事の発端は、マヨネーズやら白ゴマやら酢飯やらで目も当てられない状況となった巻物を聖が発見したことに始まる。
その巻物とは所謂『エア巻物』の事であり、言うまでも無く聖の所有物。
それに上記の素材がこびり付いていたとなると、最早何が起きたかは見当が――いやまあ普通はつかないだろうけど。
「この中に、私の巻物を使ってカリフォルニアロールを作った者が居ます」
聖の冷え切った声に、大きな丸ちゃぶ台を囲んでいる一輪、ムラサ、ぬえ、ご主人様、そして私――ナズーリンは、全員首をすくめて縮こまるしかなかった。
冷静に考えれば、まったくバカバカしい話である。巻物、それも誰もが敬愛する聖の巻物を使ってカリフォルニアロールを作ろうというぶっ飛んだ思考にどうやったら至るのか、全くもって理解が出来ない。
しかし残念な事に、そんな残念思考に陥った残念な妖怪がこの中に居るのだ。そして犯人以外の私達全員を巻き込み、このような重たい空気を作り上げている。
(……どうしてこんな事に)
内心はあと溜め息をつく。というか現実の方が、溜め息をついただけで決壊しそうな空気なもので余りにも落ち着かない。
当の聖は、先程からずっと厳しい表情で黙りこくっている。犯人が自分から申し出る事を待っているのだろう。
しかし――仮に私が犯人だったとして、この状況で自白をする事だけは絶対に無いと断言できる。
「……ムラサ」
「はっ、はぶっ」
いよいよ痺れを切らしたのか、聖が遂にその重い口を開いた。
初めに声をかけた相手は舟幽霊、村紗水蜜。トップバッターを務める羽目になった彼女は、開幕早々盛大に舌を噛んだ。
「あの時のプリンは、とても美味しかったですね」
「あ、あはは、そそそそそうですね」
完全にキョドっているムラサ。既に顔面蒼白である。
というのも、このムラサ船長……詳しい経緯などは省くが、以前寺の鐘で巨大プリンを作るという意味不明の凶行に走った事があるのだ。
その結果、ムラサは一週間柄杓を没収され、代わりに大根を持たされるというおぞましい罰を受ける事になった。
魚の目の如く眼光を失った彼女が黙々とたくあんを漬けている姿は、涙無しにはとても語ることが出来ない。
……ちなみにこれは余談だが、肝心のプリンはかなり鉄臭くて食べられたものでは無かった。
動物の餌にすらならず廃棄されたプリンから漂う哀愁は、こんな無駄な事に卵を使われた鶏の嘆きだったのだろうと今になって思う。
(……長期戦になるな)
そんな訳で、自白をしてもムラサの二の舞となる運命は決定づけられているのだ。
みんなそれを理解しているらしく、聖以外の全員が沈黙の中に顔を俯かせている――
「……?」
と、思いきや。私の流すような視線は、精悍な顔つきで双眸を閉じている一人の妖怪の前で止まる。
――ご主人様だった。……そんな馬鹿な。
こういう時のご主人様といえば絶え間なくおろおろしている上、特に解決に役立つわけでもないような進言をして『お前は何の話をしているんだ』的空気を流すのが常。
ムラサの一件で「しかしプリンの素材分量は完璧、ムラサは幻想郷洋菓子職人の未来を繋ぐ逸材」と謎のフォローをした時は、流石の聖も失笑を漏らした物である。
そんなご主人様のカリスマ溢れる姿を見られる日が来るとは、私も今まで仕えてきた甲斐があったというものか……
「ひ……聖。質問があるんだけど」
そんなご主人様を尻目に、勇気を奮わせてぬえが声を上げた。
「何でしょうか」
「その、犯人がカリフォルニアロールを作った犯行時間はいつなの?」
「そうですね。私は今日の10時から3時まで用事で自室から離れていたので……その間と考えるのが妥当でしょうか」
帰ってきたら自室に置いてあった巻物がマヨネーズまみれになっていたのだ。さぞ驚いたであろう。
ぬえはその言葉にパッと顔色を明るくした。我が意を得たりとでも言うかのように口を開く。
「それなら私は犯人じゃないね。その時間はムラサと一緒に人里へ出ていたから」
「そ、そう! 私とぬえでプ――お菓子を買いに行きましたからっ!」
なるほど……お互いにアリバイがあるという事らしい。
二人で手を組み助け合っている事も考えられなくないが、かくいう私も「プリンを買ってくるわ!」と笑顔で言い放ち命蓮寺を後にしたムラサを見た覚えがある。
よくコイツ懲りないなと思っていたのだが、それが逆に印象に残ったようである。
「ふむ……確かに貴方達が事を企てるのは不可能ですね」
「そ、それなら姐さん。私にもしっかりアリバイがあるわ」
次に声を上げたのは一輪だ。
「私もその時間には、響子と一緒に境内でビリーズブートキャンプをしていたわ」いや何やってんだお前ら。
ビリーズブートキャンプが幻想入りした事はともかく、「何なら今から響子をここへ呼びましょうか?」という自信たっぷりな一輪の言葉に、聖も納得した様子で相槌を打った。
こちらも相互のアリバイあり。ならば犯人の線からは外れる事になる。
「さて……」と聖が呟いた。
残るは私とご主人様だ。聖の疑惑の目は、自然と私達へ向けられる事となる。
困った事になった――他のみんなと違って、私には共に行動したものが居ない。
そして無論、巻物でカリフォニアロールを作るという愚行も犯していない。その時間は自分の部屋で写経をして、昼食の後は昼寝をしていた。
夢遊病の気がある訳でも無し、さてどのように無実を証明するか……
……ん?
