秋の夜長をどう過ごすか。
決まって知恵のある者ほど有意義な時間の過ごし方を知っているものである。
ある者は、揺らめく芒の音を聞きながら読書に没頭する。
ある者は、松虫の鳴声を聞きながら涼しくなった夜道を歩く。
ある者は、澄んだ空に浮かぶ月を見ながら酒を呑む。
ただ酒を呑むより友人と呑む酒は格別である。
これは幻想郷に住む、知恵のある者達の、格別な酒の席の話。
とある神社にて
太陽が沈み、幻想郷は薄闇に包まれ始めていた。
今日も一日、参拝客は来なかった。
しょんぼりした私はため息をつき、夕飯の支度を始めようと台所へ向かった。
「おーい霊夢、邪魔するぜー」
聞きなれた声が神社に響き渡る。
魔理沙か・・・
やっぱり今日も参拝客は来なかった。
いきなり現れたと思うと、彼女は顔も見せずに物置へ向かった。
私は少しムッとしながら彼女に文句を言う。
「ちょっと魔理沙!勝手に上がりこんできた上に物置を物色するなんて良い度胸ね?」
「何言ってんだよ。今日は全部私が用意してやるんだからいいだろ?」
「それに、こんな神社を物色したところで金目のものは無いぜ」
いくら幼い頃からの知り合いとは言え、色々聞き捨てならない言葉を耳にした気がした。
だが、彼女の足元に置いてある一升瓶と竹籠一杯の茸を見て私はそれを流してあげる事にした。
「何よ、お酒持って来てくれたならそう言ってよ」
ニコニコと笑顔の私。
物置の奥から持ってきた七輪を縁側に置きながら彼女は言う。
「相変わらず、現金な奴・・・」
呆れた表情を私に向ける魔理沙の言葉など殆ど耳に入っていなかった。
それもその筈、竹籠一杯の茸とお酒。
想像するだけで幸せな気分になれた気がした。
「煉炭持って来るわ」
私はスキップをしながら台所に向かった。
一時間もしない内に茸と醤油が焦げる香ばしい匂いが神社を包んだ。
やっぱり秋はこれよね。七輪で炙る茸で一杯。口に広がる芳醇な茸の香り。鼻腔に抜ける酒の香り。
私達はなんて幸せな時間の過ごし方を知っているのかしら。
縁側に座りながら七輪の上で色を変えていく茸を摘みながら私達は酒を呑んだ。
「おい、霊夢。何度言ったらわかるんだよ」
「取り皿の醤油に着けて食べたほうが美味いって言ってるだろ」
「はぁ、魔理沙。あんたも困った奴ね」
「焼く前に醤油を付けたほうが香ばしいでしょ」
食へのこだわりは千差万別。私達は昔から分かり合えず、こんなやり取りをしている。
だが私はこういうやり取りが楽しい。
人間だろうと妖怪だろうと私は誰にも平等に接するようにしている。
している。と言うと語弊があるかもしれないが、誰にも深く関わらない。結界を守る役目の人間が特定の人物を優遇する訳にはいかない。
幻想郷を包む結界は誰にも平等で、ただそこにあるのだ。特定の人物に対して効き目が無いなどあってはならない事。
だから私は誰にでも同じ態度を取る。
結界と同じように私もただそこにいるだけ。
そんな考え方を物心ついた頃からしているせいで、里に住む同年代の人間達に友達はいない。今更欲しいとも思わないけど、彼女といると友達が出来たようで嬉しいのだ。
お酒を呑むと色々と考え込んでしまう癖があるようで、黙り込んでいた私に彼女が話しかけてきた。
「おいおい、折角友達と酒呑んでるのに黙り込むのは無しだぜ」
魔理沙の口から嬉しい言葉を聞けて私は顔が紅潮するのを感じた。
ふと杯に目をやると真っ赤な顔をした私が映っていた。
恥ずかしくなり一気に杯を空ける。
「おぉ、いい呑みっぷり」
彼女は笑いながら空になった杯に酒を注いでくれた。
とある冥界にて
澄んだ空に満月が浮かぶ。
月の明かりが白玉楼の枯山水を照らす。
とくっとくっとくっ
徳利が酒を外へ出す心地良い音を聞きながら幽々子は嬉しそうな笑みを浮かべる。
「まだまだ夜は長いんだからそんなに急いで呑まなくてもいいんじゃないかしら」
