「ねぇ、マイ」
「……何、ユキ?」
私はベッドに横たわる相棒に名前を呼ばれ、顔を向けた。
相棒ことユキは熱っぽい顔で私を見上げる。
ユキは季節の変わり目の気候の影響で体調を崩し、今日は朝から寝込んでいた。
「そこの帽子、取ってくれる?」
「……はい」
床に脱ぎ捨てられた衣類と一緒に置かれた帽子を拾い上げ、ユキに手渡す。
「やっぱりこいつがあると落ち着くよ、あはは……」
枕元に帽子を起き、ユキは苦しそうに笑う。
「……少し寝て」
「そうだね……そうするよ」
ユキは基本的に私より体が弱い。
私も特に病気に強い訳では無いので、ユキがウィルスを持ってれば大抵の場合私も掛かってしまうが、私からユキに移す事はほとんど無いはずだ。
というかユキは私達の住まい、このパンデモニウム内で流行りの病気や風邪などに一番始めにかかることが多い。
「あはは、馬鹿は風邪引かないって言うんだけどね……」
「……馬鹿」
軽口を叩く暇があったら早く寝ろと言ってるのに。
ほんと、馬鹿。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、ユキはそれ以上喋らずにベッドの中で丸くうずくまる。
しばらく私はそんなユキを何も考えずに眺めていたが、部屋の扉がノックされる音で我に返った。
「……はい」
扉を開けると、お盆を手に持った夢子姉さんが立っていた。
「ユキの調子はどう?」
「……特に変わんない」
「そう……。おかゆ作ったけど、食欲はありそう?」
「あ、大丈夫だよ。ありがとう」
布団の中で上半身だけを起こしたユキは、またしても熱っぽい顔で笑う。
「ならマイ、後はお願いしても良い?」
「……いいですとも」
「何かあったら、すぐに呼んでね?」
私はお盆を受け取り、ユキの隣に腰掛けた。
「マイ、もしかして食べさせてくれるの?」
「……食べさせてほしい?」
「食べさせてほしいなー」
「……なら」
ここは何か対価を要求してみようか。
今度の晩ご飯のおかずとか。
お風呂場で好きなだけ視姦して良い権利とか。
…………脱ぎたてのパンツ、とか?
「……ハァハァ」
「マイ、息が荒いけど大丈夫?」
「……気のせい」
「もしかして私のが移っちゃった!?ご、ごめんね!」
ユキは本当に申し訳なさそうに頭を下げている。
今更こんなことで頭を下げるような間柄でも無いのに。
それに、今回は完全に私が悪いし。
「……違う。私は大丈夫」
「えっ、本当に?」
「……うん、元気」
「良かった……あはは、私のせいかと思ったよー」
心の底から安心したかのようにユキは笑う。
人のことばっかり心配して、自分は二の次にするのはユキの悪い癖。
止めろとは言わないが、もう少し程々にして、自分のことも考えてほしい。
そんな所も、馬鹿みたい。
「……はい」
「ん?」
「……食べさせてあげる」
おかゆを掬ったスプーンをユキへと向ける。ユキは数秒止まった後、にへらっとだらしの無い笑みを浮かべた。
「やっぱり病気の日はマイが優しいね」
「……私はいつも優しい」
「より一層ってことだよ」
「……ならいいけど。はい、あーん」
ユキが「あーん」と口を開け、私はスプーンをそこに伸ばす。
「……おいしい?」
「うん、マイの愛も感じるよ」
「…………」
「そんな露骨に嫌そうな顔しなくても……」
「…………」
「いやいや、そしてその顔を継続しますか」
「…………」
「……ごめんなさい。私が悪かったです」
よくもまあ恥ずかし気も無くあんなことが言えるものだ。
聞いてるこっちが恥ずかしくなってくる。照れ隠ししてしまうくらいには。
「……ユキ」
「ん、何?」
「……馬鹿」
「まぁ……否定はしないよ」
それからたっぷり時間をかけて黙々とユキの口におかゆを運ぶ。
「ごちそうさま」
「……残さず食べた」
「ユキちゃんは好き嫌いが無くて何でもよく食べるからね」
「……私への当てつけか」
「あはは、確かにマイは好き嫌い多いよね」
