Coolier - 新生・東方創想話

コスプレ、怪談、そして……?

2011/08/30 00:32:02
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「日が暮れてきたわねー」

夏の白玉楼、そしてその居間。
私……鈴仙・優曇華院・イナバと親友である妖夢、早苗はお茶を飲みながら雑談をしていた。

「あ、本当だ。やっぱり話に夢中になってると、時間が経つのが早いですね」

妖夢が私の言葉に反応して、外に目をやった。
外は夕焼けで赤く染まっている。
今日は早苗と一緒にここに泊りに来たんだけれど……
昼に来たはずなのに、いつのまにか夕方になってたわ。
うーん、話に夢中になると、こうも時間は早く流れるのね。

「それじゃ、そろそろ夕食にしましょうか。
 あ、お二人は座っててください。
 私だけでも大丈夫ですから!」

そう言って、妖夢は立ち上がる。

「それじゃ、お言葉に甘えて。
 何かあったら声をかけてね? 声さえ掛けてくれれば、すぐに手伝うから」
「妖夢さん、頑張ってくださいね!」
「はい! 腕によりをかけて美味しいものを作るので、期待しててください!
 あ、あともう少ししたら幽々子様も来ると思うので」
「わかったわ。頑張ってね」

この館の主である幽々子さんは私たちに気を遣って、どこかに行ってしまった。
ま、たぶん自分の部屋だろうけどね。
台所へ向かう妖夢を見送った後、私は湯のみに残ったお茶を飲み干した。
すると、早苗が話しかけてきた。

「鈴仙さん、アレはいつするんですか?」
「んー、もうちょっと経ってからかな」
「ふふふ、楽しみですね……」
「ええ、このために天狗からカメラも借りてきたし……」
「私にも焼き増ししてくださいね?」
「ええ、もちろんよ」

私と早苗は「制服」というもので知り合ったといっても過言ではない。
そう、あれは少しばかり前のこと。
たまたま博麗神社で出会った早苗は私に向かってこう言ったの。

「この制服可愛いですね!」

これは制服って言うか軍服なんだけどね。
ま、それは置いておいて。
こうして私と早苗は出会ったの。
それから色々話すうちに意気投合して、今ではこうやって良く遊んだりする仲に。
そうそう、早苗が学生時代に着ていたっていう制服を着たりもしたわね。
あれがなかなか可愛かったのよね。
私も今度、私服としてああいうの着てみたいな、なんて思っちゃったくらい。
さて、昔話はこれくらいにして話を戻すわね。
早苗がさっき言っていた「アレ」っていうのは……
「妖夢に私たちが持っている制服を着せてみよう」っていうもの。

「妖夢が着たら似合うに違いないわね……」
「ええ……楽しみすぎて、持ってる制服を全部持ってきちゃいましたよ。
 高校の制服に中学の制服、そして小学校の制服……は流石に入らないかな?
 あ、もちろん冬服夏服どっちも持って来ましたよ!」
「私も冬夏どっちも持ってきたわ……バリエーションは少ないけど」
「とりあえず全部着せてみましょ!」
「ええ、もちろんです!」

ふふふ、後で起きることを想像するとニヤニヤが止まらないわね。

「私にも写真ちょうだいねー」
「わ! 幽々子さん!? いつの間に!?」

いつの間にか後ろに幽々子さんが立っていた。
月にいた頃は後ろからの気配とかには敏感だったんだけど、こっちにきてから鈍ったみたいね。
でも幽々子さんは亡霊だから気配が薄いっていうのもあるの……かも。

「んー、鈴仙ちゃんが『アレやるのはもうちょっとしてからかなー』なんて言ってた頃からいたけど」
「えと、つまりほぼ全部聞いてたってことですね」

早苗が乾いた笑いを漏らしながら言った。

「ええ、そういうことになるかしらね。
 でも止めはしないわよ。だって面白そうなんだもの」

あれ、幽々子さんもなんだかんだでノリノリなんじゃ?

「というわけで写真に期待してるわー」
「は、はい、わかりました」

というわけで幽々子さんもこっち側の人間になったのでした。
いや、こっち側の亡霊? ま、どっちでもいいか。

「それにしても結構長い間話してたみたいだけど、どんな話をしてたの?」
「えーと、最近どう? とか、今度どこかに遊びに行かない? とか」
「湖か川に泳ぎに行こうなんて話をしてたんですよ。
 幻想郷にも市民プールみたいな施設があればいいんですけどね」

早苗の言うとおり。確かにプールは欲しいわね。
そういえば紅魔館に海という名のプールが出来たとかいう新聞記事がかなり前に載ってたなぁ。
人間の里の端にでも出来てくれれば便利そうなんだけれども。

「ふーん、泳ぎにねぇ。
 そういえば毎年紫が『海』っていうところに連れて行ってくれるんだけど、そこがなかなか面白いのよね」
「へぇ、海ですか」

海、ってことは外の世界かな?
幻想郷に海は無いし。
紫さんの能力を使えば自由に外の世界に行けるしね。

「あ、海行きたいですね! 夏といえばやっぱり海ですよ!」

元・外の世界の住民である早苗が反応した。
やっぱり早苗もよく海に行ったりしてたんだろうな。

「でも紫さんは気まぐれだし、連れて行ってくれる可能性は低いかもね」
「あう……海岸でスイカ割りとかしたかったのに……」

あ、なんか落ち込んでる。

「泳ぎに行くのもいいけど、花火っていうのもいいんじゃない?」
「花火! それもいいですね!」

そして幽々子さんの言葉に、一瞬で元気を取り戻す早苗。
切り替え早っ。

「まぁ、夏はまだ始まったばかりだし、色々考えておきましょうか。
 博麗神社の夏祭りとかもあるし」
「な、夏祭り! そういうのもあるのか……!」

早苗の神社でもお祭りすればいいのに……とか思うけど、立地的に厳しいのよね。
里から遠いし。

「お祭りといえば出店がたくさん出るわねぇ。
 焼きそばにとうもろこしにたこ焼きに……」
「食べ物ばかりじゃないですか」
「え? 食べ物の出店が一番楽しみじゃない?」
「はぁ、そうですね……」

流石は幽々子さん……食べ物にしか興味が無いなんてね。
金魚すくいとかも楽しいのに。
妖夢と早苗と金魚すくい……うん、悪くないわね。

「綿あめ食べて、浴衣着て金魚すくいして……楽しみですね!」

早苗の浴衣かぁ。
うん、すごくいいと思う。
三人で浴衣着て夏祭り、とか楽しそう。
お祭りが近づいたら浴衣の準備しなきゃ。

「出来ましたよー!」
「あ、はーい。今そっち行くから待っててねー」

お、話してる間に夕食が出来たみたい。
話はひとまず中断して、食事にしよっと。



そして夕食後。
外は完全に真っ暗になっている。
私たちは食器を台所に運んでから、食後のお茶を飲んでいました。

「流石は妖夢さん。美味しい料理でした」
「いやいや、早苗さんには敵わないですよ」
「いえいえ、私もまだまだですから」

私から見たらどっちも上手だと思うんだけどなぁ。
得意なものはそれぞれ違うけどね。
早苗は甘いものが得意だし、妖夢は和食が得意。
ちなみに私は……どちらかというと和食かな?

