とある残暑の昼下がり。いっこうに消える気配のない夏の陽射しに負けた私は、境内の掃除もそこそこに部屋の日の当たらない場所で昼寝をしようとしていた。
目を閉じて数分、今まさに眠りに落ちようとしているところで強制中断させられた。
侵入者が現れたからだ。そいつは境内を難なく通過し、屋内に侵入。日陰で横になってうとうとしている私を発見し、急接近すると――。
「暑いわねぇ……」
「そうね」
「暑過ぎるわ……」
「そうね……」
「流石の私もこの暑さには参ったわ……」
「……」
「ねぇ霊夢ぅ、なんとかしてよ~」
「……だったらまず私から離れなさいよ」
「え?」
「え? じゃないわよ。離れなさいって言ってるの」
「霊夢が何を言っているのか、さっぱりわからないわ」
「わからないのはあんたよ、幽香。こんな馬鹿みたいに暑い日にウチに来たと思ったらいきなり私に抱きついて。そのくせ、「暑い、暑い」と一つ覚えの馬鹿みたいに……そりゃ暑いに決まってるでしょーが」
――まぁ、こういうことである。幽香が私に抱きついてきてから既に30分ほど経っている。ちなみに、その間幽香が「暑い」という単語を口にした回数は106回。
煩悩に達するまでギリギリのところで聞き飽きてしまった私は、がっちりと抱きついている幽香に言った。
「……」
「……何よ」
幽香は黙った。根本的な部分にようやく気付いたのか、解放を期待していいのか、窺うように私は無言の幽香に言った。
「ぎゅ~」
むしろ抱き締められた。さっきよりも強く。どういうことだ。
「やめなさいって。暑いでしょうが」
「霊夢に抱きつくのは暑いの内に入らないのよ」
幽香は謎の理論を展開し始めた。本当にどういうことだ。しかし、幽香に抱きつかれている私が暑いを感じる時点でその理論は許されない。
「あんたに抱きつかれる私が暑いのよ」
「霊夢ったらつれないんだから」
「つれなくて結構。だからさっさと離れなさい」
「い~や~よ~」
「あんたねぇ……」
幽香は私のかねてからの願いを一蹴した。自分だけくつろぎ切っている様子が、とんでもなくむかついた。
あとこの体勢何とかしてほしい。というのも幽香の奴、正面から私を抱き寄せているのだ。おかげで私は幽香の胸に顔を押し付けられ暑苦しい上に息苦しいのだ。
せめて後ろからにしてほしい。いや、残暑厳しい今日この頃、そもそも最初から抱きついてこないでほしい。
まったく、不覚としか言いようがない。弾幕は避けれるのに、こいつにはグレイズどころか直撃を許してしまうなんて。
「くんくん」
「……何してるのよ」
「霊夢の頭の匂いを嗅いでいるの」
「やめんか」
「大丈夫、いつもの匂いよ。いい匂い」
「そういう事言ってるんじゃないのよ」
「はぁ~しあわせだわあ~」
「まったく……」
身動きが取れない私はかぶりを振ったり、肩を竦めたり、そういった仕草を出来ないのが何とももどかしい。だから私は心底呆れたように言ってみせた。
「(……なんてな)」
だけど、それはポーズに過ぎない。口では離れてほしいと、嫌がる素振りを見せている私だが実際本音はそうではなかったりする。
――そう。別に私は幽香にこうして抱き締められるのは嫌いじゃない。何ていうか、むしろ、安心する。
暑苦しい。幽香の体温がじんわりと心地良い。
息苦しい。幽香の匂いがいっぱいに広がる。
建前と本音。
本音を言ってあげないのは、まぁ、単純に面と向かって言うのが恥ずかしいだけ。あと言ったら幽香は絶対調子に乗る。あまりつけ上がらせるのも面白くない。
「はぁ~……」
――いい匂い。何かの花っぽい匂い。幽香の匂い。きもちいい。色々とどうでもよくなる。抵抗する気も起きない。そもそも最初から、ない。
「あらあら、おっきな溜め息ねぇ」
クスクス笑う幽香の声が鼓膜に響く。優しい声。綺麗な声。安心する。色々と忘れたくなる。博麗とか。使命とか。
「……誰かさんのせいでね。自覚ある?」
「どうかしらねぇ」
とぼけても無駄よ。私は知っているんだから。この匂いも。この声も。この体温も。私は昔から知っている。ずっと幽香を感じてきたのだ。嫌いなわけがない。
だから私は口にする。この感情を言葉にする。溜め込みすぎは体に良くない。毒だ。毒は毒抜きをしないといけない。だから私は口にする。甘くて心地良いこの毒を言葉にする。
「……しあわせ」
幽香の柔らかい胸に顔を埋めながら、幽香に聞こえないように、幽香の胸の中で消えてしまうような小さな声で、私はそれを口にして幽香が満足して解放してくれるまで、中断させられた昼寝を幽香の腕の中で満喫するべく目を閉じた。