そうは言うが、茄子とかトマトとか、あれは絶対に人が食べてはいけない色合いだ。
それを無理矢理食べさせるとは……。
悪魔の罠だ。悪魔と言う名の夢子姉さんの。
「……食べなくても死なない」
「そうは言うけどね~……」
「……言うけど?」
「子供っぽいよ?」
「…………」
「あ、ちょっと赤面した」
理屈を何個も並べても、それは所詮言い訳に過ぎない。
分かってる。それは分かってる。
けれど、あの食材達を体が受け付けないのは理屈じゃない。
「……と言う訳」
「マイの地の文に書かれても私読めないからね?」
「……精進なされよ」
「んー……そうしまーす」
ユキは苦笑いしてそう言った後、軽く咳込んだ。
「……ごめん」
「マイのせいじゃないよ。あはは、でもそろそろ一眠りしようかな」
やっぱりユキは何でも私優先で考えてる。
少しくらいわがまま言って私を困らせたって良いのに。私達は、二人で一人なんだから。
馬鹿
ばか、バカ、大馬鹿
……だけど
そんな馬鹿を放っておけずに、ずっと傍に居続ける私はもっと馬鹿。
「……ユキ」
「うん?」
「……馬鹿+馬鹿は?」
「んー……逆に天才?」
相棒も笑顔でこう言ってるし、馬鹿二人でも何とかなるだろう。
「……それじゃ馬鹿、お休み」
「うん、お休み。馬鹿」
ユキの手をぎゅっと握る。
温かいその手は、優しく握り返してくれた。
私はそっと目を閉じ、耳を澄ます。
一定のリズムを刻む相棒の呼吸の音しか聞こえない。
私達二人だけの空間。
「……ユキ」
返事は無い。寝てしまったのだろうか。
「……好きだよ」
聞いているか聞いていないかは問題ではない。ただ言葉という形にしてこの気持ちを残したかった。馬鹿故の単純で、確かな気持ち。
一定のリズムを刻む呼吸が乱れ、その隙間から「私もだよ」と聞こえた気がした。
「……何、ユキ?」
私はベッドに横たわる相棒に名前を呼ばれ、顔を向けた。
相棒ことユキは熱っぽい顔で私を見上げる。
ユキは季節の変わり目の気候の影響で体調を崩し、今日は朝から寝込んでいた。
「そこの帽子、取ってくれる?」
「……はい」
床に脱ぎ捨てられた衣類と一緒に置かれた帽子を拾い上げ、ユキに手渡す。
「やっぱりこいつがあると落ち着くよ、あはは……」
枕元に帽子を起き、ユキは苦しそうに笑う。
「……少し寝て」
「そうだね……そうするよ」
ユキは基本的に私より体が弱い。
私も特に病気に強い訳では無いので、ユキがウィルスを持ってれば大抵の場合私も掛かってしまうが、私からユキに移す事はほとんど無いはずだ。
というかユキは私達の住まい、このパンデモニウム内で流行りの病気や風邪などに一番始めにかかることが多い。
「あはは、馬鹿は風邪引かないって言うんだけどね……」
「……馬鹿」
軽口を叩く暇があったら早く寝ろと言ってるのに。
ほんと、馬鹿。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、ユキはそれ以上喋らずにベッドの中で丸くうずくまる。
しばらく私はそんなユキを何も考えずに眺めていたが、部屋の扉がノックされる音で我に返った。
「……はい」
扉を開けると、お盆を手に持った夢子姉さんが立っていた。
「ユキの調子はどう?」
「……特に変わんない」
「そう……。おかゆ作ったけど、食欲はありそう?」
「あ、大丈夫だよ。ありがとう」
布団の中で上半身だけを起こしたユキは、またしても熱っぽい顔で笑う。
「ならマイ、後はお願いしても良い?」
「……いいですとも」
「何かあったら、すぐに呼んでね?」
私はお盆を受け取り、ユキの隣に腰掛けた。
「マイ、もしかして食べさせてくれるの?」
「……食べさせてほしい?」
「食べさせてほしいなー」
「……なら」
ここは何か対価を要求してみようか。
今度の晩ご飯のおかずとか。
お風呂場で好きなだけ視姦して良い権利とか。
…………脱ぎたてのパンツ、とか?
