***
バザーが行われているといっても、所詮は山だ。少し探してみるだけで、子供なら入り込めそうな獣道が転がっていた。
「はて、どちらに進んだものなのやら」
竹林は私の庭のようなものだが、妖怪の山は範囲外で地理に疎い。以前に天人の住処へ行くために通りがかった程度しか、訪れたことはないのだ。
かといって、運任せで闇雲に探し回ったところで、見つかるものでもない。何より自分には、そんな運任せでことが進むほどのLUC値など存在しない。
基本的に、悪い方向へ進んでしまう。
「いやまぁ、だからこそ一応は対策を講じていたわけで」
慧音も何かしら迷子対策をしているだろうとたかをくくって簡易的なものでしかないが、子供の位置を把握する呪をかけていた。
もっと本気でやれば正確な位置も判っただろうが、今回のは大まかな方角と距離しか判らない。
「ふむ、この固まってるのが慧音たちだとすると……こっちか」
近くにいけば、情報も正確なものになっていくはずだから、まずはそのために進まなければ。
そう思って踏み出した第一歩は、氷を踏んづけたおかげで、ものの見事に滑った。
「い゛ぃっ!!?」
いくら山と言っても、まだ氷が張るには早すぎる季節。全く予想外すぎて、 流石の私も踏ん張りきれず、思いっきり尻餅をついてしまった。
「な、なんで氷がこんなところに?」
周りには誰もいなさそうでも、羞恥で赤くなる顔を隠す。
きっと幽霊が局地的に大量発生したんだ、うんそうだそれで間違いない。
随分とひどい納得の仕方だが、今は子供を見つけることが優先なんだ。
何事もなかったかのように立ち上がって、もんぺについた土埃を払うと、私は何もなかったかのようにここを立ち去ろうとした。
「あはははっ、やっぱニンゲンは馬鹿だなっ!このチルノにも気づかないで転び損だなぁ!?」
「よし、ぶっ倒す」
ふつふつと沸き上がっていた怒りを、瞬時に着火させる。
一瞬で私を中心に熱波が駆け抜た。地面の氷も右斜め45度にいた氷の妖精も、勢いよく融かしていく。
「うおぉ!?あ、熱っ、熱い!?」
熱に耐えきれず、その妖精は砲台から発射されたかのようにぽーんっと飛び出した。
運がいいのか悪いのか、ちょうど私の目の前に落ちてきた彼女は、まだ状況を把握しきれていないようだ。
「おいこら馬鹿」
「馬鹿じゃないよ、あたいは天才さ!!」
どうも条件反射らしく、状況確認を破棄して妖精は反論してきた。けれど私は聞く耳を持たずに、むんずと彼女の頭を掴んで無理矢理目線を合わさせる。
「こら、離せってば!」
「私が苛立っているときに悪戯する馬鹿が悪い。お前、湖によくいる妖精だろ。なんでこんなところにいるんだ」
「あ、また馬鹿って言った!馬鹿って言った奴が馬鹿なのよ、ばーかばーか」
どや顔で馬鹿を連呼する妖精に、ただでさえ低くなっている怒りの沸点が限界を迎えた。彼女の頭を掴んだまま、手に霊力を集中させて熱を生み出す。
「……煮て燃すぞ」
「う、お、脅しには屈しないよ。なにさ、さっきのニンゲンの方が驚いてくれて、よっぽど心が広かったわ」
その言葉で、私に嫌な予感が過る。わずかばかり気持ちが揺らいだことを妖精は敏感に察知して、手の周りを急速に冷やすと頭を振って距離をとった。
「おい、そのニンゲンって子供か?」
「へんっ。教えてほしくば、このチルノ様を倒してからにするんだなっ!」
チルノと名乗ったその妖精は、掛け声と共に自分の身の丈ほどある氷柱を幾つも産み出した。反応に遅れ、炎を出すタイミングを逃したので、仕方なく身体をそらして避ける。
「どっせぇい!!」
間髪入れず、チルノは新たな氷を生み出した。今度は氷柱ではなく、持ち上げているのも精一杯というほどの氷山。どこまでも凶器の塊であるそれを、チルノはブルブルと震えながら私へと放り投げた。
たかが妖精にしてみれば、かなり強力な能力。だが、あくまで“妖精にしてみれば”強いだけだ。
「ニンゲンをなめるなよ!」
気合い一発、あえて炎は産み出さずに私は拳で氷山を砕いた。少し見栄を張ったので、拳が裂けて痛いが痩せ我慢する。
「おわっ、ニンゲンのくせに生意気な!だけどな、あたいのほうがもっとすごいんだぞ!」
今度は周囲に氷柱の雨が降り注ぐ。しかも、その氷柱は木を抉る程度に物騒で、重みがある大きさだ。
やっぱり、妖精にしては強すぎる能力。もう妖精ではなく、半分ほど妖怪になっているんじゃないかと考えたが、あのアホ面を見る限り、彼女はやはりただの妖精だった。
「わはは、どうだー!!」
「なんのこれきしぃっ!小雨か何かの間違いかい?」
