「いい月じゃないの」
「そうですね、お嬢様」
「………誕生日ね!」
「え?」
私こと十六夜咲夜は、十五夜の日にこの館に来ました。
その次の日にお嬢様から今の名前を授かり、今に至ります。
勿論れっきとした誕生日というものはあるのですが、私は既に幻想と化している身です。
幻想としての私が生まれた日、それは間違いなくこの館に来た日。
つまり今日がその日であり、そういう意味でお嬢様は誕生日だと言ったわけですが…
「誰のですか?」
「貴女のよ、他に誰が居るのよ?」
「…そういえば私、お嬢様の誕生日すら知りませんね」
「知らなくていいわよ、盛大にパーティーなんかやられても困るし」
「その『誕生日に盛大にパーティーなんかやられたら困る』お嬢様は
私の誕生日を勝手にでっち上げた上にそれを私に言ってどうしようというのですか?」
「そういうズバズバとものを言うところは気に入ってるわ」
「ありがとうございます」
「……ちょっと行きたい場所があるの」
まるでついてこいというようにゆっくり飛び始めるお嬢様。
それに従うまま私も地面を軽く蹴り、月が輝く空へ。
煌々と輝くそれはまるで太陽のようで、しかしそれは紛れも無く「偽」の光で。
お嬢様はその姿を月に刻むように、月に向かって進んでいきます。
言葉も音もない世界で、ただ月明かりが照らす地上だけが流れて。
随分ゆっくりと飛んだ先には、林とは呼べなさそうな程度に木がぽつぽつと置かれた平原がありました。
「来たわよ」
飛んだままお嬢様が声を張りあげます。
すると、点在している木の頂上に柔らかな灯りがともります。
最初は1つ、そして2つ、じょじょに増えていくその灯りはとても幻想的な光景を生み出し、私はつい声を出してしまいます。
「わぁっ…」
思わず声を出してしまい、お嬢様の方を見ると、案の定私の反応を見て楽しんでいたような顔をしていました。
「さ、降りるわよ」
「え?」
「ここまでは舞台の準備、演舞はこれからなんだから」
手を引かれるようについて降りると、地上は淡く照らされていて、これもまた美しい光景が広がっています。
そこにいたのはパチュリー様と人形遣い、それとパチュリー様の使い魔。
「主役とヒロインのお出ましよ」
「本当に舞台なら上演が遅れて払い戻しになってるわ」
「こんなにいい月があったらゆっくり飛びたくなってもいいじゃない」
「はいはい。アリスの方の準備は?」
「いつでもいいわよ、こんなに見てくれる人が少ない劇なんて久しぶりだわ」
「……お嬢様、主役とヒロインはどっちがどっちなんでしょうか?」
「知らないわよそんなの」
「ほら、レミィも咲夜も肩に手を乗せて。小悪魔は?」
「なんとかなりそう…です?」
「あああ、蓄音機は商売道具だから丁寧に扱ってね」
「了解しましたー」
カチッ、と音がして、どこかレトロな音色の曲が流れ始めます。
それに合わせてゆっくりとステップを踏むお嬢様に、なんとか足を絡ませないようについていきます。
なんとか慣れてきて周りに目を向けると、人形達が地上でも空中でもステップを踏んでいます。
淡い光の中で踊るそれらは、とても可愛らしいと、私に少女のような感情を与えてくれました。
曲の盛り上がりに合わせて、気がつけば灯りも少し強くなっています。
ステップの踏み方も若干早くなっているその中で、不意にお嬢様の顔が強く照らされました。
なんと言いますか、計画が思い通りに進んで「してやったり」といった感じの笑顔でした。
そこで私は気付きました。
ああ、お嬢様はずっと私の顔を見ていたんだろうな、と。
そしてじょじょに変化していく私の表情を見るのが目的だったんだろうな、と。
気付かせるのもまたその一部だろうと思い、私は思わず口元を緩めます。
「楽しい?」
その言葉に返す言葉は、私には思いつきませんでしたので。
「ええ、とても」
満面の笑みと共に、今の気持ちを返す事にしました。
曲が終わり、蓄音機を返すと言ってパチュリー様達はアリスに同行する事になりました。
そしてまたお嬢様と二人で、来た道を戻って行きます。
「今回はお嬢様にしてやられましたね」
「あら、貴女にも素直なところはあったのね」
「お嬢様程ではありませんよ」
「それって褒めてるのよね?」
「そう思って頂いて結構です」
いつもの空気に戻り、どこかホッとする部分と、どこか寂しい部分を感じます。
たまたまお嬢様の気まぐれがああいう形で私に巡ってきたのだと、わかってはいるのですけれど。
「ねぇ咲夜」
お嬢様が立ち止まり、こちらに振り返ります。
月は来た時より若干高く、お嬢様の顔を照らします。
「なんでしょうか?」
逆光で見えないと知りつつも、私はできるだけ表情を隠して聞き返します。
「私は、貴女の事を大事だと思っているから。それだけよ」
そう言うと、屈託の無い笑みを浮かべ、振り戻って前に進みます。
唐突な発言に私は驚きました。
しかしその意味を理解できなかったわけではありません。
整理をして、先を行くお嬢様を追いかけつつ、口の中だけで言葉を紡ぎます。
「私もですよ、お嬢様」
「そうですね、お嬢様」
