小説というものは、言ってしまえば冗長の塊だ。
例えば、感電するほどの喜びを綴った小説があったとする。しかし『感電するほどの喜び』というものがその一語で表せるのならば、それが全てとなり、その簡潔極まりない一語でことは足りてしまう。
だがまぁ、当然そんな都合の良いことはないのだから、作者は苦労をしてその一語を別の数多くの言葉で近似するのだ。種々の言葉をひねり出すうちに、やがて朧気に『感電するほどの喜び』というものが浮かび上がってくる。そうやってでき上がったものが、小説というものなのだ。
小説はそのように、たった一語で済むものを、わざわざ着飾った別の言葉をもって飾り立てる。逆に言えば、一語では到底言い表せないからこそ、無駄に別の言葉が必要になるのだ。
そうやって一語を表現するために別の言葉が必要になり、その別の言葉が呼び水となり更に多くの言葉を呼ぶ。無限に広がる言葉の連鎖が、覗き込めば魂ごと引き込まれてしまいそうな、暗く深く大きな穴を形作る。一厘の意味を表すために、九割九分九厘の冗長が生まれるのだ。
ここで作家がその冗長を無理に押しとどめようとした結果、抑圧された言葉たちが事象の地平面の内側に押し潰されてしまうことも往々にある。そうして生まれるものは無明の闇にも似ていて、その暗闇の中に意味を見いだそうにも、言葉の連なりすら上手く判別できないものになっている。下手に扱うとそれを生み出した作者でさえ甚大な被害を受け、ともすればその重さに捕らわれ、帰ってこられなくなる危険性すら秘めている。
逆に作家がその冗長の連鎖生成を上手く操縦できなくなった場合も、同じような危険性を排出する。作者の手綱を離れた小説は際限なく冗長を生み出し、いつ果てるともしれぬ言葉を吐き出し続けるのだ。こうして生まれた永遠の未完の大作は、作者のみならず読者の側にも不幸をもたらす場合が確認されている。
このように、小説というものは非常に取り扱いの難しい、ある意味では危険な生物ともとれる向きがある。
要するに、人の想いを形にするに当たって、言葉という道具は最適化されていないのだ。
各々が思い思いに抱く、非言語的な感情。非言語的なものを言語で現そうとしているのだから、これは端から勝ち目のない戦いに挑んでいると言っても過言ではないだろう。この戦いは、なんとなく書いている内に思っていることに近付いてきたな、程度に止めておくのが良いのだ。さもなければ、永久に亀を追い続けるアキレスのようになってしまう。
つまり小説は、自分の中にある非言語の想い、即ち自らが抱く幻想をなんとかして外部空間に出力するための道具、とも言える。例えば紙に記されて外部に出力された幻想は、皆の中にある幻想と共感・共有されていく。その幻想が波及して多くの他者に受け入れられていくほど、それは皆の内部空間を繋ぐ新たな共現実となって世界へ投影されるのだ。言葉は幻想と現実、他者と自分を繋ぐ架け橋と言い換えても良い。
もちろん、やたらめったら幻想が現実となっては世界も大変なので、ある程度の節度というものは存在する。というよりも、殆どの幻想はだれとも共有されることはなく、その人の内部世界だけに存在する儚い妄想となって終わってしまう。
幻想を妄想のままにはしておけず、言葉にできないその感情を冗長という鎖で絡め取り、なんとかして現実世界へと放流しようと苦心するのが、人間という因果な生き物なのだ。これはかつて先祖たちが、言葉というものを自己表現と他者交流の道具として選択したことに対する、一種の応報とも言えるだろう。とは言ったものの、これ以上のコミュニケーションツールをぼくたちは知らないわけで、一概に御先祖を責めるわけにもいかないが。
皆で創り上げた共同幻想が現実へと影響を及ぼす、と言うのはなにも小説に限った話ではない。
例えば、宗教。神という人の領分を超えた存在を、人々の強い信仰という幻想で生み出す。
例えば、社会。一人では生きていけぬ者たちが集まり、ここならば安心して生きていけるという幻想を共有して土台とし、日々の営みを送る。
この様に世界というものは、仮想であるはずの小説と、構造的には大して変わりがないものなのだ。どれもこれも人間という存在が、言葉という道具をもって生み出しているものなのだから。
さて、最初に挙げた『小説は冗長の塊である』という事実と『世界というものは小説と構造的には変わりがない』という事実。この二種類の材料より、非常に興味深い言葉が生成される。
それは『世界は冗長の塊である』という一語だ。
もとより、ぼくが言いたかったのはこのたった一枚の言の葉なのだ。この一語を生み出すために、ぼくは長々と冗長を生み出す羽目になった。
先程からこの文章を読んでいる方の中には、「で、これは一体なんなんだ? 『世界は冗長の塊である』として、それが一体なんだって言うんだ。この小説は結局なにが言いたいんだ」と考える方も存在するかと思う。
しかしそういう方々を裏切るようで悪いのだが、ぼくとしてはこれを小説として書いているつもりは毛頭ない。
