幻想郷で三大祭といえば、紅魔館シチリア・トマト投擲合戦、人里モダンボーイ・コンペティション、そして妖怪の山御柱祭りである。
今日はその御柱際なのだ。
一度でいいから見てみたいと頼むと、僕の父さんは、黙って僕の手を引いて連れて行ってくれた。山に登ると既に男の熱気に満ちていた。ドンガドンガドンガドンガ。
鳥居をくぐると、縁日の屋台が所狭しと並んでいる。父さんは僕にお金を握らせてこんなことを言った。
「子供にはまだ早い……これで遊んでおれ」
「なんでさ、つれてきてくれたのに」
「なら遠くから見ておれ」
父さんは何も言わずに着物を脱ぎ去り、褌一丁になってずんずん歩いて消えてしまった。祭りが始まるまで時間があるから、屋台を見て回ることにした。
「あ、ヒヨコだ。可愛いなぁ」
「坊や、鳥が好きなのかい?」
「好きだよ」
僕が振り返ると、そこには鳥の羽が生えた可愛らしい女の人が立っていた。
「おとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉさぁぁぁぁぁぁぁん!」
「どうしたんだい」
「背中に羽の生えた変な女の人が話しかけてきたぁぁぁぁぁぁぁ!」
「背中に羽の生えた変な女の人じゃないよ。私は鳥人だよ」
「え!鳥人!」
「そうだよ。人間の体に鳥の羽が付いているんだよ。本当は鳥の頭をつけたいのだけれども、仕様が無いから、顔は美少女と、こういう設定なんだよ。ヒヨコが飼いたいのかい?」
「え、うん、でもお金が足りないんだ」
「それならいいものを上げようね。ほらヤツメウナギだよ」
「わ、やめてよ。何で生きたまんま持ってくるんだよ。ぬるぬるして気持ち悪いよ!」
「坊やは一人でお祭りにきたの?」
「父さんときたんだけど、今は一人だよ。つーかヤツメウナギが凄い暴れるんですけど。何とかしてほしいんだけれども」
「偉いねぇ。ゴホウビに羽の付け根を見せてあげようね」
「見たくねーよ!森に帰れ!」
にやりと怪しい笑みを浮かべると、鳥人は屋台と屋台の間隙、暗闇の中に溶けるようにして消えてしまった。
「あぁ、怖かった」
また屋台を回っていると、奇妙な屋台を発見した。キリタンポ屋台だって。中々旨そうだ。
「一つ下さい」
「はい。君はキリタンポが好きなんだね」
「いや、初めて食べるんだよ。お姉さんは誰?」
「私は鼠人だよ」
よく見ると、頭に鼠の耳が付いている。お尻から細いシッポが生えている。
「おとぉぉぉぉぉぉぉさぁぁぁぁぁぁぁぁん!頭に耳の生えた変な女の人が屋台やってるぅぅぅぅ!」
「落ち着きたまえ。釣り上げられた深海魚みたいに目が飛び出てるよ。それに頭に耳が生えているのは誰だって同じだよ」
「冷静に突っ込まないでよ!」
「本当は鼠の頭をつけたかったのだけれども、それだとミッキーマウスになっちゃうから駄目なんだよ」
「節度をわきまえろ!」
「それにやったとしても、映画のゾンビネズミみたいにキモくなっちゃう可能性があるから、自粛したんだよ」
「そんなマニアックな映画、誰もしらねーよ!」
「キリタンポは美味しいかい。折角だから友達になろうね」
「やだよ!なんでそーなるんだよ!」
「私の家には寅人もいるんだよ。坊やにも会わせてあげようね。彼女の下着の柄も、そりゃあもう寅だよ。毎晩、同居人たちを自然に誘惑するんだよ。本人にその気はないんだけれども、見守っているこっちは、もうたまらいっちゃ……」
「ちょっと見たいけど、遠慮しとくよ。ご馳走様!」
そういうと、逃げるように僕は屋台を飛び出した。振り返ると鼠人がこちらをずっと見ていたので、かなり怖かった。すると、
「私は猫人だよ!猫の尻尾と耳が生えてるんだよ!」
「何か説明しながらこっちに来た!」
人間(!)をシコタマ荷台に乗せた軽トラックがこっちにやってきた。
「おとぉぉぉぉぉぉぉぉぉさぁぁぁぁぁぁん!」
「お父さんは呼んでもきやしないよ。何故なら御柱祭は始まってしまったからね」
