「人形を一体、作ってほしいんだけれど」
「ごめんなさい。お断りするわ。あと素敵な出口はあちらよ」
にべもなかった。アリスの顔を見る。どうやら冗談ではないようだ。
「ちょ、ちょっと待ちなさい。せめてどんな人形か位聞いてからでもいいんじゃないの?」
「分かってるわ。等身大フランドール人形でしょう。何に使うつもりかは知らない(ことにしておく)けど。まったくあなた達姉妹はあらゆる方面からから一切の死角無くエロスに満ち溢れているわね」
おまえは何を言っているんだ。
「まあ冗談はさておき」
「冗談だったの?目が本気だったけど」
「嘘を見抜くことが出来無ければ魔法使いと会話するべきでないわね」
済ました顔で答えが帰ってくる。こういったところはパチェにそっくりだ。
「頭痛くなってきた。話を元に戻すわよ。私の依頼の件だけど」
「最初に言ったはずよ。お断りすると」
「やっぱりそこは冗談じゃないのね…理由を聞いてもいいかしら?」
「理由はあなたと私の友好関係をこれ以上悪化させない為よ」
魔法使いの思考は良く分からない。
開口一番で理由も言わず拒否するほうがよっぽど友好関係にひびを入れると思うのは私の間違いだろうか?
「はあ、では多少回りくどくなるけど一から説明していきましょう。まず、あなたが欲しているのは貴方付のメイド人形。これで間違いないかしら?」
「ええ、その通りよ。なんだ、本当に分かってるんじゃない」
「その程度、貴方を見ていれば大体想像はつくわ。それに人間観察は人形造形の基本中の基本だもの」
「私は妖怪だけどね」
「他人の揚げ足を取ることが当主の資質と教えられたのかしら?紅魔館の未来が楽しみね」
むう、事実を指摘しただけじゃないの。ずいぶんと棘のある、というより悪意のこもった返しね。
しかし今日のアリスは恐ろしく不機嫌だ。いや、入り口で出迎えたアリスは別にいつもどおりだった。なんか私の最初の一言から不機嫌になったような気がする。
「…まあいいわ。それで私の依頼を拒否する理由は?」
「その前に一つ質問してもよいかしら?レミリア」
「いいわよ。何かしら?」
「貴方は他人に自慢できる作品を創造したことはある?言うなれば力作、自信作といった類のものだけど」
なんか変な質問だ。話の流れが理解できない。
まあいい、種族魔法使いの思考は常に異次元を向いている。とりあえず理解するのは置いておこう。
「力作ねえ。残念ながら存在しないわ。紅魔館の当主たる私が労働に汗を流していたら配下の者たちの立つ瀬がないでしょう?」
「別に日曜大工の経験を問うているわけではないの。これが私が作り上げたもので、他人には真似できまいと胸を張っていえるものはあるかしら?貴族ならば詩歌や絵画の一つくらい嗜んでいるのではなくて?」
「あいにくと美術的センスには縁がないらしくてね。とっておきのスペルカード名を天狗に爆笑されて以来、創作活動はやっていない」
思い出しただけで腹が立つ。おのれ射命丸!
なんか地底の八咫烏のシンボルマークに似ているというパチェの情報もあって、以来あのスペルカードは封印しているのだが。
「ちなみのそのあと天狗はどうなったのかしら?」
「当然ボッコボコにしてやったわ。泣いて懇願するものだから貴族の情けで記事にしないことを条件にネガだけは残してあげたけれど」
「あのパパラッチに情けをかける必要も無いと思うけど。それに私は貴方にセンスが無いとは思わないわ。芸術家は時に血迷った方向に全力を費やすものよ。まあでも他人の風評が逐一気になるようなら芸術家には向かないかもね」
フォローのつもりかもしれないが、血迷った方向とは言ってくれる。
そんなに変な名前だったかなぁ。
「仮にも私は紅魔館の当主だもの。風評とはいえ無視することは出来ないわ。紅魔館の頂点たる私が馬鹿にされていては私の配下の者達も気持ちよく働けないでしょう?」
「立派ね。普段の貴方がカリスマにあふれているかは別として。では、そういった意味では紅魔館そのものが貴方の力作に当てはまるのかしら」
ふむ、言われてみればそうね。
「確かに。館に在註する妖怪や妖精たちも元々は私が集めたものだわ。ゆえに紅魔館自体が私が作り上げたものであり、誇りと言ってもよい。もっとも下層の妖精メイドとかの雇用はハウスキーパーに任せているし、館のすべてを把握しているというわけでもないけどね」
「なるほど。では続けて質問。実力も分別も備えた妖怪がめぼしい理由も無く、戯れで紅魔館ないしは住人を襲撃したら貴方はどう対処するかしら?」
「決まってる。紅魔館を襲撃するということは私を襲撃するのと同義。相手が誰であっても必ず後悔させてやるわ」
脳裏に紫や幽香が紅魔館を襲撃している様が浮かぶ。
うーん、仮想敵として真っ先に浮かぶあたり私はあの二人を信用していないということなのかしら?
「予想通りの回答ありがとう。私が人形作成を拒否する理由も似たようなものだわ」
「?今までの話を総合するとまるで私が貴方の人形を破壊する、と言っているように聞こえるのだけど」
「そういっているように聞こえなかったのならば私の喩えがまずかったのでしょうね」
腹が立つ物言いだ。しかし今はこちらが人形作成を依頼している身。しかもアリスは乗り気でないときている。
苛立ちは押し殺さねば。
「…私は貴方の人形作成の技術を買ってここに来た。何故、貴方はその私が人形を破壊すると考えているの?」
「貴方の欲求を満足させられる人形を作る技術は今の私には無い。簡単な理由でしょう?確かに私は毎日過不足無く廊下を掃除し、リネンを交換し、食事の準備をする人形を作成することは出来るわ。ただしそれはあらかじめプログラミングされたもの。雨の日に洗濯物を外干ししない、程度の判断は出来ても、貴方の気分に合わせた紅茶を用意したり、献立を変更したりといったことが出来るかといえば答えはNoと言わざるを得ないわね。ああ、貴方の欲求に時間を空けず即座に対応したりとかもね」
なるほど、どうやらアリスは私が咲夜並みの人形を求めていると勘違いしているようだ。
「私は別にそこまでの機能を求めているわけではないわ。単純にいまの妖精メイドよりもちょっと優秀なメイドが欲しいだけよ」
「なるほど、今の貴方はそうでしょうね。しかし私が人形を作ったとしても、今貴方が妖精メイドに不満を感じているように、貴方はいずれ私が作成した人形にも苛立ちを覚えるはず。そして貴方付にと私が作成した従者人形は最終的に貴方によって破壊されるでしょう。私はそれが嫌なだけ」
「そんなことは…」
「無いと言い切れるのかしら?そしてそのようなことになったら私は貴方に対して友好的に対処できる自信が無いわ。誇れるもの、愛するものを無惨に破壊される悔しさは先ほどの回答をした貴方なら分かるでしょう」
確かに、ついカッとなってやってしまう癖があるのは自覚している。
丹精込めて作り上げたものを軽く扱われる悔しさも分かる。おのれ射命丸!
って、待てよ?
「ちょっと待った。ならなんで貴方は弾幕ごっこで人形を自爆させてるのよ。自分が壊すのはよくて他人が壊すのは許さないって事?ずいぶんな話じゃない」
「武器として作られた物が戦闘で消費される。これは至極真っ当な事でしょう?刀は飾られる為に存在するのではない。絵は死蔵される為に存在するのではない。形あるものはいつか滅びるけれど、その朽ち方はそれが作られた目的に沿うようなものであってほしい。つまりはそういうことよ」
つまり戦闘用や弾幕ごっこ用に作った人形が爆発するのは用法通りということか。分かるけれど納得いかないような。
「まあ、今までの言は私の安全を確保した上での私のポリシーによるものだけどね。ただ私が貴方に人形を作らない理由に関しては十分説明できたと思うけど」
アリスの言い分は分かった。私が短気なのも理解している。
だが、
「もう一度、よく考えてみてはどうかしら?十六夜咲夜が来る前は紅魔館を今のメンバーだけで回していたのでしょう?それに咲夜がこの世から去る前に可能な限りの対処をして逝ったのは私も知っているわ。私も協力したしね。妖精各個の技能や能力のみならず属性をも把握した上で、相克、相生まで考慮して部署を割り振る。あの布陣であれば今でも紅魔館は咲夜の意図した通りにうまく回っているはずよ。それでも貴方は不満というのね?」
確かに、今の妖精メイドはよくやっている。
紅魔館のメイドはそんじょそこらをうろついている妖精とは弾幕ごっこの実力はともかくまったく格が異なる。
以前館を訪れた紫が「これが妖精の仕事とはね」と感心したほどである。
だがしかしそれは、人間で言えばほとんどが児童程度の知性しか持たない妖精という種に対する感心だ。
現在紅魔館で働くメイドは各々一点に特化させることで質を向上させているが、仕事を一点に絞ってもぎりぎりプロフェッショナルと呼べる域に達したメイドは両手の指で事足りる。
何でもこなせるメイドなど夢のまた夢、紅魔館の広さを考えればなんだかんだで足りないことばかりなのだ。
私の表情を読み取ったのだろう。アリスが嘆息する。
「貴方の不幸は早々に完全を知ってしまったことね。一度上がってしまった生活レベルを下げるのは容易ではないわ。私も魔界から親元を離れて幻想郷に移り住んだ当初はこんなところで生活できるかと何度も思ったものだけれど、時間がたつにつれて幻想郷の生活に慣れたることができたわ」
そういえば本当かどうか分からないがアリスは魔界生まれの魔界人だと聞いたことがあったような。
都会派を自称するアリスにはやっぱり耐え難い時期があったのだろうか。
「ならせめて私が今の環境に慣れるまでの段階としてでも」
「結局は「無い」という状況を体で理解して対処するしかないのよ。望んでも得られないのだということを肌で感じない限り決して現状に慣れることは出来ないわ。覆水は盆に帰らない。それが正しい姿なのよ」
そう、覆水を盆に帰すメイドはもう居ない。
「どうしても現状に耐えられないというのであればあの門番を貴方付けのメイドにしてはいかがかしら?彼女の性格と能力を鑑みれば十分すぎるほど機能すると思うけど」
一度美鈴にレディースメイドにならないか?と誘ったことはあるのだが。
「本人はメイドになるつもりが無いみたいでね。美鈴曰く「対外的措置として一度設置した門番を無くしては紅魔館が他の妖怪から人材枯渇を疑われ侮りを受ける可能性があるかもしれません。そのような仕打ち、たとえお嬢様が許してもこの私が許すことが出来ません」だそうで」
「確かに、他に門番が可能な人材は今の紅魔館にはいないわね。スペルカード戦も実戦も可能で人当たりがよく忠義深い。あの門番は幻想郷では稀有な存在ですものね」
アリスの中ではどうやら美鈴はずいぶんと高評価のようだ。
私自身も内心美鈴は高く評価しているのだが、あの幸せそうな顔を見るとどうにも虐めたくなってしまう。
多分あれがさでずむというやつなのだろう。
しかし困った。先ほどからアリスは明らかに私を挑発して破談に持ち込もうとしている。
どうやら本気で人形を作りたくないようである。
発言の節々に気遣いがこもっているあたり、私が嫌いだからとか面倒とかいう理由ではなさそうだが、話が人形関連に移ると途端に不快さを隠さない。
再びアリスの表情を伺う。何か考えているようだが今のアリスの表情は読み取れない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
やれやれ、五割り増しで不快感を演出してみても引かない、怒らない、か。
…あのよく気のまわる門番の性格からすれば、館の内情が散々たる有様なら自らメイド役を買って出るはず。
となると、やはり館内は多少の不備はあってもなんとか廻っているという事。私の人形が必須な状況とも思えない。
ならば結局のところ問題はレミリアが今の状態を受け入れられるか否かということになる。
はぁ、わが友人の先見には脱帽ね。完璧すぎるわ。
「ひとつ、提案があるわ」
「聞かせて欲しいわね」
「最初に言っておくけど、私はこの案を採用することに消極的よ。ゆえに貴方が是非にと望まない限りはこの案を採用することは無い」
「続けて」
レミリアの表情が輝く。どうやら話の糸口をつかんで喜んでいるようだ。
逆に私はさらに不快になったかのように表情を形作る。
自身の表情程度操れずに人形遣いなど名乗れるはずもない。
まあ、実際にも不快なのだけれど。
「提案の内容は簡単よ。私にとって私が設計、創造した人形が貴方の癇癪で壊されることが許せないのは先に述べたとおり。ならば私が設計した人形でなければよい」
「というと?」
「私が設計した人形ではなく、他人が設計した人形を私が作成し、それを貴方に提供する。これならば仮に人形が破壊されても貴方に対する憤慨は最小限に抑えることが出来るわ。私にとってその人形はすでに引かれた設計図に沿って作られた、あくまで他者の成果物を再現しただけに過ぎないのだから」
「メイドとして妖精メイドを上回る機能を持つ既存人形にあてはあるの?」
「もちろん、でなければそもそも提案したりしないわ」
「貴方が消極的である理由は?」
やはり、聞いてくるわよね。
嘘をつく理由もないし、鬼に対して嘘を語るのも無用の争いを招く可能性があるので正直に話す。
「一つ、私の人形創造技術はいまだ半人前であるという事実を再確認させられるということ、一つ、メイド人形を作成するということは私が部外者の分際でありながら、咲夜が後を託した妖精メイドに対して駄目出しをすることになること。一つ、多分この提案は貴方にとって割と危険な賭けになる可能性があるということ。最後にもう一つあるけど、これに関しては黙秘させてもらう」
下手に隠すより言いたくないことは言いたくないといえばよい。
ある程度萃香や勇儀と話して分かったことだが、正直であることを強要する鬼は、敵対している最中でなければこちらがNoと言ったことに関してはまず突っ込んでこない。
そういった点で嘘を許さないことに対するバランスをとっているのだろう。
「さあ、どうするの?」
「…では人形作成を依頼するわ。報酬は貴方の言い値で」
やはり、そうなるか。
私が乗り気でないことを強調する。
「良いのかしら?」
「貴方が先ほど述べた内容はすべて貴方にとってのマイナスを並べたことでしょう?マイナスな点ばかりではないと思うわ」
「例えば?」
「貴方の口ぶりからして、貴方はその人形を作成したことが無いのでしょう?実際に作成することによってあなた自身も得るものがあるはずだわ。食わず嫌いをしているよりはよっぽど有意義よ。それに優秀なメイドとしての人形が一体あれば妖精メイド達にとって形ある目標の一つにもなるでしょう?もともと妖精は程度の差こそあれ傍若無人な点があるのだから目標としての見本はあったほうが良い。ある意味規定の動作しか出来ない人形というのは型どおりの見本としてふさわしいとも言える」
確かに、その通りである。私が提示した建前に対する回答としては十分だろう。
「…確かにね」
「危険な賭け、というのは私が永久に今の状況に慣れず、延々と貴方の人形に依存してしまう可能性がある、ということでよいかしら?」
…へえ、思ったより鋭いわね。
「確かに私は未だ過去を振り切れていない。完璧な従者を求めていることも否定するつもりは無いわ。でも貴方が最初に言ったとおり貴方が作ろうとしている人形は咲夜には劣るものなのでしょう?ならば私の意識が咲夜から妖精メイドへとつなぐ橋わたしとしては十分ではないかしら?貴方は否定したけれど段階を踏んで現状に慣れていくのもまた正しい推移だと思うわ」
無駄がない。少々レミリアを甘く見ていたか?
反論、論破することも可能だが、逡巡する。これで意見は1:2。自身の意見が正しいと盲信するには私は未だ若すぎる。
「最後の一つに関しては、貴方が黙秘する以上、私が解を示す必要は無いわね。さあ、どうかしら?」
「…分かったわ。それでは私は貴方のために他者が設計した人形を作成し、紅魔館に納品する。これでいいわね」
「ええ」
羽がピコピコと揺れる。レミリアは来訪の目的を果たせたため、満足そうだ。
完成品を見る前に喜んでもらっては困る。とりあえず釘を刺しておかないと。
「ただし他人が設計した人形である以上、私には動作を保証することは出来ないわ。未だ私も修業中の身、起動に失敗するかもしれないし、納品できない仕上がりになる可能性も多分にある。その点はご理解いただけるかしら?当然、その場合代金は請求しないけど」
「ええ、仕方ないわね」
「それでは…そうね、うまくいったら二週間後に人形を紅魔館に向かわせるわ。ただ、しつこいようだけど失敗の可能性も念頭に置いておいてね」
「了解よ。その場合には再度交渉といきましょう」
「分かったわ。二週間たっても完成しなそうな場合は別途連絡を入れる。ああ、あと作成がうまくいった場合の代金は後払いで貴方に任せるわ。払いたいだけ払って頂戴」
「それでいいの?成功するにせよ失敗するにせよ貴方に労力を強いるわけだし、前金を払うのも吝かではないつもりだったのだけど」
太っ腹である。妬ましい。こちらは生糸の購入費にも苦労しているというのに。パルパル。はっ、私は今何を?
「他者の創造物を複製した人形なんかに値段をつけるつもりは無いわ。材料費以上であればいくらでも」
「魔法使いの矜持かしら。分かったわ、出来あがった人形を見て私が判断しましょう。二週間後を楽しみにしているわ。それではごきげんようアリス。よろしく頼むわよ」
レミリアは上機嫌で帰っていった。
どうやら釘を刺したにもかかわらず人形の出来に対してはほとんど心配してないようだ。
他者の模倣物とはいえ、私が作成する人形に対してそこまで信頼を寄せてくれるのは一技術者としては嬉しくもある。
しかし私の心は晴れない。
この話が持ち上がったときから延々考え続けてきたこと。
本当に作成してよいのか?この行為は友人に対する侮辱ではないか?
思考が輻輳する。
「はあ、結局こうなるのね」
だが、私は約束してしまったのだ。
半自動人形たちを引き連れ地下へと下り、隠し扉を開いて4つ並んだゆりかごに目を向ける。
「蓬莱、3番クレードルの封印解除準備。一人でやれるわね?他のみんなは降霊祭壇の構築準備、お願いね」
「ホウラーイ」「アリスハー」「ドウスルノー?」
「私は6時間ほど睡眠をとるわ。これから休む暇もなくなるからね。上海。家の警備をお願い。侵入者は妖精だろうと魔理沙だろうと追い返して頂戴。バックアップにグランギニョルを当てておくけど可能な限り対話で解決すること。力押しは都会派のすることではないからね」
「シャンハーイ」
「実験で篭っているって言えば大半が引き返してくれるでしょうけど、相手が突破を試みた場合は優雅に、そして速やかにすりつぶしなさい。最悪、ゴリアテの出撃も許可するわ」
「syannhaaaaaaa-i!」
…これは貴方の願いの顕現?それともこれもまた運命の一環なのかしら?いずれにせよ。
「面白くないわ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ふぁーあ、今日もいい天気だなぁ」
「隊長。みまわり終わりました。半けー5km以内に妖精以外の反応なし!」
紅魔館は今日も平和だなぁ。
悪魔は言っている。こういう日はシエスタを取らざるを得ないと。
とはいえ、警戒を緩めるわけにはいかない。故に部下の妖精には釘をさすことは忘れない。
全てはシエスタのために。
「ご苦労様。でもあまり気を抜いてはだめよ。千年妖怪クラスになれば湖の対岸から紅魔館までの距離なんてあって無きに等しいのだから」
「はーい」
「とは言え、不穏な気配もなし。いつもどおり警戒レベルは2で現状維持。伝令妖精、復唱!」
「ふくしょーします。全員だらだら巡視!」
まてよ?一直線にこっちに近づいてくる気配が。
やれやれ、シエスタはお預けか。
接近速度は並。敵意は……無し。殺気も無し。妖怪とも妖精とも、ましてや人間とも違う気配。敢えて言うなら宴会であったことがある厄神様や毒人形に近い。これは?
