妖精が紅魔館を訪れると、既に小悪魔は門の前で門番・紅美鈴と一緒に待っていた。
「おはよ、大ちゃん!」
「おはよう!美鈴さんもおはようございます」
「はい、おはようございます。お二人でお出かけですか、いいなぁ」
羨ましそうな美鈴の視線を浴び、小悪魔は苦笑い。
「せめて、昨日いっぱいお菓子買ってましたから。美鈴さんも良かったら召し上がって下さい」
「ありがとうございます、おやつの時間にでも……いや、やっぱ今行っちゃえ。それじゃ、行ってらっしゃい!」
小悪魔の言葉に、美鈴は二人に見送りの言葉をかけるとそそくさと紅魔館の中へ引き上げてしまった。
その様子に思わず笑い合ってから、二人は肩を並べて出発。
「まあ、美鈴さんだって女の子だもの。甘いお菓子があるって知ったら、ガマンなんてできないよ」
「パチュリー様もお嬢様も昨日からずっと食べてるみたいだし、咲夜さんがつまみ食いしてる所も見ちゃった。あはは」
そんな会話に花を咲かせつつ、二人は一路妖怪の山麓、秋姉妹の自宅へ。
昨日教えてもらった勝手口を叩くと、すぐに穣子が中から現れた。
「おはよう、待ってたよ!こんな早くからありがとうね」
彼女は二人を中へ招き入れ、昨日話をした部屋へ。
「静葉さんはどうですか?」
「寝てる。まだ良くなるには時間がいりそうだなぁ」
ごそごそ、と何やら準備をしている穣子の背中に向かって尋ねると、やはりどこか心配そうに答えた。
そうこうしている内に彼女の準備も完了したようで、二人に向き直った。
「それじゃ、早速お仕事についてなんだけど。お姉に頼んで、”秋の素”を粉末状にしたの。
これを撒いてもらえれば、その辺りの……ん~、便宜上秋度とでも言おうか。秋度が上昇し、紅葉になったりするのね」
「静葉さんもそれを?」
「ううん、お姉は直接、木々や辺りの景色を秋に染められるから。お姉の力を分かりやすいインターフェースにしたのよ。
粉なら撒きやすいし、イメージしやすいしね」
穣子は一連の説明をしながら、手にした手提げ程の大きさの袋を示す。
中にはぎっしりと何かが入っており、重力によって丸く膨らんでいる。
「量とか、何か注意とかありますか?」
「ほんの一振りで大丈夫だから。思わぬ所に影響する事もあるから、撒き過ぎには一応気を付けてね」
「場所とかは?」
「幻想郷全域……なんだけど、流石にいきなりは無理だし、あなたたちにそこまで苦労はかけられないわ。
だから、人の目に付きやすい所から少しずつお願い。それともう一つ、撒いてる所は人に見つかっちゃダメよ」
意外な言葉が飛び出したので、大妖精は尋ねてみた。
「どうしてですか?」
「……サンタクロースが夜中にこっそりやってくる理由とおんなじよ、大ちゃん」
その返答を聞いて、はっとした顔の大妖精に穣子はウィンク一つ。
目の前でいきなり青々とした木々が紅葉に変わったら、誰だって驚くし何事かと思うだろう。
紅葉とは、気付いたら変わっているもの。人々はそれを見て、『いつの間にそんな時期か』と風流を感じる。
彼女達なりの誇りとプライドがあるのだ。自分達も、それを忘れてはいけない――― 大妖精も小悪魔も、自然と背筋を正していた。
「そんなにかしこまらなくてもいいって。多分一生でもそうそうない体験だと思うし、楽しむくらいの気概でいいよ……はい、これ」
穣子はあくまで笑いながら、二人にそれぞれ袋を手渡した。
受け取った瞬間、ずっしりと腕に重みを伝えてくるそれを、落とさぬようしっかり腕に通す。
「それは一部だから、なくなったらまた来てね。まあすぐにはなくならないでしょう」
「静葉さんは普段どのくらいで?」
「やろうと思えば一日でいけるよ、お姉なら。でも面倒だし不自然かもってんで、三日から五日くらいかけて徐々にやってるかな。
でも二人はそんな早く出来ないと思うし。ワガママ言えば早いと嬉しいけど、焦っちゃダメね。自分たちのペースでやってくれていいから」
その言葉にしっかりと頷き、二人は案内されるまま再び勝手口から外へ。
「本当にありがとう、気を付けてね!」
見送りに来た穣子に手を振り返し、二人は姉妹の自宅を後にした。
彼女の姿が木々に隠れ、見えなくなった所で大妖精が隣を歩く小悪魔へ尋ねる。
「どっから行こっか」
「木の多い所がいいとは思うけど……いきなり里や魔法の森は自信がないなぁ。
も少し、人目に付きにくい所がいいんだけど」
それは大妖精も同感だった。いきなり人目に付きやすい場所に撒き始めて、何か失敗したらと思うと怖い。
暫し考え、彼女は何かを思い付いたようにポンと手を打った。
「あ、そうだ。じゃあさ、湖から少し離れた場所にある並木道の辺り行ってみようよ。
ほら、毎年春にはお花見でにぎわうトコ。桜の木以外にも木が多いし、今の時期は少なくとも人はあんまり来ないよ」
「そっかぁ、んじゃあまずはそこから行こうか」
小悪魔も頷き、二人は湖方面へ進路を変えた。
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湖から飛ぶ事数分。
幻想郷のはずれに向かって伸びているやや広い道。その両脇を飾るように、桜の木がいくつも立っている。
春先は絶好の花見スポットだが、今は少々寂しい。噂では、冬の終わりにレティ・ホワイトロックが姿を消す時は、この道を通ってどこかへ去って行くとか。
ちなみに、春告精・リリーホワイトの家もこの先だ。
「確かに、今はちょっと寂しいね」
「でもほら、木も結構多いし。この辺りでちょっとお仕事に慣れてみようよ」
「そうだね」
頷き合うと、二人は道を外れて桜の木をくぐり、その裏手に広がるちょっとした雑木林エリアへ足を踏み入れた。
がさがさ、と年中積もりっぱなしの落ち葉が音を立てる。手近な木を見上げ、大妖精は袋を取り出した。
「ん~、このくらいでいいのかな?」
軽く手の中に握る程度、粉を掴む。さらさらとした、砂のような感触。
指の隙間から落として量を調節し、目の前の木、葉の生い茂る部分目がけて手を振り抜いた。
「えいっ!」
ばさぁ、とそのまんま砂を葉っぱに向かって投げたような音。そよ風が吹き、若干煙のように粉を漂わせる。
「すぐには変わんないんだね」
「あ、でもなんか黄色っぽく」
いきなりぶわわっと色が変わるのを想像していたが、撒いてすぐに変化は見られない。
だが、粉をかけられた木の葉が、緑色から徐々に黄色くなっていくのがはっきりと見える。
「わぁ、きれいだねぇ」
「この後、だんだんオレンジになるんだね。静葉さんの力ってすごいなぁ」
二人揃って感心。よく見やれば、大妖精が狙った木だけでなく、周りの数本にも効力が及んでいるようで徐々に染まっていく。
『私もやる!』と意気込み、小悪魔は少し離れると別の木に狙いを定める。
「せーの、それぇっ!」
彼女は袋の粉を引っ掴み、思いっきり投げつけた。ばらばらと雨のように、粉が落ち葉を叩く音が響く。
「わっ、こあちゃんちょっと多くない?」
「ごめんごめん、つい興奮しちゃって」
ぺろりと舌を出し、ばつの悪そうな小悪魔。しかしその時、
「んぅっ……けほっ、げほげほっ!なにこれぇ!」
小悪魔の目の前、今しがた粉を思いっきりぶっかけた木の中から唐突に咳き込む声。
「えっ、な、なに!?」
いきなり木の上から声がして、驚きを隠せない二人。
ばさばさ、と緑と黄がグラデーションを描く木の葉を落としながら、小柄な影が木を降り、地面へと降り立った。
「ふぇー、びっくりしたぁ……あっ、大ちゃんにこあちゃん!なにしてるの?」
緑と黄と茶色が九割を占める景色において、その純白の服はとっても眩しい。降りて来たのは春告精・リリーホワイトだった。
「り、リリーちゃん!こっちの台詞だよぉ……どうしたの、木の上で」
「えへへ、お昼寝。涼しくなってきたし、一度お外で寝てみたいなって」
焦る大妖精にも、能天気な笑顔のリリー。彼女の行動基準は気の向くまま、がモットー。ルーミアに近い。
「ご、ごめんね。まさか……」
小悪魔はとりあえず驚かせた事を謝ろうと口を開く。
だがその時、急に風向きが変わって小悪魔が撒いた粉が風に乗って戻って来た。
吹き戻された粉はそのまま、喋る途中の小悪魔の鼻を刺激する。
「誰かが木のう、うえに……ふ、ふぇ、ふえーっくしょぉんっ!!」
