「――なので、メイド長みたいに完璧に仕事をこなしたいんです! どうすればメイド長みたいになれるでしょうか?」
相談があるということで話を聞いてみたが……この質問をされるのはこの子で何回目になるだろう?妖精達に向上心があるのは大変喜ばしい事なのだが、この質問に対する回答のテンプレートが出来てしまったくらいにはよく聞かれるので、そろそろ標語のようなものを作ってもいいのではないだろうか。とりあえずここはいつも通り、暗唱出来るまでになったテンプレートを使わせて貰うとしよう。
「そうね、雑念を消して作業を行うといいわ」
「雑念……ですか?」
「ええ。仕事をする時に一番重要なのは集中力。それを持続させるには余計な事を考えないこと。仕事中は目の前にある作業のことだけを考えるようにしてみれば、作業も捗るはずよ」
「なるほど! よくわかりませんが、とりあえず頑張ってみます!」
そう言い残し颯爽と持ち場に戻っていった彼女の背を見ながら、先程自分の口から出した言葉を頭の中で反芻する。
雑念を消して作業を行う。余計な事を考えない。仕事中は目の前にある作業のことだけを考えるように--
とんだお笑い種だ。他人に忠告する為に考えた言葉なのに、自分が実行出来ていないなんて。
「お嬢様、お待たせしました」
お嬢様は私が来たとわかると、表面上はそっけなく振舞いながらも心待ちにしていたのが表情の端々でわかるような顔で出迎えてくださった。そもそもテーブルに着いて待機している時点でそっけなさなど装いようがなさそうなものだが、可愛らしいのでよしとしよう。
館内の雑務を終わらせると、すぐにこの時間が始まる。毎日恒例のティータイムだ。私に能力がある限り、このスケジュールが狂う事はない。
「ご苦労様。今日の紅茶は普通の紅茶?」
挨拶代わりに、いつもの質問を投げかけられる。毎回毎回訝しげにカップを覗くそのお姿には少しだけ傷ついてしまうが、健康的で刺激的な紅茶を出しているのは事実なのでしょうがない。
「さあ、どうでしょうね。飲んでみてのお楽しみです」
むしろここまでの流れも含めて毎日恒例という事が出来る。多分。
「たまには普通に紅茶が飲みたいわ。まあ、せっかく淹れてくれたんだし飲んではあげるけどね」
「ツンデレなお嬢様も可愛いです」
「そろそろ怒るわよ?」
笑顔のまま声色が変わることほど恐ろしいものは無い、そろそろ黙る事にしよう。ツンデレお嬢様が可愛いというのは茶化しでも何でもない本当の事なのだが。
そう、可愛らしいのだ。何から何まで。いかにもお嬢様なフリフリの服、犬の尻尾のようによく動く翼、日に晒された事のない純白の肌、少し癖のある柔らかい髪、どうみても幼い女の子にしか見えないその容姿。見れば見るほど完璧すぎる。
「どうしたのよ、人の事じろじろ見て」
「へ? い、いえ、何でもないですよ?」
指摘されるぐらい見つめてたなんて思わなかった。いけない、一回見始めると視線を反らせなくなってしまう。
「ふーん、まあいいわ。そんなことより、最近あなたの調子が悪そうに見えるんだけど」
「そうですか? 私としてはいつも通りに過ごしてるつもりなのですが……」
ただお嬢様に対して物思いにふける時間が出来てしまっただけです、なんて言ったらどうなることやら。
「……ねぇ、咲夜。こっちを見て」
少し考える様子を見せたかと思うと、さっきまでの話とまったく関係が無さそうな命令を唐突にされる。まあ唐突なのは今に始まった事ではないし、言われた事自体は日常的にやっていることなので素直にお嬢様を見つめ返す。
結局、お嬢様の方から視線を外すまで、この奇妙な見つめ合いは続いたのであった。
「咲夜」
視線を外すと同時にお嬢様が私の名前を呼ぶ。心なしか、少しにやついてるようにも見えた。
「はい、何でしょう?」
「そろそろお開きにしましょう。片付けお願い」