「たまには妖夢以外の人が作ったものも食べてみたいわねー」
「あ、今度何かお菓子でも作って持ってきますよ」
「お菓子……楽しみね。洋菓子和菓子、私は何でも大丈夫よ!」

「あなたは食べ物なら何でも大丈夫なんじゃ?」とツッコみたかったけど、我慢。

「あ、そうだ。二人とも、アレはいつやるのかしら?」

幽々子さんにいきなりそういう質問をされた。
アレ……つまり妖夢の着せ替えのことね。

「アレ、ですか? うーん、どうしましょうか」
「今でもいいんじゃないでしょうか?」

私たちのそんな会話に妖夢一人だけがついていけず、頭の上に?マークを浮かべている。

「あのー、アレ、って?」
「そうね、今やっても問題ないかも」

妖夢を無視して、私は話を進める。
反対意見は無いかしらね?

「うん、私も今やっていいと思うわー」
「同じく私もです」

よし、満場一致ね。
さーて、準備しなきゃ。
制服とカメラの準備をね!

「あの、何をやるんですか? 私、話に全くついていけないんですけど」
「ふふふ、すぐにわかるわよ。早苗、まず私の方からでいいかしら?」
「ええ、構いませんよ。私は鈴仙さんの後に楽しみますから」

というわけで、私の服を着せるのが先になったわね。
うふふ、どれから着せようかな?
始めは暑いのを我慢してもらって冬服かしら。
その後に夏服を……

「楽しむって……何かゲームでも?」
「ええ、楽しいゲームよ……着せ替えという名のね!」

カバンの中から制服を取り出しながら、妖夢に笑いかける。

「え、えと、もしかしてそれを私が着るとか……?」
「その通り!」
「に、似合いませんよ?」
「それは着てみなきゃわからないじゃない!」
「あ、あぅ……」

さーて、早速始めましょうかね。

「私も妖夢の制服姿、見てみたいなー」
「ゆ、幽々子様まで……はぁ、しょうがないですね……ちょっとだけですよ?」
「楽しみねー」
「それじゃ、まずこれからお願い!」

妖夢に私の冬服を手渡す。

「それじゃ、着替えてきます」

妖夢は頬をわずかに赤らめながら、隣の部屋に消えて行った。
戻ってくるまで少しかかるかな。

「しかし私たちって気が合うわよねー」
「そうですね。制服好きなところとか」

制服が好き……んー、まぁ、そうなるかな?
今私が着てる服とか、早苗が持ってきた制服とか好きじゃないって言ったら嘘になるし。

「あとは妖夢が好きなところとかね」
「だって妖夢さんが可愛いんですもん」

うん、妖夢が可愛いのはわかる。
妹みたいな感じがするのよね。

「妹みたいな感じがして、気になっちゃうんですよ」
「あら、私と同じこと考えてたのね」
「あれ、鈴仙さんも同じこと考えてたんですか?」
「うん。妹みたいだなーって考えてた」

どれだけ同じこと考えてるのよ、私たちは。
やっぱり私たちって似てるわ。

「やっぱり私たちって相性抜群ですね」
「そうね。これからもよろしくね」
「はい!」

と、その時、妖夢が着替えを終えて帰ってきた。
声がしたほうに顔を向けると……見事に学生と化した妖夢が立っていた。

「あのー、どうでしょうか?」

お、これはなかなかいいわね。

「妖夢さん、可愛いですよー! ブレザーは似合いますね……
 でも、妖夢さんならセーラーも似合うはず……」

うーん、言われてみれば妖夢にセーラーは似合うかも。
とりあえず写真写真。

「ひゃっ!? 何撮ってるんですか!?」
「あ、写真出来たら妖夢にもあげるからねー」
「は、はぁ……」

ポーズ取らせるのもいいけど、こういう自然体もなかなかいいわね。
ふと思ったんだけど、妖夢のコスプレ写真集とか作ったら高値で売れるんじゃないかしら?
ま、流石にそこまではやらないけど。
でも個人的には欲しいかなー。

「んー、でもこういうのもなかなか楽しいですね」
「お、妖夢さんがコスプレに目覚めたみたいですね。
 外の世界にはこういうのを楽しんでやる人がたくさんいるんですよー」
「へぇ、そうなんですか。でもその楽しさ、何となくわかる気がします」

お、妖夢がノリ気になったわね。
妖夢も楽しめて、私たちも楽しめる。
これぞ一石二鳥って奴ね。

「さて、それじゃ次は夏服ね。はい、どうぞ」
「はい! それじゃ、着替えてきますねー」

さっきとはうって変わって、楽しげな表情で着替えに行く妖夢。
うん、楽しそうで何より。
こっちも楽しませてもらうことにするわ。

「妖夢、楽しそうねぇ」
「幽々子さんも着てみます?」
「うーん、どうしようかしら? 私みたいなおばさんが着ても嬉しくないでしょ?」
「幽々子さんはおばさんなんかじゃないですよ!
 若々しくて羨ましいくらいです!」

早苗がそう叫ぶ。
うん、その通りね。
どちらかというとお姉さんっていうのが正しいかな?

