Coolier - 新生・東方創想話

水がコップから溢れたら

2011/08/30 16:58:17
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霊夢はお茶を飲んでいる。
いや、飲もうとしている、という表現の方が正しいだろうか。
要するに、霊夢は今正に自分でいれてきた緑茶を口に含む前なのだ。
そして、なんのためらいもなく―ためらう必要などどこにもないからであるが―霊夢は
お茶を口に含んだ。
味わい慣れた緑茶の風味をゆっくり味わおう――

「ぶっふ!?」
として盛大にむせた。
どちらかというとむせながら吹いたというほうが正しいだろうか。
慌てて霊夢は湯飲みの中で静かにゆれている液体を確認する。
まずかった。
いま、一番好きな味がまずかった。
いや、まずいというだけならば思い違いだろうとそのまま飲んでいられる。
むせた理由はそれだけではない。
理由はわからないが、もう飲めないと思ったのだ。
しかし、湯飲みの中の液体に変わったところはない。
いつも自分が入れているお茶であった。
だが飲めないものは飲めない。
ごめんなさい、ごめんなさいと謝りながら霊夢は湯飲みを掴み――

普段絶対にやらない、「食料を捨てる」という行為を霊夢は行った。

「あぁ、やってしまった、私は遂にこんなことを、巫女として巫女として……」
「なに一人でつぶやいてんだ?」
「あひゃぁっ!?」
一人でぶつぶつ呟いていた霊夢の後ろに黒い影が心配げな顔で立った。
魔理沙である。
「邪魔するぜ」
「もうしてるじゃない……なんの用よ」
「いや単によっただけなんだが……で、お前なにしてたんだ?」
今霊夢は空の湯飲みを逆さに持ち、縁側につったっていた。
魔理沙でなくとも疑問は浮く。
「な、なにもないわよ。単にちょっと新しい……えっと、運動をしてただけよ!」
「ほう、そうなのか。お茶を捨てる運動法をお前がやるとは思わなかった」
「見てたんだったらいいなさいよ!」
「言う必要もないしな」
くぅ、見られていたとは。
広められたら私の巫女としてのイメージダウン、果ては博霊神社の参拝客減少を招かざるを得ない!
なんとしてでも訳を話し納得してもらわねば!
「……ま、まぁね。訳があるんだけど、聞く?」
「いや、聞かない」
「聞いてよ!」

と、いうわけなのよ。
霊夢は魔理沙にお茶を飲んでからお茶を庭に捨てるまでの経緯を説明した。
ふむふむ、全部聞いたという意思表示も兼ねて魔理沙が数回軽くうなずく。
「……で、どう思う?」
「どう思う、ってなにがだよ」
「私の体がお茶を拒否しようとする理由に心当たりはないかってことよ。なんか考えなさいよ」
「んな無茶な……」
そう言いながら、腕を組んで考えてくれるところは魔理沙の長所だ。面倒見がいいともいう。
魔理沙は考え事をしているとき瞬きの回数が増える。
脳内の知識をカメラのシャッターを押すようにして
次から次へと探っている内に無意識にそうなるのだろうか。
魔理沙の顔を観察していると、魔理沙が顔をあげた。結論が出たらしい。
「コップから水が溢れたんじゃないか?」