「みんな!警戒レベル4へ移行。スペルカード戦用意。壬、癸両班は万が一に備えて実戦準備!」
「ふくしょーします。え、えーと壬、癸班以外はカードアタックよーい!壬、癸班はいくさだ!ぶきを持てい!」
「無駄よ」
「え?」「え?」「…え?」
「お疲れ様、美鈴、門番隊のみんな。と言いたいところだけどちょっと弛んでいるんじゃないかしら?こんなに簡単に後ろを取られるなんて」
馬鹿な、展開済みの甲、乙班の警戒をかいくぐった上、こうもあっさり後ろを取られるなんて!
意識を操られた?もしくは時間や空間を…って美鈴??お疲れ様?
「どうしたの、いつもの貴方なら何らかの言い訳が出てくるはずだけど」
「そんな、まさか、貴女は」
「あなたは死んだはずだ、なんてつまらない質問は御免よ。さて、詳しい説明は後。お嬢様に挨拶に行きたいのだけど、入館許可はいただけるのかしら?」
そんな馬鹿な!そんな馬鹿な!そんな馬鹿な!
三回繰り返しても導かれる推論は同じ。すなわち『咲夜さんが時間を操った』のか?
背後の何者かから放たれる魔力は確かに咲夜さんのものだ。だが最初に感じたように、気配は人間のそれではない。
「…許可も何も、門番である私の後ろを取った時点でもう紅魔館の敷居をくぐってるじゃないですか」
「ああ、そうだったわね。それじゃ、引き続き門番頑張ってね。美鈴」
「えっ、あっ、はい」
咲夜さん?の後姿を見送る。
さっきのは本当に咲夜さんだったのだろうか。
確かに時間が止まったかのごとくあっさりと背後を取られたけど、かつての咲夜さんの気配ではなかったし。
とはいえお嬢様に対する邪念も殺気もなかったのは間違いないから、何者かによる悪戯や騙し討ちの線はないだろうし…
何よりさっきは言わせてもらえなかったが「十六夜咲夜は死んだ」はずなのだ。
「ああ、やめやめ。深く考えるのは私の仕事じゃないわ」
ま、そういうのはパチュリー様にお任せしよう。うん。下手な考え休むに似たり。
同じ休むならシエスタを、ってね。
「はいじゃーみんな警戒レベル2に移行。いつも通りよろしくねー、はい復唱」
「ふくしょーします。全員再びだらだら巡視!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「さて、志望理由は提出いたしました書類と今までの回答がすべてですわ。採用判定のご連絡はいついただけますでしょうか?」
「…採用判定は2,3日中に出す。検討期間中行くところがなければ館内の駐留を許可する。望むのであれば妖精メイドにその旨を伝えると良い」
「私が選抜したメイドはキチンと業務をこなせているようですね。安心しましたわ」
「…」
「それでは厚かましいようですが今は雨露をしのぐ術ももたぬ身、ご好意に甘えさせていただきます」
今日の午後の予定は決定した。スクランブルである。
全身から放出する魔力を速度へ変えて、魔法の森へ突撃する。
「アリス、マーガトロイドォォォォ!!!!」
「そろそろ来るころだと思っていたわ。いらっしゃい。レミリア・スカーレット。あとドアの修理代はいただくわよ」
「その口ぶりからして私の言いたいことはわかっているようだな。聞くまでもなく用件は理解しているだろうが一応聞いておく。あの人形は何だ!?」
「ちょっと落ち着いて。そういきりたっていては会話すら覚束無いわ。貴族なら事は全てエレガントに、レディ」
「これが落ち着いていられるか!…と言いたいところだけどその通りだな。少し頭を冷やしてくる」
流石に少々落ち着きのなさを露呈しすぎた。ちょっと思考をまとめなければ。
相手は魔法使い。前回のように主導権を握られては堪らない。
まずは落ち着け、レミリア・スカーレット。話はそれからだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「さて、あの人形について説明してもらえるかしら」
「なにやってきたの?」
「なに、軽く日光浴をして血の気を減らしてきただけよ。質問に答えて頂戴」
「まあ、そんな難しい話じゃないんだけどね。あれは私が作成した、限りなくかつての十六夜咲夜に近い人形に咲夜の魂が宿ったものよ、たぶん。かつて存在していた十六夜咲夜ではないわ」
発言内容は歯切れが悪いが、発言そのものには迷いがないようだ。しかし…
「たぶんって…。まあつまりあれは咲夜そのものではないのね。でもあれからは咲夜の魔力を感じる。咲夜は死んだ筈なのに」
「ええ、確かに私の知る限り十六夜咲夜の肉体は齢80弱にてその生命活動を停止した。幻想郷在住の人間としては長生きね。まめに時を止めていたことを考えれば正確な寿命を計算することは出来ないけれど、類まれなる長寿といってもよいのでしょうね」
「ならなんで咲夜と同一の魔力を持っているの?輪廻転生にしては早すぎるし、そもそも人形に転生するなんて聞いたことが無いわ」
「その問いに答える前に前に2つほど質問をしてもよろしいかしら?」
「また回答の前に質問?」
またか。正直辟易するが、魔法使いという連中が付き合い辛い種族であること、こちらから折れねば話が終わってしまうことは嫌というほど理解してる。
故に私は回答する。あれ?結局主導権握れてないじゃない。
「まあいいわ、答えてあげる。それで質問とは?」
「一つ目。貴方は十六夜咲夜の魂が死者として三途の川を越えたこと、ヤマザナドゥの裁きを受けたことまで確認したかしら?ということ。多分、当時は目をそらしていて、そこまで確認していなかったのではなくて?」
…苦い。辛い。思い出したくない。
「…その通りよ。私は、咲夜の魂の行方を把握していない。咲夜の希望により密葬を済ませ、遺体を荼毘に付し、大地に返したのは間違いないが」
霊となった咲夜を見ることで、咲夜が本当に死んだのだと確認したくなかったから。
「そして今でもまだ、それを確認してはいないのね」
「…」
こいつは、人の心を無理やりシャベルで掘り返す。
怒りが私を支配する。
「では二つめ。貴方はかつての十六夜咲夜の運命をどのように操ったのかしら?」
「そこまで貴様に教える必要があるのか?」
「それは貴方の望み次第ね。貴方の最初の問いに対する私の回答が曖昧さを残したままでかまわないなら私の質問に答える必要はないわ。現状でも私の推測を貴方に伝えることは出来る。でもそれは少ない情報の中から私が構築した推測であり、信頼性は低い。回答も曖昧にならざるを得ないわ。そして曖昧な回答をすることを私は望まない」
…そうだ、回答を求めているのは私だ。
アリスは今のところ、依頼通り仕事をこなしている。アリスにとって弁解が必要となるのは、あの咲夜もどきがメイドとして使えなかったときだけ。
今の私はあの咲夜もどきがメイドとして有用か無能か判断できていない。ならばアリスには現時点で責められるような落ち度はないのだ。
落ち着け私。
「…私が咲夜に関して操った運命は「十六夜咲夜はレミリア・スカーレットとともに在るべし」という運命ただ一つだけよ」
「なるほど、合点がいったわ」
「それで」
「多少話が長くなるけど」
「かまわないわ」
アリスは席を立ち、紅茶を淹れなおす。芳しい香りが立ち込める。
口を湿らせる為だろう。どうやら本当に長い話になりそうだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「創造の第一歩は既存技術の模倣から始まる。かつて私は、人形研究の一段階として人間の解析に没頭した時期があったわ。人体の構造をこの目で理解する為に生命を維持したまま解体したり、傷一つ無く縫合したりする技術を身につけてはみたものの、それを信じて研究に付き合ってくれる人間はまあ、いなかったわね」
まあ、そりゃそうでしょうね。普通の人間なら体中切り刻まれても生きていられるなんて想像できないもの。
「だから私は身近の普通じゃない人間に協力を仰ぎ、可能な限り魅力的な条件を提案することで実験に付き合ってもらうことにした。例えば魔理沙には今まで私が森で発見したきのこの所在と外見についての情報を引き換え、とかね」
「安いな魔理沙」
「まあ魔理沙だし」
まあ魔理沙はどうでもいい。
「それで?」
「あとは分かるでしょう?咲夜の肉体も同じように解体、分析したってコトよ。そのときに得られた情報を元に作り上げたのが今紅魔館にいる咲夜人形ってこと」
生前の咲夜を分解し尽くして得た情報から作成したのがあれということか。
脚がもげるだけで失血死しかねない人間の癖に魔理沙も咲夜もよくそんな恐ろしい実験に付き合ったわね。
「なるほど。あの咲夜そっくりの人形に関しては理解した。とはいえ今のままでは魂の話につながらないわ?」
「そちらに関して私は一切干渉していないわ。つまる話、十六夜咲夜は未だ死んでいないということでしょう」
一気に理解不能に陥る。咲夜を紅魔館に迎え入れて100年以上は経過している。幻想郷でただの人間がそこまで長く生きたという話は聞いたことがない。アリスは何を言っているんだ?
「そんな馬鹿な。死後の過程はともかく、咲夜が死に至ったことはこの私が」
「さっき聞いた話だと、貴方が確認したのは咲夜の肉体が生命活動を停止するまででしょう?それで咲夜が死に至ったと言えるのかしら」
「咲夜は人間なのだから、肉体の死が咲夜の死でしょうに」
「低知性体ならそうでしょうね。ただ高知性体の死は意見が分かれる内容だもの。脳が停止すれば死亡か、心臓が停止すれば死亡か、意識が戻らなくなった時点で死亡か。さまざまな意見が存在するわ。そしてそのどれが正しいか外の世界ではまちまちだけど、幻想郷内では線を引く為のある程度分かりやすい基準があるわね。すなわち魂が三途の川を渡り終えて閻魔の判決を受けたか、それ以外の要素で消滅したか。この二つのどちらかを経ればその存在は抹消される。そして貴方はそれを見届けていない」
反論しようとして、喉の奥が張り付いたように動かないことに気付く。言葉を返すことが出来ない。
「…」
「つまるところ、咲夜の魂は三途の川を越えることなく、この幻想郷にとどまっていた。そして自分の魂が宿るにふさわしい体を見つけてそれに潜り込んだ。まあそんなところでしょう。私としては、私が作成したヒトガタに果たして咲夜の魂が宿るか保証が無かったから、二週間前のような回答に留まったのだけど」
「貴方にとっても賭けだったということ?」
「賭け、というよりは実験その一といったところね。私も花見は好きだし、ちょくちょく冥界を訪れるのだけど、咲夜の魂を見かけたことはないし、幽々子や妖夢、小町らから咲夜の話題を振られたことも無かった。彼女達の性格を考えれば、まったく知人について触れないというのも変な話でしょう?」
確かに。少なくともあのおしゃべり好きな死神なら確実に何かしら言ってくるだろう。
「故に、もしかしたら咲夜の肉体はともかく、魂は未だ寿命を迎えておらず冥界にも行かずにどこかに留まっているのではないかと思っただけ。ならばその魂が収まるにふさわしいだけの器を用意すればおのずとその魂はそこに収まるのではないか。そう考えて実験し、結果その試行は成功した。それだけのことよ」
成功した!?ということは…
「つまり、あれに宿っているのは十六夜咲夜本人の魂であるということか?」
「…私も魂については未だ研究中の身。断言できるのは器を持たぬ魂は己が宿るにふさわしい体を望んでおり、都合のよい器を見つけた場合、その内に宿ろうとするということ。あの人形は私が可能な限り咲夜の体を模して作成したものであること。あの人形には私が作成した擬似魂魄は込めておらず、現時点で自立している以上私の意志と関係なく降霊した魂が宿っているのであって私が自律人形を作成したのではないということ。この三つよ」
流石は魔法使い。曖昧なものに関しては絶対に是と断言しない。
アリス自身もあれが咲夜の魂が宿ったと断言できる証拠はないということか。
「ただし貴方の元に彼女を送る前に、当然こちらでも可能な限りのチェックは行っている。その結果から判断するに、あの魂がかつての十六夜咲夜の魂で無い確率はおおよそ4%以下であるという結論に至ったわ」
「0%では無いのね」
「意思、及び思考の方向性に関する確認で差分があった。とはいえ人間は学習し、忘却し、変化する生き物。そもそも5%未満という数字自体が驚異的よ。流石は完璧で瀟洒な従者、といったところかしら。当然、その道の専門家である町人A(仮称)にも聞いてみたけど、得られたのは「さあ、そうなんじゃない?」っていうありがたいお言葉だったわ」
まったく、あのふんわりお嬢様は。
とはいえ、証拠が無いだけでアリス自身もあれが咲夜の魂には違いないと思っているようだ。
「仮定の話はうんざりだわ。ではあの人形に宿った魂が咲夜のものとして、つまり十六夜咲夜は新たな肉体を経て復活した、ということよね?」
「それは貴方の認識次第ということになるわ。そうね。木製の器とガラスの器に同じ材料で作ったパフェを盛って客に出し、この二つは同じものかと訊ねたら、大半は同じであると答えるでしょう。では飴細工で作った器と、パートシュクレで作った器に同じ材料で作ったパフェを盛って客に出し、この二つは同じものかと訊ねたら、大半は別物であると答えるでしょう」
それはその通りだ。
「木やガラスは食べられないけれど、飴やタルト生地は食べられるわ。器も料理の一部と判断したのでしょう。…あ」
アリスの言わんとする事を理解する。
「そうね。器として作られたのならそれは器よ。なのに器が食用か非食用かというただ一点の違いにおいて料理に対する意見まで完全に逆転してしまう。器の中身は同じなのにね。さて貴方には万人が納得できる理由で、この四つをグループ分けできるかしら」
万人を、というのは不可能だろう。
飴細工の技術が芸術的ならば、もしかしたら飴と硝子の区別すら付かないかもしれない。
可食の器、非可食の器、透明な器、茶色な器。だれもが納得する分類など存在するはずがない。
「…万人を納得させるのは難しいわね。食用、非食用で分けるのが大半なんでしょうが」
「同じく今の咲夜の体は私が作り上げたもので昔の咲夜のものではない。生物を構成する霊、魂、体のうち体だけが以前のものと異なる。これらがすべて以前と等しい場合に同一と判断するか、それとも一つでも当てはまれば同一と判断するか。それは各々が定めることよ。私には断言できないわ。どうしても判別したいなら閻魔にたずねて頂戴。線引きをしてくれるはずよ」
だが、閻魔は線引きをするだけである。それを各々が受け入れるか受け入れないかはまた別の話だ。
それが絶対の真実だったとしても。
この世は真実だけしか受け入れないほど狭くはないのだ。
「ただまあ、どちらかといえば人間拠りの魔法使いである私の観点から言わせてもらえれば、さっきも貴方が述べたとおり人間や妖獣は肉体を主軸とする存在である訳だし、肉体が異なるのであればそれは別の個体と捉えるべきでしょうね。たとえその体に宿る魂が同一のものだったとしても」
「…」
「ただ、「あれ」が十六夜咲夜であるということは間違いない。貴方がそのように運命を操り、今貴方の元に在るのだから」
うん?
おかしい。アリスは先ほど彼女が十六夜咲夜であるとは断言できないといったはず。魔法使いがそのような言い間違いを犯すはずはない。
アリスは何を言いたいのか。
「言っている意味が分からないわ。さっきはあれを咲夜だと断言しなかったのに、今の貴方はあれが咲夜だと言っている。あいまいな回答は嫌いなんじゃなかったの?」
「マクロな力の行使には細心の注意を払っても必ずミクロの不確定要素が残る」
「何言っているのか分からないわ。話をそらさないで」
「そらしてないわ。長くなるといったはずよ。もうすぐ終わりだから辛抱して耳を傾けなさいな」
「うー」
仕方ない。当初の決意も空しく、どうやら最後まで傍聴者に徹するより他はないようだ。
「貴方の運命を操るという能力は非常に強力なものね。これは巨視的な力の行使といえる。その力の及ぶ範囲は広く、その応用範囲は多岐に及ぶ。その分、限定された環境に対しては粗が残ることになる。例えて言えば双眼鏡を眼鏡として使うには無理がある、ショベルカーで砂金をほるのは無理がある、ということになるかしら」
「ええと、新聞紙を燃やすのに地底のヤタガラスを召還するみたいな感じでいいの?」
「ちょっと違うけど、細かいさじ加減が聞かないという点ではでそんな感じかもね。続けるわ。貴方は「十六夜咲夜はレミリア・スカーレットとともに在るべし」という運命を操ったと言った。これはマクロな力の行使ね。さて、ではこの場合における十六夜咲夜とは何かしら。即答してみてくれる?ちなみに咲夜は咲夜、なんて回答は回答にならないわよ」
…それは。
「即答できるはず無いわよね。指定していないのだもの。そしてそれは貴方の操った運命にも反映されている。つまり貴方にとって共に在るものがいて、それが十六夜咲夜と言えるものならばその正体など何でもよい、妖精や人形ですらある必要は無く、物言わぬ絵画や彫刻であってすら一向に構わないということになる。これがミクロの不確定要素ね。最もこれは極論であって、現実には流石に最初に貴方が十六夜咲夜と呼んだ「彼女」に順ずるものからあまりかけ離れたものにはならないと思うけど」
先ほどのパフェの話が思い出される。
器が食べられようが食べられまいがパフェはパフェだ。では器ではなく、盛り付けのフルーツの一つが見本と違えばそれはパフェじゃなくなるのか?
二つが見本と違ったら?アイス以外はすべて違ったら?
どこからどこまでがパフェでどこからパフェじゃなくなるのか?これはパフェであると名札が付いていればそれはパフェなのか?中身が全て偽者であったとしても?
いや、それ以前に同じパフェでも注文を受け一つ目に作られたものと二つ目に作られたもの。この二つに異なる呼び名をつけるものなどありはしない。
故にどっちが卓に置かれても注文者には同じなのではないか?