実際、氷柱が突き刺さる前に私の周りの熱が溶かすので、雨に当たったようなものだった。それ以前に、妖精ごときの弾幕にコンテニューを使うわけにもいかない。生命のご利用は計画的に。
だがそれにしても、こいつとのバカ騒ぎが妙に楽しくてつい乗ってしまった。
「うぐぐぐっ、じゃあこれでどうだー!!」
「でも気がついた、私はこんなことしている場合じゃない!」
我に返って炎を生み出し、チルノが新たなスペルカードを使用する前に周囲の氷を全て水に変える。氷を作り始めていたチルノに、水がまさにバケツをひっくり返したような勢いで降り注いだ。
「わぷっ!?え、なにこれっ、はかったな!」
「ふむ、棚ぼた」
彼女は急には能力を解除できないらしく、水浸しとなった自分さえも氷漬けにしてしまった。
氷を作ることができても、一度できた氷を精密に操作することはできないらしい。踏ん張っているよう様子だったが、身動きひとつとれないところをみると、いくら強力な能力を持っていても身体能力は並みの妖精のようだ。
彼女が完全に動けないのを指でつついて確認してから、私は戦闘体勢を解いて再びはぐれた子供がどこに居るのか確認し始めた。
「謀ったなぁっ、ひきょうだぞ!」
「うーん、それは自業自得だと思うんだけど、放っておけばそのうち溶けるだろ」
チルノの叫びに答えてみたものの、山の天候は詳しくないので、確証を持てないことは黙っておく。
「それより、さっき言っていた人間てのは子供だったか?」
「うー、あんたの半分ぐらいの大きさのニンゲンだったよ」
「それを子供と言うんだっての。どっちに行ったかは分かるか?」
私の二つ目の質問に、チルノは頭を抱えて考えていたが、急に頭の上に電球が点ったかのように爽やかな笑顔になった。
「さっきの罠からみて左のような右に行ったね!」
「わけがわからん」
所詮は妖精か。あまり期待はしていなかったけど、やはり自力で呪を辿らなくてはいけないようだ。
「ほらほら、教えたからこの氷をどうにかしろぉ!」
「いつそんな交換条件に変わったんだよ……今また自由にしたら悪戯されそうだし、放っておくぞ」
「ノリ悪いなー!つれないなー!」
「なんとでも言っておくれ」
兎にも角にも、今の私にはこいつとじゃれあう暇はない。
また、いつかの機会にバカらしくはしゃぐのもいいかもしれないけどな
バザーが行われているといっても、所詮は山だ。少し探してみるだけで、子供なら入り込めそうな獣道が転がっていた。
「はて、どちらに進んだものなのやら」
竹林は私の庭のようなものだが、妖怪の山は範囲外で地理に疎い。以前に天人の住処へ行くために通りがかった程度しか、訪れたことはないのだ。
かといって、運任せで闇雲に探し回ったところで、見つかるものでもない。何より自分には、そんな運任せでことが進むほどのLUC値など存在しない。
基本的に、悪い方向へ進んでしまう。
「いやまぁ、だからこそ一応は対策を講じていたわけで」
慧音も何かしら迷子対策をしているだろうとたかをくくって簡易的なものでしかないが、子供の位置を把握する呪をかけていた。
もっと本気でやれば正確な位置も判っただろうが、今回のは大まかな方角と距離しか判らない。
「ふむ、この固まってるのが慧音たちだとすると……こっちか」
近くにいけば、情報も正確なものになっていくはずだから、まずはそのために進まなければ。
そう思って踏み出した第一歩は、氷を踏んづけたおかげで、ものの見事に滑った。
「い゛ぃっ!!?」
いくら山と言っても、まだ氷が張るには早すぎる季節。全く予想外すぎて、 流石の私も踏ん張りきれず、思いっきり尻餅をついてしまった。
「な、なんで氷がこんなところに?」
周りには誰もいなさそうでも、羞恥で赤くなる顔を隠す。
きっと幽霊が局地的に大量発生したんだ、うんそうだそれで間違いない。
随分とひどい納得の仕方だが、今は子供を見つけることが優先なんだ。
何事もなかったかのように立ち上がって、もんぺについた土埃を払うと、私は何もなかったかのようにここを立ち去ろうとした。
「あはははっ、やっぱニンゲンは馬鹿だなっ!このチルノにも気づかないで転び損だなぁ!?」
「よし、ぶっ倒す」
ふつふつと沸き上がっていた怒りを、瞬時に着火させる。
一瞬で私を中心に熱波が駆け抜た。地面の氷も右斜め45度にいた氷の妖精も、勢いよく融かしていく。
「うおぉ!?あ、熱っ、熱い!?」
熱に耐えきれず、その妖精は砲台から発射されたかのようにぽーんっと飛び出した。
運がいいのか悪いのか、ちょうど私の目の前に落ちてきた彼女は、まだ状況を把握しきれていないようだ。
「おいこら馬鹿」