「……ハァハァ」
「マイ、息が荒いけど大丈夫?」
「……気のせい」
「もしかして私のが移っちゃった!?ご、ごめんね!」
ユキは本当に申し訳なさそうに頭を下げている。
今更こんなことで頭を下げるような間柄でも無いのに。
それに、今回は完全に私が悪いし。
「……違う。私は大丈夫」
「えっ、本当に?」
「……うん、元気」
「良かった……あはは、私のせいかと思ったよー」
心の底から安心したかのようにユキは笑う。
人のことばっかり心配して、自分は二の次にするのはユキの悪い癖。
止めろとは言わないが、もう少し程々にして、自分のことも考えてほしい。
そんな所も、馬鹿みたい。
「……はい」
「ん?」
「……食べさせてあげる」
おかゆを掬ったスプーンをユキへと向ける。ユキは数秒止まった後、にへらっとだらしの無い笑みを浮かべた。
「やっぱり病気の日はマイが優しいね」
「……私はいつも優しい」
「より一層ってことだよ」
「……ならいいけど。はい、あーん」
ユキが「あーん」と口を開け、私はスプーンをそこに伸ばす。
「……おいしい?」
「うん、マイの愛も感じるよ」
「…………」
「そんな露骨に嫌そうな顔しなくても……」
「…………」
「いやいや、そしてその顔を継続しますか」
「…………」
「……ごめんなさい。私が悪かったです」
よくもまあ恥ずかし気も無くあんなことが言えるものだ。
聞いてるこっちが恥ずかしくなってくる。照れ隠ししてしまうくらいには。
「……ユキ」
「ん、何?」
「……馬鹿」
「まぁ……否定はしないよ」
それからたっぷり時間をかけて黙々とユキの口におかゆを運ぶ。
「ごちそうさま」
「……残さず食べた」
「ユキちゃんは好き嫌いが無くて何でもよく食べるからね」
「……私への当てつけか」
「あはは、確かにマイは好き嫌い多いよね」
そうは言うが、茄子とかトマトとか、あれは絶対に人が食べてはいけない色合いだ。
それを無理矢理食べさせるとは……。
悪魔の罠だ。悪魔と言う名の夢子姉さんの。
「……食べなくても死なない」
「そうは言うけどね~……」
「……言うけど?」
「子供っぽいよ?」
「…………」
「あ、ちょっと赤面した」
理屈を何個も並べても、それは所詮言い訳に過ぎない。
分かってる。それは分かってる。
けれど、あの食材達を体が受け付けないのは理屈じゃない。
「……と言う訳」
「マイの地の文に書かれても私読めないからね?」
「……精進なされよ」
「んー……そうしまーす」
ユキは苦笑いしてそう言った後、軽く咳込んだ。
「……ごめん」
「マイのせいじゃないよ。あはは、でもそろそろ一眠りしようかな」
やっぱりユキは何でも私優先で考えてる。
少しくらいわがまま言って私を困らせたって良いのに。私達は、二人で一人なんだから。
馬鹿
ばか、バカ、大馬鹿
……だけど
そんな馬鹿を放っておけずに、ずっと傍に居続ける私はもっと馬鹿。
「……ユキ」
「うん?」
「……馬鹿+馬鹿は?」
「んー……逆に天才?」
相棒も笑顔でこう言ってるし、馬鹿二人でも何とかなるだろう。
「……それじゃ馬鹿、お休み」
「うん、お休み。馬鹿」
ユキの手をぎゅっと握る。
温かいその手は、優しく握り返してくれた。
私はそっと目を閉じ、耳を澄ます。
一定のリズムを刻む相棒の呼吸の音しか聞こえない。
私達二人だけの空間。
「……ユキ」
返事は無い。寝てしまったのだろうか。
「……好きだよ」
聞いているか聞いていないかは問題ではない。ただ言葉という形にしてこの気持ちを残したかった。馬鹿故の単純で、確かな気持ち。
一定のリズムを刻む呼吸が乱れ、その隙間から「私もだよ」と聞こえた気がした。
題名「馬鹿って言ってる方が...(ry」。かなりインパクトあったと思う。
ベッタベタのユキマイありがとう。
旧作をやったことないので読むのはちょっと遠慮してしまうことが多いですが、やっぱりいいものはいい。
素直なユキもツンデレ(あるいはむっつり変態)なマイも可愛かったです。
体調には気をつけてくださいね。
ほのぼのしました