Coolier - 新生・東方創想話

ミスティの屋台

2011/09/10 00:44:22
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私はミスティア・ローレライ。
幻想郷で屋台を経営しています。
そもそも私が屋台を出せたのは冥界のお嬢様に気に入られたのがきっかけ。


ある晩、私はいつも通り、夜道で人間を鳥目にしてやろうと目的地も決めず、ふわふわと飛び回っていました。
どこかに向かっている途中の幽霊と半幽霊の人間に遭遇しました。
二人とも手加減って言葉を知らないようで、コテンパンに伸され私は捕食されかけました。

やっぱり幽霊は怖いものだったようです・・・
あんな怖い思いは二度と御免です。


次の日の夜。
私は懲りずにまた夜道に出かけました。
今日こそ人間を鳥目にしてやるんだ!と意気込んでいました。
が・・・

ふらりとあの幽霊が私の元に現れました。
生命の危機を感じた私は全力で逃げました。
幽霊は何かを言いかけていた様な気がしましたが、きっと恐ろしい内容だったに違いありません。
慌ててその場を飛び立つ私。
ふと、幽霊を見ると笑顔で私を追いかけてきています。
私は戦慄を覚えました。
あれが、獲物を追いかける捕食者の顔。
食物連鎖の上に立つ者の絶対的余裕からくる笑顔。

逃げて、逃げて、逃げて、魔法の森に逃げ延び身を潜めました。
茂みの中から空を見上げ、幽霊の姿が無い事を確認し、そっと胸を撫で下ろした時でした。
私の背後から楽しそうな声が聞こえました。
「ふふ、見つけたわ」

その一言を聞いたのと幽霊に羽を掴まれたのは同時でした。
この時は完全に覚悟しました。
あぁ、私の短い妖怪人生ここまでだ。
今日、この幽霊に食べられて終わってしまうのだ。

腕と羽で顔を覆うようにするのが精一杯でした。
せ、せめて一口で食べてください・・・
・・・
・・・
あれ?

恐る恐る顔を上げるとニコニコと笑顔の幽霊は言いました。

「昨日貴方を少し口にした時思ったわ。」
「美味しいって。」

あぁ、やっぱり食べられるんだ。
血の気の引くのが分かりました。
青ざめた私の顔を閉じた扇子でくいっと持ち上げ怪しげな笑顔で
「美味しい妖怪なんだから美味しいもの、作れるわよね?」
言葉を理解できずに涙目になる私。
私の頭は完全に真っ白になっていました。

しかし、野生の感というか、本能というか、生への執着心で私は「はい」と答えました。
多分「いいえ」を選んでいたら私は捕食されていました。

「楽しみにしているわ。」
そう残すと幽霊は満面の笑みで、その場からいなくなりました。
力が抜けた私はその場に座り込み、朝が来るまで動く事が出来ませんでした。


あの日の出来事は夢や幻だったのでしょうか。
そんな事を考えながら人間も幽霊も現れない夜道で、私は歌を歌って数日を過ごしました。

しかし、どうやら現実の出来事だったようです。
私の元に半幽霊の人間が現れ、用件を伝えると消えてしまいました。
終止誰かの文句を言っていましたが、その時は誰の事なのかまったく理解できませんでした。


次の日、私は冥界に向かい、あの幽霊に会いました。
あの幽霊はこの冥界のお屋敷の主だったようです。

幽霊は言いました。
「今度うちで宴会をやるから屋台をやってもらえないかしら?」

今まで料理なんてした事なんてないし、幽霊の食の好みなんて知らなかったけど、不味い料理を提供したら私が料理されると思い「はい」とだけ答え、冥界を去りました。


それから私は死に物狂いで料理の勉強をしました。
だって食べられるの嫌だし。

まずは料理の知識がなければ始まらないよね。
そう考えた私は人間の里の阿礼乙女の家に行き、幻想郷の料理の歴史、食材の歴史を教えてもらいました。
さすがの阿求さんも幽霊の好物は知らないと苦笑いしていましたが、親身になって色々と教えてくれました。
「安心してください。稗田家の書庫には料理の本もありますから。」

阿求さんが良い人で本当に助かりました。
私はこの時、人間から評判の食材を教えてもらいました。
それが、霧の湖で獲れる八目鰻でした。
この食材との出会いが私の運命を大きく変えました。

塩焼きにして食べてみると今まで食べた事のない味に感動しました。
人間はこんなに美味しい物を食べているのか!