「さて、私はあれを十六夜咲夜であると断言した。人間の咲夜が死んでから貴方の周りに十六夜咲夜と呼べるものは存在しなかった。ならば今現在その枠に十分収まりうるあれは間違いなく十六夜咲夜であるはず。そして同時に、あれはかつて人間であった十六夜咲夜ではない、ということも言える。十六夜咲夜とは貴方の意図はともかく一種のカテゴリーであり称号である、と考えるならばあれがかつての十六夜咲夜でなく、しかし十六夜咲夜であるという二つは十分に両立するはずよ。いうなればあれは十六夜咲夜Ⅱ世といったところかしら。以上が私の見解ね。私にとってはこれが真だけど、事実であるとは限らない。貴方にとって私の送った彼女が何なのか、判断するのはあくまでも貴方よ」
アリスの言ったこと、私の考えたことが頭の中で合致する。全ては受け取るもの次第である。ということか。
「…初めて彼女を見たとき、私は咲夜が生き返ったのだと思った。会話を続けるうちにその判断はゆるぎないものになった。なら私にとってあれはやはり咲夜なんだ…と思う」
「ならばそれでよいのではないかしら」
「そう…そうだな、改めて礼を言わせてもらおう。アリス。私の咲夜を生き返らせてくれてありがとう」
「礼には及ばないわよ。私はただ依頼通りに人形を作成しただけ」
「そうだったな。では謝礼を見繕っておこう。一週間以内に用意して妖精メイドに届けさせよう。万が…十が……いや五が一届かなかったら言ってくれ」
「…届く確立は8割程度なのね。了解したわ」
アリス曰く素敵な出口に向かう。体が軽い。こんな気持ちになるのは久しぶりだ。また、かつての日々が帰ってくるのだ。
振り向くことなく扉を開き、アリスの家を後にする。
「…否定してくれれば楽だったのだけど、やれやれ。これはアフターケアが長くなりそうね」
アリスの独り言は、去り行く私の耳には入らなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「というわけで現時点をもってお前を十六夜咲夜と認定し、紅魔館のメイドとして雇用する。役職は私付きのレディースとし、私の世話が不要な時間はハウスキーパーの指示に従うように」
「謹んで受領いたします。格別の計らいに感謝いたしますわ」
どうやらレミリア様はこの際に自分付きのレディースメイド(侍女)と、館を統括するハウスキーパー(メイド長)を分けることにしたようである。
そして、どうやら私はレディースメイドとしてレミリア様に再度仕えることを許されたようだ。
かつてお嬢様に仕えた日々が頭をよぎる。
「では明日より業務についてもらう。テンパランス」
懐かしい名前を聞いた。私がメイド妖精の一人に与えた名前だ。以前と変わらない懐かしい顔がそこにあった。
私がいなくなってから数十年が経過している。その間ずっと、この妖精は紅魔館を護り続けていたのだろう。
「お呼びですか?お嬢様」
「現在のハウスキーパーよ。引き続き本来のハウスキーパーとしての任についてもらう。さっきも言ったとおり、普段は彼女の指示に従ってもらうわ。挨拶なさい」
時間停止もなくハウスキーパーとレディースメイドとしての職務をこなすのは相当の負荷だったに違いない。それでも目の前の妖精は逃げ出すことなく職務をこなしたのだ。
私の亡き後も、紅魔館のメイドはきちんと機能していた。
その事実が何よりも嬉しい。私は、十分に私の仕事をこなせていたのだと、理解した。
…しかし妖精だけあって、数十年の時と苦労を重ねても若々しいわね。肌の張りとか湯上り卵肌だし。おのれ、パルパル。はっ、私は今何を?
「新米メイドの十六夜咲夜です。若輩の身ながら当主のお傍を命じられて緊張しております。ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたしますわ、ミセス・テンパランス」
「うう…敬語はやめてくださいよう。咲夜さんに敬語を使われるのはこそばゆいを通り越して悪寒が走るので、来客が無いときはもっと砕けた口調でお願いします」
「あら、そういえばテンパランスは咲夜がいたころからの古株だったっけ。咲夜が名付けたんだっけ、ずいぶん慕われてるのね。こいつってばハウスキーパーに任命するにあたって私がふさわしい名前をつけてあげようとしたのに拒否するんだもの」
「ちなみにどのような名前をつけようとしたのですか?」
「イエローデビルよ。羽と目が黄色いし。スカーレットデビルたる私の従者にふさわしい、貫禄ある名前じゃない?」
よりにもよってみんなのトラウマですか。相変わらず素晴らしいセンスであります。
「お嬢様、それでは名前というより二つ名です。それにテンパランスは節度を重んじる性格ですし、まるでお嬢様と並ぶかの如き呼称を受け入れるはずはございませんわ」
「ふーん、まあ過去のことだしいいんだけどね」
(咲夜さん、フォローありがとうございます)
テンパランスが目で語りかけてくる。
まあ、流石にイエローデビルは無いわよね。能力を考えればすごいお似合いなんだけど。
「じゃ、敬語じゃなくてもいいのね?さて他にも私が知っているメイドは残っているのかしら?」
「現在もエンペラーが妹様付きレディース兼キッチン、タンクがキッチン、ハイエロファント、ハングド、ラバーズがハウスに在籍中です。あとのみんなはパワーみたいに俺より強いやつに会いに行ったり、弾幕ごっこでピチューンして記憶が吹き飛んだり、やっぱり宮仕えは堅苦しいーとかで紅魔館を離れました」
驚いた。残っていたのは目の前の黄色い妖精だけではなかったのか。
「あら、札付きが6体も残っているなんて思わなかったわ。貴方の人徳かしらね」
「そ、そんな。みんな第二の家として紅魔館を愛しているだけですよ」
ちなみに札付きとは、私の存命中に、メイドとして最低限の業務と、スペルカード戦をこなせるようになった妖精に私が名前をつけたものたちの総称である。
できれば16体そろえたかったのだが、当時の私には時間が足らなかった。
しかし妖精メイドの文化が紅魔館に根付いていることが再確認でき、少しばかりの自画自賛を心の中で送る。
「…そう。では改めてこれからもよろしくね」
「はい!咲夜さん!」
「現在の業務構成は?」
「今後は僭越ながら私がハウスキーパーとして監修を、お嬢様、妹様の身の回りがレディースとして咲夜さん、エンペラー。それ以外の業務はキッチンを除いて全てハウスで一括という扱いになります」
なるほど。料理に関しては下ごしらえに時間もかかるし、他と方向性が違う才能だものね。役職をきっちり割り振れるほどの余裕もないし、まずまずの構成ね。
「今日は私の身の回りはいいわ。とりあえず状況確認を済ませて、明日より業務に復帰なさい」
「はいお嬢様。それでは一旦失礼いたしますわ。テンパランス、館内を案内してもらえるかしら。ああ、あとニクリとニクラの区別は付くようになったのかしら?」
「勿論です!メイド長ですから!」
へえ、やるじゃない。私ですら時々間違えそうになったというのに。
「そういえば咲夜は何でこいつをテンパランスと名付けたの?やっぱり性格?」
「いえ、お嬢様と同じです。黄色かったからですわ」
「……分かる?テンパランス」
「…いえ、さっぱり」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ぐふっ、背水の陣、敗れたり…」
「悪いな美鈴。お邪魔させてもらうぜ」
今日も美鈴を蹴散らす。つまらない。今日もこいつは全力を出さない。
私がレミリアを本気で滅ぼす気がないのが分かっているのと、門番という職務上、私相手に全力を出し切って倒れるわけにはいかないからだろう。咲夜が死んでからなおさらその傾向が強くなった。
だが私にとってはつまらないだけ。だからといって全力でレミリアを殺しにいく気にもなるはずもない。なんだかんだであいつだって友人(悪友)だ。無論、この門番もだが。
このぬるま湯を抜け出す方法はないものか。私は、もっと、もっと強くならなければいけないのに。
「ふん、今日はどいつが出張ってくるのやら。ひねりの無い弾幕には飽き飽きなんだが。テンパランスも最近大人しいしな」
「飽きたら」
…っ!後ろをとられた?いつの間に!
とっさに体を右へ倒し、飛来した何かを回避する。
目に映ったのは銀の輝きを放つナイフだった。
「お家に帰って寝てればいいじゃないの」
「ほう、銀のナイフとはな。久しく見なかった顔がいるぜ」
「さあ、羽を畳んでお帰りなさい。私のナイフは飛ぶ鳥も落とすわよ」
さて、咲夜は死んだはずだ。目の前にいるのは本物か?偽者か?
ぬるま湯に浸かっていた心が目を覚ます。
もし咲夜ならばお互い人間同士。同属同士の弾り合いなら派手にやっても角は立たない。
もし咲夜を語る妖怪ならば言うまでもない。人を騙す妖怪を退治するのに手加減は不要!
「はっ、鳥なんぞと一緒にしてくれるなよ。しかしその物言い、まさか本当に咲夜か?」
「さて、どうかしらね」
「ふん、まあいい。弾ってみれば分かる事だ。いくぜ!悪魔の犬!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「久々に「ゾッ」とさせてもらったが、私の勝ちのようだな」
「…そのようね」
懐かしい感覚だった。時間の停止するあの感覚。目の前にいきなりナイフが出現するあのスリル。
一方で、その全てが見たことのある、目新しさも進歩もない弾幕だった。その事実が逆に目の前にいるのがあの日時間を止めた咲夜であることを裏付ける。
「じゃあ負け犬はそこでおねんねしてな。私は先に進ませてもらうが。ああ、やっぱおねんねは無しだ。あとで図書館までお茶を頼んだぜ、咲夜」
図書館へと進む。後でお茶はでてくるだろう。淹れたてが、間違いなく。
「…負けちゃいましたね」
「…そうね」
「そのわりに嬉しそうに見えますが」
「まあね、歯が立たなくて安心したわ」
「なんでですか?」
「今の私を歯牙にもかけないということは、あの子が歩みを止めなかったという証だもの。もう私が知る人間はほとんどいなくなってしまったけど、それでも魔理沙は前を向いて突き進んでいる。素晴らしいわ」
「なんだかんだで昔っから咲夜さんは魔理沙さんに甘いですよね。なんか落ち着きのない妹に手を焼く姉みたいですよ?」
「…あんな妹がいたら大変でしょうね。退屈はしないだろうけど」
「それはそれとして通例により咲夜さんは盗人を止められなかった罰で私共々夕食抜きです」
「Oh,No」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
咲夜が紅魔館に復帰したことは瞬く間に幻想郷中に知れ渡り、再び悪魔の狗が悪魔に付き従うのが日常の光景となった。
それは妖怪にとってはつい先日程度の出来事であり、人間にとっては目新しいニュースであった。
そして人間にとってもそれが当たり前となってかなりの年月が経った頃。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「三度目のオーバーホール&バージョンアップだけどどうかしら?今回は割と手を加えて身体能力を若干強化してみたけど」
「特に違和感は無いわ。相変わらず流石としか言いようが無いわね。アリス」
「別に私の技量だけが原因ではないわ。貴方の魂が人形の体に馴染んできたという事もあるもの」
「そうなのかしら。自分ではよく分からないけど」
「ではver4、最終確認よ。手、腕、足、首等各関節でうまく動かないところはある?」
咲夜の一挙手一投足に注視する。外見上は問題なさそうであるが。
「無いわ。確かにver3に比べて追従性が上がっているようね。なんか人間以上になってない?」
「なってないわ。人間の限界には挑戦してるからトップアスリート位にはなってると思うけど。とは言え余りいじりすぎると「貴方」でなくなってしまうし。まあ身体機能の強化は良好と。能力の行使に関しては?」
「多少時間停止時にタイムラグ、と言うのも変だけど…があるけどこれは初期からの現象だしおおむね問題なし。ver1からずっと差分ないわね」
能力に関しては変化なし、か。ここにも手を加えてみたのだが。これは私が手を出せる領域を逸脱しているということだろう。
悔しさに内心歯噛みする。
「そう…いろいろ試しているけど能力に関しては個体差が激しすぎて調整が難しいの。申し訳ないけど我慢して頂戴」
「かまわないわ。むしろ空間操作に関しては前より調子がいいし。一長一短。差し引き0よ」
「そう。では精神状態。喜怒哀楽の欠落や緩急の変化は無いかしら。泣いたり笑ったりできなくなってない?」
「特に問題無いと思うわ」
答える咲夜。確かにいつもと同じように見える。本人もそのつもりなのだろう。だが、作成者である私には咲夜の表情がver3に比べてわずかに硬いことが分かる。顔の筋肉、神経も含めた身体機能に異常はないはずなのに。
「…そう、お疲れ様。これにて最終確認は終了よ」
「ふう、毎度毎度迷惑をかけるわね、アリス」
「仕方ないわ、乗り掛かった船だもの。礼金も出てるしね。貴方が気にすることではないわ」
診断結果を羊皮紙に記載しながら答える。
「アリス」
「何かしら」
「貴方は私を咲夜と呼ばないのね」
筆が、止まる。
「貴方もお嬢様や魔理沙と同じく以前と同じように私と接してくれる。でも唯一、昔と違って貴方は私を名前で呼ばない。貴方にとって私は十六夜咲夜ではないのかしら」
「…」
「ごめんなさい、直に私の体を作成し、整備しているのは貴方だもの、以前と同じ感覚で対応できるわけ無いわよね。くだらない発言だったわ、忘れて頂戴」
「…それでも」
「え?」
「今でも私は貴方の友人のつもりよ」
「…ありがとうアリス。それじゃ私はこれでお暇するわね。代金はまた後ほど」
息を吐く。
今の咲夜が昔の咲夜と同一かどうかなど私には関係ない。
一人目の友人と二人目の友人を差別する理由などありはしないように。
「こいし、出てきて頂戴」
「はーい」
「どうだった?ver3への移行時に比べて変化はあったかしら」
「それっていつだっけ?」
でしょうね。まあ、期待はしていなかったけど。
「そう、では何か特筆すべき事柄はあったかしら」
「うーん、そうね。あの人の無意識は私と同じ年くらいの蝙蝠の翼が生えた女の子が大半を占めていたわ」
「あれはその翼の少女、レミリアという悪魔に使える従者よ。当然じゃないの?」
「うーん、そういう意味ならお燐やお空もお姉ちゃんに使える従者みたいなものだけど、無意識下ではお姉ちゃん以外のことが渦巻いてるわ。それは生物として当然のことだし」
「なのに彼女にはそれがない?」
「うん、むしろ彼女が意識して他のことに思考を向けないと際限なくそのレプリカ?ってやつのことだけを考え続けるんじゃないかしら」
人形の体を4つも経由した結果かしら。咲夜自身の遺志が弱くなっているようね。
「…レプリカじゃなくてレミリアよ。そう、ありがとう。じゃ、これはお手伝いのお礼ね」
「わあ、ありがとう。アリスのお菓子ってばさくさくふわふわで大好きよ」
「どういたしまして。ちゃんとお姉ちゃんやペットと分けるのよ」
「えー、アリスのために尽力したのは私だけじゃん。お姉ちゃんもあいつらも何もしてないし。ならばこのお菓子は全てこいしの物です!他の誰にも渡しません!」
「そんな事言わないの。お茶会は一人でするよりみんなでした方が楽しいものよ」
「そういうものかしら」
「そういうものよ。それに貴方がきちんとした労働の対価として得たものだといって振舞えば、さとりは感激して泣いてしまうかもね」
「何それ楽しそう!!お姉ちゃんの泣き顔を見ながらお茶会なんて最高ね!ゾクゾクするわ。分かった、このお菓子はみんなで味わうことにするわ」
相変わらず歪みなく歪んでるわね。
「アリスの報酬なら次の依頼も大歓迎よ。でも次の依頼はしばらく先かしら」
「さて、どうなることやら。また次に貴方が捕まるかどうかも分からないしね」
「ぶっぶー、今の私はある程度目を開いたり閉じたり出来るのです。覚り妖怪の美味しいとこ取り。常に無意識状態でうろうろしている訳ではないのですよ?」
「でも放浪癖は変わってないでしょうに」
「まーそうなんだけどー」
「それに次が彼女に存在しているかどうかも怪しいしね」
「?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「みずのえ3よりたい長へ。高速でいどうする何かをほ足。さむくなってきたのでたぶんチルノです」
「了解。なら迎撃は不要ね。警戒レベル2を維持。私が対処するわ。復唱」
「ふくしょーします。引きつづき全員だらだらみまわり!」
既に視認できる範囲にまで近づいている。やはりチルノだった。
「おーっす、美鈴」
「久しぶり、チルノ。今日は何か用かしら?」
「へっへーん。最近新しいスペルカードを考えたのよ。これであの偉そうな吸血鬼をぶっ倒してこの湖の覇者が誰かはっきりさせようと思ってね。邪魔するなら美鈴からこの弾散る氷の刃の錆にしちゃうんだから。さあ、そこをどきな!」
うーんどうしようか。確か今日のお嬢様は何も予定が無くて暇してるはずだし、通した方が退屈しのぎにはなるかもね。
「わかりました。ではようこそ紅魔館へ」
「ふん、あたいの強さに恐れをなしたね。ま、とおぜんだけど」
「…美鈴。何勝手なことをしているのかしら。お嬢様に害なすものを受け入れるなんて」
「さ、咲夜さん?」
時間停止は心臓に悪い。しかし、何でここに咲夜さんが?
「さてチルノ。お嬢様と戦おうというのであればまず私を撃破して御覧なさい。さもなくばお嬢様に謁見する資格は無い」
「ふん、平メイドなんかに逆立ちしたってあたいがやられるもんか。行くぞ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
結果は語るまでもない。逆立ちしてもチルノは咲夜さんに勝つことは出来なかった。
まあ、逆立ちしたら余計勝てないだろうけど。
残念だったねチルノ。今日は運がなかった。まさか咲夜さんが出張ってくるなんて。
「はあ、はあ、はあっ」
「息が上がってるわね。最初の威厳はどうしたのかしら」
「ふ、ふん、何調子に乗ってんのよ。本番はこれからよ!凍符「マイナスケ…」
「遅い」
咲夜さんの魔力が膨れ上がる。おかしい。これは…明らかに弾幕ごっこの域を超えている!
まずい。間に合うか?
「るびん?って、うわああああああああこんちくしょーアイスバリアー!って、何で凍らないのよ!」
「彩符「極彩颱風」!!」
実戦弾級の気を込めて打ち出した弾幕がチルノへ向かうナイフを破砕する。
なんとか間に合った!
「はあっ、はあっ、なに?何が起こったのよ?」
「…何のつもりかしら、美鈴」
「やり過ぎです咲夜さん!なんで弾幕ごっこにそんな致死量の魔力を込めてるんですか!」
「おかしなことを言うのね。お嬢様に害成そうとする輩を迎撃するのに手加減が必要かしら?」
咲夜さんは何を言っているの?チルノの行いなどいつもの戯れじゃないか。
それにチルノが全力を出したとしてもお嬢様を殺害することなど不可能だ。
チルノは妖精、自然の化身。対してお嬢様は不死者。自然死を超越したお嬢様が妖精相手に殺されることなどありえないのだから。
ゆえに本気にならなければいけない要素などどこにもない。
「害成すって、弾幕ごっこじゃないですか。殺し合いじゃないんですよ!!」
「う、う、ちきしょー、覚えてろよー!!!!」
「ほら美鈴、害虫に逃げられてしまったじゃない。貴方の責任よ」
「別に私の責任でかまいませんよ。いつものことですし」
「そう、それじゃ私は職務に戻るわ。門番の仕事、サボらないように」
咲夜さんは背を向けて館へと引き返していく。普段と全く変わらないその背中に悪寒を覚える。
虫の居所が悪かったってレベルではない。明らかにチルノを滅しようとしていた。しかもそれをさも当然のように。でも何故?
