※SS処女作ですので注意
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夏は終わりを迎え、秋が訪れようとしている。
まとわりつくような不快な熱気は幾分かやわらいで、陽が落ちれば、命蓮寺を涼しい風が吹き抜ける。
そろそろ、衣替えの時期も近づいてきている。秋服はどこにしまっただろうか・・・・・・
外からは虫の声が聞こえてくる。
それはとても賑やかだが、うるさくはなかった。
命蓮寺では、いつも皆一緒に風呂に入るのが習慣になっている。
一番に風呂から上がった私は、ただ一人この部屋でぼうっとしながらこの賑やかな静寂を満喫していた。
「あー、いいお湯でした。あらナズーリン、そんなところで黄昏ちゃって、どうしたのです?」
黄昏てなどいない、私は至福の静寂を満喫していたのだよ・・・・・・つい今さっきまで。
安らぎの静寂を破ったのは毘沙門天の代理、私のご主人であった。
私を見下ろす形で立つご主人は、風呂から上がったばかりなのであろう
服もろくに着ず、床にしずくが垂れていることから体もきちんと拭いていないことが伺える。
なんとも、だらしがない恰好である。
もう辺りもすっかり暗くなっているので、そのままだと体を冷やしそうだ。
「ご主人、そんな恰好で大丈夫かい?」
「大丈夫、問題ないですよ。この時間なら人は来ないでしょうし、皆に見られても今更恥ずかしいとは思いません」
伝えたかったこととずれている気がする。しかもなんで誇らしげにしているんだ・・・・・・
あきれたので、わざと冷めた視線を送ってみるが、ご主人は相変わらずとぼけた顔である。
なんとも能天気な人だ。
それから再び沈黙が訪れたが、それを破ったのはまたしてもご主人だった。
大きなあくびをしたのである。
少しの間、気まずいのと気恥ずかしいのが混ざった時間が流れた。
視線を泳がせていたご主人が、先に口を開いた。
「私は今日は沢山働きました、とても疲れています」
それはお疲れ様、私は相槌を打った。
今日のご主人は、里まで行って布教活動を行っていたのを私は知っている。
こんなだらしないご主人でも布教活動はとても熱心に取り組んでいるので
やはり一日の疲れが溜まっていたのであろう。
私が頷いたのを見ると、ご主人は満足したようにとてもいい笑顔で
「だから、私はもう寝ます。朝まで起こさないで下さいね」
と言うと、フラフラと奥の部屋へ吸い込まれ
襖を音を立てて閉めると、それっきり動く気配は感じられなくなった。
再び賑やかさと静寂が戻ってきた。
私だけが一人、残されていた。
そして一晩明け、次の朝を迎えた。
結局ご主人はあのまま熟睡してしまった。
あの性格であるから、今もほとんど裸の状態で布団に包まっているのだろう。
ご主人は朝に弱い。
だから、そのねぼすけを叩き起こすのが、私の一日で最初の仕事である。
部屋に入ると、案の定ご主人は布団をすっぽりと頭までかぶって、なんとも間抜けな寝息を立てていた。
本当に、だらしがない人である。
今日は素直に起きてくれるだろうか。
「ご主人、朝だ。朝食の準備も整っている、いい加減起きてくれないか」
私は布団をゆすった。
丸く膨らんだ布団から、あーとかうーとかうめき声が聴こえ
しばらくすると芋虫のように布団からご主人の頭が這い出てきた。
そしてそれを見て、私はぎょっとした。
「あー・・・・・・あ、ナズーリン、お早うございます。くんくん、なんだかいい匂いがしますね。朝ごはんはなんでしょう」
まだ寝ぼけたままのご主人はのそりと立ち上がると、部屋を出ようと襖へ向かった。
そして私は、ご主人の名誉の為、それを阻止せねばならなかった。
「ご主人、その恰好はまずい、せめて鏡をみてくれ」
言われてご主人はこちらを振り向いた。寝ぼけたままの、まぬけな笑顔を見せた。
「ナズーリンは心配性ですね~、それともやきもちでしょうか~。聖は怒りますけど、別に女同士ですし、恥ずかしくないですってばぁ~」
今ご主人は、ほとんど服を着ていない。
確かにそれも問題だが、今言いたいのはそれでは無かった。
とにかくご主人がこのままの姿を皆に晒してしまえば
ご主人の自尊心に深い傷を負わせてしまうだろう。
それだけは、避けなければならない。
そんな私の強い思いが伝わったか、ご主人は不思議そうな表情でこちらを見ていた。
しばらく、緊張した雰囲気が流れる。
・・・・・・が、やはりこのとぼけた主が均衡を崩した。
ご主人のはらが、ぐうと大きな音を立てて鳴ったのだ。
「ナズーリン、私はお腹がすきました」
「ああ、そうかもれない、でも」
「お腹がすいたのに、何故ナズーリンは私を引き止めるのですか? 私は、お腹がすいているのです」
私は言葉に詰まってしまった。
ご主人が空腹を覚えると苛立ち始めるのを、私は過去の経験から知っていた。
そしてその苛立ちがピークに達したご主人はとても凶暴で、手がつけられなくなることも知っていた。
つまり、これ以上引き止めれば、ご主人の怒りの矛先は間違いなく私に向かうのである。
先ほどまで寝ぼけていたのとは打って変わって、ご主人は息を荒げている。
このままでは私の身が危険である。
しかしこのまま行かせれば、ご主人は確実に笑いものになるであろう。
もしかしたら、噂が広まって天狗が新聞の記事にするかもしれない。
それくらい、すさまじい恰好をしていた。
私は決断を迫られていた。
自分か、ご主人か。一体守るべきはどちらか。
額を汗が伝う、その瞬間だった。襖の向こうから、声がした。
「ちょっと二人ともー、ご飯冷めちゃうわよー」
一瞬の出来事だった。
床を蹴ったご主人は一気に距離を詰めて私を押し倒し、鋭い牙を見せた。
それは、完全に飢えた獣の動きだった。鋭い殺気が、私を捉えていた。
私は敗北した。
私は、諦めざるを得なかった。私はご主人の名誉を守れなかった。
しかし結局、一番大事なのは自分の命である。
ご主人には、申し訳ない気持ちでいっぱいである。
私は、決して罪を償うようなわけではないが、襖に手をかけ、まさにそれを開けようとするご主人に言った。
「ご主人、そんな恰好で大丈夫か」
「大丈夫です、問題ありません」
それから間もなくして、命蓮寺に笑い声がこだました。
その醜態を晒したご主人は、悲鳴をあげ、しばらく寝込んだ。
濡れた髪も乾かさず、布団にくるまって寝返りを打ったご主人の頭は
見事に“爆発”していたからであった。
エルシャダイはよく知らないのですが、なかなかに良い日常ほのぼのでした。
というかナズ、教えてあげなさいよw
文章技術という点で見ると、
まず日本語文の基本的ルールとして文の末尾には「~~~。」と句点を必ず付けましょう。
それから・・・ではなく……(三点リーダ)を使いましょう。
次回作に期待しています。
としているサイトを見つけたので、句点は無くてもいいみたいです。(僕は使ってません)
まぁ使っている人もいますが……どうなんでしょうかw
一回「SSの書き方」とかで検索してみるといいかもしれません。
作品自体は短いながら起承転結がしっかりしており、まとまりがあってよかったと思います。