私は普段よりペースの速い友人を心配してそんな事を口に出した。
「大丈夫よ。もう死んでるし、呑みすぎて死ぬなんて事はないわ」
「それに今年、紫と呑める機会も残り僅かでしょ」
毎年この時期の彼女は酒を呑むと切なそうな顔をする。私は冬になると冬眠してしまう。
彼女と酒を酌み交わす事が出来るのは、毎年秋が最後になってしまうのだ。
とは言え、折角の酒の席。しょんぼりされるのは困る。
「あのねぇ、幽々子。もう数え切れないくらい一緒に呑んでいるんだから、いい加減慣れなさいよ」
「だって、妖夢はお酒強くないし、冬の間寂しいのよ」
「冬に晩酌をしない紫には分からない悩みなの」
目をうるうるさせながら私に文句を言う幽々子は完全に出来上がってる。
それもそうよ。一人で一升瓶を何十本も空けているんですもの。
あーあ、スキマから幾らでも取ってこれるとは言え、これだけ無くなれば藍にばれるわね。
紫様!またうちの倉庫からお酒盗みましたね!
明日言われる言葉が簡単に想像できる。
「そんな事より、幽々子」
「飲ませすぎて倒れている妖夢は平気かしら」
私は話題を変えさせようと話をそらす。
「あー、コラ妖夢。主より先に寝る従者がいますか!」
彼女は従者の横に座りこみ楽しそうな笑顔を浮かべる。
倒れている妖夢の顔を何度も叩く彼女を見て私は笑う。
本当にこの子は昔から無邪気なままね。
まったく、あの時私がどんな思いをしたと思ってるのか。一度でいいから言ってやりたい。
人間だった幽々子が死んでしまった時。私は絶望した。折角友達になれた人が突然死んでしまうあの悲しみ、虚無感。
私の能力を使っても取り返すことの出来ない笑顔。
また一緒にお酒呑みましょうね。
その約束を果たせなかった自分への怒り。
悶え苦しむ妖夢に楽しそうにちょっかいを出す幽々子を眺めていると彼女は標的を私に変えたらしく、焦点の定まらない目で私を見る。
「ゆかりぃぃ、寂しいから冬眠しないでよぉぉ」
まったく、あの時の私が味わった寂しさも知らないくせに、この子は・・・。
私は呆れたようにため息をつく。
「分かったわよ。今日はとことん呑むわよ」
急に笑顔になった幽々子が嬉しそうに私の杯にお酒を注いだ。
とある神社にて
色を失っている万物を薄く色付けていた満月も沈み始めた。
満月の夜、妖怪の山の神社の境内は肌寒く、熱燗の温もりが体を温めてくれる。
酒の注がれたお猪口を親指と人差し指で持ち上げ、勢い良く飲み干す私の友人。
「ぷはぁっ」
「神奈子、その『ぷはぁ』ってババ臭いからやめなって」
幸せそうな顔をする神奈子をからかう私。
「ババ臭いってなによ?」
「私はフランクな神様よ。『ぷはぁ』って言ってる方が人間味があって良いじゃない」
「最近はフランクな神の方が信仰されるのよ」
「あーはいはい」
神奈子の信仰論は長くなるから聞き流すのが一番。
私達、神の力の源は信仰心から生まれる。
向こうの世界で力を維持できなくなってしまった事に責任を感じている神奈子は、幻想郷に来てから今まで以上に信仰について考えるようになった。
まぁ、こいつは昔から責任感が強いと言うか、真面目すぎる所があるからなぁ。
「ちょっと、諏訪子、聞きなさいよ」
急に真面目な顔になる神奈子はお猪口をトンっと強く床に置く。
あーうー。信仰について語りだすと長いから嫌なのよね・・・
「何よ」
「そもそも信仰心というのはねぇ・・・」
始まっちゃったよ・・・
「今日はペースが遅いねぇ」
「歳かもねぇ」
神奈子の話を遮るように彼女のお猪口に酒を注ぎ、話題を変える。
「こら、諏訪子、歳は関係ないだろ、歳は?」
よし、喰い付いた。
「大体アンタの方が年上じゃない」
「そんな幼い格好して。いい歳して幼女気取りしてるんじゃないわよ、気持ち悪い」