これは、遺書なのだ。少なくともぼくにとっては。
もちろん読者にとっては、読んでいるのが小説だと言われようが、遺書だと言われようが、はたまた経文だと言われようが、関係ないだろう。それは作者の内部世界においての幻想であって、読者にとっての幻想と共有するかは、その方自身が決断することなのだから。
なのでここでは取り敢えず、ぼくにとってこれは遺書だということにして頂けると助かる。これを読んだ方がそれをどう受け取るかは、ぼくには関係ない世界の話であることだし。
さて、これはぼくの遺書であるので、次にはぼくが遺書を書くに至った理由。つまりは死へと向かおうと決めた理由を書こうと思う。
ぼくが死のうと思った理由。それは『冗長を減らしたかった』から。ただそれだけの、単純な理由だ。
世界は冗長の塊なのだから、その塊の上で生きているぼくらも、必然的に冗長にまみれる。冗長が新たな冗長を呼ぶのは既に判って頂けていると思うので、既にぼくらが逃れ得ぬほど全身に冗長を纏っていることも判って頂けると思う。
一度その事実に気が付いてしまったぼくは、その全身に纏わり付く余計なものが、なぜだか煩わしくて仕方なかったのだ。
これには、ぼくが半妖であることも関係しているのではないかと思う。人間の血に妖怪の血。どちらがどちらに混ざったのかは定かではないが、とにかくぼくには生まれたときから余計なものが混じっているのだ。
ただでさえ人よりも冗長を背負っているのに、生きているだけでその冗長は更に増えていく。その見えない鎖はぼくのことを雁字搦めにして、最早窒息寸前にまでぼくを追い込んでいる。我ながら、なんという面倒な世界に生まれてしまったものだ。
冗長。全ては冗長。なにもかもが余計。
なのでぼくはその余計で冗長なものを全てこそぎ落として、すっぱりさっぱりしてみようと思ったのだ。まぁ、死んだからと言って全てが全て綺麗になるとは限らないだろうが、少なくとも身体分は軽くなるだろう。魂の重さについてはぼくはよく知らないし、そもそも魂という物質を伴わない存在に重さという概念が通じるのかも判らない。判るのは身体も魂も冗長だということだけ。ならば冗長分のなにかは消えてなくなるに違いない。
そんなわけで、ちょっとぼくは死んでみようと思い立ったわけだ。生き物というのは大体なんとなく生まれてきてしまったのだ、ならばなんとなく死んでみる生き物がいても別に良いだろう。
さて、冗長に満ちた人生の締め切りとして、冗長に満ちた文章を書くのも中々重畳だった。大仰な文句はここまでにして、これをもってぼくの冗長を終わりにしようと思う。
それでは。
◆ ◆ ◆
「で、これは一体なんなんだ?」
魔理沙が、先程より見詰めていた紙束からぼくの方へと目線を移す。そこには明らかに怪訝な表情が浮かんでおり、思わずぼくは肩をすくめてしまう。
フムン、若干判りにくい内容だったろうか。
「なにって、ぼくの書いた小説だよ」
ぼくは彼女の問いに、冗長を切り落とした簡潔な答えを返す。
「小説? こいつには遺書とも書いてあるが」
「だから、そういう体裁の小説というわけだよ。読み終わったのなら感想をもらえると助かるのだが」
「正直なところを言えば、良く判らん。下手な魔導書の方が、よっぽど意味が理解できるぜ」
魔理沙が得体の知れないものを見る目でぼくを睨む。ぼくとしてはそこまで正体不明なものを書き上げた自覚はなかったので、少々の衝撃を受けた。ぼくが自信を持って魔理沙に渡した小説は、どうやら彼女にとっては難解だったようだ。その事実に、ぼくの自尊心は思わず打ち砕かれそうになる。もっと、こう、絶賛の言葉がぼくを包み込むものだと思っていたのだが。
「ま、こういう小説が売っていたのなら、一冊買っておくのも悪くないかもな。なにかの足しにはなるかもしれないし。今のところ、その足しの見当は全くないけどな」
明らかに意気消沈するぼくを見かねたのか、魔理沙が代金を払わなくもないという絶妙なラインの救いの手を差し伸べる。
それにしても『なにかの足し』、か。なにかの足しにしようとこの小説を書いたわけではないが、それでも全く収入の足しにはなりそうにもないことが判ると、ぼくの頭はずっしりと重くなった。
あわよくば、道具屋店主と人気作家の二足のわらじも悪くないと考えていたが、それはとんだ皮算用だったようだ。
執筆中は我ながら筆先が踊ると言っても良い華麗さで書き進めていたものだが、今となってはそれすらも滑稽な一人芝居に思えて仕方がない。熱中のあまり客への応対すらも放置して執筆活動に打ち込みながらも、その結果がこれでは本当にお笑いだ。全く、我ながら余計なことをしてしまったものだ。冗長に関する文で店の状態を悪化させていたら、冗談にもならない。
ぼくは魔理沙から紙束を返してもらうと、それを一思いに屑籠へと放り込む。たちまちぼくの生み出した冗長が籠内を満たす。これであの小説に綴られた幻想は、だれとも共有されることはなく儚い妄想へと立ち戻り、あえなく消去される運命に決まった。