心地よいひとときは、いつも唐突に終わりを迎える。残念だが、今日はいつもよりお嬢様を見つめる事が出来たのでよしとしよう。そんな理由で浮足立ち状態だった私は、片付けが終わり部屋を出てから数分後、やっと自分自身に異変が起きている事に気付いたのであった。
あのティータイムからどれだけの時間が経っただろう? 時計を確認せずとも窓からのぞく風景だけでどれだけ経過したのかがうかがえた。さほど時間は過ぎていないようだ。……私にはとてつもなく長く感じたというのに。
私は今どこにいるのだろう? 一目瞭然、お嬢様の部屋だ。
数刻前にお嬢様の部屋から出たとき、体に少しの異常を感じた。その時は少し疲れているだけだと思っていたのだが、どうやら体調不良なんかよりもっと性質の悪いものだったらしい。
私の足は、私の意思では止められない程の力でお嬢様の部屋に向かっていった。足だけじゃない。体全てが、今からお嬢様の部屋に向かうのが当たり前だと言うように動いた。
奇妙な感覚だった。必死に体を制御しようとすればするほど、それに反発するように体は勝手に力強く動き、意識は混濁していく。自分が自分では無くなっていく。
結局歩みは止める事が出来ず、気付いた時にはベッドの横に立っていた。お嬢様は可愛らしい寝息をたてている。
お嬢様の姿が確認できた途端、黒くもやがかった頭の中が洗われるように白くなっていくのがわかった。自意識もろとも流れ去ってしまいそうなその感覚に抗っている時、私の横から声がした。それは、この時間には寝ているはずのお嬢様の声だった。
「ずいぶん遅かったじゃない、待ちくたびれたわ」
「起きてらしたのですか」
意識を保つので精一杯の頭では今の状況を上手く呑みこむ事が出来るはずもなく、搾り出すように吐いた言葉もこんな物が精一杯だった。
「ええ、ずっと起きてたわ。それにしても長かったわね、あの様子だったら一瞬でコロっと墜ちちゃうと思ったんだけど」
「おっしゃっている意味が、よくわからないのですが」
「そうね、あなたの今の状態だと難しいことを言ってもわからないでしょう。わかりやすく言うと、ティータイムの時にあなたを魅了したの」
「魅了……ですか……」
「ええ。でも、もういいわ」
お嬢様が指を鳴らすと、先程まで朦朧としていた意識は何事も無かったかのようにはっきりとし、それと同時に感情が一気に押し寄せてくる。最初に沸き上がったのは気持ちを裏切られた事に対する怒りだった。
「なんでこんな事を――」
「ごめんなさい、悪かったわ」
しかしこの怒りは、お嬢様が謝られた事により頭を引っ込める他無かった。
「――――っ」
そんなにあっさりと謝られてしまっては、この怒りを向ける事さえ出来ない。声として出る事が叶わなかった感情は、涙になって私の頬を流れていく。
「どうして、ですか」
「……本当に申し訳ない、私が間違っていた。こんな事をしても咲夜の思いを踏みにじるだけだなんて、やる前に気付くべきだったよ」
「お嬢様にとっては、これも、単なる余興に過ぎないのでしょう?」
「信じて貰えないかも知れないけれど、断じて違うわ。遊びでも何でもなく、本気であなたを魅了したの。あなたの気持ちに気付いていたから」
「それなら、何故魅了など使って私を操るような事をしたのですか!」
「あなたに進んできて欲しかったの。魅了なんて汚い事してごめんなさい、でもどうしても聞いておきたくて……咲夜、私のこと、好き?」
ここまで聞いて、ようやくここまで至る事になった真意を掴む事が出来た。
このちょっとした騒ぎは、お嬢様の気まぐれでも何でもないし、わざと裏切ってやろうなどと言う悪質な悪戯でもなく、本当の本気で行った物なのだろう。ただひたすらに、お嬢様は不器用で、間違った方向に素直なだけだったというわけだ。そう考えると、さっきまでの怒りなんて消えうせ、自然と笑いが零れてしまった。