「おばさんなんて言うにはまだまだ早いですよ?
 幽々子さんは若いし、綺麗じゃないですか」

幽々子さんは私たちの言葉に少し驚いたようだったけれど、すぐに微笑んでくれた。

「ふふ、二人ともありがとう。二人の言葉、嬉しかったわ」

やっぱりこの人には笑顔が似合うわね。
なんていうのかな。
母性を感じさせる笑顔、とでも言えばいいかしら?
多分そんな感じ。

「ねぇ、私にも服を貸してもらえないかしら?
 ちょっと着てみたくなってきたわ」
「あ、はい。どうぞ」

早苗が制服を手渡す。
長袖のセーラー服……どうやら冬服みたいね。
早苗に私の服を着せたことがあるんだけど、どっちも捨てがたい感じだったのよね。
どちらにも甲乙付けがたいところがあるわよね。

「それじゃ、私も行ってくるわねー」

幽々子さんも妖夢の後を追って、隣の部屋に消えていった。
そして残された私たち。

「いやー、まさか幽々子さんまで着てくれるなんて」
「予想外だったわね」

そして私は面白いことを考え付いた。

「ねぇ、私たちも着替えて、制服着た四人の写真とか撮ってみない?」
「あ、それすごく面白そうですね!」
「このカメラ、セルフタイマーもついてるみたいだし……流石は河童の技術」
「それじゃ、私たちも着替えてきましょうよ!」
「ええ、行きましょ! あ、あなたの服、貸してね」
「それじゃ、私は妖夢さんが脱いだ鈴仙さんの制服を……」
「もちろんいいわよ」

妖夢が脱いだ私の服を着るって言うとなんかいやらしく聞こえるけど、気にしないことにしよう。
こうして私たちは着替えるべく、隣の部屋へと移動するのでした。
あ、すでに妖夢は着替え終わっているわね。

「あれ、二人とも、どうしたんですか?」
「んー、私たちも着替えようかなーって思ってね」
「着替え終わったら、四人で写真撮ろうかって話になったんですよ」
「へぇ、面白そうですね、それ」

妖夢、何気にノリノリね。
「恥ずかしいからいいです」なんて言うのかと思ったけど。

「ふぅ、着替え終わったわー」

幽々子さんが着替え終わったみたい。
わ、これはなかなか……

「なかなか似合いますね……」
「んー、でもちょっとだけきついかしら」

早苗と幽々子さんじゃ体格が違うもんなぁ。
でもちゃんと着れてるのはすごいと思う。

「それじゃあ、私は鈴仙さんの服を借りますかね」

早苗は早速妖夢が脱ぎ捨てた服を拾って着始めた。
それじゃあ、私も早苗の制服を……



「はい、撮れましたよー!」
「ふぅ、やっと終わったー」

あれから数十分が過ぎて……
みんなで制服を一通り着ての写真撮影が終了。
現像が終わったらアルバムにしっかり綴じておかないとね。

「うーん、なかなか楽しいわねー」
「幽々子さんも似合ってましたよ。写真が出来たら一枚ずつ渡しますので」
「あら、ありがとねー」

ここで私はふと思った。

「ねぇ、幽々子さん、師匠、神奈子さん、紫さんに制服着てもらったら面白いんじゃない?」
「あ、それいいですね。ついでに諏訪子様にも着てもらいたいところです」

諏訪子さんか……諏訪子さんが着たら小学生か中学生くらいに見られそうね。

「でもなんでそんな面子になったんですか?」
「そりゃ、ご主人様軍団だからよ。みんな仲いいじゃん」
「あ、言われてみれば」

この面子、私たちから見たらご主人様って感じの人たちなのよね。
色々仲良くやってるみたいだし、ご主人様軍団でコスプレとかやってもらったら面白そうなんだけど。

「いいわねー。紫はノリノリでこういうの着そうな気がするわー」
「な、なんかわかる……」
「紫さんならやりかねない……」
「ですね……」

あの人、こういうこと好きそうだし……
いや、というかこの面子、全員がノリノリでやりそう。
師匠とか「どう? まだまだ私もイケるでしょ?」とか言ってきそうだし。

「と、とりあえず元の服に着替えましょうか」
「そうですね……」
「なかなか楽しかったわー。ありがとねー」

そんなこんなでコスプレ大会を終了することに。
ふふ、カメラを現像に出すのが楽しみね。



「ふぅ、着替え終わったわね」
「なかなか面白かったですよ。またこんなことしてもいいですね……」
「だったら、また妖夢に着てもらうような服を探してこないといけないわね」
「私が向こうで着てた私服なら結構ありますよ」
「じゃあ、次は早苗の私服で!」

冷たいお茶を飲みながら、みんなでわいわいとそんな会話を繰り広げる。
私も今度私服を持ってきてみようかな。
ふふ、私だって私服くらいは持ってるのよ?

「それにしても、暑いわねぇ……」
「ん、確かに……」

幽々子さんの言葉でやっと気がついた。
今まで会話とかに夢中だったから暑さを感じなかったけど……
確かに暑い……

「こういう時は怖い話でもして涼しくならない?」
「あー、それいいですねー」

幽々子さんの提案に同意した時、横でガタッという音が。
音のしたほうを見ると……
早苗と妖夢が抱きついていた。
抱きついてるといっても、恋人同士がするような抱きつきじゃなくて、恐怖を感じた時の抱きつき。
おまけにガタガタと震えてるし。

「怖い話、するんですか……?」
「こ、怖いのだけはダメなんですぅ……!」

あー、そっか。
この二人、怖いのが苦手だったわね。
かわいそうだし、怖い話はやめようかな。
……と思ったけど。

「ふふ、二人が怯えてるところを見たら更にいじめたくなっちゃったわ。
 というわけで幽々子さん、怖い話しましょう!」
「ええ、もちろん! 妖夢に早苗ちゃん、覚悟しなさいよー?」
「か、覚悟を決めるしかなさそうですね……」
「で、ですね……なんとか我慢します……」

怖いのが嫌いなら他の部屋に行ってもいいのに、とか思ったけど……
二人とも普通に聞くのね。
気になるっていう好奇心には勝てないのか、それともみんなでいないと恐怖に押しつぶされちゃうのか。
ま、どっちでもいいけどね。
恐怖に怯える二人もなかなか可愛いし。

「それじゃ、鈴仙ちゃんからどうぞ」
「あ、はい。それじゃ、永遠亭発の怖い話を……」

私は出来るだけ怖く聞こえるように話し始めた。



これは永遠亭であった出来事……
とある夜。
四人のウサギたちが遅くまで部屋で騒いでおりました。
枕投げをしたり、ぺちゃくちゃと談笑をしたり、追いかけっこをしたり……
そんなことをしていると、ウサギたちのリーダーであるTがやってきて告げました。

「みんな、早く寝なさいよ! 早く寝ないと……出るわよ」
「何が?」
「あれ、知らないの?
 ここにはね、遅くまで起きている悪い子を一人ずつさらっていく、こわーいお化けがいるのよ……」