ちょっと待てよ。
証明する手が無いとはいえ、私はこの件の犯人ではない。
そしてぬえ、ムラサ、一輪の無実は証明されている。
この場にいる犯人候補は5人。
…………
まさか……
「……星。貴方はどうですか?」
無情にも、私とご主人様のうち先に捜査の手が伸びたのはご主人様だった。
ご主人様は、今まで通りの精悍な表情をうかべている、が私の額には冷や汗が伝った。
そう、犯人候補の中で無実を証明したものと私を除けば、最早一人しか残っていないのだ。
つまり。聖の巻物でカリフォルニアロールを巻くという愚行に走った人物とは――
◇
カリフォルニアロールの犯人はご主人様でした。かっこてへぺろ。
とまあ、これで済まない所がこの世の悲しい性である。
「……」
追及の手が伸びた今も、ご主人様は両目を閉じて冷静な面持ちをみんなに向けている。
でも私にはもう分かっているのだ――――貴方がどうしようもないアホだったという事が。はあ……
「聖」
しかし、ご主人様が慌てている様子はない。
ゆっくりとその双眸を開き、ご主人様は口を開く。
口の端を微妙に吊り上げ、小さく笑う優雅な表情は、私を含めた全員を魅了していた。
かつてない程に、余裕の表情を見せるご主人様。もしかしたら、本当にやっていないのかも知れない、とまで私は思ってしまう。
そうだ、仮に消去法を使ったとしても、犯人がご主人様とは限らないじゃないか。この中に犯人は居らず、外部の犯行である可能性だって十分にある。
そうであれば、この事件で第二のムラサが出る事も無く、円満に解決できるだろう。
「何か質問ですか、星」
「はい、つかぬ事をお訊きしますが」
新たな望みが現れたところで、ご主人様は聖に何か質問があるという。
もしや、真犯人の正体を掴んだのかもしれない。いや今のご主人様ならあり得そうな事だ。
みんなもそれを感じていたらしく、全員の視線がご主人様に集まる。
その視線を一身に受けながら――ご主人様は再び口を開いた。
「聖」
「はい」
「もし、これは仮の話ですが」
「はい」ゴクリ。
「――もし巻物で作ったものがカリフォルニアロールではなく、太巻きであったとしたら。どうしますか?」
……。
は?
「……それは、つまりどういう事でしょうか」
「例えばカリフォルニアロールと太巻きではニュアンスに大きな違いがありますし、言葉には先入観を抱かせる多数の要因が」な、何を言っているんだコイツは!?
こうして、ご主人様による謎の講釈が始まった。
横文字とかな文字の与える印象の違いだとか、マヨネーズという一種の味付け的要素がもたらす影響だとか、カリフォルニアは元々メキシコの領土だとか、ドラえもんはナズーリンの100倍汎用性があるがナズーリンの方がかわいい(///)だとかand so on.
「という訳で聖」
「はい」
「巻物で作ったものがカリフォルニアロールではなく太巻きであったら」「赦しません」「恵方巻き」「赦しません」「そうですか」そうですかじゃねえよ!
結局、ご主人様はいつものご主人様と化していた。
表情を崩すまでとは行かないが、その額には分かり易く脂汗が流れる。
チラリとみんなを盗み見れば、同情に満ちた視線をご主人様に送っている。
犯人確定、そこのバカご主人の犯行です。
「……結局、星がやったのかやってないのか、どちらでしょうか」
そして遂に、聖がその核心に触れる。
「いえ、聖。少し待ってください」
「待ちません」
「この事件には、何か深い事情が」
「ありません」
「これを悪戯程度に扱って、水に流そうという事ですか」
「流しません」何さり気なく流そうとしてんだよ!