「何よ、私は真剣なの。別に笑うところじゃないわ」
「いえ、すいません。やっぱりお嬢様は可愛いらしいなと思いまして」
「な……」
怒っているのか照れているのか、一目でわかるぐらい顔が紅くなっていく。本当に、どこまでも素直な方だ。
「私もお嬢様の事は大好きですよ。多分お嬢様が私を好きでいて下さる気持ちより、もっと上だと思います」
「じゃあ――」
「でも、こんなやり方じゃあ普通の人には嫌われてしまいますよ?回りくどい事なんかしなくても、こうやって」
そのままお嬢様に駆け寄り思いっきり抱き着くと、さすがにお嬢様もびっくりしたのか少し体を強張らせたが、すぐに力を抜き、私に体を預けてきた。
「お嬢様は急ぎすぎです。ゆっくりでいいじゃありませんか」
「……本当に私って駄目ね。こんな簡単な方法にもたどり着けないなんて」
「そんなこと無いですよ?こうされなければ、お互いの気持ちが確認出来たのはもっと先になっていたでしょう。これはこれで、良かったんだと思います」
「……ありがと」
お嬢様が照れて離れるまで、抱擁は長く続いた。離れ際につぶやいた「今日は暑いわね」などという誤魔化しは、余計いじめたくなってしまう性悪な私には言ってはいけない事なのだが、それにお嬢様が気づくのはいつになるだろうか。
「で、晴れて両想いだとわかったわけだけど……どうする?今日は咲夜の好きにしていいよ」
「んー、そうですねぇ」
考える振りをしてお嬢様の様子を伺うと、期待しているような目でこちらを見ている事がわかった。薄暗い部屋で二人というシチュエーション、期待するのも仕方のないことだろう。なにより顔を真っ赤にしながら好きにしていいよなんて、破壊力がありすぎてまた頭が真っ白になりかけてしまう。
しかし、残念ながら私のお嬢様に対する愛情はそんな単純で即物的な物なんかじゃない。正気が戻った今、お嬢様と一緒にやりたい事はただ一つだった。
「それでは、二人でお散歩デートに参りましょう!」
相談があるということで話を聞いてみたが……この質問をされるのはこの子で何回目になるだろう?妖精達に向上心があるのは大変喜ばしい事なのだが、この質問に対する回答のテンプレートが出来てしまったくらいにはよく聞かれるので、そろそろ標語のようなものを作ってもいいのではないだろうか。とりあえずここはいつも通り、暗唱出来るまでになったテンプレートを使わせて貰うとしよう。
「そうね、雑念を消して作業を行うといいわ」
「雑念……ですか?」
「ええ。仕事をする時に一番重要なのは集中力。それを持続させるには余計な事を考えないこと。仕事中は目の前にある作業のことだけを考えるようにしてみれば、作業も捗るはずよ」
「なるほど! よくわかりませんが、とりあえず頑張ってみます!」
そう言い残し颯爽と持ち場に戻っていった彼女の背を見ながら、先程自分の口から出した言葉を頭の中で反芻する。
雑念を消して作業を行う。余計な事を考えない。仕事中は目の前にある作業のことだけを考えるように--
とんだお笑い種だ。他人に忠告する為に考えた言葉なのに、自分が実行出来ていないなんて。
「お嬢様、お待たせしました」
お嬢様は私が来たとわかると、表面上はそっけなく振舞いながらも心待ちにしていたのが表情の端々でわかるような顔で出迎えてくださった。そもそもテーブルに着いて待機している時点でそっけなさなど装いようがなさそうなものだが、可愛らしいのでよしとしよう。
館内の雑務を終わらせると、すぐにこの時間が始まる。毎日恒例のティータイムだ。私に能力がある限り、このスケジュールが狂う事はない。
「ご苦労様。今日の紅茶は普通の紅茶?」
挨拶代わりに、いつもの質問を投げかけられる。毎回毎回訝しげにカップを覗くそのお姿には少しだけ傷ついてしまうが、健康的で刺激的な紅茶を出しているのは事実なのでしょうがない。
「さあ、どうでしょうね。飲んでみてのお楽しみです」