…やめやめ、考えるのは知識人の仕事。私は体を動かすのみ。こういったことはパチュリー様に相談しよう。
買出しから帰ったメイドを捕まえる。
「タンクー。ちょっとこっちこっち」
「およびですか美鈴隊長?」
「うん、ちょっと図書館に行ってくるから門番代理をお願い。テンパランスにはこっちから言っておくから。敵襲があったら警戒レベルを4に移行すると共に図書館目がけて砲撃をぶち込んで。すぐ戻るから」
「アイアイマム」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
館内に入り、気を開放して周囲の様子を探ってみる。咲夜さんの調子がおかしかったから念のためである。
異常はない…ん?心なしか館内の妖精メイドの数が減っているような。
「ちょっとそこのあなたたち」
「あ、えーとなんでしょうかケンポーたいちょー」「たいちょー」
「貴方達の同僚ってこんなに少なかったかしら?」
「うーん、最近いなくなるメイドが増えたよーな気がしないでもなかったりしちゃったり?」「するよね」
「最近何か変わるようなことがあったの?」
「うーんと、なんかあったかな?」「そうね、最近人間メイドが怖い?」「あ!こわい!」「ちょっと怖いよねー」「これオフレコで」
「そもそも記録してません」
「そーなのですか」「まあ怖いのです」「ガクブルですな」
「…そう、ありがとう」
咲夜さんの様子がおかしいのは今日に始まったことじゃないということか。
ますます問題が膨れ上がる。
知識人の頭脳に一縷の望みを託しつつ、私は図書館の扉を開ける。
「いらっしゃいませ美鈴様。本日はどのようなご用件でしょうか」
「ちょっとパチュリー様に用事があって。取り次いでもらえるかしら?」
「えーと、はい。特に今日は予定が無いので大丈夫だと思います。少々お待ちいただけますか?」
「了」
パチュリー様しか頼れる人はいないのだから。
「あらいらっしゃい。珍しいわね貴方がここに来るのは」
「ええと、はい、パチュリー様もお元気そうで何よりです」
「で?」
「はい?」
「用件。貴方は特別な用事が無い限り私を呼びつけたりしないでしょう?」
「あ、はい、ええと、咲夜さんのことなんですけれど」
--少女説明中--
「なるほど、つまり咲夜が殺気立っているように見えると」
「いえ、ええとうまく説明できないんですが、殺気立っているというよりもむしろその逆で」
「逆というと?」
「ええと、殺気は無いのに殺意を振りまいてるというか…」
「無感情に攻撃しているように見える?」
「はい、そんな感じです。殺意が無いのに殺害してるような。うーんなんといったら言いか、なんか咲夜さんから完璧はともかく瀟洒が抜け落ちたような感じで」
「なるほど。よく分かったわ。もう下がっていいわよ」
落胆する。パチュリー様は今日も定常運転だ。とはいえ、このまま引き下がるわけにもいかない。
「パチュリー様。私は咲夜さんの豹変に対し、パチュリー様のお知恵を拝借したく…」
「咲夜を雇い入れたのはレミィの判断よ。咲夜の進退を決めるのもレミィで、客人である私や従者であるあなたには口出しする権利は無いわね」
お嬢様を引き合いに出されてはぐうの音もでない。
「……そうですか。失礼いたしました」
「ああでも」
「?」
「今の咲夜はアリスの作成した人形がベースだし、魔女としても少し興味があるわ。調べてみるのも面白いかもね」
要するに協力してくれるということなんだろう。何でパチュリー様ってこんな意味も無くひねくれてるんだろうなぁ。
「何か言ったかしら?」
「いえ、何も」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「それではお嬢様。本日はいかがなさいますか?」
「うーん、そうね。こんな気持ちのよい曇り空だし、散歩にでも行ってみようかしら」
「分かりました。念のため傘を準備いたしますね」
「うん、キーパー達に連絡を入れといて頂戴」
「心得ました」
今日は太陽が姿を現さない。実に良い日だ。
咲夜と二人、湖上を飛行する。
「幻想郷は変わりませんね、今も、昔も」
「そうね、変わらないという事はよいことだわ」
「お嬢様は変化がお嫌いですか」
「好きではないわね。美しかったものが朽ちて、腐敗し、見る影も無くなっていくのはとてもとても悲しいことだ。お前は違うのかしら?」
「朽ちて倒れた樹は再び美しい花を咲かせる礎となりますわ。むしろ一年中咲き誇る桜に美を見出せるでしょうか?」
「さてね、夏にも秋にも咲く桜を見たことが無いから比較のしようが無いわ」
「なるほど、確かにその通りですね。と、お嬢様。気づかれているとは思いますが何者かが高速で接近中ですわ」
「見えてる、魔理沙だな」
咲夜の言うとおり、白黒で箒にまたがった者が近づいてくる。高速な白黒は複数心当たりがあるが、箒にまたがるのは一人だけだ。
「よう、レミリア。こんな浮かない天気の日に散歩か?っと吸血鬼のお前には絶好の散歩日和だったか」
「ええ、静かな散歩のつもりだったのだけど。どうやら騒がしくなりそうね」
「よく分かってるじゃないか。ちょっと新しい弾幕を検討中でね。どうだ、久しぶりにこの遮蔽物の無い空間で一敗付き合えよ」
暇をしていたのは事実、だが今日は何故だか余り体を動かす気分ではなかった。
なので相手を咲夜に振る。
「ふん、私に挑むならまず前座をクリアしてからにしてもらおうか。咲夜」
「はい、お嬢様。さて魔理沙。お嬢様に挑むなら私を倒してからにしてもらおうかしら」
「ふん、アリスに聞いたぜ。身体能力が向上したらしいな。だがその程度で私に勝てると思うなよ!!!」
「向上したのが身体能力だけだと思わないことね。貴方の時間はお嬢様とは交わらない!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
魔理沙と咲夜の決闘は数十分に亘った。
どういうわけか自分から勝負を挑んでおきながら、魔理沙は防戦一方であり、しかし攻勢である咲夜はその魔理沙の防御を突破できないでいた。
驚いた。以前は防御など省みず速度で何とかする魔理沙だったが、今の魔理沙は防御もまた上位妖怪に迫るほどである。
…にしても今日の咲夜はいやに行け行けモードね。
「ふー、ふぅ、いい加減に降参したらどうだ。手詰まりだろうに」
「はあ、はあ、悪魔の犬に降参は無いのよ。そっちこそ、はあ、息が上がってるわよ。新しい弾幕とやらは、はあ、どうしたのかしら」
「対妖怪用だ、ふー、お前に使っても意味が無い。ふぅ、おまえこそ人形体の癖に息が上がるんだな」
「はあ、魔力の排出過多による、身体制御系の機能低下よ、はあ」
このまま続けても泥仕合になるだけだろう。第三者として勝負の結果を伝える。
「どうやらドローね、双方手を引きなさい。残念だったわね魔理沙」
「ちっ、ここまでか」
「口ほどにも無いわね」
「まあいい、ところでレミリア。気付いているか?」
魔理沙の質問内容に心当たりはない。いきなり話を振られても困る。
「…?なんのことかしら」
「はー、妖怪の中でも特に絶大な魔力を誇る吸血鬼様じゃ瑣末には気が付かないか。…良く見ろ、どうやら雨になりそうだ。私はこれで失礼するぜ」
「あら、尻尾巻いて逃げるのかしら」
「うるさいな、目的は果たしたから問題ないんだよ」
「お嬢様、確かに魔理沙の言うとおり若干空模様が悪うございますわ。雨にならないとも限りません。我々も帰館いたしましょう」
「やれやれ、たいした散歩にならなかったわね。まあ、弾幕を楽しんだし良し、とするか。それになんか疲れたし」
「はい、お嬢様」
「じゃあなレミリア、嵐に気をつけろよ」
魔理沙はさらに何かを言い募ろうとしたようだったが、結局口をつぐんだ。
「いくらなんでも、この天候から嵐にはならないでしょう?」
私の応答に対して、魔理沙は首を振りつつ、何かつぶやいた。…あれは。パチェが良く使っている…
その後、魔理沙は魔法の森に帰っていった。すれ違いざまに気になる言葉を残して。
「咲夜は、私を殺す気だったぜ」
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「Bonsoir,mademoiselle.そんな浮かない顔をして何事かお悩みかしら?」
ベッドを抜け出しテラス目差して歩いていた私に声をかけたのは、最も廊下で出会うことがありえない人物だった。
珍しい。こちらから声をかけることなく図書館から出てくるとは。
しかしちょうど良い。相談相手としてはこれ以上の適役はない。
「パチェ、こんばんわ。やっぱり分かる?」
「先ほどからレミィが図書館の前を通り過ぎた回数は3回、時間にしておよそ一時間。周期にしておよそ20分に1回。歩数にしておよそ6600歩。距離にしておよそ一里」
「う」
どうやらテラスに行くつもりが、長いことボーっとしながら館内をうろついていたようだ。
つまり、何度も図書館の前を通り過ぎる気配を訝しんで出て来たということか。
「散歩好きなレミィに愚かな提案があるのだけどどうかしら?私でよければレミィの話し相手になるわよ」
「ビミョーな嫌味はともかくありがとうパチェ。知恵を貸して頂戴」
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「さて、それで何を悩んでいるのかしら」
ーー少女説明中ーー
「なるほど、それで別れ際に魔理沙が、咲夜が自分を殺そうとしていると言ったと」
「ええ、咲夜に聞こえないようにわざわざ消音の魔法まで使ってね。魔理沙はあれで生死にかかわるような嘘は付かなかった筈。本当に咲夜は魔理沙を殺そうとしていたのかしら」
「そうでしょうね」
「即答とはね。心当たりがあるの?」
「勿論。私が魔理沙に依頼したんだもの。レミィに喧嘩を売って欲しいって」
友人の言葉に愕然とする。
「ちょっと、どういうことよ」
こちらの動揺などどうでも良いかのようにパチェは話を進める。
「これから話す内容は状況からの推論になる。ほとんどアームチェアディテクティブと変わりないわ。整合は取れているけど、物的証拠はなく、信頼性は薄いわよ」
「発言内容が曖昧さを含むことは了承したわ。だから話して」
「あまり推論でものを言いたくないのだけど、仕方ないわね。事の始めはゲートキーパー - 美鈴の進言ね。美鈴の話では、レミィを襲撃しようとしたチルノを咲夜が逆に滅しようとしたという話だった。通常咲夜は刃物を弾幕ごっこの道具として使用するため、刃の周りの空間を制御して刃物が標的に対してほとんど刺さらないようにしている。これは知っているわね」
「ええ」
ナイフが深く刺さったら人間や妖精相手では確かに洒落にならないしね。最低限のマナーだ。
「でも今回、美鈴の話では咲夜の放ったナイフはチルノのアイスバリアをすり抜けたそうよ。普通の弾幕ごっこに用いる弾幕なら間違いなく凍りつくはずなのに。つまり咲夜はチルノに相対するにあたり、逆に相手を傷つけるよう魔力を込めていた、と推測できる。殺意の波動を込めたナイフならば、いくらチルノが最強格の妖精であるとはいえ、拡散する広域バリアで抑えきれるはずは無い」
「何でチルノ相手にそんな…」
「で、魔理沙の話に戻るわね。魔理沙に確認したところでは忌々しいことに咲夜はこの図書館を襲撃する魔理沙に対しそのような手段をとったことは無いとのこと。では、咲夜は特別に魔理沙を保護し、チルノを差別するような性格だったかしら?」
といわれても、そこまで咲夜の個々人に対する対応には詳しくないのだが。だから悩んでいたのだし。
とりあえず分かる範囲で回答する。
「うーん、確かに咲夜は人間同士だからか魔理沙に甘いところがあったけど、だからといってそこまで差別をするような性格じゃなかったわね」
「それを確認する為に魔理沙に依頼したの。咲夜が弾幕ごっこに見せかけて相手を殺す気だったかどうか見極める為に、図書館を襲うのではなくレミィを襲えって」
「…まさか」
「その結果、咲夜は魔理沙を殺そうとした。既に咲夜も長年のブランクを克服して昔以上の弾幕の冴えを見せてはいるけど、普段より努力を続けている上、数々の異変解決に首を突っ込んでいる魔理沙のほうが弾幕ごっこの実力は上のはず。なのにレミィの話では魔理沙は今回咲夜と互角だったという。それはなぜかしら?」
力量差があるのに、勝負は互角。魔理沙が手加減していたようには見えなかった。つまり。
「つまるところ魔理沙はいつもどおりの弾幕を展開したのに対し、咲夜はチルノに挑んだときと同様に魔理沙を殺すべく弾幕を展開し、結果魔理沙は自分の身を護る為に防御と回避に傾注したからに他ならない。では何故急に咲夜は魔理沙に牙をむいたのか」
普段図書館を訪ねる魔理沙と先刻の魔理沙との違いは…
「…魔理沙が、私に挑んだから?」
「おそらくそれが正解ね。チルノの時を含め、現状咲夜はレミィに挑むと明言したものには殺害を厭わない、いえむしろ積極的に殺害しようとしていると推測される」
「つまり、私を傷つける可能性があるもの全てを、咲夜は排除しようとしている?」
「それなら良いのだけどね。多少やりすぎはあるにしても忠犬としてはまだ正常な行動だもの」
「それだけではないの?」
「最近、館内の妖精メイドが減っているわ。あの黄色いハウスキーパーが今はうまくまわしているようだけど、このままだと妖精メイドだけでは館内の手入れが覚束無くなるかもね」
魔女の話は本当にころころと変わる。当人の中では繋がっているのだろうが、聞かされるほうとしてはちんぷんかんぷんだ。
魔理沙の話をしたと思ったらチルノ。魔理沙に戻ったと思ったら今度は妖精メイドだ。パチェは一体何が言いたいのか?
「急に話が変わったわね」
「変わってないわ。黙って聞きなさい。ハウスキーパーの話では辞表を提出したメイドは0との事よ。身勝手が信条の妖精と言えど、館内に雇い入れるに際して、退職時に一言報告するくらいの教育は施しているでしょう。それが無理でも周囲に苦情や愚痴、ないしは新たな興味の矛先をこぼすはず。しかしそれすらないらしいわ。これの意味することが分かるかしら」
ええと、メイドたちは辞めたいという意志を周囲に示す前にいなくなってしまっているということか。
それの現すことはつまり、自主都合による退職ではないという可能性が非常に高い、ということ。
「つまり、妖精メイドは自分からやめているわけではなく、何者かに襲撃されて消滅している?」
「そう考えるのが無難ね。完全に消滅してしまってから再生した妖精は大半の記憶を失っている。紅魔館に戻ってくるのは絶望的でしょう。では誰が紅魔館の妖精メイドを襲撃しているのか?美鈴はあれで割と有能よ。突破されることはあっても招かれざる客に気付かないことは無い。それがあの子の能力だもの」
目的はさっぱりだが、私とて馬鹿ではない。一連の話の流れから、パチェが何を言いたいかは把握できた。
「…話の流れから察するに、咲夜が妖精メイドを襲撃していると?」
「私も現場を見たことは無いけどね」
「何故咲夜は妖精メイドを襲っているのかしら。妖精メイドが私を襲撃しようとしたということ?」
「いたずらで貴方を襲撃しようとした妖精を咲夜が撃墜した、ということは大いにありうるわ。何せ妖精のすることだしね。実際エンペラーみたいな前例もあるし。とはいえ、いなくなった妖精は既に2桁に上っているわ。その全てが貴方を襲おうとした、と考えるのはいささか不自然に過ぎる」
確かに。
「これらの事実からかろうじて分かることは、少なくとも今の咲夜は貴方に近づく存在を何らかの理由で殺害して回っているということ」
「肝心の理由は明らかではないのね?」
「近づくもの全てが殺害対象なら、わたしもまた咲夜に襲われているはず。しかしまだ咲夜は私に挑んできてはいない。そこの基準は不明なままね。しかし今の咲夜は紅魔館にとって害悪と判断せざるを得ない」
「ええ、私に近づこうとするものを勝手に処分されてはたまらないわ」
「その通りね。加えて今の咲夜はハウスキーパーではない。今咲夜が行っていることは明らかな越権行為であると言える。ましてや妖精のみならず紅魔館外の者に対しても殺害意欲を隠さないとなればなおさらよ。下手すれば巫女や八雲が動き出す事態につながるわ」
その通りだ。現状の推論では咲夜の判断基準は不明なれど、私が外出をやめない限り下手すれば村中での殺傷沙汰すらありうるのだ。
「ま、今はタイミングよく巫女の引継ぎ期間で巫女不在だからあわてることはないと思うけど。以上が現状把握になるわ。質問はあるかしら」
「では、動機はともかく咲夜がそのような行為をとるようになったか、パチェには目星が付いてるの?」
「分からないわ。でも、以前の咲夜と比較して、変わった原因に関しては明言できる」
「それは?」
「いまの咲夜の肉体が生れ持って経たオリジナルではないということよ」
それはそうだ、咲夜の肉体は本人の望みで既に火葬してしまっている。
いまさらオリジナルの肉体など望むべくもない。
「確かに、今の肉体はアリスが作成したものだけど…」
「内容物が変化しない事を望むのなら、器の選別には注意が必要よ。液体窒素を保存するのにデュワー瓶が必要なように、強酸を保存するのにガラス瓶を用いるように。ふさわしい器を用意しなければ内容物の変化をとどめることは不可能だわ。下手すれば器を破壊してそのままおじゃんよ」
「つまり、アリスの作成した肉体が不完全であるということ?」
「一言で言ってしまうならそうなるわね。ただし、アリスの名誉の為に言っておくけど、そもそも人の魂をあれほど効率的に収めることの出来る器を用意する技術において、アリスの右に出るものがこの幻想郷にいるとは思えないわ。いえ、幻想郷外に範囲を拡大してもそうそうそんな技術があるとは思えない。まさにあれは職人技、一種の神業と言っても良い出来栄えよ。それを二つ三つと作成しているアリスに対してはもはや脱帽するしかないわね」
「でも咲夜はおかしくなっている」
「当然よ。アリスの作成したものはあくまでアリスの再現した咲夜の肉体であり、咲夜が生まれ持った肉体と同一では無い。同一でない以上、何らかの差分が生じるのは当然のことよ。でもそれを責めるのは酷を通り越して理不尽ですらあるわ。厳密な解釈をするならこの世には二つとして、同じものは存在しえないのだから」
だがしかし、それは。
「つまり、今後も咲夜の魂は今宿っている肉体に引きずられていくということ?」
「そのとおり。咲夜の魂が人間のそれであるならば、魂ではなく身体を主体とするはず。故に宿る人形体にあわせて変化していくでしょうね。ただ、変化がどのような形で出てくるかは分からない。故に今の咲夜の豹変の原因がこれによるものかどうかも実のところ分からない。ただし、今の咲夜がかつての咲夜と比較して何らかの異常をきたしているであろう事は確実であると言える。まあいずれにせよ、時を止めでもしない限り、変化を防ぐことは出来ないということね。オリジナルの肉体ですら、成長、老化という変化があるのだから」
唯一の救いは成長がそうであるように、変化が生きていくうえで必ずしも有害であるとはかぎらないといったところだろうか。
「…」
「今の私が説明できるのはここまでね。さて咲夜の意図は現時点ではさっぱり分からないけれど、レミィがしなければならないことは明白だわ。分かるわよね?」
「…ええ」
「選択肢は3つ、一つ、今の咲夜を受け入れて妖精メイドをすべて排除し、貴方は紅魔館に引きこもって一切の来客、外出を拒否し咲夜が生存していたころの日常を取り戻す」
「一つ、未だ明確な理由が明らかになっていない咲夜の行動原理を把握し、咲夜復活当初の日常を取り戻す」
「その通り、最後の一つ。今の咲夜を排除し、咲夜の死後の日常を取り戻す。この3つね。無論、何もせず運命に流されるという選択肢もあるけれど貴方がそれを選ぶわけ無いものね。一朝一夕で答えを出す必要は無いでしょうけど、あまり時間に猶予があるとは思えない。いずれは答えを出さなければいけない問題よ。それは心に留めておいて頂戴」
「…分かったわ。相談に乗ってくれてありがとう」
「ま、知恵を出すのが知識人の務めだからね」
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パチェに相談に乗ってもらってから四日が経過した。いまだ私は答えを出せずにいる。
当然、選ぶべきは2つめだ。咲夜が昔の咲夜からずれていっていることは理解できた。
だがしかし咲夜が殺害を選択する理由が分からない。
妖精がわたしを殺せないことを理解していないはずがない。魔理沙が、私を殺す気などないことを知らないはずがない。
妖精メイドを、チルノを、魔理沙を殺そうとする今の咲夜の意図はなんだ?
分からない。頭が重い。なにがなんだか分からない。
バタン!