いよいよご主人様は下唇を噛んで、視線を下に落としてしまった。
ご主人様が犯人になるのも、最早時間の問題だろう。あの時のムラサと化したご主人様を想像すると、内心ではなくリアルに涙がこみ上げてくる。
しかし――これは最近怠けているご主人様にはいい薬だと思う。
ここで一つ、頭の上に着けた蓮の飾りをキャベツにでも変えられれば、ご主人様も心を入れ替える筈。
決して、これは悪い事ではない。そう、いい転機だ――
……。
「……星。正直に話してください」
「ひ、聖、これはその」
「星」
「う……ひ、ひじ、り、わ、私は……」でも、目に涙を貯めたご主人様を見ると、私は――
「ひっ……聖っ!」
気付けば私は、ちゃぶ台に手を叩きつけていた。
立ち上がり、身体を乗り出して聖の目に向かい合う。
あまり目を合わせ続けていると、怯んで身体が縮こまりそうだ……だから私は、全員の注目が集まってすぐ、大きな声で叫んだ。
「ひ、聖の巻物でカリフォルニアロールを巻いたのは、こ、この私だっ!」
……しーん。
冷え切った沈黙が訪れる。聖もぬえもムラサも一輪も、みんながポカンと私の事を見つめている。
ただご主人様だけが、涙を湛えた両目を見開いて、私の事を見つめていた。
「……ナズーリンが、私の巻物でカリフォルニア以下略をした、というのですか?」
「ああ、そうだ。私が聖の巻物でカリフォルニア以下略だ」言ってて悲しくなってくる……
しかし、私も馬鹿になったものだ。いくら従者が主人を守る事を務めとするとはいえ、こんなアホらしい事でご主人様を庇う事になるとは。
さりげなくご主人様を見れば、ご主人様は口をパクパクさせて何かを言おうとしている。
うむ、それでいい。そうやっておろおろしていてこそ、いつも通りのご主人様だ。
「しかし、ナズーリン」
それにしても、予想よりも多く聖が食いついてくる。
極力怪しまれないように、緊張した面持ちを装って私は口を開く。
「……何か問題でも?」
「あります。何故ナズーリンはそんな事をしたのか、です」
うぐ……キツい所を突かれた。
「それは……あれだよ。ムシャクシャしてやった」
「ナズーリン」
「う……」
聖が表情の無い視線で私を見つめる。睨めつけられると言っても過言では無いかもしれない。
とにかく、どうする。聖が相手だ、適当な事を言っても信じてもらえる事は無い。
手前味噌になるが、私は賢将と呼ばれてもう久しい。だからこそ、真っ当な理由を考えなければご主人様を守る事は――
「その理由は私が答えてあげるよ、聖」
そんな中で、声を上げたのは――ぬえ。
「ぬ、ぬえ」
信じられない――まさか助け船が入るとは思わなかった。
そんな気持ちでぬえを見ると、ぬえは小さく私にウインクをした。
これは、ご主人様が真犯人だという事を彼女も分かっていて、それで私の手助けをしてくれるという事なのか。
……有難い。見ればムラサと一輪も、笑顔で私に目配せをくれている。
みんながご主人様を助ける為、私に協力してくれているのだ。
なんと素晴らしい事だろう。目頭が熱くなる。私はコイツらの事をかなり見直した。
「……どういう事でしょうか、ぬえ」
「ふっふー、その理由はね……」
きっとぬえは、颯爽とでまかせを言うのだろう。そして、それを聖が信じてくれなくても問題ない。
私がする事は、みんなが作ってくれる時間でそれらしい理由を考える事だ。
「その理由とは?」
「ナズは、マヨネーズを謎の白い液体に置き換えて性的欲求を――」
「おいちょっと待て何だそれはふざけんな!」
にしてもこれは酷すぎる! 私の名誉を何だと思ってるんだ!?
「ねえナズ。そうでしょー?」
「そんな訳――うぐう……」
落ち着け私。これは全部ぬえの考えた虚言だ。
ぬえはあくまで時間稼ぎをしてくれているんだ、そうだそうに違いない。
「……その通りだ」
そう言った瞬間、ぬえは何かを堪えるように頭を垂れた。
……おい、君は本当に私の味方なんだろうな?
「私も知ってます、聖!」
次にぬえの役目を継いだのはムラサだ。
今度こそ、どのような虚言も無視して理由を考えないと――
「ふむ、言ってごらんなさいムラサ」
「はい、みんなも知っての通りナズは賢将と呼ばれているでしょう?」
よし、ムラサはまともな事を言いそうだ。
「ええ、そうですね」
「しかしこのナズーリン。賢将という異名を持ちながら、その実態は懸賞中毒と化した社会の犠牲者なのです!」
……なんかおかしな方向へ行ってるぞ? 駄洒落?
「この前もナズはこんなものを……これです」
「こちらです姐さん」
ここで一輪が加勢。
見るな見るなと思いつつも、一輪が持っている何かをチラリと盗み見ると――
「これは、ナズーリンが懸賞で手に入れた――ネックレスです!」
……なんか割と普通だった。
どうやら真面目にやってくれるらしい。ならば私も真面目に考えないと。
「ネックレスですか……しかしそれが何か?」
「実はこのネックレス、他に4つ程ありまして」
「全部ナズーリンが自腹で買ったものなのです姐さん」
懸賞じゃないじゃん……
って、無視だ無視。私は私の仕事を――
「自腹ですか」
「はい、自腹です。で、ここからが重要な話でして」
「このネックレスを5人に売る事で、あら不思議元手よりもお金がガッポガッポ」
「ネズミ講じゃないかそんな事はしていない!」ネズミ舐めてんのか!
「聖、ナズはこんなものまで懸賞で手に入れているみたい!」とカルピスを手にしたぬえまで再臨。帰れ!
最早コイツらが味方なのかどうか分からなくなってきた。結局何も考えてないし、これでは最初と同じ事に――
「ふふ……」
――と、そんな時。小さく笑う声が私の耳に入る。
聖だった。右の手のひらを口元に当て、上品に私達のコントを笑っている。
「ふふ、本当に貴方達は面白い方々です」
「あ、は、はあ……」
みんなも何が何やら分からないといった様子で、聖の言葉を聞いている。
しかし聖の表情は、先程まで浮かべていた冷たく厳しい表情とは全く違っていて。
恐怖に押しつぶされるような、圧迫的な空気は確実に消え失せていた。
「ナズーリン。貴方がマヨネーズとカルピスを好み」「好んでない!」「ちょっと危ない橋を渡っている事も」「渡ってない!」「よく分かりました」分かるな!