「きゃー!!」
大きなくしゃみに、彼女の手にしていた袋の中の粉が盛大に吹き飛び、飛沫と一緒にリリーを直撃した。
「な、なにこ……けほ、けっほ!!やだぁ……けほっ!」
「わわわわわっ!ごめんねリリーちゃん!大丈夫!?」
大慌てで謝罪の言葉を重ね、服に付着した粉をはたき落す小悪魔。大妖精も手伝う。
幸い、風は吹いたままだったのですぐに粉はどこかへ吹き飛び、リリーの粉っぽくなってしまった顔もすぐに元通り。
「ありがとう、もうだいじょぶだよ。でも、今のはなぁに?」
礼を言いつつ、きっちり尋ねてくるリリー。いきなり粉っぽいブツをぶっかけられれば誰だって疑問に思うだろう。
「い、いや!何でもないの。本当にごめんね」
「ふぅん、ならいっか」
しかし小悪魔の言葉にあっさり疑念を解いた。純朴で能天気なのは、彼女の長所だと誰もが思っている。
「ところで、二人ともなにしてたの?お散歩?」
「う、うん!そんな感じ」
「いい天気だしね」
続けざまな質問に慌てて答える。彼女は微塵もそれを疑わずに、ころりと笑顔になった。
「そうだよねぇ、こんなにいい天気だもんね。私もお散歩しながら帰ろっと。それじゃ、またね!」
手を振りながら、ばさばさと落ち葉を踏みしめて桜の木をくぐり、外の並木道へ。
そんな彼女を見送り、白い後姿が見えなくなった所で、二人は揃って安堵の息をつく。
「はぁ、いきなりバレちゃう所だったよ」
「まさか木の上にいるなんてなぁ。でもまあ、次からは確認するクセがついたと思えば」
あくまでポジティブに物事を捉えようとする大妖精に、小悪魔も頷いた。実際、バレてはいないのだからセーフだ。
二人はそのまま、数本に一度の間隔で粉を撒いていく。繰り返す内に粉の量も大体感覚で分かるようになってきた。
染め残しを摘む程度の粉で潰しつつ、小悪魔が時計を取り出して時間を見るともう昼の良い時間。
「結構やったねぇ、どのくらいかな」
「上から見てみよっか」
大妖精の提案に頷き、二人は揃って空へ舞い上がる。
上から見てみると、雑木林の端の方から綺麗にオレンジ、黄色、緑とグラデーションを描いていて、思わず見とれてしまうような景色が広がっていた。
ざわり、と風になびく葉っぱは、まるで波紋が広がるように不可思議な模様を形作り、すぐに消えていく。
遠くを見れば、妖怪の山は緑一色。だが、ここには確かに”秋の景色”が広がっている。
自分達のやった事に、確かな誇りが持てた瞬間だった。
「もうちょっと、がんばろっか!」
「うん!」
顔を見合わせ、笑顔を交わす。二人の姿は再び、下降の後木々に隠れて見えなくなった。
・
・
・
・
二日かけてはずれの雑木林エリアを染め上げ、二人は北上する。
振り返って見やれば、赤から緑まで入り乱れた色取り取りの模様を風になびかせる木々。
敢えて緑色の部分も残したのは正解だったようだ。自然で、どこか趣を感じる。
「次、どの辺にする?」
「とりあえず、湖周辺の木を片付けながらだね」
そんな会話をしながら、目に入った木に粉を撒く。
二人の手つきも、二日前に比べれば大分こなれてきた。撒き過ぎる事も無い。
黄色く染まった木の下で休憩しながら、小悪魔がふと思い付いたように切り出した。
「そういえば、この先……紅魔館を囲んでる小さい森あるじゃない。あそこにさ、イチョウの木がいっぱいあるよね」
「あ、そうそう。いつも銀杏を拾いに来る人で賑わうね」
「その辺り行ってみようよ。ついでにあれば銀杏拾いも」
拾ったら、咲夜に渡して何かしら料理して貰おう。自然と軽やかになる足取りで、紅魔館へ戻るようなルートを取る。
しかし、
「ありゃ、やっぱりダメかぁ」
毎日見ている木々が緑色のままだという事で薄々とは気付いていたが、やはりイチョウも緑色の葉を風に揺らすばかり。
いくつか結実しているのも見受けられるが、黄色にすらなっていないのだから、銀杏が落ちている筈も無く。
「まあいいや、今から黄色くすればその内落ちてくるよ」
「そだね……ん?」
頷き合った所で、小悪魔が傍にあったイチョウの木陰でごそごそと動く黒い影を発見。
そっと背後に回って観察―――しようとしたら、タイミングよくその影がこちらを振り向いた。
「おっ、奇遇だな。お前らもコレ目当てか?」
拾える物はゴミ以外何でも拾う、蒐集家・霧雨魔理沙。ブラウスを長袖にして秋仕様だ。
帽子をちょっと上げ、人懐っこい笑みを浮かべる彼女に揃って頭を下げると、彼女はポンポンと傍らの木の幹を叩いた。
「残念だったな、今年はまだなんにも落ちてないぜ。ていうか、緑色だな。
涼しくなってきたのにおかしいな。秋神の二人、サボってんじゃないのか?」
やれやれ、と肩を竦めて呟く彼女に、大妖精がずいっと身を乗り出した。
「さ、サボってなんかいませんよ!静葉さんが風邪引いちゃったらしくて、それで……」
「おっ、おお。そうなのか、それならしょうがない……にしても大ちゃん、随分とかばうな」
「え?えっと、そのぅ」
思わず声を大きくした自分に気付き、大妖精は焦る。下手に口数を多くすれば、自分達の仕事の事もバレかねない。
穣子が『人目につかないように』と言った以上、あまり人に知られ過ぎるのは良くないだろう。
「そ、そりゃあ、大ちゃんは優しいんですから!事情を知ってたらかばわずにはいられませんよ」
「それもそうだな、悪かったよ」
「あうぅ……わ、分かっていただけたなら……」
小悪魔のフォローの名を借りたベタ褒めに魔理沙も同調し、大妖精は顔を赤くするやら答えるやらで忙しい。
彼女が顔の火照りを冷ました所で、揃って木を見上げる。特徴的な形の葉が、風に揺られて右、左。
ふと、魔理沙が呟いた。
「蹴ったら落ちてこないかな、銀杏」
「まだ緑色ですよ?」
「まぁまぁ、物は試しってね」
大妖精の言葉にも、はははと笑って魔理沙は少し下がる。助走をつけて、地を蹴った。
「おりゃ!」
彼女のショートブーツを履いた右足が、木の幹にクリーンヒット。
ばしーん、と幹を強く叩く音と葉が擦れ合う音が混じり、ゆらぁりと左右に揺れ動くイチョウの木。
その刹那、はらはらと舞う緑色の葉に混じって、ぽとぽと、と何かが落下してきた。
魔理沙の帽子の上にもヒットし、軽い衝撃。彼女は帽子を取って確認。
「お、なんかあった。もう実ってたのかな……」
帽子を脱ぎながら手で探る。と、彼女の手が何かに触れた。
しかし返って来たのは銀杏の固い感触では無く、ぐにゅ、という柔らかい感触。
彼女の手の中にあったのは、体長5cm程はあろうかという大きな毛虫であった。
手の中で、ぐにょり、と身をよじるそれを見た瞬間、全身の毛が逆立つ。
「いっ……いやああああぁぁぁぁぁっ!!」
甲高い悲鳴と共に帽子ごと毛虫を放り投げ、パニック状態のまま尻餅をつく魔理沙。
座った体勢のまま大慌てで木から遠ざかろうとする。ずりずりと尻を引きずってもお構い無し。
触ってしまった右手をスカートでごしごしと拭き、左手は薄い胸に当てて、はぁ、はぁ、と荒い息をついた。
「触っちゃった……さわっちゃったよぉ……やだぁ……」
「ま、魔理沙さん……大丈夫ですか?」
「べっ、別に泣いてなんかないもん!」
「まだ何も言ってませんよ……」
普段の男勝りな口調も忘れ、滲んだ涙をごしごしと袖で拭う。
魔理沙の乙女な一面を見てしまった二人は、念を押されるまでも無く忘れてあげる事にした。
それにもし自分の身に同じ事が降りかかったら、泣かない自信はあまり無い。
「こ、こほん!とにかく、まだ何もないみたいだから私はそろそろ帰るぜ」
わざとらしい咳払いと共に、帽子を拾い上げる魔理沙。スカートと帽子の土埃を払い、空っぽの袋を担ぎ上げる。
「あれ、今日は箒じゃないんですね」
「ん。たまには地上をちゃんと散歩でもしようかと思ってな」
『じゃ、風邪引くなよ』と言い残し、二人に背を向ける魔理沙へ向かって手を振る。
残された名無し組は、とりあえず、と目の前にあるイチョウの木へ”秋”を注ぐ事に。
「こあちゃん、かけすぎじゃない?」
「いいのいいの」
ばっばっ、と大量に粉をかけていく小悪魔。大妖精の心配そうな声にも手を止めない。
というのも、彼女は紅葉を促進させればすぐに銀杏が実ると考えたからだ。
あっと言う間に葉が黄色くなり、見上げれば結実していた身もすっかり黄色。