Tがそう告げても、ウサギたちは笑うばかり。

「あはは! Tったら嘘つかないでよー! いるわけないじゃない、そんなの!」
「さぁ、わからないよー? ま、どう思うかはあなたたち次第だけどね。
 とりあえず、トイレに行く時には気をつけたほうがいいわよ。
 それじゃ、私は寝るとするよー。おやすみー」
「おやすみー」

Tの忠告を無視して、まだまだ騒ぐウサギたち。
しかし、そうしているうちにみんな眠くなってきました。

「ふあー……そろそろ寝よっか」
「そだねー。あ、私トイレ行ってくるね」
「行ってらっしゃいー」

四人のウサギのうちの一人がトイレに向かいます。
残された三人もトイレに行きたかったので、先に行った子が帰ってくるのを待っていました。
しかし、待てども待てども帰ってくる気配がありません。

「ねぇ、遅くない?」
「まさか本当に幽霊に……」
「そ、そんなわけないでしょ!
 た、多分お腹が痛くて……とかそういうのよ!」

三人は更に数分待つことにしました。
しかし、それでも帰ってきません。

「ちょ、ちょっと私見てくる!」

一人のウサギはそう言い放ち、トイレへと向かいました。
残された二人は「二人が無事に帰ってきますように」と祈っていたのですが……
やはり二人とも帰ってきません。

「ね、ねぇ、これヤバイよ……」
「ど、どうしよう……」
「二人で行けば、大丈夫、じゃないかな……?」

そういうことで、二人一緒にトイレを目指すことに。
部屋から出て、庭に面した廊下をおっかなびっくり進んでいく二人。
見慣れた真っ暗な庭と廊下のはずなのに、なんとも言えない恐怖を感じます。
それに、いつも永遠亭を照らしてくれている月の光が無い、ということが恐怖に拍車をかけていました。
お互いを励ましあいながら、なんとかトイレに到着。
しかし、様子を見に行ったはずの子の姿は見えません。
二人揃ってトイレの中にでもいるのでしょうか。

「ね、ねぇ、いる?」

恐る恐るノックをしても、返事は返ってきません。

「開けて、みようか?」

勇気を振り絞ってトイレのドアを開けてみると……誰もいません。
おかしい。
二人はそう思いました。

「ねぇ、何で誰もいないのよ?」
「わ、私に聞かれても……」

その時……

ギシリ

そう話す二人の背後から足音が聞こえてきます。
「もしかして先に行った二人?」
そう思ってゆっくりと後ろを振り向くと……

「ねないこ、だぁれだ」

黒い影にぎらりと光る目が付いた物。
そうとしか言えない物体がゆっくりこっちに向かってくるではないですか!
しかもものすごく低い声で「ねないこ、だぁれだ?」と呟きながら。

「ひっ……!?」

二人とも叫びたかったのですが、恐怖のせいで叫ぶことすら出来ません。

「ねないこ……だぁれだ!」
「きゃああああっ!?」

影は二人の目の前にやってくると、そう叫びながら二人に覆いかぶさってきました。
……そして、次の日。
トイレの前で気絶している4人のウサギが発見されました。
4人は単に気絶していただけで、特に怪我をしているわけではなかったようです。
こんな出来事があってから、永遠亭のウサギたちは夜更かしをすることをしなくなったそうな。
この話を聞いたあなた……夜更かしをしていませんか?
もしかすると、トイレに行く時に背後から声を掛けられるかもしれませんよ?
「ねないこ、だぁれだ?」なんて。



「はい、これで私の話はおしまい」

私が話し終えると、幽々子さんは「なかなか怖いわねー」なんて言ってくれた。
ほんとに怖がってるのか謎だけれども。
で、例の二人は……

「よ、夜更かし怖い……」
「と、トイレに行けませんよ……」

おぉ、怖がってる怖がってる。
二人とも抱き合いながらぶるぶる振るえてるわね。
ちなみにトイレの前で二人のウサギが襲われるシーンのセリフを感情込めて言ったら、
二人とも面白いくらいに「ビクッ」って震えてくれたわ。
それにしてもこの話、私が考えた作り話なんだけど、ここまで怖がられたのは予想外。
私って意外とセンスある!?

「それじゃ、私も怖い話をしましょうかね。
 三人とも、心の準備はいいかしら?」

私はいいけど……あそこの二人が不安ね……
安心させるためには、私もあの輪に加わるべきかな。

「ほら、二人とも、おいでー」
「鈴仙さん、離れないでくださいね……?」
「れ、鈴仙さんがいれば何とか耐えられる気がします……」

これでよし、かな。
それにしても、こうやって二人を見ると、すごい可愛いわね。
ふふ、まるで小さい子供みたい。

「準備はいいようね。さ、始めるわよー」



これは昔、友人に聞いた話なんだけど……
人間の里に美味しいシューマイを売るお店があったらしいのね。
毎日売り切れてしまうほどに美味しかったみたい。
でも、一つだけ悪い噂があって、そのシューマイには……
人の肉、それも小さい子供の物が使われているって言うのよ。
まぁ、ただの噂だから本当かどうかはわからないけど。
そしてとある夜中。
ある男性が噂のシューマイを買いに来たのね。

「もう売り切れてるだろうなぁ。
 売り切れてたら我慢して、そこらへんのお店で適当なものでも買って帰ろう」

そう思いながら駄目元で店に行ったら、奇跡的に一人分のシューマイが残ってたのよ。
男は「やった! ツイてるなぁ!」なんて思いながら、そのシューマイを買ったのね。
お金を渡す瞬間、店主がニヤッと笑った気がしたんだけど、男はそこまで気にしなかったの。

「それにしてもツイてるなぁ。いつも売り切れなのに、一人分だけ残ってるなんて」

そう笑いながら、男は家に急ぐことにしたわ。
そして帰宅途中、彼は後ろから誰かがつけてくるような感じがしたらしいの。
だけど、振り返ってみても誰もいない。

「気のせいかな」

そう呟いた時、ぐぅとお腹が鳴ってしまった。

「家に着くまで我慢しようと思ったけど、一個くらい……」

空腹に耐え切れずに彼はシューマイの箱を開けて、一個食べようとしたんだけれど……

「あれ? 一個足りない」

箱にぎっしり詰まっているはずのシューマイが一個だけ足りないのよ。

「あのオヤジ、一個入れ忘れたんだな。今度文句言ってやる」

男は少し不機嫌になりながら、箱を閉じた。
やっぱり我慢しよう、って思ったみたいね。
しばらく道を歩いていると、やっぱり誰かに付けられている感じがしたの。
でも振り返ると誰もいない。
流石の男も気味が悪くなってきた。
それと同時に我慢していた食欲が戻ってきて、
やっぱり一個……と思った男はもう一回箱を開けてみたの。
すると……