「………誕生日ね!」
「え?」
私こと十六夜咲夜は、十五夜の日にこの館に来ました。
その次の日にお嬢様から今の名前を授かり、今に至ります。
勿論れっきとした誕生日というものはあるのですが、私は既に幻想と化している身です。
幻想としての私が生まれた日、それは間違いなくこの館に来た日。
つまり今日がその日であり、そういう意味でお嬢様は誕生日だと言ったわけですが…
「誰のですか?」
「貴女のよ、他に誰が居るのよ?」
「…そういえば私、お嬢様の誕生日すら知りませんね」
「知らなくていいわよ、盛大にパーティーなんかやられても困るし」
「その『誕生日に盛大にパーティーなんかやられたら困る』お嬢様は
私の誕生日を勝手にでっち上げた上にそれを私に言ってどうしようというのですか?」
「そういうズバズバとものを言うところは気に入ってるわ」
「ありがとうございます」
「……ちょっと行きたい場所があるの」
まるでついてこいというようにゆっくり飛び始めるお嬢様。
それに従うまま私も地面を軽く蹴り、月が輝く空へ。
煌々と輝くそれはまるで太陽のようで、しかしそれは紛れも無く「偽」の光で。
お嬢様はその姿を月に刻むように、月に向かって進んでいきます。
言葉も音もない世界で、ただ月明かりが照らす地上だけが流れて。
随分ゆっくりと飛んだ先には、林とは呼べなさそうな程度に木がぽつぽつと置かれた平原がありました。
「来たわよ」
飛んだままお嬢様が声を張りあげます。
すると、点在している木の頂上に柔らかな灯りがともります。
最初は1つ、そして2つ、じょじょに増えていくその灯りはとても幻想的な光景を生み出し、私はつい声を出してしまいます。
「わぁっ…」
思わず声を出してしまい、お嬢様の方を見ると、案の定私の反応を見て楽しんでいたような顔をしていました。
「さ、降りるわよ」
「え?」
「ここまでは舞台の準備、演舞はこれからなんだから」
手を引かれるようについて降りると、地上は淡く照らされていて、これもまた美しい光景が広がっています。
そこにいたのはパチュリー様と人形遣い、それとパチュリー様の使い魔。
「主役とヒロインのお出ましよ」
「本当に舞台なら上演が遅れて払い戻しになってるわ」
「こんなにいい月があったらゆっくり飛びたくなってもいいじゃない」
「はいはい。アリスの方の準備は?」
「いつでもいいわよ、こんなに見てくれる人が少ない劇なんて久しぶりだわ」
「……お嬢様、主役とヒロインはどっちがどっちなんでしょうか?」
「知らないわよそんなの」
「ほら、レミィも咲夜も肩に手を乗せて。小悪魔は?」
「なんとかなりそう…です?」
「あああ、蓄音機は商売道具だから丁寧に扱ってね」
「了解しましたー」
カチッ、と音がして、どこかレトロな音色の曲が流れ始めます。
それに合わせてゆっくりとステップを踏むお嬢様に、なんとか足を絡ませないようについていきます。
なんとか慣れてきて周りに目を向けると、人形達が地上でも空中でもステップを踏んでいます。
淡い光の中で踊るそれらは、とても可愛らしいと、私に少女のような感情を与えてくれました。
曲の盛り上がりに合わせて、気がつけば灯りも少し強くなっています。
ステップの踏み方も若干早くなっているその中で、不意にお嬢様の顔が強く照らされました。
なんと言いますか、計画が思い通りに進んで「してやったり」といった感じの笑顔でした。
そこで私は気付きました。
ああ、お嬢様はずっと私の顔を見ていたんだろうな、と。
そしてじょじょに変化していく私の表情を見るのが目的だったんだろうな、と。
気付かせるのもまたその一部だろうと思い、私は思わず口元を緩めます。
「楽しい?」
その言葉に返す言葉は、私には思いつきませんでしたので。
「ええ、とても」
満面の笑みと共に、今の気持ちを返す事にしました。
曲が終わり、蓄音機を返すと言ってパチュリー様達はアリスに同行する事になりました。
そしてまたお嬢様と二人で、来た道を戻って行きます。
「今回はお嬢様にしてやられましたね」
「あら、貴女にも素直なところはあったのね」
「お嬢様程ではありませんよ」
「それって褒めてるのよね?」
「そう思って頂いて結構です」
いつもの空気に戻り、どこかホッとする部分と、どこか寂しい部分を感じます。
たまたまお嬢様の気まぐれがああいう形で私に巡ってきたのだと、わかってはいるのですけれど。
「ねぇ咲夜」
お嬢様が立ち止まり、こちらに振り返ります。
月は来た時より若干高く、お嬢様の顔を照らします。
「なんでしょうか?」
逆光で見えないと知りつつも、私はできるだけ表情を隠して聞き返します。
「私は、貴女の事を大事だと思っているから。それだけよ」
そう言うと、屈託の無い笑みを浮かべ、振り戻って前に進みます。
唐突な発言に私は驚きました。
しかしその意味を理解できなかったわけではありません。
整理をして、先を行くお嬢様を追いかけつつ、口の中だけで言葉を紡ぎます。
「私もですよ、お嬢様」
美しい雰囲気がありました
セリフパートをまとめているのはあえての演出でしょうか?