2.
事実は小説より奇なり、本当、よく言ったものだ。
大体、小説になる材料がなければ小説そのものは書けない。言わば小説は材料をたくさん詰め込んだ一つの箱、ということになる。
存在しないものは箱には入らない。言い換えれば、事実の塊。
夢や、希望、理想なんて結局は『元』が無ければ考える動作に移るだってことには無理がある。0から1に進むには進むための手順(手を加えること)が必要と思えばいい。まとめると機械みたいなもの。
私の言いたいことはつまり。
事実は『材料』で小説は『過去の事実のまとめ』、ってことね。
私をどんな理由で解雇したかどうかは理解に苦しむけど、これだけは納得が行かない。
自分の一生をメイドとして主人に仕えると誓ったのは自分であり、それを心優しく決めたのは主人でもあるのだ。
毎日レミリアお嬢様の笑顔が見たかったのに、まさかこんなのでお別れになるなんて。
きっと何か原因があるはず。
と、咲夜が悩みに悩んでいた最中だった。
「………笑顔…?」
ふと、自分が喋ったこんな台詞を思い出した。
傍(はた)から見れば恥ずかしいほどこの上ない台詞だったとも見て取れるこの台詞。
何かが気に掛かった。
…ここ最近レミリアお嬢様の笑顔を見ていない。
とは言え、今はお嬢様と呼んで良いのかどうかすら怪しい立場。難しい。
普段はフラン様や、美鈴、パチュリー様の談話を聞いてはクスクスと楽しげに笑っていたというのだが。
思考しながら早歩き。向かうは紅魔館。
そして、私の唯一の居場所。
衣服はメイドのユニフォームのままだが、その上ににとりから貸してもらった光学迷彩を羽織っている。
まだ作動はさせてはいない。にとりによると、起動し続ければ次第に迷彩効果が薄くなるとのこと。しかし、静電気対応の小型蓄電池を内蔵しているらしく冬場に起動して止まらずに動いているとほぼ永久的に完璧な迷彩効果を維持できると言う。
止まらずに動き続けれるわけ無いでしょうに。
懐中時計を親指で押して開き、時間を見る。
昼過ぎだ。本当ならお嬢様の昼食の時間だった。
(通知を言い渡され、気絶したのは昨日の夕方頃。で、気がついたのは今日の朝頃…つまりこの間にお嬢様は何かをしていたと見て取れるし、私が丸一日ダウンしたと分かる)
メイドであった時は様々な人々が使った獣道を通ってあらゆる所に行き来していたが。こんな状況だ。森の中を通るしか方法は無い。
なぜなら、
(さっきから人の気配がする。気にし過ぎると道に迷ってしまうけど、にとりにもらったコレがある。でも妙ね、同じ気配が同じ道路を7回も行ったり来たりしている。普通ならこんな行動を取るのは、なにか企んでいる者しかいない)
太陽が直接地上に照りつける真昼の気温は異常に高い。直接日射光を遮ってくれる木々がありながらも結局はジメジメした湿気に変わって襲いかかってくる。
なかなか汗が出ず、体はベタついてイライラ。体温は上がり風邪になったかのような気だるさが思考能力に止めを刺そうとしてくる。
おまけに、ジャングル同然のこの場所に適している服装は普通、長袖長ズボンが常識。それをスカートで素足丸見えのメイドモードでガツガツと進んでいるんだから尚更おかしい。
そんな中、直接日光を浴びる開けた道を7回も往復するバカは一体何処の馬の骨だろうか。
だが、今はそれどころではない。
(あいつに見られているわ………)
メイドは主人に仕えるただの従者である。どこかの世紀末救世主だとか、ましてや超A級狙撃手でもない。あくまで、気配りが得意な『従者』である。いつどんな時でも主人よりも先に手を回し、もてなすのが従者の使命。遅延は恥ということ。
メイドであるが故に周りに気配りしすぎて他人まで気を遣う哀れな職業病がまさかこんなところで役に立つとは誰も思わなかった。
相手は確実にこちらのことを監視している見知らぬ人間だと判断した。
(しかも、尾行がかなり上手いようね……一体どこの人間かしら…わからないならちょっとばかりからかってみようかしらね)
相手もこちらの正体と位置を正確に把握していない。だが、にとりの装備を使ってこちらの位置を完璧に消して、迷惑な子犬にサプライズ。
幸い、武器であるナイフは───────
「え?」
手を左足太ももに巻いたホルスターに手を掛けると……
「なによ…これ…」
何か大きく、分厚い金属の塊に手が引っかかる。それはナイフ、ではなく、
「……鉄砲?」
にとりから貰ったテイザー銃、は右太もものホルスターにある。
が、これは少し違う。
大きさも一回り大きく、先の方は四角いが角が無い。しかも銃身は縦になっているが、親指の上にレバーの様な物があり、それを上げると、銃身が縦と横に回転する仕組みになっている。
しかも、銃把(グリップ)の中心には『偉大なるエンジニア、Isaac へ』と小さく削られていた。
「誰よ…」
しかし、エンジニア云々と言うことは、これは武器では無く工具なのであると言うこと。
「あの河童、私が気絶している間にナイフと工具を間違えたのね……」
むしろ、工具とナイフの重量の差に気がつかないのも変だがあの河童のことだ。特殊な素材でも使われて軽量化されているのだろうと納得した。
現に、銃本体のあちらこちらには、ニトリウム合金と印字されているのが見えた。どんな合金だ。
仕方なく木の裏に隠れ、どこに奴が居るのか確認する。
服をなるべく汚さないように、ゆっくりと距離を縮めていく。
(面倒ね、時間が惜しいのよ)
直後に森の木の影に隠れていたはずの咲夜が、一瞬にして消え去った。
ガッ!!