「え、どういうこと?」
「御柱祭は、凄い危険なんだよ。何故なら男達がしがみついた御柱は、スペースシャトルみたいに空に打ちあがってしまったからね! 全部守矢神社の為なんだよ。例えるなら、おぉ桜島」
「そんな危険な祭りなのか!それより父さんは!」
「後ろに積んであるのは、御柱に振り落とされて怪我をした人で、これから永遠亭に運ぶんだよ。本当は面倒くさいから、地底に持って帰って地獄の釜に放り込んでしまいたいんだよ」
「物騒なこと言わないで、運んであげてよ!」
「君は優しいんだね。お礼にシッポとお尻の境目を見せてあげようね」
「いいよ!止めておくよ!」
「私のシッポはどこから生えてると思ぅ?骨かなぁ。それともその上かなぁ、下かなぁ。ねぇ貴方はどう思ぅ?あっちに布団が敷いてあるわよ……あんたみたいなショタッ子、わたし好みなの……」
「生々しいから止せ!ここは東方創想話だ!」
「お父さんの安否は、神社の人に聞いてごらん」
にやりと笑うと、トラックのハンドルを切って走り去ってしまった。その間、シューベルトの魔王を歌いながら。
「くそ、イヤな曲歌いやがって」
神社の本殿に向かった。そこに一人の女の人が座っていた。
「すいません、お父さん知りませんか」
「そこな人。私を誰だと思っているのですか。私は自分で言うのもなんですが、のっぴきならぬ人物なのですよ」
「もの凄く神々しい。まさか、貴方は……神?」
「いいえ、私は蛙人だよ」
おとぉぉぉぉぉぉぉさぁぁぁぁぁん、と僕は天に向かって叫んだ。よく見ると、へんな帽子を被っている。蛙のような目が付いている。
「安心しなさい。お父さんは無事、宇宙に打ちあがりました。多分、御神託で、無事」
「……随分適当なんですね」
「それよりも、大変な問題が起こっているの。私のことを助けてくれませんか」
「僕で良かったら……いいですけど」
「お礼に蛙の串焼きをご馳走してあげようね」
「遠慮します。それどう考えても共食いじゃ……」
蛙人に案内されて、お屋敷の中に入った。
「実は、御柱祭にクレームが入ったのです。クレーマーの人が言うには、祭りのたびに大変な迷惑をこうむっていると言うのです」
「まぁ、確かに迷惑かも」
「そこで子供の貴方に説得していただきたいのです。右も左もわからぬ無垢な美少年なら、相手も引き下がりましょう」
「以外とあくどいんですね、蛙人様」
僕らは襖の前まで来た。そのとき僕の脳裏に一つの考えが浮かんだ。
鳥人、鼠人、猫人、蛙人ときて次に来るのは何だ。どうせ宇宙人とかだろう。
そうなると、永遠亭の誰かが来るのではないか、というアイディアが浮かんだ。そうに違いない。
「しめた」
心の準備をしておけば冷静で居られるぞ。それに永遠亭の先生はフツーの人間っぽいし。おまけに優しい。里の人が病気になっても、ちゃんと真摯に看病してくれる。驚くもんか。
襖をあけた。僕は叫んだ。
「おとぉぉぉぉぉぉぉさぁぁぁぁぁぁん!」
「私はお父さんでは無い。メ○ロン星人だ」
真っ赤で細長い生き物が、ちゃぶ台に頬杖をついている。まるで茹でたての巨大なウインナ・ソーセージである。手元の湯飲みを持って、ずずと啜った。そして言った。美少女から羽が生えているとことか、もうそういう問題じゃない。
「見てごらん、上から下まで宇宙人なんだよ。もう、境目とかそういう問題じゃないんだよ」
「見りゃ判るよ!」
「君はお利口だね。お礼に後でUFOに乗せてあげようね」
「いりません!」
「流行のアダムスキー型なんだよ。葉巻型じゃないんだよ」
「どうでもええわ!それよりお祭りにクレームがあると聞いたのですが」
「そうだね。君たち地球人が毎度、あの変なミサイルを打ち上げるせいで、僕たちの星に多大なダメージを与えているんだよ」
「(ミサイル……?守矢神社は宇宙にまでを植民地を伸ばす気か)すいません、ただ僕たちの大切な文化なので、次は地球の大気圏くらいで我慢しますんで」