「よーし、あと一押し!」
「もうやめといた方が……」
うりゃ、と粉を多めに掴んで投げつける小悪魔。大妖精は止めようとしたが、既に遅かった。
はらはらと黄色く染まったイチョウの葉が落ちてきた――― かと思った次の瞬間、どさどさと雨のように葉が降り注いで来たのだ。
「きゃあああ!」
どうやら、熟成をやたらめったら促進された所為で落葉まで一気に持ってかれたらしい。
慌てて頭を庇う二人の頭上に尚も、スコールの如くイチョウの葉と銀杏が落ちてくる。
木の下から何とか逃げ出した辺りでようやく止まった。
「うへぇ、ちょっとやりすぎちゃった」
「半分しか残ってないよ……」
そこには葉のボリュームが半分に減り、足元に黄色い絨毯を敷き詰めたイチョウの木があった。
大量に落ちた葉の中には銀杏も散見される。
「ま、まあ……せっかく落ちたんだし、集めなきゃ」
「うん……それにしても、静葉さんのチカラって本当にすごいなぁ」
「銀杏食べ放題だもんね」
「いや、そうじゃなくて……まあいっか」
持っていた空の袋に銀杏を拾い集める小悪魔。大妖精も手伝う。
集め終えると結構な量。手提げ程の大きさの袋に半分以上も集まった。
「なんか結構取れたし、魔理沙さんにあげよっか。まだ遠く行ってないよね」
「飛んでけば追いつくよ、多分」
頷き合い、魔理沙の去った方向へ羽を展開し飛び立つ二人。
幸い、徒歩という事もあってまだ近くにいたのですぐ追いついた。
「魔理沙さぁーん!」
「ん?どうした~?」
「あの、奥の方の木にはもう銀杏できてたので拾ってきました!取れすぎちゃったので良かったら……」
「お、いいのか?ありがとな」
取れた銀杏の内、半分を移した袋を差し出す。魔理沙はそれを受け取ろうとして、ふとその手が止まった。
「どうしました?」
「……あ~、二人とも、かなり、その……臭う、な」
「え」
顔を見合わせ、小悪魔はブラウスの袖、大妖精はワンピースの胸元辺りを掴んで引っ張り、鼻を当てる。
途端に、うえっと舌を出した。無理も無い、あれだけ大量に落っこちてきた銀杏の直撃を受けたのだから。
通常、銀杏のあの独特の臭いは発生までに多少の日数を要するものだが、紅葉を促進させた影響だろうか。
「女の子がそんな臭いさせてるとモテないぜ」
冗談めかして言う魔理沙。むっとした表情になり、小悪魔は頬を膨らませながら袋をさっと後ろ手に隠した。
「あっ、そういうコト言うならあげません!」
「だぁぁ、悪かった悪かった!秋の香りがする女の子ってステキだと思うぜ!銀杏系女子ってヤツだな」
「心がこもってません!」
「そんなコト言わないで、な、な?本何冊か返すからさぁ」
袋をしっかり抱き締めて離そうとしない小悪魔と、何とか機嫌を直してもらおうと彼女の周りをぐるぐる回る魔理沙。
そんな二人を眺めながら、早くお風呂に入りたいなぁと大妖精はため息をついた。
・
・
・
・
紅魔館周辺の木々をおおよそ終えた頃には、穣子より任務を引き受けてから一週間近く経っていた。
自分達の地道な活動が、少しずつこの幻想郷に”秋”をもたらしている実感が出てきて、それがまた二人のやる気を刺激してくれる。
特に小悪魔は、食事の席なんかで美鈴に『最近、やっと秋っぽくなってきましたね』なんて言われたりしたのだから、俄然張り切った様子だ。
「そろそろ、魔法の森に行ってみない?」
「うん。お仕事のやり方も大分わかってきたし、それにあそこ広いもんね。早めにやらなきゃ」
この日も午前中より集まって、揃って森へ向かう。小悪魔の休暇も残り半分程度なので、少し急ぐ必要もあった。
正直な話、幻想郷全域を残された日数でやり遂げるのは無理がある。だが、少しでも助けになればいい。
後は、回復した静葉が残りをあっという間に終わらせてくれるだろう。
「あれ?あそこにいるのって」
湖のほとりを通って、森の入り口近くまでやって来た二人は、入り口に立つ小さな人影を発見した。
青い服が遠くからでも目立つので、すぐにその正体は分かった。
「チルノちゃーん!」
「あっ、二人ともちょうどいいところに!はやくはやくぅ!」
大妖精が声を掛けると、氷精チルノは満面の笑みで二人を手招く。
少しスピードを上げて彼女の下へ。
「どうしたの?」
「あのね、んとね、リリーがね、すごいの!」
「リリーちゃんがどうかしたの?」
「とにかくリリーがすごいの!きれいなの!今来るから!」
数日前に会ったリリーがどうかしたらしいが、興奮した様子のチルノの言葉は早口で、少々要領を得ない。
だがもう本人が来るというので、彼女の早口を聞きながら待つ。
両手を上げたり、ぱたぱたと振ってみたり、ぴょんと跳ねてみたり。
チルノの多彩なアクションを楽しんでいると、不意に後ろから声が掛かる。
「おまたせ!」
「あっ、リリー!」
「リリーちゃん、どうし……」
一斉に振り返って、二人は絶句。
そこに立っていたのは確かにリリーホワイト。だが、どう見てもホワイトじゃない。
彼女の純白である筈の服が、イエローとオレンジのグラデーデョンという見事な秋仕様。
帽子までしっかりと染まっている。風が吹くと、ひらひらしたスカートがまるで落ち葉のようにはためく。
「えへへ、どうかなぁ」
「何度見てもすごいよ!ね、ね、二人とも!すごいでしょ!」
「う、うん……」
「かわいい、よ。すごく」
(……これって、やっぱり……)
(うん、あの”粉”のせい、だよね……)
ぎこちなく褒めながら、そっと囁き合う。
数日前、くしゃみで思いっきり秋を凝縮した粉をリリーへぶっかけてしまった小悪魔。
静葉の力が、彼女の服へ影響を与えたのは間違い無いだろう。穣子の言っていた『思わぬ所への影響』の一端を垣間見てしまった。
「ねーねー、いつそんな服買ったの?それとも作ったの?」
そんな彼女達の焦りも知らず、チルノはオレンジ色に染まったスカートの裾を引っ張って尋ねる。
二重の意味でちょっと恥ずかしげにスカートを押えながら、リリーは笑った。
「んとね、なんか気が付いたらこうなってたの。これ一着だけ。秋だからかなぁ」
「そうだね、最近涼しいもんね。あたいも、外に干しといたらオレンジになるかな?」
「チルノちゃん、今度ちょっと着てみる?これ」
「いいの!?ありがと!」
きゃいきゃいと騒ぐ妖精二人。
ずっと能天気に、かつ嬉しそうに笑っているリリーを見て、大妖精も小悪魔も心の底から安堵する。
相手がリリーで本当に良かった。もし博麗霊夢辺りだったら、最悪異変を疑われたかも知れない。
何かを疑うどころか、喜んですらいる彼女達なら、大きな騒ぎにはならないだろう。
「リリーちゃん、すごく似合ってるよ!」
「うん、いつも白い服だけどこういうのもいいね。秋の妖精って感じ」
「ホントに?ありがと!あ、あきですよー……なんてね。えへへ」
今度は素直に褒めると、リリーははにかんだ笑みで秋コール。とても貴重な映像だ。
リリーとチルノは、そのまま遊びに行くと言う。『あきですよー!』と声を振り撒きながら去って行く二人に手を振り、大妖精は小悪魔を向いた。
「ま、まあ、多分大丈夫だよ……それより、早くやろ?」
「あはは……そうだね、それじゃ早速……」
苦笑いを浮かべた顔を突き合わせ、二人が仕事に取り掛かろうとしたまさにその時である。
「いたいた、おーい!!」
遠くから呼び声。二人が視線を移すと、湖方面から飛んでくる穣子の姿があった。
「どうしたんですか?」
大妖精が尋ねると、彼女は荒い息の合間でこれだけの言葉を紡いだ。
「はぁ、はぁ……た、大変なの!お姉が!」
途中までは走って来たのだろう、息を切らせながら穣子は二人へ向けて必死に何かを訴えようとする。
「た、大変って……静葉さんに何か!?」
その様子に言い知れぬ不安を覚え、小悪魔は尋ねた。
静葉の容体が急変しただとか、重い身体を引きずってどこかへ行ってしまったとか。
いずれにせよ、穣子の様子はとてもグッドニュースを伝える時のそれでは無い。
「あ、あのね、神様方のお偉いさんが、お姉が全然仕事出来てないコトに気付いたらしくって……」
「それって……幻想郷に秋が訪れてないコトですか?」
「そうなの。それで、神様としての責務を果たしてないっていう名目で、お姉に罰が下るって!