「諏訪子と早苗が一緒に歩いていたら仲の良い姉妹に見られるかもね」
「もちろん妹は諏訪子ね。あんたの方が背低いもんねぇ」
ニヤニヤと腹の立つ顔をする神奈子。
ババ臭いと言われたのがそんなに悔しかったのか。神奈子はここぞとばかりに反撃に転じた。
この女、背低いって言いやがった。気にしてるのに・・・
怒りにプルプル身を震わしていると神奈子が追い討ちをかけてきた。
「あれぇ、どうしたのかなぁ?す・わ・こちゃん?」
完全にカチンと来た私は鋭い目付きで神奈子を睨み上げる。
神奈子は私を見下すような目付きをして腕組みをしている。
一触即発。
先に神奈子が動いた。
お互い弾幕を展開し、神遊びが始まる。弾幕に混じってお互いの罵声が弾幕のように飛び交う。
神が使う言葉とは思えない程汚い言葉も飛び出し、醜い神遊びがエスカレートしていく。
うん、早苗が寝てて良かった。
気が付けばお互い酔いが回り、石畳の上に倒れこんでいた。
「アハハ、神奈子、相変わらず嫌な感じの弾幕だったよー」
仰向けになった私は息を切らしながら首だけを神奈子に向け話しかける。
「何よそれ、それ誉めてるの?」
神奈子はむくりと起き上がり、胡坐をかきながら言う。
「誉めてるよ。友人に送る最高の誉め言葉よ」
笑顔で神奈子の質問に答える。
「そう」
笑顔の神奈子。
うーん。お互いフラフラ。弾幕によるダメージよりも、激しい動きをしたせいで、体中にアルコールが勢い良く回ったせいね。
でもお互い言いたい事を言い合ったので心はスッキリしている。
余程疲れたのか、神奈子はそのまま御柱に寄りかかり眠り込んでしまった。
私は起き上がり、彼女の横に座り目を閉じる。
彼女の体は柔らかく、枕にするには最高だった。
朝日が昇る頃、私と神奈子は早苗に叩き起こされ、境内をめちゃくちゃにした事に対して怒られた。まさか神が巫女に叱られるなんて・・・
二人して早苗にペコペコと頭を下げた。
秋の夜長にお酒は最高のお供になるだろう。
友と呑むお酒は格別である。
楽しみ方も人それぞれ。思いふけるも良し、騒ぐも良し、暴れるも良し。
秋の夜長に酒を呑む。ぜひとも体験して頂きたい。
「ふぅ」
書き物を終えた稗田阿求がため息を漏らす。
お酒が好きな幻想郷の住人達を取材し、それを書き溜めた資料を基に一冊の本を作ろうと現在奮闘中の阿求。
「なんだか私も一杯やりたくなりました」
「やはり、お酒の良さを知るには自ら酔う必要がありそうですね」
そういうと彼女は立ち上がり書斎を後にした。
結局、人は誰でもお酒を呑む為に口実が必要なのだ。
月が綺麗だから。友人が遊びに来たから。なんでもない日だから。
知恵のある人ほど上手い口実を作りお酒にたどり着く。
知恵のある者ほど酒の席の楽しみ方を心得ている。
そして楽しみ方は千差万別。自分に合う楽しみ方を見つけ、お酒と上手く付き合っていきたいものである。
決まって知恵のある者ほど有意義な時間の過ごし方を知っているものである。
ある者は、揺らめく芒の音を聞きながら読書に没頭する。
ある者は、松虫の鳴声を聞きながら涼しくなった夜道を歩く。
ある者は、澄んだ空に浮かぶ月を見ながら酒を呑む。
ただ酒を呑むより友人と呑む酒は格別である。
これは幻想郷に住む、知恵のある者達の、格別な酒の席の話。
とある神社にて
太陽が沈み、幻想郷は薄闇に包まれ始めていた。
今日も一日、参拝客は来なかった。
しょんぼりした私はため息をつき、夕飯の支度を始めようと台所へ向かった。
「おーい霊夢、邪魔するぜー」
聞きなれた声が神社に響き渡る。
魔理沙か・・・
やっぱり今日も参拝客は来なかった。
いきなり現れたと思うと、彼女は顔も見せずに物置へ向かった。
私は少しムッとしながら彼女に文句を言う。
「ちょっと魔理沙!勝手に上がりこんできた上に物置を物色するなんて良い度胸ね?」