「君みたいに可愛い子供に言われると、許さないといけないね。今回は多めに見るけど、次は無いからね」
これにて一件落着、と誰もが思った。
「待て!話はこれからだ」
障子がぴしゃりと開いた。
「お前は!」
蛙人が叫んだ。
「おとぉぉぉぉぉぉぉぉぉさぁぁぁぁぁっぁぁん!」
僕が叫んだ。
「メフィラ○星人!」
メトロン星人が叫んだ。
「見てごらん、喋るたびに口のところが黄色く光るんだよ」
「見れば判るよ」
「君はお利口だね。お礼にM78星雲をあげようね」
「支配されちゃったの!?」
「そうなんだよ。それで次はこの地球を植民地にしようと思って」
メフィ○ス星人は出された湯のみを持ってずずと啜った。
「坊や、幻想郷を下さい、と言え」
「……いやだ!」
僕は言った。
一瞬、場の空気がぴんと張り詰めたのを僕は感じた。それでも構いやしない。僕は続けた。
「ここは鳥人も鼠人も猫人も、蛙人様も、みんな平和に暮らす場所なんだ。支配されてたまるもんか!」
僕の言葉を聞いて、メ○ィラス星人はため息をついた。そして文字通り糞不味い粗茶を飲み干すと、言った。
「私の負けだ。坊や、君の勇気に免じて見逃してあげよう。でも次は無いからね」
そういうと、二人は障子をぴしゃりとあけて、出て行ってしまった。その背中がさびしそうだった。
「待って、いつでも遊びに着てね、○フィラス星人と、○トロン星人」
二人の宇宙人は笑った、ような気がした。幻想郷は全てを受け入れるのだ。
祭りが終わり、三日たった。父がぼろぼろになって帰ってきた。何も言わない父さんの体は、少しだけ萎んで見えた。
そして夏が終わった。
僕はそれから大人になり、嫁を貰い、子供も出来た。しかしあれ以来というもの、鳥人にも、猫人にも、蛙人にも、宇宙人にも会っていない。
御柱祭りは余りに危険で中止された。そして時が経つにつれて、誰も妖怪達と付き合わなくなったのだ。
徐々に魔のものと距離を取る様になり、そういった連中の手を借りず、里の中だけで何とかやっていこうという風潮が生まれたのだ。
僕はそれに関しては、何ともいえない。でも少しさびしいと思う。今考えると少し意地悪だったけど、本当に面白い人達だった。
今考えると、鳥人は夜雀で、猫人は二股の化け猫、そして鼠人は最近おったった奇妙な寺の使いだったという。そして蛙人様は生けるご神体。彼等は彼等なりに、里の社会と仲良くしようとしていたのではないか。両者の間にある偏見を取り除き、うまく生きていく方法を模索していたのではないか。だから子供の僕を怖がらせないように、あんな冗談めいたジョークだかなんだか知らない戯言を言っていたのではないか。何故なら夜雀にしろ、地底からやってきた化け猫にしろ。里ではすっかり人食い怪物の異名をとって久しいからだ。だが、もし、彼等が純粋な気持ちで僕達と仲良くしたいと考えていたら……。そう考えるとひどく切なくなった。
今は亡き父も父で、初めて僕を妖怪達に会わせる事で、何か期待していたことがあったのかもしれない。老衰で天寿を全うしたやんちゃな父。もうその答えを聞くことは出来ない。
しかし、後悔後先たたず。そうした冒険を、僕の子供は味わえないのだ。それは悲しいことだ。何より、僕も会いたいと思っているし。
そんなことを考えつつ、僕は、三年に一度のモダンボーイ・コンペティションに向けて準備を整えていた。
ひょっとしたら、あの変わった妖怪達と会えるかもしれない。
ひょっとしたら、変な屋台が出ているかもしれないじゃないか。守矢神社だって、変な広告くらいだしているかもしれない。
そんな淡い期待を抱きつつ、僕は地面まで届く幻想入りしてしまった南部式のモーニング姿、そしてシルクハットをひっかむり出陣した。
その時だ。青空に光るものが見えた。あまりに不自然な軌道で、Mの文字を空に描く。
あぁ、ひょっとしたら、来たのかな。と思いながら僕は裾を引きずるようにして子供の手を引き、八雲様主催の大会会場へと急いだのだった。