「な……更に一個無くなってやがる!?」

男はびっくり仰天。
なんとさっき開けたときよりも更に一個減っているじゃありませんか!
消えたシューマイに謎の気配。
二つの怪奇に襲われた男は半狂乱になりながら、全速力で家に帰りました。
男は家の前に着いた時、もう一回シューマイを確認してみることにしました。
恐る恐る箱を開けてみると……

「な、なんで……!?」

今度は一気に半分のシューマイが消えているじゃありませんか!
男は腰を抜かしそうになりながらも家の中に入り、一息つくことにします。

「落ち着け……落ち着け……よし」

深呼吸をして、家の中でシューマイの箱を開ける男。

「うわぁああああああ!?」

男が叫んだのも無理はありません。
なんと箱の中には何にも無くなっていたのです!
もしや、本当に子供の肉が使われていて、それの呪いか何かか……!?
そう思った男でしたが……

ぼとっ。

そんな音とともに箱の中にシューマイが一個降ってきました。

「え?」

男がよーく、箱の蓋を見てみると……
シューマイは蓋の裏に全部くっついていたそうな。

「……」

それを見た男は開いた口がふさがらなかったんだとか。



「これで終わりよ」

幽々子さん……これって怪談に見せかけた有名な笑い話じゃないですか。
いや、まぁ、面白かったから別にいいけれど。

「ふふ、そこの二人もいい感じに怖さが取れたんじゃない?」
「え? ま、まぁ一応は……」
「ちょっとは気が楽になった、かもしれないです」

あぁ、なるほど。
二人の恐怖心を取り除くためにこんな話をしたのね。
流石は幽々子さん。

「さてと……もう遅いし、私は寝るわ。
 みんな、おやすみー」
「あ、お休みなさいませ」

従者である妖夢がいち早くそう返事を返す。
んー、私たちも寝たほうがいいかもね。

「幽々子さんも寝るみたいだし、私たちも寝ようか」
「そうですね。私もちょっと眠いです」
「あ、あのー……」
「ん? 何?」

妖夢がもじもじしながら声をかけてきた。

「鈴仙さん、怖くて一人じゃ行けないので……
 一緒にトイレに行ってもらえませんか?」
「あ、私もお願いしていいですか?
 怖い話を聞いてたら一人で行けなくなっちゃって……」

恥ずかしがりながら、そう言ってくる二人。
す、すんごく可愛い……!
二人のお願い、断るわけにはいかないでしょ!

「ええ、大丈夫よ。三人で行けば怖いものなんて無いわ!」
「流石は鈴仙さん! 頼もしいです!」
「えへへ、そうかな?」

妖夢にそう言われて、ちょっぴり嬉しい。

「さ、行くわよー」
「ぜ、絶対に離れないでくださいね……?」
「そっちこそ離れないでよ?」
「は、離れません! 絶対に!」

こうして寝る前にみんなでトイレに行くことになったのでした。
……なんか私、両手に花って状態だなぁ。
こういうのも悪くないかも。



「終わったわよー」

妖夢、早苗の順にトイレを済ませ、最後に私がトイレを済ませる。
「ちょっと待っててね」なんて言ったら、二人とも「早く帰ってきてくださいね!」なんて少し怯えてたけれども。

「大丈夫だった?」
「な、なんとか……妖夢さんがいてくれましたから」
「私も早苗さんがいたから、何とか耐えることができましたよ」

お互いに手を握りながら笑っている。
それにしても仲が良いわね。

「二人とも、仲が良いわね」
「そ、そうですか?」
「やっぱり怖い物嫌いな人同士で気が合うんですかね……?」
「あ、それかも」

うん、そうに違いない。
お互いに共通するところがあると、親近感を覚えちゃうし。

「仲が良さそうで羨ましいわ。
 それじゃ、寝室に行きましょうか。
 仲良し二人組、ちゃんとついてこないと置いてくわよ?」
「そ、それだけは勘弁を……」
「ふふ、冗談よ。三人で仲良く行きましょ」

こうして寝室に向かう私たち。
寝室に着くまで、二人は私の腕を強く握って離そうとしなかった。
ほんと、二人は怖がりよね。
ま、怖いものが嫌いなのは分からなくもないけどさ。



「……どうしてこうなった」

寝室に着いた私は、そう漏らしてしまった。
目の前にあるのは……一枚の布団。
えーと、私たちって三人よね。
なのに大きい布団が一枚だけ?
これって私たち三人、一枚の布団で寝ろってこと?

「えと、これってどういうことなんでしょう」
「知らないわよ……妖夢、これどういうこと?」
「わ、私も知りません……
 ただ、珍しく幽々子様が『布団は私が引いておくからー』なんて言ってましたけど」
「幽々子さんの仕業か……」

どうやら、幽々子さんが意図的にこういう状態にしたっぽい。
うーん、新しく引きなおす?
でも、三人で一枚の布団に寝るのも悪くはないわね。

「二人とも、どうする?
 このまま寝るか、新しく布団を引きなおすか……」

ま、二人の答えは大体予想できるけど。

「私はこのままがいいです。だって、二人と一緒に寝れるわけですし……」
「私もこのままで。こういうの、嫌いじゃないですしね」

やっぱりこういう答えになったわね。
でも、私も嫌いじゃないわ。
というわけで。

「それじゃ、一枚の布団で寝ましょうか」

二人は嬉しそうに頷いた。
そうと決まれば早速布団の中に……
ん、結構大きいわね、この布団。
これなら三人で十分寝れるわ。

「それじゃあ、失礼しまーす」
「私も失礼しますね」

二人はそれぞれ、私の隣に潜り込んだ。
つまり、私は二人に挟まれる形になったわけで。

「鈴仙さんさえいれば怖いもの無しですね」
「たとえお化けが出てきても、鈴仙さんさえいれば耐えられますよ」
「そ、そうかしら?」

なんか二人にものすごく信頼されてるんだけど。
まぁ、お化けなんて出るわけ無いし、別にいいか。
幽霊ならその辺にたくさんいるけど。
というか、お化けと幽霊の違いってあんまりないような……
幽霊は妖夢の半霊みたいなやつ、お化けは怪談に出てくるようなやつっていう認識でいいのかしら。