しばし沈黙がながれた。
あれだけ考えてその結論かよ、と言うような霊夢の視線に気づき魔理沙は慌てて捕捉の言葉をいれる。
「ち、違うよそのままの意味じゃなくてさ。たとえだよ、もののたとえ」
「たとえ?」
「ああ。いろんなものごとにはコップがある。そしてその物事を体験するたびに水がコップにたまっていくと考えてくれ」
そう言われ、霊夢は想像する。今回はそれをお茶を飲むという行為にたとえろと言うことなのだろう。
「で、霊夢はお茶が大好きだよな?……うん、そんな必死にうなずかなくても良いから。人間、好きなものは何度でもくっちまう。霊夢も、その自然の摂理に逆らうことなくお茶を飲みまくった」
確かにそうだ。私は今まで何杯のお茶を飲んだだろう。
物心つき、お茶をいれられるようになってからはずっと飲んでいたと思う。
それこそ、お茶以外の飲み物なんて考えられなくなるほどに。
「その分、コップの水は早くたまる。そして、コップいっぱいまで水がたまったのに、さらに水が入ってしまったら?」
「……コップから、水が溢れるわね」
「そのとおり。水が溢れて、お前は今日お茶をおいしいと思えなくなったんだ」
ずず、と魔理沙だけがお茶をすする。
なるほど、魔理沙の言うことにしては納得がいく。
つまり、お茶を摂取しすぎたがために私の体内コップは溢れてしまった、と。
「ま、要するにお前が節度なくお茶を飲みまくったせいだ。自業自得だな」
「うぐ」
的を射る様なことを言われ、ぐうの音もでない。うぐという音は口からでたが。
「……で?私はどうすればいいのよ」
「さあな。今後の飲み物なら面倒見てやるが」
「……」

「というわけでいくつか飲み物をそろえてきた。お茶に準ずる毎日飲めるものを選べ」
ごとっ、という音が何回かして、飲み物が置かれる。
それは霊夢からみて左から順に、
コカコ●ラペプシネックス、カル●スサワー(お酒)、ウェル●ぶどうじゅーす、缶コーヒーBOS●(無糖)だった。
「おいちょっとまて」
「なんだ?なにをまてというんだ」
「そうじゃなくて。この飲みもののラインナップはなんなのよ」
「紫から」
「チェンジ!」
んだよ、わがままだな。そう言いたげな顔をして。
「んだよ、わがままだな。じゃなにが良いんだよ」
そのままいった。霧雨魔理沙、隠し事はしない主義である。
「……ほんとにこれ以外ないの?」
「紫以外の所に行ったら酒とか血とかがもらえると思うけどな」
博霊神社に沈黙が訪れる。
確かに他の所へいっても酒をすすめられて終わりそうだ。
霊夢はそう結論づけると、魔理沙にコップをもってこさせるように指示した。

ごきゅ。
まず最初に霊夢がのんだのは缶コーヒーだった。
いや、既にコップに移されているので缶とはいえないか。
ちなみにコップに移すのは魔理沙がやった。
「……にっが!なにこれ苦い!ほんとに飲み物!?色も黒いし!」
「あれ、紅魔館でのんだことなかったか?」
「あれは甘かったじゃない……!あ、無糖だから……?」
霊夢がぐしゃっとつぶれている缶の残骸を注意深くみると、確かに「無糖」と文字が刻まれている。
無糖というのは即ち砂糖無し糖分なし、という意味で。
苦くて当然だった。
この苦みを「おいしい」と言う外の世界の人間が理解できない。多分、強がりを言ってるのだろう。
「あー……苦かった。さて、次は……これにしようかな」
苦みがやっと薄らいできた霊夢が次に選んだのはブドウジュースだった。
苦みを洗い落とすにはお誂えだろう。
紫色のそれをコップに注ぎ、少し控えめに口に入れる。先ほどの失敗があったからだ。
「あ、甘い……甘すぎる……」
「なんだよ、苦いって文句言ったり甘いって文句言ったり」
「やっぱ中間が一番よ……中間のお茶が……」
ぶつぶつ言いながらも、もう二度と食料は捨てまいと一気に飲み干す。喉がごくりと音を立てた。