むしろここまでの流れも含めて毎日恒例という事が出来る。多分。
「たまには普通に紅茶が飲みたいわ。まあ、せっかく淹れてくれたんだし飲んではあげるけどね」
「ツンデレなお嬢様も可愛いです」
「そろそろ怒るわよ?」
笑顔のまま声色が変わることほど恐ろしいものは無い、そろそろ黙る事にしよう。ツンデレお嬢様が可愛いというのは茶化しでも何でもない本当の事なのだが。
そう、可愛らしいのだ。何から何まで。いかにもお嬢様なフリフリの服、犬の尻尾のようによく動く翼、日に晒された事のない純白の肌、少し癖のある柔らかい髪、どうみても幼い女の子にしか見えないその容姿。見れば見るほど完璧すぎる。
「どうしたのよ、人の事じろじろ見て」
「へ? い、いえ、何でもないですよ?」
指摘されるぐらい見つめてたなんて思わなかった。いけない、一回見始めると視線を反らせなくなってしまう。
「ふーん、まあいいわ。そんなことより、最近あなたの調子が悪そうに見えるんだけど」
「そうですか? 私としてはいつも通りに過ごしてるつもりなのですが……」
ただお嬢様に対して物思いにふける時間が出来てしまっただけです、なんて言ったらどうなることやら。
「……ねぇ、咲夜。こっちを見て」
少し考える様子を見せたかと思うと、さっきまでの話とまったく関係が無さそうな命令を唐突にされる。まあ唐突なのは今に始まった事ではないし、言われた事自体は日常的にやっていることなので素直にお嬢様を見つめ返す。
結局、お嬢様の方から視線を外すまで、この奇妙な見つめ合いは続いたのであった。
「咲夜」
視線を外すと同時にお嬢様が私の名前を呼ぶ。心なしか、少しにやついてるようにも見えた。
「はい、何でしょう?」
「そろそろお開きにしましょう。片付けお願い」
心地よいひとときは、いつも唐突に終わりを迎える。残念だが、今日はいつもよりお嬢様を見つめる事が出来たのでよしとしよう。そんな理由で浮足立ち状態だった私は、片付けが終わり部屋を出てから数分後、やっと自分自身に異変が起きている事に気付いたのであった。
あのティータイムからどれだけの時間が経っただろう? 時計を確認せずとも窓からのぞく風景だけでどれだけ経過したのかがうかがえた。さほど時間は過ぎていないようだ。……私にはとてつもなく長く感じたというのに。
私は今どこにいるのだろう? 一目瞭然、お嬢様の部屋だ。
数刻前にお嬢様の部屋から出たとき、体に少しの異常を感じた。その時は少し疲れているだけだと思っていたのだが、どうやら体調不良なんかよりもっと性質の悪いものだったらしい。
私の足は、私の意思では止められない程の力でお嬢様の部屋に向かっていった。足だけじゃない。体全てが、今からお嬢様の部屋に向かうのが当たり前だと言うように動いた。
奇妙な感覚だった。必死に体を制御しようとすればするほど、それに反発するように体は勝手に力強く動き、意識は混濁していく。自分が自分では無くなっていく。
結局歩みは止める事が出来ず、気付いた時にはベッドの横に立っていた。お嬢様は可愛らしい寝息をたてている。
お嬢様の姿が確認できた途端、黒くもやがかった頭の中が洗われるように白くなっていくのがわかった。自意識もろとも流れ去ってしまいそうなその感覚に抗っている時、私の横から声がした。それは、この時間には寝ているはずのお嬢様の声だった。
「ずいぶん遅かったじゃない、待ちくたびれたわ」
「起きてらしたのですか」
意識を保つので精一杯の頭では今の状況を上手く呑みこむ事が出来るはずもなく、搾り出すように吐いた言葉もこんな物が精一杯だった。
「ええ、ずっと起きてたわ。それにしても長かったわね、あの様子だったら一瞬でコロっと墜ちちゃうと思ったんだけど」
「おっしゃっている意味が、よくわからないのですが」