このままじゃお姉は、”秋の神様”から”小春日和の神様”に降格させられちゃうの!!」
「超スポット参戦じゃないですか!?」
小悪魔のツッコミのような大声に、穣子は頷く。
「無責任な神様に、四つしかない内の一つの季節を任せてはおけない、っていう判断なんだってさ……」
「そ、そんな!だって、風邪引いちゃったのが原因なのに!そのことを言えば……」
大妖精がまくし立てるが、今度は首を横に振る穣子。
「私もそれは訴えたわ。だけどほら、お姉の風邪は自業自得だから、情状酌量の余地は薄いって」
「……そんなぁ……」
無慈悲な言葉に、唇を噛む。
「何とか……なんとか、ならないんですか?秋じゃない静葉さんなんて……」
小悪魔の必死な視線を受けて、穣子は口をゆっくり開く。
「……明後日。明後日までに幻想郷の景色を大方秋に出来たら、取り下げてくれるらしいの。
けど、お姉が治るまでには少なくてもあと一週間はかかるし、あなたたちと私だけじゃとても。
これ以上多くの人を巻き込むことは出来ないし、手伝ってもらってる事をあんまりおおっぴらにはできない。
実質、もう避けられないも同然なの。ありがとう、でも……ごめんね」
穏やかな口調の裏に、神様であっても抗えぬ鉄の掟が見え隠れする。
訴えかけるような小悪魔の視線は、やがて伏せられ、表情を失い、首の角度がどんどん落ちていった。
のんびりした空気から一転。急転直下、シリアスで重い現実が突きつけられる。
鬱屈した空気に包まれた森の入り口。吹き抜ける秋風だけが、異様なまでに爽やかだ。
そんな中で、穣子は顔を上げて腹の底から声を出す。
「ごめんね、辛気臭い空気にしちゃって……でも、大丈夫!降格処分も、ずっとじゃないの」
「ずっと、じゃない?罰則期間が決まってるってコトですか?」
小悪魔がようやく顔を上げて尋ねると、彼女は笑って頷いた。
「うん、十年って。罰則にしては、かなり軽いわ。神様にとって十年なんてあっと言う間だから。
それでね……実はこれ、あなたたちのおかげなの」
「へ?」
彼女の言う意味が分からず、大妖精は尋ね返す。
「ほら、あなたたちが多少だけれど秋を撒いてきてくれたじゃない。それが、『責務を果たそうとした形跡はある』として認められてね。
それで、軽率な行動があったにせよ精神的には神様として大丈夫ってコトで、ここまで罰が軽くなったの。何にせよ体調不良っていう理由もあるしね。
これが無かったら、百年とか……最悪、問答無用で資格を剥奪されてたかも。二人のおかげだよ、本当にありがとう!」
明らかに無理をしているとは言え、その笑顔は場の空気を多少なりとも和らげた。
「そのぉ……お役に立てたのは嬉しいんですけど、でも……」
「いいのいいの!お姉にだっていい薬になったと思うし、それに秋っていう苗字ももしかしたら一時的に変わるかも。
結婚もしないで苗字が変わる経験なんてそうはないよ。お姉は変わったモノ好きだから、案外喜ぶかもね」
小悪魔の言葉に、あははは、と穣子は能天気に笑った。
(………)
だがやはり、二人の表情は晴れなかった。穣子の笑顔は、とても無理をして作られている。
実の姉のプライドをいたく傷つけるような裁定、本当は泣き出したいくらいに悔しい筈なのに。
手伝ってくれた大妖精と小悪魔に、嫌な思いをさせまいと必死に押し隠している。
(だ、大ちゃん……なにか、ない?静葉さんを助ける方法……)
(そうは言っても……明後日までに、幻想郷中に秋をまくなんて……)
ひそひそと小声で対策を講じる。が、正直何も浮かばない。穣子でさえ手を上げたのだ。
妹であり、同じ秋の神様である彼女に出来ない事が、名も無き妖精と悪魔に過ぎない二人にどう出来るというのか。
残されたエリアは、魔法の森に妖怪の山に里周辺、博麗神社にだって行ってない。その上、その他にも木なんていくらでも生えている。
「………」
無言。言葉を発さず、必死に何か手立てを考える二人。
そんな折、不意に一陣の風が吹き渡った。
「きゃ」
強い風に、三人揃ってスカートを押える。リボンや帽子がはためいて、ぱたりと小さく音を立てた。
落ち葉が数枚、かさかさと舞い上がってどこへともなく飛んでいく。
「強い風だなぁ。お姉みたいに風邪引いちゃう前に、ウチに来ない?」
穣子が提案する。このままここに突っ立ていてもしょうがないと、小悪魔は頷く。
だが、大妖精はそれに答える事も忘れて、落ち葉の飛んで行った方向をぼーっと眺めていた。
「どしたの?大ちゃん」
小悪魔が肩をちょんちょんとつつく。と、それに呼応したかのように、彼女はゆっくりと振り向いた。
「――― わたし……わたしに、考えがあります。一つだけ。明後日までに、幻想郷中に”秋を届ける”方法が……」
・
・
・
「え」
全く同時に、一文字で表せる呟きが漏れた。
小悪魔が、今しがたつついたばかりの肩を思わず掴んで尋ねた。
「だ、大ちゃん……本当なの?」
「……うん。協力してくれる人が、こあちゃん以外で三人だけいるんだけど……」
大妖精の眼が、それが嘘で無い事を何よりも雄弁に物語っている。
「穣子さん、どうしますか?いらなければ、忘れますが……」
彼女は、穣子に判断を仰いだ。その胸中にあるプロジェクトは、かなり大がかりだ。当事者に決めてもらうべきだと考えたのだ。
一度はいい薬になる、などと茶化した穣子は、真っ直ぐに大妖精の目を見据えた。
「……信じて、いい?」
「正直、上手くいくかなんてわかりません。けど、可能性はあると思いますし、できうる限りの努力はします」
「大ちゃん……私ね。私……お姉がバカにされるのだけは、絶対にいやなの」
――― それが、答えだった。
大妖精ははっきりと頷き、改めて一同を見渡す。その顔には、ありありと緊張の色が浮かんでいる。
大を冠する妖精の小さなハートは、もうずっと高鳴りっぱなしだ。人に指図をするなんて、全然慣れていない。
考えがある、と呟いた時の重みのある雰囲気はもうどこかへ吹き飛んではいたが、彼女は深く呼吸しながら口を開いた。
「え、ええっとぉ。三人協力してくれる人が必要って言ったよね。最初は、穣子さんです」
「うん、何でも言って」
「と言っても、穣子さんの能力というよりは……ごめんなさい、人手の関係なんです」
「構わないわ。むしろ私が手伝わなきゃ、申し訳が立たないよ」
どん、と胸を叩く穣子に頭を下げ、大妖精は続けた。
「あとの二人は、わたしが呼んできます。で、こあちゃんと穣子さんは……その、木の葉をいっぱい集めてほしいんです」
「葉っぱ?」
またしても意外な単語が飛び出し、小悪魔は首を傾げた。
「うん。落ち葉でも、色がついてても、何でもいいから。とにかく、ものすごくたくさんの葉っぱを集めてほしいの。明日までに」
「分かったわ、任せて。小悪魔ちゃん、魔法の森なら年中落ち葉が大量だから量は大丈夫だと思うよ。
足りなきゃ妖怪の山にだって落ちてるから心配しないで。頑張って集めましょ」
「は、はい!大ちゃん、どれくらいいる?」
「その、できるだけ。多ければ多いほど、うまくいくと思います」
「りょーかい!」
びしっ、と敬礼を返す小悪魔。穣子もそれに倣ったのがちょっぴりおかしくて、三人の間にようやく笑い声が戻った。
そして彼女達は動き出す。一人の神様の威厳を守る為に。
小悪魔と穣子はひたすら落ち葉を集め、大妖精は一路、妖怪の山へ―――。
・
・
・
・
・
「……うひゃあ」
翌日正午、湖のほとり。うず高く積まれた落ち葉の山を前に、小悪魔は思わず呟いていた。
「我ながら、随分と集めましたねぇ」
「少し風で飛んじゃったけど、九割以上残ってるし大丈夫だとは思うけど……」
小悪魔の背丈よりも軽く見積もって三倍以上、それでいて横幅は彼女が十人集まって『前へならえ』しても届かないくらいの、落ち葉の山。
幸いこの日は風の殆ど無い秋晴れ。軽い落ち葉の山も、殆どその体積を削らぬままそこに鎮座している。
「何袋分でしたっけ?」
「百から先は覚えてないわ……」
年中落ち葉の積もる魔法の森や妖怪の山で葉を集め、風でどこかへ飛ばぬよう大きな袋に詰める。
その作業を碌に眠らず繰り返し、この日の集合時間に合わせて開封したのだ。
結果、湖のほとりに出来た巨大な枯れ草色の山。所々には緑や黄色も混ざっていて、いいアクセントになっている。
「おまたせしました!ってすごい集めましたね……」
「大ちゃん、どうかな?」
その時、大妖精がやって来てまずはその落ち葉の山に目を丸くする。
続いて穣子の言葉に、彼女は笑って頷いた。