これで良い。だれにも求められないものなど、初めから存在しないも同じなのだから。むしろ冗長という余計なものなどは、存在しない方が喜ばれるものに違いないのだから。
土は土に、灰は灰に、塵は塵に。そして余計なものは余計なものへと還すのがふさわしい。全く、慣れないことはするものではないな。
子供じみた八つ当たりに近い形ではあったが、ともあれこれで気分は幾分回復した。ぼくは一つ伸びをすると、やや晴れやかな心持ちで椅子へと座り直す。そして先程まで抱いていた儚い妄想のことなど頭の中から消し去ると、いつくるとも知れない客を待ちながら、客気取りの乱入者との世間話に花を咲かせることにした。
フムン。やはりぼくには、大人しく道具屋の店主を続けているのが似合っているようだ。
◆ ◆ ◆
「で、これは一体なんなんだ?」
魔理沙が、先程より見詰めていた紙束からぼくの方へと目線を移す。そこには明らかに怪訝な表情が浮かんでおり、思わずぼくは肩をすくめてしまう。
フムン、若干判りにくい内容だったろうか。
「なにって、ぼくの書いた小説だよ」
ぼくは彼女の問いに、冗長を切り落とした簡潔な答えを返す。
「小説? こいつには遺書とも書いてあったり、かと思えばおまえやわたしが出てきたりで、なにがなにやらなんだが」
「だから、そういう体裁の小説というわけだよ。読み終わったのなら感想をもらえると助かるのだが」
魔理沙が得体の知れないものを見る目でぼくを睨む。ぼくとしてはそこまで正体不明なものを書き上げた自覚はなかったので、少々の衝撃を受けた。
しかしあくまでその衝撃は微々たるもので、ぼくの自尊心を瓦解させるまでには至らない。我ながら正体不明ほどではないが、程々に判りにくいものを書いたという自覚はあるからだ。
ぼくは小説内に登場させた自分とは異なる思考を展開させると、覚悟を決めて彼女の感想を待つ。
「そうだな。少なくともわたしは、この小説が売っていても欲しいとは思わんし、おまえが素直に死ぬとも思えん」
ここで魔理沙は一つ息を入れると、まるで次に放たれる言葉が必殺の一撃でもあるように、ぼくを強く睨んだ。
「そして読んでいてなによりも気に入らなかったのは、作中でおまえが一度は信じて作り上げたものを、『余計なこと』の一言で切って捨てたことだ! わたしはそんな展開は絶対に認めたくないな!」
「フムン。なるほどね」
ぼくは魔理沙のその答えに、思わず笑みがこぼれるのを止められなかった。そのような激情に駆られた答えが、彼女より飛び出すのを待ち構えていたからだ。
「魔理沙、きみのその怒りは、正しい。むしろその感情こそが、これを読んだ者の心に沸き上がって欲しいと思って書いたのだから。全く、きみはぼくの望み通りの読者だよ」
「……どういうことだ?」
「ぼくはね、これを反面教師と取ってもらいたいのさ。『ここに書かれていることを認めたら、自分は否定されてしまう』とばかりにね」
唇よりこぼれ出す笑みをそのままに、心底愉快でたまらない気持ちで魔理沙へとぼくの狙いを語る。
「そして否定をされそうになった対象が取る行動はいくつか考えられるが、その中でもぼくが心待ちにしている行動が一つある。それは『否定されたのなら、否定し返せ』だ。読者の右の頬を張ったとして、その後に左の頬を差し出されることをぼくは望まない」
そう、ぼくの小説を読んだ人物たちのうち幾人かは、そんなことはない、こんな展開は認めないと、自らの幻想をもってぼくの幻想を否定しにかかるだろう。ぼくはその展開こそを、楽しみにしているのだ。
生の感情をそのまま不器用に文章にしようとして、必死に言葉を繰る。時には地べたを這いずり回り、挫折にまみれることがあろうとも、自らの内に滾る感情の固形化を目指して足掻き続ける。そうやって生まれた小説は、きっと素晴らしいものになるに決まっている。そしてそういった小説こそ、ぼくへと『感電するほどの喜び』をもたらしてくれるだろう。
ぼく一人では到底辿り着くことのできない、言葉という道具を介した交流によってこそ切り開かれる、新たな世界。
その止揚した世界がぼくへと喜びをもたらす未来は、きっとそれほど遠い先のことではないだろう。ぼくは、言葉という道具が持つ可能性を信じているのだから。
◆ ◆ ◆
「で、これは一体なんなんだ?」
魔理沙が、先程より見詰めていた紙束からぼくの方へと目線を移す。そこには明らかに怪訝な表情が浮かんでおり、思わずぼくは肩をすくめてしまう。
フムン、若干判りにくい内容だったろうか。
「なにって、ぼくの書いた小説だよ」
ぼくは彼女の問いに、冗長を切り落とした簡潔な答えを返す。
「小説? こいつには遺書とも書いてあったり、かと思えばおまえやわたしが出てきたりで、極めつけは似たような構造の文章が続いたりで、全くもってなにがなにやらなんだが」
「だから、そういう体裁の小説というわけだよ。読み終わったのなら感想をもらえると助かるのだが」