「そうね、あなたの今の状態だと難しいことを言ってもわからないでしょう。わかりやすく言うと、ティータイムの時にあなたを魅了したの」
「魅了……ですか……」
「ええ。でも、もういいわ」
お嬢様が指を鳴らすと、先程まで朦朧としていた意識は何事も無かったかのようにはっきりとし、それと同時に感情が一気に押し寄せてくる。最初に沸き上がったのは気持ちを裏切られた事に対する怒りだった。
「なんでこんな事を――」
「ごめんなさい、悪かったわ」
しかしこの怒りは、お嬢様が謝られた事により頭を引っ込める他無かった。
「――――っ」
そんなにあっさりと謝られてしまっては、この怒りを向ける事さえ出来ない。声として出る事が叶わなかった感情は、涙になって私の頬を流れていく。
「どうして、ですか」
「……本当に申し訳ない、私が間違っていた。こんな事をしても咲夜の思いを踏みにじるだけだなんて、やる前に気付くべきだったよ」
「お嬢様にとっては、これも、単なる余興に過ぎないのでしょう?」
「信じて貰えないかも知れないけれど、断じて違うわ。遊びでも何でもなく、本気であなたを魅了したの。あなたの気持ちに気付いていたから」
「それなら、何故魅了など使って私を操るような事をしたのですか!」
「あなたに進んできて欲しかったの。魅了なんて汚い事してごめんなさい、でもどうしても聞いておきたくて……咲夜、私のこと、好き?」
ここまで聞いて、ようやくここまで至る事になった真意を掴む事が出来た。
このちょっとした騒ぎは、お嬢様の気まぐれでも何でもないし、わざと裏切ってやろうなどと言う悪質な悪戯でもなく、本当の本気で行った物なのだろう。ただひたすらに、お嬢様は不器用で、間違った方向に素直なだけだったというわけだ。そう考えると、さっきまでの怒りなんて消えうせ、自然と笑いが零れてしまった。
「何よ、私は真剣なの。別に笑うところじゃないわ」
「いえ、すいません。やっぱりお嬢様は可愛いらしいなと思いまして」
「な……」
怒っているのか照れているのか、一目でわかるぐらい顔が紅くなっていく。本当に、どこまでも素直な方だ。
「私もお嬢様の事は大好きですよ。多分お嬢様が私を好きでいて下さる気持ちより、もっと上だと思います」
「じゃあ――」
「でも、こんなやり方じゃあ普通の人には嫌われてしまいますよ?回りくどい事なんかしなくても、こうやって」
そのままお嬢様に駆け寄り思いっきり抱き着くと、さすがにお嬢様もびっくりしたのか少し体を強張らせたが、すぐに力を抜き、私に体を預けてきた。
「お嬢様は急ぎすぎです。ゆっくりでいいじゃありませんか」
「……本当に私って駄目ね。こんな簡単な方法にもたどり着けないなんて」
「そんなこと無いですよ?こうされなければ、お互いの気持ちが確認出来たのはもっと先になっていたでしょう。これはこれで、良かったんだと思います」
「……ありがと」
お嬢様が照れて離れるまで、抱擁は長く続いた。離れ際につぶやいた「今日は暑いわね」などという誤魔化しは、余計いじめたくなってしまう性悪な私には言ってはいけない事なのだが、それにお嬢様が気づくのはいつになるだろうか。
「で、晴れて両想いだとわかったわけだけど……どうする?今日は咲夜の好きにしていいよ」
「んー、そうですねぇ」
考える振りをしてお嬢様の様子を伺うと、期待しているような目でこちらを見ている事がわかった。薄暗い部屋で二人というシチュエーション、期待するのも仕方のないことだろう。なにより顔を真っ赤にしながら好きにしていいよなんて、破壊力がありすぎてまた頭が真っ白になりかけてしまう。
しかし、残念ながら私のお嬢様に対する愛情はそんな単純で即物的な物なんかじゃない。正気が戻った今、お嬢様と一緒にやりたい事はただ一つだった。
「それでは、二人でお散歩デートに参りましょう!」
意外な純愛路線に思わずしんみり。レミリアもかわいい。
ごちそうさまです!