ノックも無しに急に扉が開け放たれる。
「お、お嬢様ーー!!」
「当主の部屋に入室するのにノックもしないとは何事か!」
「それどころじゃありません!後悔したくなかったら言うこと聞きやがれです!!!」
「おっ、おう?」
「現在テンパランスと咲夜さんがロビーにて交戦中、いえ、殺し合い中!話し合いによる収束はほぼ不可能です!」
「何を言っている。そのような魔力は感知できていないぞ」
「ごちゃごちゃうるせー!!見に行ってもいないのに知ったような口たたくんじゃねー!!」
咲夜とテンパランスが?妖精の悪戯による虚偽の報告か?そう思いたい。
だがパチェ曰く、咲夜には前例があるのだ。
加えて妖精にここまで芝居ができるとは思えない。
「…いいだろう。貴様は…斑メロン色だから確かハイエロファントだったか」
「アイマム!ハウスメイド所属。ハイエロファントです!来るなら早くしろ!でなければ帰れ!!」
「帰れってどこへよ!ええい説教はあとだ。嘘だったら貴様の首をそぎ落とすぞ!ハイエロファント、案内しろ!」
「アイアイマム!」
「私に対しての返事は「はい。お嬢さま」だ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「どうしてですか咲夜さん!何で私たちを認めてくださらないんですか!!」
「所詮貴方達は妖精。日々進化していく外敵の侵入に対処できるとは思えないわ。ならば不要なものを残しておく意味も無い。それだけよ」
「これまでだって私たちはレミリア様をお守りしてきました。これからだって出来るはずです!!」
「楽観的推測に興味は無いわ。諦めて退場なさい」
まさか、咲夜さんと正面きって争うことになるとは。
私たちは自然の化身。対して咲夜さんは人間でありながら時間と空間すら操作する超自然の支配者だ。
存在そのものが超自然なお嬢様とは異なり、勝ち目は0%ではないもののほとんど無いと言ってよい。
…だからといって、戦わない訳にもいかない。悪魔の狗に退却は許されない。
それは咲夜さんに叩き込まれた、紅魔館のメイドが遵守すべき義務だから!
「エンペラー!!霧を出して!!」
「えーでも咲夜さんに目くらましなんて無意味じゃない?」
「いいから早く!!」
「らじゃー、水符「三里霧中」!」
「無駄よ、傷符「インスクライブレッドソウル」」
(右じゃない!左だ!!)
「へえ…良くかわしたわね。なるほど、霧の動きから私の時間停止時の挙動を判断したというわけね」
「「水符「安物紫鏡」!」」「いまだ!金木符「エレメンタルハーベスター中級」!」
とった?
しかし私の淡い希望は絶望へと変わる。
時間停止の前では奇襲など、気付かれた時点で意味がなくなる。
「「避わされた?」」「そんな馬鹿な。何かの間違いではないのか!」
「隙を突いて十字砲火が得意なニクリとニクラが挟撃して足止めし、ハングドがトドメ、か。悪くないわ。でも」
「「やーらーれーたー」」「いてーよぉーぅ…」
空間転置により互いに放ったスペルカードで同士討ちさせられたラバーズとハングドがまとめて落ちる。
「無駄。せいぜい落とせてチルノがいいとこよ。ここまでね、消えなさい」
「っくう!土符「レイジィトリリトン中級」!」
「ふん、粘るわね。でもそれももうお終いでしょう。幻葬「夜霧の幻影殺人鬼」」
しまった!霧が重なって動きが読め「さようならテンパランス」
ここまでか…やれるだけのことはやった。しかし、及ばなかったということだろう。
数瞬後に訪れる消滅を覚悟する。
私も冷静になったものだなぁ。無邪気な野良妖精だった頃が走馬灯のように頭をよぎる。
…走馬灯見たことないんだけどね。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「夜符「バッドレディスクランブル」!」
「お嬢様?」
「た、助かった!?…す、すみませんお嬢様」
どうやら死者がでる前に間に合ったようだ。あのメロン色のメイドには後で褒美を取らさなくてはね。
「ふん、領民を護る。カリスマを維持する。両方やらなくちゃいけないのが貴族のつらいところね。さてと、テンパランス。咲夜。…これはどういう了見かしら」
「あーうー。これはですね。些細な意見のすれ違いというか…」「下克上ですわ。お嬢様。トリウム系列の数より良くあることです」
言葉を濁そうとしたテンパランスに対し、咲夜は明言する。
「…へえ。わざわざ空間遮断まで行って、ね。詳しく聞かせてもらおうかしら」
「詳しく説明することなどありませんわ。今言った内容が全てです」
話の内容から察するに、どうやら咲夜から妖精メイド達に攻撃を仕掛けたことは間違いないようだ。
とはいえ、私も未だ己の方針を決めかねている最中。
ゆえに処分は消極的なものとなる。すなわち中核の個別管理である。
「ふん、そうか。ならばよい。十六夜咲夜、テンパランス両名は以後一週間自室謹慎とする。私の許可無く己の意思で外出した場合はいかなる理由であれ反逆行為とみなし紅魔館の全勢力を持って処分する」
「うぅ、分かりました」「…拝命しました」
「なお両名の謹慎中の代行にはそれぞれハングドを臨時ハウスキーパー、ハイエロファントを臨時レディースとする。…返事はどうした!」
「「アイアイマム!」」
「私への返事は「はい。お嬢さま」だ!ではハングド、ロビーの修復に当たれ。ハングドからの呼びかけの無いものは解散!」
『アイアイマム!』
「返事は「はい。お嬢さま」だって言ってるだろう!?10秒前のことくらい学習してよ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今日も月の光を浴びながら私は廊下を歩く。
なんか最近の日課になってしまった。
いつもと違うのは今日も一週間前と同じく珍しくパチェが私の前にいること。…今日は図書館の前を通り過ぎるのは一回目よね。
「mademoiselle.先日の悩み事に対する解答は出たのかしら」
「パチェ…」
「レミィと別れてから今日でちょうど一週間、時間にして168時間。分にして10080分。秒にして604800秒、といっている間にも23秒が過ぎてしまったわ」
「…」
「解答は出ていないようね。では今日もレミィの話し相手になりましょう」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「さて、レミィの周囲で何が起こったかはおおむね把握しているわ。なので私が新たに調べて判明した事実から報告しましょう」
「…」
「覇気が無いわね。まあいいわ。まずは咲夜の豹変の原因だけど。今の咲夜は過去にとらわれている、という表現が適切かしらね」
「…というと?」
「ようやく目に正気が戻ったわね。そう、咲夜は昔の紅魔館の再現を望んでいる」
滅茶苦茶だ。
パチェの発言と咲夜の行動がまったくつながらない。
「何を言っているの?咲夜が妖精メイドを抹消することとつながらないわ。そもそも昔っから妖精メイドは居たじゃない」
「昔の紅魔館は咲夜が一人で回しており、今は妖精メイドが手分けして回している。昔の妖精メイドは枯れ木もいいところだったからね。でも今の妖精メイドは違う。十分とはいえないまでも八分程度にはこの紅魔館の手入れが出来ている。だから昔の紅魔館に戻るには妖精メイドの存在が邪魔であり、故に妖精メイドを抹消していった」
…ばかな。
「ちなみにいなくなったのはわりと業務をこなせるメイドばかりだったということよ。札付きを真っ先に排除しなかった理由は不明だけど」
信じたくないが、パチェは自分から裏づけのない予測だけの断言など絶対にしない。ならばこれは真実なのだろう。
「…なぜ、咲夜は昔の紅魔館の再現を望んでいるの?」
「簡単なことよ。昔貴方が操った運命、「十六夜咲夜はレミリア・スカーレットと共に在るべし」という命題を満足するにはそのほうが都合が良いからでしょうね。有能な妖精メイドがすべていなくなればレミィの相手をするのは常に一人だけ。レミィのそばに立つのも常に一人だけ。実に非効率的で確実な手法だわ。チルノや魔理沙の殺害未遂もその延長ね。貴方が彼女達の為に割く時間を削りたかったのでしょう。私が狙われなかったのは日常私からレミィに話しかけることが少なかったからかしら。いずれは私も抹消対象に含まれるかもね」
絶句する。そんな、しかし、何故?
「…分からないことがある」
「聞きましょう」
「「十六夜咲夜はレミリア・スカーレットと共に在るべし」という命題を満足するなら、私の眷属になることが最も効率的なはず。なのに咲夜は人間のまま死を迎えた。咲夜は一体何を考えているの?あまりに矛盾しているわ」
そう、私と運命を共にするなら、眷族になってしかるべきだろうに!あのように老いぼれて死を迎える必要はなかったはずだ!
「さて、彼女が何を考えていたか、それは私の知るところではないけれど。何故眷属にならなかったかという観点から論ずるならば、答えは明白であるといわざるを得ないわね」
明白だと?次の句を告げる為に息を吸うパチェの呼吸が永劫に思える。
「すなわち、人間だったときの咲夜は運命に操られることを拒絶していたという事でしょうね。それもきわめて偏執的なまでに」
「なぜ、そう断言できるの?」
「レミィのいった通りよ、「十六夜咲夜はレミリア・スカーレットと共に在るべし」という命題を満足するなら、眷属になるのが最も確実且つ合理的な判断だわ。しかし彼女はそれを選ばなかった。ならば咲夜は己の意志で「十六夜咲夜はレミリア・スカーレットと共に在るべし」という運命を拒絶していたということは明らかでしょうに」
咲夜は、死の瞬間までずっと、私を拒絶し続けたということか。改めて聞かされると、苦しさが、私を、苛む。
そして、ならば何故、戻ってきたのか。
「さっきも言ったとおり、なぜ人間十六夜咲夜が眷族となるのを拒否したのかは私には分からない。ヴァンパイアハンターとしての最後の誇りか、はたまた種族を違える事に恐怖を感じたか、人間という種族に愛着があったか、もしくはレミリア・スカーレットという敬愛する主に運命に流されるのではなくあくまで己の意志で仕えることを望んだのか」
「…」
「理由は分からなくても咲夜が運命を受け入れることを拒絶したのは間違いない。しかしその意志も十六夜咲夜の肉体が死を迎えた時点で潰えた。肉体を主体とする人間が肉体を失ってなお超自然に対抗することは不可能でしょう。ゆえに今の咲夜は運命に従い、貴方と共に在るために貴方の元へ帰ってきた。これが一連の流れでしょうね」
「全ては私が咲夜の運命を書き換えたことに端を発する、ということね」
紅魔館の現状は、全て私の手によるものということか。
「ええ、そうなるわね。ただそう複雑に考える必要は無いわ。この幻想郷において能力の行使は個人の自由。やり過ぎれば放っておいても博麗の巫女がボコりに来るし、そうでなければ望みのままよ。巫女に粉砕されるまではやりたいようにやればよいわ」
「人一人の運命を玩具にしているというのに?」
「悪魔の台詞とは思えないわね。それ」
痛烈な皮肉だが、返す言葉もない。
「…そうね」
「さて、どうするのかしらレミィ。現状から2つめの選択肢は選択不可能であることは間違いない。咲夜の魂は人形体に定着し、人形は運命に抗うことなく、貴方の周囲に近づくものを駆逐する。咲夜の魂を現世にとどめているのが「貴方と共に在れ」という運命操作によるものならば、解除すれば咲夜には再び寿命が戻ってくる」
つまり運命操作を解除すれば、咲夜は死ぬ。
そして妖精にも既に犠牲者が出ている。放っておけばこれからも増える。もはや誰も失わないという選択肢は残されてはいないのだ。
「貴方は咲夜とハウスキーパーに一週間の謹慎を命じたそうね。彼女達のそれぞれに、自分が紅魔館を支えてきたという実力と実績と自負がある。ならば一週間後の再戦は確実だわ。それまでに残る二つのどちらかを選ばないと貴方は自分で操ったはずの運命に流されることになるわよ。それはあまりに滑稽ね」
「…パチェの意見は?」
「良い質問ね。私の意見を聞くと見せかけて判断材料を探している。ふふ、では誤解を招くのを承知でこのパチュリー・ノーレッジ、あえてここに明言しましょう。今も昔もこれからも、私がレミィの相談役で、そして何よりも本をむさぼる魔女であることに代わりは無い。館内を統括するメイドが誰であれ、ね。ゆえに私にとってレミィがどちらを選択しても私の生活にはまったく関係が無いわ」
「…そう」
「傷つく事が怖いのね? 喪う事が怖いのね?信じる事が怖いのね?だからこそ私は貴方の話し相手になった」
「…」
「さあ、私が把握している情報は全て包み隠さず貴方に明示した。後はあなたが望む結末になるように自らの力で好きな未来を選びとりなさい。他の誰にはできなくとも、貴方の能力にはそれができる。それは最大の娯楽であり、愉悦であり、贅沢よ。下らぬモラルや恐怖など振り払いなさい。行使しない理由はないわ」
「…ありがとう、親友」
図書館を後にする。
パチェは裏づけのない推論の披露を好まない。断言口調の多い今日の話は全て、綿密な調査に基づいた上での発言なのだろう。
なんだかんだでパチェは己の存在意義である読書の時間を割いてまで能動的に現状把握に勤めていてくれたのだ。持つべきものは心優しき親友である。
しかし。
「何でパチェってこんな意味も無くひねくれてるんだろう」
素直に応援してるわ、頑張って、って言えないのだろうか。
まあ、言えないんでしょうね。パチェってば周囲には隠しているけど物凄い照れ屋だし。
さて、親友からのありがたい忠言だ。前を向いて往くとしよう。とはいえ
「好きな道を選べ、か」
選んだ道を何度も変更できるわけでもない。何度も変更するということは選択を軽んじていることに他ならない。
「もう少し情報が必要かしらね」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「いらっしゃいレミリア。何か御用かしら」
「ええ、今日は今まで私と咲夜のために尽力してくれた貴方に腹を割って話をするために来たわ」
おそらくは咲夜についての話だろう。よろしい。今日ここでレミリアの葛藤に決着をつけましょう。
「長くなりそうね」
「ええ」
「あと5分でクッキーが焼きあがるの。お茶の準備もあるし、いま少しは思考の整理に当てていてもらっててもいいかしら?」
「ああ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
レミリアの前に、少し冷ました紅茶と焼きたての洋菓子を準備する。
「はい、今日はウバね。それとラングドシャ」
「ん、相変わらず紅茶の抽出は完璧ね、アリス。咲夜に勝るとも劣らないわ」
「ありがとう。今日は余裕があるのね」
「いや社交辞令だよ。実際のところいっぱいいっぱいで余裕は無いんだ」
話をしに来た、ということだがレミリアは改めて口を開くことなくなにやら思案している。
仕方がない。こちらから話を振る。
「ふうん。で、何が聞きたいのかしら。まずは言いたい事より聞きたいことって顔ね」
「お前は、今の咲夜と人間だったころの咲夜の差分についてどこまで理解している?」
「…」
「できれば、ありのままを答えて欲しい。この通りよ」
驚いた。プライドと幼心の塊であるレミリアが格下相手に頭を下げるとはね。でも。
「…頭を上げて頂戴。自分より実力がある相手に頭を下げられるのは馬鹿にされているみたいで好きじゃないの」
「私は貴方を格下などと思ってはいないわ。いえ、正確には思っていたことはあった。でも、それがいまでは過ちであったことを理解している。存在価値は腕力や魔力だけで測りきれるものではない。人形や人体に関しては間違いなく貴方は私の上位にいる。だから頭を下げるのよ」
頭を上げる気はない、か。ならば。
「人形、十六夜咲夜に関するデータ:筋腱、32%の向上。関節の駆動範囲、13%の向上。反応速度、7%の低下。魔力容量、55%の向上。魔力放出、22%の低下。治癒速度、30%の向上。治癒可能範…」
「ちょ、ちょっと待って、私が知りたいのはそういうことじゃなくて」
でしょうね。
「ようやく頭を上げたわね。腹を割っての会話ってのは相手の目を見てするものよ。理解したら背筋を伸ばして、私の目を見なさい」
ドヤ顔をしてみせる。この表情嫌いなんだけど。でもまあ、レミリアの緊張もこれでほぐれたようね。
では話に入るとしましょうか。
「さて、私から見れば、今の咲夜はまさに貴方の人形ね」
「やはり、そうなのか?」
「ええ、もともと私が作成した人形が肉体となっているのもあるにせよ、今の咲夜は非常に操られ易い。例えば運命の糸とかにね。咲夜が人間だったころのあの強い意志の輝きは感じられないわね」
そう、今の咲夜はレミリアの操り人形だ。
「人間、十六夜咲夜の肉体が死を迎えてしまった事実はいかにしても変わることは無いわ。あのワーハクタクもいかなる理由であれ、人の死を無かったことにする気は無い様だしね。ゆえに私に出来たことはあくまで、咲夜の魂が宿りやすい器を用意することだけ。そしてあくまで人形遣いである私にとって完全な人間の体を用意することは出来なかったわ。人体の再現という命題には興味がなかったから、人形作成に必要な点を除いては概要を把握する程度しか学習していなかったし」
「…」
「一般に人形とはプログラム以上の動作は出来ず、自分では動かないもの、他者の望むままに動かせるものだもの。貴方の運命に流されてもしょうがないわね」
一息つき、紅茶を口にする。うん、美味しい。
「それで、今の紅魔館はどうなっているのかしら?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「なるほどね」
「私はどうしていいか分からない。私には私の望みが分からない。咲夜と共に居たいのに、咲夜以外の全てを切り捨てられない。おいしいところだけ掬おうとして!そしてそれは不可能で!時間は何も解決してくれず、私が決めなければならないのに!私は何も決められない!!」
どうやら私は自分で思っている以上に参っているようだ。
思いの丈を全て口にする。パチェ以外の前でここまで感情を吐露したことはなかった。
そして魔法使いであるアリスの対応はやはり、パチェと同じく冷静だった。
「では最初の問いに戻ってみましょうか」
「え?」
「貴方が十六夜咲夜を手放したくないという意図は理解した。ではその十六夜咲夜とは何なのか?という話よ。今の貴方はかつて私がこの問いかけをしたときに比べて多数の情報を会得しているはず。その上で再度問いかけるわ。貴方が手放したくない十六夜咲夜とは何なのかしら」
混乱に追い討ちをかける。咲夜は咲夜だ。何といわれてもそれこそ何がなんだか分からない。
「生命をつなぐことが全てではないわ。遺す、というのはそういう意味ではない。姿を失っても、形を失っても、それでも伝わり続けるものが遺り続けるもの。よく考えて。最も多くの時間を咲夜と過ごしているのは貴方なのだから。死んでしまった人間十六夜咲夜の、今もあり続ける人形十六夜咲夜の、全てを総括してなによりも咲夜が伝えたかった、遺したいであろうものは何かしら?」
人間のまま死んだ咲夜。人形になって私の元に返ってきた咲夜。貴方の望みは何だったのか?
人間であったころの咲夜と、今の咲夜に共通するものはあるだろうか?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
不意に、思い出す。
「一年中咲き誇る桜に美を見出せるでしょうか?」
そういえば、昔の咲夜にも同じ様なことを言ったことがあった。人間の咲夜も、人形の咲夜も、同じ回答を返した。
これは運命に流されることの無い咲夜自身の心だ。
「今年咲く桜は去年と違うからこそ美しい。そうは思いませんか?」
ここまでは今の咲夜も昔の咲夜も回答が同じだった。違うのはこの先だ。今の咲夜は私に迎合したけど、昔の咲夜はなんと答えたか。
「散った桜は腐り、地に戻り、新たな次の花へとつながる。散ることは終わりではなく、次のプロセスへ移る過程でしかない」
それが貴方の遺志なの?今を永遠にするよりも、次に育み紡ぐ物を楽しんでほしいと。出会い、死に別れていく事すら楽しめと。
「今宵の桜を糧にしてして、来年はどんな花を咲かせるのだろう。今の桜と、空想の中の来年の桜と、実際の来年の桜と、三つ楽しめます。そう思うとわくわくしてきませんか?」
今と、今がつむぐ未来を楽しめと。美しい今を永遠にするよりも。
私はそのときなんと答えたか?