魔理沙が得体の知れないものを見る目でぼくを睨む。まぁ、確かに自分の書いたものながら、非常に理解し辛い構造になっていることは判っている。
それでも魔理沙ならば、ぼくの言葉を無下に切って捨てることはせず、なんらかの言葉は返そうと努力してくれるはずだ。
「そうだな。本当に正直なところを言ってしまえば、やっぱりよく判らん。例えば文中に出てくる香霖たちにしたって、発する言葉のそれぞれがもっともらしく聞こえるようであり、かといってわたしの考える香霖はそんな言葉を決して吐かないようにも思える。まるででき損ないの幽霊でも見てる気分だぜ」
「フムン。なるほどね」
ぼくは魔理沙のその答えに、思わず笑みがこぼれるのを止められなかった。そのようなあいまいな答えが、彼女より出てくるのを待ち構えていたからだ。
「きみが抱いたその感想こそ、ぼくが言葉という道具を通して世界に投影したかった、世界の持つ冗長というものだよ。そう、この小説を欲しいと思うきみも、素直に死を選ぶぼくも、否定し返されることを望むぼくも、確かに現実には存在しないかもしれない」
ぼくは大仰に手を振り上げながら、魔理沙に蕩々と解説を行う。これこそが、ぼくが言葉という不便な道具を使ってさえ語りたかったことなのだから。
「だが、だれかの内面世界にある幻想には、冗長の一部として存在する可能性がある。少なくともぼくの内部にはあるからこそ、今回はそれが顔を出したわけだ。想像し得ないものは創造されない。つまり、だれにも求められない存在なんて存在し得ない、だれかが求めたからこそどこかに存在すると言うことさ」
ぼくの解説を受けたというのに、魔理沙は先程までと同じ、合点のいかぬ表情を浮かべている。
「結局、香霖はなにが言いたいんだ? それこそ冗長すぎて冗談にしか思えないぜ」
「『なにが言いたいのか』、それが言えたら冗長は存在しないんだよ魔理沙。まぁ、一言で噛み砕いて言うのならば『冗長があるからこそ、様々なものが生まれ、存在する』と言うことさ」
そう、水清ければ魚住まず。あまりになんでも一意に定まってしまえば、終いには無味無臭な狭苦しい世界になってしまう。適度に余計なものを受け入れる余裕があるからこそ、世界が広がっていくのだとぼくは思う。
言葉が持つ冗長という鍬が、感情という土壌を掘り返し、豊かな畑を創り上げていく。そうして世界は豊穣に満ちていくのだ。
全く、言葉というものはなんと不便で、そしてなんと素晴らしい道具なんだろう。
例えば、感電するほどの喜びを綴った小説があったとする。しかし『感電するほどの喜び』というものがその一語で表せるのならば、それが全てとなり、その簡潔極まりない一語でことは足りてしまう。
だがまぁ、当然そんな都合の良いことはないのだから、作者は苦労をしてその一語を別の数多くの言葉で近似するのだ。種々の言葉をひねり出すうちに、やがて朧気に『感電するほどの喜び』というものが浮かび上がってくる。そうやってでき上がったものが、小説というものなのだ。
小説はそのように、たった一語で済むものを、わざわざ着飾った別の言葉をもって飾り立てる。逆に言えば、一語では到底言い表せないからこそ、無駄に別の言葉が必要になるのだ。
そうやって一語を表現するために別の言葉が必要になり、その別の言葉が呼び水となり更に多くの言葉を呼ぶ。無限に広がる言葉の連鎖が、覗き込めば魂ごと引き込まれてしまいそうな、暗く深く大きな穴を形作る。一厘の意味を表すために、九割九分九厘の冗長が生まれるのだ。
ここで作家がその冗長を無理に押しとどめようとした結果、抑圧された言葉たちが事象の地平面の内側に押し潰されてしまうことも往々にある。そうして生まれるものは無明の闇にも似ていて、その暗闇の中に意味を見いだそうにも、言葉の連なりすら上手く判別できないものになっている。下手に扱うとそれを生み出した作者でさえ甚大な被害を受け、ともすればその重さに捕らわれ、帰ってこられなくなる危険性すら秘めている。
逆に作家がその冗長の連鎖生成を上手く操縦できなくなった場合も、同じような危険性を排出する。作者の手綱を離れた小説は際限なく冗長を生み出し、いつ果てるともしれぬ言葉を吐き出し続けるのだ。こうして生まれた永遠の未完の大作は、作者のみならず読者の側にも不幸をもたらす場合が確認されている。
このように、小説というものは非常に取り扱いの難しい、ある意味では危険な生物ともとれる向きがある。
要するに、人の想いを形にするに当たって、言葉という道具は最適化されていないのだ。
各々が思い思いに抱く、非言語的な感情。非言語的なものを言語で現そうとしているのだから、これは端から勝ち目のない戦いに挑んでいると言っても過言ではないだろう。この戦いは、なんとなく書いている内に思っていることに近付いてきたな、程度に止めておくのが良いのだ。さもなければ、永久に亀を追い続けるアキレスのようになってしまう。
