※この作品には神霊廟本編に出てくるキャラクターが登場します。
ネタバレおっけー(*'-')b もしくは、もうクリアしたよー(*'-')b という方のみお進みください。
夜汽車に揺られ、旅路を行く。窓の外には真っ黒な風景。目指すは遠野。そこは戦場か、はたまた……。
「……いかんいかん」
夜というものは、ただそれだけで気分を落ち込ませる魔力がある。
「これでも、結構な妖怪のはずなんだけどのぅ」
二ツ岩マミゾウは思わず苦笑した。
マミゾウは現在、遠野に向かって、一人夜の列車旅の中に身を置いている。その理由は、友の窮地を救うため。
「まさか、あのぬえがのぅ」
久方ぶりに旧知がやってきたと思ったら、涙ながらに助けてくれと懇願である。話を聞くと、恩のある聖女史の敵対勢力が復活した。その手助けをすべく、力を集めているとのこと。
故郷を離れるのはつらい。仲の良い人間との別れ、争いも好きではない。しかし、義を見てせざるは勇無きなり。儂は幻想郷へ行くことを決意した。
敵は、強大らしい。
「儂は……死ぬかもしれんのぅ」
思わず弱音が漏れる。
言って、はっとする。ここは日本。死と隣り合わせの昔とは違う。
幸い、その言葉を聞く者はいなかった。
深夜の強行軍である。列車には人は疎らであったし、線路を走る音が上手いこと掻き消してくれた。
「やれやれ……」
こんなことではいけない。
マミゾウはふるふると軽く頭を振った。きっとお腹がすいているんじゃ。そんな言い訳を心に浮かべて。
「腹が減っては戦はできんからのぅ」
――戦。
口にして後悔する。が、深く考えないことにした。
「いただきます」
駅で買ったお弁当の封を開ける。
視界に飛び込んできたのは、色とりどりの食材。鮭やいくら、玉子にほうれん草。色彩豊か、それでいて地域ならではの新鮮なおかずが食欲をそそる。
肉だんごに箸を伸ばす。掴むと、とろりとタレが滴ってご飯の上に落ちる。口に入れると甘辛でとろみのあるタレが口いっぱいにひろがる。やわらかく、けれど中に入っている軟骨がアクセントになっていて噛むのが愉しくなる一口だ。冷めてもおいしく食べられるよう、少し濃いめの味付けになっていてご飯が進む。鮭の切り身に箸を入れると、さほど手ごたえを感じずに身がほぐれる。食欲をそそる薄紅色のそれは、車内の弱い光を浴びて煌めいている。食べるまでもなく脂が乗っていることがわかった。食す。こちらは素材の味を活かすため、薄味のようだ。薄味なのだが、噛めば噛むほどに塩味が、じわりとひろがる脂と絡まって見事な味わいを演出している。ご飯を掻き込む。小休止である。出汁巻き玉子を掴む。少し力を入れれば崩れてしまいそうに繊細な作りをしたそれは、口に含んだ瞬間にふっくらとした、優しい出汁の味が広がり、喉の奥に溶けていった。ご飯の半分には、ほぐされたかす漬けの鮭と、錦糸玉子が乗せられている。二つを合わせてご飯を食べると、少ししょっぱめの鮭と錦糸玉子の甘い味わいが互いに互いを助け合い、一つの味わいと昇華している。辛味と甘味を掛け合わせるのは、日本が誇る食の技と言えよう。唐揚げもよく下味がつけられていて、やわらかくおいしかった。……少しご飯が余ってしまったが、ここでいくらの出番だろう。むしろ、いくらでご飯を食べることを想定して、おかずは少なめに設定したと見える。まぁ、いくら単体で食べるわけはないしのぅ。少々行儀は悪いが、お弁当箱を持ち上げて、ご飯といくらを掻き込む。いくらは箸では掴めないのだ。ぷちぷちと弾力のあるいくらを噛むたびに、中からじわりと塩っけの強い味わいがひろがり、それがまたご飯と合う。最後に、端っこにちょこんと乗ったサクランボを食べ、食事を終える。
ふう、と一息つき、お茶を啜る。
「ごちそうさま」
口元を拭い、片付ける。
「最後の晩餐だったかのぅ。いや、もう一食くらいはできるといいんじゃが」
膨れたお腹を、ぽんぽん、と叩く。ぷふぅ、と口から息が漏れた。マミゾウは顔を紅くして周りを確認する。どうやら誰も聞いてはいなかったようだ。
マミゾウは、静かに目を閉じた。
――願わくば、この目が次に開いた時は、これは全て夢で、本当は争いなどなく、みんなでおいしいものを食べていられる世界だったならば、儂はすごく幸せなのじゃが……。
そんなことを想いつつ、マミゾウの意識は沈んでいった。
平和を願う、一匹の狸の想いは、果たして届くのだろうか……。
それがあのざまである。
遠からず、東方界隈がマミゾウさんで溢れ返りますように
面白かったですw
マミゾウさん流行れ。じゃんじゃん流行れ。
相変わらずの葉月飯で朝からお腹が空いてきました。
他の泉昌之作品の雰囲気も合いそうですな
それにしてもマミゾウさんは本当いいキャラだなあ
年を経た味わいあるマミゾウさんが大好きですね。
オニオンリングやってたら問答無用で10点入れてました
これはこの形がベストに思えます
この旅情感は良いですねぇ。
駅弁食べたいなぁ…
ありがとうございました!
>愚迂多良童子さん
だったりしますw
>7
マミゾウさんは妄想が止まりません!
これからどんどん書いていきたいと思います。
>8
きっと溢れかえりますよ。もし流行らなかったら、流行らせる。
>10
なんと嬉しい評価。ありがとうございました!
>11
一番乗りしたかったんですw
>12
ありがとうございます!
>14
静かな作品が合いそうなキャラクターですね。癒されますw
>22
私も好きです。同士!
>24
窓に映ったマミゾウさんの顔を廊下側から眺めていたいです。
>25
今佐渡にいってもマミゾウさんはいませんよ!w
>27
それやっちゃったら、オチがそっちに行っちゃうのでw
>28
自分では年寄りと思っていないところがまたキュートです。
>30
ありがとうございます。オニオンリングは入れようがありませんでしたw
>31
またの機会にでもっ。
>33
音の無い、静かなSSを感じていただけたのなら、嬉しいです。
>37
駅弁って、ロマンですよね……。
両津港12:40発(カーフェリーおおさど丸)新潟港15:10着、タクシーで新潟駅へ
新潟駅15:47発(上越新幹線Maxとき)大宮駅17:34着
大宮駅18:22発(東北新幹線やまびこ)新花巻駅20:54着
新花巻駅20:56発(釜石線)遠野駅21:50着
争いとかさっぱりなすてきな幻想郷へようこそウェルカムマミゾウさん。
おぉ、わざわざありがとうございます。
やっぱり結構かかるんですねー。
>51
あのざまで良かったです!
マミゾウさんがずっとずっと幸せでいられますように。
あの電車で旅をしながら食べる駅弁の美味しいことといったら。
スーパーかなんかでの駅弁フェアで買ってもあの美味しさにはならないんですよねえ。
タイトルとキャラを見たときオニオンリング=玉葱はイヌ科に厳しいオチかと思いました(笑)