と腕で、強く離さないように迷惑な人間を後ろから拘束する。
本来のメイドは兵士でもなんでもない。家事が得意の一般人だ。だからもちろん戦ったり、心理戦を繰り広げるようなことはしない。それをするのはアニメか、漫画か。
アニメだとスカート履いたまま日本刀を振り回すのが一種の楽しみの要素だが、実戦では糞ほどに何の役にも立たない。まぁ、意表をつけるかもしれないが。
もし白兵戦での戦闘に遭遇した際、真っ先に思い浮かべるのは1対1の肉のぶつかり合い。
これを回避して相手をねじ伏せるには、こちらが優位な状況をアピールすることが何よりの方法。
先手を打って、後ろから不意打ち、そして、ハッタリかまして脅す。
「動かないでッ!!さぁ、力を抜きなさいッ!…動けばどうなるかしらッ!?今ここでクビが飛ぶわよッ!!」
右手で首を引きこむように締め、そのまましゃがみ込む。
これで相手を足で抵抗できなくさせると同時に、左手の工具で相手の後頭部を殴る。
次に、首に突きつけてさあ尋問やら何やらご自由にできる。
「クッソォッ!いつの間にッッ!?」
日差しが容赦無いこの場所で、咲夜は様々な可能性を見出した。
相手は男、身長は大体咲夜の頭一個分高い。
衣服は人里で普及している古臭いものと変わらず。
所持品はなし。だが、強く何かを握っていた手を殴り、放すと通信用の機械と思わしき道具が見つかる。
「これは…少しの間だけど、貸してもらうわね」
直ぐ様地面に転がった通信機を拾い上げて、没収。
男は殴られた痛みで、手も足も出ない。
痛みは最大の抑止力とはまさにそうだった。
さて、身体調査は終わりココからが本番。
尋問の時間だ。
ただ尋問するだけでは大体の気が強い者は話を逸らすか、嘘をついてその場をやり過ごす。
口が上手い奴はさっさと本音をぶちまけて自分が助かろうとする。さらに上手い奴は、終始嘘偽りの物語で尋問者を惑わす。
逆に中途半端に気が弱い奴は、どもりまくって余計話がわからなくなるがそこは我慢。
そして気が弱いのは言わずもがな。脅したら自滅しまくって逃げる。尋問者としてはこちらの方が嬉しい限りだが、世の中そんなに甘くはない。
「ハッ………!!殺るんだったらさっさと殺ってくれも良いんだぜッ!?オラァ、早くしろよッ!……これで家族が裕福になるんだったら…俺は…」
そうきたか。
稀に、悪党にも悪党なりの正義というやつがある。
丸くすると、私のことである。多分ちょっと違うけど。
コイツの場合は家族が人質になっているらしい。
しかし、演技ということもあり、油断はできない。だったらボロ出すまで脅すしか無い。
話はそれから。
「ねぇ…貴方。幸い、ここは誰も通らない獣道…………しかも、森ざわつきのお陰で声も響かない」
「…な、なに言い出しやがんだ、テ、テメェッ!?」
首を拘束していた右手をゆっくりと放す。
「私のお気に入りなのよ、此処がね。……自然の音を聞いていつも心が安らぐの……嗚呼!ここに貴方が踏み込んでから森が迷惑しているそうよ…聞いてご覧なさい。…っほら!ころせ…コロセ、殺せ、殺せ殺せ殺せ……って。聞こえるでしょう?今にも早く貴方に消えて欲しいですって」
演劇のオーディションにも一発で受かりそうな迫真の演技。
工具を男の額に向けて、ゆっくりと一歩ずつ、一歩ずつ、近づく。
男は今にも泣きそうな目で震え上がっている。
「お、おい…!なぁ!お、落ち着け…な?こっち来んなッ!そのデカイのをしまえよ頼むからァっ!うわっ。クソッ、こんなキチガイ相手にするハメになるんだったらスカーレットファミリーなんかに入らなきゃ良かったぜ、チクショォ…」
「ならばさっさとここから出ていきなさいッ!!!!」
と、構えた左手の工具銃から閃光。
空気を裂いて飛ぶ縦の光が男の股下を掠めて地面に着弾。
普通の鉄砲ならば土の地面に着弾すると、弾が土をえぐり出すように進むが、この工具銃の弾は土をえぐるかと思いきや、土がどろどろの溶岩の様になったいた。
つまり、人間が当たっていたら間違いなく胴体なんて容易に両断できてしまうということ。
というか、こんな恐ろしいものを目の当たりにすれば、どんなに屈強な人間でもさすがに怯えてしまう。ビビリなら言うことなし。
「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
全力疾走で人里に逃げる。
ぎこちないヨレヨレとした走りで、見るからに完全に参っていた。
「スカーレットファミリー………?」
スカーレットと言えば我が主、レミリア・スカーレットと妹、フランドール・スカーレットの苗字である。でも、男が向かっているのは人里。
怪しい。
話が段々わからなくなってきた。
続き、http://coolier.sytes.net:8080/sosowa/ssw_l/?mode=read&key=1318783884&log=0
ただやはり全て書き終えてから投稿して欲しかったな
気長に待つとするぜ
短いでゴザル。
もうちょっとまとめて欲しいなぁ。
そして、一話完結型の内容にまとめてから投稿するようにします。
PS.DS2のアイザック、かっこいいよね