つまり小説は、自分の中にある非言語の想い、即ち自らが抱く幻想をなんとかして外部空間に出力するための道具、とも言える。例えば紙に記されて外部に出力された幻想は、皆の中にある幻想と共感・共有されていく。その幻想が波及して多くの他者に受け入れられていくほど、それは皆の内部空間を繋ぐ新たな共現実となって世界へ投影されるのだ。言葉は幻想と現実、他者と自分を繋ぐ架け橋と言い換えても良い。
もちろん、やたらめったら幻想が現実となっては世界も大変なので、ある程度の節度というものは存在する。というよりも、殆どの幻想はだれとも共有されることはなく、その人の内部世界だけに存在する儚い妄想となって終わってしまう。
幻想を妄想のままにはしておけず、言葉にできないその感情を冗長という鎖で絡め取り、なんとかして現実世界へと放流しようと苦心するのが、人間という因果な生き物なのだ。これはかつて先祖たちが、言葉というものを自己表現と他者交流の道具として選択したことに対する、一種の応報とも言えるだろう。とは言ったものの、これ以上のコミュニケーションツールをぼくたちは知らないわけで、一概に御先祖を責めるわけにもいかないが。
皆で創り上げた共同幻想が現実へと影響を及ぼす、と言うのはなにも小説に限った話ではない。
例えば、宗教。神という人の領分を超えた存在を、人々の強い信仰という幻想で生み出す。
例えば、社会。一人では生きていけぬ者たちが集まり、ここならば安心して生きていけるという幻想を共有して土台とし、日々の営みを送る。
この様に世界というものは、仮想であるはずの小説と、構造的には大して変わりがないものなのだ。どれもこれも人間という存在が、言葉という道具をもって生み出しているものなのだから。
さて、最初に挙げた『小説は冗長の塊である』という事実と『世界というものは小説と構造的には変わりがない』という事実。この二種類の材料より、非常に興味深い言葉が生成される。
それは『世界は冗長の塊である』という一語だ。
もとより、ぼくが言いたかったのはこのたった一枚の言の葉なのだ。この一語を生み出すために、ぼくは長々と冗長を生み出す羽目になった。
先程からこの文章を読んでいる方の中には、「で、これは一体なんなんだ? 『世界は冗長の塊である』として、それが一体なんだって言うんだ。この小説は結局なにが言いたいんだ」と考える方も存在するかと思う。
しかしそういう方々を裏切るようで悪いのだが、ぼくとしてはこれを小説として書いているつもりは毛頭ない。
これは、遺書なのだ。少なくともぼくにとっては。
もちろん読者にとっては、読んでいるのが小説だと言われようが、遺書だと言われようが、はたまた経文だと言われようが、関係ないだろう。それは作者の内部世界においての幻想であって、読者にとっての幻想と共有するかは、その方自身が決断することなのだから。
なのでここでは取り敢えず、ぼくにとってこれは遺書だということにして頂けると助かる。これを読んだ方がそれをどう受け取るかは、ぼくには関係ない世界の話であることだし。
さて、これはぼくの遺書であるので、次にはぼくが遺書を書くに至った理由。つまりは死へと向かおうと決めた理由を書こうと思う。
ぼくが死のうと思った理由。それは『冗長を減らしたかった』から。ただそれだけの、単純な理由だ。
世界は冗長の塊なのだから、その塊の上で生きているぼくらも、必然的に冗長にまみれる。冗長が新たな冗長を呼ぶのは既に判って頂けていると思うので、既にぼくらが逃れ得ぬほど全身に冗長を纏っていることも判って頂けると思う。
一度その事実に気が付いてしまったぼくは、その全身に纏わり付く余計なものが、なぜだか煩わしくて仕方なかったのだ。
これには、ぼくが半妖であることも関係しているのではないかと思う。人間の血に妖怪の血。どちらがどちらに混ざったのかは定かではないが、とにかくぼくには生まれたときから余計なものが混じっているのだ。
ただでさえ人よりも冗長を背負っているのに、生きているだけでその冗長は更に増えていく。その見えない鎖はぼくのことを雁字搦めにして、最早窒息寸前にまでぼくを追い込んでいる。我ながら、なんという面倒な世界に生まれてしまったものだ。
冗長。全ては冗長。なにもかもが余計。
なのでぼくはその余計で冗長なものを全てこそぎ落として、すっぱりさっぱりしてみようと思ったのだ。まぁ、死んだからと言って全てが全て綺麗になるとは限らないだろうが、少なくとも身体分は軽くなるだろう。魂の重さについてはぼくはよく知らないし、そもそも魂という物質を伴わない存在に重さという概念が通じるのかも判らない。判るのは身体も魂も冗長だということだけ。ならば冗長分のなにかは消えてなくなるに違いない。
そんなわけで、ちょっとぼくは死んでみようと思い立ったわけだ。生き物というのは大体なんとなく生まれてきてしまったのだ、ならばなんとなく死んでみる生き物がいても別に良いだろう。