「はい、これだけあればきっと足りると思います」
「よかったぁ。大変だったけど、頑張った甲斐はあったよ」
小悪魔も満足げだ。しかし、これはあくまで下準備。
大妖精が何を思ってこれだけの落ち葉を集めさせたのか、何も聞いていない。
伊達や酔狂で親友達にこんな重労働を強いるような人物では無い事は、小悪魔も穣子もよくよく知っている。
「で、これだけの葉っぱを何に使うの?あと、もう二人は?」
「うん、順番にいこう。まだ秋を届けてない場所って、魔法の森に人里の辺りに、妖怪の山だってそうだし、いっぱいありすぎるよね。
普通にやったんじゃ静葉さん以外には絶対間に合わないよ。だから考えたの……穣子さん」
「何かしら?」
小悪魔の質問に答える途中で、大妖精は穣子にこんな事を尋ねる。
「あの、明日までに秋にしなきゃいけない場所って、幻想郷の隅から隅までですか?」
「ううん、私もそれはいくら何でも無理だって言ったら、最低限人目につく場所だけでいいって。
だからやるなら、今大ちゃんが言った森や里、山の辺りとか博麗神社とか、そういうトコだけでいいと思うよ。
まあそれでも普通にやったんじゃ、到底不可能ってトコロは変わらないんだけど……」
「よかった、成功率がグンと上がりました。流石に隅から隅までは届かない気もしますから……」
「とどかない?」
大妖精の安堵の呟きに混じっていたその妙な一言に、小悪魔が更なる質問をぶつけようとしたその時。
「あっ、きたきた!こっちです!」
遠くに見えた二つの人影。大妖精が顔を上げ、大きく手を振って合図する。
飛来する人影の内、片方が先に目の前までやってきて、落ち葉を吹き飛ばさぬようそっと地面に下りる。
「遠くからでも分かりましたよ、こんなにでっかいシンボルがありますからね。
これだけでも割といいネタになりそうですが……大妖精さん」
「はい、よろしくお願いします」
「お待たせしましたぁ。ふぅ、早いですよぉ」
「あやや、これは失礼。でも急を要するお話との事ですからね」
鴉天狗・射命丸文。
現人神・東風谷早苗。
大妖精が助っ人に呼んだのは、この二人であった。
「で、で。お手伝いするのはいいんですが、お話の方も……」
「私も八坂様の信仰を集める助けになる、と聞いて来たんですが……」
「はい、それもきっと大丈夫です」
「ちょ、ちょっと大ちゃん!」
全く話の見えない小悪魔が、大妖精の肩を揺さぶった。
「私、ちんぷんかんぷんだよ。文さんと早苗さんを呼んだのはどうして?それに、なんか約束してるみたいだし……」
「うん。どうしてもこの二人の力を借りないとムリなの。でも、いきなりの頼みだからどうしても迷惑がかかっちゃうよ。
だからわたし、取引したんだ。文さんにはスクープの密着取材、早苗さんには守矢神社の信仰を集める助けをするって」
「えぇっ!?それって、大ちゃん一人でやるの!?だったら私も手伝うよ!それに、スクープなんてそうそう……」
大妖精の驚きの発言に、焦りの色をありありと顔に浮かべる小悪魔。
だが―――
「だいじょぶだいじょぶ。わたしを信じてよ、こあちゃん」
彼女の『ねっ?』という小首を傾げながらの笑みで、それ以上の追求をやめた。
その眩しい笑顔でどきり、と跳ねた心臓を落ち着けている間に、大妖精は何かをがさごそと用意。
「これこれ。ほら、こあちゃんも手伝って」
はい、と差し出されたのは、先日まであちこちに持って歩いた、秋の素が詰まった袋。
未だ紅潮しっぱなしの頬のまま、小悪魔はそれを受け取る。
「なにするの?」
「これをさ、集めてもらった落ち葉にいっぱいかけるの」
「落ち葉に?」
怪訝そうな小悪魔の問いに頷きながら、大妖精は落ち葉の山に向かって粉を投げつけ始めていた。
ばさばさ、ばらばら、と音がして、粉がうっすらと落ち葉の表面に積もり、やがて溶けるように消えていく。
木に撒くのと違い、何度も何度も執拗に粉をかけていく内に、目の前の光景に明確な変化が起こった。
「あっ!」
思わず声を上げたのは、小悪魔だけでは無かった。ぼんやり見ていた残りの一同もだ。
茶色だったり黄色だったり、な落ち葉が、みるみる内に見るも鮮やかなオレンジ色へと変わっていったのだ。
それは見事な紅葉というに他ならず、大妖精は次々と落ち葉を美しい紅葉色に染め上げていく。
「わぁ、キレイですねぇ。なんだかステキなお仕事の予感です」
「焼き芋したくなりますね、ちょうど適任者もいますし」
「わ、私も手伝うよ!」
思わずため息をつきながら、早苗が呟く。少々違ったベクトルながら文もそれに同調した。
小悪魔も慌てて手伝い始めて十分後。袋の中の粉を殆ど使い切る勢いで撒き続けた結果、あれ程の枯れ草色の山は隅から隅までオレンジ色。
「うん、これくらいで大丈夫。こあちゃん、ありがとね」
「いいよぉそんな。それより……」
「分かってるよ、説明だね」
まるで遠足前夜の幼子のような表情でせがむ小悪魔に、大妖精は笑って頷いた。それに説明を求めるのは穣子も文も早苗も同じ。
改めて彼女は一同の顔を見回して、口を開いた。
「さっきも言いましたけれど、普通にやったんじゃ一日でこの幻想郷のあちこちに秋を届けるなんて無理です。
それでわたしが考えたのは……秋が広がっていってくれる方法です」
「広がっていく……もしかして、この二人を呼んだのって」
「あ、分かります?」
何かに感づいた様子の穣子に笑顔を向け、大妖精は続けた。
「わたしは……落ち葉と風に乗せて、幻想郷に秋を届けたいと思います」
・
・
・
「……落ち葉と、風……」
小悪魔の呟きを広い、大妖精は頷く。
「うん。歩いて撒いたんじゃとても間に合わないけど、風に乗せれば遠くまで早く届くよ。
それに、粉のまんまだと拡散しすぎちゃって上手くいかないかも知れないし。だから落ち葉に撒いて、それを飛ばすの。
そうすれば安定して届くし、何よりもキレイじゃない?」
「……そっかぁ……大ちゃん、そこまで考えてたんだ。すごいよ!」
彼女の計画を聞き、小悪魔はどこか興奮した面持ちだ。
続き、と言わんばかりに穣子も口を開く。
「だけど、少量じゃ幻想郷のあちこちまで届かない。かと言って、多くすればちょっとやそっとの風じゃ飛ばない。
……だから、この二人を呼んだのね?」
「その通りです。風を操る文さんと、神風を起こせる早苗さん。これ以上の助っ人はいませんから」
「……あやや?ごめんなさい、ちょっぴりお話が見えないのですが」
「私も……その、良かったら説明して頂けると助かります」
穣子は感心した様子だが、当の助っ人達はポカン顔。どうやら、詳しい説明はまだのようだ。
そこで、三人が代わる代わるに二人へ事情説明。静葉の事、手伝いの事、期限の事―――
「今まで説明もしないでごめんなさい。だけどこうなった以上、どうしてもあなたたちの助けが必要なの。
何でもお礼はするから、どうか引き受けてもらえないかしら……?」
名無し二人にしたように、頭を下げる穣子。大妖精に小悪魔もそれに倣う。
いきなり揃って頭を下げられて、少々慌てた様子で早苗は首を振った。
「そんな、そこまで言って頂かなくても。昨日の大妖精さんの様子でかなり困っているというのは気付いてはいましたが……。
詳しい事情を聞いたら、断るわけにはいきません。同じ神様仲間を見捨てたりなんかしたら、風祝失格です!」
「ほ、本当に?」
顔を上げる穣子に、文もうんうんと頷く。
「報道とは信頼第一のお仕事です。ここまで聞いた上で断ったりなんかしたら、新聞記者の沽券に関わります。
取材内容としても興味ありますし、それに、その……まあ、そういう気分なんで。ちゃんとお手伝いしましょう」
「よかった……本当にありがとう。心から感謝するわ」
二人に肯定的な返事を貰い、穣子は久しぶりに満面の笑みを浮かべた。姉が心配で碌に寝てもいない彼女の心に、久方ぶりの光が差し込む瞬間。
そんな彼女と文の顔を交互に見て、早苗はニヤニヤとした顔になりつつ文の肩をつつく。
「文さん、素直に助けてあげますって言えばいいのに。流行のツンデレってやつですか?」
「な、なにを仰います。私はただ、自由報道の徒として見過ごせない場面に遭遇したに過ぎないワケで……」
「はいはいはい、続きは後にしませんか?」
頬を染める文と早苗のやり取りに、小悪魔が割って入った。お喋りは、仕事が片付いてからでいいだろう。
頷き合い、二人は穣子達に向き直る。
「それでは、お任せ下さい。あ、少し離れて下さいね」