「あー、もう残り二つはいいわ。もういい。やだ」
「……一つはお酒だぜ?」
ぴく。魔理沙のその一言に霊夢は体を微かに震わせて反応した。
「……どれよ」
「これ」
魔理沙が手にとって霊夢にさしだしたのはカルピスサワー。
カルピスと銘打っておきながらアルコール飲料というあの飲み物である。
「……でもお酒だからやめとくわ。毎日飲むわけにもいかないし」
ふー、と霊夢がため息をつく。
結局、いい飲み物は見つからなかった。
お茶を大好きだからと言って、大量に飲みコップを早々に溢れさせた自分が悪いとはいえ。
残ったお茶はどうしようか。そう考えながらもう一度ため息をついていると。
「……霊夢、お茶、飲んでみろよ」
「……ふぇ?」
予想していなかった言葉が魔理沙から発せられた。
なぜだろう。コップはもうあふれかえってしまったというのに。
もう、美味しく味わうことはできないというのに。
「いいから、飲んでみろよ。今だったらおいしいはずだ」
そう言いながら、いつのまにか魔理沙が淹れていたお茶が差し出される。
その緑色の液体を差し出され、霊夢はたじろいだ。
まずい。この物体はまずい。口に入れれば不快感を味わう。
そう、少し前の出来事で体が決めつけてしまっているのだ。
だから、たじろぎ、ためらう。
しかし、魔理沙は気にせず、変わらずお茶の入った湯飲みを差し出している。

意を決して霊夢はその湯飲みをうけとり、お茶を口へ流し込んだ。

「……あれ?」
思わず口の周りを指先でさする。
最後にお茶を飲んだときに感じたまずさと、お茶を口に入れるのを拒否させたなにかがない。
昨日までと同じく、ごくごくと飲める。
気づけば、湯飲みは空になっていた。
「魔理沙、これ……」
「普通にのめたろ?」
にやり、と魔理沙が笑みを浮かべる。
普通に、のめた。
魔理沙からコップ論を聞いたときはもう飲めないのかと絶望的になったが、
普通に飲めた。なぜだろう?
「……なんで?」
「他の飲み物を飲んだからだよ」
「えっ?」
そんな、理由で?
霊夢は思わずまぶたをぱちぱちさせ、魔理沙を見る。
「お前、お茶ばっかのんでただろ?お酒も飲んでたけど。だから、コップがいっぱいになった。だけど、水って言うのは蒸発する。時間がたてばたつほど。お前は、他の飲み物って言う乾燥剤をいれたのとおなじなんだ。水の中に乾燥剤いれても意味無いけどな」
……なるほど。少々分かりづらいが、言いたいことは大体分かった。
コップが水でいっぱいになったのだったら、水を抜けばいい。そう言ってるのだろう。

「……あー、お茶がうまい」
もう一度お茶を湯飲みに注ぎ、一口含んで、湯飲みを口から離す。
魔理沙はあのあと私が手を付けなかった二つの飲み物をもって帰った。
家に帰ったわけではないだろうが。
霊夢は湯飲みの中の、自分が摂取しすぎたと言ってもいいくらいの量を飲んだ緑の液体を少しだけ見つめると。
「あーあ、コップなんてばかばかしい。」
そう呟いて、その湯飲みの中の液体を口に流し込んだ。

本心からばかばかしいと思っていないことは、霊夢だけが知っている。
だって、そう呟いたことをしっているのは、霊夢本人と。
既に霊夢の中に入った緑の液体だけなのだから。

fin
こんにちは、いろはです。

今回の話は、時々私が思うことを勝手に霊夢にやってもらいました。
自分でも東方でやる必要はなかったかと書き終わってから感じてます。
コップ論はえーと、なにかの本で読みました。

とりあえず緑茶はおいしいよ
いろは
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コメント



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2.無評価ha-削除
>博霊神社
博麗
あと、何でカルピスサワーが一回目は伏字なのに
二回目は伏字になってないの?統一させた方が良いんじゃない?
5.20名前が無い程度の能力削除
うんこれ完全にコップ論間違えてるね。
9.60名前が無い程度の能力削除
コップ論とやらを知らない自分だとほうほうという感じで楽しめた