「妖夢は幽霊と接したりしてる上、自分自身が半分幽霊なのにお化けが苦手なのよね」
「そういえば……なんでですか?」
「だ、だって、幽霊とお化けは違いますし……
 怪談とかそういうのに出てくるお化けは怖いから嫌いなんです!」

ふーん。
ま、幽霊は怖くなくても、お化けが怖いのは分かるわ。
本物の幽霊を見たら誰だってそう思うだろうし。
あっちはそこらへんをふよふよ漂ってるだけだしね。
悪さもしないし。

「わかりますねー。私もお化けは怖いから大嫌いです。
 昔は一人でトイレにも行けなかったんですよ……
 こっちの幽霊は危害も加えないし、見てて癒されるんですよね」

癒される……うーん、分からなくもない、かな?
魚なんかを鑑賞するのに近い気もするかも。

「だけど幽霊の管理はするのは大変なんですよ……
 よくどこかに行っちゃったりしますから」
「妖夢も苦労してるわねぇ……」

ひょっとすると、私以上に苦労してるんじゃないかしら。
仕事も多いしね。

「でも結構楽しいんですよ。
 そりゃ、きつい時もありますけど」
「妖夢さんは働き者ですね。尊敬しちゃいますよ」
「えへへ……」

早苗の言葉に照れる妖夢。
うん、確かに尊敬できるわ。

「話は変わるんだけど……早苗ってかなり大きいわよね。胸が」
「えっ?」
「腕に密着してるんだけど……かなり大きいのがわかるわ」

さっきから抱きつかれて思ってたんだけど、かなり大きい。
下手すると私よりも……?

「そんな、鈴仙さんのほうが……」
「そ、そうかしら?」

そんな会話をしていると、隣からため息が。

「どうせ、私なんか……」

あ、妖夢が落ち込んでる。
妖夢も無いわけじゃないんだけど……うん、そこまで大きいわけでもないのよね。

「よ、妖夢も結構あるほうじゃない!」
「そうですよ! 落ち込む必要はないですって!」

二人で妖夢のフォローに回る。

「わ、私は妖夢はちょうどいい大きさで可愛いと思うけどなぁ」
「そうですか……?」
「それに、胸の大きさで全てが決まるわけじゃないですよ。
 妖夢さんは他にも魅力的なところがあるじゃないですか!」
「ええ、早苗の言うとおり!」

必死でフォローする私たち。
すると、妖夢はえへへ、と笑ってくれた。
ふぅ、なんとか元気出してくれたわね。

「お二人とも……ありがとうございます。
 そこまで言われると、嬉しくなっちゃいます」

大きい早苗の胸と程よい大きさの妖夢の胸が腕に……
うーん、ニヤニヤが止まらないわね。
男だけじゃなくて、女もニヤニヤしちゃうわよ、この状況は。

「あれ、何ニヤニヤしてるんですか?」
「あ、いや、な、何でもないわ」

妖夢にいきなりそう聞かれ、しどろもどろになってしまう。
それを早苗が見逃すはずもなく……

「あ、もしかして鈴仙さん……
 私たちが胸を押し付けているからニヤニヤしてたんじゃ?」
「うっ……」
「あー、図星ですね!?」

……正直に言うわ。
図星です。

「そ、そうなんですか?」
「……」
「言い返せないということは、大正解みたいですね」

ニヤニヤと笑いながら私の顔を見つめる早苗。

「ほらほら、鈴仙さん、これでどうですかー?
 ほら、妖夢さんもご一緒に!」
「わ、私もですか!?」

二人が更に胸を強く押し付けてきた。
嬉しくないわけではないんだけど……なんか頭にくるわね。

「もっとして欲しいですか?
 おねだりしてくれたらもっとすごいことをしてあげてもいいんですよー?」

そこで堪忍袋の緒が切れた。
普段温厚な私でも怒ることはあるのよ……?

「さーなーえー、ちょっと調子乗りすぎじゃないかしらー……?」
「れ、鈴仙さん?」
「あ、あのー、鈴仙さん? もしかして怒ってます?」
「怒ってるに決まってるじゃないのー!」
「みゃあああああ!? こめかみをグリグリするのは勘弁してぇええええ!」

早苗のこめかみに拳を当てて、思いっきりグリグリとする。
こうかはばつぐんだ!
部屋に絶叫が響き渡った。
幸い周りには民家も無いし、迷惑もかからないわね。

「これで私を怒らせるとどうなるか思い知ったかしら!?」
「わ、わかりましたから……痛い痛いー!」
「れ、鈴仙さん、落ち着いてくださいよぉー!
 早苗さんも反省してますから!」

結局妖夢に止められる頃には、早苗はぐったりとしてしまっていたのでした。
こめかみを押さえながら悶える早苗を見て「やりすぎたかな?」とか思っちゃったけれども。

「うぅ、まだ痛いです……」
「全く、人をからかうのも大概にしておきなさいよね?」
「わ、わかりましたー……」
「わかってくれたら良し……ごめんね。ちょっとやりすぎちゃったわ」

まだ涙目になっている早苗を優しく抱きしめる。
たまに悪ノリはするけど、それでもいい子なのよね。

「うぅ、鈴仙さん……」
「よしよし。さ、遅くなっちゃったし、そろそろ寝ましょ」
「あ、確かに寝たほうがいいですね。もう夜も遅いですし」

妖夢がそう言ったので、からかうように私はこう言ってみる。

「早く寝ないと、さっき話してたお化けが来るわよー?」
「い、言わないでくださいよー! せっかく忘れかけてたのに!」

妖夢はさっきの話を思い出したらしく、私にしがみついてくる。
早苗も同じようにしがみついてきた。
ほんと怖がりよねぇ。
ま、そんなところも可愛いんだけど。

「ごめんごめん。もしお化けが来たら私が守ってあげるから安心しなさいよ」
「ほ、本当ですか?」
「信じますからね!」
「ええ、二人とも守ってあげるわ」

流石にお化けなんて来るはずないでしょうけれども。

「さ、それじゃ二人とも、寝るわよ」
「あ、はい……うぅ、もし来たらどうしよう……」
「は、離れないでくださいね?」
「離れないわよ」
「気がついたらいなくなっていた……っていうのも無しですからね!」
「いなくならないって」

苦笑しながら二人に返事をする。
あぁ、本当にこの二人って可愛いなぁ。
さーて、それじゃあ寝よっと……
おやすみなさい。



「ん……」

あら、目が覚めちゃったわ。
いつもなら夜中に起きることなんて滅多に無いのになぁ。
うーん、お泊りの興奮とか緊張のせいかな?
とりあえず、もう一回寝なおそうっと。
……それにしても、二人の寝顔、可愛いわ。
それはもう、悪戯しちゃいたいくらいに。

「ちょっとくらいなら起きないだろうし……」

そう呟いて、指を妖夢の頬に向かって伸ばした時……

ギィ

……あれ?
今何か音がしたような。
気のせいかな?