「馬鹿じゃないよ、あたいは天才さ!!」
どうも条件反射らしく、状況確認を破棄して妖精は反論してきた。けれど私は聞く耳を持たずに、むんずと彼女の頭を掴んで無理矢理目線を合わさせる。
「こら、離せってば!」
「私が苛立っているときに悪戯する馬鹿が悪い。お前、湖によくいる妖精だろ。なんでこんなところにいるんだ」
「あ、また馬鹿って言った!馬鹿って言った奴が馬鹿なのよ、ばーかばーか」
どや顔で馬鹿を連呼する妖精に、ただでさえ低くなっている怒りの沸点が限界を迎えた。彼女の頭を掴んだまま、手に霊力を集中させて熱を生み出す。
「……煮て燃すぞ」
「う、お、脅しには屈しないよ。なにさ、さっきのニンゲンの方が驚いてくれて、よっぽど心が広かったわ」
その言葉で、私に嫌な予感が過る。わずかばかり気持ちが揺らいだことを妖精は敏感に察知して、手の周りを急速に冷やすと頭を振って距離をとった。
「おい、そのニンゲンって子供か?」
「へんっ。教えてほしくば、このチルノ様を倒してからにするんだなっ!」
チルノと名乗ったその妖精は、掛け声と共に自分の身の丈ほどある氷柱を幾つも産み出した。反応に遅れ、炎を出すタイミングを逃したので、仕方なく身体をそらして避ける。
「どっせぇい!!」
間髪入れず、チルノは新たな氷を生み出した。今度は氷柱ではなく、持ち上げているのも精一杯というほどの氷山。どこまでも凶器の塊であるそれを、チルノはブルブルと震えながら私へと放り投げた。
たかが妖精にしてみれば、かなり強力な能力。だが、あくまで“妖精にしてみれば”強いだけだ。
「ニンゲンをなめるなよ!」
気合い一発、あえて炎は産み出さずに私は拳で氷山を砕いた。少し見栄を張ったので、拳が裂けて痛いが痩せ我慢する。
「おわっ、ニンゲンのくせに生意気な!だけどな、あたいのほうがもっとすごいんだぞ!」
今度は周囲に氷柱の雨が降り注ぐ。しかも、その氷柱は木を抉る程度に物騒で、重みがある大きさだ。
やっぱり、妖精にしては強すぎる能力。もう妖精ではなく、半分ほど妖怪になっているんじゃないかと考えたが、あのアホ面を見る限り、彼女はやはりただの妖精だった。
「わはは、どうだー!!」
「なんのこれきしぃっ!小雨か何かの間違いかい?」
実際、氷柱が突き刺さる前に私の周りの熱が溶かすので、雨に当たったようなものだった。それ以前に、妖精ごときの弾幕にコンテニューを使うわけにもいかない。生命のご利用は計画的に。
だがそれにしても、こいつとのバカ騒ぎが妙に楽しくてつい乗ってしまった。
「うぐぐぐっ、じゃあこれでどうだー!!」
「でも気がついた、私はこんなことしている場合じゃない!」
我に返って炎を生み出し、チルノが新たなスペルカードを使用する前に周囲の氷を全て水に変える。氷を作り始めていたチルノに、水がまさにバケツをひっくり返したような勢いで降り注いだ。
「わぷっ!?え、なにこれっ、はかったな!」
「ふむ、棚ぼた」
彼女は急には能力を解除できないらしく、水浸しとなった自分さえも氷漬けにしてしまった。
氷を作ることができても、一度できた氷を精密に操作することはできないらしい。踏ん張っているよう様子だったが、身動きひとつとれないところをみると、いくら強力な能力を持っていても身体能力は並みの妖精のようだ。
彼女が完全に動けないのを指でつついて確認してから、私は戦闘体勢を解いて再びはぐれた子供がどこに居るのか確認し始めた。
「謀ったなぁっ、ひきょうだぞ!」
「うーん、それは自業自得だと思うんだけど、放っておけばそのうち溶けるだろ」
チルノの叫びに答えてみたものの、山の天候は詳しくないので、確証を持てないことは黙っておく。
「それより、さっき言っていた人間てのは子供だったか?」
「うー、あんたの半分ぐらいの大きさのニンゲンだったよ」
「それを子供と言うんだっての。どっちに行ったかは分かるか?」
私の二つ目の質問に、チルノは頭を抱えて考えていたが、急に頭の上に電球が点ったかのように爽やかな笑顔になった。
「さっきの罠からみて左のような右に行ったね!」
「わけがわからん」
所詮は妖精か。あまり期待はしていなかったけど、やはり自力で呪を辿らなくてはいけないようだ。
「ほらほら、教えたからこの氷をどうにかしろぉ!」
「いつそんな交換条件に変わったんだよ……今また自由にしたら悪戯されそうだし、放っておくぞ」
「ノリ悪いなー!つれないなー!」
「なんとでも言っておくれ」
兎にも角にも、今の私にはこいつとじゃれあう暇はない。
また、いつかの機会にバカらしくはしゃぐのもいいかもしれないけどな