「何言ってんだよ。今日は全部私が用意してやるんだからいいだろ?」
「それに、こんな神社を物色したところで金目のものは無いぜ」
いくら幼い頃からの知り合いとは言え、色々聞き捨てならない言葉を耳にした気がした。
だが、彼女の足元に置いてある一升瓶と竹籠一杯の茸を見て私はそれを流してあげる事にした。
「何よ、お酒持って来てくれたならそう言ってよ」
ニコニコと笑顔の私。
物置の奥から持ってきた七輪を縁側に置きながら彼女は言う。
「相変わらず、現金な奴・・・」
呆れた表情を私に向ける魔理沙の言葉など殆ど耳に入っていなかった。
それもその筈、竹籠一杯の茸とお酒。
想像するだけで幸せな気分になれた気がした。
「煉炭持って来るわ」
私はスキップをしながら台所に向かった。
一時間もしない内に茸と醤油が焦げる香ばしい匂いが神社を包んだ。
やっぱり秋はこれよね。七輪で炙る茸で一杯。口に広がる芳醇な茸の香り。鼻腔に抜ける酒の香り。
私達はなんて幸せな時間の過ごし方を知っているのかしら。
縁側に座りながら七輪の上で色を変えていく茸を摘みながら私達は酒を呑んだ。
「おい、霊夢。何度言ったらわかるんだよ」
「取り皿の醤油に着けて食べたほうが美味いって言ってるだろ」
「はぁ、魔理沙。あんたも困った奴ね」
「焼く前に醤油を付けたほうが香ばしいでしょ」
食へのこだわりは千差万別。私達は昔から分かり合えず、こんなやり取りをしている。
だが私はこういうやり取りが楽しい。
人間だろうと妖怪だろうと私は誰にも平等に接するようにしている。
している。と言うと語弊があるかもしれないが、誰にも深く関わらない。結界を守る役目の人間が特定の人物を優遇する訳にはいかない。
幻想郷を包む結界は誰にも平等で、ただそこにあるのだ。特定の人物に対して効き目が無いなどあってはならない事。
だから私は誰にでも同じ態度を取る。
結界と同じように私もただそこにいるだけ。
そんな考え方を物心ついた頃からしているせいで、里に住む同年代の人間達に友達はいない。今更欲しいとも思わないけど、彼女といると友達が出来たようで嬉しいのだ。
お酒を呑むと色々と考え込んでしまう癖があるようで、黙り込んでいた私に彼女が話しかけてきた。
「おいおい、折角友達と酒呑んでるのに黙り込むのは無しだぜ」
魔理沙の口から嬉しい言葉を聞けて私は顔が紅潮するのを感じた。
ふと杯に目をやると真っ赤な顔をした私が映っていた。
恥ずかしくなり一気に杯を空ける。
「おぉ、いい呑みっぷり」
彼女は笑いながら空になった杯に酒を注いでくれた。
とある冥界にて
澄んだ空に満月が浮かぶ。
月の明かりが白玉楼の枯山水を照らす。
とくっとくっとくっ
徳利が酒を外へ出す心地良い音を聞きながら幽々子は嬉しそうな笑みを浮かべる。
「まだまだ夜は長いんだからそんなに急いで呑まなくてもいいんじゃないかしら」
私は普段よりペースの速い友人を心配してそんな事を口に出した。
「大丈夫よ。もう死んでるし、呑みすぎて死ぬなんて事はないわ」
「それに今年、紫と呑める機会も残り僅かでしょ」
毎年この時期の彼女は酒を呑むと切なそうな顔をする。私は冬になると冬眠してしまう。
彼女と酒を酌み交わす事が出来るのは、毎年秋が最後になってしまうのだ。
とは言え、折角の酒の席。しょんぼりされるのは困る。
「あのねぇ、幽々子。もう数え切れないくらい一緒に呑んでいるんだから、いい加減慣れなさいよ」
「だって、妖夢はお酒強くないし、冬の間寂しいのよ」
「冬に晩酌をしない紫には分からない悩みなの」
目をうるうるさせながら私に文句を言う幽々子は完全に出来上がってる。
それもそうよ。一人で一升瓶を何十本も空けているんですもの。
あーあ、スキマから幾らでも取ってこれるとは言え、これだけ無くなれば藍にばれるわね。
紫様!またうちの倉庫からお酒盗みましたね!