さて、冗長に満ちた人生の締め切りとして、冗長に満ちた文章を書くのも中々重畳だった。大仰な文句はここまでにして、これをもってぼくの冗長を終わりにしようと思う。
それでは。
◆ ◆ ◆
「で、これは一体なんなんだ?」
魔理沙が、先程より見詰めていた紙束からぼくの方へと目線を移す。そこには明らかに怪訝な表情が浮かんでおり、思わずぼくは肩をすくめてしまう。
フムン、若干判りにくい内容だったろうか。
「なにって、ぼくの書いた小説だよ」
ぼくは彼女の問いに、冗長を切り落とした簡潔な答えを返す。
「小説? こいつには遺書とも書いてあるが」
「だから、そういう体裁の小説というわけだよ。読み終わったのなら感想をもらえると助かるのだが」
「正直なところを言えば、良く判らん。下手な魔導書の方が、よっぽど意味が理解できるぜ」
魔理沙が得体の知れないものを見る目でぼくを睨む。ぼくとしてはそこまで正体不明なものを書き上げた自覚はなかったので、少々の衝撃を受けた。ぼくが自信を持って魔理沙に渡した小説は、どうやら彼女にとっては難解だったようだ。その事実に、ぼくの自尊心は思わず打ち砕かれそうになる。もっと、こう、絶賛の言葉がぼくを包み込むものだと思っていたのだが。
「ま、こういう小説が売っていたのなら、一冊買っておくのも悪くないかもな。なにかの足しにはなるかもしれないし。今のところ、その足しの見当は全くないけどな」
明らかに意気消沈するぼくを見かねたのか、魔理沙が代金を払わなくもないという絶妙なラインの救いの手を差し伸べる。
それにしても『なにかの足し』、か。なにかの足しにしようとこの小説を書いたわけではないが、それでも全く収入の足しにはなりそうにもないことが判ると、ぼくの頭はずっしりと重くなった。
あわよくば、道具屋店主と人気作家の二足のわらじも悪くないと考えていたが、それはとんだ皮算用だったようだ。
執筆中は我ながら筆先が踊ると言っても良い華麗さで書き進めていたものだが、今となってはそれすらも滑稽な一人芝居に思えて仕方がない。熱中のあまり客への応対すらも放置して執筆活動に打ち込みながらも、その結果がこれでは本当にお笑いだ。全く、我ながら余計なことをしてしまったものだ。冗長に関する文で店の状態を悪化させていたら、冗談にもならない。
ぼくは魔理沙から紙束を返してもらうと、それを一思いに屑籠へと放り込む。たちまちぼくの生み出した冗長が籠内を満たす。これであの小説に綴られた幻想は、だれとも共有されることはなく儚い妄想へと立ち戻り、あえなく消去される運命に決まった。
これで良い。だれにも求められないものなど、初めから存在しないも同じなのだから。むしろ冗長という余計なものなどは、存在しない方が喜ばれるものに違いないのだから。
土は土に、灰は灰に、塵は塵に。そして余計なものは余計なものへと還すのがふさわしい。全く、慣れないことはするものではないな。
子供じみた八つ当たりに近い形ではあったが、ともあれこれで気分は幾分回復した。ぼくは一つ伸びをすると、やや晴れやかな心持ちで椅子へと座り直す。そして先程まで抱いていた儚い妄想のことなど頭の中から消し去ると、いつくるとも知れない客を待ちながら、客気取りの乱入者との世間話に花を咲かせることにした。
フムン。やはりぼくには、大人しく道具屋の店主を続けているのが似合っているようだ。
◆ ◆ ◆
「で、これは一体なんなんだ?」
魔理沙が、先程より見詰めていた紙束からぼくの方へと目線を移す。そこには明らかに怪訝な表情が浮かんでおり、思わずぼくは肩をすくめてしまう。
フムン、若干判りにくい内容だったろうか。
「なにって、ぼくの書いた小説だよ」
ぼくは彼女の問いに、冗長を切り落とした簡潔な答えを返す。
「小説? こいつには遺書とも書いてあったり、かと思えばおまえやわたしが出てきたりで、なにがなにやらなんだが」
「だから、そういう体裁の小説というわけだよ。読み終わったのなら感想をもらえると助かるのだが」
魔理沙が得体の知れないものを見る目でぼくを睨む。ぼくとしてはそこまで正体不明なものを書き上げた自覚はなかったので、少々の衝撃を受けた。
しかしあくまでその衝撃は微々たるもので、ぼくの自尊心を瓦解させるまでには至らない。我ながら正体不明ほどではないが、程々に判りにくいものを書いたという自覚はあるからだ。
ぼくは小説内に登場させた自分とは異なる思考を展開させると、覚悟を決めて彼女の感想を待つ。
「そうだな。少なくともわたしは、この小説が売っていても欲しいとは思わんし、おまえが素直に死ぬとも思えん」
ここで魔理沙は一つ息を入れると、まるで次に放たれる言葉が必殺の一撃でもあるように、ぼくを強く睨んだ。
「そして読んでいてなによりも気に入らなかったのは、作中でおまえが一度は信じて作り上げたものを、『余計なこと』の一言で切って捨てたことだ! わたしはそんな展開は絶対に認めたくないな!」
「フムン。なるほどね」
ぼくは魔理沙のその答えに、思わず笑みがこぼれるのを止められなかった。そのような激情に駆られた答えが、彼女より飛び出すのを待ち構えていたからだ。