「しかし、私の巻物でカリフォル以下略をする理由にはなりません。そうですね?」
「う……」
全くその通りだ。ぬえはまだ理由に触れていたが、ムラサと一輪に至っては全く関係の無い話をし始める始末である。
これではご主人様に火の粉が降りかかる状況に変わりがない。さっきから赤い目でぼーっとしているご主人様に名案があるとも思えないし――どうすれば。
「……だから、ナズーリン」
「うぐ」ちょっと待ってくれ、まだ何も――
「後で私の部屋に来るように。いいですね?」
「ちょっとま――――……へ?」
しかし、聖の言葉は予想外のものだった。
後で部屋に来いというのならば、いくらでも理由を考える時間がある。
思わず聖の顔を見つめた私に、彼女はニコリと笑いかけてから、元気な声でみんなに言った。
「今は皆さんの優しさに免じて、お夕飯としましょう。ああ、お腹が空いたわ」
◇
翌朝の私は、玄関前でゴボウの皮をむく悲しいネズミ妖怪と成り果てていた。
というのも、私のダウジングロッドが没収され、代わりにゴボウがログインしたのである。
そりゃ、罪を被ろうとした時点でこうなる事は予想できたけども。しかし、ダウジングどころか重力にも勝てず下へ弧を描くゴボウさんを持たされた私は、ガクリと肩を落とすしかなかった。
ちなみにあの後聖の部屋へいくと、巻物は新品同様汚れ一つ無くなっていた。
聖曰く、普通に魔法で落とすことが出来るらしい。なんか、すごく悲しい。
「な、ナズ」
「ん? ああ、聖の巻物でカリフォ以下略するという愚行を犯したご主人様、おはようございます」
「うう……それは本当に反省してますから」
そんな時、玄関の中からご主人様が現れた。
目の前のご主人様は私の言葉に赤面しながら、腰の前で手をもぞもぞさせている。
まあ、これぐらい苛めたところで誰も文句は言うまい。役得役得。
「それで、何かご用ですか?」
「え、あ、はい。朝食が出来ましたから呼びに来たんです」
「おお、そうですか。すぐに行きますよ」
そう言うと、ご主人様は笑顔を返して中へ戻っていく。
――と、そういえば訊いてない事があったな。
「あ、ご主人様。訊き忘れた事が」
「……? なにか」
「ご主人様はどうして、カリフォルニアロールなんて作ったんですか?」
これがずっと気になっていたのだ。何故聖の巻物を駆使してまで、ご主人様がカリフォルニアロールを作る必要があったのか。
そう問いかけると、ご主人様は再び頬を紅潮させる。暫く口をパクパクさせて、それから小さく私に言う。
「……笑いませんか?」
「もちろん」
即答すると、また暫く迷ってからご主人様は言った。
「……金太郎飴って、あるじゃないですか」
ああ――切断すると、断面が顔の形になっているという、あれ。
「……ってまさか」
「あれを太巻きでやろうと思ったんですが太巻き用の道具が無かったもので、それで聖の巻物をですね」
「ああもういい、理解した」
その後ご主人様は、見ていたレシピが太巻きのものだと思っていたらカリフォルニアロールのものだったという経緯も話してくれた。
一体どこを見たらカリフォルニアロールと太巻きを間違えるのかはさておき、ご主人様は確実にバカだという事はよく分かった。
「あと、それから。私もナズに言い忘れていた事がありまして」
「ん。なんだい?」
再び口を開いたご主人様に私が言葉を返すと、彼女は目を細めながら体制を低くし、膝立ちになる。
そしてそのまま、地面にこしかけていた私を――静かに抱き寄せた。
「……ご、ご主人様」
「ありがとうございます、ナズ。私を助けてくれて」
私の耳元で、囁くようにご主人様が言った。
朝っぱらから刺激的な状況に私の顔は熱くなる。しかし、引きはがそうという気持ちには全くならない。
ご主人様の暖かくて柔らかい感触を感じながら、私は思う。
これはまあ、あれだ。――役得。
後日談。夕食担当がご主人様であったある日、献立は例にも漏れず太巻きだった。
早速切断面を見てみれば、そこには何やらネズミのようなもの。
よく分からなかったので「これはドラえもんかい?」とご主人様に訊いたら、何故か滅茶苦茶怒られた。
どういうことなの……
その巻物とは所謂『エア巻物』の事であり、言うまでも無く聖の所有物。
それに上記の素材がこびり付いていたとなると、最早何が起きたかは見当が――いやまあ普通はつかないだろうけど。
「この中に、私の巻物を使ってカリフォルニアロールを作った者が居ます」
聖の冷え切った声に、大きな丸ちゃぶ台を囲んでいる一輪、ムラサ、ぬえ、ご主人様、そして私――ナズーリンは、全員首をすくめて縮こまるしかなかった。