「湖を中心に、八方向へ落ち葉を拡散させます。広がっていくのを計算に入れれば、確実に全方向へ落ち葉が広がるでしょう」
「そのあとは……大妖精さんのアイディアと小悪魔さんの頑張り、静葉さんの力に……穣子さんの想い、次第です」
風をも味方につける最速の鴉天狗と、風雷を呼び寄せる現人神の顔がそこにあった。
二人は落ち葉の山を挟むように両側へそれぞれ立ち、呼吸を整える。
「いついきますか?」
「いつでも。こちとら最速です、どのタイミングにだって合わせられますよ」
「角度とかは」
「その時その時で大丈夫でしょう、私とあなたなら」
「そうですね」
短い会話の中に相応の責任感、そして確かな自信が見える。
どっからか文は葉団扇を取り出し、早苗もいつもの棒を出して準備万端。
余裕すら伺える当人達の様子とは裏腹に、見守る三人の表情を倒れそうな程の緊張が覆い隠している。
「うまく、いくよね……?」
ぎゅ、と指を組み、祈りながら呟いたのは小悪魔。
とても小さな声だったのに、それをきっちりと耳で拾った早苗は、彼女達の方向を向いた。
「あ、そうそう。マッチポンプのようかも知れませんけど、いいコトを教えてあげますね」
「?」
不意に声を掛けられて驚いた小悪魔が顔を上げる。
早苗は三人の顔をゆっくり見渡し、最後に穣子の顔を見てから、ふっと笑った。
「信じる者は、救われるんですよ」
言い終わると同時に、彼女は腕を振り上げた。
一拍のズレも無く、文も葉団扇を手にした腕をサイドスローのように後ろへ引く。
合図なんてしない。それでも、二人のタイミングは完璧に一致していた。
「――― はぁっ!!」
気合い一閃、腕が振り抜かれる。
音の無い爆音が巻き起こり、オレンジ色の壁が爆散し、飛び散って、吹き飛んで、彼女達の視界を覆い尽くす―――
・
・
・
・
同時刻、人間の里。
めっきり過ごしやすい気候になった事で、大通りも人の数が多い。
買い物袋を抱えたまま、すぐ後ろに人がいない事を確認してから、上白沢慧音はふと空を見上げる。
「いわし雲か……もうすっかり秋かな」
小さく細長い雲が群れを作るその光景を見て呟くと、隣を歩いていた藤原妹紅はくすくすと笑う。
彼女は慧音の抱えていた買い物袋に手を突っ込み、今しがた果物屋で買ってきたばかりの柿を一つ手に取った。
「秋ならここに来てるよ、慧音」
茶化すようにもう一度笑い、彼女は口を目いっぱい開けて、皮も剥かずに柿にかぶりつく。とても甘い。
「行儀悪いぞ、妹紅……まあいいか、花より団子は人の常だ。私だって食べたいのに」
「慧音は袋持ってるから今はムリだよ、帰ってからね」
「理不尽だな」
子供のように唇を尖らせる慧音。妹紅はわざとそっぽを向いた。
すると、顔を向けた先には青々とした葉を風に躍らせる木。街路樹のような役割のそれを見て、首を傾げた。
「そういえば、今年はやけに紅葉遅いなぁ」
「その木だけ……でも無さそうだな。山の方もまだ青い木が目立つ」
「ほら、あれも」
妹紅がもう少し先に生えている木を指差そうとしたその時。
突然、耳に飛び込んできた遠くからの悲鳴。というより、驚きの声。
「何だ?」
ゆっくりと振り返る慧音。妹紅もそれに倣った。
そして二人は、我が目を疑う事となる。
――― 無数の紅葉が、風に乗って舞い、眼前に迫ってくるその光景に。
「うわぁっ?!」
どちらが声を上げたのかは、どちらにも分からなかった。
強い風の衝撃波が耳を叩いたと思った瞬間、あっと言う間に二人の姿は――― 否、通りにいた人々の姿は皆、オレンジ色の風に覆われてしまった。
咄嗟に腕と買い物袋で顔を庇いながら、何とか薄目を開けて前を見る。
(なんだ、これ……)
驚きは勿論あったが、ぼんやりと見とれてしまう自分がいた。
赤く染まった木の葉達が、まるで吹雪のように吹き抜けていく。
舞い散るなんてものじゃない、吹きすさぶ紅葉。長く生きてきた彼女でも、一度も見た事が無い光景。
目が乾いてきたので、再び目を閉じて暫くすると、風は徐々に収まっていく。
耳を叩くノイズも消え失せて、ようやく平穏が戻ったようだと二人は腕を解いた。
「……収まったか。何だったんだろうな、今のは……こんなに大量の紅葉、一体どこから……?」
目を開けて最初に飛び込んできたのは、大通りに散乱するオレンジ色の落ち葉。
あれだけの数が飛んできたにしては少ないが、あの強い風が殆どを持って行ってしまったのだろう。
長い髪の毛に引っかかっていた落ち葉を指で取りながら、慧音が地面を茫然と眺めていると、
「け、けーね!けーね!あれ見て!!」
急にぐいぐいとスカートを引っ張られ、若干体勢を崩した。
随分と慌てた妹紅の声に反し、彼女はあくまで冷静且つゆっくりと妹紅に向き直った―――
「どうした、そんなに慌て……」
――― つもりだった。次の瞬間には、彼女の表情もまた、”驚愕”そのものへ変わってしまったのだ。
先程、そう、ほんのついさっき。『やけに紅葉が遅い』と話題にしたばかりの広葉樹。
――― 青かった筈の木の葉は、見るも鮮やかな紅葉へと変わっていた。
「なっ……」
目に落ち葉でも入ったか、などと慧音は柄にも無く冷静さを欠いた、突拍子も無い事を考えてしまった。
まるでフィルターをかけたかのように、緑色の葉は全てオレンジ色。久しく見ていなかった秋の色。
妹紅が指差そうとした、もう少し遠くの木も、その先の木も――― 里で根を張る木が、見る限り全て。
「妹紅、私は夢でも見ているのか?」
「明晰夢ってやつ?慧音、ちょっと空でも飛んでみてよ」
「最初から飛べる」
茫然と気の無い会話。その視界の中で、人々もまたその異変に気付きつつあった。
ざわめきが生まれ、広がり、やがてそれらが全て、感嘆のため息へと変わるのに時間はいらなかった。
また風が吹き、生まれたての紅葉をさわさわと揺らしていくその光景は、目を奪われるほどに美しい。
「……秋、か」
「……秋、だね」
短い会話。先の出来事なんてもう忘れたかのように、二人はまた歩き出した。
・
・
・
――― 同時刻。湖より拡散した大量の紅葉を乗せた突風は、瞬く間に幻想郷のあちこちへと散っていった。
通った後に、秋色の軌跡を残して。
「うわぁ、なんじゃこりゃあ!川が落ち葉だらけだ」
「それより後ろ!なんか全部染まっちゃったよ?」
「おぅわぁー!!」
「にとり、釣竿落っことしたよ!」
――― 川で釣りに興じていた、河童と厄神も。
「なにこれぇ!」
「風でいっぱい葉っぱが飛んできたと思ったら……」
「きっとリリーの力だよ!秋の妖精になったからだ!」
「あきですよー!」
「あきですよー!」
――― 森を駆けていた、元気な妖怪や妖精達も。
「うっはぁー……見事な紅葉ですこと」
「これ異変じゃない?行かないの、霊夢」
「面倒だしキレイだからいい」
「平和な証拠ね。ほら上海、とっても綺麗よ」
――― 縁側でのんびりしていた、巫女と人形師も。
「あらあら、随分と素敵な天気ね」
「そうですね。たまにはこんな異常気象も悪くない」
「あれ全部、もみじ饅頭だったらいいのに。らーん、とってきてぇ」
「もう一回吹かないかな、さっきの風。紫様に浴びせて、せめて橙くらいには利口になって欲しいものだ」
「不敬罪よふけいざーい。おやつ抜くわよ、藍」
「私が買ってきてるんですけど」
――― 少し早い炬燵の中から庭を眺める、隙間と九尾も。
「すっごい風でしたねぇ」
「風だけじゃないわ。ほら、山の方」
「うわ、全部真っ赤!遅れてた秋を全部持ってきたって感じですね」
「それより紅茶に落ち葉が……まあ、風流かしら」
「ケーキにもくっついちゃってますね。もったいないから私めが全て処理しましょう」
「だーめ」
「むきゅー」
「特許料取るわよ」
――― 折り畳みテーブルで屋外ティータイム中の、司書と門番も。
「なんか急に黄色くってあだだだだ!銀杏落ちてきた!!痛い痛いいたいってば!!」
――― 懲りずに採取中の銀杏系魔法使いも。
皆が目を丸くした。皆が呆気にとられた。皆が見とれた。
――― この日。突如駆け抜けた紅葉の嵐が、一瞬にして幻想郷を秋色に染め上げた。
・
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・
「はぁ、はぁ」
息を切らし、大妖精はひたすらに湖の脇を滑空していく。
その細い腕に、風呂敷に包まれた重箱をしっかりと抱えて。
数分のフライトを経て、彼女が辿り着いたのは博麗神社。
石段を飛び越えると、そこには既に大勢の見知った人妖が詰めかけていた。