「魔理沙、きみのその怒りは、正しい。むしろその感情こそが、これを読んだ者の心に沸き上がって欲しいと思って書いたのだから。全く、きみはぼくの望み通りの読者だよ」
「……どういうことだ?」
「ぼくはね、これを反面教師と取ってもらいたいのさ。『ここに書かれていることを認めたら、自分は否定されてしまう』とばかりにね」
唇よりこぼれ出す笑みをそのままに、心底愉快でたまらない気持ちで魔理沙へとぼくの狙いを語る。
「そして否定をされそうになった対象が取る行動はいくつか考えられるが、その中でもぼくが心待ちにしている行動が一つある。それは『否定されたのなら、否定し返せ』だ。読者の右の頬を張ったとして、その後に左の頬を差し出されることをぼくは望まない」
そう、ぼくの小説を読んだ人物たちのうち幾人かは、そんなことはない、こんな展開は認めないと、自らの幻想をもってぼくの幻想を否定しにかかるだろう。ぼくはその展開こそを、楽しみにしているのだ。
生の感情をそのまま不器用に文章にしようとして、必死に言葉を繰る。時には地べたを這いずり回り、挫折にまみれることがあろうとも、自らの内に滾る感情の固形化を目指して足掻き続ける。そうやって生まれた小説は、きっと素晴らしいものになるに決まっている。そしてそういった小説こそ、ぼくへと『感電するほどの喜び』をもたらしてくれるだろう。
ぼく一人では到底辿り着くことのできない、言葉という道具を介した交流によってこそ切り開かれる、新たな世界。
その止揚した世界がぼくへと喜びをもたらす未来は、きっとそれほど遠い先のことではないだろう。ぼくは、言葉という道具が持つ可能性を信じているのだから。
◆ ◆ ◆
「で、これは一体なんなんだ?」
魔理沙が、先程より見詰めていた紙束からぼくの方へと目線を移す。そこには明らかに怪訝な表情が浮かんでおり、思わずぼくは肩をすくめてしまう。
フムン、若干判りにくい内容だったろうか。
「なにって、ぼくの書いた小説だよ」
ぼくは彼女の問いに、冗長を切り落とした簡潔な答えを返す。
「小説? こいつには遺書とも書いてあったり、かと思えばおまえやわたしが出てきたりで、極めつけは似たような構造の文章が続いたりで、全くもってなにがなにやらなんだが」
「だから、そういう体裁の小説というわけだよ。読み終わったのなら感想をもらえると助かるのだが」
魔理沙が得体の知れないものを見る目でぼくを睨む。まぁ、確かに自分の書いたものながら、非常に理解し辛い構造になっていることは判っている。
それでも魔理沙ならば、ぼくの言葉を無下に切って捨てることはせず、なんらかの言葉は返そうと努力してくれるはずだ。
「そうだな。本当に正直なところを言ってしまえば、やっぱりよく判らん。例えば文中に出てくる香霖たちにしたって、発する言葉のそれぞれがもっともらしく聞こえるようであり、かといってわたしの考える香霖はそんな言葉を決して吐かないようにも思える。まるででき損ないの幽霊でも見てる気分だぜ」
「フムン。なるほどね」
ぼくは魔理沙のその答えに、思わず笑みがこぼれるのを止められなかった。そのようなあいまいな答えが、彼女より出てくるのを待ち構えていたからだ。
「きみが抱いたその感想こそ、ぼくが言葉という道具を通して世界に投影したかった、世界の持つ冗長というものだよ。そう、この小説を欲しいと思うきみも、素直に死を選ぶぼくも、否定し返されることを望むぼくも、確かに現実には存在しないかもしれない」
ぼくは大仰に手を振り上げながら、魔理沙に蕩々と解説を行う。これこそが、ぼくが言葉という不便な道具を使ってさえ語りたかったことなのだから。
「だが、だれかの内面世界にある幻想には、冗長の一部として存在する可能性がある。少なくともぼくの内部にはあるからこそ、今回はそれが顔を出したわけだ。想像し得ないものは創造されない。つまり、だれにも求められない存在なんて存在し得ない、だれかが求めたからこそどこかに存在すると言うことさ」
ぼくの解説を受けたというのに、魔理沙は先程までと同じ、合点のいかぬ表情を浮かべている。
「結局、香霖はなにが言いたいんだ? それこそ冗長すぎて冗談にしか思えないぜ」
「『なにが言いたいのか』、それが言えたら冗長は存在しないんだよ魔理沙。まぁ、一言で噛み砕いて言うのならば『冗長があるからこそ、様々なものが生まれ、存在する』と言うことさ」
そう、水清ければ魚住まず。あまりになんでも一意に定まってしまえば、終いには無味無臭な狭苦しい世界になってしまう。適度に余計なものを受け入れる余裕があるからこそ、世界が広がっていくのだとぼくは思う。
言葉が持つ冗長という鍬が、感情という土壌を掘り返し、豊かな畑を創り上げていく。そうして世界は豊穣に満ちていくのだ。
全く、言葉というものはなんと不便で、そしてなんと素晴らしい道具なんだろう。
私には好きな小説の部類にはいるんだぜ?