今日はその御柱際なのだ。
一度でいいから見てみたいと頼むと、僕の父さんは、黙って僕の手を引いて連れて行ってくれた。山に登ると既に男の熱気に満ちていた。ドンガドンガドンガドンガ。
鳥居をくぐると、縁日の屋台が所狭しと並んでいる。父さんは僕にお金を握らせてこんなことを言った。
「子供にはまだ早い……これで遊んでおれ」
「なんでさ、つれてきてくれたのに」
「なら遠くから見ておれ」
父さんは何も言わずに着物を脱ぎ去り、褌一丁になってずんずん歩いて消えてしまった。祭りが始まるまで時間があるから、屋台を見て回ることにした。
「あ、ヒヨコだ。可愛いなぁ」
「坊や、鳥が好きなのかい?」
「好きだよ」
僕が振り返ると、そこには鳥の羽が生えた可愛らしい女の人が立っていた。
「おとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉさぁぁぁぁぁぁぁん!」
「どうしたんだい」
「背中に羽の生えた変な女の人が話しかけてきたぁぁぁぁぁぁぁ!」
「背中に羽の生えた変な女の人じゃないよ。私は鳥人だよ」
「え!鳥人!」
「そうだよ。人間の体に鳥の羽が付いているんだよ。本当は鳥の頭をつけたいのだけれども、仕様が無いから、顔は美少女と、こういう設定なんだよ。ヒヨコが飼いたいのかい?」
「え、うん、でもお金が足りないんだ」
「それならいいものを上げようね。ほらヤツメウナギだよ」
「わ、やめてよ。何で生きたまんま持ってくるんだよ。ぬるぬるして気持ち悪いよ!」
「坊やは一人でお祭りにきたの?」
「父さんときたんだけど、今は一人だよ。つーかヤツメウナギが凄い暴れるんですけど。何とかしてほしいんだけれども」
「偉いねぇ。ゴホウビに羽の付け根を見せてあげようね」
「見たくねーよ!森に帰れ!」
にやりと怪しい笑みを浮かべると、鳥人は屋台と屋台の間隙、暗闇の中に溶けるようにして消えてしまった。
「あぁ、怖かった」
また屋台を回っていると、奇妙な屋台を発見した。キリタンポ屋台だって。中々旨そうだ。
「一つ下さい」
「はい。君はキリタンポが好きなんだね」
「いや、初めて食べるんだよ。お姉さんは誰?」
「私は鼠人だよ」
よく見ると、頭に鼠の耳が付いている。お尻から細いシッポが生えている。
「おとぉぉぉぉぉぉぉさぁぁぁぁぁぁぁぁん!頭に耳の生えた変な女の人が屋台やってるぅぅぅぅ!」
「落ち着きたまえ。釣り上げられた深海魚みたいに目が飛び出てるよ。それに頭に耳が生えているのは誰だって同じだよ」
「冷静に突っ込まないでよ!」
「本当は鼠の頭をつけたかったのだけれども、それだとミッキーマウスになっちゃうから駄目なんだよ」
「節度をわきまえろ!」
「それにやったとしても、映画のゾンビネズミみたいにキモくなっちゃう可能性があるから、自粛したんだよ」
「そんなマニアックな映画、誰もしらねーよ!」
「キリタンポは美味しいかい。折角だから友達になろうね」
「やだよ!なんでそーなるんだよ!」
「私の家には寅人もいるんだよ。坊やにも会わせてあげようね。彼女の下着の柄も、そりゃあもう寅だよ。毎晩、同居人たちを自然に誘惑するんだよ。本人にその気はないんだけれども、見守っているこっちは、もうたまらいっちゃ……」
「ちょっと見たいけど、遠慮しとくよ。ご馳走様!」
そういうと、逃げるように僕は屋台を飛び出した。振り返ると鼠人がこちらをずっと見ていたので、かなり怖かった。すると、
「私は猫人だよ!猫の尻尾と耳が生えてるんだよ!」
「何か説明しながらこっちに来た!」
人間(!)をシコタマ荷台に乗せた軽トラックがこっちにやってきた。
「おとぉぉぉぉぉぉぉぉぉさぁぁぁぁぁぁん!」
「お父さんは呼んでもきやしないよ。何故なら御柱祭は始まってしまったからね」
「え、どういうこと?」
「御柱祭は、凄い危険なんだよ。何故なら男達がしがみついた御柱は、スペースシャトルみたいに空に打ちあがってしまったからね! 全部守矢神社の為なんだよ。例えるなら、おぉ桜島」