一様に石畳の上にシートを引き、持ち寄った弁当や酒類を広げ、騒いでいる。
先日の騒動で一瞬の内に秋が訪れた幻想郷。驚きはしたが、せっかく綺麗な景色なのだからとここ博麗神社で、紅葉狩りという名の宴会が催されていた。
順応が早いのは幻想郷住人の長所。当然のように呼ばれた大妖精も、少々遅れて到着したという訳だ。
「えっとぉ……」
「あっ、こっちこっち!」
「わぁい、大ちゃんが来たぁ!」
歓声と雑談がない交ぜになった雑踏の中から、明確に自らを呼ぶ声。
そちらを向こうとしたら、不意に群れの中から飛び出してきた小悪魔に腕を取られ、ぐいぐいと強く引っ張られる。
「わぁっ、とと……こあちゃん、びっくりしたよ」
「ごめんごめん、大ちゃん来たのが嬉しくって。ほらこっち」
思わずよろけた大妖精に陳謝し、それでも小悪魔は彼女の手を離さず引いていく。
シートの隙間を縫って歩いていくと、丁度良い楓の木の下に陣取った穣子と静葉の姿があった。
木を挟んだ彼女達の後ろの空間には何やら多数のダンボールが置かれている。
きっと自宅で売っている菓子類を、参加者にせがまれて持ってきたのだろう。
「大ちゃん、こないだは本当にありがとう!」
「妹が……というより、私が随分とお世話になってしまったわね。ごめんなさい、それにありがとう」
にこやかに笑う穣子と、恥ずかしそうに頬を染める静葉。
いえいえそんな、と首を振りながら、とりあえず大妖精は小悪魔と共に腰を落ち着ける。
「さて、まずは……」
こほん、と咳払いした静葉が不意に切り出したかと思うと、がばっと土下座。
「お三方っ!ほんとーにっ!申し訳ありませんでしたッ!!」
「わぁ!そ、そんな。全然気にしてなんかいませんよ」
「そうですよ、結構楽しかったし……私たちじゃ絶対手に入らない、神様のチカラをちょっとだけ操れたんですから」
「ね、貴重な体験だよね」
『ねー!』と息ピッタリに笑い合う二人を、顔を上げた静葉が少々驚いたように見つめる。
そんな彼女の耳元で、そっと穣子が囁いた。
「ほらね、いい子たちでしょ?この子たちに任せて、本当によかったわ」
くすくすと笑う穣子。一拍置いて、静葉もようやく見せた笑みと共に頷いた。
「……そうね。あなたたちが許してくれるって言うなら、このお話はここまでにしましょう。辛気臭いのはナシね」
「あっ、お姉!私はまだ許してないよ!しばらくの間、店番はお姉がやってよね!」
「そんなぁ、私病み上がりなのに!姉を労わる気持ちはどこにいったのよ!」
「自業自得を辞書で引きなさい、このバカお姉!!」
「バカって言った方がバカなのよこのイモリ子!」
「誰が両生類よ!!」
きゃいきゃいと仲良く喧嘩する姉妹の様子に、名無し二人やその周りの者達も揃って笑いに包まれる。
その笑い声が大分大きく広がった所でようやく気付き、とても神様に見えない姉妹は揃って顔を真っ赤にして詫びた。
「まあまあ、とっても楽しいじゃないですか」
「宴会にはもってこいですね」
「日常是宴会芸……いっそ叱ってよぉ」
はぁ、とため息をつく穣子。そんな彼女にまた笑いながら、大妖精は持ってきた重箱を紐解く。
「あっ、大ちゃんもお弁当作って来たの?すごい!」
「ふ、普通だよぉ。こあちゃんも、好きなだけ食べていいからね。口に合うか分かんないけど……」
「おいしいに決まってるよ!じゃ、いただき……」
「おっ、うまそうだな。もーらいっ!」
蓋を開けた瞬間、大妖精の背後から伸びてきた手がしっかりとおにぎりを一つ掴んで持ち去って行った。
「魔理沙、行儀悪い!窃盗イクナイ!先に私のお弁当食べなさいよ!」
「あちこち食べた方が楽しいじゃんか……うん、うまい」
「ひどい、私が最初に大ちゃんのお弁当食べたかったのに!」
「あたいも!」
アリスに叱られてもどこ吹く風で、戦利品のおにぎりを頬張ってご満悦の銀杏系魔法使い。
褒められて嬉しいやら、唇を尖らせる小悪魔に申し訳無いやらで感情があちこちへ浮つき、苦笑いに落ち着いた大妖精。
外野から子供組やその他知り合いも寄ってきて、次々と大妖精謹製の弁当を皿に乗せていく。
宴会の度に何かしら料理をする”料理班”である彼女の弁当故、待っていた者も多かったようだ。
「結構減っちゃった……」
「まだあるからだいじょぶだよ」
「そだね……ん~!やっぱりおいしい!」
「私ももらっていい?」
残念そうだった小悪魔も、卵焼きを一口食べてたちまち笑顔。穣子や静葉も箸を伸ばす。
そんな感じで楽しく騒がしく進んでいく宴会であったが、その中でふと小悪魔が大妖精に尋ねた。
「ねぇ大ちゃん、こないだのコトなんだけど」
「なぁに?」
「ほら、文さんと早苗さんへのお礼。あれどうなったの?私も手伝うから言ってよ」
風で目を塞がれ、次に開いたその時には一面の赤い景色。秋神のプライドにも則ったこの方法。
その作戦の核であった風を起こした二人。彼女達がいなければ、今こうして静葉が一緒に宴会で笑っている事は無かっただろう。
彼女達と取引のような約束をして、協力を得た筈。それを心配しての質問だったのだが、あっけらかんと大妖精は笑った。
「ああ、それならもう果たしたよ。大丈夫!」
「え?いつの間に……一人で?」
「私も気になるなぁ。何したの?」
驚く小悪魔。穣子も気になる様子で尋ねてくる。
興味津々な二人を見て、ふふふ、とちょっぴり得意気に笑う大妖精は、ポケットから何かを取り出した。
「それは?」
「新聞だよ、文さんの」
「ああ、文々。新聞。確か、それに乗せられるスクープの取材って……」
穣子がそこまで言いかけたその時、二人は『あっ』と同時に呟いた。
「気付いたみたいだね、さすが!はいこれ」
ぱらり、と大妖精は新聞を開き、一面記事を開いた。新聞名の下には”号外”の文字。
そこには、”秋の奇跡!紅葉色の嵐が幻想郷を染め上げる!”の見出しが躍り、わざわざカラーで目立たせてある。
隣に掲載された大きな写真には、オレンジ色の落ち葉がまるで竜巻のように舞い上がる驚きの光景。
こんな写真が撮れるのは、あの風の発生現場にいた者だけだ。
「これって……」
「うん、わたしが撮ったの!文さんにカメラを借りてね。ちゃんと撮れててよかったよ……。
過去最高レベルの売り上げだったって、文さんも喜んでくれたの」
「そっか……その場にいたどころか、発生させた張本人なのだから、誰よりも早く詳細に記事に出来るってワケね」
今だけは『マッチポンプ』という文字を頭の中の辞書から消そう。
記事を読んでいくと、小悪魔がある文章を見つけた。
「穣子さん、ここ……」
「えっと……ああ、なるほど!」
思わずポン、と手を打った。ニヤリと笑って大妖精は頷く。
「これがもう一つの……ね?」
小悪魔が該当箇所を読み上げる。
「『独自取材の結果、今回の一連の騒動は、紅葉を司る秋の神”秋静葉”と、守矢神社に祀られる神々”八坂神奈子”及び”洩矢諏訪子”両柱のコラボレーションイベントである可能性が濃厚とみられる。
普通に秋にしたのではつまらないと考え、秋の訪れをわざと遅らせつつこのようなサプライズを起こす事で人々を楽しませようとしたのではないだろうか。
紅葉と八坂の神風、そして土着の力。この壮大な神々の暇潰しが、我々に一時の感動をもたらしてくれた事実に感謝するべきだろう―――』」
「そっか……そういうコトだったんだ……」
「これで、早苗さんとの約束も果たしたよ。聞いた話だと、新聞が売れてから、参拝に来るお客さんが一気に増えたんだって」
「すごい!すごいよ大ちゃん!!まるで孔明みたい!!」
目をキラキラ輝かせて、憧れのような熱っぽい視線で小悪魔に褒めちぎられる。
かの有名な軍師にまで準えられ、大妖精は思わず『えへへ』とはにかんだ。
ほんのり頬を染める彼女の様子に、ずっと黙って話を聞いていた静葉が不意に口を開いた。
「あら……あなたの顔にも、秋が来たみたいね」
そう言って、にっこり笑み。小洒落た言い回しが何だか嬉しくて、大妖精は小声で呟いた。
「あきですよー、なんてね……」
しっかり聞こえてたようで、小悪魔が必死に笑いを堪えていた。
・
・
・
夕暮れの時間になっても、宴会の勢いはまるで衰えない。
新聞の売り上げが凄まじかった文はさっきからずっと大喜びで、わざわざ高級な物を買ってきて酒盛りの真っ最中。
彼女の隣で、早苗も信仰大幅アップという事で、神奈子・諏訪子やその他山に住まう仲間も交えて祝杯を挙げている。