冷静に考えれば、まったくバカバカしい話である。巻物、それも誰もが敬愛する聖の巻物を使ってカリフォルニアロールを作ろうというぶっ飛んだ思考にどうやったら至るのか、全くもって理解が出来ない。
しかし残念な事に、そんな残念思考に陥った残念な妖怪がこの中に居るのだ。そして犯人以外の私達全員を巻き込み、このような重たい空気を作り上げている。
(……どうしてこんな事に)
内心はあと溜め息をつく。というか現実の方が、溜め息をついただけで決壊しそうな空気なもので余りにも落ち着かない。
当の聖は、先程からずっと厳しい表情で黙りこくっている。犯人が自分から申し出る事を待っているのだろう。
しかし――仮に私が犯人だったとして、この状況で自白をする事だけは絶対に無いと断言できる。
「……ムラサ」
「はっ、はぶっ」
いよいよ痺れを切らしたのか、聖が遂にその重い口を開いた。
初めに声をかけた相手は舟幽霊、村紗水蜜。トップバッターを務める羽目になった彼女は、開幕早々盛大に舌を噛んだ。
「あの時のプリンは、とても美味しかったですね」
「あ、あはは、そそそそそうですね」
完全にキョドっているムラサ。既に顔面蒼白である。
というのも、このムラサ船長……詳しい経緯などは省くが、以前寺の鐘で巨大プリンを作るという意味不明の凶行に走った事があるのだ。
その結果、ムラサは一週間柄杓を没収され、代わりに大根を持たされるというおぞましい罰を受ける事になった。
魚の目の如く眼光を失った彼女が黙々とたくあんを漬けている姿は、涙無しにはとても語ることが出来ない。
……ちなみにこれは余談だが、肝心のプリンはかなり鉄臭くて食べられたものでは無かった。
動物の餌にすらならず廃棄されたプリンから漂う哀愁は、こんな無駄な事に卵を使われた鶏の嘆きだったのだろうと今になって思う。
(……長期戦になるな)
そんな訳で、自白をしてもムラサの二の舞となる運命は決定づけられているのだ。
みんなそれを理解しているらしく、聖以外の全員が沈黙の中に顔を俯かせている――
「……?」
と、思いきや。私の流すような視線は、精悍な顔つきで双眸を閉じている一人の妖怪の前で止まる。
――ご主人様だった。……そんな馬鹿な。
こういう時のご主人様といえば絶え間なくおろおろしている上、特に解決に役立つわけでもないような進言をして『お前は何の話をしているんだ』的空気を流すのが常。
ムラサの一件で「しかしプリンの素材分量は完璧、ムラサは幻想郷洋菓子職人の未来を繋ぐ逸材」と謎のフォローをした時は、流石の聖も失笑を漏らした物である。
そんなご主人様のカリスマ溢れる姿を見られる日が来るとは、私も今まで仕えてきた甲斐があったというものか……
「ひ……聖。質問があるんだけど」
そんなご主人様を尻目に、勇気を奮わせてぬえが声を上げた。
「何でしょうか」
「その、犯人がカリフォルニアロールを作った犯行時間はいつなの?」
「そうですね。私は今日の10時から3時まで用事で自室から離れていたので……その間と考えるのが妥当でしょうか」
帰ってきたら自室に置いてあった巻物がマヨネーズまみれになっていたのだ。さぞ驚いたであろう。
ぬえはその言葉にパッと顔色を明るくした。我が意を得たりとでも言うかのように口を開く。
「それなら私は犯人じゃないね。その時間はムラサと一緒に人里へ出ていたから」
「そ、そう! 私とぬえでプ――お菓子を買いに行きましたからっ!」
なるほど……お互いにアリバイがあるという事らしい。
二人で手を組み助け合っている事も考えられなくないが、かくいう私も「プリンを買ってくるわ!」と笑顔で言い放ち命蓮寺を後にしたムラサを見た覚えがある。
よくコイツ懲りないなと思っていたのだが、それが逆に印象に残ったようである。
「ふむ……確かに貴方達が事を企てるのは不可能ですね」
「そ、それなら姐さん。私にもしっかりアリバイがあるわ」
次に声を上げたのは一輪だ。
「私もその時間には、響子と一緒に境内でビリーズブートキャンプをしていたわ」いや何やってんだお前ら。
ビリーズブートキャンプが幻想入りした事はともかく、「何なら今から響子をここへ呼びましょうか?」という自信たっぷりな一輪の言葉に、聖も納得した様子で相槌を打った。
こちらも相互のアリバイあり。ならば犯人の線からは外れる事になる。
「さて……」と聖が呟いた。
残るは私とご主人様だ。聖の疑惑の目は、自然と私達へ向けられる事となる。
困った事になった――他のみんなと違って、私には共に行動したものが居ない。
そして無論、巻物でカリフォニアロールを作るという愚行も犯していない。その時間は自分の部屋で写経をして、昼食の後は昼寝をしていた。
夢遊病の気がある訳でも無し、さてどのように無実を証明するか……
……ん?