目を閉じて数分、今まさに眠りに落ちようとしているところで強制中断させられた。
侵入者が現れたからだ。そいつは境内を難なく通過し、屋内に侵入。日陰で横になってうとうとしている私を発見し、急接近すると――。
「暑いわねぇ……」
「そうね」
「暑過ぎるわ……」
「そうね……」
「流石の私もこの暑さには参ったわ……」
「……」
「ねぇ霊夢ぅ、なんとかしてよ~」
「……だったらまず私から離れなさいよ」
「え?」
「え? じゃないわよ。離れなさいって言ってるの」
「霊夢が何を言っているのか、さっぱりわからないわ」
「わからないのはあんたよ、幽香。こんな馬鹿みたいに暑い日にウチに来たと思ったらいきなり私に抱きついて。そのくせ、「暑い、暑い」と一つ覚えの馬鹿みたいに……そりゃ暑いに決まってるでしょーが」
――まぁ、こういうことである。幽香が私に抱きついてきてから既に30分ほど経っている。ちなみに、その間幽香が「暑い」という単語を口にした回数は106回。
煩悩に達するまでギリギリのところで聞き飽きてしまった私は、がっちりと抱きついている幽香に言った。
「……」
「……何よ」
幽香は黙った。根本的な部分にようやく気付いたのか、解放を期待していいのか、窺うように私は無言の幽香に言った。
「ぎゅ~」
むしろ抱き締められた。さっきよりも強く。どういうことだ。
「やめなさいって。暑いでしょうが」
「霊夢に抱きつくのは暑いの内に入らないのよ」
幽香は謎の理論を展開し始めた。本当にどういうことだ。しかし、幽香に抱きつかれている私が暑いを感じる時点でその理論は許されない。
「あんたに抱きつかれる私が暑いのよ」
「霊夢ったらつれないんだから」
「つれなくて結構。だからさっさと離れなさい」
「い~や~よ~」
「あんたねぇ……」
幽香は私のかねてからの願いを一蹴した。自分だけくつろぎ切っている様子が、とんでもなくむかついた。
あとこの体勢何とかしてほしい。というのも幽香の奴、正面から私を抱き寄せているのだ。おかげで私は幽香の胸に顔を押し付けられ暑苦しい上に息苦しいのだ。
せめて後ろからにしてほしい。いや、残暑厳しい今日この頃、そもそも最初から抱きついてこないでほしい。
まったく、不覚としか言いようがない。弾幕は避けれるのに、こいつにはグレイズどころか直撃を許してしまうなんて。
「くんくん」
「……何してるのよ」
「霊夢の頭の匂いを嗅いでいるの」
「やめんか」
「大丈夫、いつもの匂いよ。いい匂い」
「そういう事言ってるんじゃないのよ」
「はぁ~しあわせだわあ~」
「まったく……」
身動きが取れない私はかぶりを振ったり、肩を竦めたり、そういった仕草を出来ないのが何とももどかしい。だから私は心底呆れたように言ってみせた。
「(……なんてな)」
だけど、それはポーズに過ぎない。口では離れてほしいと、嫌がる素振りを見せている私だが実際本音はそうではなかったりする。
――そう。別に私は幽香にこうして抱き締められるのは嫌いじゃない。何ていうか、むしろ、安心する。
暑苦しい。幽香の体温がじんわりと心地良い。
息苦しい。幽香の匂いがいっぱいに広がる。
建前と本音。
本音を言ってあげないのは、まぁ、単純に面と向かって言うのが恥ずかしいだけ。あと言ったら幽香は絶対調子に乗る。あまりつけ上がらせるのも面白くない。
「はぁ~……」
――いい匂い。何かの花っぽい匂い。幽香の匂い。きもちいい。色々とどうでもよくなる。抵抗する気も起きない。そもそも最初から、ない。
「あらあら、おっきな溜め息ねぇ」
クスクス笑う幽香の声が鼓膜に響く。優しい声。綺麗な声。安心する。色々と忘れたくなる。博麗とか。使命とか。
「……誰かさんのせいでね。自覚ある?」
「どうかしらねぇ」
とぼけても無駄よ。私は知っているんだから。この匂いも。この声も。この体温も。私は昔から知っている。ずっと幽香を感じてきたのだ。嫌いなわけがない。
だから私は口にする。この感情を言葉にする。溜め込みすぎは体に良くない。毒だ。毒は毒抜きをしないといけない。だから私は口にする。甘くて心地良いこの毒を言葉にする。
「……しあわせ」
幽香の柔らかい胸に顔を埋めながら、幽香に聞こえないように、幽香の胸の中で消えてしまうような小さな声で、私はそれを口にして幽香が満足して解放してくれるまで、中断させられた昼寝を幽香の腕の中で満喫するべく目を閉じた。
こういう雰囲気の話いいなあ
のんびりでいいんで次も期待してます