明日言われる言葉が簡単に想像できる。
「そんな事より、幽々子」
「飲ませすぎて倒れている妖夢は平気かしら」
私は話題を変えさせようと話をそらす。
「あー、コラ妖夢。主より先に寝る従者がいますか!」
彼女は従者の横に座りこみ楽しそうな笑顔を浮かべる。
倒れている妖夢の顔を何度も叩く彼女を見て私は笑う。
本当にこの子は昔から無邪気なままね。
まったく、あの時私がどんな思いをしたと思ってるのか。一度でいいから言ってやりたい。
人間だった幽々子が死んでしまった時。私は絶望した。折角友達になれた人が突然死んでしまうあの悲しみ、虚無感。
私の能力を使っても取り返すことの出来ない笑顔。
また一緒にお酒呑みましょうね。
その約束を果たせなかった自分への怒り。
悶え苦しむ妖夢に楽しそうにちょっかいを出す幽々子を眺めていると彼女は標的を私に変えたらしく、焦点の定まらない目で私を見る。
「ゆかりぃぃ、寂しいから冬眠しないでよぉぉ」
まったく、あの時の私が味わった寂しさも知らないくせに、この子は・・・。
私は呆れたようにため息をつく。
「分かったわよ。今日はとことん呑むわよ」
急に笑顔になった幽々子が嬉しそうに私の杯にお酒を注いだ。
とある神社にて
色を失っている万物を薄く色付けていた満月も沈み始めた。
満月の夜、妖怪の山の神社の境内は肌寒く、熱燗の温もりが体を温めてくれる。
酒の注がれたお猪口を親指と人差し指で持ち上げ、勢い良く飲み干す私の友人。
「ぷはぁっ」
「神奈子、その『ぷはぁ』ってババ臭いからやめなって」
幸せそうな顔をする神奈子をからかう私。
「ババ臭いってなによ?」
「私はフランクな神様よ。『ぷはぁ』って言ってる方が人間味があって良いじゃない」
「最近はフランクな神の方が信仰されるのよ」
「あーはいはい」
神奈子の信仰論は長くなるから聞き流すのが一番。
私達、神の力の源は信仰心から生まれる。
向こうの世界で力を維持できなくなってしまった事に責任を感じている神奈子は、幻想郷に来てから今まで以上に信仰について考えるようになった。
まぁ、こいつは昔から責任感が強いと言うか、真面目すぎる所があるからなぁ。
「ちょっと、諏訪子、聞きなさいよ」
急に真面目な顔になる神奈子はお猪口をトンっと強く床に置く。
あーうー。信仰について語りだすと長いから嫌なのよね・・・
「何よ」
「そもそも信仰心というのはねぇ・・・」
始まっちゃったよ・・・
「今日はペースが遅いねぇ」
「歳かもねぇ」
神奈子の話を遮るように彼女のお猪口に酒を注ぎ、話題を変える。
「こら、諏訪子、歳は関係ないだろ、歳は?」
よし、喰い付いた。
「大体アンタの方が年上じゃない」
「そんな幼い格好して。いい歳して幼女気取りしてるんじゃないわよ、気持ち悪い」
「諏訪子と早苗が一緒に歩いていたら仲の良い姉妹に見られるかもね」
「もちろん妹は諏訪子ね。あんたの方が背低いもんねぇ」
ニヤニヤと腹の立つ顔をする神奈子。
ババ臭いと言われたのがそんなに悔しかったのか。神奈子はここぞとばかりに反撃に転じた。
この女、背低いって言いやがった。気にしてるのに・・・
怒りにプルプル身を震わしていると神奈子が追い討ちをかけてきた。
「あれぇ、どうしたのかなぁ?す・わ・こちゃん?」