しかし、只の塩焼きを幽霊のお嬢様に出して満足してもらえるだろうか・・・

きっと食べた事があるに決まってる。
そしてそんな料理出したら私が塩焼きにされる・・・

悩んだ末、私は幻想郷で唯一洋食が口に出来ると噂の紅魔館に向かいました。
こう見えて私も女の子です。
洋風の立派なお屋敷を見るとメルヘンな気持ちになりました。

きっと素敵なお嬢様が住んでいて、家事を完璧にこなし、優しいメイドさん達がいて、優雅にお茶会や舞踏会をやるんだろうなぁ。

変な妄想を胸に玄関を開けると、いました。

私をボッコボコにしたあの憎たらしいメイドが・・・
変な妄想をしてしまった自分が許せない。
何が優しいメイドさんだっ!

彼女は鋭い目付きで私を睨みながら一歩踏み出して言いました。
「リベンジかしら?」

料理の勉強に来たのにボコボコにされるのは御免です。
しかし、背に腹は変えられません。
慌てて事情を説明するとメイドさんは別人のように料理について色々教えてくれました。
「あらあら、貴方も大変ねぇ」
「あの亡霊も暇なのねぇ」

憎たらしいメイドとか思ってごめんなさい。

咲夜さんはとっても優しく、丁寧に私に料理を教えてくれました。
彼女は洋食だけでなく、和食も中華も様々な料理に関する知識を持っていて、八目鰻に合うタレを一緒に考えてくれました。
さらに、屋台が鰻だけじゃ寂しいでしょ、と色んな料理を教えてくれました。
私は紅魔館に1週間ほど住み込みで料理の勉強をさせてもらいました。
憧れのお茶会に参加させてもらったり、図書館で料理に関する資料を読ませてもらったりと至れり尽くせりの日々を過ごしました。


冥界の宴会まで残り数日。
私はお世話になった紅魔館を後に自宅に篭り、八目鰻のタレを研究し続けました。

どれだけ研究しても満足できる味が出せず、気分転換に散歩に行きました。
久々に歌を歌いながら飛んでいると私は迷子になっていました。
しかもここは迷いの竹林の奥地。
悪名名高い焼き鳥屋が出没すると噂の場所で迷子だなんて・・・

一先ず羽を休めようと、地面に降り立った時です。

ガチャッ

その音の後に私の右足に激痛が走りました。
足元を見ると大きな鉄の輪ががっちりと私の足首に食い込んでいました。
足元に流れる大量の血。
わ、わ、罠!?

きっと悪名名高い焼き鳥屋が私を捕まえるために仕掛けた罠!

私には八目鰻に合うタレを完成させるという使命があるんだ!
こんな所で焼き鳥にされてたまるかっ!

罠から逃れようと必死に羽ばたく私。
しかし、もがけばもがく程、罠は私の足に食い込み、傷口を広げました。
出血も止まらない。
ついに私は意識が朦朧とし始めその場に倒れこみました。

私には・・・
やる事が・・・


はっと目を覚ますと見知らぬ天井が見えました。

あれ、前に行った冥界とは大分雰囲気が違うなぁ
そんな事を思い起き上がろうとすると足に激痛が走りました。

どうやらここは冥界じゃない。私はまだ生きてるんだ・・・
安心し、痛みが和らぐのを待っていると聞き覚えの無い声が響きました。

「師匠―!この子目を覚ましましたよー!」

焦点の定まらない私の視界に長くてふにゃふにゃの耳を生やした長髪の女の子が入りました。
妖怪兎?

耳元で何か言っているけど、うるさくて上手く聞き取れないや。

「うどんげ、怪我人の横で大きな声を出すものじゃないわ」
「貴方、大丈夫かしら?」

コクリと首を動かす私。
ゆっくりと上半身を持ち上げると、赤と紺色の服に身を包む銀髪の女の人がこちらに近づいてきました。

「私は八意永琳。私の弟子が迷惑かけたわね。」

上手く状況が掴めない私に永琳さんは説明してくれました。
私を捕まえた罠を設置したのは彼女の弟子の妖怪兎だったらしいです。
そして今、その妖怪兎は、恐ろしい罰を受けているから許してやってくれと長髪の妖怪兎が話をしてきました。

永琳さんは迷惑をかけたお詫びにと夕飯をご馳走してくれました。
夕飯に出された料理はどれも美味しく、紅魔館の咲夜さんにも勝るとも劣らない味でした。

永琳さん、出来る!

そう思った私は今までの話をし、八目鰻に合うタレについて相談をしました。

少し考え込んだ永琳さんから出た言葉。
「漢方なんてどうかしら?」

漢方って何だろう?