これ以上は冗長なので100点置いて行きます
心に響きますねぇ。
張り巡らされた弾幕で蜂の巣にされるも良し。
意図しない跳弾を心臓に喰らうもまた良し。
要は気持ちよく俺を殺してくれってことですね、言葉の弾丸で。
生殺しにする気さえないのであれば、多少の冗長はむしろ歓迎。念仏を唱える時間が増えるから。
利きワイン四十年のソムリエも自信がないからミニ四駆みたいな名前を言っちゃう様な曖昧な感想。
ただ、面白かったです。
ああああもー分からん! 身悶えするほど気持ち悪いっ!
楽しませていただきましたー
なんて半端で余計なんでしょう
一つ目で切るならば、森近霖之助という男の視点に立った遺書を表す小説。
二つ目で切るならば、小説家をも目指そうと思った森近霖之助という男の視点に立ち、なおかつ作家を目指し始めようとする者の共感を誘う小説。
三つ目で切るならば、幻想を否定されることを望む、森近霖之助という男の視点に立った、なおかつ作家全般に共感を誘う小説。
五つ目で切るならば、それこそすなわち一つ目と絡めて小説、そして作家、なおかつ読者に関しての真意を伝える論説文を描いた小説になるだろう。四つ目が描かれた時点で、小説の体裁として成り立つにはそれを小説たらしめる一言、すなわち五つ目が必要不可欠、そう自分は感じた。
この感想は『冗長』だ。むろん、こんなことを思って書いていない、と作者様も思うに違いない。たぶん、この文章は支離滅裂で理解し難いだろう。いきなり妙な解釈を決定されたかのように言われて、苛立たれると自分は思う。しかし、それもまた小説故。一つの『幻想を描く』ときには、その幻想を見たものそれぞれに幻想が生まれる。
一度に3つの幻想、そしてそれらの集合体となる一つの幻想を見たときに、僕はまるで作者様になったかのような気分にとらわれた。なぜか。それは、この小説における作者が霖之助で、読者が魔理沙、ひいては作者様であるからだ。
この文章も何度も何度も書き直しながら書いた。すなわち、このような感想もまた形は違えど予期されたものではないのだろうか。
描写でもなく、ストーリーでもなく、ただ構成だけに重きを置いた小説は本当に珍しい。
最後に、一つだけつけさせていただきたい。けして私は幻想郷の道具屋ではなく、ただの読者の一人だ。自己満足で、ただのエゴにすぎない、独りよがりのわがままだ。作者様の小説において、一滴の泥をつけてしまうようで本当に申し訳ないのだが。
だが、僕はどうしてもこの一言をつけたいのだ。なぜか、恋焦がれるように。
森近霖之助
良い意味で気味の悪い感じのお話でした。
なんというか……その……あの…………不思議な事に言葉が出てきません。
とりあえず何度も読み返してみます。理解できるその日まで。
理解できたらなんか書こうかな……
で、これはいったい何なんだ?
こんな形の小説は竹本健治以来だ。しかも面白い。
あと10回ぐらい繰り返したい。
「人間ならば誰にでもすべてが見えるわけではない。多くの人は自分が見たいと欲することしか見ていない。」
だからこそ、東方そそわも様々な話が転がっていて、飽きないってもんです。
こういう不可思議なものは好きです、やはり非現実的なものはいいですね。
さて、小説の終わりはどこにあるのやら・・・
小説として僕は面白さを感じられませんでしたが、論説文としてはかなり上手いと思ったのでこの点で。
それはこっちが訊きたい。
不思議な話でした。いろんな角度から楽しめそうだ。
このようなことを誰かが言っていたことを思い出しました。
なるほどね。どうやら、自分は理系だったらしい。そして文系が何を考え、望んでいるのかが判った気がする。
一語を百語にする手腕、お見事です。
加えて、この小説はループするたびに、遺書、諦め、怒り、曖昧さといろんな感情を表しながらも、
全体としては、それを望ましいものへと認識していく霖之助の変化に、なんというべきか晴れがましさを感じます。
「で、これは一体何なんだ?」
「何って、感想だよ。あるいはそういう体裁の