ギィ

気のせいだと思ったけど、やっぱり聞こえた。
これは……廊下の床板が軋む音、かな。
つまり、誰かが外を歩いてるっぽい。
音の変化からして、こっちに向かってきてるみたいだけれど。

「幽々子さんかしら……」

トイレにでも……いや、ちょっと待ってよ。
トイレは足音の進行方向の反対側にあるのよ。
つまり、こっちに来ても特に何にも無い。
……私たちが寝ている部屋を除いて。
まさか本当に……いや、それだけは考えたくないわ。
流石の私もちょっと怖くなってきた……
とりあえず、二人を起こそう。

「妖夢、早苗、起きてちょうだい」
「うーん、なんですかぁ、まだ朝じゃないですよぉ……」
「何かあったんですか……」

二人は目を擦りながら、のろのろと起き上がった。

「静かにしてて……」

ギィ

さっきよりも大きく音が聞こえた。
この音を聞いた二人はもちろんびっくり仰天。

「え、ま、まさか本当にお化けとか……」
「ゆ、幽々子様ですよね、そうですよね……?」
「わからないわ……もしかすると本当に……」

そう告げると、二人の顔色が変わる。
そして、私に強く抱きついてきた。

「こ、怖いです……」
「だ、大丈夫ですよ……三人でいれば……」

正直言って、私もかなり怖くなってきた。

「とりあえず、様子を見ましょ。声を出さないで静かにしてて」

二人が頷くのを見届けてから、障子の方に目をやった。
音はどんどん近づいてくる。
もうそろそろで私たちの部屋の前ね……

「き、来ますよ……」

早苗がそう呟いた時、障子に黒い影が映った。
やや猫背になった女性の影だ。
影の形で女だということはなんとなくわかる。

「……!」

二人は息を呑みながら、私に強く抱きついてきた。
お願い、そのまま行って……
そう祈っていたのだけれど、なんと影は私たちの部屋の前でぴたりと止まったのだ!

「あ、あわわ……」

早苗はそんな声を漏らす。
た、ただ止まっただけよね……
しかし、そんな私の考えを打ち消すように、障子がゆっくりと開いた!
この部屋に、入ってくるつもりなんだ……!
ぎゅっと目を閉じようとしても、体が動いてくれない。
次の瞬間、私の目に飛び込んできたものは……

「こんばんはー」
「……はい?」

微笑む幽々子さんの姿だった。

「ふふふ、わざと怖い感じにしてみたけど、どうだったかしら?」
「な、なんだぁ……幽々子様だったんですか……」
「脅かさないでくださいよ……」

二人は安堵と呆れの混じったため息をついた。
ふぅ、まったくね。
こっちはものすごい怯えていたっていうのに。

「それはそうと、せっかくだし、一緒に寝ない?」
「え? それはいいですけれど……ね、二人とも?」
「私は大丈夫ですよ」
「四人で寝たほうが楽しいですしね」

やっぱり二人とも大丈夫って言ったわね。

「ありがと。それじゃ、私も布団を引いて……」

今私たちが寝ている布団は、もう定員オーバー。
幽々子さんは新しく布団を引くしかないわけで。
そして部屋の隅に積んであった布団を私たちの横に引く幽々子さん。
これで四人で寝る準備ができたわね。

「さーて、布団も敷いたし、寝ようかしら」
「あ、はい。おやすみなさい」

全く、人騒がせにもほどがあるわよね。
怒ってはいないけどさ。
さて、私たちも寝なおすことにしようっと。

「それじゃ、私たちも……」

そこまで言いかけたとき、幽々子さんが閉めたはずの障子が開いていることに気がついた。
えと、幽々子さんはちゃんと閉めたはずよね?
うーん、閉めたっていうのは気のせいだったのかな?
閉めようとして、立ち上がった時……

「ひえっ!?」
「ど、どうしまし……えっ!?」

開いた障子の間にぼうっと背中まで髪を伸ばして、着物を着た女性の姿が……
その女性は私たちのほうを静かに見つめたあと、消えてしまった。
……今のは間違いないよね。

「ね、ねぇ、見た、今の?」
「み、見ました……あれって、あれですよね」
「ゆ、ゆ、幽霊、ですよ、間違いなく……」

ぶるぶる震える私たちに対して……

「あら、珍しいわね、亡霊なんて。
 何かしら未練でもあったのかしら」

なんてことをさらりと言っている幽々子さん。

「み、未練って例えば……?」
「んー、復讐したい人がいる、とか?」

早苗の言葉にそう返す幽々子さん。
さらりと怖いこと言わないで欲しいんですが。
ほら、二人が震えてるじゃないですか。

「ま、今のは冗談だけど……そこまで深く考えないでいいわよ。
 あの亡霊は悪さなんてしないわ。一目見て、敵意はないって分かったから」
「本当ですか?」
「ええ。本当よ」

なんか嘘っぽいわね……
幽々子さんの発言で落ち着いた感じの妖夢が口を開く。

「んー、幽々子様がそう言うならそうなんでしょう。
 幽々子様はそういうことに敏感ですから」
「つまり霊感があるってこと?」

そう言うと、早苗が突っ込んできた。

「でも幽々子さんの場合は霊感があるというより……亡霊そのものですよね」
「確かに……」

言われてみれば、この人亡霊じゃん!

「よくああいうのと話したりもするしねー」

やっぱり亡霊同士で話したりするんだ……
どういう話するのかしら。

「いったいどういう話するんですか?」

ちょうどいいタイミングで、早苗が私の聞きたいことを聞いてくれた。

「世間話をしたりかしら。あ、悪い霊にはお説教したりもするわよ。
 ほとんどの霊はそれで改心してくれるわね」
「……もし改心してくれなかったら?」
「その時は……問答無用で成仏させるわよ☆」

幽々子さんは語尾に☆が見えるくらいの笑顔で怖いことを言った。
この人、意外と怖いところあるわよね……
普段が天然、というかほんわかしてるからあまり気がつかないけど。

「こ、怖いですね……」
「そうかしら?」
「幽々子様は意外と怖いですからね……」
「あら、妖夢までそんなこと言うの?」

苦笑する幽々子さん。
こうして見ると怖くはないんだけどなぁ。
むしろ可愛いとかそんな感じかしら?