あちこちから騒がしく、楽しげな歓声が巻き起こる中で、時々他の者がいるシートへ出掛けたりもしつつ、二人は基本的に秋姉妹の所にいた。
「うにゃぁ……おねぇ、そんにゃトコでねたらカゼひくよぉ……」
静葉が何事も無かった事で、最も安堵したであろう穣子は気が楽になった反動からか酒を呑みまくり、すっかり酔い潰れていた。
むにゃむにゃと寝言でも姉を心配しながら、当の姉である静葉の膝枕で眠っている。
「静葉さん、今日は全然お酒飲まないんですね」
「うん、私は今回のコトでみんな……特に、あなたたちとこの子に迷惑かけちゃったから。少しずつ恩を返さなきゃ。
だから今日は、この子の面倒をちゃんと見てあげようと思って。お料理もあるし、紅葉がきれいだから十分楽しいよ」
本人が寝ている所為か、普段の大人びたものから穣子のような口調に戻って、静葉は愛おしそうに妹の髪をそっと撫でる。
気持ち良さそうに微笑み、安らいだ寝顔を見ながら『どんな夢見てるのよ、もう』と彼女は苦笑い。
笑顔を返し、さて何をしようかと考えつつおにぎりをかじっていたら、不意に後ろから何者かに抱きつかれて驚いた。
「ひゃあ!」
「えへへへ~、大ちゃ~ん!」
いつの間にか飲み物をお茶からワインに変え、こちらもすっかり出来上がった小悪魔だった。
彼女は恥ずかしがる大妖精の横――― ほぼ密着―――にポジションを移す。
「大ちゃん、お酒のまないの?」
「わ、わたしはあんまり飲めないから……ちょっとは飲んだけど」
「えー」
唇を尖らせる小悪魔。自分が酔い潰れたら、小悪魔の世話をする者がいなくなる――― 大妖精は呑まれない意志を固めた。
そんな折、ふと二人の頭の上から、はらはらと一枚の落葉。
すぐ目の前に落ちたので、大妖精がそれを拾い上げる。真っ赤に染まったもみじの葉。
「こあちゃん」
「なぁに?」
「今までさ、秋って勝手になるものだったよね」
「うん」
「でもさ……今年は違うよ」
彼女は微笑みと共に、ふぅ、と息を吹きかける。先端がちょっぴり折れ曲がり、すぐに戻った。
手の中にある小さな紅葉。いつ見ても変わらない、その美しい真っ赤な色。
だけど今年、今手にしたその秋の色には、自分がほんのちょっとだけ関わっている。
それが、とても誇らしく思えた。
「きれいだね」
「そうだね」
見上げると、オレンジ色に染まりゆく空と、真っ赤な紅葉のコントラストが目に焼き付く。
酔って顔を赤くした小悪魔と、頬にご飯粒をくっつけた大妖精。
そんな彼女達の顔でも、まるで絵画の一つのように溶け込ませてくれる、優しいオレンジ。
――― ぼんやり見上げる秋の空に、一番星が瞬いた。
パチュリーさん読書はいつもしてるから、食欲の秋がメインなんですね…。
せっかくなのでスポーツもどうですか?
今年は気温的にも、一気に秋に変わったような感じがしましたが、なるほど裏ではこんな事件があったんですね。
一ヶ月近く待ったかいがあった!
んで、こあちゃんは「あわわ」と。
冒頭の秋姉妹が営む小さなお菓子屋さんをイメージした段階で、約束手形は振り出された。
秋を振り撒くという着想、これで決済完了。この作品の面白さは最後まで保証されていた。
大こあをはじめとした作品タグの面々に問題は無い。一人微妙なお方がいるけどそれぞれ大活躍でしたものね。
だがしかし。一つ大事なことを忘れちゃいませんか? どえりゃー可愛い生き物がいたじゃありませんか。
『リリー 秋ver』
このワードがタグに含まれていないのが、本作品における唯一にして最大の問題点だと個人的には思うのです。
この時期は結構山道をドライブする機会があるのですが、お山を彩る広葉樹の紅と黄、針葉樹の緑が織り成す
パッチワークは息を呑むほど美しい。
この物語はそれと同等の美しさと優しさを備えている。
幽香さんのコメントもなかなか粋だなー。普段長いのはあまり読まないけど最後まで一気に読んでしまいました。
しかしよかった……リリーが粉を大量に浴びて一気に枯葉(比喩表現)になるのかと思ってたもんだから……
リリー秋verいいな。誰か挿絵をー。あとこのパッチュさんと魔理沙なんか可愛いな。
大ちゃんもこあも可愛かった!
>>「超スポット参戦じゃないですか!?」
こあ、ツッコミのセンスいいなw
秋ですよー!
相変わらずだいこぁクオリティ、楽しませていただきました。
こあと大ちゃんの絡みははじめて読みました。おもしろかったです!
所々に読者をにやけさせる表現や台詞があり、読後感もまたかなり満足という感じです。というかあなたの作品は総じてそういった満足感を得られると断言できます←
あなたの描いた秋、ごちそうさまでした。
秋ですよー♪
PS
この話、四季それぞれを代表する妖精・妖怪・神が全員(レティは地の文で)登場してるもので驚きましたよ…
>>3様
いいセンスだ。 >Akinomoto
運動不足をお嬢様に指摘され、『図書館を歩き回ってるもん!』と苦し紛れな反論をしたパチュリーさんですから……でもポニテとかにしてテニスを頑張るぱっちぇさんも見てみたい。
神様のチカラは結界の向こうまで届くのです。
>>名前が正体不明である程度の能力様
またしても有難う御座います。間が空いても読んで下さる方がいらっしゃるのは最高のモチベーションになります。
でもそれに甘えてしまうのはイクナイので、少しでも投稿ペースを上げられるよう努力して参る所存です。
>>奇声を発する程度の能力様
何気にいつも有難う御座います。作品がいつもいつも長いので、それを『読み応え』という長所に変えられたらなぁと思います。
それには面白くなきゃ。文章力が並なので、せめてお話の内容が素敵なモノであれるよう頑張ります。
>>コチドリ様
おやお久しぶりです。再び読んで頂けますとは。
春の妖精を秋色に染めちゃうなどとは我ながら随分思い切ったなぁとは思います。レアキャラ。
幻想郷の、延いては日本の四季の美しさをいっぱい伝えられるお話が書けるようになりたい。この作品でほんの少しでも、紅葉が織りなす野山の錦模様を思い浮かべて頂けたのであれば大成功です。
大「はわわ」
こぁ「あわわ」
>>ぺ・四潤様
いつしかに引き続きまして、有難う御座います。再び自分の作品を読んで頂けて本当に感謝です。
大ちゃんが思いっきりイタズラ染みた策士っぷりを披露するお話、いつか書いてやろうと思っていて今回ようやく叶えられました。
『誰もがわくわくする不思議な事件』と『みんなが幸せになれる解決法』は自分の大きなテーマです。
しっかし枯葉……その発想は無かった。そのネタ頂きます。
>>とーなす様
これまた以前に引き続きまして有難う御座います。コメント欄に見知ったお名前が多くて本当に嬉しい。
最近は大分涼しくなって、丁度物語的にもいい感じに。秋神様ありがとう!
こぁは言葉遣いのセンスが良いイメージがあります。司書見習いやってるからネ。
>>12様
気付けばすっかり涼しく。意図せずタイムリーなお話になって無性に満足です。
ホワイト、ブラックの次はリリーオレンジとか出ないかな。そのまま戦隊モノまで。
>>14様
大こぁ、すっかりお馴染みにして頂けたようで嬉しいです。多分、いや確実にこれからも自分の主力コンビです。
自分がこのコンビの二次創作を引っ張ってく、くらいの気概で頑張っていきます。もっとみんな書こうよ名無しちゃん。
>>20様
これからのトレンドは秋の香りがする女の子。そこで銀杏をチョイスするそのセンスに痺れる憧れるぅ。
名無しコンビと言えば自分と言って頂けるくらいの書き手になれたらなぁ。
>>33様
はい、2chAA全盛期世代です。勿論FLASH世代です。(・∀・)ジサクジエンデシタ!とか懐かしい。
自分の中では完全に定番ですが、世間ではまだまだマイナーなのが悲しい所。少しでも多くの方にこのコンビの良さを知って頂けるよう頑張ります。
>>34様
大ちゃんもこぁも可愛いからね!二人が一緒になればそれはもう素晴らしいコンビになれますとも。
自分の仕事は、その魅力を出来る限り損なわずに物語へと昇華させる事。まだまだ未熟ですが、名無しちゃんの為ならがんばるよ!('(゚∀゚∩
>>キャリー様
いつも有難う御座います。リピーターの多さに嬉し泣き。
やはりせっかく読んで頂けたのであれば、満足して頂きたい、笑顔でブラウザを閉じて頂きたいと願います。
例え少ない人数でも、読んだ方が皆『素敵なお話だった』と言って下さる、そんなお話を書いていきたいなァ。
四季オールスターは完全に無意識でした。これも秋の神様が起こした奇跡か。