そんな事を考えている私に永琳さんが続けます。
「簡単に言えば漢方は食べる薬。」
「いい?八目鰻も漢方の一種よ。引き立てるには同じく漢方を入れてみるのが良いと思うわ」

そういうと永琳さんは私に漢方料理をいくつか教えてくれました。

夜も遅くなってきたので、お礼を言い帰ろうとする私に永琳さんが風呂敷に包まれた何かを私に渡しました。
「これ、もって行きなさい。」
「八目鰻に合いそうな物をいくつか選んでみたわ」

私は何度も何度もお礼を言い永遠亭を去りました。

家に帰り、私は再び厨房に篭りました。

タレ~タレ~♪秘伝ダレ~♪
頑張って作っタレ~♪
食わせタレ~♪

最近忘れていた歌。
即席で作るめちゃくちゃな歌。

歌は適当に作っているけど、このタレは真剣に作ったんだ。
幽霊のお嬢様、喜んでくれるといいな。

私はいつしかそんな事を思うようになっていました。

そして冥界の宴会当日がやってきました。

会場には有名な幽霊楽団が来ていて素晴らしい演奏で皆を盛り上げていました。

幽霊楽団が演奏する楽しげな音楽に即興で歌を付け、私は口ずさみながら屋台の準備をしていました。

「あら、美味しい料理は準備できたかしら?」
ニコニコと楽しそうな幽霊のお嬢様が話しかけてきました。

私は期待して待っていてください、と自信満々で返事をし、八目鰻の仕上げに入りました。

宴会が始まり、香ばしい八目鰻の匂いに誘われ、幽霊のお嬢様が現れました。
彼女は美味しそう、と嬉しそうに10人分位の量の八目鰻をお皿に乗せ、席に戻りました。

他の幽霊達や半幽霊の子にも好評で私の屋台は大盛況でした。

まぁ半分以上は幽霊のお嬢様が食べてしまったんですが。


宴会も終わり、後片付けをしていると幽霊のお嬢様が現れ話を始めました。

「貴方、名前を聞いていなかったわね」

自分の名前を答える私。

「そう、ミスティね。」
「貴方、これからも屋台をやりなさい。」

「こんなに美味しい味を独り占めするのは気が引けるし、冥界で食べ過ぎると妖夢がうるさいから、ふらっと食べに行ける屋台が幻想郷にあっても良いと思うの。」

いまいち話が掴めていない私に幽霊のお嬢様は続けます。

「屋台や必要な物は全部私が揃えるわ。」
「悪い話じゃないと思うけど・・・」

始めは食べられたくないから頑張った屋台。
いつしか、もっとたくさんの人たちに食べてもらいたいと思うようになった私は、幽霊のお嬢様の手を取り深々と頭を下げました。




パタンっと読んでいた日記を閉じた女将。
「さて、辺りも暗くなってきたし、そろそろお店開けようかな。」

オレンジ色した空を夕闇が包み始める。
あと数分もすれば太陽は完全に沈み、この道から人間の気配が完全に消える。
そう、数ヶ月前なら。

「よう、女将!今日は一杯やらせてもらうよ。」
「旦那、今日もでしょ?良いんですか?奥さんに叱られても知りませんよ」
女将とそんな会話をしながら、里の外れで畑仕事を終わらせた人間達が屋台に立ち寄る。

「女将、今日は友達連れてきたよ」
「ありがとうございます。ゆっくりしていって下さい」
女将とそんな会話をしながら、自分達の時間が来たとはしゃいでいる妖怪達が屋台に立ち寄る。

「やぁ、旦那。毎日のように来てるね」
「ハハハ、アンタも毎日通ってるじゃねーか。」

人間と妖怪が楽しそうに話をしながら酒を酌み交わす。
もちろん肴は八目鰻だ。

人間や妖怪、幽霊や妖精、多種多様な生き物が暮らす幻想郷には誰しもが仲良く席に着ける屋台がある。
名前をミスティの屋台という。

名物は女将自慢の秘伝のタレで焼いた八目鰻。
これを肴に酒を飲めば貴方が人間だろうと妖怪だろうと誰とでも素敵な晩酌が出来るだろう。
幻想郷へ旅行に行く事があれば、ぜひとも立ち寄ってもらいたい場所のひとつである。
最後まで読んで頂きありがとうございます。海苔缶です。
3作目です。息抜きに書いていたお話です。
ミスチーの八目鰻はどんな味なんですかね?
個人的にはお酒には蒲焼より白焼きの方が合うと思います。
海苔缶
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コメント



0.1660簡易評価
2.90奇声を発する程度の能力削除
ホッと一息付けるような良い作品でした
3.90名前が無い程度の能力削除
終わり方が良かった。次回作も期待してます。
私は蒲焼派です。
6.100名前が無い程度の能力削除
良いお話でしたー
八目鰻が食べたくなりました
9.90ぺ・四潤削除
そういえばみすちーがなんで屋台を始めたかっていう話は初めて読んだ気がする。
それが天敵幽々子様が切っ掛けだったとは……なりゆきで始めたけど天職を見つけて楽しそうなみすちー見てるだけでも幸せ。
毎日通いたい。
12.90幻想削除
これは新しいっ………!
28.無評価海苔缶削除
読んで頂いた皆様、コメントくれた皆様ありがとうございます。
33.90名前が無い程度の能力削除
ほっこりしました。