ちょっと待てよ。
証明する手が無いとはいえ、私はこの件の犯人ではない。
そしてぬえ、ムラサ、一輪の無実は証明されている。
この場にいる犯人候補は5人。
…………
まさか……
「……星。貴方はどうですか?」
無情にも、私とご主人様のうち先に捜査の手が伸びたのはご主人様だった。
ご主人様は、今まで通りの精悍な表情をうかべている、が私の額には冷や汗が伝った。
そう、犯人候補の中で無実を証明したものと私を除けば、最早一人しか残っていないのだ。
つまり。聖の巻物でカリフォルニアロールを巻くという愚行に走った人物とは――
◇
カリフォルニアロールの犯人はご主人様でした。かっこてへぺろ。
とまあ、これで済まない所がこの世の悲しい性である。
「……」
追及の手が伸びた今も、ご主人様は両目を閉じて冷静な面持ちをみんなに向けている。
でも私にはもう分かっているのだ――――貴方がどうしようもないアホだったという事が。はあ……
「聖」
しかし、ご主人様が慌てている様子はない。
ゆっくりとその双眸を開き、ご主人様は口を開く。
口の端を微妙に吊り上げ、小さく笑う優雅な表情は、私を含めた全員を魅了していた。
かつてない程に、余裕の表情を見せるご主人様。もしかしたら、本当にやっていないのかも知れない、とまで私は思ってしまう。
そうだ、仮に消去法を使ったとしても、犯人がご主人様とは限らないじゃないか。この中に犯人は居らず、外部の犯行である可能性だって十分にある。
そうであれば、この事件で第二のムラサが出る事も無く、円満に解決できるだろう。
「何か質問ですか、星」
「はい、つかぬ事をお訊きしますが」
新たな望みが現れたところで、ご主人様は聖に何か質問があるという。
もしや、真犯人の正体を掴んだのかもしれない。いや今のご主人様ならあり得そうな事だ。
みんなもそれを感じていたらしく、全員の視線がご主人様に集まる。
その視線を一身に受けながら――ご主人様は再び口を開いた。
「聖」
「はい」
「もし、これは仮の話ですが」
「はい」ゴクリ。
「――もし巻物で作ったものがカリフォルニアロールではなく、太巻きであったとしたら。どうしますか?」
……。
は?
「……それは、つまりどういう事でしょうか」
「例えばカリフォルニアロールと太巻きではニュアンスに大きな違いがありますし、言葉には先入観を抱かせる多数の要因が」な、何を言っているんだコイツは!?
こうして、ご主人様による謎の講釈が始まった。
横文字とかな文字の与える印象の違いだとか、マヨネーズという一種の味付け的要素がもたらす影響だとか、カリフォルニアは元々メキシコの領土だとか、ドラえもんはナズーリンの100倍汎用性があるがナズーリンの方がかわいい(///)だとかand so on.
「という訳で聖」
「はい」
「巻物で作ったものがカリフォルニアロールではなく太巻きであったら」「赦しません」「恵方巻き」「赦しません」「そうですか」そうですかじゃねえよ!
結局、ご主人様はいつものご主人様と化していた。
表情を崩すまでとは行かないが、その額には分かり易く脂汗が流れる。
チラリとみんなを盗み見れば、同情に満ちた視線をご主人様に送っている。
犯人確定、そこのバカご主人の犯行です。
「……結局、星がやったのかやってないのか、どちらでしょうか」
そして遂に、聖がその核心に触れる。
「いえ、聖。少し待ってください」
「待ちません」
「この事件には、何か深い事情が」
「ありません」
「これを悪戯程度に扱って、水に流そうという事ですか」
「流しません」何さり気なく流そうとしてんだよ!
いよいよご主人様は下唇を噛んで、視線を下に落としてしまった。
ご主人様が犯人になるのも、最早時間の問題だろう。あの時のムラサと化したご主人様を想像すると、内心ではなくリアルに涙がこみ上げてくる。
しかし――これは最近怠けているご主人様にはいい薬だと思う。
ここで一つ、頭の上に着けた蓮の飾りをキャベツにでも変えられれば、ご主人様も心を入れ替える筈。
決して、これは悪い事ではない。そう、いい転機だ――
……。
「……星。正直に話してください」
「ひ、聖、これはその」
「星」
「う……ひ、ひじ、り、わ、私は……」でも、目に涙を貯めたご主人様を見ると、私は――
「ひっ……聖っ!」
気付けば私は、ちゃぶ台に手を叩きつけていた。
立ち上がり、身体を乗り出して聖の目に向かい合う。
あまり目を合わせ続けていると、怯んで身体が縮こまりそうだ……だから私は、全員の注目が集まってすぐ、大きな声で叫んだ。
「ひ、聖の巻物でカリフォルニアロールを巻いたのは、こ、この私だっ!」
……しーん。
冷え切った沈黙が訪れる。聖もぬえもムラサも一輪も、みんながポカンと私の事を見つめている。
ただご主人様だけが、涙を湛えた両目を見開いて、私の事を見つめていた。
「……ナズーリンが、私の巻物でカリフォルニア以下略をした、というのですか?」