「ま、別にいいわ。そんなことより寝ましょ。
 朝に起きられなくなるわよ」
「あ、そうですね。おやすみなさい」
「おやすみー」

幽々子さんは一足先にごろんと横になって、寝てしまった。
って、寝付くの早っ。
寝転んで数分も経たないうちに寝てるんだけど、この人。

「私たちも寝ましょうか」

早苗がそう提案してきた。
うん、そろそろ寝たほうがいいわね。

「ええ、そうしましょうか」
「それにしても……鈴仙さんも意外と怖がりだったんですね」

妖夢が突如そんなことを言ってくる。
わ、私だってあんなものが出てきたら怖いって思うわよ!

「だって、怖いものは怖いじゃない……」
「怖がる鈴仙さんもなかなか良かったですよー」
「ええ、妖夢さんの言うとおり。怖がる鈴仙さんも可愛かったです」
「も、もう! からかうのはやめてよ!」

嬉しさやら恥ずかしさで顔が真っ赤になるのが自分でも分かった。
あー、恥ずかし……

「あはは、鈴仙さんの顔、真っ赤ですよ!」
「あ、ほんとだー」
「は、早く寝るわよ!」

これ以上二人にからかわれたらどうなるかわからないわ。
うん、早く寝よう。

「はーい、おやすみなさい」
「また朝に会いましょうね」

そう言って交互におやすみのキスをしてくる二人。

「はい、おやすみ」

……ふぅ、やっと寝てくれたわね。
さてと、二人とも寝てくれたし、私も寝ようっと。

「それにしても今日は色々なことがあったわねぇ」

みんなでコスプレしたり、怪談したり、本物のお化けが出たり……
うぅ、最後のやつだけは思い出したくないわ……寝れなくなっちゃう。

「ん……? えっ!?」

天井を見ていると、ぼうっとさっきの女性が現れた!
死ぬほど驚いたのは言うまでもない。
なにしろ、いきなり幽霊が現れたんだから。
……あれ、でもこの人、よく見ると綺麗。
それに、危害を加えようとする感じもしないし。
長い髪に星のヘアピンをつけているのが見えるわ。
見とれていると、彼女は微笑みながら私に話しかけてきた。

「皆仲が良くて羨ましいわ。
 前からあなたたちのことを遠くから見てたけど、我慢できなくなって出てきちゃった」

ペロリ、と舌を出して笑う彼女。

「え? 一体どういう……」
「私も死ぬ前には仲のいい友達がたくさんいたんだけど、あなたたちを見てると思い出しちゃってね……
 だから側にずっといたの。あなたたちと仲良くなりたかったし……」

彼女は恥ずかしそうにそう呟いた。

「あ、お友達は大事にしてね? それじゃ、今日はこれで帰ることにするわ。
 またあなたたちの前に来るかもしれないけど、その時は……驚かないでくれると嬉しいな」

そこまで言うと、笑いながら彼女は消えてしまった。



「鈴仙さん、朝ですよ?」
「ん……」

目を開けると、目の前には妖夢の顔。
もう朝になったみたい。

「もう朝食ができてますよ?
 それにしても鈴仙さんが一番遅く起きるなんて珍しいですね。
 なんか悪い夢でも見ました?」
「悪い夢……」

そうだ。昨日見たあれは夢だったのかしら。
気がついたら朝だったし……
うーん、訳がわからないわ。

「とりあえず先に行ってますよー」

そう言って、部屋から出て行く妖夢。
彼女の後ろ姿を見届けると、手の中に何かがあるのに気がついた。

「これは……あの人のヘアピン?」

星の飾りが付いたヘアピン。
このヘアピンは、昨日見たあの人が付けていた物に間違いない。
夢、じゃなかったのね。

「私のこと、忘れないでね?」

そんな声が耳元で聞こえた気がした。
とっさに振り返っても、誰もいない。
だけど、見えないだけで確実にいるはず。

「……ええ、たまには遊びに来てちょうだいね。
 みんなで歓迎してあげるから」

あの人に聞こえるようにそう呟いてから、みんなが待っている居間へと向かう。

「みんなー、ちょっと聞いてよ! 実は昨日ね……」

お化けも悪いものばかりじゃないわね。
こういうお化けだったら大歓迎、かも。
こんにちは。
今回は夏、ということで怪談を盛り込んでみました。
あまり怖くはないですけどね^^;
途中にあったコスプレシーンは……
あの二人ならこういう話で盛り上がるに違いないと思って書きましたw

さて、皆さんはお化けは嫌いでしょうか。
逆に好き……って人もいるのでしょうか。
ちなみに自分は大嫌いだったりします。
最後に登場する幽霊は、そんな自分が「こんな幽霊がいたらなあ」と想像して書いたものです。
幻想郷ですから、こんな幽霊がいても不思議ではありませんよね。
もしかすると、現実世界にもこんな幽霊は意外といるかも……

最後になりましたが、今回も作品を読んでいただきありがとうございました。
次回も楽しみにしていただけると、ありがたいです。
それではまた近いうちに会いましょう!
双角
http://twitter.com/soukaku118
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コメント



0.1200簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
こんな感じの幽霊なら大歓迎
5.100名前が無い程度の能力削除
最後の亡霊さんはさだこさん(萌貞子)で想像余裕でした
コスプレアルバムよこせぇぇぇーー!!
7.100月宮 あゆ削除
うぐー怖い話はむりだよ
本当に最後のシーン怖かったけど、こんな幽霊なら幻想郷にいそうですね

怪談に怖がる早苗さん、妖夢かわいすぎます
コスプレアルバムは非売品ですか?
10.100tukai削除
女三人寄ればなんとやら。
四人目と五人目も可愛いです。
14.90終焉皇帝オワタ削除
一瞬亡霊はぐーやかと思った
それはさておき写真集をよこせ!
15.100名前が無い程度の能力削除
(あたしゃここにいるよ…)


「あれ?幻聴が…」
30.無評価双角削除
コメントありがとうございます。

某映画の貞子を想像した人がいるようですねw
あの人って実はふたn(このコメントは削除されました)
いや、なんでもないです。
やっぱりこんな幽霊なら大歓迎って人は多いですねー。
こんな幽霊が出てきてくれないものか・・・
ちなみに彼女たちのコスプレアルバムは・・・天狗がぼったくり価格で販売すると思いますw

この先も機会があれば、この三人組の物語を書いていきたいですね。
これからもよろしくお願いします!