「そんな危険な祭りなのか!それより父さんは!」
「後ろに積んであるのは、御柱に振り落とされて怪我をした人で、これから永遠亭に運ぶんだよ。本当は面倒くさいから、地底に持って帰って地獄の釜に放り込んでしまいたいんだよ」
「物騒なこと言わないで、運んであげてよ!」
「君は優しいんだね。お礼にシッポとお尻の境目を見せてあげようね」
「いいよ!止めておくよ!」
「私のシッポはどこから生えてると思ぅ?骨かなぁ。それともその上かなぁ、下かなぁ。ねぇ貴方はどう思ぅ?あっちに布団が敷いてあるわよ……あんたみたいなショタッ子、わたし好みなの……」
「生々しいから止せ!ここは東方創想話だ!」
「お父さんの安否は、神社の人に聞いてごらん」
にやりと笑うと、トラックのハンドルを切って走り去ってしまった。その間、シューベルトの魔王を歌いながら。
「くそ、イヤな曲歌いやがって」
神社の本殿に向かった。そこに一人の女の人が座っていた。
「すいません、お父さん知りませんか」
「そこな人。私を誰だと思っているのですか。私は自分で言うのもなんですが、のっぴきならぬ人物なのですよ」
「もの凄く神々しい。まさか、貴方は……神?」
「いいえ、私は蛙人だよ」
おとぉぉぉぉぉぉぉさぁぁぁぁぁん、と僕は天に向かって叫んだ。よく見ると、へんな帽子を被っている。蛙のような目が付いている。
「安心しなさい。お父さんは無事、宇宙に打ちあがりました。多分、御神託で、無事」
「……随分適当なんですね」
「それよりも、大変な問題が起こっているの。私のことを助けてくれませんか」
「僕で良かったら……いいですけど」
「お礼に蛙の串焼きをご馳走してあげようね」
「遠慮します。それどう考えても共食いじゃ……」
蛙人に案内されて、お屋敷の中に入った。
「実は、御柱祭にクレームが入ったのです。クレーマーの人が言うには、祭りのたびに大変な迷惑をこうむっていると言うのです」
「まぁ、確かに迷惑かも」
「そこで子供の貴方に説得していただきたいのです。右も左もわからぬ無垢な美少年なら、相手も引き下がりましょう」
「以外とあくどいんですね、蛙人様」
僕らは襖の前まで来た。そのとき僕の脳裏に一つの考えが浮かんだ。
鳥人、鼠人、猫人、蛙人ときて次に来るのは何だ。どうせ宇宙人とかだろう。
そうなると、永遠亭の誰かが来るのではないか、というアイディアが浮かんだ。そうに違いない。
「しめた」
心の準備をしておけば冷静で居られるぞ。それに永遠亭の先生はフツーの人間っぽいし。おまけに優しい。里の人が病気になっても、ちゃんと真摯に看病してくれる。驚くもんか。
襖をあけた。僕は叫んだ。
「おとぉぉぉぉぉぉぉさぁぁぁぁぁぁん!」
「私はお父さんでは無い。メ○ロン星人だ」
真っ赤で細長い生き物が、ちゃぶ台に頬杖をついている。まるで茹でたての巨大なウインナ・ソーセージである。手元の湯飲みを持って、ずずと啜った。そして言った。美少女から羽が生えているとことか、もうそういう問題じゃない。
「見てごらん、上から下まで宇宙人なんだよ。もう、境目とかそういう問題じゃないんだよ」
「見りゃ判るよ!」
「君はお利口だね。お礼に後でUFOに乗せてあげようね」
「いりません!」
「流行のアダムスキー型なんだよ。葉巻型じゃないんだよ」
「どうでもええわ!それよりお祭りにクレームがあると聞いたのですが」
「そうだね。君たち地球人が毎度、あの変なミサイルを打ち上げるせいで、僕たちの星に多大なダメージを与えているんだよ」
「(ミサイル……?守矢神社は宇宙にまでを植民地を伸ばす気か)すいません、ただ僕たちの大切な文化なので、次は地球の大気圏くらいで我慢しますんで」
「君みたいに可愛い子供に言われると、許さないといけないね。今回は多めに見るけど、次は無いからね」
これにて一件落着、と誰もが思った。
「待て!話はこれからだ」