「ああ、そうだ。私が聖の巻物でカリフォルニア以下略だ」言ってて悲しくなってくる……
しかし、私も馬鹿になったものだ。いくら従者が主人を守る事を務めとするとはいえ、こんなアホらしい事でご主人様を庇う事になるとは。
さりげなくご主人様を見れば、ご主人様は口をパクパクさせて何かを言おうとしている。
うむ、それでいい。そうやっておろおろしていてこそ、いつも通りのご主人様だ。
「しかし、ナズーリン」
それにしても、予想よりも多く聖が食いついてくる。
極力怪しまれないように、緊張した面持ちを装って私は口を開く。
「……何か問題でも?」
「あります。何故ナズーリンはそんな事をしたのか、です」
うぐ……キツい所を突かれた。
「それは……あれだよ。ムシャクシャしてやった」
「ナズーリン」
「う……」
聖が表情の無い視線で私を見つめる。睨めつけられると言っても過言では無いかもしれない。
とにかく、どうする。聖が相手だ、適当な事を言っても信じてもらえる事は無い。
手前味噌になるが、私は賢将と呼ばれてもう久しい。だからこそ、真っ当な理由を考えなければご主人様を守る事は――
「その理由は私が答えてあげるよ、聖」
そんな中で、声を上げたのは――ぬえ。
「ぬ、ぬえ」
信じられない――まさか助け船が入るとは思わなかった。
そんな気持ちでぬえを見ると、ぬえは小さく私にウインクをした。
これは、ご主人様が真犯人だという事を彼女も分かっていて、それで私の手助けをしてくれるという事なのか。
……有難い。見ればムラサと一輪も、笑顔で私に目配せをくれている。
みんながご主人様を助ける為、私に協力してくれているのだ。
なんと素晴らしい事だろう。目頭が熱くなる。私はコイツらの事をかなり見直した。
「……どういう事でしょうか、ぬえ」
「ふっふー、その理由はね……」
きっとぬえは、颯爽とでまかせを言うのだろう。そして、それを聖が信じてくれなくても問題ない。
私がする事は、みんなが作ってくれる時間でそれらしい理由を考える事だ。
「その理由とは?」
「ナズは、マヨネーズを謎の白い液体に置き換えて性的欲求を――」
「おいちょっと待て何だそれはふざけんな!」
にしてもこれは酷すぎる! 私の名誉を何だと思ってるんだ!?
「ねえナズ。そうでしょー?」
「そんな訳――うぐう……」
落ち着け私。これは全部ぬえの考えた虚言だ。
ぬえはあくまで時間稼ぎをしてくれているんだ、そうだそうに違いない。
「……その通りだ」
そう言った瞬間、ぬえは何かを堪えるように頭を垂れた。
……おい、君は本当に私の味方なんだろうな?
「私も知ってます、聖!」
次にぬえの役目を継いだのはムラサだ。
今度こそ、どのような虚言も無視して理由を考えないと――
「ふむ、言ってごらんなさいムラサ」
「はい、みんなも知っての通りナズは賢将と呼ばれているでしょう?」
よし、ムラサはまともな事を言いそうだ。
「ええ、そうですね」
「しかしこのナズーリン。賢将という異名を持ちながら、その実態は懸賞中毒と化した社会の犠牲者なのです!」
……なんかおかしな方向へ行ってるぞ? 駄洒落?
「この前もナズはこんなものを……これです」
「こちらです姐さん」
ここで一輪が加勢。
見るな見るなと思いつつも、一輪が持っている何かをチラリと盗み見ると――
「これは、ナズーリンが懸賞で手に入れた――ネックレスです!」
……なんか割と普通だった。
どうやら真面目にやってくれるらしい。ならば私も真面目に考えないと。
「ネックレスですか……しかしそれが何か?」
「実はこのネックレス、他に4つ程ありまして」
「全部ナズーリンが自腹で買ったものなのです姐さん」
懸賞じゃないじゃん……
って、無視だ無視。私は私の仕事を――
「自腹ですか」
「はい、自腹です。で、ここからが重要な話でして」
「このネックレスを5人に売る事で、あら不思議元手よりもお金がガッポガッポ」
「ネズミ講じゃないかそんな事はしていない!」ネズミ舐めてんのか!
「聖、ナズはこんなものまで懸賞で手に入れているみたい!」とカルピスを手にしたぬえまで再臨。帰れ!
最早コイツらが味方なのかどうか分からなくなってきた。結局何も考えてないし、これでは最初と同じ事に――
「ふふ……」
――と、そんな時。小さく笑う声が私の耳に入る。
聖だった。右の手のひらを口元に当て、上品に私達のコントを笑っている。
「ふふ、本当に貴方達は面白い方々です」
「あ、は、はあ……」
みんなも何が何やら分からないといった様子で、聖の言葉を聞いている。
しかし聖の表情は、先程まで浮かべていた冷たく厳しい表情とは全く違っていて。
恐怖に押しつぶされるような、圧迫的な空気は確実に消え失せていた。
「ナズーリン。貴方がマヨネーズとカルピスを好み」「好んでない!」「ちょっと危ない橋を渡っている事も」「渡ってない!」「よく分かりました」分かるな!