「空想の中の来年の桜に比べて、実際の来年の桜が劣っていたらがっかりするでしょう。楽しいとは思えないわ。人間的な考えね。良いものだけが良いものよ」
「上り下りも含めて楽しむのですよ。お嬢様は強情ですわね。仕方ありません、ではこの咲夜が身をもって証明してみせましょう。流転は楽しいということを」
「へえ、面白いわね。やって御覧なさい」
だから、眷属になるのを拒否したのか。
なんて自分勝手で刹那的な呪い。私たちのような不老の妖怪にとって、今年の桜と去年の桜に区別などつけないというのに!
でもそれが、その気になれば私たちと同じ時間を生きることができたはずの、貴方が示した答えなのね。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「咲夜が貴方に何を望んでいるのか、見つけたようね」
「ああ」
「その上で、貴方がどうしたいかも理解したのね」
「ああ、理解した」
「あなたは、彼女が遺したいと願うものを必ずしも受け入れる必要はないのよ?」
「承知している」
それは、ノスフェラトゥとしては愚かな選択かもしれない。
だが、わが忠実なる従者が一度は命を捨ててまで示した、未来への道標だ。進んでみる価値はあるだろう。
「で、どうするの?」
「運命操作を解除する」
「…以前に述べたとおり、咲夜の魂を現世にとどめているのが貴方の操作した運命だとすれば、運命操作を解除すればどうなるか分かっているわね」
その先に、咲夜がいなかったとしても。
「ああ」
「十六夜咲夜に、死を返すのね」
「いいえ、生を返すのよ」
そう、ようやく気付いた。私が奪った、咲夜の未来を咲夜に返すのだ。たとえその先が天国だろうと地獄だろうと、咲夜の未来は咲夜のものだ。
私が独占していて良いものではない。
私が咲夜と同じ今を生きたいと願うならば。
「…そう。では、これを貴方に進呈するわ」
「これは?」
「一言で言えば起爆スイッチね。この石を握って弾幕ごっこで使用する大玉一つ分程度の魔力を込めれば、今の咲夜の肉体を爆砕できるわ」
…ええ、ちょっと!クールが売りの都会派魔法使いとはいえ、思考の切り替えが早すぎない?
いきなり殺る気満々じゃない!
「えらい物騒な代物ね。何でこんなものを咲夜に仕掛けているのかしら?」
「彼女だけじゃないわ。私が手がけた上位モデルにはすべて組み込んであるもの」
そうだった。長らくアリスと弾幕ごっこをしていなかったが、アリスは弾幕ごっこですら藁人形に爆弾つめて呪いと共に解き放つような物騒極まりない魔法使いだった。
「私が丹精込めて作り上げた人形は全て自律人形を目指して作成したものよ。さまざまなアプローチから試してはいるけれど、ま、未だ完成には程遠いようね」
「で、何でそれらに爆弾を仕掛けてるの?」
「自律を始めた人形にとって、私はどういう風に移るかしら。己を創造した神?それとも母なる存在?はたまた自分の行動を縛る鬼神かしら?」
…ああ、なるほど。
「分かったようね。自律人形が私を歓迎するとは限らない。当然人形遣いたる私を疎ましく思うかもしれない。昔の生まれたばかりのメディのようにね」
どうやら自律人形が人形遣いを襲うことを十分に想定しているようだが。
「私が読んだ本ではマッドサイエンティストは自分の生み出した作品に嬉々として殺されていたけど?」
「冗談。自律人形が成立したとしたらそれを調べつくさなければならない。調べて、次の人形に繋げなければならない。その人形はまた次に。その次はまた次に」
「…」
「私の全てを受け継ぐことができ、私以上の才能を持つ人形が作成できたと納得できない限り、私は死ぬ訳には行かないわ。たとえ、私の子たる人形を破壊しつくしたとしても」
「ああ、理解した。やっぱり貴方はパチェと同じ人種ね」
「当然よ。種族魔法使いとはそういうものだもの」
自身が、いや、己の願いこそが全て。それが種族魔法使いというものなのだろう。
「で、なぜ、これを私に?」
「だってもし咲夜と戦闘になった場合、今の貴方じゃ彼女に勝てないわ。だから私からの選別よ」
は?
「なんだと?もう一度言ってみろ」
「だってもし咲夜と戦闘になった場合、今の貴方じゃ彼女に勝てないわ。だから私からの選別よ」
山彦のように同じ言葉を繰り返すアリス。
私が、咲夜に、私の従者に勝てないと?
思わず手の中の石のことを忘れて吠え掛かる。
「馬鹿にしているのか!?」
「貴方がもう一度言ってみろって言ったんじゃない!…あー、割っちゃったわね。その石は彼女の中心に埋め込まれた魔力石を分割して加工したもの。同じものを二つは作れないのよ?」
思わず勢いあまって握りつぶしてしまったが問題ない。
それがどうした。
…魔力込めなくて良かった…
「…問題ない。仮に咲夜と争うことになったとしても、私は正面から咲夜を撃破して見せる」
「勝算はあるのかしら?」
「勝算?当たり前でしょう。正面から戦って、この不死の王たる私が負けるはずがない」
吸血鬼は確かに弱点も多いものの、私は十回や二十回心臓を貫かれたところで死にはしない。
対して咲夜は一度でも手足を引きちぎればそれで終わりだ。銀のナイフも時間停止も厄介だが、一度でも不意をつければ勝てるのだ。負ける道理はない。
私の発言に対してアリスは眉をひそめる。
「まあいいわ。では最後の忠告。絶対に勝利する自身があるなら聞き流して頂戴」
「いや、せっかくだから聞いてやる」
「貴方にとって最も容易に思い出せる、十六夜咲夜の振る舞いは何かしら?」
?的外れの戦術をとうとうと語ってくると思ったが、どうやら違うようだ。
「普段の咲夜は私の後ろに控えているし…お茶や食事の準備も横か斜め後ろからだし。お辞儀とか、んー、あとは咲夜の勝利の瞬間かしらね。なにせ完璧で瀟洒な従者だし。で、それがどうかしたのよ?」
「なるほど。…さっきも言ったとおり私はまともに殺り合って貴方が咲夜に勝てるとは思っていない。貴方にとって唯一の勝機はならば貴方が敗北する瞬間のみよ。咲夜が勝利するように、戦闘をコントロールなさい」
アリスが言いたいことがさっぱり分からない。私が勝たなくては意味がないのに、咲夜を勝たせろと?
咲夜が勝てば私の勝利に成るのか?そんなはずはない、馬鹿馬鹿しい。やっぱり的外れな発言か。
「お前は何を言っているんだ、といいたいところだけど心に留めておきましょう。邪魔したわね。アリス」
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「総員、警戒レベル7へ移行。班長以外は防衛義務解除!速やかに館の周囲から退避!急げ!」
「ふくしょーします。班長は残る。他は逃げる。以上!」
「たいひー」「これは逃走ではない。明日へ向かっての前進なのだ!」「館壊れるかな?かな?」
最悪の事態だ。まさかお嬢様の留守中に妹様が暴れだすとは。
「状況伝達。フランドール様が咲夜さんを襲撃。咲夜さんの個室は全壊。ロビーも既に中破。館内では今も交戦が続いています。現状、妹様の狙いは咲夜さんのみと推測されます」
「ありがとうタンク。パチュリー様は」
「健在です。ですがパチュリー様に動きはありません」
妙だな?お嬢様は留守だし、フランドール様関連のトラブルに関しては妖精メイドの手に余るからパチュリー様が何かしらの対策を取るはずだけど…気付いてないって事は無いだろうし。
まさか新しい魔道書でも手に入ったのかな。だとしたら読解中は梃でも動かないし、やばいなぁ。
「さて、伝達後は隊長の指示に従うように言われていますが、いかがいたしますか」
「うーん、指揮系統の統一上、門番隊はあまり館内に口出しできないのよね。ハングドもハイエロファントも健在なのよね?」
「アイマム。館内の被害を最小限に抑えるので手一杯ですが健在です」
人的被害も抑えられているようだし。テンパランス以外も優秀になったものだなぁ。妖精も経験次第では伸びるものね。
だからこそ、消滅させたくないんだけど…。指揮系統が無事な以上、私が口を出すことは出来ない。妹様が外に出てくるまでは。
「妹様が館内にいる現在、我々ができることは余りないわ。班長を館の周囲に配置して流れ弾の処理と漁夫警戒に当たらせてるから、貴方もそれに加わってくれる?」
「アイアイマム」
「舞台が館外に移ってからが私たちの仕事よ。最もそうなったら雨じゃない限り大概抑えられないんだけど…それまでは花火だと思ってのんびりしましょう」
あえて、余裕を見せて陽気な振りをする。士気を保つのも長の字を与えられた役職の仕事だ。
とはいえやれやれ、妹様はお嬢様が留守なのを感じ取ったのだろうか?それとも…
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
レーヴァテインを思いっきしぶん回す。端っこでなんか壊れた様だけどそんなものはどうでもいい。
壊すべきは目の前の人形だ。
「あっはははは。思ったより避けるじゃない、咲夜」
「妹様、私はお嬢様より謹慎を賜っていたのですが」
「もう咲夜の居た部屋なんて木っ端微塵じゃない。いいから本気を出したらどう?まさかそれが全力というわけではないでしょう?」
「…仕方ありませんわね」
「あはは、そうこなくちゃ」
反撃してこない相手をいたぶっても面白くない。
さあ、咲夜。本気で抵抗なさい。その上でバラしてあげるから!!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「いたた、銀のナイフの直撃って聞いてたのよりずっときついじゃん」
「ではこの辺でお開きということに」
するわけないでしょうが!!この程度。致命傷には程遠いわ。
「でも、楽しいからイイ!戦闘続行!」
「はあ。で、なぜ私は襲撃を受けているのでしょう?妹様に狙われる覚えは無いのですが」
ばっかだなぁ。そんなことも分からないのか。
「気狂いに理由を聞くの?」
「妹様は言われるほど狂われてはおりませんので」
「へえ、語ってくれるじゃない。なら教えてあげる」
壊れた玩具はポイしないとね。玩具箱があふれてしまうわ。
「咲夜ってば、お姉さまを独り占めしようとしているそうじゃない」
「誰からお聞きになったのかは存じませんが、それは誤解です。私はお嬢様に素晴らしき日々を送っていただけるよう努力しているだけですわ」
「ふん、御託はいいのよ。いい?覚えておきなさい」
やっぱりこいつ私よりイっちゃってるわ。
私には分かる。こいつは同属だ。狂った歪な人形だ。
だから壊す。今のお姉さまは疲弊している。狂人を二人抱える余裕はないだろう。
ならば、私が死ぬか、目の前のこいつが死ぬかだ!
「レミリアお姉さまと遊んでいいのは」
「お姉さまが遊んでいいのは」
「あいつで遊んでいいのは」
「あいつを守るのは」
「「「「私だけなんだから!!!!」」」」
だから咲夜と殺しあおう。あいつが戻ってくる前に。どっちが死んでも、あいつの負担は減るだろうから。
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まさか、宣言なしで4人同時に波紋とは。かわせない…ならば。
「時符「トンネルエフェクト」」
「また時間停止で回避?」「おっもしろくない」「使い古したネタばっかりね」「すぐに飽きられるわよ」
「すみません、ネタ切れでして。ですがそれは妹様も同じではありませんか?」
四人同時とはいえ、妹様も使ってきた技は昔と同じ。ならばどうとでもなる。
「一緒にしないでくれるかしら?」「こっちはちゃんといろいろ考えてるんだから」「とはいえ、まずは咲夜がつまらないネタを披露できないようにしないとね」「せーの」
「「「「ぎゅっとして、どかーん!」」」」
………
…?何も壊れない?何が起きたの?
隙を突いて妹様の分身を撃墜する。
「ふふ、あははは!」「ウェーハッハッハッハ!」「ひひひひ、ひゃは、ひゃははは!ウェヒヒヒ」
分身が笑いながら落ちていく。これで再び1対1に戻ったというのに、妹様は戸惑うそぶりも見せない。
…何かあるわね。
「さあここからが本番、新ネタのお披露目よ。生でくらって驚きなさい!虐符「オーバー・ザ・レインボーブレイク」!」
とりあえずは妹様の攻撃に傾注しないと。新しい弾幕ね。どっかで見たような気はするけど。
避ける隙間が…ほとんど無いわね。まったく無いわけじゃないようだけど。
とりあえずは時間を………止まらない?まさか!さっきのあれか?
「妹様、何かしましたね」
「したよー、したに決まってるじゃん。咲夜のつまらない手品に延々付き合うのはごめんだもん。ほら、かわしてごらん?」
一部はナイフで相殺して…いけるわね。って!
急に後ろから飛来したナイフを回避する。あれは…私が放ったナイフだ。しかし今しがた相殺の為私が投擲したナイフは既に破砕されている。
…だんだんと状況が理解できた。
「元ネタになった妖怪のご冥福をお祈りしますわ。南無ー」
「あっはは、この程度じゃ余裕か。じゃ次々行くわよ」
おそらくはこの周囲の時間軸と、空間軸が破壊されたのだ。
表面上は平静を装うが、不利を自覚する。これは、まずい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「へぇ、粘るわね。回避に衰えが見えないわ。それが人形体の恩恵かしら?」
「さて、どうでしょうか?」
妹様の猛攻に対し、私はまったく主導権を握れないでいた。
既に周囲は妹様の弾幕が突如現れたレーヴァテインにかき消されたり、いきなり二人の間で賢者の石が発動したりと完全に先の読めないカオス状態になっている。
互いが放つ弾幕も至近距離で無い限りまっすぐ飛ばなかったりいきなり消滅したりともう手のつけようが無い。
幸い、妹様にも壊れた空間内で「目」を捕捉することが出来ないようで破壊攻撃は一切無いのだが、この状況は、私にとって著しく不利だ。
この空間で重要なのは、不意に現れる弾幕に対する反射神経か、もしくは殺傷弾幕を喰らっても耐え切れる耐久性である。
そしてそのどちらもが吸血鬼である妹様のほうが上なのだから。
「もういい、飽きた。そろそろ終わりにしましょ。竹林の火の鳥との肝試しで身につけた新スペル、駄目になるまで付き合いなさい!禁忌「フェニックス灯滅」!」
「まんまパクリ段幕じゃないですか!」
憎まれ口を叩くものの、不味いわね。ナイフの時間停止ができない以上、妹様の炎の前では銀のナイフなど蒸発してしまう。
加えて、先ほどから試しているが空間が不安定でナイフの補填もままならない。このままでは、詰みにはまるのは時間の問題。
とはいえ、降参しても命はないでしょうね。
「そこまでよ」
「パチュリー様!?」
だが、救いの手は思わぬ方向から現れた。
どうやら遅まきながらパチュリー様が出張ってきたようだ。一見したところ、今日は喘息の調子もよさそうに見える。
どうやら妹様をお任せしても大丈夫なようね、と考えた時点でパチュリー様の瞳がいつもと異なることに気が付く。
そう、これはまるで、月の光に長時間さらされたかのような…
「パチュリーどいて。そいつ壊せない。…それとも咲夜の味方をするってわけ?」
「誰の味方とかそんなものはどうでもいいわ。さっきからの貴方達の無駄に魔力を込めた弾幕ごっこで図書館の防御結界が限界を超えたの。わかる?貴方達の弾幕で図書館がやばい」
淡々と言い放つ。図書館に被害が出た割には口調が冷静なのが恐怖を誘う。
「えーっと」「その…なんといいますか」
「貴方達に残された選択肢は二つ。戦闘行為をやめてコメツキバッタのようにへこへこするか。それとも罪も無き愛しい本たちの悲しみを背負った私を相手にするか。さあ、己の罪を数えた上で好きなほうを選びなさい」
「「すみませんでした」」
パチュリー様が我々へ向ける視線は既に生き物に向けるそれではない。強いて言うならば可燃ごみか、不燃ごみかで迷っている目だ。
「あら。聞き分けが良いのね?今日はとっても喘息の調子がいいの。挑んできてくれてもかまわないのよ。ふふ、さっきまでの元気はどうしたのかしら?」
思わず先ほどまで殺しあっていた妹様と目線で会話する。
(やば、久々にパチュリーのスイッチが入っちゃってるわ。普段は常人の倍以上ある「目」を見ることすらできない。ちょっとやりすぎたかしら?)
(ええ、なんという覇気。まるで尻の穴に氷柱を突っ込まれたような気分ですわ)
「妹様。弾性によりいずれ元に戻るからってそうほいほいと時空間破壊を行うなって、何度言ったら理解してもらえるのかしら。あれが無ければ貴方達の流れ弾も図書館まで届くことは無かったはずよ。ああ、脳が無いから記憶できないのね。零距離マーキュリーポイズンに溺れれば思い出せるかしら?」
「じょ、冗談。あんなの二度とごめんだわ」
「あら、じゃあ咲夜に食らわそうかしら?空間転置で何度も妹様の弾幕をすっとばしたわよね。弾幕の転置先に図書館を選んだのだとしたらいい度胸じゃない。先人達が残した英知も貴方にとっては空気以下かしら」
しまった、時空間破壊の前の戦闘で何度も空間転置で弾幕ごと空間を切り取っていたが、まさか図書館周辺の空間と転置していたなんて!何たる迂闊!
一瞬にて背筋が凍る。たった一言の失言が死に直結すると実感する。嘘や虚言など吐こうものなら膾にされる!