障子がぴしゃりと開いた。
「お前は!」
蛙人が叫んだ。
「おとぉぉぉぉぉぉぉぉぉさぁぁぁぁぁっぁぁん!」
僕が叫んだ。
「メフィラ○星人!」
メトロン星人が叫んだ。
「見てごらん、喋るたびに口のところが黄色く光るんだよ」
「見れば判るよ」
「君はお利口だね。お礼にM78星雲をあげようね」
「支配されちゃったの!?」
「そうなんだよ。それで次はこの地球を植民地にしようと思って」
メフィ○ス星人は出された湯のみを持ってずずと啜った。
「坊や、幻想郷を下さい、と言え」
「……いやだ!」
僕は言った。
一瞬、場の空気がぴんと張り詰めたのを僕は感じた。それでも構いやしない。僕は続けた。
「ここは鳥人も鼠人も猫人も、蛙人様も、みんな平和に暮らす場所なんだ。支配されてたまるもんか!」
僕の言葉を聞いて、メ○ィラス星人はため息をついた。そして文字通り糞不味い粗茶を飲み干すと、言った。
「私の負けだ。坊や、君の勇気に免じて見逃してあげよう。でも次は無いからね」
そういうと、二人は障子をぴしゃりとあけて、出て行ってしまった。その背中がさびしそうだった。
「待って、いつでも遊びに着てね、○フィラス星人と、○トロン星人」
二人の宇宙人は笑った、ような気がした。幻想郷は全てを受け入れるのだ。
祭りが終わり、三日たった。父がぼろぼろになって帰ってきた。何も言わない父さんの体は、少しだけ萎んで見えた。
そして夏が終わった。
僕はそれから大人になり、嫁を貰い、子供も出来た。しかしあれ以来というもの、鳥人にも、猫人にも、蛙人にも、宇宙人にも会っていない。
御柱祭りは余りに危険で中止された。そして時が経つにつれて、誰も妖怪達と付き合わなくなったのだ。
徐々に魔のものと距離を取る様になり、そういった連中の手を借りず、里の中だけで何とかやっていこうという風潮が生まれたのだ。
僕はそれに関しては、何ともいえない。でも少しさびしいと思う。今考えると少し意地悪だったけど、本当に面白い人達だった。
今考えると、鳥人は夜雀で、猫人は二股の化け猫、そして鼠人は最近おったった奇妙な寺の使いだったという。そして蛙人様は生けるご神体。彼等は彼等なりに、里の社会と仲良くしようとしていたのではないか。両者の間にある偏見を取り除き、うまく生きていく方法を模索していたのではないか。だから子供の僕を怖がらせないように、あんな冗談めいたジョークだかなんだか知らない戯言を言っていたのではないか。何故なら夜雀にしろ、地底からやってきた化け猫にしろ。里ではすっかり人食い怪物の異名をとって久しいからだ。だが、もし、彼等が純粋な気持ちで僕達と仲良くしたいと考えていたら……。そう考えるとひどく切なくなった。
今は亡き父も父で、初めて僕を妖怪達に会わせる事で、何か期待していたことがあったのかもしれない。老衰で天寿を全うしたやんちゃな父。もうその答えを聞くことは出来ない。
しかし、後悔後先たたず。そうした冒険を、僕の子供は味わえないのだ。それは悲しいことだ。何より、僕も会いたいと思っているし。
そんなことを考えつつ、僕は、三年に一度のモダンボーイ・コンペティションに向けて準備を整えていた。
ひょっとしたら、あの変わった妖怪達と会えるかもしれない。
ひょっとしたら、変な屋台が出ているかもしれないじゃないか。守矢神社だって、変な広告くらいだしているかもしれない。
そんな淡い期待を抱きつつ、僕は地面まで届く幻想入りしてしまった南部式のモーニング姿、そしてシルクハットをひっかむり出陣した。
その時だ。青空に光るものが見えた。あまりに不自然な軌道で、Mの文字を空に描く。
あぁ、ひょっとしたら、来たのかな。と思いながら僕は裾を引きずるようにして子供の手を引き、八雲様主催の大会会場へと急いだのだった。
「どうしたんだい」のあたりだが、どれが誰のセリフなのか分かりにくいのでもうちょっとセリフセリフの合間に誰が言ってるのか描写してほしい