「しかし、私の巻物でカリフォル以下略をする理由にはなりません。そうですね?」
「う……」
全くその通りだ。ぬえはまだ理由に触れていたが、ムラサと一輪に至っては全く関係の無い話をし始める始末である。
これではご主人様に火の粉が降りかかる状況に変わりがない。さっきから赤い目でぼーっとしているご主人様に名案があるとも思えないし――どうすれば。
「……だから、ナズーリン」
「うぐ」ちょっと待ってくれ、まだ何も――
「後で私の部屋に来るように。いいですね?」
「ちょっとま――――……へ?」
しかし、聖の言葉は予想外のものだった。
後で部屋に来いというのならば、いくらでも理由を考える時間がある。
思わず聖の顔を見つめた私に、彼女はニコリと笑いかけてから、元気な声でみんなに言った。
「今は皆さんの優しさに免じて、お夕飯としましょう。ああ、お腹が空いたわ」
◇
翌朝の私は、玄関前でゴボウの皮をむく悲しいネズミ妖怪と成り果てていた。
というのも、私のダウジングロッドが没収され、代わりにゴボウがログインしたのである。
そりゃ、罪を被ろうとした時点でこうなる事は予想できたけども。しかし、ダウジングどころか重力にも勝てず下へ弧を描くゴボウさんを持たされた私は、ガクリと肩を落とすしかなかった。
ちなみにあの後聖の部屋へいくと、巻物は新品同様汚れ一つ無くなっていた。
聖曰く、普通に魔法で落とすことが出来るらしい。なんか、すごく悲しい。
「な、ナズ」
「ん? ああ、聖の巻物でカリフォ以下略するという愚行を犯したご主人様、おはようございます」
「うう……それは本当に反省してますから」
そんな時、玄関の中からご主人様が現れた。
目の前のご主人様は私の言葉に赤面しながら、腰の前で手をもぞもぞさせている。
まあ、これぐらい苛めたところで誰も文句は言うまい。役得役得。
「それで、何かご用ですか?」
「え、あ、はい。朝食が出来ましたから呼びに来たんです」
「おお、そうですか。すぐに行きますよ」
そう言うと、ご主人様は笑顔を返して中へ戻っていく。
――と、そういえば訊いてない事があったな。
「あ、ご主人様。訊き忘れた事が」
「……? なにか」
「ご主人様はどうして、カリフォルニアロールなんて作ったんですか?」
これがずっと気になっていたのだ。何故聖の巻物を駆使してまで、ご主人様がカリフォルニアロールを作る必要があったのか。
そう問いかけると、ご主人様は再び頬を紅潮させる。暫く口をパクパクさせて、それから小さく私に言う。
「……笑いませんか?」
「もちろん」
即答すると、また暫く迷ってからご主人様は言った。
「……金太郎飴って、あるじゃないですか」
ああ――切断すると、断面が顔の形になっているという、あれ。
「……ってまさか」
「あれを太巻きでやろうと思ったんですが太巻き用の道具が無かったもので、それで聖の巻物をですね」
「ああもういい、理解した」
その後ご主人様は、見ていたレシピが太巻きのものだと思っていたらカリフォルニアロールのものだったという経緯も話してくれた。
一体どこを見たらカリフォルニアロールと太巻きを間違えるのかはさておき、ご主人様は確実にバカだという事はよく分かった。
「あと、それから。私もナズに言い忘れていた事がありまして」
「ん。なんだい?」
再び口を開いたご主人様に私が言葉を返すと、彼女は目を細めながら体制を低くし、膝立ちになる。
そしてそのまま、地面にこしかけていた私を――静かに抱き寄せた。
「……ご、ご主人様」
「ありがとうございます、ナズ。私を助けてくれて」
私の耳元で、囁くようにご主人様が言った。
朝っぱらから刺激的な状況に私の顔は熱くなる。しかし、引きはがそうという気持ちには全くならない。
ご主人様の暖かくて柔らかい感触を感じながら、私は思う。
これはまあ、あれだ。――役得。
後日談。夕食担当がご主人様であったある日、献立は例にも漏れず太巻きだった。
早速切断面を見てみれば、そこには何やらネズミのようなもの。
よく分からなかったので「これはドラえもんかい?」とご主人様に訊いたら、何故か滅茶苦茶怒られた。
どういうことなの……
長くはない文の中で命蓮寺の面々の既成のキャラ付けに独自のキャラをつけているのは非常に好みです。
でも、そんな中でも星ナズがしっかり入ってるところが巧みだなぁ。
最初から最後まで笑いながら楽しく読ませていただきました。
エアじゃなく普通の教典もあったろうに、一番難易度高そうなものを選ぶ星ちゃんのルナシューターっぷりに乾杯
アホの子になっちゃう星ちゃんもかわいいよ
そしてそれをかばうナズーリンと命蓮寺の面々もかわいいよ
作者の方は円環の理に導かれたわ…夢の国の使者に
よってうわなにくるな
そしてあとがきwww
それより星ちゃんエア巻物ちゃんと洗ってから作ったか?
皆いいチームワークだなww
ところで聖が何も言わずナズーリンをそっと部屋に呼んだのは、事情を察した聖がマヨネーズを使って性的欲求をかなえてあげるのかと思ったのは内緒。
一つ言うなら、ビリーズブ以下略は我が家ではまだまだ現役である。
とても楽しく読ませて貰いました
奇抜な発想と、それを出オチで終わらせなかった作者様の創造力にも拍手。
星・ナズ・水蜜の代替シンボルがキャベツ・ごぼう・大根ってのにも笑った。
一輪やぬえはどうなるんだろう? わたあめや先割れスプーンとか?
とにかくノリの良い作品でした。ナイス馬鹿グルーヴ!
ビリーズブートキャンプはもう幻想郷入りか・・・
もうずっと笑いっぱなしでしたwww
と思ってしまう自分はもう腐っているのかもしれない
どうやったらエア巻物からカルフォルニアロールって
思い付くww
イイハナシダッタノカナー?
面白かったですw
ナズの心理描写がとてもよかったです