「も、申し訳ありません!回避に必死で転置先を選ぶ余裕が無かったもので!決して図書館を転置先に選んだわけでは…」
「そうかしら?貴方にとってはレミィ以外どうでも良いのではなくて?」
「確かに、お嬢様が何よりも大切なことは確かです。しかし、昔の私がお嬢様に満足いただけるだけの技術を速やかに身につけられたのは図書館の蔵書あってのこと。すでに身につけたとはいえ、元の書物をないがしろにすることなど出来るはずありません!」
「…ふん、まあいいでしょう。じゃあ妹様は防御結界の修復。基礎は教えてあるわよね?出来るところまででいいからやりなさい。咲夜は図書館の天井の修復。いいわね?今すぐ取り掛かりなさい」
とりあえず、パチュリー様は不幸な事故だと理解してくれたようだ。
だが、お嬢様の命もある。私は謹慎してなくてはいけないのだが…
「えーなんで私がそんなことしなきゃならないのよ。パチェがやったほうが早いじゃん」「その、パチュリー様、私はお嬢様より自室での謹慎を言い渡されているのですが」
「あ゛あ゛?」
「「アイアイマム」」
すいませんお嬢様。咲夜はまだ死ぬわけにはいきません。
「自分達で破壊したものは自分達で直す。当然でしょう。レミィが帰ってくるまでに済ませなさい。じゃあ私は読書業務に戻るわ。ハングド、いるんでしょう?」
「真上に」
さっきまではそれどころじゃなかったけど落ち着いて見回すとだいぶ周囲が安定してきており、妖精たちの姿も視認できる。どうやらパチュリー様が魔法でなんとかしたようだ。
「ん、じゃあ後の処理は任せるわ」
「はい、パチュリー様。さあみんな、妹様の時空間破壊と咲夜さんの空間転置の影響で紅魔館のどこが壊れていても不思議じゃないわ。正門からツーフェアリーセルでローラー。いくわよ」
『アイアイマム!』
妖精たちが散っていく。妖精がちゃんと働けていることに関心を覚えた自分に感心する。妹様の時空間破壊とやらの影響だろうか。私の心がこうも機能するとは。
でも、この心もいずれ消えてしまうのか。
「ああハングド。前から聞きたかったんだけど」
「何でしょうかパチュリー様」
「貴方のスカートってどうやって重力に逆らってるのかしら」
おおっとそれ、私も聞きたかったのよね。
「ガッツです」
「なるほどね」
なるほど、分からん。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
帰宅した紅魔館はぼろぼろだった。
「なにかあったの?パチェ」
「お帰りレミィ、とくになにも。妹様が癇癪を起こしただけよ。もう収まったわ。咲夜の部屋も被害を受けたから場所を変えさせたわ。結果的に自室謹慎を破ったことは不可抗力だし許してあげて頂戴」
「それはいいけど…咲夜とメイドのことばかり気にしていてフランが疎かになっていたわね。今度散歩にでも誘ってみようかしら」
迂闊だった。たった一人の肉親だというのに。
「そうすべきね。妹様も喜ぶでしょう。…ところでレミィ。久しぶりに一緒にお茶でもいかがかしら」
「喜んで。パチェには話しておきたいしね。ハイエロファント、紅茶の準備を」
「はい、お嬢様」
まずはパチェと二人、紅茶を口にする。
ハイエロファントが選んだ紅茶はディンブラだった。味もまあ、少しばかり濃いけど及第点ね。
先に口を開いたのはパチェだった。
「決めたのね」
「ええ、咲夜の運命操作を解除するわ」
「いつ?」
「次の満月の夜に」
百年以上も前に操った運命の解除だもの。満月の力も借りないと解除は難しい。
「そう、で?」
「で?って?」
「咲夜に勝つ自信はあるのかしら?」
パチェもまた、私と咲夜が戦闘になることを危惧しているようだ。
「アリスもそうだったけど、どうして咲夜と争うこと前提で話が進んでいるのよ」
「当然でしょう。運命を解除するということは咲夜にとって「十六夜咲夜はレミリア・スカーレットと共に在るべし」という命題を満たせなくなるということよ。当然のようにそれを阻止しようとするでしょう」
「私に牙をむくということ?」
「当たり前よ。今の咲夜にとって最も優先すべき事がそれだもの。これまでの咲夜の行動を見れば分かるでしょう?運命に従った状態の彼女にとって相手への忠誠だとか思いやりだとかは全て二の次。邪魔するものは何であろうと排除する。自動的なのよ。そこに咲夜の遺志は無いわ。ゆえに咲夜との戦闘は必須。運命を解除するにはまず咲夜に勝たねばならない」
パチェの説明はアリスのそれよりは分かりやすかった。
しかし腑に落ちない点が一つ。どうやらアリスと同じく、パチェも私が咲夜に勝つのが容易でないと考えているようだ。
「本気の殺し合いなら私が負けるはず無いわ」
「そうかしら?」
「ちょっと、いくらパチェでも侮辱は許さないわよ」
「何言ってるの。貴方の能力を過小評価しているのはあなた自身よ」
「どういうこと?」
「咲夜が運命に従って行動する時、咲夜の行使した魔力の残滓からなぜか貴方の魔力も検出されているの」
「え?なんで?魔力供給なんてした覚えは無いんだけど」
結局咲夜は私の眷属にならなかったのだから、そんなことが起こりえるはずがない。
「そう、ではあまり裏打ちの無い推論を語るのは好きじゃないんだけど、伝えておかないわけにもいかないし検証する時間も無いから今回も話半分と思って聞いて頂戴」
「わかったわ」
「たぶん、レミィの能力は運命を操るだけでなく、操った運命が常に軌道に乗るように後押しをしている、と私は推測している」
えーと、つまり?
「平たく言えば、レミィが指定した運命に沿うような行動をする場合、その行動がうまくいくようにレミィからの魔力供給を受けられるということね」
「そうなの?実感として良く分からないんだけど…」
「レミィは魔力のポテンシャルが高いうえ、普段からわりと垂れ流しだものね。気付かなくても無理は無いわ。まあ、魔理沙は気が付いていたけど」
あれ、遠まわしに管理不届きと言われてない?
「ただ、最近の咲夜はわりと積極的に運命に従って行動している。多少は自覚症状があるんじゃないかしら?」
「そういえば若干体や頭が重かったりしたような…ずっと気分が晴れないからだと思っていたけど」
「もう後は分かるでしょう?咲夜は運命に従う側。貴方は運命を打ち砕く側。貴方が操った運命を解除しなければ咲夜への魔力供給を止められない。運命操作を解除するには咲夜を倒さねばならない。つまり、貴方は咲夜に魔力を供給しながら、咲夜を倒さねばならない」
「けど膂力も速度も私のほうが上よ」
「時間停止の前ではそのどちらもが無意味。加えて今の咲夜は人形。体を動かすのに必要なのは栄養ではなく魔力。大気中の魔力を自身に還元するだけなら時間経過による機能低下に持ち込めるけど、魔力が貴方から供給されるとあれば疲れなど感じない。故に体力勝負に持ち込むのも不可能」
ああ、そういうことか。
「既に私には人間対吸血鬼というアドバンテージなどなく、正面から戦えば不利は否めないという事ね」
「その通り。いくら吸血鬼のポテンシャルが高いとは言え、相手に助力しながら戦ったらどうなるかは一目瞭然でしょう。最も有効なのは死角からの暗殺ね」
「ああ、アリスが起爆スイッチをくれた理由が分かったわ」
「あら、そんなのがあるのね。流石はアリス、準備がいいわ。それを使いなさい」
確かに、筋立てて聞いてみればそれが一番に思える。だが…
「…壊しちゃった」
「はい?」
「勢いあまって握りつぶしちゃった。もう同じものは作れないって」
「… 呆 れ た わ ね」
パチェの目線が痛い。すごい刺さってる。あれか、パチェの目線は銀製か?
「う、うー」
「まあいいわ、それにもともと正面から咲夜を打ち破るつもりで、どうせ使う気も無かったんでしょう?」
「え、ええ、そのつもりよ。だったんだけど、厳しいわね」
「何せあなた自身が咲夜の手助けをしてるんだものね。正々堂々なんてその時点で崩れてるわ。咲夜が力を使えば使うほど貴方は疲弊していく。短期決戦で、時空間制御が意味を成さなくなる方法を考えるしかないわね。なんなら私が作戦立案してもいいけど」
…そこまでしてもらうわけにはいかない。それじゃ私が勝ったのではなくてパチェが勝ったのと同じ事。わたしにだってプライドがある。
「パチェには悪いけどこれは私が解決すべき問題。私が一人でやらなければいけないことだから」
「つてを利用して数の暴力を行使するのは戦術的に正しいのだけどね。ま、決闘に勝っても心が負けたのでは妖怪としては敗北ね。好きなようになさい」
「ありがとう。残る問題は次の満月より先に咲夜の謹慎が解けることだけど」
そう、咲夜の謹慎が解けるのが3日後。次の満月は残念ながら6日後だ。
この間に咲夜が再びメイドに襲い掛かるかもしれない。
適度に領民を護る。カリスマを維持する。両方やらなくちゃいけないのが貴族のつらいところだ。
できれば万全な状態で運命解除に望みたいのだが…
「それなら問題は無いわ。今咲夜の魔力は激減してるもの。このままおとなしくしていれば次の満月までには全快するでしょうけど、妖精メイドたちに襲い掛かる余裕は無いでしょうね。妖精メイドの襲撃は咲夜が運命を満たすのに十分条件ではあるけど必要条件ではないから、貴方からの魔力供給はそんなには期待できないしね」
予定調和のごとく話を続けるパチェに違和感を覚える。
「…なんで咲夜の魔力はそんなに減っているのかしら?」
「ああ、妹様が壊した図書館の天井修復を依頼したのよ、特急でね」
「…なぜ、このタイミングでフランは暴れだしたのかしら?」
「さあ、妹様の考えることだもの。分かれば苦労しないわ」
「……」
「どうしたの?レミィ」
「いや、パチェにはかなわないなと、そう思っただけよ」
「冗談、私なんか貴方の悪女発進一発で宙を舞うわ。さて、私はそろそろお暇するわね」
「最後に一つだけ聞かせて頂戴」
「何かしら」
「フランはただ暴れたのではなく、咲夜に挑んだのでしょう?パチェが割って入らなかったら、勝っていたのはどっち?」
「妹様ね」
「…そう。いろいろありがとう、パチェ。ああ、あと悪女発進言うな」
「ふふ。健闘を祈ってるわ。レミィ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
パチェの言うとおり、謹慎が解けても咲夜はメイドたちに襲い掛かりはしなかった。
表面上は、咲夜が戻ってきた当初の紅魔館の如き日々が続く。
そして、満月の夜。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「そろそろ準備しないとね」
ドアがノックされる。まさか咲夜か?
「お嬢様、テンパランスです」
「入れ」
ハウスキーパーか。表情からして既に何かしら気が付いているのだろう。
「何用かしら?私はこれから忙しくなるんだけど」
「咲夜さんを、殺しにゆくのですか」
「違うわ、今まで私が奪っていた咲夜の生を、咲夜に返しに行くのよ」
「生を返された咲夜さんは、これからも生き続けられるのでしょうか」
「…さあ、分からないわ」
ああ、やはりこいつは優秀だ。本当に妖精か?見違えたものだ。
「私たち、考えたんです。私たち妖精はどこだって生きていける。でも咲夜さんは違う。咲夜さんにとっては、ここで働くことが生き甲斐で、ここ以外では生きていけなくて」
「ええ、私が咲夜の運命を縛ったからね」
「…!お嬢様を責めているわけではないんです!だから、ええと、私は、私たちがみんないなくなれば、全て丸く収まるんじゃないかって。そうすればお嬢様も幸せで、咲夜さんも幸せで、私たちも幸せになって…」
こいつは優秀だ。しかし嘘は下手のようだ。咲夜は虫も殺さぬ顔して平然とでたらめを口にできたけどね。
「テンパランス」
「はっ、はい!」
「かつて貴方言ったわよね。みんな第二の家として紅魔館を愛しているって」
「はい、言いました」
「それは嘘なのかしら?」
「嘘じゃありません!」
「じゃ、さっきの私たちも幸せっていうのが嘘ね。鬼を前にして嘘を吐くとはいい度胸ね」
「それも嘘じゃありません!私達は、紅魔館の皆さんに笑っていて欲しいから!」
だがしかし、肝心なことに気が付けていない。
「じゃあ何で貴方は今笑っていないのかしら?」
「え?」
「貴方の言う「紅魔館の皆さん」には貴方達も含まれているのよ?当然でしょう。使用人が住人に含まれないなんて誰が決めたのかしら?どこまでが紅魔館に含まれるかは当主たる私が決める。貴方達が勝手に決めていいことではないわ。不満かしら」
「いえ、そんな。光栄です。でも…」
「それに、貴方は勘違いしている。紅魔館に留まっても、咲夜は幸せになれないわ」
「何故ですか?」
「咲夜は流転を望んでいるから。腐葉土になることも出来ず、自身が花をつけることも出来ない現状を嘆いているはずだから」
「…」
「ゆえに刈り取らねばならない。次の種子が芽を出し、美しく咲く為に」
「…ではせめて、私をお供に加えて下さい。至らぬ身ではございますがお嬢様の盾になることくらい出来ます」
確かに、こいつは異常なまでに外傷に強いメイドだ。耐えるか、防ぐか、避けるか。どれかに長けていなければこの紅魔館のメイドを長年勤めるなど不可能なのだから。
ましてやハウスキーパーなど。
だが。
「悪いけどお断りよ。貴族はね、領民を護る、カリスマを維持する、両方こなさなくちゃいけないの。部下の襲撃ごときに護衛をつけて挑んでは私のカリスマが駄々下がりよ」
「申し訳ありませんが私にとってお嬢様の言われるカリスマなんかよりお嬢様の安全が第一優先です」
「…はあ、そういうところ昔の咲夜に似てきたわね。私の言うこと聞かないところとかそっくりよ」
ほんと、咲夜はメイドの教育も完璧だったのね。
「でも駄目。貴方には別命があるのだから。二時間ほどで私はここに戻ってくる。軽い食事と、一番良いワインを頼むわ」
「…そんな準備で大丈夫か?」
「大丈夫だ。問題ない」
「…ふっふふふ」「くく、あははははははは!」
「お嬢様と咲夜さんに幸多からん事を。御武運をお祈りしております」
どうやらこいつは私の勝利を信じてくれたようだ。ならば、なおさら負けるわけにはいかない。
部下の信頼を裏切ることほど、カリスマを失う行為は無いものね。
「祈りにかまけて、料理の手を抜くんじゃないわよ?簡単な料理にこそ、腕前の良し悪しが出るのだから」
「アイアイマム」
「私への返事は「はい。お嬢さま」だって言ってるだろうに。メイド長までそれか!」
鬼軍曹咲夜、恐るべし。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「お待ちしておりました。お嬢様」
「咲夜、何用かしら。今宵私は忙しいの。あまり貴方に付き合っている暇は無いのだけど」
「お嬢様には無くとも私にはあるのです」
ふん、ずいぶんな物言いじゃない。
「なぜ、私を殺そうとなさるのですか?永遠を望んだのは他ならぬ貴方でしょうに」
「他ならぬ貴方が流転を望んだからよ。私は貴方の意思を尊重したい。貴方が大切だから」
「私はそんなもの望んでおりませんわ」
咲夜の考えが変わった、という可能性だってある。だが、今の咲夜の回答はあまりにも機械的すぎる。
「それは今の貴方は私が操った運命の影響を受けているからよ」
「私は誰の影響も受けてはおりません」
鉄面皮は変わらない。咲夜は平然と嘘もついたけど、本音を語るときは仮面をかぶったりはしなかった。
そう、喜びも憎しみも楽しみも苦しみも。それが本心であるならば。
「よく言うわ、アリスが作成した作り物の体の分際で」
「貴方が望んだことでしょうに。良くそんな物言いが出来ますね」
「当然よ。私は悪魔。スカーレットデビルなのだから」
「…成る程。話し合いによる解決はもとより不可能ということですわね。ではこれよりは実力行使で」
「これまでご苦労だった、十六夜咲夜。これまでの格別の功績により私直々に相手をしてやる。来い!」
二人だけの夜が幕を明ける。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「遅い、この程度で!」
大玉をばら撒く。このタイミングならかわせない。常人ならば。
「奇術「ミスディレクション」!!」
だが目の前にいるのは常人ではなく完璧超人だ。
やはり時間をとめて反撃されるか、ならば。
「運命操作『十六夜咲夜は時間を止められない』」
《既に十六夜咲夜の運命は定められています。正規の手続きで再度修正を行ってください》
ふん、やはり咲夜に対して工程を省略した運命の上書きはできないか。まあ、これが出来るなら戦闘になっていないんだけれど。
ならば。
「運命操作『紅魔館の時間は止まらない』」
《略式ながら運命操作を受領しました。以降、紅魔館の時が停止することはありません。なお、略式なれど以降の修正には正規の手続きが必要となります》
ベネ!これで紅魔館内で戦闘を続ける限り、咲夜は時間を操れない。
とは言え長期戦が不利なのは前もってパチェが話したとおり。
一気に決着をつけなくては!!
「さあ咲夜、紅く染まりなさい。紅符「スカーレットシュート」!!」
「これは、避け切れませんわね。空虚「インフレーションスクウェア」」
時間停止は、阻止したというのに。
私の放った必殺の弾幕は掻き消え、変わって咲夜の放った弾幕が目前に広がる。
馬鹿な、そんな馬鹿な!!
「ぐ、ああ゛!」
ありえない。どうやって回避した?何故?
思考が錯綜する。
「どうしたのですかお嬢様。呆けている暇はありませんよ」
「がっ!」
動揺を隠し切れず、追撃までもくらってしまう。
っく、一旦距離をとらなければ!
「…どうやって私の弾幕を回避した」
「なぜ、って空間転置に決まっていますわ。ご存知でしょうに」
「馬鹿な、時間制御は凍結したはずだ。空間制御は時間制御の延長だと、以前おまえ自身が言っていたろうに!」
「ああ、やはり時間が操れないのはお嬢様の仕業なんですね。ええ、かつての私はそうでした。ですが、このアリスの体に移ってから時間制御と空間制御を別々にこなせるようになりまして」
「なん……だと」
「なのでほとんど隙間の無い弾幕ですらほら、この通り。時間を止める必要はありませんわ」
ええい、アリスってば、どんだけ良い仕事すれば気がすむんだ!まさか独自に能力を宿せる肉体を構築するなんて!
「時間操作はお嬢様に制限されたようですが、今の私にはまだ空間操作があります。さあ、お嬢様に私を打ち破ることが出来ますか?」
不適に微笑む咲夜に対して、反射的に弾幕を放つ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はあ、はあ」
「弾幕ごっこ、というのは一部の稀有な才能を除いて、常に相手の事を理解している方が勝者となります」
「くっ!」
何回、銀のナイフを突き立てられただろうか?100や200はとうに超しているだろう。
「魔理沙は一度手合わせした相手の能力、性格、技術を正確に分析する。逆にチルノは自身の強化にばかり目が行き、他者への対策を講じない」
対して、こちらの攻撃は全てかわされ、ただの一発も咲夜の肌を掠めることはない。
「これが弾幕ごっこにおいて、ただの人間である魔理沙が最終的に勝ち続ける理由であり、最強格の妖精であるにもかかわらずチルノがなかなか勝利を得ることが出来ない理由ですわ」
いくらナイフを砕いても意味がない。謹慎の間に大量のスペアを用意したのだろう。咲夜は空間制御により次々とナイフを取り出す。
「わたしはお嬢様の一挙手一投足にいたるまで完璧に予想し、対処することが出来ます。私の全てはお嬢様の為にあったのですから、その程度の予測など、九九の暗誦より容易いですわ」
この一時間、主導権は常に咲夜の手の内だ。無様に逃げ回ることしかできない。
「お嬢様はいかがですか?私の挙動を予測できますか?私のことをどれだけご存知でいらっしゃいますか?」
「っく!戦闘の最中にペラペラと!」
「無駄です。破れかぶれの攻撃など、私には届きません」
隙を突いたつもりだったが、それすらも咲夜の予想のうちなのだろう。音速を超える速度で放った魔力弾すらたやすく回避される。そして目の前には多数の銀光。
「がふっ!」
「ここまでですわね。お嬢様では私にはかなわない」
「…私を殺すというの?」
「まさか、私がお嬢様を殺害するなどありえませんわ。ただ少し大人しくして頂くだけです。羽と四肢を切断し、断面を溶かした銀で塞いでしまえば流石のお嬢様でも再生は不可能でしょう?お嬢様は舌を噛み切る程度では死にませんし、ね」
「な…に…」
「ずっとずっと、私がお世話いたしますわ。お嬢様」
「冗談、籠の中の鳥なんて夜の王の名が廃るわ!!」
可能な限り、周囲を弾幕で埋め尽くす。だが。
「無駄だと申し上げたはずです」
「あぐっ!」
万策尽きた。魔力の消費も激しいうえ、咲夜の運命も紅魔館の運命も略式上書きは不可能。
攻撃は全て空間転置で回避され、咲夜の挙動は私には読みきれない。どうやら詰みに嵌ったようだ。
「ではおやすみなさい、お嬢様。次に目を開くときは私しか見えなくなっていることでしょう」
私の攻撃は全て見切られている。アリスの、パチェの言うとおり咲夜の勝ち、か。無様なものだ。
咲夜を大切だといいつつ、咲夜の挙動に見向きもしなかった代償がこれか。
まあ、パチェの話ではフランは咲夜に勝っていたとの事だし、フランが次の当主になればよいだろう。
それはフランが成長していたという証なのだから。私だけが成長していなかった。
ならば、この敗北は必然だ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「お嬢様と咲夜さんに幸多からん事を。御武運をお祈りしております」
…ちがう。負けられない。負けるわけにはいかない。
負けられないのだ。この一戦だけは。ここで負けたら今まで築きあげてきた紅魔館を全て失ってしまう。
フランは咲夜を狂気のままに跡形も無く破壊するだろう。メイドを襲うメイドを壊す。それは正しい。
それは私が今しがたまでしようとしていたことでもある。
私とフランの差分は一つ。殺害相手に敬意を抱いているかいないか。その一点である。
自身が襲われながらも札付きをはじめ、多くの古参の妖精は咲夜を慕っているのは先のテンパランスの進言からも間違いない。
自らが愛するものを無碍に扱われることに対する憤慨は妖精とて同じこと。それが正しいと頭では理解できても、心が受け入れないのだ。
フランが咲夜を破壊すれば、私が咲夜を破壊するより遥かに傷は深くなる。これまでに組み上げた歯車はいともたやすく狂ってしまう。
咲夜は私が討つんだ!今日!ここで!