完全にカチンと来た私は鋭い目付きで神奈子を睨み上げる。
神奈子は私を見下すような目付きをして腕組みをしている。
一触即発。
先に神奈子が動いた。
お互い弾幕を展開し、神遊びが始まる。弾幕に混じってお互いの罵声が弾幕のように飛び交う。
神が使う言葉とは思えない程汚い言葉も飛び出し、醜い神遊びがエスカレートしていく。
うん、早苗が寝てて良かった。
気が付けばお互い酔いが回り、石畳の上に倒れこんでいた。
「アハハ、神奈子、相変わらず嫌な感じの弾幕だったよー」
仰向けになった私は息を切らしながら首だけを神奈子に向け話しかける。
「何よそれ、それ誉めてるの?」
神奈子はむくりと起き上がり、胡坐をかきながら言う。
「誉めてるよ。友人に送る最高の誉め言葉よ」
笑顔で神奈子の質問に答える。
「そう」
笑顔の神奈子。
うーん。お互いフラフラ。弾幕によるダメージよりも、激しい動きをしたせいで、体中にアルコールが勢い良く回ったせいね。
でもお互い言いたい事を言い合ったので心はスッキリしている。
余程疲れたのか、神奈子はそのまま御柱に寄りかかり眠り込んでしまった。
私は起き上がり、彼女の横に座り目を閉じる。
彼女の体は柔らかく、枕にするには最高だった。
朝日が昇る頃、私と神奈子は早苗に叩き起こされ、境内をめちゃくちゃにした事に対して怒られた。まさか神が巫女に叱られるなんて・・・
二人して早苗にペコペコと頭を下げた。
秋の夜長にお酒は最高のお供になるだろう。
友と呑むお酒は格別である。
楽しみ方も人それぞれ。思いふけるも良し、騒ぐも良し、暴れるも良し。
秋の夜長に酒を呑む。ぜひとも体験して頂きたい。
「ふぅ」
書き物を終えた稗田阿求がため息を漏らす。
お酒が好きな幻想郷の住人達を取材し、それを書き溜めた資料を基に一冊の本を作ろうと現在奮闘中の阿求。
「なんだか私も一杯やりたくなりました」
「やはり、お酒の良さを知るには自ら酔う必要がありそうですね」
そういうと彼女は立ち上がり書斎を後にした。
結局、人は誰でもお酒を呑む為に口実が必要なのだ。
月が綺麗だから。友人が遊びに来たから。なんでもない日だから。
知恵のある人ほど上手い口実を作りお酒にたどり着く。
知恵のある者ほど酒の席の楽しみ方を心得ている。
そして楽しみ方は千差万別。自分に合う楽しみ方を見つけ、お酒と上手く付き合っていきたいものである。
秋の静かでのんびりした雰囲気がよく出ていました
秋のキノコ焼きは半端なく美味しいです。
日本酒でも白飯でも何にでも合います。
私は魔理沙派で醤油は後付けが一番だと思いますが。
誰かと静かに杯を傾けたくなる、そんなSSでした。
こういうやり取りを見ると落ち着きますね。
まだ成人じゃないですが、もし飲めるようになったらこれみたくまったりと飲みたいです。
本当に酒の楽しみ方は人それぞれですね・・・
>香り松茸カキシメジ、ですね。
臼田凛さんに勝てる気がしません
秋は食べ物が美味しいのでついつい呑んじゃいますねぇ。
茸も良いですが秋刀魚もいいですね。
おかげでキッチンが臭いです・・・
まあ神が作ったと考えればたぶん大丈夫でしょう。
個人的にはゆゆさまと酌を交わしたいと思ってます。
良い作品でした。