私に何が出来る?この精根尽きかけた体で、どうやって咲夜に勝つ?考えねば。経験が力だというなら思い出せ。
「貴方にとって最も容易に思い出せる、十六夜咲夜の振る舞いは何かしら?」
ふと、アリスとの会話が思い出される。
「咲夜が勝利するように、戦闘をコントロールなさい」
ああ、そういえばアリスは私が咲夜に魔力供給をしていることを知らずに私の敗北を予言していたっけ。
アリスはなんと言っていたか。
「貴方にとって唯一の勝機はならば貴方が敗北する瞬間のみよ」
もはや他に手はない。コントロールなどまったくできなかったが、結果は同じ。咲夜の勝利は目前な今、この一瞬に賭けるしかない!
可能な限りの魔力を、かつて自ら封印した弾幕に込めて解き放つ!
「幻世「ザ・ワールド」」
「魔符「全世界ナイトメア」!」
白銀のきらめきが弾丸となって、私の体を貫いた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
しかし私が放った弾幕もまた、咲夜に回避する暇を与えず、その体を蜂の巣に変えていた。
「…お見事です。お嬢様…まさか私の動きが予測されるとは」
「貴方は完璧で瀟洒なメイドだったからね。貴方が勝利する瞬間を私は幾度と無く目にしたもの」
その瞬間だけが私にとって咲夜の挙動を予測できる唯一の時間だった。
「わざと私が止めをさし、勝利を確信する状況を作り上げた。…計画通り、ということですか」
「だったら格好良いのだけどね。単純に追い詰められただけよ。私が勝利したのは運が良かっただけ。見事だったわ咲夜。貴方は間違いなく、私の最大の理解者だった」
掛け値なしの賞賛を送る。
何も考えずあの弾幕を放った場合、咲夜を捉えられる確立は1/3。だがその1/3を私は引き当てた。経験と、予測と、運で。
「だから私が運命を解除しなければいけないことも理解して頂戴。そして運命のしがらみから解き放たれた状態から、もう一度考え直して」
私が貴方にふさわしい主かどうか。貴方の望みは何なのか。
何のためにここにいて、何のために生きるのか。
「…拝命…しまし…た」
咲夜が動きを止めたことを見届けた後、わたしは残る魔力をかき集め、満月の元へ解き放つ。
「運命修正「十六夜咲夜は己の道を行く」」
《正規の手続きにより運命の修正を受領しました。以降、十六夜咲夜の運命には何者も干渉できません》
e.p
「お嬢様、お茶をお持ちいたしました」
「ご苦労、テンパランス」
「今日の紅茶はベラドンナ入りです」
「ぶーっ!!」
それ毒だろう?用法、用量によっては死に至るわよね?
「ああ、お嬢様。いまナプキンをお持ちいたしますわ」
「…その前になんか言うことは無いのか?」
「顔が湿って力がでません」
お前はどこの菓子パンヒーローだ。
「そうじゃないだろ!」
「はて、では何でしょうか?」
「…そこに直れ。成敗してくれる!」
「おっと、そうはいきません。今日は募集メイドの最終面接の日なんですから。私がリタイヤするわけにはいきませんわ」
「くっ、そうだった。使えそうなのは何体残った?」
「ええと、7体ですね。妖精5。妖怪1。人間1です」
ほう、妖精以外がいるとはね。妖怪はともかく、人間とは。
「人間だと?能力持ちかしら?」
「どうでしょう?空は飛べないみたいですし」
「へえ?じゃあどうやってここまでたどり着いたのかしら」
「何でも友好的な谷カッパの新発明で水上を滑ってきたとか。ちなみにその新発明品とやらは美鈴隊長曰く、陸に到達すると同時に爆散したそうですが。それで帰れなくなって、紅魔館への就職を希望しているようです」
ま、まあ、爆発に巻き込まれて無事なら能力持ちでなくとも生き延びる才覚はあるんだろう。それにしても成り行きで悪魔の館に就職希望とはね。正気かしら。
「…まあいい、下がれ。メイドの選別、手を抜かないように」
「心得てございます。ではお嬢様、失礼いたします」
人間か。久しぶりね。時間操作とは言わずともやはりなんらかの能力持ちであれば面白いのだけれど。
まあ、そうでなくてもよいか。人間の場合無能力者でもメイドとしては妖精より使い物になるし。
老いるのが唯一の難点だけど、老いると共に成熟していくのを見るのも楽しいものだ。
機能停止した咲夜は博麗の巫女によって荼毘に付された。
今度こそ咲夜が三途の川を越えて逝ったのを確認している。
普段は鬼神の様なれど、この日に限っては泣き腫らす巫女をかわるがわるなだめながら神社で無礼講の大宴会を催したのも既に懐かしい過去の話だ。
咲夜、お前は今どのような姿をしているのかしらね?植物か?動物か?それとも未だ転生待ちかしら?
私は今を楽しんでいるわよ。出会いも、別れも。
今の紅魔館は割と落ち着いているわ。故に時折退屈を覚えることもある。
だから転生した暁にはまた紅魔館に顔を出しなさい。
突如、ゴウン!と館が揺れる。
続いて扉を蹴破られる。…最近メイドが荒っぽくなっているような気がする。
侵入者はタンク達だった。
「伝令!妹様と魔理沙が交戦中。いえ弾幕ごっこ中。なのに二人とも魔力が有り余っているせいか既に地下は火の海です!現在地下階段入り口にてハイエロファントが…おそらく敗北済み!地下はエンペラーが鎮火中です!」
ごめんなさいフラン。少しぐらい退屈させてくれないかしら。
魔理沙がだんだんと強くなっているせいか、あの二人の間ではほとんど実戦と弾幕ごっこの区別をしなくなってきてるわね。
あたらなければどうということは無い、とはよく言ったものだ。
…でもねフラン、魔理沙。紅魔館は避けられないのよ。少しは考えてよ。
「ああもう!あいつらの戦闘を放置したら三分で館は灰だ。仕方ない、私が押さえに入る。タンク!テンパランスには気にせず面接を続けるよう伝えなさい。人員の補充が最優先。伝令の後は砲手に回って、魔理沙でもフランでも隙があったら実戦弾をぶち込んでよし!ラバーズとハングドは館の修理準備!」
「「「「アイアイマム」」」」
「私への返事は「はい、お嬢様」だと何回言ったら分かるんだ!!」
さてこの惨状を目の当たりにして一体全体、何体の新人メイドが編入されるやら。
嘆息し、私は部屋を後にする。財政はわりと余裕があるのにサービスは行き届かない。
それを日常と受け入れられるようになった私は果たして満ち足りているのか飢えているのか。
いずれにせよ、完璧で瀟洒なメイドはもういない。今日も紅魔館は人手不足である。
Fin.
簡単に言うと、「なんで魔理沙(霊夢)生きてんの?」って話です
咲夜さんが寿命(80歳、長寿)で死んだ、ということは二人もまた死んでなければならないはずです
魔理沙は捨虫、捨食の術を使って魔法使いへクラスチェンジすればまだ理解できますが、咲夜との紅魔館内での戦闘で、「お互い人間同士」とのモノローグが入っています
霊夢については三途の川へ送っていった博麗の巫女が泣き腫らす~といった描写から霊夢であると考えられます。咲夜と接点のない次代博麗の巫女ならば泣きはしないでしょう
また巫女不在の記述とも矛盾します
と、どうもこの辺の矛盾が気になって評価はできません。
もし語られていない設定があるのであればお書き頂けれるとこれ幸い。また改めて評価を入れたいと思います
最後のところがよくわからなかったけど三途の川を越えた咲夜さんとアリスの元に残った咲夜さんは別人なのか?
外から宿った魂が抜けて器の人格のみが残ったのなら、これが発の自律人形ということになるんだろうか。
オリ妖精達もいい味を出していましたね。
>>2.3
失礼しました。魔理沙は完全に脇役なので説明をはしょってました。
魔理沙は若返りの魔法を使用してはいるものの、捨虫、捨食のどちらも身につけていないという設定です。言わば人間としての限界に挑戦している最中、ということになります。若返った人間は人間なのか?と言う問題はさておき。なので死神との死闘が日課に加わっている事でしょう。
時間軸に関しては、本編、おまけ、エピローグと言う順番になります。なのでエピローグ中の巫女とは霊夢のことではなく、おまけ以降に紫が見つけてきた巫女、ということになります。おまけを見なきゃ分からない設定は本編に入れるべきではありませんでしたね。これは完全にミスです。判りにくくて申し訳ありませんでした。
>>7.8.12
突っ込みどころに関しては多々ありますよね。誤字に関しては…意図的に言葉遊びをしている点はあるものの、ああああ、こんなにあるとは!気付いたものに関しては徐々に修正していこうと思います。御講評ありがとうございました。
作品中に散りばめられた小ネタにはくすりとさせられましたが…………サンホラネタは特にキました。
個人的にフランとパチュリーのキャラクターが魅力的でした。アリスから妖精メイドにいたるまで、キャラ付けがしっかりしてて話に溶け込みやすく、小ネタもあってとても楽しませてもらいました。良い紅魔館でした。
先述されているように、少々の綻びは有ったものの、それはこちらの解釈次第で自己補完出来る範囲に留まり、高評を覆すには至りませんでした。
小難しく書き連ねましたが、言いたいことは二つ。
素晴らしい!
次も楽しみ!
お疲れ様でした。
目線を広げて場面の中にキャラクターを描くとき色が単調になる。
読者は"言葉"を繋げることにより場面、人物に躍動感を見る。言葉とは脳が識別する印象であり、書き手はそれを熟知し、印象の連結をコントロールしなければならない。その精確さが文の良し悪しにもなる。どうもその辺がおざなりな気がする。キャラクターのセリフが継ぎ接ぎの役目をもって物語としての体裁を押し留めているが、故にそのセリフはどこか浮いた物に成らざるをえない。人間の脳が保持するイメージには馬鹿に出来ない力があり、その一つ一つを丁寧に扱った文には安定感が生まれる。
戦闘描写が難しいのは空間、身体、物理科学、流儀が構築してきた理屈等、それらを知識として把握し計算し言葉に練成し、尚且つイメージをコントロールするという緻密さが求められるから。
これはきっと理屈でしかありません。そもそも他人の話は"話半分"くらいに聞くのがちょうど良いと自分は思っています(本当に理屈っぽい……)
一言、印象のコントロールが足りてないのではないか?
と、書きたかったのですけど意図する処を伝える自信が無かったので言葉を弄しました。本当にすみません。
作者の熱意は信じます。
ありがとうございます。励みになります!
ぱちゅんぐは書いてて楽しかったです。
>>15.16
楽しんでいただけて何よりです。
スカーレット姉妹はカリスマと幼さ、可愛らしさと狂気のバランスをとるのが難しいですね。
それでもキャラの方向性はぶれないようにしたいと思っていたので、成功していたのであれば何よりでした。
>>18
御講評ありがとうございます。
おっしゃるとおり、会話文はさほど苦労しなかったのですが、地の文には相当苦労させられました。キャラクターのセリフが鎹というのは間違いなくその通りだと思います。まず会話ありきで文章を組み立ててしまったので…。
単語と文と文章の組み合わせと言うものの難しさを改めて痛感しております。
また機会がございましたら御講評いただければ幸いです。
色々と突っ込みたいところもあったけど、気にしないように
脳内補完するくらいには面白かったです。
わがまま言うなら、咲夜さん視点がおまけに少しだけほしかった。
とにかく、こういった俺設定モリモリは大好物です
つまり巫女とは神社に来た咲夜と仲良くなった霊夢ではない新しい巫女、ということなんですね。
でもやっぱり咲夜も魔理沙もそういう設定があるなら本文中で語られて欲しかったですね。お話自体が面白かったからこそ残念。
ありがとうございます。すっと理解できる文章目差してがんばります。
おまけについては会話分だけと決めていたので…すみません。
想像の余地を残しておくことと、省略すること、記述することのバランス感覚を早く身につけたいと思います。
>>22
パチュリーとアリスの発言に関しては、現代文の長文の試験のような、「本来他人に己の意見を伝える為の文章なのに設問がついちゃうくらいに少し意味不明」を少し取り込んでみました。それ以外のところは…多分私の好きな言い回し(病気)か、説明下手です。すみません。
そして気に入っていただきありがとうございました。
>>23
再度の講評ありがとうございました。蛇足ですが、もともと文章量がこの1.5倍くらいありまして、「初めてなのにそんな長い文章書いてどうすんの?」とセルフ突っ込みした結果、おぜうの主軸に絡まないところとか無駄な戦闘とかをザックザック削っていったのですが…。ストーリーを膨らませるにはそこら辺も必要だったかもしれません。そこら辺の判断が出来ないあたり、己の未熟さを痛感します。
概ね予想通りの幕の下ろし方でしたが、物語の盛り上げ方もうまく、きちんと王道していて良かった。
それと、キャラクター一人ひとりの個性付けが巧い。
のっけから始まる、堅苦しい、回りくどいようなそうでないようなアリスとレミリアの会話を読んだときは、「こんなに文量割いてやることか?」と思いましたが、
途中から、巧い具合に「魔法使いらしさ」が強調され、アリスというキャラがリアルに際立ってくる。
実は最初は、このような会話はちょっとマイナスポイントかな、と思った部分ですが、この作品はどのキャラもきちんと丁寧に個性付けされていて、それが一つの見所(私的に)になっているので、削ってしまうのももったいないよなあ、とか読み終わって思ったのでした。
それと、レミリアの能力について深くまで立ち入ったSSはあまりないので、新鮮。
>「運命操作『十六夜咲夜は時間を止められない』」
>《既に十六夜咲夜の運命は定められています。正規の手続きで再度修正を行ってください》
え、そんな感じなん!? って思わず驚き。
生身の人間に対する以上の真剣な愛情を注いで追求された内容は圧巻の読み応えでした。
ところで、おまけまで読み終わったところで、私の頭の中で時系列がこんがらがってしまったのですが
本文ラスト、レミリアvs咲夜の死闘の末、咲夜大破
↓
おまけ、修復された咲夜が博麗の巫女代理に再就職
↓
(咲夜はその後次代の巫女を育成し、約20年後に完全に機能停止)
↓
エピローグ中のレミリアの回想、機能停止した咲夜が次代の巫女によって荼毘に付される
↓
エピローグ、咲夜の葬儀からさらに長い年月の後、戦火の下で新人メイドの面接が行われる
こんな流れで合ってるのでしょうか。ここから先の展開にも含むところのある描写がありましたが、そこを訊ねるのは野暮天ですよね。
最初だから紅魔郷を選ばれたということですので、次にあなたの妖々夢が発表されるのを楽しみにお待ちしております。
御講評ありがとうございます。アリスに関しては葛藤の大部分を削ってしまった為、なんか常に不機嫌で研究者的な解説役になってしまったかなーとちょっと反省しているのですがすこしでも「らしさ」を出せていれば幸いです。
後おぜうの能力に関しては公式でほとんど描写がないため割と好き勝手やらせていただきました。多分会話相手はアカシックさんとかなんじゃないかなーと。
>29
時間軸に関してはお察しの通りです。判りにくくて申し訳ありません。
さて先の展開ですが、一応私の中ではこの作品を咲夜GoodEndと位置づけているので純粋なこの作品の続編はちょっと難しいと思います。ですがこの作品とリンクしていくつかの作品を書いて行ければなぁと思いますので、もしお目に触れる機会があればその際も御講評いただければ幸いです。私のような未熟者にとって「ここがこうだから楽しめた」「ここがこうだからつまらなかった」と言う意見は等しく励みになりますゆえ。
しかし、惜しむらくはやはりラストの時間軸がわかりづらい点、魔理沙や博麗の巫女などの設定の描写不足でしょうか。戦闘描写もいささか簡素であります。
しかし、初投稿でこれだけの作品を書かれたことはお見事です。次回作への期待を込めて、この点数とさせていただきます。
延々と次回作を書いていたので遅くなりましたが御講評ありがとうございます。
今作の反省を踏まえて次回作を書いてみたのですがどうやらあちらはあちらで今度は戦闘が長くなりすぎたりと、未だ上手い落としどころを見つけられていないようです。時間が分かりづらいという意見が多かったので次回作は時計を入れてみたのに終わってみたら時間の前後は一切なかったという…。色々と空回りしてますが今後も御講評いただければ幸いです。
>>34
すいませんこれもパロなんです。黄色い節制、メロンの教皇は一目瞭然なので省きますが、タンクはBAR○QUEというゲームの異形(敵)が大本になっています。元はガルガルタンクジョーというイカした名前です。なのでタンクなんです。ハングド、ラバーズ、名前だけ登場のパワーもこっちから持ってきました。エンペラーは元ネタなし。ジャスティスでも良かったんですけど。そんな理由でお許しください。
倍でもいいから全文で読みたかった!w
札付きは全員奇妙3部かと思ってましたw
ありがとうございます。そう言っていただければ作者冥利につきます。
ちなみにスレイブ状態の咲夜さんのイメージもそっちのゲームから持ってきました。そっちの「世界」は棘の付いた人型の檻って言う外観です。たまらないですね。
完成度高いですねーキャラクターも作者さまなりの味付けがしてあっていい感じ
ストーリーそのものは王道ながらも工夫が凝らしてあって楽しめました
オリキャラも受け入れやすいよう考えられてるなと感じました。
個人的にはレミリアと魔法使い2人との会話が好きですね。
極力間違いを避ける論理的な話し方と、きちんと理屈の通った中身のある会話が魔法使いらしくてとても良かったです。
これからも期待してます。
誤字
>「過程の話はうんざりだわ。ではあの人形に宿った魂が咲夜のものとして、
過程→仮定、かな?
サンホラネタはやっぱりパチュリーかw
誤字修正しました。
3/1に何かあったのでしょうか…さておき本作はもともと途中まで会話文だけで構成されていたため(無謀すぎる)、キャラ設定は若干強めになってます。それが良い方向に働いたのは僥倖でした。一方で地の文が恐ろしいほどしょぼいのですが。何はともあれ、昔の作品への御講評、まことにありがとうございました。
雰囲気が重くならずサクサク読めて良かったです
大事なのは今、私はこの作品に出会えてよかったと思っていることです
大事なのは今、私はこの作品に出会えてよかったと思っていることです